神奈川県産業技術センター研究報告 No.20/2014 Cu 系材料の添加による Al2O3-Fe2O3 高日射反射率顔料の暗色化 - 混合と焼成の順序が反射性能に与える影響 機械・材料技術部 ナノ材料チーム 良 知 健 暗色系の高日射反射率塗料の反射性能を向上させることを目的に,白色顔料のアルミナ(Al2O3)と暗色材料の γ-酸 化鉄(γ-Fe2O3)に,さらに暗色材料として Cu 系の材料を添加した顔料を作製した.各原料を個別に焼成してから混 合した場合と比較して,原料をすべて混合してから焼成した場合には,新たに複合酸化物などが生成して近赤外反射 率が大幅に低下した.一方で,Al2O3 と Cu を予め混合して焼成し,これに焼成した γ-Fe2O3 を混合した場合には,近 赤外領域の日射反射率を高く維持したまま明度の低減を図れることが明らかになった. キーワード:ヒートアイランド,高日射反射率塗料,遮熱塗料,明度,暗色化 の材料として Cu および γ-Fe2O3 を用い,これらの原料 1 はじめに から固相反応法により試料を作製した.Al2O3:Cu: γ-Fe2O3 の混合比(モル比)は 1:0.5:0.3 とし,焼成 高日射反射率塗料(遮熱塗料)は太陽光を反射させる ことで熱の吸収を抑え,住宅における冷房節減やヒート 温度は 800 ℃とした.試料は,焼成と混合の順序を変 アイランド抑制に効果がある塗料として期待されている えて,図 1 に示す (a)-(c)の 3 種類を作製した.得られ 1).特に日本では,屋根へ適用する際に明度を抑えた塗 た試料は 1 wt%のポリビニルアルコール(PVA)水溶 料が好まれるため,暗色系の高日射反射率塗料の開発が 液中に分散させてガラス板に塗布し,70 ℃で乾燥させ 盛んに進められている.暗色系の高日射反射率塗料は既 た後,自記分光光度計(島津製作所, UV-3100PC)によ に製品化されており,有機系や無機系の様々な顔料が各 り反射率を測定した.また,作製した試料粉末の結晶相 社から提案されている 2).しかし,反射性能はいまだに は X 線回折装置(PHILIPS, X' Pert Pro)で評価した. 不十分であり,さらなる改良が求められている. 暗色系の高日射反射率材料には,可視領域(380-780 3 実験結果および考察 nm)における反射率が低く,かつ近赤外領域(780-2500 nm)における反射率が高いことが求められる 3).我々は 3.1 複合酸化物等の生成による近赤外反射率の低下 前報 4)で,白色顔料に酸化鉄(Fe2O3)を添加すること 試料(a)と試料(b)の反射率スペクトルを図 2 に示す. により,白色顔料の高い反射率を近赤外領域では維持し 試料(a)のスペクトルは,Al2O3 と Cu,Al2O3 と γ-Fe2O3 たまま,可視領域の反射率を低減できることを示した. をそれぞれ混合して焼成した試料のスペクトルの和に近 本研究では白色顔料に Fe2O3 を添加した系に,さら いものであった.ところが,試料(b)では特に近赤外領 に暗色の Cu 系材料を添加することで,より低明度な材 料が得られることを明らかにした. 100 近赤外領域 可視領域 (a) 80 反射率 ( % ) 2 実験方法 白色顔料としてアルミナ(Al2O3)を,また暗色系 試料(a) : Al2O3 + Cu + Fe2O3 (b) 40 20 試料(b) : Al2O3 + Cu + Fe2O3 試料(c ) : Al2O3 + Cu + Fe2O3 ※ 60 0 は焼成を,+は混合を表す 500 1000 1500 2000 波長 ( nm ) 図 1 試料(a)-(c)の,原料の混合と焼成の順序 図 2 試料(a)と試料(b)の反射率スペクトル 46 2500 神奈川県産業技術センター研究報告 No.20/2014 100 T H A H T (a) H A TH A M CMC (b) T A H T T MC A 20 80 H A 反射率 ( % ) 強度 ( a.u. ) A A T C 30 60 (a) 40 (c) 20 C T M C 40 近赤外領域 可視領域 A T A T 0 50 500 2 (°) 1000 1500 2000 2500 波長 ( nm ) 図 3 試料(a)および試料(b)の X 線回折スペクトル (A:Al2O3, T:CuO, H:α-Fe2O3, M:Fe3O4, C:CuFe2O4) 図 4 試料(a) および試料(c)の反射率スペクトル 域における反射率に大幅な低下が見られた.広い波長領 変化ではなく,原子の拡散や非晶質相の変化が寄与して 域にわたってスペクトル形状が変化していることから, いると推察される.このように,近赤外領域の反射率を Cu と γ-Fe2O3 の同時焼成により結晶相が変化した可能 高く維持したまま低明度化するためには,結晶相が変化 性がある.そこで,結晶相の変化を調べるため,X 線回 しないようなプロセスを用いて材料を焼成することが有 折を行った.図 3 に試料(a)および(b)の X 線回折スペク 効であることがわかった. トルを示す.試料(a)では,Al2O3,CuO,α-Fe2O3 のピ ークが見られ,焼成により Cu が CuO に,γ-Fe2O3 が 4 まとめ α-Fe2O3 に変化しているものの,それ以外の結晶相に大 きな変化は見られなかった.これに対し,試料(b)では 屋根への適用を想定した暗色系の高日射反射率塗 α-Fe2O3 が生成しておらず,CuO の生成量も少なかっ 料の反射性能を向上させることを目的に,白色顔料 た.その代わりに,Fe3O4 と CuFe2O4 の新たな結晶相 の Al2O3 と暗色材料の γ-Fe2O3 に,さらに暗色材料と が生成していることがわかった.このことから,Cu と して Cu 系の材料を添加した.Cu 系材料添加による γ-Fe2O3 の同時焼成に伴う結晶相の変化が,試料(b)の近 反射性能への効果を調べた結果,混合と焼成の順序 赤外反射率の低下を引き起こした主な原因であると考え によって反射性能は大きく変化した.特に近赤外領 られる. 域で反射率の高い材料を低明度化する際には,原子 の拡散など結晶相が変化しないようなプロセスを用 3.2 可視領域における反射率の低減 いた試料作製が有効であることがわかった. 前節で Cu と γ-Fe2O3 の同時焼成が近赤外反射率の低 下の原因と考えられたことから,次に Cu と γ-Fe2O3 を 文献 別々に焼成することにより,近赤外反射率低下の抑制を 1) “高日射反射率塗料に関する補足資料”,社団法人日 図った. 図 4 に試料(c)と,比較として試料(a)の反射率 本塗料工業会,http://toryo.or.jp/jp/anzen/reflect/ スペクトルを示す.試料(c)では前節の試料(b)で見られ reflect-info2.pdf, (2011). 2) 特開 2009-286862,特開 2006-249411 ほか た様な近赤外反射率の低下は見られず,可視から近赤外 領域にわたる広い波長領域で試料(a)と非常によく似た 3) JIS K 5675 日本工業標準調査会 (2011). スペクトルとなっている.その一方で 500-900 nm の波 4) 良知健,藤井寿,奥田徹也;神奈川県産業技術セン ター研究報告, No.19, 10 (2013). 長領域では試料(c)の反射率が試料(a)と比べて大幅に低 減され,低明度化していることがわかる.この両者の反 射率スペクトルに見られる違いを,前節と同様に結晶構 造の観点から調べた.しかし,試料(a)と(c)の X 線回折 スペクトルのピークやその強度,線幅には明確な差がな く,結晶相の組成や結晶粒径の違いは確認できなかった. このことから,可視領域の反射率の低減には,結晶相の 47
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