外国競争法研究会 要点整理 ブラジル競争法―最近のトピックスー 2015 年 2 月 24 日(火)13:30~16:30 講師:一橋大学大学院法学研究科教授 阿部 博友 氏 1.はじめに (1)ラテンアメリカ主要国の競争法一覧 初期段階 ブラジル 1962 年法 過渡期 近代化段階 1990 年法(法律第 8137 号) 2011 年法(法律第 12529 号)1 1994 年法(法律第 8884 号) アルゼンチン 1923/1946 年法 1980/1999 年法 2001/2014 年法 チリ 1959 年法 1973/1999 年法 2004/2009 年改正法 コロンビア 1959 年法 1992 年法 2009 年法 メキシコ 1934 年法 1992 年法 2006/2011/2012/2014 年改正法 ベネズエラ 1991 年法 2006 年/2014 年法 その他 *アンデス共同体の決議 *パナマ 2006 年法 285/1991 *エクアドル 2011 年法 *ペルー1991 年法 *パラグアイ 2013 年法 *パナマ 1995 年法 *ボリビア・スリナムには競争法 *メルコスールの Fortaleza なし。 議定書 1996 年 (2)ブラジル 2011 年法(法律第 12529 号)の概要 ①2011 年法は行政法規であり、その執行機関 CADE(Conselho Administrativo de Defesa Econômica:経済防衛行政審議会)は法務省に属する独立行政機関である。 ②違法行為(カルテル等)への制裁金は、違反企業の関連分野における(すなわち関 連商品/役務の)前年度連結売上高に 0.1~20%を乗じた金額である。再犯の場合は 2 倍となる。 ③故意、過失が立証された場合は、違反企業の管理役員にも当該違反企業に支払いが 命じられた制裁金の 1~20%相当額の制裁金が課せられる。 ④刑事罰は 1990 年法による。違法行為者(個人)に対して 2~5 年の禁錮刑及び罰金 刑が定められている。 ⑤カルテルリーダーもリニエンシー申請可能に変更された。 ⑥企業結合規制は事後届出制から事前届出制(合併、株式取得、合弁など 4 類型に限 定)に変更された。届出基準は国内売上高 7.5 億レアル以上と 7500 万レアル以上の 当事者による企業結合が対象となる2。関連市場シェア基準はない。 ⑦いわゆる Gun Jumping への制裁もある。 ⑧2011 年法により制度設計が緻密化されて CADE の法執行の透明性が高まったとい える。 2.CADE の執行状況 2011 年 11 月 30 日制定。同年 12 月 1 日公布、2012 年 5 月 30 日施行。尚、ブラジ ル日本商工会議所 HP に講師による和訳が掲載されている。 http://jp.camaradojapao.org.br/brasil-business/oportunidades-denegocios/?materia=9977 2 2012 年 5 月 30 日 Cabinete do Ministro Portaria Interminisiterial No.994 1 1 外国競争法研究会 要点整理 *手続件数は全体的に減少するも行政手続は増加傾向。 *リニエンシー制度を維持しつつ、TCC という和解制度の活用が図られている。TCC 活 用により CADE はより多くのカルテル関連情報入手が可能となった。 *企業結合審査手続は簡素化されつつあるも、事後審査制度から事前審査制度に変更さ れたこともありガンジャンピング摘発件数が増加している。 *ガンジャンピング及び企業結合虚偽申請に対しては、いずれも 6 万レアル~6000 万 レアル(約 300 万円~30 億円)の制裁金がある。(2011 年法 88 条 3 項、91 条) (1)類型別手続件数3 2012 731 15 54 19 17 836 企業集中 行政手続 事前調査手続 差止 その他 合計 2013 103 36 37 22 74 272 2014 傾向 ↓ ↑ ↓ → → ↓ 31 57 6 17 47 158 (2)行政手続件数4 2010 2011 4 14 18 違反認定 無違反認定 合計 2012 1 15 16 2013 2 12 14 2014/5/16 9 7 16 22 16 38 (3)制裁金徴収額5(単位:レアル) 2009 2010 46,026,106 23,863,448 2011 2012 2013 30,536,113 45,642,670 2014/1-4 91,833,107 50,473,686 (4)リニエンシー件数6 2003 2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012 2013 2014/5/16 1 1 1 4 1 2 4 8 1 10 1 3 *1994 年法のリニエンシーはカルテルリーダーは申請不可とされていたが、2011 年法 により申請可能となった。 *1990 年法の刑事罰免除も明確に規定された。 *グループ企業、役職員にも適用可能となった。 (5)TCC(和解)件数7 2009 2010 6 11 3 4 5 6 7 2011 3 2012 5 2013 53 2014/5/16 3 http://www.cade.gov.br/Default.aspx?1d1d1fe12eec2f0b2525 http://www.cade.gov.br/upload/Balan%C3%A7o%202%20anos%20nova%20lei.pdf 同上 同上 同上 2 外国競争法研究会 要点整理 *最初の TCC 申請者は 30~50%減額、2 番目の申請者は 25~40%減額、3 番目以降の申 請者は 25%以下減額、CADE による初期調査が終了した後の減免率は 15%以下であ る。 (2013 年 3 月 6 日規則第 5 号) (6)企業結合審査件数と判定種別8 2012 不許可 3 条件付許可 39 無条件許可 670 受理件数合計 712 2013 9 10 取下げ 不受理(却下) 2014 3 46 50 1 20 9 99 30 0 4 0 0 (7)(2011 年法による)最近 2 年間の企業結合審査結果9 通常審査 無条件許可:2 件、条件付許可:1 件 利害関係者の申立による審 無条件許可:1 件 査 総監督局の異議による審査 条件付許可:7 件 その他 ガンジャンピング&条件付許可:4 件、その他:1 件 (8)(2011 年法による)最近 2 年間の企業結合審査日数10 1 年目 通常審査 件数 22 件 簡易審査 合計 2 年目 38 件 平均日数 件数 平均日数 74 日 227 件 19 日 98 日 316 件 20 日 件数 平均日数 249 件 24 日 354 件 29 日 (9)企業結合審査における Fast Track の導入11 ①当事者が共通支配下で結合し、非関連市場への参入を目的としている場合 ②買収当事者又はその経済集団が関連市場に参入していなかった場合 ③水平的結合において関連市場シェアが 20%以下である場合 ④垂直的結合において関連市場シェアが 30%未満の場合 ⑤関連市場シェアが 50%未満で HHI 増加が 200 以下の場合 ⑥総監督局が簡易な結合であると判断した場合 http://www.cade.gov.br/Default.aspx?8cac6fb17e9c9cbe96b7 http://www.cade.gov.br/upload/Balan%C3%A7o%202%20anos%20nova%20lei.pdf 10 同上 11 2012 年 5 月 29 日決議第 2 号、2014 年 10 月 1 日決議第 9 号 8 9 3 外国競争法研究会 要点整理 3.腐敗行為防止法12 *ブラジルは OECD に加盟していないが、2000 年に OECD 贈賄防止条約を批准した。 *ブラジル刑法は国内公務員への贈収賄を禁じていたが 2002 年に外国公務員への贈賄 を禁止する改正を行った。しかし法人処罰規定を欠いていた為 2013 年 8 月に公共入 札談合の禁止を含む腐敗行為防止法が成立し、2014 年 1 月から施行された。 (1)腐敗行為防止法 ①国内外の公的行政に対する侵害行為について法人の行政上、民事上の責任を定める。 ②制裁金は、直近会計年度の総売上高から税金を除いた金額の 0.1~20%相当額、但 し、享受した利益額が推定可能な場合はその金額を下回らないものとする。更に有 責に関する特別公告が行われる。 ③違法行為による民事責任については厳格責任 (2)コンプライアンスプログラム ①競争法に関するコンプライアンスプログラムによる制裁軽減措置は、2004 年に導 入されたが、2009 年に廃止された。 ②腐敗行為防止法に関するコンプライアンスプログラムによる制裁軽減措置は、同法 第 7 条に(3 分の 2 まで制裁金を減額する)規定があるが実施規則は未発効である。 ③腐敗行為防止法の施行によりブラジルで活動する企業には徹底した法令遵守が要求 される。 4.裁判制度の問題点 *ブラジルにおいて訴訟は交渉戦略(時間稼ぎ)として活用されることが多い。 *連邦裁判所、地方裁判所は濫訴と人手不足で積み残し訴訟が増加中である。 *一部の裁判官の質とモラルも疑問視されている。 *競争法違反者に対する私訴も積極的に行われている状況ではない。 *CADE の決定を連邦裁判所で争うことは可能で、執行停止の仮処分が認められれば長 期間の裁判闘争が可能。但し、企業は裁判に先立ち制裁金を払う若しくは支払保証をす る義務がある。 以上 阿部博友「国際コンプライアンスの研究 第 2 部国際コンプライアンスの諸相第 6 回 ブラジル腐敗行為防止法の概要について」国際商事法務 42 巻 7 号、2014 年 7 月 12 4
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