プレストレストコンクリート技術協会 第20回シンポジウム論文集(2011年10月) 〔論文〕 凍結防止剤で劣化したコンクリートの電気防食に関する実験的検討 ㈱ピーエス三菱 正会員 工博 ○石井 浩司 ㈱ピーエス三菱 正会員 工修 鴨谷 知繁 ㈱ピーエス三菱 正会員 工博 青山 敏幸 Abstract:The concrete sutructures in snowfall and cold districts are under severe environmental conditions. In addition, the chloride anti-freezing agents, like CaCl2 and NaCl, have been sprayed onto the road surface for winter road management purposes. Consequently, there are some greater concern regarding concrete damages caused by the freezing and thawing, salt permeating into concrete as well as in coastal areas. The snow-melted water contaminated antifreezing agents leaks through expansion joint, the chloride ions ingress into concrete, especially end of concrete girders. The countermeasure around these areas is not establissed. So, this paper discusses the applicability of cathodic protection using sacrificial anode agaist these concern. Key words: Cathodic Protection, Sacrificial Anode, Corrosion, Antifreezing Agent 1.はじめに 積雪寒冷地域では,降積雪と気温の低下により凍結路面が発生する。凍結路面は路面の滑り摩擦低 減による交通事故や交通渋滞の要因となる。1990年代初頭のスパイクタイヤ使用禁止以降,「つるつ る路面」と呼ばれる非常に滑りやすい凍結路面が多く出現するようになり,快適で安全な道路交通確 保を目的として,除排雪,凍結防止剤散布等の冬季路面対策が実施されるようになった。 散布される凍結防止剤の種類にはいろいろあるが,我が国で一般的に使用されているものは塩化カ ルシウムや塩化ナトリウムなどの塩化物が殆どで,国道,高速道路における標準的な撒布量は20~ 40g/m2/回と言われている 1) 。これら塩化物の凍結防止剤は種々の作用でコンクリートを劣化させる。 コンクリート表面の激しいスケーリングとして現れる凍害,アルカリ骨材反応の促進,コンクリート 中の鉄筋の急速な腐食などで一旦,劣化が始まると,それらを完全に抑制することが困難と言われて いる。 散布された凍結防止剤の大半は路面水,融雪水に混じって流出し,一部が自動車等により大気中に 飛散すると言われている。前者の過程で,橋梁等の伸縮装置から一部が漏水して上部工,下部工のコ ンクリート構造物表面に塩化物イオンが付着・浸透する。橋梁では大半がけた端部に凍結防止剤によ る劣化が生じていると報告されている2)。しかし,けた端部は狭隘なスペースで,作業がしづらい場所 である。そのためか,その補修方法に関しての報告は希で,十分に確立されていないのが現状である。 そこで,本研究は凍結防止剤で劣化したPCT桁橋のけた端部の補修方法として流電陽極方式の電気防 食工法の適用性を製作した試験体を用いて実験的に検討したものである。 2.流電陽極方式電気防食の適用と課題 我が国においてコンクリート構造物の電気防食は外部電源方式が主流を占めているが,マクロセル 腐食の抑制や局部的な電気防食に流電陽極方式電気防食の適用性が報告 3)されている。PCT桁のけた端 部のような小さな面積の対象箇所で外部電源方式電気防食を適用した場合にはコストパフォーマンス に課題が残ると考えられる。そこでコストパフーマンスに優れる流電陽極方式電気防食に着目した。 −25− プレストレストコンクリート技術協会 第20回シンポジウム論文集(2011年10月) 〔論文〕 塩化物イオン浸透 PCT桁への流電陽極方式電気防食工法の概要図を 防食電流 図-1に示す。流電陽極の形状は棒状とし,端部横 端部横桁 桁のコンクリートを電解質として主桁端部に防食電 結線材 流を通電させる。ここで検討しておくべき課題は, 主桁 ①流電陽極材の設置間隔,②流電陽極材の深さ方向 の防食範囲,③環境変化が及ぼす防食性能への影響, ④モニタリング手法など,挙げられる。 3.実験概要 3.1 試験体の製作 PCT桁に用いられるPC鋼材,鉄筋,シースの代 わりにφ13mmみがき丸鋼,φ65mmの鋼管を用い 流電陽極材 て試験片とした。鋼材の電気的絶縁を確保したまま 図-1 数本の鋼材(ピース)を塩ビ管を用いて1本に組立 流電陽極方式の概要図 て試験片とした。各鋼材の両端にはリード線を取り 付け流入または流出する電流値を測定できるように するとともに,試験体外部で電気的に一体化させた。 試験片の一部は,5%NaCl水溶液を2回/日,2ケ月間 散布することで腐食させた。クエン酸二アンモニウ 写真-1 ムにより腐食生成物を除去し,腐食量を算出した結 試験片の腐食状況 果,3本の平均値で代表させ 平 面 図 平 面 図 お,腐食させた試験片は後述 Cl = 5 k g / m 3 Cl = 5 k g / m 3 100 1 3 5 塩化物イオンの浸透を模擬し てコンクリート表面から約 100mmの位置まで5kg/m3 の塩 化物イオン 2) を含んだコンク リートとした。 10 0 100 1 C3 280 5 0 18 42 35 3 5 C2 C3 C4 端部横桁部 4 2 35 35 流電陽極材 流電陽極材 端部横桁部 主桁部 主桁部 50 50 50 20 0 C1 ~ C6 1 ~ 7 420 243 C1 また,試験体の端部のコン クリートは凍結防止剤からの C1 S 側 面 図 50 No.とピースNo.で表示される。 1 C2 腐食鋼材 腐食無鋼材 50 を構成するピースは鉄筋位置 2 3 1 2 6 して製造した。製作した試験 験体の概要図を示す。試験片 4 側 面 図 用し,水セメント比を42%と 体は2種類で図-2にその試 5 300 3 4 5 6 シ ー ス ( 内 径 65) (単 位 : m m ) 50 65 強ポルトランドセメントを使 7 2 50 使用したコンクリートは早 1 2 35 0 験片の腐食状況を写真-1に 4 6 45 5@ 4 0 = 2 0 0 クリート中に設置させた。試 105 55 する塩化物イオンを含むコン 示す。 腐食無鋼材 腐食鋼材 Cl = 0 k g / m 3 Cl = 0 k g / m 3 10 5 ると43.4mg/cm2 であった。な 鉄 筋 位 置 NO. 175 a)シリーズⅠ 図-2 −26− 175 350 ピ ー ス NO. b)シリーズⅡ 試験体の概要図 プレストレストコンクリート技術協会 第20回シンポジウム論文集(2011年10月) 試験体に設置した流電陽極材は亜鉛を多孔質のセメント 30 モ ル タ ル で包 ん だ 市 販品 ( φ 29mm× 135mm ) で 平 均 で 20 ように試験体に設置した。 3.2 実験概要 試験はシリーズⅠおよびシリーズⅡに分けて行った。シ リーズⅠはプレテンション方式PCT桁に適用した場合の深 腐食鋼材、Cl- 含入コンクリート マクロセル電流(μA) 300μAを通電できる。流電陽極材は,かぶり20mmとなる 腐食無鋼材、Cl - 無コンクリート 10 0 -10 1 -20 さ方向の防食性能を検討することを目的としている。シリ 6 1 C1 1 6 C2 6 1 6 C3 C4 -30 ーズⅡは,ポストテンション方式PCT桁に適用した場合の 鉄筋位置No. ピースNo. 深さ方向の防食性能の検討を目的としている。 a)シリーズⅠ 試験体は屋内暴露試験に供し,定期的に流電陽極材から 3 無防食状態におけるマクロセル電流 流電陽極材と試験片を閉回路した6日後,測定したマク マクロセル電流(μA) 4 および復極量を測定した。 4.実験結果と考察 C1 5 発生する発生電流量,鋼材に流入する防食電流や鋼材電位, 4.1 〔論文〕 ロセル電流を図-3に示す。マクロセル電流がプラスはピ S C3 2 1 0 -1 1 7 -2 1 2 -3 -4 ースの表面から流出していることを意味し,逆にマイナス C2 1 7 -5 は流入していることを意味する。塩化物イオンを含むコン 鉄筋位置No. ピースNo. クリート中に位置するピースが必ずしも全てがアノードと b)シリーズⅡ なるわけではなく同一環境内においてもアノードとカソー 図-3 マクロセル電流 ドが形成され,さらに,腐食しやすい条件,すなわちコン クリート表層に近く,塩化物イオンを含むコンクリートに 1200 位置するピースがアノードとなる傾向にあった。 1000 防食電流と防食効果 図-4に犠牲陽極から発生する電流の経時変化を示す。 閉回路直後は,1000μA程度の電流が発生していたが30日 後には1/2程度に減少する傾向にあった。これはピースの 発生電流(μA) 4.2 800 シリーズⅡ 600 400 シリーズⅠ 分極性状が改善されることに起因すると考えられる。 閉回路30日後の各ピースに流入する防食電流を測定した 結果を図-5に示す。マクロセル電流と同様にマイナス表 示は,ピースに電流が流入することを意味している。シリ ーズⅠ,シリーズⅡとも全てのピースに防食電流が流入し 200 0 0 図-4 10 20 時間(日) 30 40 発生電流量の経時変化 マクロセル電流が消滅していることが明らかである。また, 防食電流は,塩化物イオンを含むコンクリートに位置する腐食したピースに多く流入する傾向にあっ た。また,シリーズⅠではC1からC4位置までほぼ同等の防食電流が流入しているのに対し,シリーズ Ⅱでは,C1位置のピースに多く流れる傾向に合った。金属の腐食系は溶液抵抗,分極抵抗,電気二重 層容量が組み合わさった電気的等価回路モデルで検討される。シリーズⅠ,Ⅱとも,固有の分極抵抗 や電気容量を有したピースの電気的等価回路が並列に接続された電気回路と考えられる。加えてピー スのカソード分極性状等も影響してると推定される。コンクリート抵抗は塩化物の有無や混入程度で 変化し,鋼材の分極抵抗は鋼材腐食により小さくなる。すなわち抵抗成分から考えると塩化物を含ん −27− プレストレストコンクリート技術協会 第20回シンポジウム論文集(2011年10月) 〔論文〕 C1 だコンクリート中の腐 食した鋼材は,電流が 図- 6に復極試 験結 果を示す。一般的に腐 食した鋼材と腐食して -1 -2 -2 -3 1 -4 6 1 1 6 6 C1 C2 C3 1 2 -4 1 7 -6 腐食鋼材、Cl -含入コンクリート -8 C4 -10 鉄筋位置No. ピースNo. る。すなわち,同程度 鉄筋位置No. ピースNo. a)シリーズⅠ のカソード分極量を得 b)シリーズⅡ 図-5 るために,後者の鋼材 防食電流密度 300 は前者の鋼材と比較し 300 腐食鋼材、Cl-含入コンクリート 250 て大きなカソード電流 250 腐食無鋼材、Cl-無コンクリート 200 7 1 7 1 1 150 6 2 1 200 復極量(mV) 復極量(mV) が少ないピースも多く 6 -5 分極性状が相違してい おいて防食電流の流入 1 7 腐食無鋼材、Cl -無コンクリート いない鋼材のカソード が必要なる。図-5に 防食電流密度(μA/cm2) ることを示している。 0 S C3 1 防食電流密度(μA/cm2) 流入しやすい環境にあ 0 C2 150 100 100 同程度の復極量を示し 50 50 ているのは鋼材の分極 0 流入したピースもほぼ C1 性状が相違することに C2 C3 C4 0 C1 a)シリーズⅠ S b)シリーズⅡ 図-6 シリ ーズⅠにお いて C3 鉄筋位置No. ピースNo. 鉄筋位置No. ピースNo. 起因すると考えられる。 C2 復極量 一部,防食基準である100mV以上の復極量を満足しないピースが認められるが,その他のピースは防食 基準を満足しており,良好な防食状態にあると推定される。 4.まとめ 凍結防止剤で劣化した桁端部のような部分への流電陽極方式電気防食の適用性を検討した。本実験 の範囲内で以下の事項が明らかになった。 (1) マクロセル電流を測定した結果,腐食しやすい条件,すなわちコンクリート表層に近く,塩化物 イオンを含むコンクリートに位置するピースがアノードとなる傾向にあった。 (2) 犠牲陽極と鉄筋を閉回路とすると,全てのピースに防食電流が流入しマクロセル電流が消滅した。 (3) 一部のピースに防食基準を満足しない場合が認められたが,殆どのピースは防食基準を満足して おり,犠牲陽極により良好な防食状態にあると推定された。 参考文献 1) 三浦 尚ほか:融雪剤によるコンクリート構造物の劣化研究委員会報告,コンクリート工学年次論 文報告集, Vo.21,No.1,pp29-7138,1999. 2) 熊谷和夫ほか:北陸地方の橋梁けた端部のコンクリート部材の損傷特性と劣化推移,土木学会論文 集,No.798/Ⅵ-68,pp31-39,2005. 3) たとえば神尾守人ほか:塩害劣化したRC部材に対する犠牲陽極材を用いた電気防食工法の腐食抑 制効果について,土木学会第64回年次学術講演会,V-252,pp507-508,2009. −28−
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