5.腫瘍内科

5.腫瘍内科
腫瘍内科では、白血病を除く悪性腫瘍(がん)の薬物療法を行うとともに、関連する
病態への対応を行う。安全管理上問題となるのは、抗がん薬と麻薬の取り扱いである。
本稿では主に抗がん薬治療上の安全管理について記載する。
麻薬の取り扱いに関しては、当院の「麻薬取り扱い規約」に従う。
治療・看護方針
診療に当たる全スタッフが合議して決定する。
決定した診療方針を患者および家族に納得のいくように説明を行う。
文書を用いて説明同意を行うことを基本とする。同意は、患者および家族が十分に検討
できる余裕を与えて行なう。また同意を得たのちも、いつでも変更や撤回を患者側の意
思で行えることを保証する。同意意思が記載された説明同意文書は一部を病院側、一部
を患者側が保管する。
(1)抗がん薬治療
①レジメン:
レジメンの採用に当たっては、患者の安全性を最優先する。また標準化された治療
法に従うべきである。詳細については化療委員会規約に従う。
②処方:
患者の全身状態、臓器機能をはじめとした忍容性、治療への理解度、さらには社会
的因子も考慮して、治療の是非および内容を決定する。
化学療法に用いるレジメンは化学療法委員会で承認されたものを用いる。
患者への説明同意なしに化学療法薬の処方を行ってはならない。
薬剤部における監査や調剤に要する時間を鑑み、前日までの処方を原則とする。
③承認:
基本的に化学療法当日ないしは前日に全身状態と臨床検査値を確認する。安全に投
与できることを判断の上、医師が承認を行う。承認後、スタッフはそれがその患者
に関するものであることを確認の上薬剤部に調剤依頼の連絡を入れる。
④調剤:
薬剤師は、承認を受けた抗がん薬処方の監査と調剤を行う。臨床検査値上ないし薬
理学的に妥当であると判断されれば、注射薬の混注調剤(ミキシング)を行う。調
剤前には、調剤者は十分に手洗いを行った後に手袋を着用する。微量の調整を可能
にするため、適切なシリンジを選択する。抗がん薬の調剤は安全キャビネットで行
い、薬剤が散布しないよう配慮する。
⑤実施:
調剤済みの薬剤が患者本人のための物であり内容及び投与法が適切であることを投
与直前に確認の上、薬理知識と十分な経験を有する看護師ないし医師が、調剤ない
し混注された薬剤を患者に投与する。
⑥有害事象への対応:
化療開始前と開始後毒性の出現が予想される時期に、医師をはじめとしたスタッフ
が身体状況の観察と臨床検査値の確認を必ず行う。
予想される毒性に対しては可能な限りの予防的措置をとる。
リスクの高い症例に対しては、化療中は心電図等のモニタリングを行う。
化療中に有害事象が出現した場合は、原因薬剤の投与を中止し、医療的対応を行う。
患者の求めに応じて 24 時間の医療対応を行う。これを確実に行うために「あんしん
カード」を発行する。
有害事象に対する対応は当院看護手順およびガイドライン、添付文書に従う。必ず
医師が診察し対応を判断する。ただし超緊急時はこの限りでない。
緊急を要する有害事象や皮下漏洩時、ポート・トラブル等への対応は、看護手順に
記載されている。アナフィラキシー症状等超緊急を要する事象への対応は、手順書
のみならず、つねに目に付くところに掲示し、またすぐに手に取れるようカード化
して配備する。
また起こった事象については、遺漏なく患者ならびにご家族に説明を行い、今後の
対応や治療方針を話し合う。
(2)外来化学療法室
化学療法の経験を有する専任の看護師 2 名以上、受付事務員 1 名を配置する。
がん薬物療法に関する薬理学的知識と十分な経験を有する常勤の医師が応時対応で
き、専任の常勤薬剤師が調剤、監査、混注業務を行える体制をとる。
リクライニングチェア、専用ベッドを配置し、アメニティに配慮する。
モニタリング装置、救急対応装置や器具、薬剤を配備する。
緊急事態に備え、随時患者が入院できる体制をとる。
(3)外来診療
①初診:
紹介を受けた悪性腫瘍患者に十分な説明を行う。納得し同意を得たうえで適正な治
療とケアを行う。
スタッフは、適切な治療ができるよう必要十分な資料が揃っているか、あるいは十
分な病状説明が行われているかを、受診に先んじて確認する。不足している検査や
説明事項がある場合、不足事項を補うよう努める。必要事項が不足しているため患
者に不利益が生じると考えられる場合、当科の受診を控えて頂くよう指導する場合
もある。
②診療内容:
がん患者の病態に対応するため、化学療法とその支持療法のみならず、セカンド・
オピニオン、緩和医療、精神腫瘍、等の外来も行う。また放射線治療中の経過観察
等も行う。
化療開始前と開始後毒性の出現が予想される時期には外来診療を行い、医師をはじ
めとしたスタッフが身体状況の観察と臨床検査値の確認を必ず行う。必要に応じて
入院経過観察を行う。
(4)入院診療
①他科からの紹介:
キャンサー・ボードでの紹介や院内紹介を受けた患者については、病状説明や患者
の治療に対する意思の確認、検査等治療に必要な準備が適切に行われているかを確
認の上、腫瘍内科に転科とする。
腫瘍内科の医師が適切でないと判断した症例については、引き続き紹介元の科で経
過観察頂くことがある。
②入院診療一般:
主治医単独ではなく、チームで入院患者への対応を行う。
日常業務の遂行にあたっては当番医を定める。
③化学療法・放射線療法病棟:
がんの化学療法、化学放射線治療、放射線単独治療で通院治療が困難な患者が対象
となる。
基本的に化学療法前日および毒性の出現が予想される日に臨床検査値の確認を行う。
抗がん薬投与前後、放射線治療中は複数のスタッフにより毎日病状観察を行い、症
状・身体所見に変化があれば直ちに対応する。
治療の影響から回復し、退院後の生活を安全に送れることを確認した上で退院とす
る。
④緩和ケア病棟
終末期がん患者のみならず、治療開始早期であっても身体的苦痛や精神的苦痛の緩
和、抗がん薬の有害事象への対応、在宅療養環境調節等が必要ながん患者を対象と
する。
専従医師を初めとしたスタッフがチーム制で療養を担当する。
週 1 回開催される緩和ケア病棟入退院判定会議で入院の適否を決定する。
緩和ケア病棟の療養方針に同意して頂いた上での入院とする。このための説明同意
文書を必要とする。説明同意を頂く上で特記すべきことは以下である。これについ
て同意頂けない場合や従って頂けない場合は、他病棟での療養を選択頂く。
1)患者人権を重視するために可能な限りベッド拘束等の対応は行わない。また症
状コントロールのための薬剤を使用することもあり、転倒のリスクが高まるこ
と。転倒時の対応は基本的に他病棟と同様である。
2)本人の希望を優先し、家族と過ごせる時間を有効に使って頂けるよう自由度の
高い療養管理環境とする。このため事故等の生じるリスクが高まることまた即
時の対応が困難になることを考慮し対応する。
3)手術、抗がん薬、放射線治療等のがん治療は実施しないこと。
4)延命措置よりも症状緩和を優先すること。高カロリー輸液は終末期と考えられ
る場合は施行しない。人工呼吸をはじめとした心肺蘇生は本病棟においては行
わない。麻薬の取り扱いに当たっては、当院における「麻薬取り扱い規約」を
遵守する。退院にあたっては、療養環境調整を行ったうえでの退院とする。ま
た急変時の対応が出来るよう、各部署・施設と連携をとる。当院で 24 時間の救
急対応が必要とされる症例には「あんしんカード」を携帯いただく。
⑤リビング・ウイル
当科で治療中の患者については、しかるべき時期に「緩和医療と延命措置」に関し
て文書で説明同意を得る。同文書の中で DNR(Do Not Resuscitate)を選択された症例
については、挿管・人工呼吸器を用いた延命措置は行わない。一方延命措置を選択
された症例については延命措置を行う必要がある。ただし DNR を表明されている症
例においても、他の治療を行うことで病状の改善が見込める場合はしかるべき対応
をとるべきであり、またとるべき手立てが無いか治療や処置が望ましくない場合に
おいても、患者や家族の心情を配慮した対応をとる必要が診療に当たる医師にはあ
る。
これについては、意思表示をされていることがわかるよう、診療記録画面の最も目
立つところに記載し、齟齬のないようせねばならない。一方で患者の人権・心理に
配慮し、いずれを選択されたかが、直接患者や家族の目に触れないように、もしく
は一瞥してわかることのないよう配慮せねばならない。
⑥24 時間の救急対応体制
あんしんカード:
外来化学療法あるいは緩和ケア病棟入院での治療を提供する場合、365 日 24 時間応
時の医療対応が必要である。これに対応するため、当院腫瘍内科では「あんしんカ
ード」を発行する。
「あんしんカード」の発行に当たっては、医療者側だけでなく患者側も一緒になっ
て良い医療が行われるよう説明同意を行う。