東京電力福島第一原発事故に起因する 放射性物質による長期低線量被曝の 健康被害の大きさの裏づけ ―特に放射性セシウムによる局所的β線被曝に基づく― 生 井 兵 治 目次 概 要 ・・ ・・ ・・・ ・ ・・・ ・・ ・・ ・・ ・ ・・・ ・・ ・・ ・・ ・ ・・( p.1 ) 1 . 自 然 放 射 性 核 種 K-40 に よ る β 線 放 射 の 実 態 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・( p.2 ) 2 . 人 工 放 射 性 核 種 Cs-137 に よ る β 線 放 射 の 実 態 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・( p.5 ) 3 . 細 胞 の 寿 命 ( 細 胞 の 交 替 ) と の 関 連 で み る β 線 被 曝 の 実 態 ・ ・ ・( p.9 ) 結 論・・ ・・・・・・ ・・・・・・・・・・ ・・・・・・・・・・ ・・( p.12) 《概要》長期にわたる低線量内部被曝で問題となる放射線は、アルファ(α) 線 と ベ ー タ ( β ) 線 で あ り 、 K-40 と Cs-137 で は 、 β 線 が 問 題 と な る 。 ICRP( 国 際 放 射 線 防 護 委 員 会 )な ど を 拠 所 と す る 政 府 や 政 府 寄 り 専 門 家 は 、 「 原 発 事 故 に 起 因 す る 人 工 放 射 性 核 種 の セ シ ウ ム 137( Cs-137) な ど に よ る 内 部 被 曝 は 、 飲 食 物 か ら 日 々 取 り 込 ん で い る 自 然 放 射 性 核 種 の カ リ ウ ム 40 ( K-40) な ど に よ る 被 曝 と 比 べ た ら 微 々 た る も の で 問 題 な い 」 な ど と 述 べ て い る 。し か し 、生 物 進 化 上 に お け る C-137 な ど 人 工 放 射 性 核 種 の 位 置 づ け や 、 実 際 の 放 射 性 降 下 物 と し て の 放 射 性 微 粒 子 の 大 き さ 、さ ら に は 体 内 で 放 出 さ れ る β 線 の 飛 程 内 に お け る 細 胞 の 内 部 被 曝 の 実 態 を 無 視 し て お り 、ま っ た く 非 科 学的である。 そ も そ も は 、進 化 の 過 程 で 獲 得 し た 全 生 物 と 自 然 放 射 性 核 種 K-40 な ど と の 安 定 的 適 応 関 係 に 、突 如 二 十 世 紀 半 ば か ら 核 兵 器 や 原 発 の 登 場 に よ り 有 害 な 諸 人 工 放 射 性 核 種 を 上 乗 せ 的 に 大 量 拡 散 し た こ と が 、低 線 量 内 部 被 曝 に よ る 癌 そ の他の健康被害の爆発的な多発の根源である。 そ こ で 、 自 然 放 射 性 核 種 の K-40 と 福 島 原 発 事 故 に 起 因 す る Cs-137 の β 崩 壊 に よ る β 線 放 射 の 実 態 を 比 較 検 証 す る こ と に よ り 、福 島 県 な ど の 高 放 射 能 汚 染地域に子どもたちなどが住まうことの危険性と人権無視を告発したい。 1 K-40 に よ っ て 体 内 の 約 3 千 箇 所 で 毎 秒 1 発 の β 線 が 放 射 さ れ 、出 生 後 は 細 胞 分 裂 し な い 心 筋 細 胞 な ど が 一 生 の 間 ( 80 年 と し て ) に 各 細 胞 が 被 曝 す る 回 数 は 約 27 回 で あ る 。 し か し 、 体 重 1 kg 当 た り 5.824 京 個 の 原 子 が 必 要 で あ るため、非常にまばらな被曝であり深刻な健康被害は極めて起りにくい。 一 方 、福 島 原 発 事 故 に 由 来 す る セ シ ウ ム ボ ー ル な ど の Cs-137 に よ る β 線 被 曝 で は 、 セ シ ウ ム ボ ー ル 近 傍 の 細 胞 が 極 め て 局 所 的 、 す な わ ち 体 重 1 kg 当 た り わ ず か 約 17 粒 で 54 Bq の β 線 が 放 射 さ れ る か ら 、 3,530 兆 分 の 1 の 高 密 度 で 、 K-40 の 約 1 京 倍 も 被 曝 す る 。 粒 径 が 1μ m 未 満 で 水 溶 性 の 放 射 性 セ シ ウ ム 含 有 硫 酸 塩 エ ア ロ ゾ ル 粒 子 で も 、含 有 す る Cs-137 の 放 射 能 量 は 平 均 0.66 Bq だ か ら 、 体 重 60 kg の 体 内 に 約 5 千 粒 が 取 り 込 ま れ れ ば 3,240 Bq の β 線 を 放 射 す る こ と に な る 。そ し て 、こ の う ち 0.1μ m 以 下 の 微 粒 子 は 消 化 管 や 肺 胞 か ら 血 中 に 入 る の で 、体 内 各 所 で 局 所 的 に β 線 を 放 射 し 続 け る こ と に な る 。だ か ら 、 放 射 性 セ シ ウ ム 微 粒 子 で は 、 K-40 に よ る β 線 被 曝 に 比 べ て 、 著 し く 局 所 的に少数の細胞が短時間に繰り返し被曝することが明らかである。 1 . 自 然 放 射 性 核 種 K-40 に よ る β 線 放 射 の 実 態 ( 1 ) 日 々 の 飲 食 に よ り 、 必 須 元 素 の カ リ ウ ム ( K) と と も に K-40 も 体 内 に 取 り 込 ま れ る 。し た が っ て 、日 々 飲 食 物 か ら K を 摂 取 し て い る た め 、体 内 に は K-40 を 0.011% 含 む 約 2 g/kg の K が あ り 1 )、 約 60 ベ ク レ ル ( Bq) /kg の 放 射 能 を 帯 び て お り 、 そ の 内 訳 は 89.3% 約 54 Bq/kg( 5.4E1; E1 は ×10 1 ) が β 崩 壊 し て β 線( 体 重 60 kg な ら 3,240 Bq = 3.24E3)を 、10.7% 約 6 Bq/kg が γ 崩 壊 し て γ 線 を 発 し て い る( 両 者 は 別 の 原 子 に よ る )。K-40 は 単 体 の 原 子 で 体 内 で は 陽 イ オ ン と し て 全 身 の 細 胞 内 に 存 在 し 、β 崩 壊 に よ る β 線 の 内 部 被 曝 が 起 り 、 体 重 1 キ ロ グ ラ ム 当 た り 毎 秒 54 ベ ク レ ル ( 54 Bq/kg) で あ る 。 1 ) コ ル ネ リ ウ ス・ケ ラ ー ,岸 川 俊 明『 新 版 放 射 化 学 基 礎 』( 現 代 工 学 社 ,2002).な お , 放 射 能 の 単 位 Bq は , 物 体 ( kg) 中 の 放 射 性 核 種 の 原 子 核 崩 壊 数 /秒 で , 多 く の 場 合 は 1 Bq な ら 原 子 核 崩 壊 が 1 回 /秒 で あ る . ( 2 ) 体 内 に お け る β 線 の 主 要 な 飛 程 は 約 2 mm( 最 大 10 mm) で 2) 、 細 胞 の 1 辺 は 約 10μ m だ か ら 、1 発 の β 線 が 放 射 さ れ る と 単 純 平 均 で 200 細 胞 に 0.005 Bq ず つ 放 射 さ れ る ( β 線 が 発 射 さ れ た 当 初 は 1 Bq だ が 、 エ ネ ル ギ ー を 細 胞 の 構 成 分 子 に 与 え な が ら 進 み 、飛 程 限 界 内 で 保 有 エ ネ ル ギ ー が ゼ ロ と な る )。だ か ら 、単 純 計 算 す れ ば 、54 発 で は 10,800 細 胞( 200×54)が 0.005 2 Bq ず つ 放 射 を 受 け る こ と に な る 。 2 ) 近 藤 宗 平 『 分 子 放 射 線 生 物 学 』 ( 東 京 大 学 出 版 会 , 1972) の p.59 の 図 5.7 よ り 概 算 . 水 中 で の β 線 の 飛 程 は 0.0015~ 10 mm, 平 均 エ ネ ル ギ ー 0.5 MeV の 飛 程 は 約 2 mm で あ り , 線量は細胞を突き抜ける間に指数関数的に減る. ( 3 ) 毎 秒 54 Bq/kg の β 線 放 射 に 要 す る K-40 の 原 子 数 を 計 算 す る と 、 2 つの関係式は、 体 重 1 kg 当 た り の K-40 の 原 子 数 N = 放 射 能 量 ÷速 度 定 数 速 度 定 数 k =2 の 自 然 対 数 ÷K-40 の 半 減 期 ( 秒 ) な お 、 K-40 の 半 減 期 は 、 約 12.8 億 年 ( 4.0366E16 秒 ) で あ る 。 ∴ N = 5.4E1÷1.717E-17 = 3.145E18 = 314.5 京 個 ( 1 京 = 1E16) ∵ k = 6.931E-1÷4.0366E16 = 1.717E-17/秒 こ こ で 、例 え ば 放 射 能 量 5.4E1 は 5.4×10 の 1 乗( 54)を 意 味 し 、1.717E-17 は 1.717×10 の マ イ ナ ス 16 乗 ( 1.717÷10 の 16 乗 ) の こ と で あ る 。 上 の 計 算 か ら 、 体 重 1 kg 当 た り 毎 秒 54 Bq の β 線 を 放 射 す る K-40 の 原 子 数 は 314.5 京 個 ( 1 京 = 1E16) で あ る か ら 、 K-40 が 1 回 の β 崩 壊 に 要 す る 原 子 数 は 、 = 原 子 数 /kg÷放 射 能 /kg = 3.145E18÷5.4E1 = 5.824E16 = 5.824 京 個 ( 1 京 = 1E16) ∴ K-40 で は 、 毎 秒 β 崩 壊 が 5.824 京 個 の 原 子 当 た り 1 回 起 っ て い る 計 算 に なる。 な お 、 K-40 の 1 g 当 た り 原 子 数 は , =ア ボ ガ ド ロ 定 数 ( 6.02E23) ÷質 量 数 ( 40) = 6.02E23÷4E1=1.505E22 個 = 1,505 京 の 1 千 倍 ( 1 京 =1E16) ∴ 5.824 京 個 の K-40 原 子 の 重 量 は , = 5.824E16÷1.505E22=3.8698E-6 = 3.87μg( 1E-6 = 1μg) ( 4 ) 身 体 の 細 胞 数 は 概 数 で 60 兆 個 ( 6E13) だ か ら 、 体 重 60 kg( 6E1) と す る と 、 前 記 の 体 重 1 kg 当 た り の K-40 の 原 子 数 N に 基 づ き 、 体 内 で β 線 を 放 射 す る K-40 の 総 原 子 数 は 、 3 = 原 子 数 /kg×体 重 = 3.145E18×6E1 = 1.887E20( 1 京 =1E16) = 1,887 京 個 の 10 倍 ( 1 京 = 10,000 兆 ) ∴ 体 内 に は 約 1,900 京 個 の 10 倍 も の K-40 原 子 が 散 在 す る 。 そ し て 、体 内 の β 線 総 放 射 量 は 、毎 秒 3,240 Bq( 54 Bq × 60 kg= 3.24E3) だから、 K-40 が 1 回 の β 崩 壊 を す る の に 要 す る 細 胞 数 は 、 = 総 細 胞 数 ÷総 放 射 量 = 6E13÷3.24E3 = 1.8519E10 = 185.2 億 個 ( 1 億 =1E8) ∴ β 崩 壊 は 約 185 億 個 の 細 胞 当 た り 1 回 起 り 、 β 線 の 放 射 量 が 毎 秒 約 54 Bq/kg で 、 体 重 60 kg で は 3,240 Bq( 3,240 回 の β 崩 壊 ) と な る わ け だ か ら 、 大雑把に見れば体内の約 3 千箇所で毎秒 1 発のβ線が放射されるわけである。 ( 5 )そ こ で 、 体 重 60 kg で 総 細 胞 数 60 兆 個 の 体 内 に お い て 、 放 射 さ れ る β 線 の 総 線 量 が 3,240 Bq/秒 で あ り 、前 記( 2 )の と お り 1 発 の β 線 放 射 で 200 細 胞 ( 2E2) が 平 均 0.005 Bq ず つ 被 曝 す る 。 ∴ 1 日 ( 86,400 秒 = 8.64E4) 当 た り の 被 曝 細 胞 数 は 、 = 秒 数 ×β 崩 壊 数 /秒 ×1 発 当 た り 被 曝 細 胞 数 /秒 = 8.64E4×3.24E3×2E2 = 5.599E10 = 559.9 億 ( 1E8 = 1 億 ) つ ま り 、 1 日 24 時 間 で は 全 細 胞 60 兆 個 中 の 諸 組 織 ・ 器 官 の 計 約 560 億 個 の細胞が被曝する計算になる。 ∴ 60 兆 個 の 細 胞 が 1 回 は 被 曝 す る 日 数 は 、 = 総 細 胞 数 ÷被 曝 細 胞 数 /日 = 6E13÷5.599E10 = 1.072E3 = 1,072 日 つ ま り 、 3 年 弱 ( 2.94 年 ) で 全 細 胞 が 1 回 は 被 曝 す る 計 算 に な る 。 ( 6 )た だ し 、全 身 に 単 体 で 散 在 す る K-40 の 1 原 子( 陽 イ オ ン )ご と が 放 射 す る β 線 被 曝 で あ り 、上 述 の と お り 毎 秒 β 崩 壊 が 5.824 京 個 の 原 子 当 た り 1 回 、 ま た 約 185 億 個 の 細 胞 当 た り 1 回 の 割 合 で あ り 、 β 崩 壊 の た び に 200 細 胞 が 平 均 0.005 Bq ず つ の β 線 に 被 曝 す る 状 態 で し か な い 。 ゆ え に 、 自 然 放 射 性 核 種 の K-40 に よ る β 線 被 曝 で は 、 短 時 間 に 2 本 鎖 DNA が 2 本 と も 切 断 さ れ る 状 況 に は な い 。現 存 す る 生 き 物 は 、種 類 ご と の 集 団 と し て 見 れ ば 、い ず れ も 進 化 の 過 程 で 適 応 的 関 係 を 獲 得 し て お り 、こ の 程 度 の 被 曝 に は 打 ち 勝 っ て 個 4 体 維 持 と 種 族 維 持 を 全 う し て い る 。一 方 、自 然 放 射 性 核 種 と の 間 に 適 応 的 関 係 を 獲 得 で き な い 生 き 物 の 種 類 は 、特 に 陸 に 上 が っ て か ら 消 滅 せ ざ る を 得 な か っ たのである。現実には、同一年齢でも個体レベルでは諸々の感受性(抵抗性) に 大 き な 個 体 差 が あ る が 、放 射 線 に 対 す る 感 受 性 は 年 齢 が 若 い ほ ど 強 い( 抵 抗 性 が 弱 い )。し か し 、自 然 放 射 性 核 種 K-40 な ど に よ る β 線 被 曝 の 影 響 下 で も 、 大方の個体は深刻な被曝被害を受けず個体維持と種族維持を全うしている。 ( 7 )結 論 と し て 、体 重 60 kg の 体 内 に お け る 天 然 の K-40 が 放 射 す る β 線 に よ る 低 線 量 内 部 被 曝 は 3,240 Bq/秒 で あ り 、見 か け 上 は 高 い 放 射 線 量 に み え る 。し か し 、K-40 の β 崩 壊 は 毎 秒 約 185 億 個 の 細 胞 当 た り 1 回 の 割 合 で あ り 、 全細胞が 1 回は被曝するのに要する日数は 3 年弱である。したがって、現存 す る 生 物 は 進 化 の 過 程 で DNA が 損 傷 し て も 修 復 能 力 を 獲 得 し て き た と は い え 、 K-40 に よ る β 線 被 曝 で は DNA の 修 復 能 力 を 発 揮 す る 必 要 は ほ と ん ど な く 、 DNA 以 外 の 被 曝 の リ ス ク も 極 め て 微 々 た る も の で あ る 。 2 . 人 工 放 射 性 核 種 Cs-137 に よ る β 線 放 射 の 実 態 ( 1 )Cs-137 に よ る β 線 被 曝 の 実 態 に つ い て み る と き 、ICRP( 国 際 放 射 線 防 護 委 員 会 )に よ る 放 射 能 量 の 単 位「 ベ ク レ ル 」 ( Bq)の 概 念 に 従 え ば 、K-40 と Cs-137 に よ っ て 同 一 ベ ク レ ル の β 線 に 被 曝 し た と き 、被 曝 線 量 と そ の 健 康 リ ス ク は 等 し い こ と に な る 。し か し 、放 射 性 核 種 の 半 減 期 が 違 え ば 、単 位 時 間 当 た り の 原 子 核 崩 壊 数 が 異 な り 、半 減 期 の 短 い 放 射 性 核 種 ほ ど 崩 壊 間 隔 が 短 い た め 、少 量 の 放 射 性 核 種 数 で も 放 射 す る 放 射 能 量 は 半 減 期 の 長 い 放 射 性 核 種 と 同 じ に な る 。ま た 、人 工 放 射 性 核 種 は 、以 下 で 示 す と お り 粒 径 が 自 然 放 射 性 核 種 よ り も い ち じ る し く 大 き い 混 成 集 合 体 で あ る 。さ ら に 、体 内 に 摂 取 さ れ た 人 工 放 射 性 核 種 は 、自 然 放 射 性 核 種 と は 大 き く 異 な り 複 数 の 特 定 臓 器 な ど に 集 積 し や す い 特 性 も あ る 。し た が っ て 、人 工 放 射 性 核 種 に よ る 内 部 被 曝 は 、極 め て 局所的に集中して被曝することが特徴である。 ( 2 )福 島 原 発 事 故 で 放 出 さ れ 、つ く ば 市 内 で 捕 集 さ れ た 放 射 性 セ シ ウ ム 微 粒 子 の 粒 径 は 約 0.3~ 5 μm で ( 大 原 利 眞 ほ か 2011) 3 )、 福 島 市 内 で 捕 集 さ れ た 放 射 性 セ シ ウ ム 微 粒 子 の 多 く は 呼 吸 で 吸 入 可 能 な 約 5 μm 以 下 で あ っ た( 小 泉 昭 夫 ら;A. Koizumi et al. 2012) 4 )。そ し て 、福 島 原 発 事 故 由 来 の 放 射 性 セ シ ウ ム 含 有 微 粒 子 に は 、粒 径 1 μm 以 下 で 水 溶 性 の 放 射 性 セ シ ウ ム 含 有 硫 酸 塩 エ ア ロ ゾ ル 粒 子 と 、 約 2μm で 水 に 不 溶 性 の 放 射 性 セ シ ウ ム 含 有 球 状 合 金 粒 子 5 ( 球 状 セ シ ウ ム 含 有 粒 子 ) が あ る ( 足 立 光 司 ら ; K. Adachi et al. 2013) 5 )。 特 に 、後 者 の 粒 子 は 、爆 発 に よ る 超 高 温 と 上 空 に 放 出 後 の 急 冷 却 が 成 因 で あ り 、 「 放 射 性 セ シ ウ ム 含 有 ガ ラ ス 状 微 粒 子 」( セ シ ウ ム ボ ー ル ) と 命 名 さ れ て い る ( 阿 部 善 也 ら : Y. Abe et al. 2014) 6 )。 そ し て 、 Cs-137 の 一 連 の 原 子 核 崩 壊 で放射されるβ線とγ線の放射量はほぼ同じである。 上 記 の 論 文 と 産 総 研 HP( 兼 保 2012) 7 ) の デ ー タ と 合 わ せ て み れ ば 、 福 島 原 発 事 故 に よ る セ シ ウ ム 含 有 放 射 性 微 粒 子 の 粒 径 は 、 調 査 地 点 や 時 期 で 0.1 μm 以 下 ~ 4 μm 以 上 の 変 異 が あ る 。混 成 集 合 体 の 人 工 放 射 性 核 種 の 多 く は 10 nm~ 20 μm で あ り 、 最 大 約 0.6 nm で 単 体 の 自 然 放 射 性 核 種 よ り も 著 し く 大 き い 。だ か ら 、仮 に 自 然 放 射 性 核 種 の 粒 径 0.6 nm の 微 粒 子 が 線 香 花 火 1 本 の 火 玉 だ と す る と 、体 内 で 血 中 に 入 る 最 大 粒 径 100 nm( 0.1 μm )の 人 工 放 射 性 核 種 は 460 万 本 の 線 香 花 火 の 火 玉 で あ り きい 8 )、 肺 胞 に 留 ま る 微 粒 子 は も っ と 大 9 )。 こ の よ う な 粒 径 の 大 き さ は 著 し い 差 異 は 、 Cs-137 の内部被曝の被害 が K-40 と は 比 較 に な ら な い ほ ど 甚 大 で あ る こ と の 理 由 の ひ と つ で あ る 。 3) 大 原 利 眞 , 森 野 悠, 田中 敦「福島第一原子力発電所から放出された放射性物質の大気 中 の 挙 動 」 『 保 健 医 療 科 学 』 60(4), 292-299 (2011). 4 ) 小 泉 昭 夫 ら ; A. Koizumi, K. H. Harada, T. Niison et al. Preliminary assessment of ecological exposure of adult residents in Fukushima Prefecture to radioactive cesium through ingestion and inhalation. Environmental Health and Preventive Medicine 17(4), 292-298 (2012). 5) 足 立 光 司 ら ; K. Adachi, M. Kajino, Y. Zaizen et al. Emission of spherical cesium-bearing particles from an early stage of the Fukushima nuclear accident. Scientific Reports Volume 3, Article number: 2554: 2013.8.30. 6 )阿 部 善 也 ら;Y. Abe, Y. Iizawa, Y. Terada et al. Detection of uranium and chemical state analysis of individual radioactive microparticles emitted from the Fukushima nuclear accident using multiple synchrotron radiation X-ray analyses. Analytical Chemistry 86(17), 8521–85251021/ac 501998d, 2014.8.1. 7 )産 総 研 HP「 風 に 乗 っ て 長 い 距 離 を 運 ば れ る 放 射 性 セ シ ウ ム の 存 在 形 態 」 ( 兼 保 直 樹 2012 年 7 月 31 日 ). http://www.aist.go.jp/aist_j/new_research/nr20120731/nr20120731.html 8 ) 生 井 兵 治「 自 然 核 種 と 人 工 核 種 の 大 き な 差 異 の 証 明 ― ― 放 射 性 カ リ ウ ム K-40 の リ ス ク は 無 い に 等 し い 」 『 市 民 と 科 学 者 の 内 部 被 曝 問 題 研 究 会 第 1 回 研 究 報 告 会 予 稿 集 ( 2013 年 6 月 15~ 16 日 ) 』 pp,11-12. 動 画 も あ り . http://www.acsir.org/info.php?2013-6-15-16-39 9) 粒 径 10 μm( 0.01 mm) 未 満 の 粗 大 粒 子 MP10 は 呼 吸 で 気 管 支 に ま で 達 し 、 2.5 μm( 250 ナ ノ メ ー ト ル( nm); 1 μm = 1,000 nm)未 満 の 微 粒 子 PM2.5 は 呼 吸 で 肺 の 肺 胞 に 達 し て 留 ま り 、 0.1 μm( 100 nm) 未 満 の 超 微 粒 子 PM0.1 は 消 化 管 や 肺 胞 か ら 血 中 に 入 る . United Nations Environment Programme -- Pollutants: Particulate matter (PM) (Suspended PM, PM10, PM2.5 and 6 PM0.1). http://www.unep.org/tnt-unep/toolkit/pollutants/facts.html ( 3 )粒 径 が 約 2 μm で 水 に 不 溶 性 の セ シ ウ ム ボ ー ル が 上 記 1 で 述 べ た K-40 と 同 様 に 54 Bq/kg の β 線 を 放 射 す る の に 要 す る 粒 数 を 計 算 し て み る と 、 Cs-137 の 原 子 数 N = ベ ク レ ル 値 ÷速 度 定 数 ( k ) 速 度 定 数 k = 2 の 自 然 対 数 ÷ Cs-137 の 半 減 期 Cs-137 原 子 の 半 減 期 は 約 30 年 ( 9.4608E8 秒 ) だ か ら 、 k = 6.931E-1÷9.4608E8 = 7.326E-10/秒 ∴ N = 5.4E1÷7.326E-10 = 7.371E10 = 737.1 億 個 ( 1 億 =1E8) ∴ Cs-137 が 1 回 の β 崩 壊 に 要 す る 原 子 数 は 、 = 7.371E10÷5.4E1 = 1.365E9 = 13.65 億 個 す な わ ち 、 毎 秒 54 Bq/kg の β 線 を 放 射 す る Cs-137 原 子 は 約 737 億 個 で 、 1 回 の β 崩 壊 に 要 す る 原 子 数 は 約 13.7 億 あ る 。 し か し 、 実 際 に は 、 セ シ ウ ム ボ ー ル 中 の Cs-137 の 放 射 能 は 平 均 3.27 Bq/粒 だ か ら ( 前 出 の 足 立 ら ) 5 )、 わ ず か 約 17 粒 /kg( 5.4E1÷3.27E0 = 1.651E1 = 16.5 粒 ) で 54 Bq の β 線 を 放 射することになる。 ( 4 )し た が っ て 、人 工 放 射 性 核 種 の セ シ ウ ム ボ ー ル を 体 重 60 kg の 体 内 に 約 990 粒( 16.5 粒 ×60 kg)を 取 り 込 む と 、わ ず か 990 箇 所 に 局 在 し て 計 3,240 Bq/秒 の β 線 が 密 に 放 射 さ れ 、 毎 秒 、 約 65 万 細 胞 ( 3,240×200 = 648,000) が被曝する。しかも、放射性セシウム含有ガラス状微粒子(セシウムボール) に は Cs-132 な ど も 含 む か ら 5 )、実 際 に は も っ と 少 な い 粒 数 で こ れ だ け の 放 射 線量になる。 な お 、セ シ ウ ム ボ ー ル は 、粒 径 が 大 き す ぎ る の で 消 化 管 や 肺 胞 か ら 血 液 中 に 入 る こ と は な い 。し か し 、鼻 腔 か ら 気 管 を と お り 肺 胞 に 達 す る ま で に 各 所 に 沈 着 す れ ば 、局 所 的 に 集 中 し て β 線 に よ る 内 部 被 曝 が 長 時 間 継 続 す る 。し た が っ て 、人 に よ っ て 鼻 血 は も ち ろ ん 様 々 な 健 康 被 害 が 生 じ 得 る こ と は 当 然 の 帰 結 で あ り 、雁 屋 10 ) 雁 屋 10 )の 主 張 ど お り「 鼻 血 は 風 評 」と の 断 定 は 根 本 的 に 間 違 っ て い る 。 哲 「 美 味 し ん ぼ 『 鼻 血 問 題 』 に 答 え る 」( 遊 幻 舎 , 2015). ( 5 ) も し も 、 54 Bq/kg の β 線 を 放 射 す る 人 工 放 射 性 核 種 の セ シ ウ ム ボ ー ル か ら 、 体 内 に お い て 単 体 の Cs-137 が 遊 離 す る と し て も ( 実 態 は 不 明 )、 体 重 60 kg( 6E1) の 体 内 で β 崩 壊 す る Cs-137 の 総 原 子 数 は 、 = 7.371E10×6E1 = 4.4226E12 7 = 4.423 兆 個 ( 1E12 =1 兆 ) ∴ Cs-137 の 原 子 数 は 、 13.57 個 ( 6E13÷4.4226E12 = 1.357E1) の 細 胞 当 たり 1 個となる。 し た が っ て 、こ れ を 自 然 放 射 性 核 種 の K-40 の 場 合 と 比 べ る と 、既 述 の と お り K-40 が 1 回 の β 崩 壊 を す る の に 要 す る 細 胞 数 は 、 = 総 細 胞 数 ÷総 放 射 量 = 6E13÷3.24E3 = 1.8519E10 = 185.2 億 個 ( 1 億 =1E8) ∴ K-40 の β 崩 壊 は 約 185 億 個 の 細 胞 当 た り 1 回 起 り 、β 線 の 放 射 量 が 毎 秒 約 54 Bq/kg で 、 体 重 60 kg で は 3,240 Bq( 3,240 回 の β 崩 壊 ) と な る わ け だ か ら 、大 雑 把 に 見 れ ば 体 内 の 約 3 千 200 箇 所 で 毎 秒 1 発 の β 線 が 放 射 さ れ る 。 ∴ 体 内 に お け る 単 体 の Cs-137 の β 崩 壊 箇 所 は 、K-40 の 場 合 の 約 13 億 6,500 万 分 の 1 ( 1.8519E10÷1.357E1 = 1.3647E9 = 1,364,700,000) で あ り 、 こ の こ と は 体 内 に お け る Cs-137 の β 崩 壊 箇 所 の 近 傍 で は K-40 の β 崩 壊 箇 所 の 近 傍 の 13 億 倍 以 上 の β 線 被 曝 を 受 け る こ と を 意 味 す る 。 な お 、 Cs-137 の 1 g 当 た り 原 子 数 は 、 = ア ボ ガ ド ロ 定 数 ÷質 量 数 = 6.02E23÷1.37E2 = 4.394E21 = 4,394 京 の 100 倍 ( 1 京 = 1E16) ∴ 13.65 億 個 の Cs-137 原 子 の 重 量 は 、 = 1.365E9÷4.394E21 = 3.107E-13 g す な わ ち 、 わ ず か 0.31 pg( ピ コ グ ラ ム ; 1 pg = 1E-12) で あ る 。 ( 6 )粒 径 1 μm 以 下 で 水 溶 性 の 放 射 性 セ シ ウ ム 含 有 硫 酸 塩 エ ア ロ ゾ ル 粒 子 に 含 ま れ る Cs-137 の 放 射 能 量 は 平 均 0.66 Bq で あ る 5 )。 し た が っ て 、 こ の 水 溶 性 粒 子 中 の Cs-137 が 54 Bq/kg の β 線 を 放 射 す る の に 要 す る 粒 数 は 約 82 粒 /kg( 54 Bq÷0.66 Bq = 81.82) だ か ら 、 体 重 60 kg の 身 体 に 約 5 千 粒 ( 81.82 ×60 = 4,909) が 取 り 込 ま れ れ ば 3,240 Bq の β 線 を 放 射 す る こ と に な る 。 し か も 、既 述 の と お り 、こ の う ち 0.1 μm( 100 nm)以 下 の 微 粒 子 は 消 化 管 や 肺 胞 か ら 血 中 に 入 る の で 、骨 格 筋 肉 や 幾 つ か の 特 定 臓 器 な ど で 局 所 的 に β 線 を 放 射 し 続 け る こ と に な る ( 詳 細 は 、 後 述 の 3 を 参 照 )。 ( 7 )結 論 と し て 、実 際 に は 、体 内 に 取 り 込 ま れ た 放 射 性 核 種 の 放 射 能( ベ ク レ ル 数 )が 等 し く て も 、混 成 集 合 体 で あ る 人 工 放 射 性 核 種 の う ち 粒 径 が 2 μ m 程 度 で 不 溶 性 の セ シ ウ ム ボ ー ル や 、粒 径 が 1 μm 以 下 で 水 溶 性 の 放 射 性 セ シ ウム含有硫酸塩エアロゾル粒子を呼吸によって呼吸器系器官に取り込んだと 8 き の 内 部 被 曝 と 、粒 径 が 0.1 μm 以 下 で 水 溶 性 の 放 射 性 セ シ ウ ム 含 有 硫 酸 塩 エ ア ロ ゾ ル 粒 子 を 飲 食 に よ っ て 消 化 器 系 器 官 に 取 り 込 ん だ と き の 健 康 被 害 は 、全 身 に 散 ら ば る 単 体 の K-40 原 子 に よ る よ り も 格 段 に 桁 違 い の 大 き さ で 被 害 を 局 所的に受けることになる。 3.細胞の寿命(細胞の交替)との関連でみるβ線被曝の実態 ( 1 ) 各 種 組 織 ・ 器 官 の 細 胞 の 寿 命 と の 関 連 で 、 K-40 と Cs-137 の β 線 放 射 に よ る 被 曝 影 響 を 見 て み よ う 。種 々 の 細 胞 の お よ そ の 寿 命 は 、例 え ば 、消 化 管 上 皮 細 胞 は 約 1 日 、 赤 血 球 の 寿 命 は 約 4 ヵ 月 、 骨 細 胞 は 約 10 年 で あ る が 、 心 筋 細 胞 、脳 細 胞・神 経 細 胞 な ど は 出 生 後 に は ヒ ト が 死 ぬ ま で 細 胞 分 裂 し な い ままである 11 )。 し た が っ て 、 単 純 計 算 す る と 、 既 述 の と お り 、 60 兆 個 ( 6E13) の 細 胞 が 自 然 放 射 性 核 種 の K-40 に よ っ て 1回は被曝する日数は、 = 総 細 胞 数 ÷被 曝 細 胞 数 /日 = 6E13÷5.599E10 = 1.072E3 = 1,072 日 ∴ K-40 の β 崩 壊 に よ る β 線 被 曝 で は 、 3 年 弱 で 全 細 胞 が 1 回 は 被 曝 す る 計 算になるので、寿命が1日と短い消化管上皮細胞や寿命が約 4 ヵ月の赤血球 では被曝前に新細胞に世代更新する割合が高いことになる。 11 ) 秦 順一「細胞の不思議-その2‐」 http://www015.upp. so-net.ne.jp/j-hata/husigi/saibou2.html ( 2 ) 自 然 放 射 性 核 種 の K-40 に よ っ て 長 寿 命 の 心 筋 細 胞 な ど が 一 生 の 間 ( 80 年 と し て ) に 被 曝 す る 細 胞 ご と の 回 数 を 単 純 計 算 す る と 、 年毎の細胞当たりのβ崩壊の回数は、 = β 崩 壊 数 /秒 ×年 間 秒 数 ÷総 細 胞 数 = 3.24E3×3.1536E7÷6E13 = 1.703E-3 = 0.0017 回 一 生 の 間 ( 80 年 ) の 各 細 胞 当 た り の β 崩 壊 の 総 回 数 は 、 = 8E1 年 ×1.703E-3 回 = 1.3624E-1 = 0.13624 = 約 0.14 回 ∴ 一 生 の 間 ( 80 年 間 ) の 細 胞 当 た り の β 線 被 曝 回 数 は 、 β 崩 壊 ご と の 被 曝 細 胞 が 200 個 ( 2E2) だ か ら 、 = 1.3624E-1 回 ×2E2 細 胞 = 2.7248E1 = 27.248 回 9 つ ま り 、 一 生 の 間 に 細 胞 分 裂 を し な い 心 筋 細 胞 な ど の β 線 被 曝 回 数 は 約 27 回 で あ る 。 し か し 、 現 実 に は 、 約 3 年 に 1 回 0.005 Bq と 極 め て ま ば ら な 低 線 量被曝であるから、深刻な健康被害は起らない。 (3)福島原発事故に由来する人工放射性核種のセシウムボールなどの Cs-137 に よ る β 線 被 曝 は 、 既 述 の と お り セ シ ウ ム ボ ー ル 近 傍 の 細 胞 に 極 め て 局 所 的 で あ る 。す な わ ち 、体 重 1 kg 当 た り 、自 然 放 射 性 核 種 の K-40 で は 5.824 京 個 の 原 子 に 対 し て 、セ シ ウ ム ボ ー ル の Cs-137 で は 3.27 Bq/秒 の β 線 を 放 射 す る の で わ ず か 約 17 粒 だ か ら 、 0.353 京 = 3,530 兆 分 の 1 の 高 密 度 で あ る 。 し た が っ て 、 局 所 的 な セ シ ウ ム ボ ー ル 近 傍 の 細 胞 の β 線 被 曝 量 は 、 K-40 の 約 1 京 倍( 0.353 京 ×2.94 年 = 1.04)で あ る 。粒 径 が 1 μm 未 満 で 水 溶 性 の 放 射 性 セ シ ウ ム 含 有 硫 酸 塩 エ ア ロ ゾ ル 粒 子 で も 、既 述 の と お り 含 有 す る Cs-137 の 放 射 能 量 は 平 均 0.66 Bq だ か ら 、体 重 60 kg の 体 内 に 約 5 千 粒 が 取 り 込 ま れ れ ば 3,240 Bq の β 線 を 放 射 し 、 こ の う ち 0.1 μm 以 下 の 微 粒 子 は 消 化 管 や 肺 胞 か ら 血 中 に 入 る の で 、特 定 臓 器 な ど で 局 所 的 に β 線 を 放 射 し 続 け 、自 然 放 射 性 核 種 の K-40 に よ る β 線 被 曝 と 比 べ れ ば 細 胞 当 た り 被 曝 量 は 桁 違 い に 大 き い 。 ( 4 )も し も 、約 17 粒 の 不 溶 性 の セ シ ウ ム ボ ー ル が 肺 胞 に 沈 着 す れ ば 、わ ず か 17 箇 所 の セ シ ウ ム ボ ー ル 近 傍 の 細 胞 が 毎 秒 計 54 Bq の β 線 に 集 中 し て 何 度 も 被 曝 す る こ と に な る 。 ま た 、 0.1 μm 以 下 の 水 溶 性 の 放 射 性 セ シ ウ ム 含 有 硫 酸 塩 エ ア ロ ゾ ル 粒 子 の 約 5 千 粒 が 血 中 に 入 れ ば 、特 に 子 ど も で は 甲 状 腺 、骨 格筋、小腸、心筋などに集積しやすく 12 )、 計 約 5 千 箇 所 の 放 射 性 微 粒 子 近 傍 の 細 胞 が 毎 秒 計 3,240 Bq の β 線 に 集 中 し て 何 度 も 被 曝 す る 。 実 際 に は 、 不 溶 性 、水 溶 性 の 如 何 に か か わ ら ず 、放 射 性 セ シ ウ ム 微 粒 子 に は 複 数 の 異 な る 放 射 性核種が含まれるので 5 )、 上記よりも少ない粒数で毎秒 54 Bq/kg ( 3,240 Bq/60 kg) の β 線 に 被 曝 す る 。 し た が っ て 、 セ シ ウ ム 137 な ど を 含 有 す る 複 合 混 成 体 と し て の 人 工 放 射 性 核 種 に よ る β 線 被 曝 の 健 康 被 害 は 、自 然 放 射 性 核 種 で あ る 単 体 の K-40 に よ る β 線 被 曝 に 比 べ て 、著 し く 少 数 の 細 胞 が 短 時 間 に 繰 り 返 し 被 曝 す る こ と が 明 ら かである。 12 ) 子 ど も の 8 臓 器 ( 心 臓 、 脳 、 肝 臓 、 甲 状 腺 、 腎 臓 、 脾 臓 、 骨 格 筋 、 小 腸 ) の Cs-137 平 均 蓄 積 量 は 大 人 よ り も 顕 著 に 高 く 、1 位 の 甲 状 腺 が 約 1,300 Bq/kg、心 臓 は 4 位 で 約 600 Bq/kg、 肝 臓 が 8 位 で 約 400 Bq/kg で あ る 。 Y. I. Bandazhevsky Chronic Cs-137 incorporation in children’s organs. Swiss Med WKLY. 133:488–490 (2003). 10 ( 5 )出 生 後 に は 細 胞 分 裂 し な い 長 命 の 心 筋 細 胞 、脳 細 胞・神 経 細 胞 な ど で は 、 上 述 の と お り 一 生 の 間 ( 80 年 間 ) に K-40 か ら の β 線 に 各 細 胞 が 平 均 約 27 回 の 反 復 被 曝 を 受 け る 。 し か し 、 こ の 場 合 は 毎 秒 β 崩 壊 が 5.824 京 個 の 原 子 当 た り 1 回 起 る だ け で あ る か ら 、被 曝 は 著 し く 散 発 的 で あ る 。一 方 、不 溶 性 のセシウムボールや水溶性の放射性セシウム含有硫酸塩エアロゾル粒子によ る β 線 被 曝 が 心 筋 細 胞 な ど 長 命 の 細 胞 で 起 れ ば 、 K-40 の 場 合 と 等 し い 被 曝 量 だ と し て も 、放 射 性 微 粒 子 の 近 傍 の 細 胞 だ け が 毎 秒 繰 り 返 し 被 曝 す る こ と に な り 、DNA の 二 本 鎖 が 同 時 に 切 断 さ れ 得 る な ど 、K-40 に よ る β 線 被 曝 と は 根 本 的に異なることが分かる。 し か も 、 チ ェ ル ノ ブ イ リ 原 発 事 故 後 の 経 過 を み れ ば 、 体 内 の Cs-137 が 50 Bq/kg を 超 え る と 心 血 管 系 、神 経 系 、内 分 泌 系 、生 殖 系 そ の 他 、各 種 の 臓 器 障 害 症 候 群 が 多 発 し 、特 に 子 ど も で は 15~ 20 Bq/kg が 危 険 限 界 で あ り 疎 開 な ど 体外排出策を積極的に講じる必要がある 13 )。 さ ら に 、 チ ェ ル ノ ブ イ リ 原 発 事 故 に よ る ウ ク ラ イ ナ の 子 ど も た ち の 被 害 の 現 状 は 、 毎 日 わ ず か 1.1 Bq を 汚 染 食品によって摂取すると頭痛が発症し 14 )、毎 日 2 Bq を 摂 取 し 続 け る と 8 割 の 子どもたちにさまざまな複数の病徴が発症している 13 )ア レ ク セ イ・V・ヤ ブ ロ コ フ ら『 調 査 報 告 14, 15 )。 チ ェ ル ノ ブ イ リ 被 害 の 全 貌 』( 星 川 淳 監 訳 , チ ェ ル ノ ブ イ リ 被 害 実 態 レ ポ ー ト 翻 訳 チ ー ム 訳 , 岩 波 書 店 , 2013) . 14 ) NPO 法人食品と暮らしの安全基金(旧称:日本子孫基金)『食品と暮らしの安全』. これまでの同基金によるこれまでのウクライナ調査の報告が網羅されている. http://tabemono.info/report/chernobyl.html 15 ) 白 石 草 『ルポ チ ェ ル ノ ブ イ リ 28 年 目 の 子 ど も た ち ― ― ウ ク ラ イ ナ の 取 り 組 み に 学 ぶ ( 岩 波 ブ ッ ク レ ッ ト No. 917) 』 ( 岩 波 書 店 , 2014) . ( 6 )し た が っ て 、福 島 原 発 事 故 に よ っ て 放 出 さ れ た 不 溶 性 の セ シ ウ ム ボ ー ルや水溶性の放射性セシウム含有硫酸塩エアロゾル粒子のβ崩壊によるβ線 被 曝 の 実 態 を 考 慮 す れ ば 、放 射 線 に 対 し て 感 受 性 の 高 い( 抵 抗 性 の 低 い )人 た ち が 鼻 血 を 出 す こ と は 容 易 に 理 解 で き 、心 臓 疾 患 で 急 死 す る 人 や 精 神 障 害 な ど が増えている現実も残念なことであるが理解できる。 ( 7 )3 .11 に 起 因 す る 福 島 原 発 事 故 後 、例 え ば 放 射 能 汚 染 地 の 南 相 馬 市 は ホ ー ル ボ デ ィ カ ウ ン タ ー ( WBC、 キ ャ ン ベ ラ 社 製 ) 検 査 を 始 め 、 高 校 生 以 上 4,745 名 の 検 査 も 9 ~ 12 月 に 行 っ た 。 WBC 検 査 で Cs-137 の γ 線 が 40 Bq な ら 、 体 内 の β 線 も ほ ぼ 40 Bq で あ る 。 γ 線 検 出 者 1,943 名 中 、 20 Bq/kg 以 下 1,774 名 、40 Bq/kg 以 下 138 名 、40 Bq/kg 以 上 31 名 で 、最 高 値 は 110.7 Bq/kg であった 16 )。 市 当 局 は 、 チ ェ ル ノ ブ イ リ 原 発 事 故 後 5 ~ 10 11 年 の 現 地 の WBC 検査結果と比べれば、市民の内部被曝量は極めて少ないとしている。 また、マーケットバスケット方式のトータルダイエット試料によって Cs-134、 Cs-137 と K-40 の 食 物 摂 取 に よ る 年 間 被 曝 線 量 を ICRP 方 式 で 比 べ た 福 島 県 下 の 例 で は 、 Cs-134 と Cs-137 は 3.4 Bq/日 で 被 曝 量 0.019 mSv/年 、 K-40 は 83 Bq/日 で 被 曝 量 0.19 mSv/年 で 、 Cs-134 と Cs-137 に よ る 被 曝 線 量 は K-40 の 10 分 の 1 で あ る と い う 17 )。 し か し 、 ICRP 方式による被曝線量の シ ー ベ ル ト ( Sv) 換 算 は 、 被 曝 細 胞 だ け を 対 象 と す る の で は な く 、 臓 器 ま た は 身 体 全 体 で 平 均 化 し て し ま う な ど 科 学 的 根 拠 に 乏 し く 、内 部 被 曝 が い ち じ る しく過小評価されており 16 ) 南 相 馬 市 18, 19 )、 こ の よ う な 論 文 は 市 民 を 欺 く だ け で あ る 。 HP:「 市 民 の 内 部 被 ば く 検 診 結 果 」 ( 1)~( 6)の う ち ,引 用 し た 数 値 は( 1) 内 に あ る . http://www.city.minamisoma.lg.jp/index.cfm/10,2023,61,344,html 17 ) 堤 智 明 ,鍋 師 裕 美 ,五 十 嵐 敦 子 ほ か「 マ ー ケ ッ ト バ ス ケ ッ ト 方 式 に よ る 放 射 性 セ シ ウ ム お よ び 放 射 性 カ リ ウ ム の 預 託 実 効 線 量 推 定 」『 食 品 衛 生 学 雑 誌 』 54(1), 7-13 (2013). 18) 矢 ヶ 﨑 克 馬 『 隠 さ れ た 被 曝 』( 新 日 本 出 版 社 , 2010). 19)落 合 栄 一 郎『 放 射 能 と 人 体 ― ― 細 胞・分 子 レ ベ ル か ら み た 放 射 線 被 曝 』 ( 講 談 社 ,2014). 《 結 論 》以 上 の 検 証 結 果 に 基 づ け ば 、低 線 量 内 部 被 曝 に つ い て 単 に 総 線 量 や 平 均 値 で 論 じ る こ と は 根 本 的 に 誤 っ て い る 。そ し て 、例 え ば 南 相 馬 市 で WBC 検 査 に よ り Cs-137 が 20 Bq/kg 以 上 の 結 果 の 被 検 者 が セ シ ウ ム ボ ー ル を 呼 吸 器 系 に 取 り 込 ん で い る 場 合 に は 、残 念 な が ら 排 泄 さ れ な い た め 、非 汚 染 地 に 避 難 し て も 内 部 被 曝 が 長 期 に わ た り 続 く 可 能 性 が 高 い 。た だ し 、現 在 も 福 島 そ の 他 の 高 線 量 汚 染 地 帯 に 住 み 粒 径 0.1μ m 以 下 で 消 化 管 と 肺 胞 か ら 血 中 に 取 り 込 ま れ得る放射性セシウム微粒子を飲食や呼吸によって体内に日々取り込む状態 に あ る 子 ど も た ち に と っ て は 、早 急 に 安 全 な 場 所 に 避 難( 疎 開 な い し 移 住 )さ せることが最良の脱被曝対策である。 中 央 政 府 も 地 方 政 府 も 、政 府 寄 り の「 斯 界 の 専 門 家 」も 、被 曝 の 危 険 性 を 隠 蔽 し て 帰 還 を 進 め る の で は な く 、福 島 原 発 事 故 に よ る 放 射 能 汚 染 と 低 線 量 内 部 被 曝 の 健 康 被 害 の 実 態 を 科 学 的 に 検 討 し て 、自 分 た ち の 過 ち を 真 摯 に 認 め て 反 省し、原発政策と棄民政策を根本的に改めるべきである。 子 ど も た ち の い の ち を 守 ら な い 生 物 集 団 は 、早 晩 滅 び る し か な い 。子 ど も た ち の い の ち を 守 ら な い 安 倍 晋 三・自 公 内 閣 総 理 大 臣 が 、解 釈 改 憲 で 集 団 的 自 衛 権 を 持 っ て 国 民 の い の ち を 守 る と 力 ん で も 、説 得 力 は ゼ ロ で あ る 。い ま 政 府 が 緊 急 に な す べ き こ と は 、明 治 憲 法 下 の 戦 前 に 回 帰 す る こ と で は な く 、福 島 第 一 原発の真の収束と被曝住民の安寧な暮らしの保障である。 (以上) 12
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