音 楽 科

音
楽
科
【授業改善に向けて】
音楽
1
【実践事例1】
音楽
2
音楽
8
第4学年
題材名「いろいろな音色を感じ取ろう」
【実践事例2】
第6学年
題材名「曲想を味わおう」
〈
音
楽
科
〉
【授業改善に向けて】
1
音楽科における活用力の育成について
昨年度より,音楽科においては,「『知覚・感受して思考する力』を活用することが音楽科の活
用力の根幹をなす」ものとして授業改善に取り組んできた。
音楽の授業は,児童一人一人の感性を豊かに育てるために,様々な音楽を教材として扱い,音楽
活動によって生まれる喜びや楽しさを実感させるとともに,音楽を形作っている要素を知覚し,音
や音楽のよさや美しさを感じ取らせながら思考・判断して表現する一連の過程を大切にしなければ
ならない。
このことを踏まえ,音楽科における活用力を,
「知覚・感受したことをもとに思いをもって表現する力」
としてとらえ,児童の主体的な活動を大切にした音楽活動を展開していくようにしたい。
今回の学習指導要領改訂に伴い新設された[共通事項]に関しては,音楽活動の支えとなる指導
内容として示され,「音や音楽を知覚し,そのよさや特質を感じ取り,思考・判断する力の育成を
一層重視する」ものとされている。
このことから,
[共通事項]を拠りどころとして表現と鑑賞の関連を図った活動を進めることが,
活用力育成には重要であるといえる。
つまり,自分たちで工夫して音楽を作り上げる力(表現力)と音楽を味わう力(鑑賞力)を効果
的に高めていくためには,音楽の諸要素や用語に関する[共通事項]に関連を持たせ,意図的・計
画的に指導していくことが大切であると考える。
また,音楽科の学習は集団で行う音楽活動が多く,ややもすると個の学習がおろそかになりがち
な面がある。一人一人に思いや意図を持たせ,その上で集団で共有を図るなど,自力解決的な場と
集団解決的な場を意図的に設定することが重要である。
これらのことから,今年度は
○ 共通事項を学習計画に位置づけ,その題材で育成する力を明確にすること
○ 思考・判断・表現する場を重視し,工夫・改善を図ること
を特に重視しながら,活用力を高めるための実践を進めていきたい。
2
授業改善の視点
(○
今年度の重点)
〈視点1〉音や音楽を知覚し,そのよさや特質を感じ取り,思考・判断しながらさらに表現や鑑賞
に生かすことができる題材構成の工夫
○[共通事項]の学習活動への位置付け
・楽曲との出合い
・表現と鑑賞を意識した題材指導計画の工夫
・楽曲(教材)の組合せ
〈視点2〉楽曲の特徴や音楽の要素をもとに,演奏の楽しさやよさに気付いたり,理解したりする
能力の育成のための指導
○表現や鑑賞における観点の明確化
・感じ取ったことの音での表現意欲
○音楽的感受の言語化(考える,話す,書く,図に表す等)
・音楽を形作っている要素を聴き取ることとその働きを感じ取ること
〈視点3〉
視点3〉思いや意図をもって表現したり,
思いや意図をもって表現したり,味わって聴いたりすることができるための[
味わって聴いたりすることができるための[共通事項]
共通事項]
と表現や鑑賞の各活動との関連を図った指導
○活動グループの意図と構成
○児童の主体性を生かす教師の支援
○音楽的表現を高めるための話し合いの視点と目標
・音楽活動の目標と活動内容の吟味
・楽曲(教材)の価値と音楽を形作っている要素の明確化
-音楽 1 -
【実践事例1】第4学年 題材名
教材名
いろいろな音色をかんじとろう
「バディネリ/クラリネット ポルカ(鑑賞)」
「音のカーニバル」「リズムアンサンブル」
1 題材の目標
○ 音色の特徴や音色の違いに関心をもって聴いたり,表現したりする活動に進んで取り組もうと
している。
(音楽への関心・意欲・態度)
○ 音の特徴や音色の違いを感じ取り,楽器の材質や鳴らす順番の違いが生み出すおもしろさを生
かした音の出し方や組み合わせを工夫している。
(音楽表現の創意工夫)
○ さまざまな発想をもって表現を工夫したり,音の特徴や音色の違いを生かして楽器を演奏した
りしている。
(音楽表現の技能)
○ 楽器の音色の違いや美しさを感じ取り,それを言葉や体の動きなどで表して,楽曲の特徴や演
奏のよさに気付いて聴いている。
(鑑賞の能力)
2 題材展開にあたって
<視点1>音や音楽を知覚し,そのよさや特質を感じ取り,思考・判断しながらさらに表現や鑑賞に生かす
ことができる題材構成の工夫
(1)音楽を構成している音色に着目し,楽器の材質の違いによる音の特徴をとらえやすいような
掲示や場の設定の工夫をする。([共通事項]の学習への位置づけ)
(2)様々なリズムに慣れ,身に付けることができるようにするために,毎時間導入段階でリズム
打ちの時間を設ける。手拍子や足踏み,体の部位を使ったリズム打ちを行うことで,拍を合わ
せることや休符を大切にすることが息の合った演奏となり,曲のよさを感じることにつながる
ことに気付かせる。(表現と鑑賞を意識した題材指導計画の工夫)
<視点2>楽曲の特徴や音楽の要素をもとに,演奏の楽しさやよさに気付いたり,理解したりする能力の
育成のための指導
(1)鑑賞教材から学習を進めていく。2曲を同時に鑑賞し聴き比べさせ,楽器の響きや音色の違
いに気付くことができるようにする。音色を聴いて感じたイメージや感想を交流させながら,
注意深く聴くこと,友だちとの学び合いを通して自分の思いを言葉にして伝えることの大切さ
に気付かせ,このあとの自分たちで工夫して音楽を作り上げる活動との関連を図る。
[音楽的感受の言語化(考える・話す・書く・図で表す)]
(2)個人での活動やグループ活動,全体での活動と学習形態を多様化する中でワークシートを効
果的に活用し,自分の思いや考えを深め,それらを交流して学び合うことができるようにする。
[音楽的感受の言語化(考える・話す・書く・図で表す)]
(3)「音のカーニバル」を2段階に分けて設定する。第1段階ではそれぞれの楽器の音色の違い
をとらえ,第2段階ではそれぞれのグループのイメージに合った音を選び取ることができるよ
うにする。
(感じ取ったことの音での表現意欲)
<視点3>思いや意図をもって表現したり味わって聴いたりすることができるための[共通事項]と表現や
鑑賞の各活動との関連を図った指導
(1)[共通事項]の音色について,楽器の音の組み合わせに関する話し合いの時間を十分に設け
るようにする。グループ学習では,一人一人の発想や感性を大切にしながら音を鳴らしてみん
なで確かめたり,他のグループと聴き合い,話し合ったりするように助言する。
(活動グループの意図と構成)
-音楽 2 -
3
題材の指導計画
次
時
教材
一
1
バク
デラ
ィリ
ネネ
リッ
ト
ポ
ル
カ
2
二
3
音
の
カ
―
4
6
(
本
時
ねらい
本時6/7)
○学習活動
評価の観点
関 創 技 鑑
◆評価規準
評価方法
フルートとクラリネットの音色の違いを感じ,それぞれの響きに親しみ
ながら想像豊かに聴くことができるようにする。
○ 「バディネリ」「ク ○
◆楽器の音の特徴や音 発言の内容
ラリネット ポルカ」
色の違いに関心をも ワークシー
を聴き,曲の感じをつ
ち,進んで聴こうと トの記述
かむ。
している。
○
2つの曲を聴き,フ
ルートとクラリネット
の音色の美しさを味わ
う。
○
◆フルートとクラリネ
ットの音色の美しさ
や音の特徴を感じ取
って聴いている。
発言の内容
ワークシー
トの記述
様々な楽器の音の特徴を感じ取りながら,組み合わせた音を入れて表現
することができるようにする。
○ 「音のカーニバル」 ○
◆旋律とリズムの掛け 演奏の聴取
の全体の感じをつかみ
合いのおもしろさを 発言の内容
主旋律とリズムパート
感じながら,進んで
を合わせる。
演奏しようとしてい
る。
ニ
バ
ル
5
(総時数7時間
リ
ズ
ム
ア
ン
サ
ン
ブ
ル
材質による打楽器の
音色や響きの違いを感
じ取る。
○
おもしろい音の組み
合わせを工夫して,リ
ズムアンサンブルをす
る。
○
音色の違いを生かし
て,音の組み合わせを
工夫しながら「音のカ
ーニバル」を演奏する。
○
歌と各グループの打
楽器を合わせ,イメー
ジに合った「音のカー
ニバル」を演奏する。
○
◆いろいろな音を聴き
比べ,音色や響きの
違いを感じ取ろうと
している。
演奏の聴取
行動の観察
発言の内容
○
◆音色の違いを生かし
て,組み合わせを工
夫している。
演奏の聴取
行動の観察
○
◆音色の違いを生かし
て,イメージに合っ
た音の組み合わせを
工夫している。
演奏の聴取
ワークシー
トの記述
◆楽器の音色を生かし
て,イメージに合っ
た音の組み合わせを
工夫して演奏してい
る。
演奏の聴取
行動の観察
)
○
7
○
-音楽 3 -
4
○
展開の具体例
学習のねらい
皮,金属,木でできている楽器を組み合わせて「音のカーニバル」を行う活動を通して,音色
の違いを生かし,自分たちのイメージに合わせた組み合わせを工夫することができる。
学習活動・内容
時間
○
指導上の留意点
※
評価
1
リズム打ちを行い,本時のめあてをと
5
○ いろいろなリズムを繰り返し打ったり,
らえる。
(分)
リズムを重ねて打ったりする活動を行うこ
とを通して,リズムに慣れ,これからの活
めあて
動に対する意欲を高めていくことができる
ちがう音色の楽器を組み合わせて自
ようにする。
分たちのイメージに合った「音のカー
○ グループに分かれる前に前時の音づくり
ニバル」をつくろう。
での活動を想起させ,演奏例を示すことに
より,演奏の仕方によっても音色や響きが
違ってくることを確認する。
2 グループごとに楽器を選び,「音のカ 20 ○ グループで話し合う時間を十分に設け,
ーニバル」の演奏をする。
楽器選びや組み合わせ,演奏する順序を工
(1)どんな音のカーニバルにするか,グ
夫させる。一人一人が選んだ音を鳴らして
ループでイメージを話し合う。
みんなで音色を確かめたり,他のグループ
(2)グループに分かれてイメージに合わ
と聴き合ったりしながら,イメージに合う
せて楽器を選ぶ。
工夫をするように助言する。
C の姿の児童への手だて
自分の意見がなかなか出せない児童に
は楽器に触れさせ,音色や音の伸びの違
いを明確にした上でイメージに合う音づ
くりができるように助言していく。
A の姿の児童への手だて
自分たちのイメージと合っていると感
じた音色の特徴をグループ内に広めた
り,そう感じた理由を説明したりするよ
うに助言する。
(3)音色の違いを生かしながら,自分た
ちのイメージに合うように工夫しなが
ら演奏を行う。
3
4
グループごとに発表して聴き合い,感
じたことについて話し合う。
本時のまとめをする。
まとめの例
○ 金属でできた楽器を多く使うと
「星」のイメージを出すことができる。
○ 組み合わせと強弱を工夫すると雰
囲気が盛り上がり,イメージに近づ
く。
15
5
○
選んだ楽器や演奏の仕方,音色の違いな
どを自分のグループと比べながら聴くよう
助言する。また,感想は工夫したと感じた
ところを焦点化しながらまとめていくこと
で,それぞれのグループのよさをとらえる
ことができるようにする。
※ 音色の違いを生かして,イメージに合っ
た音の組み合わせを工夫しているか。
(演奏の聴取・ワークシートの記述)
○ 本時にわかったことをまとめ,発表する
時間を設ける。次時は歌と各グループ演奏
を合わせることを予告し意欲化を図る。
-音楽 4 -
5
実践の考察
〈視点1〉音や音楽を知覚し,そのよさや特徴を感じ取り,思考・判断しながらさらに表現や鑑賞に生かす
ことができる題材構成の工夫
(1)音楽を構成している音色に着目し,楽器の材質の違いによる音の特徴をとらえやすいような掲
示や場の設定の工夫をする。([共通事項]の学習への位置づけ)
○
身近な楽器の音の特徴や音色の違いを話し合った内容の掲示や,楽器を種類ごとに分けた場
の設定をした。
本題材の4時目に,「木」「金属」「皮」の材質の異な
る打楽器の音色や響きの違いについて話し合った内容を
まとめ,それを継続して壁面に掲示しておいた。金属で
できている楽器は「キーンと響く音」「高くて伸びる音」
「手で押さえると短い音」などの
内容があり,イメージに合った
楽器を選ぶ際にその感想をもと
にして試し打ちに行くグループ
が多く見られた。
材質ごとの楽器の特徴の掲示
楽器コーナーの様子
「木」「金属」「皮」の楽器ごとに分けて,1種類ずつ一つの机にま
とめて置くように場を設定した。イメージを話し合った後,「星はや
っぱり金属だよね」と言いながら,金属の楽器のコーナーに向かって
いく子どもたちの姿が見られた。
楽器の場所を種類別に固定することで,子どもたちはイメージに合
う音づくりにスムーズに入ることができた。
共通事項の「音色」に着目させるためのこれらの工夫は,それぞれの楽器のよさや特徴を生
かしながら,グループのイメージに合う音づくりを行う活動に有効であった。
(2)様々なリズムに慣れ,身に付けることができるようにするために,毎時間導入段階でリズム
打ちの時間を設ける。(表現と鑑賞を意識した題材指導計画の工夫)
○
リズムは,本題材において前述の「音色」とともに非常に重要な要素である。
そこで,毎時間導入の部分でリズム打ちを行い,それに続いて繰り返す活動を行った。慣れ
てからは子どもたちが自分の考えでリズムを作って打つ活動に広げていった。
題材の1時目から5時目のリズムアンサンブルで
使われるリズムを意図的に入れたリズム打ちを行っ
た。それぞれは簡単だが,合わせたりずらしていっ
たりといった技巧があって難しく,1時間内でリズ
ムアンサンブルを行うまでには行かないだろうと判
断したためである。また,それぞれのリズムごとに
合う言葉を入れてリズム打ちを行うようにした。
【子どもたちが考えた言葉の例】
リズムアンサンブルのリズム
「な か よ し よねん せい」 「おいしー おいしー きゅうしょく おいしー」
子どもたちは楽しく言葉を口ずさみながら,リズムを体得することができた。このように,
題材を通してリズム打ちを行うことは,様々なリズムを体得する上で有効である。
-音楽 5 -
〈視点2〉楽曲の特徴や音楽の要素をもとに,演奏の楽しさやよさに気付いたり,理解したりする能力の
育成のための指導
(1)鑑賞教材から学習を進めていく。2曲を同時に鑑賞し聴き比べさせ,楽器の響きや音色の違い
に気付くことができるようにする。音色を聴いて感じたイメージや感想を交流させながら,注意
深く聴くこと,友だちとの学び合いを通して自分の思いを言葉にして伝えることの大切さに気付
かせ,このあとの自分たちで工夫して音楽を作り上げる活動との関連を図る。
[音楽的感受の言語化(考える・話す・書く・図に表す)]
○
フルートとクラリネットの音色の共通点と相違点をはっきりとさせるために,合奏部の子ど
もたちに演奏をさせた。
まず鑑賞曲を続けて聴いてからその感想について話し合い,その後でフルートとクラリネッ
ト,そして3年生の時に鑑賞した金管楽器のトランペットとトロンボーンも合わせて音色を聴
く場を設けた。鑑賞曲の音色には及ばないが,
「フルートの音は高いけど柔らかい感じがするね」
「クラリネットは,ちょっと悲しそうな音の感じもするんだ」など,口々に感想を述べていた。
その楽器を友だちが演奏する音を生で聴いたことによってより鮮明に音色の違いをとらえる
ことができていた。実際に音色を聴いて感じたイメージや感想を交流し,特に学び合いを通し
て自分の思いを言葉にして伝えることの重要性に気づいていった。
(2)個人での活動やグループ活動,全体での活動と学習形態を多様化する中でワークシートを効
果的に活用し,自分の思いや考えを深め,それらを交流して学び合うことができるようにする。
[音楽的感受の言語化(考える・話す・書く・図で表す)]
○
個人での活動やグループでの活動でワークシ
ートを活用し,自分の考えやイメージの根拠を
全体での活動で伝えることができるようにした。
ワークシートの前半では,一人一人に思いを
持たせるために個人の枠を設け,自分のイメー
ジを自由に書き込むことができるようにした。
それをもとに、グループでの話し合いを通し
てイメージの共有を図るようにした。
そのため,共有したイメージに合う楽器の話
し合いを充実することができた。
このように,自力解決の場と集団解決の場と
してワークシートを有効に活用すれば,思いや
意図をもって自分なりのイメージを表現するた
めの手だてとして効果的である。
使用したワークシート
(3)「音のカーニバル」を2段階に分けて設定する。第1段階ではそれぞれの楽器の音色の違いを
とらえ,第2段階ではそれぞれのグループのイメージに合った音を選び取ることができるように
する。(感じ取ったことの音での表現意欲)
【班の活動例】
「『おもしろい音の組み合わせ』になるようにグループで話し合って演奏しよう」〈第1段階〉
演奏で選んだ楽器と順序……タンバリン→ギロ→小太鼓→トライアングル
意図) 「伸びる音と詰まる音を組み合わせておもしろくした」
「自分たちのイメージに合う『音のカーニバル』をつくろう」〈第2段階〉
-音楽 6 -
イメージ……「時計・春夏秋冬」
前奏から最後までウッドブロックが入って時を刻む音
春(芽吹きのイメージ)…クラベスの単音
夏(暑さや成長)…タンバリンとボンゴ
秋(収穫)…クラベス,タンバリン,ボンゴ,トライアングルの4種類を重ねる。
冬(静かなクリスマスのイメージ)…トライアングル,すずで静かに終わる。
この演奏後には拍手喝さいがおきて,イメージに合わせて工夫する楽しみを全体で共有す
ることができた。イメージを深く,より具体的にもつことが,演奏の深まりと感動につなが
ることを子どもたちは学び,「また工夫してみたい」「次の学習でもグループやみんなと話
し合い,音楽を作りたい」と次の題材への意欲を高めていた。
様々な楽器の音の特徴を感じ取るための第1段階の活動が,第2段階でのイメージの深化
に効果的に働き,どのグループも,音色の特徴を生かした音楽づくりができていた。
このように段階を分けて設定することで,子どもたちの音に対する理解や曲の解釈が深ま
り,イメージを生かした自分たちの演奏へとつなげることができた。
〈視点3〉思いや意図をもって表現したり,味わって聴いたりすることができるための[共通事項]と表現
や鑑賞の各活動との関連を図った指導
(1)共通事項の[音色]について,楽器の選択や音の組み合わせに関する話し合いの時間を十分に
設けるようにする。グループ学習では,一人一人の発想や感性を大切にしながら音を鳴らしてみ
んなで確かめたり,他のグループと聴き合い,話し合ったりするように助言する。
(活動グループの意図と構成)
○
<グループで表現したいイメージ>
・星 ・氷の世界 ・打ち上げ花火 ・水の中
・時計・春夏秋冬 ・森の中
グループ内で共通の思いをもって活動させるため,イ
メージとそれに合う楽器について話し合う時間を多く設
けた。子どもたちはワークシートや[共通事項]に関す
る掲示物をよりどころにしながら話し合いを深めていた。
【話し合いの例】「打ち上げ花火」のイメージの班
「ヒューの後にドーンってなるような組み合わせは?」
イメージを話し合う様子
「花火が大きくなっていく様子を表したいな。」
「『みんなを呼ぼう』の後をだんだん大きくしていけば?」「最後のドンは大太鼓かな。」
これらの話し合いの後,楽器で試しながら演奏を繰り返して練り上げる姿がみられた。
子どもたちは演奏に夢中になると,曲の感じがどのように表現されているのかわからないこ
とが多い。そのため,他のグループにプレ発表として聴いてもらう時間を設けた。
このことで,自分たちの演奏はイメージに合っているかどうかを確認することができ,イメ
ージに合った楽器の演奏の仕方や順序を工夫していった。
これらの場の設定の中で,特に本発表の前の小集団での発表・交流(プレ発表)は,その後
の演奏の工夫につなげる上で有効であるだけでなく,お互いのよさに気付き、音に対する感性
を豊かなものにしていくための方法の1つとして効果的であり,今後も重視したい。
(文責
-音楽 7 -
長谷川涼子)
【実践事例2】第6学年
教材名
題材名
曲想を味わおう
「広い空の下で」「木星」「風を切って」
1
題材の目標
○ 自分の感じ方や考え方,作者の思いなどを生かして聴いたり演奏したりする学習に主体的に取
り組もうとしている。
(音楽への関心・意欲・態度)
○ 旋律の特徴や曲想の変化を感じ取りながら,歌詞の内容を生かした演奏の仕方を工夫し,どの
ように演奏するかについて思いをもっている。
(音楽表現の創意工夫)
○ 旋律や強弱の変化,速度,音の重なり合う響きなどに気を付けて,各パートの役割にふさわし
い表現で歌ったり楽器を演奏したりしている。
(音楽表現の技能)
○ 主な旋律の反復や変化,さまざまな音色の重なり合う響きなどが一体となってつくり出してい
る曲想を味わって聴いている。
(鑑賞の能力)
2
題材展開にあたって
〈視点1〉音や音楽を知覚し,そのよさや特質を感じ取り,思考・判断しながらさらに表現や鑑賞
に生かすことができる題材構成の工夫
(1)これまでに学習してきた[共通事項]に関する言葉を,「気づ木」の実として掲示し,話し
合いや書く活動に生かすことで,[共通事項]の理解を深められるようにする。
([共通事項]の学習活動への位置づけ)
(2)「木星」の鑑賞をする際に映像でオーケストラ演奏を視聴させ,楽器の種類と音色の関係に
ついて視覚的にも理解できるようにする。
(楽曲との出会い)
〈視点2〉楽曲の特徴や音楽の要素をもとに,演奏の楽しさやよさに気付いたり,理解したりする
能力の育成のための指導
(1)「木星」の曲想をとらえるために,音色・リズム・速度・旋律の動きなどの観点を提示し,
それぞれについて感じ取ったことを自分のことばで表すようにする。
[音楽的感受の言語化(考える・話す・書く・図に表す)]
〈視点3〉
視点3〉思いや意図をもって表現したり,
思いや意図をもって表現したり,味わって聴いたりすることができるための[
味わって聴いたりすることができるための[共通事項]
共通事項]
と表現や鑑賞の各活動と関連を図った指導
(1)音楽表現をする際には,自分たちの演奏を録音し,聴いて修正し,再度録音して聴く活動を
展開し,[共通事項]をよりどころとして,表現と鑑賞の関連を図る。
(音楽的表現を高めるための話し合いの視点と目標)
鑑賞で使用する楽曲「木星」の(ア)と(イ)の部分
-音楽 8 -
※
抜粋
3
題材の指導計画
時
一
1
教材
広い空の下で
次
2
3
二
1
木
(
)
星
本
時
2
1
2
3
風を切って
三
(総時数8時間
ねらい
○学習活動
本時4/8)
評価の観点
関 創 技 鑑
◆
評価規準
評価方法
作者の言葉を手がかりに,歌詞や旋律の動きから,表現の仕方を考えて
歌うことができるようにする。
○ 曲全体の感じをつ ○
◆歌詞や,作曲者の言 発言の内容
かみ作曲者の言葉や
葉,旋律の動きや重 表情の観察
歌詞を読んで楽譜で
なり方に関心をもっ
確かめる。
て進んで範唱を聴こ
うとしている。
○ 音程やリズムに気
○
◆自分の歌うパートの 行動の観察
をつけて二部合唱す
リズムや音程,声の 演奏の聴取
る。
出し方に気を付けて
歌っている。
○ 作者の思いを生か
○
◆歌詞と旋律の動きや 行動の観察
した表現を工夫し,
重なりなどの構成を 演奏の聴取
二部合唱をする。
楽譜を見ながら話し
合い,それらを生か
した表現を工夫して
いる。
曲想の移り変わりを味わいながら聴くことができる。
○ 曲想や曲の構成を
○ ◆曲全体の感じに関心
感じ取りながら聴
をもち,楽曲を特徴
く。
付けている要素に気
を付けて聴くことが
できる。
○ 中間部を演奏し,
○
◆旋律の特徴を感じ取
グループで話し合い
り,曲想を生かして
ながら,曲想に合う
思いや意図をもって
ように工夫する。
表現の仕方を工夫し
ている。
曲想を生かして合奏することができる。
○ 曲全体の感じをつ ○
◆範奏を聴いたり主旋
かむ。
律を演奏したりして
主体的に合奏に取り
組もうとしている。
○ グループで表現の
○
◆旋律の特徴を感じ取
工夫について話し合
り曲想を生かし思い
いながら,練習をす
や意図をもって表現
る。
を工夫している。
○ グループの演奏を
○
◆旋律の特徴を感じ取
聴き合い,そのよさ
り,曲想を生かした
を味わう。
表現の仕方を工夫し
て演奏している。
-音楽 9 -
表情の観察
ワークシー
トの記述
行動の観察
話し合いの
様子
表現の内容
表情の観察
発言の内容
発言の内容
行動の観察
発言の内容
行動の観察
ワークシー
トの記述
4
○
展開の具体例
学習のねらい
「木星」のアとイを聴き比べたり,話し合ったりすることを通して,曲想の違いと楽曲の特徴
に気づくことができる。
学習活動・内容
時間
○
指導上の留意点
※
評価
1 「木星」を視聴し,全体の感じをつかむ。 10 ○ 楽器の種類と音色の関係に着目させるた
(1)「木星」を視聴する。
(分) め,冒頭に全曲を映像で試聴させる。
(2)感想を持たせる。
○ 感想からなぜそう思うのか投げかけ,め
あてにつなげる。
アとイを聴き比べて,それぞれの特徴を
○ 音色(楽器の種類など)やリズム,速度,
とらえよう。
旋律の動きについての児童からの感想を取
り上げて,聴く観点を明確にする。
・音色 ・リズム ・速度 ・旋律の動き
○ 授業の最後には,曲の紹介文を書くこと
を知らせる。
2 アを聴き,曲想を生み出しているものを 10 ○ 3つの部分から構成されていることを,
話し合い,特徴を捉える。
知らせてから,アの部分を聴かせる。教科
(1)アの部分を聴く。
書の楽譜を見ながら口ずさんだり,リズム
(2)全体で交流する。
の特徴をとらえさせたりしてアの特徴につ
・いろいろな楽器が入っている
いて大まかに理解させる。
・リズムが細かい ・強弱が激しい
・速度が速い 途中で速さが変わる
3 イを聴き,曲想を生み出しているものを 15 ○ アの部分同様,聴くときの観点を確認し
グループで話し合い,特徴を捉える。
て特徴を見い出すようにさせる。
(1)イの部分を聴く。
○ 初めは個人で考え,ワークシートや楽譜
(2)自分が感じた特徴を記入する。
に記入させる。更に,話し合いを基にワー
クシートに自由に記入させる。
(3)グループで話し合う。
Cの姿の児童への手だて
・ゆったりしている
曲に合わせて,指揮をしたり拍子をとっ
・アと比べて速度はゆっくりだ
たりして聴かせ,速度の違いを感じとらせ
る。
Aの姿の児童への手だて
アとイの違いを比べて聴いたことから,
この曲のよさを言葉で表すようにさせる。
4 本時のまとめをする。
10 ○ それぞれの旋律の動きやリズムの特徴を
(1)アとイの曲想の違いを生み出している
想起しながら,曲の紹介文としてまとめさ
ものについて考え,曲の紹介文を書く。
せる。
紹介文の例
※ 音色,リズム,旋律の動きなどの曲想の
違いに気づき,楽曲の特徴を理解すること
この曲は,旋律や音色が次々と変わり
ができたか。 【表情観察 ワークシート】
ます。途中はゆったりとした美しい旋律
が流れます。とてもいやされます。ぜひ,
聴いてみてください。
(2)次時は,イの部分を楽器で演奏するこ
とを伝える。
-音楽 10 -
5
実践の考察
〈視点1〉音や音楽を知覚し,そのよさや特質を感じ取り,思考・判断しながらさらに表現や
鑑賞に生かすことができる題材構成の工夫
(1) これまでに学習してきた[共通事項]に関する言葉を,「気づ木」の実として掲示し,話し
合いや書く活動に生かすことで[共通事項]の理解を深められるようにする。
([共通事項]の学習活動への位置づけ)
○
児童が話した言葉を[共通事項]の内容に照らし合
わせて,「気づ木」の実に書いて掲示している。
表現を工夫するときの話し合いや感想を書いたり話
したりするときに,表現を手助けするものとして使用
するようにしてきた。
本時でも,聴いた感じを言葉で表すときに「気づ木」
を見ながら書いたり話したりする姿が見られた。
「アは速度が速く迫力がある」
「忙しい感じがするけど,
いろいろな楽器が次々に出てきているからかなあ」
「イの方がゆったりしていていい」「強弱の変化が激し
くて迫力がある。ゆったりしているイでも,だんだん
強くなってくるから迫力はあると思う」など,
「気づ木」
が共通事項の理解と活用を図る上で効果的であった。
このように,年間を通じて意図的に掲示の工夫をす
ることで,[共通事項]がその場限りのものではなく,
いろいろな題材の学習で児童が意識するようになり,
「気づ木」の掲示
思考・判断したり表現したりする際の材料として使えるものになってきている。
(2)「木星」の鑑賞をする際に映像でオーケストラ演奏を視聴させ,楽器の種類と音色の関係に
ついて視覚的にも理解できるようにする。(楽曲との出会い)
○「木星」の鑑賞では,アとイの部分
の曲想の違いを感じ取らせるために,
初めに映像を提示した。
この楽曲に関して取り上げる[共
通事項]の一つに「音色」があり,
そのために楽器の種類と音の理解が
重要だと考えたからである。
児童は,この楽曲の映像資料でい
ろいろな楽器の音や演奏方法を確認
したことで,音のみで聴かせた2回
目以降,進んで楽器の種類や数など
を意識するようになるなど,音楽を
味わう力(鑑賞力)に高まりがみら
れた。また,自分たちが合奏をする
際にも,速度や強弱,楽器の選び方や
「木星」の演奏を映像で鑑賞する様子
人数などを考え,自分たちの表現に生かそうとするようになってきたことから,ねらいを明確
にしたビデオ教材の活用は有効であったと考える。
-音楽 11 -
〈視点2〉楽曲の特徴や音楽の要素をもとに,演奏の楽しさやよさに気付いたり,理解したり
する能力の育成のための指導
(1)「木星」の曲想をとらえるために,音色・リズム・速度・旋律の動きなどの観点を提示し,
それぞれについて感じ取ったことを自分のことばで表すようにする。
[音楽的感受の言語化(考える・話す・書く・図に表す)]
○
曲想をとらえるための観点として,「音色」「リズム」「旋律の動き」「速度」を提示して,
アとイの部分を比較して聴かせた。曲想の違う部分を4つの観点で聴き比べさせることで,
より明確に楽曲の特徴を理解させることができた。
また,観点に沿って聴き比べたことを,文章だけでなく絵や図などで表してもよいことと
したワークシートを活用することで,児童は自分なりの表現方法で書き表すことができ,文
章が苦手な児童も,演奏の楽しさやよさについて感じたことを表現できていた。
自分なりの表現方法がとれるように工夫したワークシート
〈視点3〉思いや意図をもって表現したり,味わって聴いたりすることができるための[共通
事項]と表現や鑑賞の各活動と関連を図った指導
(1)音楽表現をする際には,自分たちの演奏を録音し,聴いて修正し,再度録音して聴く活動を展
開し,[共通事項]をよりどころとして,表現と鑑賞の関連を図る。
(音楽的表現を高めるための話し合いの視点と目標)
-音楽 12 -
○
表現の活動(合唱や合奏)では,2つのグループに分け,この楽曲を鑑賞する観点でも
あった[共通事項]を確認し,それをもとにどんな演奏にしたいのか話し合わせた。また,
表現に生かす観点を明確にして演奏させ,自分たちが満足のいく演奏かどうか話し合わせ
た。
その結果,自分たちの演奏を強弱や速度などの[共通事項]の内容に照らしながら話
し合う姿が増えてきた。また,演奏の録音を聴くことで,自分たちの思いや意図に沿った
表現に近づいてきたかどうかを考え,さらに表現に生かすことができるようになった。
「旋律の動きが大きくて,高い音に
なったら強くしよう。」
「まあ,いいかな。」
「録音してみよう。」
「うーん,なんか違う。」
「強弱が,はっきりし
ないな。」
「息の出し方に気をつ
けてもう一回。」
(文責
-音楽 13 -
末永淑恵)