2015/9/15 パナマ便り

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2015 年 9 月 15 日
パナマだより
2号
田中正紀
パナマに来て 2 か月半がたちました。もう 2 年の任期の 1 割は消化してしまったわけで
す。ちょっとあせりを感じる今日この頃です。
パナマだより 2 号をお届けします。今回はパナマの人の考え方について若干切り込んで
みました。
1.三顧の礼
三顧の礼という言葉は皆さんご存じと思いますけれども、三国時代の中国で蜀の国主で
ある劉備玄徳がそのころ名前もよく知られていなかった諸葛孔明に対し、蜀の国づくりに
参加してもらうために三度訪れて彼の出御を実現したという故事からの言葉です。目上の
人が目下の相手を尊重して説得するという態度のことと解釈されます。
ここパナマでは目上、目下を問わず三顧の礼はあたりまえです、という話をします。
一人の教授から、廃油の処理の研究をしたいから手伝ってくれと言われました。大学の
研究活動ですから知的興味から出発するのも良いけれども、できることなら社会に貢献で
きるような成果が出るようにしたい。そのためには現実に廃油がどう処理されているのか
を知る必要がある、と私は言いました。現実の処理方法をよく知れば、その中に多くの技
術的なヒントが隠されているし、問題点も見えて来る、と考えたのです。
教授は私の提案を受け入れ、友人がいるという廃油処理会社に見学に行こうという話が
まとまりました。セニョール田中、来週の水曜日だぜ、と。
で、その水曜日が来たので、その会社を訪問すべく準備をして大学に行きました。そう
すると、
「セニョール田中、これから連絡をとるから今日はだめだ。来週水曜日にしよう。
」
彼はパナマの人にしては約束を守る方だと思います。なぜなら、水曜日ということを覚
えていたからです。しかし、何の段取りもしていなかった、というところはさすがにパナ
マですね。
さて、次の水曜日がきました。私は今日こそ見学に行く日だと思って支度をして大学に
行きました。そうすると教授は「セニョール田中、今日だぜ。今日先方に電話するんだ。」
ああそうなのか。やっぱりな、とも思いましたが、でも前進していることは確かです。
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教授は、「来週水曜日だぜ、大丈夫か?」と言い、私は大丈夫と答えました。
次の水曜日です。だいぶ怪しいなとは思いましたが、行けるように準備を整えて大学に
行きました。教授曰く「セニョール田中、大学の車で行く。それにはあらかじめ申請を出
さないといけないんだ。今日申請書を書いた。ここにある。これを出したら次の水曜日に
行くんだ。
」
ついにあとは車の段取りだけというところまでこぎつけたわけです。すばらしいことで
す。私は次の水曜日を心躍らせて待ちました。
次の水曜日、今度は教授ではなく、交通係りのボスが、
「セニョール田中、今日 10 時に
車を出すぜ。
」と言ってくれました。これで間違いはない。ついに見学が実現するのです。
10 時の予定が突然 9 時半になりましたが、そのようなことは小さなできごとです。私
と教授は運転手付きの大学の車に乗り込みました。片道 1 時間のドライブです。通る道は
ソベラニア自然公園の中を突っ切っていて、道すがら手つかずの大森林を見ることができ
ました。「来てよかった!」
目的の廃油処理会社はパナマ市(太平洋側)とコロン市(カリブ海側)を結ぶ幹線道路
に面していて、山を切り開いてタンクとボイラーを設置してありました。船舶から出る廃
油の処理をやっているとのこと。廃油処理の会社にしては全体にきれいで、きちんと管理
されていることをうかがわせました。教授は勇んで玄関を入り受付のおばさんに来訪をと
りついでもらっています。すると、
「オーナーは今日は別のところに行っています。技術的なことは彼しかわかりません。」
またまた、「やっぱりな」と思いました。パナマでは別に珍しくはありません。教授は
「セニョール田中、来週水曜日に来よう。オーナーもいると思うぜ。」
このとき、標題に書いた「三顧の礼」という言葉が頭の中にひらめきました。そうか、
まだ一回しか来ていないんだから、もう二回ぐらいは来ないといけないかな・・・。
さてここが日本なら、最初の水曜日に連絡もついていて、車の段取りもできていて、先
方も事務所で待ってくれている、というのが普通でしょう。いっぺんにそこまで行ってし
まうというのはさすが日本と言えます。一方、手順が一つずつしか進まないのはここパナ
マでよく見られる光景です。がんばっていっぺんに用意すればその方が効率的じゃないの
か、というのは日本人の発想で、一つが済んだら次、というのがパナマの発想なのです。
さて日本人のあなたはこのような目にあったときに怒りますか?もし怒るとしたらそ
れは
日本の常識
= 正義
と思っているからではないでしょうか。常識は国によっても個人によっても違うもので
す。常識は正義ではありません。常識はストレスを少なくしてその社会で生きて行くため
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の知恵というようなものです。要するに妥協です。もし異なった常識が受け入れられなけ
ればストレスを感じながら生きていく必要があります。ストレスを感じなくなったら、あ
なたの常識がその場所の常識に適合したからに相違ありません。
常識の違いというものはいろいろ面白くて、今後も話題にしたいと思いますけれども、
とりあえず、
常識
≠ 正義 (常識は正義ではない)
と思うのです。そういう考えは、違う常識の中で生きて見ると腑に落ちるのです。「い
やいやおれの常識こそ正義だ。周りのやつが間違っている。
」と言う剛の者もいますけれど
も、私にはできることではありません。
パナマの人はどうかというと、パナマの常識が正義だとはおそらく思っていません。パ
ナマの人がパナマ以外のところに行くとちゃんとそこの常識に従って行動するのです。例
を挙げましょう。
私の行っている大学は船員の養成大学です。もし船員が仕事の上で時間を守らなかった
らただちに解雇されます。しかしパナマの船員が時間を守らなくて解雇されたという話は
聞きません。普段あれだけ時間にルーズでも(約束の時間についてはまた別途お話しする
機会もあるかと思いますのでそのときに詳しく・・)いったん船に乗って仕事を始めれば
ちゃんと時間を守るのです。彼らの常識が変わるわけです。そうしてパナマに帰ればまた
時間にルーズなパナマ人に戻るということになるのです。
さて話題をもどして、廃油処理会社の見学ですが、来週の水曜日はどうなるでしょう。
三顧の礼で済むか、十顧の礼ぐらいまで行くか、今後が楽しみです。
2.一人暮らしの食のレポート・・・海産物の話
一人暮らしだと食事の時間も内容も自由です。
「腹減ったー。もうごはんにしようよー」とか、
「ちゃんとご飯を炊いておかずも作らないとだめ」とかいう人がいない。
汗だくで歩いて帰ってきてシャワーを浴びて、ああもう面倒くさいなあ、ビールとつま
みでごまかすか。などということも可能です。
それでも、多少は健康のことも考えますし、何といってもフルタイムで働くにはそれな
りにエネルギーを補給しなければやれません。
そこでよく作る献立としては
焼き飯
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焼きそば
魚の唐揚げ
鶏肉と野菜のいためもの
白菜とシーチキンのいためもの
ビフテキ
などがあります。あんまり煮物はしないですが、これは好みの問題ですね。
ビフテキなんて日本だとハレの日しか出てきませんけれども、ここパナマでは牛肉は安
いのでちょっと食べるのに便利です。なんせ肉をフライパンに乗せて焼けばいいんだから
これはごく簡単食であることに間違いはありません。
食の話をしだすときりはないので、今日はパナマの魚の話をしようと思います。
パナマは太平洋とカリブ海に面しています。人口の多くは海岸線に住んでいる。
従って魚は普通に流通しています。
パナマで一番人気は「コルビナ」。
知り合いの魚博士が言うには、日本の「ニベ」に近いとのこと。
下の写真はひれを切ってしまっていますからちょっと形がおかしいですけれども顔は
こんな感じです。写真上側が本体、下は頭を落として二枚に開いたところです。
このコルビナは確かにたいへんおいしい。パナマの人たちはこれに粉を付けて揚げるか、
もしくは香味野菜と酢漬けにします。私も揚げ魚は好きなので小さいコルビナ(25cm ぐ
らい)は塩をして唐揚げにします。これは絶品と言えます。
我が家独特の料理法は、締めコルビナです。大きめのコルビナを選び、締めさばを作る
のと同じように塩、酢、昆布で順番に締める。できた締めコルビナは冷凍できるので冷凍
しておき、来客があったりしたら出す。これは日本人にはすごくうけます。任国外旅行で
パナマに来る青年海外協力隊の人たちは必ずしも魚が手に入るところには住んでいないの
で、赴任してはじめて魚を食べた、涙が出て来る、などという人もいます。
締めコルビナを小さく切って酢飯に混ぜると我が家風五目寿司になります。これもなか
なか好評です。まだ試していないですが、さしみもいけるんじゃないかと思います。こん
どやってみよう。
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コルビナ
締めコルビナ 塩と酢で締めた二枚の魚肉の間にだし昆布をはさんでいる。このまま冷
凍する。
コルビナは一番人気ですが、では二番手は?
二番手は鯛です。
パナマの人は鯛もコルビナと同じく、揚げ物にするか酢漬けにします。それ以外の料理
はない。
私の場合は、鯛はさしみにしたり塩焼きにしたりしています。どちらも日本人向きのご
ちそうになります。鯛の塩焼きはパナマの人もおいしいという人がいます。
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パナマでは魚の価値は「揚げてなんぼ」ということになっています。従って揚げたらお
いしくないカツオなどは極めて安い。だいたい赤身の魚は揚げるのには適さないので評価
が低いのです。でも魚市場に行くとマグロやカツオも売っている。パナマの人はたいてい
これらも揚げて食べています。
魚市場でみかける魚はこれ以外にシエラ(さわら)、ラーゴ(すずき)、コヒヌア(アジ)
などがあります。
4 年前に最初にパナマに赴任した時はよく魚市場に魚を買いに行きました。新鮮な魚は
魚市場で選ばないとなかなか手に入らなかったからです。しかし魚市場でも結構古い魚が
あって、よく選ばないと腐りかけの魚などをつかまされたものです。魚市場では並んでい
る魚を選んで「これをちょうだい」と言われてから腹を開いて内臓を出す。なので少し古
くなると血糊の部分が臭いだしてそのにおいが魚肉に移ってしまい、食べられるしろもの
でなくなる。入荷したらとにかく腹を開いて内臓を出せば良いのですが、そうしない。ひ
とつには魚は重さで売るので、内臓をとってしまうと軽くなるからではないかと推測して
います。
ところが最近スーパーマーケットでは入荷後すぐに内臓を取り除き、氷に埋めて保管し
ている魚を売るようになりました。これは今のところ 100%新鮮でおいしく食べられる。
それで私は無精をして魚市場に行かず、近くのスーパーで魚を買っています。スーパーで
は普通コルビナと鯛しか置いていないけれども、まあそれだけあればさしみ、締め魚、揚
げ物、塩焼きなどなんでもできちゃう。多少割高かもしれないけれどもらくちんです。
ちなみに値段はだいたい 1kg が 8 ドルといったところです。
下の写真は地方の漁港で魚を買っているところです。漁港で直接買えば新鮮なものが買
えます。これらの魚はこれから炎天下、冷蔵設備もないトラックで市街に運ばれるのでし
ょう。
まあパナマの魚屋の店先には日本とそう変わらない魚が並んでいるということですね。
沖縄などに行くと見たこともない色とりどりの魚を売っています。パナマは熱帯ですがそ
んなにめずらしいような魚は売っていません。シュノーケリングなどをするとド派手な魚
も見ますけれども、あえてそんなものは食べないのでしょうか。
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田舎の漁港で上げたばかりの魚を買う人(買っている方は日本人です)
首都の魚市場 この魚市場は日本の資金協力によって建設されたので、パマナの国旗と
日本の国旗が外壁に描かれている。一度「日本大使館に行きたいんですがあそこですか?」
と聞かれたことがあった。
・シガテラ毒の話
パナマに二回目に赴任してすぐにこの話を知り合いのボランティアから聞きました。カ
リブ海の島ではシガテラ毒の恐れがあるので魚はある期間食べないとか。
首都の魚は主として太平洋側から来ているようですし、これまでシガテラ毒の話は聞い
たことがないから大丈夫だろうと思っていました。ところが最近になってパナマの人から、
「寄生虫がいるから 3 月から 6 月までは魚を食べないようにしている」と言われてびっく
りしました。パナマでその話を聞いたのはたった一件だけなのでたいていは大丈夫なんだ
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ろうと思っています。というか思いたい。
・牡蠣の話
最初にパナマに来た時にホームステイでごやっかいになった夫婦のところに遊びに行
ったら牡蠣をごちそうしてくれました。パナマでは牡蠣はめったに手に入らないとのこと
で、わざわざ私の訪問に合わせて準備してくださったのだとか。パナマ風に玉ねぎ、トマ
ト、にんにくなどといっしょに煮てありましたが大変おいしかったです。ちなみにパナマ
では養殖物はなく、すべて天然物でしょう。
パナマでごちそうになった牡蠣
あとがき
エル・ニーニョの影響とかでしばらく雨の少ない日々が続きましたが最近は平年並みに
もどりつつあるように見えます。雨が少なくなってパナマ運河の水位が下がると通過する
船舶に喫水を浅くするようにお願いしなければなりません。パナマ最大の産業であるパナ
マ運河の命運を握っているのは雨なんですね。雨は生活には不便ですがまずこれでパナマ
運河が大丈夫だと思うとなんとなくほっとするような気がします。