No.99 2015年3月号

CONTENTS
§筑豊小児科医会のご案内・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・1
§小児科医会報告・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・1
§飯塚病院月間診療のまとめ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・3
§地域連携ささえあい小児診療・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・4
§今月の TOPICS ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・4
§異動のお知らせ ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・6
§筑豊小児科医会のご案内
■第 263 回
●日
時:2015 年 3 月 12 日(木)
●場
所:のがみプレジデントホテル
総会:午後 6:45~7:00
一般講演:午後 7:00~7:30
1.「小児重症感染症事例報告」
飯塚病院 家庭医コース 後期研修医 西岡 慧
2.「小児等在宅連携拠点事業」について
飯塚病院 小児科 岩元 二郎
特別講演:午後 7:30~8:30
「小児の成人期移行医療-小児がんをモデルにして」
愛媛県立中央病院 小児医療センター長
石田 也寸志 先生
*講演会終了後は意見交換会があります。
■第 264 回
●日
時:2015 年 4 月 23 日(木)午後 7 時
●場
所:のがみプレジデントホテル
北九州市小倉でご開業の吉田ゆかり先生をお招きし、虐待予防を目的とした北九州市の
取り組みをご紹介して頂く予定です。
§小児科医会報告
~第 261 回~
■ 第 261 回
(「発達障害児を科学する」-バイオマーカー・睡眠からのアプローチ-
久留米大学 小児科 教授
松石 豊次郎 先生)
平成 17 年 4 月に発達障害者支援法が定められ、自閉症(広汎性発達障害またはアスペルガー症候群)、
学習障害、注意欠如多動性障害、その他として発達性協調運動障害などの 4 つが発達障害と指定された。
これらは主に国際分類としての DSM-Ⅳに準拠した分類であった。そして今回の DSM の改定により DSM-5
では、広汎性発達障害(PDD)は自閉症スペクトラム症(ASD)に、注意欠陥多動性障害(AD/HD)は、英
語表記は AD/HD と変わらないものの日本語名が注意欠陥多動症に、学習障害(LD)は限局性学習症に変
更となった。
1
○AD/HD(注意欠如/多動症)
最も多い小児の発達障害で小児全体の 3~7%を占める。不注意と多動性と衝動性が 3 主徴で、不注意
優勢タイプは女児に多く、見逃されやすい。遺伝的素因が強く(8 割は遺伝的に決定)、小児期に AD/HD
と診断された 40~80%が成人期へのトランジションがあると言われている。そして AD/HD の特徴として
学習障害(LD)や反抗挑戦性障害、行為障害、抑うつ、慢性チック、夜尿症などの併存障害を持つ子が
多い。AD/HD の診断は(1)意優勢型(9 項目の内 6 つ以上が 6 か月以上持続)、(2)多動-衝動性優勢型
(9 項目の内 6 つ以上が 6 か月以上持続)、
(3)混合型 の 3 つに分けられる。男児に多く、女児の 3~5
倍、7 歳以前に存在し、2 つ以上の場所(学校または職場と家庭)で障害が確認される必要がある。
○ASD(自閉症スペクトラム症)
DSM-Ⅳの広汎性発達障害では、自閉性障害(いわゆるカナータイプ)、レット症候群、小児崩壊性障害、
アスペルガー症候群、特定不能 PDD(PDDNOS)とされていたが、DSM-5 ではレット症候群は自閉症から除
外。小児崩壊性障害とアスペルガー症候群、PDDNOS は下位診断から除外された。知的障害の程度に関わ
らず、一連のもの(スペクトラム)として捉えようと ASD という概念に変更となった。ASD の頻度は小
児全体の 1~2.2%で、
「社会性の障害」と「コミュニケーションの障害」、「想像力の障害とこだわり行
動」の 3 つが診断のポイントであるが、感覚の過敏性(光や音に過剰に反応)や鈍麻(痛みに鈍感)な
どがあるのも特徴である。また知的機能にアンバランスがみられ、計算力や記憶力などある特異な能力
が突出していたり、視覚情報としてのひらがなや数字を早くから覚えてしまうという能力もある。日常
生活としては、睡眠障害(入眠困難や中途覚醒など)や偏食の問題も特徴としてあげられる。
DSM-Ⅳでは、AD/HD と PDD では多動衝動性などの類似の症状があれば PDD を優先した診断になってい
たが、DSM-5 では AD/HD と ASD の併存は認めるとしている。
○薬物療法の効果
AD/HD の治療薬としてメチルフェニデート(商品名コンサータ)とアトモキセチン(商品名ストラテ
ラ)があるが、薬物療法の効果は多くの研究で、70~80%はあると言われている。薬物療法で改善する
のは、多動や注意の持続時間、指示に従うこと、親や友人との人間関係、課題や宿題をこなす能力、字
がきれいになるなど。読解力や社会性、学習障害、理解や思考力を伴う学力に関しては、薬物療法でも
変わらないとされている。薬が効く=AD/HD という訳でないので注意する必要がある。
○発達障害の疫学・背景
発達障害の子ども疫学調査として、文部科学省が実施した小中学校の通常学級の全国調査(2012 年、
教師への質問紙調査で回収率が 97%)で、学習面または行動面で著しい困難があるとしたのが 6.5%あ
ったという。久留米市での調査では、この 10 年間で発達障害児が 3~5 倍に増加したとの報告がある。
発達障害児が増加している背景には、医療要因として平成 21 年以降、診断が徹底されたことによる増
加と社会要因として給付金や学校の体制の整備によることがある。これらは見かけ上の増加と思われる
が、真の増加の背景としては生物学的要因を抜きしては考えられない。環境がエピジェネティクスに影
響を与え、脳の遺伝子を変化させて脳の機能に異常を引き起こすというものである。低栄養や薬物、環
境化学物質、精神的ストレスが正常な遺伝をメチル化して異常な遺伝子が ON の状態になったものである。
早産低出生体重児が、正期産出生時よりも将来的に発達障害を来たしやすいことも言われているが、胎
内環境の脳の未熟性が要因と示唆されている。早産低出生体重児は AD/HD の危険リスクである。
○発達障害児の睡眠
ASD の睡眠の問題として、入眠困難や睡眠時間の短縮、睡眠に対する不安、中途覚醒、パラソムニア
(夢中遊行、夜驚や夜尿など)などがある。睡眠が短いと社会性の問題、コミュニケーション、常同行
2
為が起こりやすくなるとの報告もある。脳の松果体でのメラトニン濃度の低下が関与すると言われてい
る。
AD/HD の睡眠に関しても閉塞性睡眠時無呼吸症候群(OSAS)の合併で ADHD の症状や攻撃性が増すこと
も指摘されている。AD/HD と睡眠時の呼吸には密接な関係がある。発達障害児の睡眠は年齢が増すに従
って悪化し、睡眠障害があるほど成績も悪い。子どもの睡眠と親の睡眠に有意な相関関係があるとされ
ている。
§飯塚病院月間診療のまとめ
●入院患者数
145人
《2015年1月》
●外来患者数
●新生児センター入院患者数
2,299人
25人
●分娩件数
●救命救急センター受診者数
1,538人
56件
●主要疾患数(退院患者数;121 人)
痙攣及びてんかん
新生児呼吸障害・心血管障害
急性胃腸炎
その他
25
7
2
39
肺炎・気管支炎
喘息
急性上気道感染症
●紹介件数 113件
(件)
① すどうクリニック
7
② 有松病院
5
ひじい小児科クリニック
④ 青山医院
飯塚市保健センター
5
4
4
栗原小児科内科クリニック 4
こどもクリニックもりた
4
ささきこどもクリニック
4
社会保険田川病院
4
弥永内科小児科医院
4
3
21
5
1
低出生体重児
高ビリルビン血症及び黄疸
腸重積・腸閉塞
17
3
1
§地域連携ささえあい小児診療
地域連携ささえあい小児診療スケジュール
■2015 年 3 月・4 月
3月
4月
3月3日 火
宮田医院
甲斐丈士
4月2日 木
津川診療所 津川 信
3月5日 木
田中医院
田中祥視
4月7日 火
ひじい小児科・アレルギー科
クリニック 肘井孝之
3 月 10 日 火
栗原小児科内科クリニック 栗原 潔 4 月 9 日 木
平野医院
3 月 17 日 火
飯塚病院 漢方診療科 上田晃三
4 月 14 日 火
飯塚病院小児科
4 月 16 日 木
たなかのぶお小児科医院
4 月 21 日 火
ささきこどもクリニック
佐々木宏和
4 月 23 日 木
こどもクリニックもりた 森田 潤
4 月 28 日 火
飯塚病院小児科
4 月 30 日 木
くわの内科小児科医院
3 月 19 日 木
3 月 24 日 火
3 月 26 日 木
やまのファミリークリニック
山野秀文
あざかみこどもクリニック
阿座上才紀
飯塚市立病院
牟田広実
平野義人
岩元二郎
田中信夫
岩元二郎
桑野瑞恵
2015 年 3 月 10 日現在
§今月のTOPICS
今月のトピックスは、2 月 26 日に開催された「福岡県小児等在宅医療連携拠点事業」の事業報告会が
福岡市で開催されました。その概要を紹介します。
○「小児等在宅医療連携拠点事業」とは?
(九州大学 病院総合周産期母子医療センター 落合 正行 先生)
〈背景〉
全国各地で起きたいわゆる「妊産婦たらいまわし事件」を機に、周産期母子医療センターにおける入
院受け入れ体制の課題が明らかとなった。それは医師不足や新生児集中治療室(NICU)の病床不足だけ
でなく、後方支援病床と在宅支援体制の不足が挙げられ、人工呼吸などの集中治療を有する児が長期間
入院せざるを得ない状況があるといえる。より重篤な新生児を診療するセンターにおいて、集中治療と
並行して在宅支援体制の整備が求められている。
小児の場合、在宅医療の対象の患者数は成人と比べると極めて少なく、地域の中に広範に点在してい
るものの、医療的ケアの密度は高く、その介護に関わる家族、特に母親の負担は甚大なものである。小
児等在宅医療は、こども病院、大学病院、中核病院といった大規模な病院もしくは重症心身障害児施設
が担っていることが多く、地域の診療所や小児患者に対して訪問看護を提供する訪問看護事業所は少な
いのが現状。更に小児等在宅医療への取り組みの地域差は大きく、患児を支える体制が不十分な地域も
あり、国は体制整備を都道府県主体で取り組む必要性があると判断し拠点事業が始まった。
〈国策としての拠点事業〉
小児等在宅医療の支援体制に対しては、平成 24 年度に厚生労働省が「在宅医療連携拠点事業」を提示。
平成 25 年度に 7 都県(群馬、埼玉、千葉、東京、長野、三重、長崎)でモデル事業として国から委託さ
れた。平成 26 年度からは神奈川県と福岡県も加わり、福岡県では九州大学と北九州市立総合療育センタ
ーが委託を受けて事業を展開している。
4
〈拠点事業としての 6 つのタスク〉
① 小児等の在宅医療が抱える課題の抽出と対応方針の策定
② 地域の医療・福祉・教育資源の把握と活用
③ 地域の小児等への在宅医療資源の拡充と専門機関との連携
④ 地域の福祉・行政関係者との連携促進
⑤ 患者・家族の個別支援(コーディネーター機能の確立)
⑥ 患者・家族や学校関係者等への理解促進・負担軽減
以上の 6 つのタスクに基づいての課題の抽出と具体的な計画立案と実施を行うことが拠点事業として
拠点病院に課せられた任務である。
○小児等在宅医療に関わる医療資源調査結果
(福岡県小児等在宅医療連携拠点事業部 看護師 野母 ゆか里 氏)
〈アンケート調査〉
拠点病院として九州大学病院の拠点事業部では、福岡県内の「小児在宅医療に関わる医療資源調査」
を平成 26 年 10 月から平成 27 年 1 月にかけて行った。アンケート送付先と回答率は周産期母子医療セン
ター(12 施設で 100%)、中核病院小児科(36 施設で 50%)
、在宅療養支援病院(54 施設で 24%)、小児
科診療所(777 施設で 33%)、在宅療養支援診療所(664 施設で 26%)、訪問看護ステーション(355 施
設で 74%)、行政(60 機関で 68%)であった。
〈在宅療養児と在宅指導管理料〉
在宅療養児とは 18 歳未満の小児で基礎疾患は問わないものとし、以下のいずれかの指導管理料を算定
しているものとした。
・在宅人工呼吸指導管理料
・在宅気管切開患者指導管理料
・在宅小児経管栄養法指導管理料
または
在宅成分栄養経管栄養法指導管理料
・在宅中心静脈栄養法指導管理料
今回のアンケートの結果、実際の指導管理料の算定状況として最も多いのが小児経管栄養で、次いで
人工呼吸、気管切開、成分経管栄養、中心静脈栄養の順であった。
〈周産母子センター〉
福岡県下には 12 カ所の周産期母子医療センター(青字は“総合”周産期母子医療センター、他は“地
域”周産期母子医療センター)が設置されている。福岡地区に 5 カ所(九州大学病院、福岡大学病院、
福岡市立こども病院、九州医療センター、福岡徳洲会病院)、北九州地区 4 カ所(産業医科大学病院、北
九州市立医療センター、国立病院機構小倉医療センター、JACO 九州病院)、筑後地区に 2 カ所(久留米
大学病院、聖マリア病院)、筑豊地区に 1 カ所(飯塚病院)ある。
平成 26 年 6 月現在で、6 ヶ月以上入院している長期入院児は県全体で 21 名おり、うち 5 名は在宅医
療への家族の受け入れ体制の不備や患者の病状が不安定もしくは重症のため退院の目処が立っていない
児である。院内レスパイトを実施している病院は 12 病院中 3 施設であり、条件が整えば実施したいとい
う病院が 4 施設、今後もできないと回答した病院は 5 施設であった。
○在宅療養支援診療所、小児科診療所
在宅療養児の外来受入状況は福岡地区 25%(41/165 施設)、北九州地区が 23%(19/84 施設)、筑後
17%(14/84 施設)、筑豊 19%(4/21 施設)の順であった。外来受入が可能となる条件としてはスタッ
5
フの経験、基礎疾患を有している中核病院との連携、訪問看護ステーションとの連携、地域保健師や相
談支援専門員との連携の順であった。
実際に訪問診療を行っている施設は福岡地区 11%(21/185 施設)、北九州地区が 10%(9/94 施設)、
筑後 5%(5/93 施設)、筑豊 4%(1/24 施設)の順であった。訪問診療が可能となる条件としては時間的
余裕、基礎疾患を有している中核病院との連携、地域中核病院との連携(入院対応や連絡)
、訪問看護ス
テーションとの連携、医師や看護師の増員の順であった。
診療所の取り組みとしては、福岡地区で日中一時預かり 7 施設、レスパイト 3 施設、デイサービス 3
施設。北九州地区では日中一時預かり 3 施設、レスパイト 2 施設、デイサービス 2 施設。筑後地区では
日中一時預かり 2 施設、レスパイト 1 施設、デイサービス 0 施設。筑豊地域では日中一時預かり 0 施設、
レスパイト 0 施設、デイサービス 0 施設。
医療機関の今後の課題としては、各医療機関の体制整備、医療機関同士の連携強化、訪問看護ステー
ションや介護事業所との連携、行政の方針・対応、地域の医療機関の在宅療養への意識・姿勢の問題が
挙げられた。
○訪問看護ステーション
県内の 355 の訪問看護ステーションのうち回答があったのが 261 施設(73.5%)であった。小児在宅
の訪問看護が実際に対応可能な施設は 46.7%、対応困難な施設が 45.6%とほぼ半々であった。対応困難
な理由としては、多い順に小児看護経験がない、マンパワー不足、小児看護知識がない、緊急時に対応
できない、であった。在宅療養児の訪問看護導入と拡大の条件としては、人員の確保、在宅療養児の基
礎疾患に関する勉強会、技術指導、看護に関する勉強会、小児在宅医療に関する勉強会・講習会の順で
あった。
§
異動のお知らせ
毎年新年度を期に、医局員の大幅な入れ替わりがあります。3月31日付けで松石登志哉医師と石原潤医
師、斎木玲央医師が、4月15日付けで廣瀬彰子医師と古賀木綿子医師、嶽間沢昌史医師の6名が退職しま
す。また、4月より6名の医師が赴任します。新任医師は6月号で紹介する予定です。
飯塚病院 〒820-8505 飯塚市芳雄町 3-83 TEL0948-22-3800(代) http://aih-net.com/
Vol.99 発行日/2015 年 3 月 10 日 発行/飯塚病院 小児科
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