アルミニウムとその合金、材料加工プロセス

マテリアル工学実験 I
<金属材料 : 合金設計と組織観察(1)>
東北大学 金属材料研究所 関西センタ(大阪府立大学 客員研究員)
千星 聡
内容
■ アルミニウムの基礎
-
身の回りのアルミニウム
-
アルミニウムの性質
-
アルミニウムの加工
■ アルミニウムの合金学
-
状態図の見方・考え方、利用の仕方
-
各種アルミニウム合金
金属材料としてのアルミニウム
日本での主要金属素材の使用比率
* 最新 「鉄」の基本と仕組み(秀和システム) 2010 より
・ 【鐡(鉄)は金の王なる哉】
・ 【アルミニウムは金属の王子様】 (!?)
身の回りのアルミニウム合金
JR熊本駅
MacBook Pro
アルミボトル
「レゴ」のキーチェイン
水筒
電線
アウディグランドピアノ
iphoneアルミジャケット
* 東北大学金属材料研究所関西センターHPより
アイスクリーム用スプーン ロンドン五輪トーチ
アルミニウム繊維
アルミニウム缶の回収
Al缶の引き取り価格:95円/kg(スチール缶は10円/kg)
* スクラップ鉄:20 円/kg, 銅: 500円/kg (2014)
15g/350ml・本より、1kgは67缶で95円。家庭用ポリ袋45lにはAl缶が2kg入るので190円。
それを荷台に2袋、左右に1袋、前に1袋の合計5袋(333缶、10kg)を運んで、950円になる。
これはプレスの場合でバラは81円/kgで810円にととまる。
2011年のAL缶188億本のうち173億本が回収され、リサイクル率は92.5%
* 東北大学金属材料研究所関西センターHPより
アルミニウムは金属の王子さま !?
西暦
金属に関わる発見・発明・出来事
BC3500頃
「銅」が使われ始めた
BC2500頃
「鉄」が使われ始めた
1771
「チタン」の発見
1827
ウェーラー: アルミニウムの実験的製造に成功 (金や銀と同価値)
1886
ホール、エルー: アルミニウムの電解製錬法を発明
1888
バイヤー: アルミナの工業的製造法を開発 → アルミの工業的利用
1906
ウィルム: アルミニウム合金の時効析出現象を発見
1916
ジュラルミンを初めて飛行機に使用
1940
北原五郎、五十嵐勇が超超ジュラルミンを開発
1994
H-2型ロケット打上げ成功 (高力アルミニウム合金の使用)
2007
N700系新幹線車両の営業運転開始
~130年 !?
アルミニウムの存在
元素
クラーク数
順位
O
49.5
1
Si
25.8
2
Al
7.56
3
Fe
4.70
4
酸化物
標準生成自由エネルギー
Ca
3.39
5
Ag3O
-0.6
Mg
1.93
8
Cu2O
-32.7
Ti
0.46
10
CuO
-27.2
Ni
0.01
24
FeO
-55.3
Cu
0.007
26
Fe2O3
-163.9
Ag
1x10-6
69
SnO
-56.8
Pt
5x10-7
75
SiO2
-188.0
Au
5x10-7
76
Al2O3
-361.9
Al: なぜ発見・使用が遅れたか?
Alを「素材」として取出すことが困難
* アルミニウムの基本と仕組み(秀和システム) 2010 より
アルミニウムの精錬
NaOH溶液
5t
ボーキサイト
焙焼
混合槽
濃縮槽
析出槽
(Al2O3・Fe2O3・SiO2・TiO2)
Al(OH)3
焙焼
Al2O3・3H2O
濾過器
<バイヤー法>(1888年)
氷晶石
アルミナ(Al2O3)
0.1 t
2t
1000oCで溶融
溶融塩電解法
1万6000 KWh
アルミニウム(99.7%)
1t
<ホール・エール法>(1886年)
* 総量2万KWh/Al1t の電力が必要 (二次地金では約590 KWh) ← アルミニウムは「電気の缶詰」
基本事項
■ アルミニウムおよびその合金の基礎
-
身の回りのアルミニウム
-
アルミニウムの性質
-
アルミニウムの加工
■ アルミニウムの合金学
-
アルミニウム合金
-
状態図の見方・考え方、利用の仕方
アルミニウムの基本的性質
* 東北大学金属材料研究所関西センターHPより
アルミニウムの物理的性質
各種金属の導電率と熱伝導率 (室温)
純銅の電気比抵抗への添加元素の寄与
[ref] 伸銅品データブック
 良好な電気・熱伝導率(実用金属で2番目)
 固溶元素、添加量に依存して低導電率化
(熱伝導性も低下)
アルミニウムの化学的性質
腐食順位列
• アルミ自体は活性。反応性が高い。
• 実際は不動態皮膜により耐食性◎
• 濃硝酸、水、牛乳、酒類、酢酸には
耐食性が優れる。
• 硫酸、塩酸、アルカリ水溶液、海水
には腐食されやすい。
• 高純度アルミニウムほど耐食性◎
• Alと電極電位差の大きい不純物
(Fe, Cu, Ni)では腐食性が悪化。
• Alと電極電位差の小さい不純物
(Mg, Mn)は腐食性への影響:少。
アルミニウムの機械的性質
強さ-伸びは
トレードオフの関係
再結晶温度
~250℃
引張強さ:鉄鋼材料の1/10以下
加工硬化してもせいぜい180 MPa
◆ 機械的特性を改善するために…
【固溶強化】 Al-Mn, Al-Mg (耐食性も維持できる)
【析出強化】 Al-Cu, Al-Mg-Si, Al-Zn-Mg
* 「非鉄材料」 和泉修ら, 日本金属学会編より
アルミニウム・アルミニウム合金
軽量
電気・熱伝導性
光沢性
耐食性
比強度
加工性
一円玉
アルミミラー
アルミホィール
基本事項
■ アルミニウムおよびその合金の基礎
-
身の回りのアルミニウム
-
アルミニウムの性質
-
アルミニウムの加工 (金属加工法の基礎)
■ アルミニウムの合金学
-
アルミニウム合金
-
状態図の見方・考え方、利用の仕方
金属加工法
鋳造
固体
■ 塑性加工(鍛造,圧延,引抜)
■ 切削加工(旋盤,切断,研磨)
■ 溶接/接合
切削加工
粉体
液体
■ 粉末焼結
接合
■ 鋳造
■ 溶解
気体
■ 物理蒸着(PVD)
■ 化学蒸着(CVD)
塑性加工法
* アルミニウムの基本と仕組み(秀和システム) 2010 より
[コラム] アルミニウム缶の作製
内容物
充填方式
容器の種類
3ピース缶 → スチール缶
ミルク入り
飲料
陰圧充填
・ 残存酸素量が少なく、
内容物の品質保全が良。
巻締接合
 圧延/接合
 巻締め
・ 缶胴に強度が必要。
・ 接合部
・ 底が平面
果汁飲料,
お茶など
2ピース缶 → 主にアルミ缶
(+ 窒素ガス)
・ Al-Mg (5000系)
陽圧充填
炭酸飲料,
ビールなど
(炭酸ガス含有)
・ 缶胴が薄くても強度が
保持される。
 打抜き
 深絞り/しごき
 巻締め
・ Al-Mn (3000系)
・ 底がドーム状
[コラム] アルミニウム缶の作製
深絞り
* 神戸製鋼エンジニアリングレポート vol 55 (2005) 75-80 より
鋳造法
溶解
鋳造/凝固
仕上げ
鋳造法の特徴
鋳造技術の特徴
長所
短所
■ 形状付与性が高い
凝固時の金属の物理的・化学的な変化に
起因して欠陥を生じ易い。
■ 重量制限が少ない
■ 利用する金属・合金の幅が広い
■ ガス吸収に起因する欠陥 → 気泡
■ 個数制限が少ない
■ 金属の低粘性に起因する欠陥
■ リサイクル性が良い
…
→ 湯回り不良、湯境い
■ 体積変化に起因する欠陥
→ 引け巣
■ 偏析に起因する欠陥 → 凝固偏析
欠陥が発生しないよう【プロセスの最適化(鋳造方案)】が重要
鋳造法の種類
(1)砂型鋳造法
(2)金型鋳造法
■ 重力鋳造法
金型
■ 低圧鋳造法
加圧ガス
■ ダイキャスト
溶湯の保持炉
給湯管
(ストーク)
るつぼ
【図】 低圧鋳造法 模式図
(3)特殊鋳造法
■ ロストワックス法
■ 遠心鋳造法
■ 真空鋳造法
■ 消失模型鋳造法 …
材質、用途に最適なプロセスの選択が重要
本実験の主旨
材料設計・プロセス
【鋳造法】
アルミニウムの「本質」と「ものづくり」
組織・構造
【組織観察】
機能的特性
【強さ、硬さ】
鋳造用アルミニウム合金 (Al-Si合金)
【Si添加の材料科学的・工業的な意味】
・ 融点の低下
・ 流動性の改善
鋳造性の改善
・ Na同時添加によるSi相の微細化 → 強度の改善
* 「非鉄材料」 和泉修ら, 日本金属学会編より
本日の実験内容
消失模型法によるAl-Si合金の鋳造凝固過程の理解
… 溶解鋳造法の概念を修得し、鋳物の製造工程を理解する。
◆ 合金原料の秤量
① 純 Al、 ② Al- 3.0 mass% Si (亜共晶組成)、
③ Al- 12.6 mass% Si (共晶組成)、④ Al- 20.0 mass% Si (過共晶組成)
◆ 溶解 (~780 oC)
◆ 鋳造準備 (鋳型作製、熱電対・砂型の準備)
◆ 冷却曲線の測定
◆ 試験片切取り