研究班紹介 ● B01 二次共生における共生藻のオルガネラ化過程の解明 研究代表者:石田健一郎(筑波大学生命環境系・教授) ●計画研究の概要 行研究によって開発されているほか、Bigelowiella natans 真核生物による葉緑体の獲得は、真核生物の進化 • 多 という種で全ゲノム配列の解読がほぼ終了しているた 様化のみならず、地球環境の形成にも大きな影響を及ぼ め、葉緑体獲得・維持機構のほぼ全貌を明らかにする良 した生物進化上の一大イベントです。葉緑体は、シアノ い時期であると言えます。 バクテリアを祖先として一次共生により誕生し紅藻や緑 私の担当研究では、以下の 3 つを主要課題とします。 色植物などの一次植物を創出しました。そして、これら 1)ヌクレオモルフゲノムの比較解析による共生藻ゲ 一次植物が他の真核生物細胞に取り込まれ(二次共生)、 ノムの進化の解明:クロララクニオン藻の全主要系統群 葉緑体が様々な真核生物群へと水平伝播してさらに多様 のヌクレオモルフゲノム全配列を取得し、網羅的比較解 な光合成真核生物群(二次植物)が創出されたのです。 析を行ないます。これにより、クロララクニオン藻の祖 二次植物の進化段階は実に多様で、共生藻(一次植物) 先ヌクレオモルフゲノムの状態を推定するほか、ヌクレ の細胞内での維持が不完全なものから、恒久的なオルガ オモルフゲノムの詳細な進化過程を、クロララクニオン ネラとしての葉緑体をもつもの、寄生化して葉緑体を縮 藻の系統関係にそって理解したいと考えています。ま 退させたものまで存在します。宿主生物にとって葉緑体 た、紅藻由来の葉緑体をもつ二次植物で唯一ヌクレオモ の獲得は新たな栄養様式の獲得であり、新たな機能的制 ルフを保有するクリプト藻の既知ヌクレオモルフゲノム 約の下で葉緑体への依存度を高めつつ、自らも光合成生 との比較も行ない、二次共生における共生藻ゲノム進化 物として多様な変化を遂げてきたといえます。 の理解の一般化をはかる予定です。 葉緑体の獲得が駆動する宿主生物の進化・寄生化を理 2)核コード葉緑体タンパク質の輸送機構からみた葉緑 解するためには、葉緑体がどのように獲得され、宿主は 体の維持機構の解明:私たちの先行研究で既に明らかに 何をどの程度葉緑体に依存しているのか、を理解する必 なっている数種の核コード葉緑体タンパク質での輸送機 要があります。私たちは、異なる進化段階にある二次植 構以外の輸送機構について詳細を明らかにし、クロララク 物について、共生藻と宿主の統合機構をそれぞれ明らか にすることで、葉緑体のマトリョーシカ型進化原理を理 ニオン藻における核コード葉緑体タンパク質の輸送機構の 全貌を解明する予定です。ここでは、Bigelowiella natans 解し、葉緑体が駆動する進化 • 寄生化仮説を検証できる の全ゲノム配列と遺伝子導入技術をフル活用して葉緑体 と考えます。本計画研究では、異なる進化段階を代表す への輸送シグナル配列の網羅的解析を行なうとともに、単 る生物について、葉緑体への依存の仕方や程度、宿主— 離葉緑体のプロテオーム解析などを用いた輸送装置タン 葉緑体の関係維持機構を解析し、それぞれの共生藻(葉 パク質の探索と同定や、小胞体における葉緑体タンパク 緑体)と宿主の統合機構を明らかにする予定です。 質の選別機構の解明などにも挑戦したいと思います。 3)宿主と共生藻の分裂協調機構の理解については、 私の担当研究:クロララクニオン藻における葉緑体の維 持・統合機構の解明 私は本計画研究の中で、恒久的な光合成オルガネラと クロララクニオン藻では細胞分裂過程の現象面の理解が 不十分であるため、細胞分裂の全過程を微細構造レベル しての葉緑体をもつ進化段階にあるクロララクニオン藻 で把握することから研究を開始します。材料は全ゲノム が解読されている B. natans とし、ゲノム配列からの分 について、共生藻ゲノムの進化、および宿主と葉緑体の 裂関連タンパク質遺伝子の探索と同調培養系の確立も平 相互作用を明らかにする予定です。クロララクニオン藻 行して行ないます。最終的には分裂関連タンパク質の発 は、緑藻を起源とする独自の葉緑体をもつ二次植物で 現解析と遺伝子導入技術の活用により、分裂関連遺伝子 す。この葉緑体は 4 重の包膜に包まれ、内側の 2 枚と外 がいつ、どのように細胞分裂に関わるのかを明らかにし 側の 2 枚の間には祖先共生緑藻の縮退した核(ヌクレオ て、宿主と共生藻の分裂の協調・制御機構を解明したい モルフ)が存在します。ヌクレオモルフには独自の小さ と思います。 なゲノムが残っているため、クロララクニオン藻は、二 この研究の成果を本計画研究班の他の研究成果や他の 次共生における共生藻の核ゲノムの進化を追うことがで 先行研究の成果と統合することにより、二次共生の成立 きる数少ない生物群の一つです。また、クロララクニオ から統合・寄生化に至る、葉緑体のマトリョーシカ型進 ン藻ではこれまでに、一過性遺伝子導入系が私たちの先 化原理の総合理解につなげたいと考えています。 10 文部科学省 科学研究費補助金 新学術領域研究「マトリョーシカ型進化原理」News Letter Vol.1 ■ 略歴 1996年 1996-1997年 1996-1998年 1998-2000年 2000-2002年 2002-2004年 2004-2006年 2006-2011年 2011-現在 筑波大学大学院博士課程生物科学研究科 山形大学理学部生物学科・助手 キラム・ポストドクトラルフェロー(ブリティッシュコロンビア大学植物学科) 日本学術振興会・海外特別研究員(ブリティッシュコロンビア大学植物学科) ブリティッシュコロンビア大学植物学科・博士研究員 金沢大学理学部生物学科・助教授 金沢大学大学院自然科学研究科・准教授 筑波大学大学院生命環境科学研究科・准教授 筑波大学生命環境系・教授 ■ 最近の主な論文 1. Yabuki A, Ishida K. Mataza hastifera n. g., n. sp.: a possible new lineage in the Thecofilosea (Cercozoa). J Eukaryot Microbiol. 2011 Mar-Apr;58(2):94-102. 2. Hirakawa Y, Ishida K. Internal plastid-targeting signal found in a RubisCO small subunit protein of a chlorarachniophyte alga. Plant J. 2010 Nov;64(3):402-10. 3. Hirakawa Y, Gile GH, Ota S, Keeling PJ, Ishida K. Characterization of periplastidal compartment-targeting signals in chlorarachniophytes. Mol Biol Evol. 2010 Jul;27(7):1538-45. 4. Nakayama T, Ishida K. Another acquisition of a primary photosynthetic organelle is underway in Paulinella chromatophora. Curr Biol. 2009 Apr 14;19(7):R284-5. 5: Hirakawa Y, Nagamune K, Ishida K. Protein targeting into secondary plastids of chlorarachniophytes. Proc Natl Acad Sci USA. 2009 Aug 4;106(31):12820-5. 文部科学省 科学研究費補助金 新学術領域研究「マトリョーシカ型進化原理」News Letter Vol.1 11
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