06P048_島貫 法子

平成 23 年度新潟薬科大学薬学部卒業研究Ⅱ
論文題目
内分泌・代謝疾患の病態生理と薬物治療に関する研究
-皮膚疾患における処方せんの調査-
Study on Pathological Physiology and Pharmacotherapy in Endocrine
and Metabolic Disease
-Survey on Prescribed Drugs of Steroid therapy in Skin Disease-
臨床薬剤学研究室 6 年
06P048
島貫
法子
(指導教員:河野
健治)
要 旨
本論文では、平成 21 年度卒業研究Ⅰ-副腎疾患・Cushing 症候群-を受け、保険調
剤薬局における、皮膚科と小児科の皮膚領域の処方せんの調査を行った。
卒業研究Ⅰでは、副腎疾患の病理、治療法、予後を調査し、副腎障害が如何に生体
に対してダメージを与えるかを理解した。更に、生体外からの副腎皮質ホルモン製剤
を長期に投与した場合に引き起こされることのある医原性 Cushing 症候群を取り上
げ、アトピー性皮膚炎の患者の増加と、ステロイド製剤による治療が大きな位置を占
めていることを背景に、特にアトピー性皮膚炎の治療におけるステロイド製剤使用の
際の副作用について調査しまとめた。ステロイドの投与は、生命を脅かすほどではな
くとも、複数の副作用が出現する。患者の QOL は大きく下がり、ストレスが増し、
副腎のダメージにより更に症状が悪化するという悪循環に陥る可能性がある。よって
薬剤師は、尐しでも患者の QOL を上げるために、ステロイド製剤の適正使用を徹底
し、たとえ一つ一つの副作用は生命に関わるものではなくとも、長期にステロイド製
剤を投与することの副腎への影響を常に念頭においた上で、患者の苦痛を初期症状か
ら察し、心身共に患者をサポートする努力が求められる。そこで本研究では、小児科
の皮膚科領域と皮膚科で処方されるステロイド製剤の処方実態を調査することで、臨
床において皮膚科領域でのステロイド製剤の適正使用を徹底するために、薬剤師に出
来ることは何かを考察した。ステロイド製剤は、日本皮膚科学会がまとめたガイドラ
インを指針に処方される。このガイドラインは、ガイドライン作成がなされるまでの
治療法をまとめたものであり 3)、ステロイド外用剤の長期使用による依存、リバウン
ドについての記述がないなど不十分な点が見られる 4)という、皮膚科専門医の指摘が
ある。よって、処方手順がガイドラインに従っているからといって、必ずしもステロ
イド製剤の適正使用がなされているとは言い難い状況にあるものと思われ、ステロイ
ド製剤の長期使用による依存やリバウンドが患者の皮膚症状の難治化に関係してい
る可能性がある。この様な状況のなかで、薬剤師は服薬指導時において、患者に安心
感を与えたり、精神的サポートや生活上のアドバイスをすると同時に、患者の様子を
よく観察することで、患者の皮膚症状が難治化する前に、何らかの手を打つことが出
来るのではないかと思われる。
キーワード
3.ステロイド製剤使用の際
の副作用
1.医原性 Cushing 症候群
2.アトピー性皮膚炎
4. 患者の QOL
5. ステロイド製剤の適正使
6.日本皮膚科学会
用
7.ガイドライン
8.ステロイド外用剤の長期
9.依存、リバウンド
使用
10.皮膚症状の難治化
11.難治化を予防
目 次
1.はじめに
・・・・・・・・・・・・・・・・
1
2.調査方法
・・・・・・・・・・・・・・・・・
1
3.結果
・・・・・・・・・・・・・・・・・
2
4.ケース・スタディー
・・・・・・・・・・・・・・・・・
8
5.おわりに
・・・・・・・・・・・・・・・・・
16
謝 辞
・・・・・・・・・・・・・・・・・・
16
引用文献
・・・・・・・・・・・・・・・・・
16
論 文
1.はじめに
本論文では、平成 21 年度卒業研究Ⅰ-副腎疾患・Cushing 症候群-を受け、保険
調剤薬局における、皮膚科と小児科の皮膚領域の処方せんの調査を行った。
卒業研究Ⅰでは、副腎疾患の病理、治療法、予後を調査し、副腎障害が如何に生体
に対してダメージを与えるかを理解するに至った。これにより、生体外からの副腎皮質ホ
ルモン製剤を長期に投与した場合に引き起こされることのある医原性 Cushing 症候群を
取り上げ、アトピー性皮膚炎の患者が増加していること、又、ステロイドによる治療が大き
な位置を占めていることを背景に、特にアトピー性皮膚炎の治療における副腎皮質ホル
モン製剤使用の際の副作用について考察した。
ここでの注意点として、特に小児へのステロイドの投与には、成長阻害を引き起こす可
能性があることから、慎重を要する。また、生命を脅かすほどではなくとも、複数の副作用
が出現すれば、患者の QOL は大きく下がり、ストレスが増し、副腎のダメージにより更に
症状が悪化するという、悪循環に陥る可能性も考えられる。
よって、薬剤師は、尐しでも患者の QOL を上げるために、ステロイド製剤の適正使用を
徹底し、更に、たとえ一つ一つの副作用は生命に関わるものではなくとも、長期にステロ
イド製剤を投与することの副腎への影響を常に念頭においた上で、患者の苦痛を初期症
状から察し、心身共に患者をサポートする努力が求められる。
そこで本研究では、実際に小児科の皮膚科領域、皮膚科において処方される副腎皮
質ホルモンの処方実態を調査することにより、臨床での皮膚科領域におけるステロイド製
剤の適正使用を徹底するために、薬剤師に出来ることは何かを考察する。
2.調査方法
① 調査施設、期間、対象薬剤
新潟市の市民調剤薬局の承認を得て、当保険調剤薬局(以下、当薬局)よりデータを
抽出した。当薬局より、平成 22 年 1 月から、12 月までの 1 年間の小児科皮膚領域で
の処方せん、皮膚科処方箋を無作為に抽出し、基データとした。集計対象薬剤は、ス
1
テロイド製剤(外用剤、内用剤)、免疫抑制剤(プロトピック)である。免疫抑制剤は、日本
皮膚科学会アトピー性皮膚炎診療ガイドライン 2)で寛解導入療法、寛解維持療法にお
いてステロイドと並んで使用される医薬品であるため、患者の皮膚症状の参考とする為
に集計の対象に加えた。なお、データ収集においては個人情報保護法に配慮して行
った。
② 調査項目・内容
下記の項目について小児科、皮膚科に分けて集計、比較検討した。
1) 各科の全処方せん枚数、件数
2) 免疫抑制剤処方数、件数
3) 副腎皮質ホルモン製剤の処方実態
3-1)医薬品別処方数、件数
3-2)レベル別処方割合
3-3)各レベルにおける年齢別処方割合
3.結果
1) 各科の全処方せん枚数、件数、全薬剤数
対象:副腎皮質ホルモン製剤・免疫抑制剤・経皮複合消炎剤・その他軟膏
小児科:
114 枚
25 件
皮膚科:
345 枚
79 件
2) 免疫抑制剤処方数
①小児科:全処方数 2
処方せん枚数:2 枚
件数:1 人
性別:男子
・プロトピック 0.03%小児用:2
②皮膚科:全処方数 34
処方せん枚数:32 枚
件数:10 人
・プロトピック 0.03%小児用:14
・プロトピック 0.1%:20
3)副腎皮質ホルモン製剤の処方実態
3-1)・2) 医薬品別処方数、件数
【小児科】
-ステロイド外用-
処方せん枚数:90 枚
件数:23 人(男性:9 人 女性:14 人・・・男性:女性≒1:1.56)
乳児:2 人(男児)
2
医薬品別処方数、件数、ランク、割合は表 1 のようになった。
表 11)
医薬品名
1.アンテベート軟膏 0.05%
処方数
件数(人) ランク
割合(%)
1
1
1.33
very
strong
2.リンデロン V ローション 0.12%
1. 7
2. 4
3. 9.33
strong
3.ボアラ軟膏 0.12%
16
4
4.ボアラクリーム 0.12%
1
1
1.33
5.ロコイド軟膏 0.1%
10
2
13.33
6.キンダベート軟膏 0.05%
21
5
29.2
16
4
7.キンダベート軟膏 0.05%
mix
medium
21.33
21.33
4. 8.アルメタ軟膏 0.1%
5. 1
6. 1
7. 1.33
8. 9.アルメタ軟膏 0.1%
9. 1
1
1.33
合計
74
-経皮複合消炎剤(合剤)
処方せん枚数:45 枚
件数:12 人
医薬品別処方数、件数、割合は表 2 の結果になった。
表2
医薬品名
処方数
件数(人)
割合(%)
1.リンデロン VG 軟膏 0.12%
37
10
82.2
2.リンデロン VG 軟膏 0.12% mix 2
1
4.44
3.リンデロン VG ローション
2
13.3
合計
6
45
平成 22 年 1 月から、12 月までの 1 年間の処方せんから無作為に処方せんを抽出
し集計を行った(表 1)。件数は女性の方が多かった。ただし、乳児(生後 1 歳未満)1)2
人はすべて男児であった。
外用剤では、軟膏のみで処方数が多い順に、キンダベート軟膏 0.05%(クロベタ
ゾン酪酸エステル)、キンダベート軟膏 0.05% mix、ボアラ軟膏 0.12%(デキサメタ
ゾン吉草酸エステル)、ロコイド軟膏 0.1%(ヒドロコルチゾン酪酸エステル)、アン
テベート軟膏 0.05%であり、ランクの低いものの処方割合が高かった。
経皮複合消炎剤(合剤)では、リンデロン VG 軟膏 0.12%(吉草酸ベタメタゾン・硫
3
酸ゲンタマイシン)が最も多く、外用剤と比較しても最も処方数が多かった(表 2)。
又、プロトピック 0.03%小児用を使用した患者は一人であり、処方された当時は
十代半ばであった。
【皮膚科】
●-ステロイド外用剤-処方せん枚数:230 枚 件数:58 人(男性:31 人,女性:27
人)
医薬品名、処方数、件数、ランク、割合は表 3 の結果になった。
表 3-11)
医薬品名
処方
数
件数(人)
ランク
割合
1.ジフラ-ル軟膏 0.05%
15
4
2.アンテベート軟膏 0.05%
54
14
3.アンテベート軟膏 0.05%mix
25
8.04
4.アンテベートクリーム 0.05%
3
0.96
5.アンテベートローション 0.05%
24
7.72
6.ネリゾナ軟膏 0.1%
12
3.86
7.ネリゾナ軟膏 0.1%mix
1
0.32
7.ネリゾナユニバーサルクリーム 0.1% 3
0.96
(%)
strongest
4.85
17.36
8.ネリゾナソリューション
14
9.マイザー軟膏 0.05%
12
10.マイザー軟膏 0.05%mix
2
0.64
11.スチブロン(=マイザー)
1
0.32
12.スチブロン(=マイザー)mix
1
13.フルメタ軟膏 0.1%
14
4.50
14.フルメタローション 0.1%
3
0.96
15.リンデロン V ローション
25
8.04
16.ボアラ軟膏 0.12%
12
3.86
17.ボアラ軟膏 0.12%mix
4
18.ボアラクリーム 0.12%
12
4
very
strong
strong
4.50
3.86
1.29
3.86
表 3-21)
医薬品名
処方
数
19.デルモゾール軟膏 mix
2
件数(人)
ランク
割合(%)
strong
0.64
20.プロパデルム軟膏 0.025% 1
0.32
21.ロコイド軟膏 0.1%
3
0.96
22.ロコイド軟膏 0.1%mix
18
5.79
23.ロコイドクリーム 0.1%
13
24.キンダベート軟膏 0.05%
26
25.キンダベート軟膏
7
2.25
2
0.64
10
medium
4.18
8.36
0.05%mix
26.アルメタ軟膏 0.1%
合計
309
●-経皮複合消炎剤(合剤)
処方せん枚数:14 枚
件数:6 人
医薬品名、処方数は表 4 の結果であった。
表4
医薬品名
処方数
1.ゼスタッククリーム(コルチコ軟膏)
6
2.オイラックス H(副腎皮質合剤)
1
3.リンデロン VG 軟膏 0.12%
1
4.リンデロン VG ローション
7
●-ステロイド内服-
処方せん枚数:14 枚
件数:6 人
医薬品名、処方数は表 5 の結果であった。
表5
医薬品名
処方数
1.プレドニン錠 5mg
31
2.プレドニゾロン錠 5mg
10
5
●-免疫抑制剤-
処方せん枚数:41 枚
件数:12 人
医薬品名、処方数は表 6 の結果であった。
表6
医薬品名
処方数
1.プロトピック軟膏 0.03%小児用
14
2.プロトピック軟膏 0.1%
20
医薬品名
処方数
1.ネオーラル 10mg カプセル
12
2.ネオーラル 25mg カプセル
2
3.ネオーラル 50mg カプセル
15
3-3)ステロイド外用剤の各レベルにおける年齢別処方割合
ステロイド外用剤・軟膏における処方数上位 3 位についての年齢別処方割合は下記
の結果であった。
1 位:アンテベート軟膏 0.05%
処方数:54
件数:14 人
表7
生年月(年齢)
処方数
生年月(年齢) 処方数
生年月(年齢) 処方数
昭和 7(76)
5
昭和 27(58)
7
昭和 59(26)
8
17(66)
1
27(58)
2
60(25)
1
22(61)
4
43(42)
10
23(60)
1
47(38)
9
23(60)
1
48(37)
3
24(59)
1
52(33)
1
6
2 位:キンダベート軟膏 0.05%
処方数:26
件数 10 人
表8
生年月(年齢)
処方数
生年月(年齢)
処方数
昭和 17(66)
1
昭和 46(39)
1
18(67)
1
48(37)
1
27(58)
1
59(26)
9
27(58)
1
43(42)
1
43(42)
8
平成 22(0)
2
3 位:ジフラ-ル軟膏 0.05%
処方数:15
件数:4 人
表9
生年月(年齢)
処方数
生年月(年齢)
処方数
昭和 7(76)
4
昭和 57(28)
4
27(58)
3
47(38)
4
平成 22 年 1 月から、12 月までの 1 年間の処方せんから無作為に抽出し集計を行
った。件数は男性と女性でほぼ同じであり、性差は認められなかった。
ステロイド外用剤では、軟膏のみで mix を除いて処方が多い順に、アンテベー
ト軟膏 0.05%、キンダベート軟膏 0.05%、ジフラ-ル軟膏 0.05%であり、小児に
おける処方と比較してより強力なステロイド製剤が処方されている。
更に、処方数が上位の 3 種類のステロイド製剤において、それぞれを年齢別に
みてみると、次のような結果になった。
1.アンテベート軟膏 0.05%:30 代での処方が最も多く、40,50 代、20 代、60 代、
70 代と続いた。
2.キンダベート軟膏 0.05%:20 代 40 代の処方が最も多く、続く 30 代、50 代、
60 代は同じ処方数であった。
3.ジフラ-ル軟膏 0.05%:20,30,70 代が同数で、これに 50 代が続いた。
ステロイド外用剤が処方された患者のうち、20 代は 4 人であった。このうち 3
人が上位の 3 種類のステロイド製剤の何れかを処方されており、残る一人も、アン
テベート軟膏とヒルドイドソフトの mix、アンテベートローションが処方されてい
た。又、ジフラ-ルの処方が上位の 20 代と 30 代の患者では、プロトピック軟膏
0.03%の処方も見られた。
7
4.ケース・スタディー
【小児科】
ケース1
2歳 女
平成22年2月
① インタール細粒10%
②
③
④
1g
1日3回毎食前
キンダベート軟膏0.05%
40g
ヒルドイドと重ねて
1日2~3回掻きこわすところ、発赤ある
ところ塗布
ヒルドイドソフト軟膏0.3%
200g
1日2~3回かさつくところ全体に塗布
ザーネ軟膏0.5% 5000単位
100g
1日2~3回手足・体・かさつくところ
掻くところに塗布
同年3月
①
②
③
④
⑤
インタール細粒10%
1g
1日3回毎食前
キンダベート軟膏0.05%
40g
ヒルドイドと重ねて
1日2~3回掻きこわすところ、発赤ある
ところ塗布
ヒルドイドソフト軟膏0.3%
200g
1日2~3回かさつくところ全体に塗布
ザーネ軟膏0.5% 5000単位
100g
1日2~3回手足・体・かさつくところ
掻くところに塗布
キンダベート軟膏0.05%
10g
ヒルドイドソフト軟膏0.3%
25g
ザーネ軟膏0.5% 5000単位
10g
1日2~3回症状部に塗布
8
<処方薬の詳細>1)
・インタール細粒10%(クロモグリク酸ナトリウム)
抗アレルギー薬
適応:食物アレルギーに基づくアトピー性皮膚炎
・キンダベート軟膏0.05%(酪酸クロベタゾン)
適応:アトピー性皮膚炎(乳幼児湿疹を含む),顔面,頚部,腋窩,陰部におけ
る湿疹・皮膚炎
・ヒルドイドソフト軟膏0.3%(ヘパリン類似物質)
適応:血行障害に基づく疼痛と炎症性疾患
・ザーネ軟膏0.5%
5000単位(ビタミンA)
適応:角化性皮膚疾患
<考察>
皮膚疾患は、日本皮膚科学会により作成されたアトピー性皮膚炎診療ガイドライ
ンが基本となり、ガイドラインの「アトピー性皮膚炎の定義・診断基準」を熟知し
たうえで診断される2)。また、皮疹の重症度は、皮疹の症状から総合的に判断され
る「個々の皮疹の重症度」に応じた外用薬が選択される2)(表10)。
表10
皮疹の重症度とステロイド外用薬の選択2)
皮疹の重症
外用薬の選択
高度の腫脹/浮腫/浸潤ない
し苔癬化を伴う紅斑,丘疹
の多発,高度の鱗屑,痂皮
の付着,小水疱,びらん,
必要かつ十分な効果を有するベリ
ーストロングないしストロングク
ラスのステロイド外用薬を第一選
択とする.痒疹結節でベリーストロ
多数の掻破痕,痒疹結節な
どを主体とする
ングクラスでも十分な効果が得ら
れない場合は,その部位に限定して
ストロンゲストクラスを選択して
使用することもある
中等症
中等度までの紅斑,鱗屑,
尐数の丘疹,掻破痕などを
主体とする
ストロングないしミディアムクラ
スのステロイド外用薬を第一選択
とする
軽症
乾燥および軽度の紅斑,鱗
屑などを主体とする
ミディアムクラス以下のステロイ
ド外用薬を第一選択とする
軽微
炎症症状に乏しく乾燥症状
主体
ステロイドを含まない外用薬を選
択する
重症
9
本患者は、ミディアムクラスのキンダベート軟膏0.05%を処方されていることか
ら、表10をふまえると、この時期の症状は軽症であると考えられる。更に、一カ月
後にミディアムクラスのキンダベート軟膏0.05%、ヒルドイドソフト軟膏0.3%、ザ
ーネ軟膏0.5%のmixが処方されていることから、症状が悪化し中等症よりになった
か、中等症だが、2歳ということもあり、すぐにストロングの処方をせずに様子を
見たものと思われる。
ケース2
平成 22 年 3 月
同年 3 月
同年 4 月
同年 4 月
15歳
男
①インタール吸入液 1%2mL 20 菅
咳があるときは 1 日 3~4 回で
②アレジオン錠 20
20mg
1回1錠
1 日 1 回朝食後
③シングレアチュアブル錠 5mg
1回1錠
1 日 1 回就寝前
④リンデロン‐VG 軟膏 0.12%
1 日 3 回かきこわすところに塗布
①プロトピック軟膏 0.03%小児用
1 日 2 回顔に塗布
10g
①プロトピック軟膏 0.03%小児用
1 日 2 回顔に塗布
15g
①インタール吸入液 1%2mL
10
35 日分
30g
28 菅
咳があるときは 1 日 3~4 回
1 日 2 回 1 回 1ml 吸入
②アレジオン錠 20
20mg
1回1錠
1 日 1 回朝食後
③シングレアチュアブル錠 5mg
1回1錠
1 日 1 回就寝前
④リンデロン‐VG 軟膏 0.12%
1 日 3 回かきこわすところに塗布
⑤キンダベート軟膏 0.05%
1 日 2~3 回症状部に塗布
35 日分
28 日分
28 日分
30g
30g
<処方薬の詳細>1)
・インタ-ル吸入液 1%2mL(クロモグリク酸ナトリウム)
適応:気管支喘息
・アレジオン錠 20 20mg(塩酸エピナスチン)
適応:気管支喘息,アレルギ-性鼻炎,湿疹・皮膚炎
・シングレアチュアブル錠 5mg(モンテルカストナトリウム)
適応:気管支喘息
・リンデロン‐VG 軟膏 0.12%
適応菌種:ゲンタマイシン耐性菌
適応症: 湿潤,びらん,結痂を伴うか、2 次感染を併発している湿疹・皮膚炎
群
・キンダベート軟膏 0.05%
適応:アトピー性皮膚炎(乳幼児湿疹を含む),顔面,頚部,腋窩,陰部における
湿疹・皮膚炎
・プロトピック軟膏 0.03%小児用(タクロリムス水和物)
適応:アトピ-性皮膚炎
<考察>
本患者は気管支と皮膚に症状が現れるタイプのアレルギー体質と思われる。
ここで、皮膚症状に着目し、アトピー性皮膚炎診療ガイドライン 2)のアトピー
性皮膚炎の治療手順に基づき、処方意図について考察する。
処方されているステロイド外用薬に着目すると、strong であるリンデロン VG
軟膏が一年間を通して毎月処方されていることから、本患者の皮疹の重症度は中
等症であると思われる 2)。症状は持続していると考えられるので、寛解維持療法
が行われていると思われる(表 11 より)。
更にプロトピックが処方されていることから、症状が悪化し、落ち着いたとこ
ろで medium のキンダベート軟膏で様子を見たものと思われる。キンダベートは
7 月までリンデロン VG 軟膏と共に処方されている。
処方されているステロイド外用薬のランク、処方期間、免疫抑制剤が処方され
ていることを合わせると、本患者の皮膚症状は難治化していると考えられる。
11
表 11
アトピー性皮膚炎診療ガイドライン 2)
確実な診断
原病歴・既往歴,罹患範囲や重症度の評価(患者および家族の精神的苦痛も含め
て),治療ゴールの説明
⇓
保湿性外用剤,外用法の具体的な説明,適正使用へ向けての患
者教育
⇑
寛解
(なんら徴侯や症状
がない)
⇑
増悪
⇔
軽快
寛解導入療法
痒みや炎症をすみやかに
軽減する
・ステロイド外用薬
・タクロリムス軟膏
⇕
寛解維持療法
(症状が持続、あるいは頻回に再燃を繰り返す場合)
・再燃の徴侯が現れたら、症状の拡大増悪を防止するために早
期のタクロリムス軟膏を使用する
・ステロイド外用薬は、悪化した症状に応じて間欠的に使用す
る
合併治療薬
・細菌感染治療:
抗菌薬の内服
あるいは外用
・ウイルス感染治
療:
抗ウイルス薬
の内服あるい
は外用
*1
保
湿
性
外
用
薬
の
継
続
*1)
補
助
療
法
⇕
重症・最重症・軟治性状態
・ランクの高いステロイド外用薬
・シクロスポリン内服
・ステロイド内服
・紫外線療法
・心身医学的療法
抗ヒスタミン薬・抗アレルギー薬の内服、増悪因子の除去、心身医学的療法
12
【皮膚科】
ケース 1
平成 22 年 10 月
28 歳
女
①アンテベート軟膏 0.05%
100g
ヒルドイドソフト軟膏 0.3%
100g
1 日 2 回体に塗布
②アレグラ錠 60mg
2T
60 日分
1 日 2 回朝・夕食後服用
③プロトピック軟膏 0.03%小児用
15g
1 日 2 回顔に塗布
④ジフラ-ル軟膏 0.05%
1 日 2 回手に塗布
⑤アクアチムクリーム 1%
1 日 2‐3 回にきびに塗布
25g
10g
<処方薬詳細>1)
・アンテベート軟膏 0.05%(酪酸プロピオン酸ベタメタゾン)
適応:湿疹・皮膚炎群
・アレグラ錠 60mg(塩酸フェキソフェナジン)
適応:気管支喘息、アレルギー性鼻炎、蕁麻疹、湿疹・皮膚炎
・プロトピック軟膏 0.03%小児用(タクロリムス水和物)
適応:アトピー性皮膚炎
・ジフラ-ル軟膏 0.05%(酢酸ジフロラゾン)
適応:湿疹・皮膚炎群
・アクアチムクリーム 1%(ナジフロキサシン)
適応菌種:本剤感受性のブドウ球菌属、アクネ菌
適応症:表在性皮膚感染症、深在性皮膚感染症
<考察>
本患者では、strongest のジフラ-ルと very strong のアンテベートと、ランク
の高いステロイド製剤が処方されているため、皮疹の重症度は重症であると思われ
る 2)(表 10 参照)
又、プロトピック軟膏が処方されていることから、顔にも皮膚症状がおよび、再
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燃を繰り返しているものと思われる(表 11)。
1 年を通して処方の流れを見てみると、2 か月、3 か月おきに、ジフラ-ル、ア
ンテベート、プロトピックが処方されている。この状況から、本患者は皮膚症状が
難治化しているものと思われる。
ケース 2
平成 22 年 10 月
30 歳
男子
皮膚科
①マイスリ―錠 5mg
1T
14 日分
1 日 1 回就寝前服用
②ネオーラル 50mg カプセル
2C
14 日分
1 日 2 回朝・夕食直前服用
③プロトピック軟膏 0.1%
10g
1 日 2 回顔に塗布
④アンテベート軟膏 0.05%
50g
ヒルドイドソフト軟膏 0.3%
50g
1 日 2 回大幹、四肢に塗布
同年 10 月
心療科
①サインバルタンカプセル 30mg
1 日 1 回就寝前服用
同年 12 月
心療科
①マイスリ―錠 5mg
1 日 1 回就寝前服用
同年 12 月
2C 7 日分
2C
14 日分
皮膚科
①アンテベート軟膏 0.05%
50g
ヒルドイドソフト軟膏 0.3%
50g
1 日 2 回大幹、四肢に塗布
②アンテベートローション 0.05%
30g
1 日 2 回頭部に塗布
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<処方薬詳細>1)
・マイスリ―錠 5mg(酒石酸ゾルピデム)
適応:不眠症
・ネオーラル 50mg カプセル(シクロスポリン)
適応:アトピーセ性皮膚炎
・プロトピック軟膏 0.1%(タクロリムス水和物)
適応:アトピー性皮膚炎
・アンテベート軟膏 0.05%(酪酸プロピオン酸ベタメタゾン)
適応:湿疹・皮膚炎群
・ヒルドイドソフト軟膏 0.3%(ヘパリン類似物質)
適応:血行障害に基づく疼痛と炎症性疾患
・サインバルタカプセル 30mg(デュロキセチン塩酸塩)
適応:うつ病、うつ状態
<考察>
本患者では、ネオーラルが処方されていることが特徴的である。皮膚症状が、重
症、最重症、軟治性状態にある場合の治療指針は、ランクの高いステロイド外用薬、
シクロスポリン内服、ステロイド内服、紫外線療法、心身医学的療法である 2)。
本患者は、very strong のアンテベート、シクロスポリンが処方されていること
から、皮疹の重症度は重症であると思われる 2)。又、皮膚科と同時に心療科を受診
し、マイスリ―、サインバルタが処方されていることから、何らかの理由でうつ状
態にあるものと思われ、心身医学的療法も同時に受けているものと推測することが
出来る。
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5.おわりに
今回の研究では、調査対象となった患者のほとんどにおいて同じステロイド処
方が続き、medium 以上のランクの高いステロイド製剤が処方されていることが特
徴的であった。
また、処方をガイドラインに照らし合わせてみると、ランクが高いステロイド製
剤で同じ処方が続いている患者は、皮膚症状が難治化した状態にあると推測された。
ここで、今日の皮膚疾患の診断基準とされている、日本皮膚科学会がまとめたガ
イドラインについて、このガイドラインは、皮膚科診療を専門とする医師を対象と
したものであり 3)、基本的にはガイドライン作成がなされるまでの治療法をまとめ
たものである 4)。又、ステロイド外用剤の長期使用による依存、リバウンドについ
ての記述がないなどの不十分な点が見られる 5 )という、皮膚科専門医の指摘がある。
よって、処方手順がガイドラインに従っているからといって、必ずしもステロイ
ド製剤の適正使用がなされているとは言い難い状況にあるものと思われ、ステロイ
ド製剤の長期使用による依存やリバウンドが患者の皮膚症状の難治化に関係して
いる可能性があるものと思われた。
この様な状況のなかで、薬剤師は服薬指導時において、患者への安心感の提供、
精神的サポートや生活上のアドバイスをすると同時に、患者の様子をよく観察する
ことで、患者の皮膚症状が難治化する前に、何らかの手を打つことが出来るのでは
ないかと思われる。
謝 辞
この度本研究を遂行するにあたりご協力頂きました、市民調剤薬局の皆様に深く
感謝申し上げます。
引
用
文
献
1)高久史麿,矢崎善男(監修),北原光夫,上野文昭,越前宏俊(編) 治療薬マニュアル
2008.2010 医学書院
2)日本皮膚科学会アトピー性皮膚炎診療ガイドライン作成委員会 古江増隆 佐伯
秀久 古川福実 秀道広 大槻マミ太郎 片山一朗 佐々木りか子 須藤一 竹
原和彦 日本皮膚科学会アトピー性皮膚炎診療ガイドライン,
日誌会皮:119(8),1524-1529(2009)
3)石川治(編) 皮膚科診療ゴールデンハンドブック, 南江堂322(2007)
4)佐藤健二 患者に学んだ成人型アトピー治療 -脱ステロイド・脱保湿療法-,
つげ書房新社, 208(2009)
5)深谷元継 ステロイド依存 Steroid Addiction 2010,特定非営利活動法人
ビジランスセンター, 3(2010)
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医薬