NTN TECHNICAL REVIEW No.83(2015) [ 商品紹介 ] 次世代ステアリング用MCU MCU (Mechanical Clutch Unit) for Next Generation Steering 北 山 直 嗣* Naotsugu KITAYAMA 石 川 慎太朗* Shintaro ISHIKAWA 自動運転化やドライバーの疲労軽減のため,操舵を電動化した次世代ステアリン グシステムが採用されつつある.一方,システムの電気的失陥が発生した場合に は,操舵を可能とするバックアップ機構が必要である. NTNでは,当社独自技術であるメカニカルクラッチユニット(MCU)のバックラッシを小さくし,通電されないときに瞬 時に締結する次世代ステアリングシステム用メカニカルクラッチユニットを開発した. The next generation steering system which controls steering with electric signal starts to be adopted for the purpose of automated cruise or alleviating driver’s fatigue. On the other hand, the system must be obtained something mechanical back up function in case of emergency condition such as electric failure. By using the NTN’s own MCU (Mechanical Clutch Unit) technology, NTN has developed “smaller” backlush type new MCU for the next generation steering system. And it has very useful feature which makes a quickly locking when the electric power is shut off, it is our unique technology. Type1は,現行のステアリングシステムに,モー 1.はじめに タと減速機構で構成する作動角制御機構により操舵角 を可変するシステムである. 近年,自動車における電子制御の高機能化および信 頼性の向上により,従来の機械的伝達が電気的伝達に Type2は,ステアリングホイールの操舵角を電気 置き換えられ,ブレーキやアクセルなどのバイワイヤ 信号により転舵アクチュエータに伝達し,車両の舵角 化が進んでいる.その中でも,自動運転化やドライバ を制御するが,機械的バックアップ機構も存在し,電 ーの疲労軽減を目的に,次世代ステアリングシステム 気的失陥が発生した場合でも操舵を可能にするシステ で あ る ス テ ア バ イ ワ イ ヤ ( 以 下 SBW: Steer By ムである. Type3は,Type2に対し機械的バックアップ機構 Wire)技術がトレンドとなりつつある. がない.そのため,航空機のように電気的バックアッ SBWは図1に示すType1からType3の3タイプの プシステムを搭載し,冗長性を取り入れる必要がある. 機構に大別される1). ステアリングホイール 作動角制御機構 操舵反力アクチュエータ 機械的バックアップ機構 パワーステアリング 転舵輪 (a)Type1 転舵アクチュエータ (b)Type2 図1 次世代ステアリングシステム Types of next generation steering *自動車事業本部 -32- 転舵アクチュエータ (c)Type3 次世代ステアリング用MCU また,現在の法規では,電気的失陥が発生した場合に, 3.次世代ステアリング用MCUを支える NTN独自技術 操舵を機械的にバックアップする機構が必要であり, 現段階では市場投入は難しい. 従い,自動車用SBW技術としては,当面Type2が 次世代ステアリング用MCUは,バックアップ機構 主流となることが見込まれ,信頼性の高い機械的バッ として,以下3点が要求される. クアップ機構が必要になる. ① ローラクラッチの確実な締結と解放 ② ローラクラッチ締結状態でのバックラッシ低減 NTNでは,上記機械的バックアップ機構として,独 自技術のメカニカルクラッチユニット(以下MCU: ③ 低フリクション Mechanical Clutch Unit)をもとに,直線運動を回 当社では独自技術のローラクラッチと電磁クラッチ 転運動に変換するボールカム機構の新規採用及びロー をユニット化した,高トルク容量かつ低フリクション ラクラッチ部のローラ配置を最適設計することで,コ のMCUをもとに,(1)ボールカム機構を新規に採用 ンパクトで高トルク容量,バックラッシを低減した次 し,(2)ローラクラッチ部に2つのローラを対に配置 世代ステアリング用MCUを開発した. することで,コンパクトで高トルク容量かつバックラ ッシを低減させた.次世代ステアリング用MCUの仕 様を表1に示す. 2.次世代ステアリング用MCUの適用部位 (ダイレクトアダプティブステアリング※の紹介) 表1 次世代ステアリング用MCUの仕様 Specifications of MCU for next generation steering system ダイレクトアダプティブステアリング(以下DAS: サイズ Direct Adaptive Steering)は,日産自動車株式会 φ85×190mm 定格トルク 社が市場投入した世界初の次世代ステアリングシステ 応答時間 80N・m 0.1s 以下 ムであり,MCUはこのDASの機械的バックアップ機 3. 1 ボールカム機構の採用 構として搭載されている(図2). DASは,MCU内部の電磁クラッチに通電すること 一般的な電磁クラッチは,通電時に入力軸から出力 でローラクラッチ締結を解除し,機械的に直結されて 軸に動力を伝達し,非通電時には入力軸から出力軸に いたステアリングホイールとステアリングラックを電 動力が伝達されない,いわゆる正作動である.しかし, 気的信号で繋ぐ.万一電気的失陥が発生し,電磁クラ SBWのバックアップ機構では電気的失陥が発生した ッチに通電されなくなると,瞬時に内蔵されたローラ 場合に,ローラクラッチを締結させ動力を伝達させる クラッチが締結し,ステアリングホイールからステア 必要がある(逆作動). 開発したMCUでは,電磁クラッチとローラクラッ リングラックまでが機械的に結合されるため,従来通 チの間に電磁クラッチの直線運動を回転運動に変換さ りの車両操舵が可能となる. せるボールカムを採用することで2つの保持器の周方 ステアリングホイール 向位置を調整する機構とした.その動きによって,電 MCU 磁クラッチに通電した時にローラクラッチを解除し, ステアリングシャフト 入力軸から出力軸に動力を伝達しない.また,電磁ク ラッチに通電しない時には,ローラクラッチを締結し, 入力軸から出力軸に動力を伝達する逆作動を実現した ステアリングラック (図3). 3. 2 ローラ配置の改良 従来のMCUは,カム面に1つのローラを配置する ダイレクトアダプティブステアリング シングルローラクラッチであるが,次世代ステアリン 写真:日産自動車株式会社殿 グ用MCUでは2つのローラを対に配置するツインロ 図2 DAS用MCU適用箇所 Layout of MCU for DAS ーラクラッチを採用することで回転方向が切替わる際 のバックラッシを低減した.(図4) ※日産自動車株式会社殿 登録商標 -33- NTN TECHNICAL REVIEW No.83(2015) 3. 3 作動原理 電磁クラッチ 以下にローラクラッチ解放時及び締結時の作動原理 ボールカム を示す.(図5) <ローラクラッチ解放時(SBW状態)> ローラクラッチ ① 電磁クラッチに通電すると,保持器1が電磁クラッ チに吸引される(軸方向直線運動). ② ①作動中に保持器1の直動運動がボールカム機構に よって回転運動へ変換され,保持器1及び保持器2 が相対回転する(直線運動⇒回転運動へ変換). ③ 保持器1及び保持器2の相対回転により,ローラ間 距離が縮小される. ④ 出力軸とローラ間にすきまができるため,入力軸 図3 MCU構造 Structure of MCU α (ステアリングホイール)からの動力が出力軸に伝 達されない,SBW状態となる. α β β <ローラクラッチ締結時(機械的結合状態)> ⑤ 電磁クラッチ非通電時は,ローラ間に配置されて いるばねの押圧力によってローラが締結可能位置 α>β (a)従来の MCU で保持される. ⑥ 入出力軸いずれから動力がかかると,ローラが入 (b)次世代ステアリング システム用 MCU 力軸カム面と出力軸で形成された『くさび』に噛 図4 バックラッシ低減 Reducing backrush み込み,機械的に繋がる. ローラクラッチ解放時(SBW 状態) ローラクラッチ締結時(機械的結合状態) ② 保持器 2 ⑤ 保持器 2 ① ⑤ ばね ばね ローラ ローラ 出力軸 出力軸 保持器 1 保持器 1 A B A 矢視(ローラクラッチ解放位置) B 矢視(ローラクラッチ締結可能位置) 出力軸 保持器 1 保持器 2 ⑤ ⑥くさび ④すきま ローラ ローラ ローラ ローラ 入力軸 ③ 入力軸カム面 図5 ローラクラッチ作動原理(模式図) Roller clutch mechanism (Pattern diagram) -34- 次世代ステアリング用MCU 4. 3 静捩り試験 4.評価試験 ローラクラッチ締結状態で,一方向に捩りトルクを 負荷した静捩り試験測定結果例を図8に示す.ローラ 4. 1 捩り耐久試験 クラッチ締結時,定格トルク80N・m以上の強度を有 ローラクラッチ締結状態で,入力軸にCW/CCW方向 している. の繰り返し定格トルクを測定し,100万回負荷した試 験結果を図6に示す.ローラクラッチは,繰り返しのト ルク負荷で定格トルクを定めており,次世代ステアリ ング用MCUでは80N・mである.試験前後でのバック ラッシ増大や破損及び摩耗などの問題発生はなかった. ト ル ク 100 N・m CW:80N・m 80 定格 80N・m 60 40 ト ル ク 20 捩り角度 deg. 0 -20 N・m 図8 静捩り試験結果(例) Result of Static torsional strength test (example) -40 -60 -80 CCW:80N・m -100 5.まとめ 時間 sec. 図6 捩り耐久試験結果 Result of torsional endurance test 本稿では,NTN独自のMCU技術をもとに,ボール カムの採用及びローラクラッチ部に2つのローラを対 に配置し,バックラッシを低減した次世代ステアリン 4. 2 回転トルク測定 グ用MCUを紹介した.今後,次世代ステアリングシ ローラクラッチ解放状態で,入力軸を一方向に回転 ステムのバックアップ機能を付加し,ステアリングシ させた時の,回転トルク試験結果を図7に示す.回転 ステムの信頼性向上に寄与する商品として市場展開を トルクは,内蔵する軸受のみの回転トルクに比べ10% 図っていく. 以内の増加に留まり,低フリクションを実現した. 参考文献 1)総合技研株式会社 自動車エレクトロニクス研究グル ープ,2014年度版 自動車バイワイヤ用技術の現状 と将来分析,総合技研株式会社, (2014)68-97. 内蔵軸受の回転トルク との差:10%以内 ト ル ク N・m 執筆者近影 内蔵軸受の 回転トルク 次世代ステアリング システム用MCUの 回転トルク 図7 回転トルク試験結果 Result of rotating torque test -35- 北山 直嗣 石川 慎太朗 自動車事業本部 自動車事業本部
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