PET用放射性薬剤の製造および品質管理-第4版

―合成と臨床使用へのてびき―
第4版
PET化学ワークショップ
PET用放射性薬剤の製造および品質管理
―合成と臨床使用へのてびき―
第4版
(平成23年改定版)
PET化学ワークショップ
編集担当
石渡 喜一
岩田
錬
高橋 和弘
編
集
石渡 喜一(東京都健康長寿医療センター研究所)
岩田 錬(東北大学サイクロトロン・RI センター)
高橋 和弘(理研分子イメージング科学研究センター)
執
筆
者
阿久津
源太
医療法人DIC 宇都宮セントラルクリニック
[email protected]
石渡
喜一
東京都健康長寿医療センター研究所
[email protected]
伊藤
由麿
名古屋市総合リハビリテーションセンター
[email protected]
入江
俊章
放射線医学総合研究所分子イメージング研究センター
[email protected]
石川
洋一
東北大学サイクロトロン・RI センター
[email protected]
岩田
錬
大崎
勝彦
東北大学サイクロトロン・RI センター
[email protected]
JFE エンジニアリング株式会社
[email protected]
加藤
元久
東北大学大学院医学系研究科
[email protected]
加藤
孝一
放射線医学総合研究所分子イメージング研究センター
[email protected]
河嶋
秀和
国立循環器病研究センター研究所
[email protected]
久下
裕司
北海道大学大学院医学研究科
[email protected]
小島
良紀
佐々木
基仁
国立がんセンター東病院
[email protected]
GE ヘルスケア
[email protected]
鈴木
和年
放射線医学総合研究所分子イメージング研究センター
[email protected]
高田
由貴
横浜市立大学大学院医学研究科
[email protected]
高橋
和弘
理化学研究所分子イメージング科学研究センター
[email protected]
田沢
周作
理化学研究所分子イメージング科学研究センター
ii
[email protected]
張
明栄
放射線医学総合研究所分子イメージング研究センター
[email protected]
寺崎
一典
岩手医科大学サイクロトロンセンター
[email protected]
冨吉
勝美
熊本大学医学部保健学科
[email protected]
豊原
潤
中尾
隆士
東京都健康長寿医療センター研究所
[email protected]
Karolinska Institute, Department of Clinical neuroscience
[email protected]
永津
弘太郎
放射線医学総合研究所分子イメージング研究センター
[email protected]
西嶋
剣一
西山
新吾
北海道大学大学院医学研究科
[email protected]
浜松ホトニクス株式会社
[email protected]
籏野
健太郎
国立長寿医療研究センター研究所
[email protected]
林
和孝
理化学研究所分子イメージング科学研究センター
[email protected]
原
敏彦
元・国立国際医療センター
福村
利光
放射線医学総合研究所分子イメージング研究センター
[email protected]
藤井
亮
株式会社 CICS(Cancer Intelligence Care Systems, Inc.)
[email protected]
藤林
靖久
放射線医学総合研究所分子イメージング研究センター
[email protected]
二ツ橋
昌実
県西部浜松医療センター付属診療所
[email protected]
船木
善仁
東北大学サイクロトロン・RI センター
[email protected]
古本
祥三
東北大学大学院医学系研究科
[email protected]
間賀田
泰寛
浜松医科大学光量子医学研究センター
[email protected]
村上
松太郎
秋田県立脳血管研究センター
[email protected]
三宅
義徳
国立循環器病研究センター研究所
[email protected]
iii
森
哲也
福井大学高エネルギー医学研究センター
[email protected]
山崎
茂樹
JFE エンジニアリング株式会社
[email protected]
渡辺
利光
住友重機械工業株式会社
[email protected]
(五十音順、所属は第4版出版時)
iv
第4版の序
平成19年に「PET 用放射性薬剤の製造および品質管理」第3版を世に出して4年が経過し
た。前回が7年の経過で改訂されたのに比べて時期的には早い改訂となった。これは取りも直
さず PET 薬剤を取り巻く環境が大きく変化していることが背景となっている。平成14年以降
保険診療として広がった FDG-PET 検査が医療の中に根付き、それに伴って急増したサイクロ
トロンを所有し PET 薬剤製造の可能な施設が多い我が国にあっては、これを新たなインフラと
して、より多くの他の PET 薬剤を用いた PET の有効利用への期待が各施設の内外から高まっ
ている。また、文部科学省の分子イメージング研究プログラム(5年)は第2期を迎え、疾患
診断研究と創薬研究における PET の活用が期待され、新たな PET 薬剤の開発と応用を実践す
ることもこれまで以上に求められている。今後 FDG の他にいくつかの薬剤をルーチンに合成
し研究を志向する施設にとっても、研究を主体として新規薬剤の開発を志向する施設にとって
も、本てびきに掲載された現場の経験に基づいたノウハウ集はますますその有用性を増してい
ると思われる。
今回の改定に当たっては、この4年間に積み上げられた既知薬剤の改良合成法や臨床利用が
開始された新規薬剤の合成法をできるだけ採用する一方、より有用性の高い薬剤や新しい合成
法が登場し今後の利用が望めないと考えられるいくつかのものは本書から削除した。また基礎
技術として確立しているいくつかの新しいもの、可溶化剤・安定化剤について、および薬剤の
臨床利用のための「薬剤選択の考え方」を追加した。それから被曝線量データはできるだけヒ
トのものと差し替えた。
本書は臨床利用を目的とする PET 薬剤の合成マニュアルであるため、本来その多くの合成法
は自動合成装置の使用が前提となっているはずだが、従来通り装置に依存した合成法の記述を
避け一般的な手動による合成法として著わすように執筆者に依頼した。したがって、被曝なく
再現性の良い標識合成を各施設の自動合成装置で実現するための努力は読者の皆さんに期待せ
ざるを得ない。
最後に、院内製剤として PET 薬剤を立ち上げるために費やす時間と労力は膨大なものであり、
そのノウハウを本書に公開していただいた執筆者の方々に編集者として深く感謝する。
2011年1月
高橋
v
和弘
第3版の序
平成12年に「PET 用放射性薬剤の製造および品質管理」第2版を世に出して以来すでに7
年近くが経過し、この間 PET 薬剤を取り巻く環境は大きく変貌している。平成14年の
FDG-PET 検査の保険適用を契機とする民間 PET センター数の急速な増加は、PET の有用性
を広く社会に認知せしめるとともに、PET が社会から注目と期待を集める存在となしつつある。
一方では、分子イメージング研究の進展が疾患診断研究と創薬研究における PET の活用をます
ます促進し、これらの分野に巨額の研究資金が投入されている。FDG といくつかの薬剤をルー
チンに合成しつつ自由に研究を楽しんできた良き時代は終焉し、研究を主体とする PET 施設は
生き残りをかけて新たな PET 薬剤の開発と応用を実践することがこれまで以上に求められて
いる。新規薬剤の開発と臨床利用、あるいは独自の診断利用のための既知薬剤の導入が今後ま
すます活発になると予想される。
今回の改定に当たっては、この7年間に積み上げられた既知薬剤の改良合成法や臨床利用が
開始された新規薬剤の合成法をできるだけ採用する一方、より有用性の高い薬剤や新しい合成
法が登場し今後の利用が望めないと考えられるいくつかのものは本書から削除した。しかし、
acetyl hypofluorite 法による FDG の合成法のように、歴史的に価値があるものに関してはその
まま収載を継続することとしたが、恣意的な編集との謗りは免れないかもしれない。
本書は臨床利用を目的とする PET 薬剤の合成マニュアルであるため、本来その多くの合成法
は自動合成装置の使用が前提となっているはずであるが、合成装置の導入が薬剤合成の立ち上
げの条件にならないよう配慮して、装置に依存した合成法の記述を避け一般的な手動による合
成法として著わすように今回も執筆者に依頼した。しかしながら、被曝なく再現性の良い標識
合成を行う上では、自動合成装置の使用は不可欠なことは言を俟たない。従って、今回は共通
する基本的な自動合成法を基礎技術として追加したが、今後の改定に当たっては個々の合成法
に関係する装置とその自動化の記述を考慮すべきかと迷うところである。
最後に、院内製剤としての PET 薬剤を立ち上げるために費やす時間と労力は膨大なものであ
り、そのノウハウを本書に公開していただいた執筆者の方々に編集者として深く感謝する次第
である。
2007年1月
岩田
vi
錬
第2版の序
PET 化学ワークショップによる編集、日本アイソトープ協会のご協力により 1995 年に出版
された PET 用放射性薬剤合成に関する本手引き書は、これまで PET 施設の現場において十分
に活用されてきたと思われる。しかしながら、初版ではいわゆる成熟薬剤といわれている薬剤
合成が主に取り上げられたが、既に世界的にはドパミンD2受容体測定の標準リガンドであっ
た[11C]ラクロプライドなど幾つか重要な薬剤でありながら、その合成法を収録できなかったも
のがあり、次なる薬剤の手引き書の必要性は自明であった。また、その後に新たにオリジナリ
ティーの高いアセチルコリンエステラーゼ測定基質の[11C]N-メチルピペリジルアセテート(放
医研入江ら)や癌診断薬の[11C]コリン(国際医療センター原ら)などが提案・臨床使用される
ようになり、その有用性は世界的にも評価されてきている。一方、11C 標識法について、[11C]
よう化メチルから導かれる[11C]メチルトリフレートが反応性に優れ、薬剤によっては[11C]よう
化メチル法より短時間・高収率の合成を期待できることが明らかになってきた。
このような状況のもと、今回[11C]メチルトリフレートと12の放射性薬剤の合成法について1
0名の方々に執筆をお願いし、第2版を出版するに至った。[11C]メチルトリフレートによる[11C]
ラクロプライド合成法については、既に数施設でその有用性が確認されており、各 PET 施設の
メニューの一つに加えていただけるものと確信している。[11C]メチルトリフレートの国内での
使用経験は浅く、十分満足な内容にはなっていないかもしれないが、3つの薬剤への応用が紹
介されており、今後これを大いに使用してそのノウハウを蓄積していただきたいと考えている。
PET 化学に関わる皆様には、一人でも多くの方に本手引き書を活用していただきたいととも
に、今後は世界の趨勢である
18F
アニオンを使用した薬剤合成にも積極的に取り組み、その情
報を次の機会に公開していただけることを期待している。
2000年6月
石渡
vii
喜一
はじめに(第1版の序)
基礎的臨床的研究や一般臨床の診断法としての PET の重要性が評価され、多くの PET 施設
の開設が相次ぎ、ガンセンターのように各県1施設ということもあながちおおげさでもないよ
うな昨今の状況である。しかしながら、放射性薬剤の製造に関しては、研究者やメーカーの努
力にもかかわらず、現状ではやはり化学知識を有する研究者・技術者に依存しているのは紛れ
もない事実である。1992 年より始まった PET 化学ワークショップにおいては、臨床用放射性
薬剤の製造法や関連する数々の技術に関して多くの話題が取り上げられ、薬剤の製造の現場に
即した討論がなされてきた。初めて薬剤製造に係わる人にとっては、それまでの一般化学的知
識や技術と異なることも多々有り、思わぬ困難に直面していることが明らかになった。また、
長年この業務に係わってきた者にとっても、多くのノウハウを蓄積しているものの、それぞれ
の“常識”が以外と異なっていたということもあった。
このような状況に鑑み、初歩的化学知識を有する初心者のだれでもが、臨床用放射性薬剤を
確実に製造することができるマニュアルを作成することは、日本の PET 研究の発展において今
必要とされていると考えられた。そこで、 第4回 PET 化学ワークショップにおける提案に基
づき、既に日本アイソトープ協会・医学薬学部会サイクロトロン核医学利用専門委員会におい
て成熟技術として認定された薬剤とそれに準じた薬剤、また、日本で初めて開発された薬剤に
ついて、詳細な手引き書をまとめることとした。
本小冊子は、新たに薬剤製造を担う研究者・技術者の手引書となり、また、すでに製造に係
わっている者にとっては、新しい臨床用薬剤を容易に製造ラインにのせることができるような
実用書となる内容をめざしている。従って、はじめに薬剤合成に必要な基本的技術を紹介する。
次に各論においては、単に詳細な合成方法の記述にとどまらず、試薬の入手・調製や保存法、
標識前駆体合成など、また、それぞれの点での注意事項を含み、論文では書き切れないような
ノウハウをできる限り書き入れた内容とした。
なお、O-15 標識のガス剤や水についての製造法に関しては、各メーカーにおける合成装置は
一定の水準に達しており、また、医療機器としての申請段階にあるのでここでは省略した。各
項目の執筆については、幹事会でこれまでの薬剤合成の経験や実績を考慮して適任者にお願い
し、幹事会の責任においてまとめることとした。また、最終編集は岩田と石渡が担当した。
1996年3月
石渡
viii
喜一
目
目
次
次
1.基礎技術 ··············································································································1
1-1.[11C]CO2 の迅速な分離濃縮 .............................................................................................. 1
A-1.液体アルゴンによる濃縮
1
A-2.モレキュラーシーブを使った濃縮
2
岩田
錬、大崎
勝彦
1-2.化学的・放射化学的純度測定用ラジオ HPLC システム .................................................. 3
A-1.CYRIC の例
3
A-2.放医研の例
4
岩田
錬、中尾
隆士
1-3.[11C]よう化メチル合成用 LiALH4-THF 試薬の調製法..................................................... 6
A-1.CYRIC における調製法
6
A-2.放医研における調製法
7
岩田
錬、鈴木
和年
1-4.[11C]メチルトリフレートの合成 ....................................................................................... 8
岩田
錬
1-5.[11C]ホスゲンの合成 ....................................................................................................... 10
A-1.[11C]ホスゲン合成法(その1)
10
A-2.[11C]ホスゲン合成法(その2)
11
西嶋
剣一、高田
由貴
1-6.オンカラム標識法とループ標識法.................................................................................. 13
A-1.オンカラム標識法
13
A-2.ループ標識法
14
岩田
錬
1-7.分取 HPLC カラムへの反応液自動注入法 ..................................................................... 15
A-1.シリンジポンプ法
15
A-2.ポンプ入口直接注入法
15
A-3.固相抽出カラム濃縮法
16
岩田
錬
1-8.HPLC 分離精製物の固相抽出調製法 ............................................................................. 17
岩田
錬
1-9.分取 HPLC 時の溶媒選択ガイド .................................................................................. 18
18
A.秋田脳研の例
村上
松太郎
1-10.添加剤概論 .................................................................................................................. 22
A-1.可溶化剤
22
A-2.放射線分解抑制剤
23
田沢
ix
周作、福村
利光
目
次
2.薬剤選択の考え方 ································································································ 25
2-1.アミノ酸薬剤 .................................................................................................................. 26
2-2.ドーパミン神経系薬剤 ................................................................................................... 27
石渡
喜一
3.[13N]アンモニア合成法 ························································································· 31
A-1.還元法
31
A-2.水素ガス添加による直接法
32
A-3.エタノール添加による直接法
33
B.分析法
34
C.その他
35
間賀田
泰寛、山崎
茂樹、永津
弘太郎
4.[18F]FDG 合成法 ································································································· 37
A-1.ワンポット酸加水分解法
37
A-2.ワンポットアルカリ加水分解法
39
A-3.オンカラムアルカリ加水分解法
40
B.分析法
43
C.その他
45
佐々木
基仁、石渡
喜一、岩田
錬
5.アミノ酸合成法 ··································································································· 47
5-1.[11C]メチオニン合成法 ................................................................................................... 47
A-1.[11C]よう化メチルによる液相法
47
A-2.[11C]メチルトリフレートによる液相法
48
A-3.[11C]よう化メチルによるオンカラム法
49
A-4.[11C]メチルトリフレートによるオンカラム法
50
B.分析法
51
C.その他
52
石渡
喜一、岩田
錬、渡辺
利光
5-2.O−[11C]メチル−L−タイロシン合成法 ............................................................................. 52
A.合成法
52
B.分析法
55
C.その他
55
岩田
錬、石渡
喜一
5-3.[18F]フルオロフェニルアラニン合成法 .......................................................................... 56
A.合成法
56
B.分析法
58
C.その他
59
x
目
村上
次
松太郎
5-4.[18F]ボロノフルオロフェニルアラニン合成法 ............................................................... 59
A.合成法
60
B.分析法
61
C.その他
62
藤井
亮
5-5.[18F]フルオロ−アルファ−メチルタイロシン合成法........................................................ 62
A.合成法
63
B.分析法
64
C.その他
64
冨吉
勝美
5-6.[18F]FET 合成法 ............................................................................................................. 65
A-1.[18F]臭化フルオロエチル法
65
A-2.[18F]フッ素イオン法
67
B.分析法
69
C.その他
69
林
和孝
6.[11C]酢酸合成法 ··································································································· 71
A-1.抽出法
71
A-2.固相法
72
B.分析法
73
C.その他
74
間賀田
泰寛、石渡
喜一
7.コリン合成法 ······································································································ 75
7-1.[11C]コリン合成法 .......................................................................................................... 75
A-1.液相法
75
A-2.オンカラム法
76
B.分析法
77
C.その他
78
原
敏彦、寺崎
一典
7-2.[18F]フルオロコリン合成法 ............................................................................................ 79
A.合成法
79
B.分析法
81
C.その他
82
寺崎
xi
一典
目
次
8.チミジン誘導体合成法 ·························································································· 83
8-1.[11C]4DST 合成法 ........................................................................................................... 83
A.合成法
83
B.分析法
86
C.その他
86
豊原
潤
8-2.[18F]FLT 合成法 ............................................................................................................. 87
A-1.合成法1(京大)
87
A-2.合成法2(放医研)
89
A-3.合成法3(がんセンター東)
91
B.分析法
93
C.その他
93
河嶋
秀和、林
和孝、小島 良紀
9.ドーパミン神経伝達系プローブ合成法 ····································································· 95
9-1.[11C]SCH23390 合成法 .................................................................................................. 95
A-1.[11C]よう化メチル法
95
A-2.[11C]メチルトリフレート法
96
B.分析法
97
C.その他
98
鈴木
和年、石渡
喜一
9-2.[11C]ラクロプライド合成法 ............................................................................................ 99
A-1.[11C]よう化メチル法
99
A-2.[11C]メチルトリフレート法
100
B.分析法
102
C.その他
102
籏野
健太郎、三宅
義徳
9-3.[11C]メチルスピペロン合成法 ...................................................................................... 103
A-1.[11C]よう化メチル法
104
A-2.[11C]メチルトリフレート法
106
B.分析法
107
C.その他
107
鈴木
和年、石渡
喜一
9-4.[11C]FLB457 合成法 ..................................................................................................... 107
A-1.[11C]よう化メチル法
108
A-2.[11C]メチルトリフレート法
109
B.分析法
110
C.その他
110
鈴木
xii
和年、石渡
喜一
目
次
9-5.[18F]フルオロドーパ合成法 .......................................................................................... 111
A-1.Adam 法
112
A-2.Ishiwata 法
114
B.分析法
115
C.その他
116
石渡
喜一、岩田
錬
9-6.[18F]フルオロメタタイロシン合成法 ............................................................................ 116
A.合成法
117
B.分析法
118
C.その他
118
阿久津
源太
9-7.[11C]−CFT 合成法....................................................................................................... 119
A-1.[11C]よう化メチル法
119
A-2.[11C]メチルトリフレート法
121
B.分析法
121
C.その他
122
二ツ橋
昌実、石渡
喜一
9-8.[11C]PE2I 合成法.......................................................................................................... 122
A.合成法
123
B.分析法
124
C.その他
124
中尾
隆士
10.セロトニン神経伝達系プローブ合成法 ································································ 127
10-1.[11C]WAY100635 合成法........................................................................................... 127
A.合成法
127
B.分析法
129
C.その他
129
張
明栄
10-2.[11C]DASB 合成法 .................................................................................................... 130
A.合成法
130
B.分析法
131
C.その他
131
中尾
隆士
11.アセチルコリン神経伝達系プローブ合成法 ·························································· 133
11-1.(+)N−[11C]メチル-3-ピペリジルベンジレート合成法 .............................................. 133
A-1.[11C]よう化メチル法
133
A-2.[11C]メチルトリフレート法
134
xiii
目
次
B.分析法
135
C.その他
136
高橋
和弘、石渡
喜一
11-2.N−[11C]メチル-4-ピペリジルアセテート合成法 ...................................................... 136
A.合成法
137
B.分析法
138
C.その他
138
入江
俊章
11-3.[11C]ドネペジル合成法 ............................................................................................. 139
A-1.[11C]メチルトリフレートによるループ法
139
A-2.[11C]メチルトリフレートによる液相法
140
B.分析法
141
C.その他
141
船木
善仁、石渡
喜一
12.ベンゾジアゼピン受容体プローブ合成法 ····························································· 143
12-1.[11C]フルマゼニル(RO15-1788) ........................................................................... 143
A-1.[11C]よう化メチル法
143
A-2.[11C]メチルトリフレート法
144
B.分析法
145
C.その他
145
鈴木
和年、石渡
喜一
12-2.[11C]PK11195 合成法 ................................................................................................ 146
A-1.NaOH 法
146
A-2.KOH 法
148
B.分析法
149
C.その他
150
籏野
健太郎、西山
新吾、加藤
孝一、田沢
周作
13.その他の神経伝達系プローブ合成法 ··································································· 151
13-1.[11C]ドキセピン合成法 ............................................................................................. 151
A-1.[11C]メチルトリフレートによるループ合成法
151
A-2.[11C]メチルトリフレートによる液相法
152
B.分析法
153
C.その他
153
加藤
元久、石渡
喜一
13-2.[11C]SA4503 合成法 .................................................................................................. 153
A-1.[11C]よう化メチル法
154
A-2.[11C]メチルトリフレート法
154
xiv
目
次
B.分析法
156
C.その他
156
石渡
喜一
13-3.[11C]MPDX 合成法 ................................................................................................... 157
A.合成法
157
B.分析法
158
C.その他
159
石渡
喜一
13-4.[11C]TMSX 合成法 .................................................................................................... 159
A-1.[11C]よう化メチル法
160
A-2.[11C]メチルトリフレート法
161
B.分析法
162
C.その他
162
石渡
喜一
13-5.S−(−)−[11C]CGP-12177 合成法 ................................................................................ 163
A.合成法
163
B.分析法
166
C.その他
166
西嶋
剣一、久下
裕司
13-6.[11C]カーフェンタニル合成法 ................................................................................... 168
A.合成法
168
B.分析法
169
C.その他
170
石渡
喜一
13-7.[11C]mHED 合成法 ................................................................................................... 171
A-1.[11C]よう化メチル法
171
A-2.[11C]メチルトリフレート法
172
B.分析法
174
C.その他
174
西嶋
剣一、久下
裕司、伊藤
由麿
14.[11C]ベラパミル合成法 ····················································································· 177
A.合成法
177
B.分析法
178
C.その他
179
石渡
喜一
15.[18F]FES 合成法 ····························································································· 181
181
A.合成法
xv
目
次
B.分析法
183
C.その他
183
森
哲也
16.アミロイドイメージング剤合成法 ······································································ 185
16-1.[11C]PiB 合成法 ........................................................................................................ 185
A-1.[11C]よう化メチル法(Mathis 法)
185
A-2.[11C]メチルトリフレート法(Wilson 法)
186
B.分析法
187
C.その他
188
石渡
喜一
16-2.[11C]BF-227 合成法 .................................................................................................. 189
A.合成法
189
B.分析法
191
C.その他
191
古本
祥三
16-3.[18F]AV-45 合成法 ..................................................................................................... 192
A.合成法
192
B.分析法
195
C.その他
195
寺崎
一典
17.低酸素細胞イメージング剤合成法 ······································································ 197
17-1.[18F]FMISO 合成法 .................................................................................................. 197
A.合成法
197
B.分析法
199
C.その他
199
林
和孝
17-2.[18F]FRP-170 合成法 ................................................................................................ 200
A.合成法
200
B.分析法
202
C.その他
202
石川
洋一
17-3.[18F]FAZA 合成法 ..................................................................................................... 204
A.合成法
204
B.分析法
206
C.その他
206
林
xvi
和孝
目
次
17-4.[62Cu]Cu—ATSM 合成法 ........................................................................................... 207
A.合成法
207
B.分析法
208
C.その他
208
福村
利光、藤林
靖久
18.[18F]フッ化ナトリウム合成法 ············································································ 211
A.合成法
211
B.分析法
212
C.その他
213
藤井
亮
編集後記(第1版) ································································································· 215
岩田
錬
あとがき(第3版) ································································································· 216
高橋
和弘
あとがき(第4版) ································································································· 217
石渡
xvii
喜一
1.基礎技術
1.基礎技術
1-1.[11C]CO2 の迅速な分離濃縮
A-1.液体アルゴンによる濃縮
(岩田
大量のターゲットガスである窒素と共に照射容器から取
出される[11C]CO2 を標識反応に利用する前に、これを分離濃
縮することが迅速な標識合成には必要である。その利点とし
て、
1)
照射容器から迅速に[11C]CO2 を回収できる、
2)
分離された[11C]CO2
は非常に少量の気体で取り出せ
る(濃縮する)、
3)
錬)
表 1.気体の沸点
気体名
沸点 (C)
CO2
–78.48sub
CO
–191.5
CH4
–161.4
N2
–195.8
Ar
–185.9
従って、反応溶液中に低流速で[11C]CO2
を通せるので反応効率を改善できる、
4)
または反応溶液の使用量を減らせる、
等があげられる。簡便な分離濃縮法としては、
両者の温度特性の差を利用する方法が良く用い
られる。表 1 に示す関連する気体の沸点から明
らかなように、–150C 前後の温度で十分に分
離可能である。
最も簡便で効率的な方法としては、液体アルゴンを用いる捕集濃縮法がある。内径 0.8 mm X
外径 1.6”のステンレスチューブの長さを変え約 4 L の窒素ターゲット中に含まれる[11C]CO2 を
1 L/min の流速で通した場合の、[11C]CO2 の捕集効率とトラップからの取出し時に同時に放出
される窒素の容量の関係を表 2 に示した。明らかに液体アルゴンの方が液体窒素に比べ捕集効
率、濃縮効率共に優れている。上図にこの目的で使用するシステムの概略図を示す。液体アル
ゴンが入手困難な地域において、このようなシステムを用いて液体窒素でやむなく捕集する場
合、効率をある程度犠牲にしてトラップの大きさはできるだけ小さくするべきである。表から
表2. [11C]CO2 捕集と濃縮効率
スパイラル
の長さ
25 cm
50 cm
150 cm
捕集効率
液体Ar
91%
96%
98%
液体N2
73%
79%
—
1
取出し時の放出気体の容量
液体Ar
液体N2
<1 mL
10 mL
1 mL
30 mL
2 mL
>100 mL
わかるように、大きなトラップを用い
る場合、取り出し時にトラップを加熱
すると大量の窒素が急激に放出され
る結果、[11C]CO2 が導入されるべき反
応溶液を飛散させて反応効率を低下
させるだけでなく、閉鎖系である反応
容器内の圧力を異常に上昇させ、チュ
ーブ等の接続部を脱離させ重大な放射能漏洩を引起こすことになるので十分に注意する必要が
ある。
液体窒素を使用しても液体アルゴンと同様な効率で[11C]CO2 を捕集することが可能である。
右図はその原理を図式化したものである。有限の熱伝導度を持つならば、必ず温度勾配が生じ
るが、これをうまく利用すれば、液体窒素温度よりもわずかに高い温度にトラップループを保
つことができる。–150C 以下であれば[11C]CO2 の捕集効率はほほ 100%に近い。ヒーターの電
源を入れることで 1 分以内に定量的に[11C]CO2 を回収することができる。
A-2.モレキュラーシーブを使った濃縮
(大崎
勝彦)
液体アルゴンあるいは液体窒素を用いる捕集濃縮法の他に、モレキュラーシーブ(MS)を用
いたガスクロマトグラフによる捕集濃縮方法が報告されている
1-4)。本方法の利点は、1)液体
アルゴンや液体窒素が不要である、2)電磁弁以外に動くパーツがない、3)好ましくない不純
物である O2、NOx、N2、CO、水分を除去できる、等があげられる。
[用意するもの]
MS 13X(80-100mesh)4):Alltech(Part No.57732)(註1)
[調製法]
MS 13X の約 300 mg を外径 1/4”の銅管(肉厚 0.8 mm、長さ 12 cm)に入れ、両端を石英ウ
ールで塞ぎ、分離濃縮カラムとする。(註2)
[使用法]
1. MS カラムを右図に示すラインに組み込む。
[11C]CO2
MS 13X
排気
2. 使用前にカラムを電気炉により 200ºC に加熱し、
N2(または He)を流速 30 mL/min で流して
5 分間コンディショニングを行なう。
電気炉(200℃)
3. カラムを室温に戻し、[11C]CO2 を流速
400 mL/min でカラムに通し、捕集させる。
N2( or He)
反応容器
4. カラムを 200 ºC に加熱し、N2(または He)
を流速 10~15 mL/min で流して、捕集された[11C]CO2 を反応容器に導く。(註3)
5. 使用後は、空気が入らないようにしてカラムを放冷する。
(註4)
註1) MS としては、MS 13X のほかに MS 5A(60-80 mesh)2)、Carbon MS(Carbosphere,
60-80 mesh)3) 等が報告されている。
2
1.基礎技術
註2) MS 充填量と払い出しガス量は施設ごとに最適化する必要がある。石英ウールを詰めす
ぎると流量が流れなくなる可能性がある。また、当然カラム内での MS の位置が適正
である必要がある。したがって、カラムは迅速な昇温が可能なように熱伝導のよい材
質が望ましいが、MS 位置の視認性を上げるためには石英カラムも有効。
註3) 100ºC を越えたあたりから[11C]CO2 のリリースが始まる。
註4) このカラムの寿命に関しては、まだ充分な使用経験がないが、Carbon MS カラムは 1
年間使用可能であると報告されている 3)。
参考文献
1.
Clark J.C., Buckingham P.D.: Short-lived Radioactive Gases for Clinical Use.
Butterworths, London (1975).
2.
Marazano C., Maziere M., Berger G., Comar D.: Int. J. Appl. Radiat. Isot., 28, 49–52
(1977).
3.
Mock B.H., Vavrek M.T., Mulholland G.K.: J. Nucl. Med., 22, 667–670 (1995).
4.
Tremblay S., Oullet R., Rodrigue S., et al.: Appl. Radiat. Isot., 65, 934–940 (2007).
1-2.化学的・放射化学的純度測定用ラジオ HPLC システム
合成される薬剤は、PET 検査に供される前にその化学的・放射化学的純度や比放射能を迅速
に測定して求める必要がある。迅速な分析法としては HPLC を用いる方法が最も一般的であり、
高感度な UV 検出器と放射能検出器を直列につないでカラムからの溶出液を測定する。これら
の検出器から得られる分析データの迅速な処理装置を組み合わせ、ラジオ HPLC システムとし
て用いられる。
A-1.CYRIC の例
(岩田
錬)
下図は、CYRIC においてルーチンな HPLC 分析に使用されているラジオ HPLC システムの
構成図を示したものである。
3
一般的な HPLC システムに、溶媒切換え用にテフロン製の 6 ポジションロータリバルブ
(Rheodyne 社製 Model 5011)を、カラム切換え用に 2 個の高圧 6 ポジションバルブ(Rheodyne
社製 Model 7060)を導入している。占有する溶媒とカラムは 5 種類までとし、残り 1 つは洗
浄溶媒と迅速な溶媒交換のためにバイパスラインとなっている。 鉛ブロックで遮蔽した
NaI(Tl)シンチレーションカウンターを放射能検出器(註1)として用い、UV 検出器と直列に
接続されたテフロンチューブを検出器前面でループにして通している。通常の分析には数Ci
の放射能量を使用するが、比放射能測定用には mCi オーダーの放射能量を使用するため、ルー
プの大きさと検出器に対する幾何学的配置の異なった 2 種類流路を 3 方バルブで切換えること
で感度を調整する。放射能検出器からのシグナルはアナログ出力として UV シグナルと共に PC
に入力され、クロマトグラフィデータ処理ソフトウエア(註2)で処理される。このようにし
て化学的純度と放射化学的純度が迅速に得られる。
註1) 高感度の市販放射能検出器としては、Bioscan 社の Flow-Count Radio-HPLC Detector
System やユニバーサル技研社の UG-3000 などのオールインワン装置が便利である。
註2) 島津や日立などの GC/HPLC 用のデータ収集解析ソフトや EZChrom Elite、システム
インスツルメント 480II データステーションなどが利用できる。また専用のデータ処
理装置(例えばシステムインスツルメント社のクロマトコーダ 21 や島津製作所のクロ
マトパック C-R8A)も便利である。
A-2.放医研の例
(中尾
隆士)
PET 用薬剤の品質検査には、迅速性とともに試験対象となる非放射性物質が微量のため高感
度分析が要求される。また、分子イメージング研究などの進展により様々な PET プローブが開
発・利用されており、大きく構造の異なる薬剤を短時間のうちに測定することもしばしばある。
放医研では、このような状況をふまえて、ルーチン製造に使用する全ての 11C、18F-標識薬剤(30
種類以上:ただし、[18F]FDG は除く)に対し、共通のカラム・移動相組成を用いて、超迅速・
高感度な品質検査を実施している。
下図に、そのラジオ HPLC システムを示す。市販の HPLC システムに放射能検出器(鉛で
遮蔽された NaI(Tl)シンチレーション検出器とシングルチャンネルアナライザーSCA の組み合
コンピュータ
ADC
HPLCサーバ
SCA
移動相組成(3液)
廃液
カラム
HPLCポンプ
ループインジェクター
4
UV検出器
NaI(Tl)検出器
1.基礎技術
わせ)を接続し、各検出器のシグナルを HPLC サーバに入力させ、コンピュータにて得られた
結果を解析する構成となっている。
HPLC にて迅速に分析を行おうとする場合、ショートタイプで粒子径の小さい充填剤のカラ
ムを用いることが有効である。粒子径が小さいほど広い流速範囲で高い理論段数が得られ、50
mm 程度のカラムを用いて高流量で送液しても高分離能が維持されるので時間が短縮される。
そのため、粒子径 2.5 m、内径 3.0 mm、有効長 50 mm のカラム(Waters 製 XBridge RP18)
にて 1.0 mL/min 程度で送液している。このことにより、臨床利用前に要求される比放射能、
化学的不純物、放射化学的不純物の品質検査が 1 分以内と
11C-標識薬剤ではわずか
3%の放射
能減衰のうちに完了できる。なお、微粒子充填剤ではカラム圧の上昇が懸念されるが、この条
件では 200~280 kg/cm2 と一般のポンプやインジェクターの推奨範囲内(上限値:300~400
kg/cm2)である。
UV 検出法により非放射性成分を定量する際、検出波長を目的物に特異的な吸収極大に設定
することがよくあるが、高感度分析に対して必ずしも最適であるとは限らない。目的物に固有
な長波長における吸収帯より 230 nm 以下の低波長領域が強く吸収する場合が多く、低波長 UV
を利用することにより高感度化、さらにはより多くの物質が測定対象となりうる。そのため、
移動相には低波長 UV においてもバックグランドが低く広域な pH を調整することが可能な 3
組成(①90%アセトニトリル、②100 mM リン酸アンモニウム緩衝液 (pH 2.1)+5 mM オクタ
ンスルホン酸ナトリウムと③50 mM リン酸アンモ
[11C]Raclopride
ニウム緩衝液 (pH 9.3))を用い、薬剤毎に設定した
混合比で送液し、低波長 UV にて検出する設定にし
ている。これにより、UV 検出が困難とされていた
N-[11C]メチル-4-ピペリジルアセテート(MP4A)
なども含め高感度に検出することが可能となった。
Radioactivity
等が異なり一様ではないが、数 ppb(ng/mL)から
100 ppb 程度である。また、移動相 pH の選択範囲
Raclopride
Ascorbic acid
非放射性物質の検出限度は、化合物により吸光係数
が 広 い た め ( 緩 衝 能 の 高 い pH=2.1、 7.2、 9.3
UV (210 nm)
が 使 用 で き る )、 様 々 な 化 合 物 の 測 定 に 対 応 で
きる。分析の 1 例として、[11C]ラクロプライドのラ
0.0
0.2
0.4
0.6
0.8
1.0
1.2
Time (min)
ジオクロマトグラムを右図に示した。
このシステムでは、共通のカラム・移動相組成を
使用するため、短時間のうちに異なった薬剤も試験することができ人為的なミスの削減や作業
の簡便化にも繋がっている。なお、試料注入量は 5 L に、迅速分析のためインジェクターから
カラム、検出器に用いた配管・コネクタ等は背圧に支障のない限り低デッドボリューム(例え
ば配管は内径 0.12 mm、コネクタはノーデッド)のものを用い、各検出器のサンプリング速度
を 10 ポイント/秒としている。さらにこの HPLC 分離を利用し、オンラインで高感度検出可能
な電気化学法、蛍光法、化学発光法などと組み合わせることにより、100 Ci/mol 以上の超高
比放射能製剤の高速分析も行っている。
また放医研では、医師からの薬剤のオーダから製造、品質検査、最終製剤のシリンジへの分
5
注までの一貫を総合的製造システムにより各装置の制御やデータの集約管理を行っている。こ
の HPLC システムも製造システムの一部として構成されている。品質検査直前に製造システム
から HPLC サーバへ当該する薬剤の HPLC メソッドを自動的にセットアップさせ、測定後に
は HPLC ソフトウェアで自動算出された分析結果が製造システムに送られ、半減期補正、放射
化学純度、比放射能の計算などを行った後、品質検査結果として出力される。このとき規格値
も同時に閲覧できるため、製品が基準を満たしているか否かが直ちに判定できる。測定終了か
ら検査結果の出力までの処理時間はおおよそ 2、3 秒である。
1-3.[11C]よう化メチル合成用 LiAlH4-THF 試薬の調製法
[11C]メチル化による高比放射能の
11C-標識化合物を合成するためには、
LiAlH4-THF 試薬
の調製は非常に重要であり、細心の注意を要する。一方、ルーチンに使用する試薬の調製は、
できる限り労力を費やすことなく、簡便に行うことが肝要である。ここでは、比較的簡便な実
績のある 2 つの調製法を示す。
A-1.CYRIC における調製法*
(岩田
錬)
[用意するもの]
アルゴンガス———高純度のものが望ましい(註1)
湿度が管理されたグローブボックス
乾燥した 1 mL と 10 mL のシリンジ———ガラス製または使捨てのポリプロピレン製
(Aldrich)10 mL 位のねじ口バイアル(註2)
上記用テフロンライナー(テフロンコートされたゴム栓)
(註2)
無水 THF———Aldrich(109-99-9)、100 mL
1.0 M LiAlH4-THF———Aldrich(16853-85-3)、100 mL
註1) 比重が重いので使用する。
註2) 例えば、Pierce 社製の React-Vial に Mininert valve を取り付けたものを代用しても
よい(GL サイエンスから入手可能)
。
[調製法]
バイアル、ゴム栓およびシリン
ジをよく乾燥し、これらをグロー
ブボックスに入れる。アルゴンガ
スのボンベに一方に針の付いた
チューブを接続し、これをボック
ス内に通す。
約 0.5 気圧位に調整されたアル
ゴンガスを針から流しつつ THF
のビンに差し、次いで 10 mL の
6
1.基礎技術
シリンジで少量の THF を取って、まずシリンジを洗い次にバイアルを洗って捨てる。次に約
10 mL の THF を取り、素早くバイアルに移す。
LiAlH4-THF のバイアルをアルゴンガスで加圧し、1 mL のシリンジを少量で洗った後約 1
mL これに取り、素早くバイアルに入った THF に加えてゴム栓をする。
このように調製した THF 溶液が分解して生成した白い Al(OH)3 で白濁していないことを確
かめる。
[注意点]
試薬の調製はグローブボックス内で開放状況で行われるため、内部の乾燥状態と二酸化炭素
の混入に対して十分に注意する必要がある。このためできるだけ小さなグローブボックスを使
用し、予め内部をアルゴンガスで十分に置換する方が良いと考えられる。
試薬の使用量は、1 回につきせいぜい 0.2 mL 位のであるため調製の規模を小さくしたほうが
よいと思われるが、規模を小さくすると 少量の水分でも LiAlH4 の分解する割合が増加し、従
って失敗の可能性も増すことに留意すべきであろう。
調製した LiAlH4-THF の有効期限は、ゴム栓に針を刺す頻度に依存する。水分の混入で徐々
に分解して水素を発生するため、ゴム栓が膨らみ始め内部に半透明な沈殿物が成長してくれば、
安全のため新しいものを調製すべきであろう。Pierce 社製の容器を使用する場合は、この限り
ではなく寿命はより長くなる。
(*CYRIC では気相法による[11C]よう化メチル合成に移行したた
め、現在本法による調製は行っていない)
A-2.放医研における調製法
(鈴木
和年)
放医研では今まで、高比放射能 11C-標識化合物製造用に不活性雰囲気下、閉鎖系内で THF を
蒸留し、LiAlH4-THF 試薬を調製してきた。しかし、近年、Aldrich 社からも 100 GBq/mol 程
度の比放射能を有する 11C-標識化合物の合成が可能な LiAlH4-THF 試薬や無水 THF が入手で
きるようになり、通常用途にはわざわざ蒸留する必要はなくなった。しかし、実際の使用に当
たっては、LiAlH4-THF 試薬の無水 THF による稀釈や小分け作業が必要となる。その出来・
不出来が製品の比放射能に影響を与えるだけでなく、試薬の活性や使用可能期間などに大きな
影響を及ぼす。ここでは、その簡便な調製法を示す。
[用意するもの]
高純度窒素ガス(純ガス S)
金属針(両端ともテーパー)
100 mL バイアル瓶———洗浄、乾燥後、窒素ガス置換したもの
100 mL バイアル瓶———液量計測用
無水 THF———Aldrich(109-99-9)、100 mL
1.0 M LiAlH4/THF———Aldrich(16853-85-3)
[調製法]
窒素ガスライン、Aldrich 製無水 THF、金属針、100 mL バイアル瓶を図のように接続する。
この際、ガスを流しながら(乾燥とガス置換)
、高圧側より順次組み立てていく。液の移相は針
7
の上下により行う。70 mL 程度バイ
0.3㎏/・
A
B
C
D
V1
アル瓶に移った時点で(水が 70 mL
入った液量計測バイアルの水面 レ
ベルと比較して)針 B を上に移動し
V1 を閉じ、液移相を中断する。液量
計測バイアルに水 3 mL を追加する。
針 A を THF 容器から抜き、1 M
窒素ガス 無水 T H F 1M-LiAlH4
LiAlH4-THF 容器に突き刺す。次に (純ガスS)(Aldボトル)/THF 溶液
針 B を抜き、
素早く LiAlH4-THF 容
100・
バイアル
液量計測
バイアル
器に突き刺し V1 を開く。液量計測バイアルの水面レベルと同じになるまで液移相を行った後
針 B を上げ、V1 を閉じる。そのあと、針を D、C、B、A の順に抜く。調製した LiAlH4-THF
溶液は液がバイアルのゴム栓に付着しないように静かに取り扱い、冷凍庫に保管する。
バイアル瓶のゴム栓については、さまざまな材質のものが使用可能である。内側にテフロン
ライニングしたものは使用後(針を何回か刺した後)の気密性確保に問題があり、放医研では
安価なブチルゴム製品を利用している。
使用器具は、事前に十分洗浄乾燥したものを一晩真空引きし、最後に窒素ガスを充填した状
態で試薬調製に利用している。また、調製試薬の保存は、バイアル瓶のゴムキャップ部をシー
ルテープで密封した後、冷凍庫に保管している。
1-4.[11C]メチルトリフレートの合成
11
(岩田
AgOTf
CH3I
錬)
11
CH3OTf
200oC
[11C]メチルトリフレート([11C]MeOTf)は、[11C]よう化メチルから合成可能な[11C]メチル化
剤で、[11C]よう化メチルに比べ、

より強力で高い反応性を有すること

高沸点(bp. 94∼99C)であるため反応溶媒により容易に捕集されること、
の利点を有し、優れた 11C-標識前駆体である。
[11C]よう化メチルから [11C]MeOTf への変換は、上記の反応式が示すように、 [11C]よう化
メチルを 200C に加熱した AgOTf に通すだけでオンライン的に可能である。通常購入した
AgOTf 試薬をそのままカラムに詰めて使用しても十分な変換効率が得られるが、反応表面積を
大きくして効率を高めたい場合には AgOTf を不活性な支持体に保持させて使用する。文献的に
は 2 通りの調製法(参考文献参照)が知られているが、いずれもそれ程容易ではない。両者を
比較検討して考案された以下に記す調製法が、実験室的にも簡便に利用可能である。
8
1.基礎技術
[用意するもの]
AgOTf:Aldrich (17,643-5)
Graphpac GC (80∼100 mesh):Alltech (Part No. 8538)
[調製法]
3.0 g の AgOTf をフラスコに取り、60 mL のジエチルエーテルを加えこれを完全に溶けるま
で攪拌する。
6.0 g の Graphpac GC をゆっくりと加える。
そのまま 30 分間攪拌の後、溶媒を減圧留去する。
残渣を減圧下 40C で乾燥する。
このように調製した AgOTf-C の約 300 mg を内径 4~6 mm のパイレックスガラス管に入れ、
両側を石英ウールで塞ぎ、反応カラムとする。
(註 1)
[使用法](AgOTf が酸化されないよう注意深く使用することで 20 回以上は使用可能である)
1.
AgOTf-C カラムを図に示すラインに組み込む。
2.
反応管に He(または N2)を流して O2 を除き、その状態で電気炉により 200C に加熱
する。
3.
[11C]よう化メチルを流速 50 mL/min でカラムに通し、生成した[11C]MeOTf を反応容器
に導く。(註 2)
4.
使用後は、空気が入らないようにして
AgOTf-C
[11C]CH3I
カラムを放冷する。(註 3)
排気
註 1) Graphpac GC は非常に細かい粉末の
ため、このままでは必要とする流速を
得ることができない場合がある。この
大きな圧損を減らすためには、調製し
電気炉(200C)
た AgOTf-C を適当な不活性物質(例
反応容器
He
えば石英ウールや石英砂など)と混合
して使用すると良い。
註 2) [11C]よう化メチルから[11C]MeOTf が生成したかどうかを確認する方法として、ピリジ
ン系の化合物中に吹き込んで不揮発性の生成物を得る方法が報告されているが、より
簡便な確認法として以下の例を示す。
Light と活性炭を直列に
つなぎ、それぞれ[11C]よ
う化メチルと[11C]MeOTf
を通してその放射能分布
を調べると、Sep-Pak に
保持された割合は、[11C]
よう化メチルでは 1%、
シ リカカラ ム の放射能量
Sep-Pak Plus Silica
[11C]MeOTf
11
[ C]MeI
0
2
4
経過時間(分)
[11C]MeOTf では 99%で
9
6
8
あった。下図はこのときの放射能の保持の様子を示したものである(He 35 mL/min
の流速で通過させた)。[11C]よう化メチルはいったんカラムに吸着されるがすぐに溶出
する。通常サイズのシリカカラムを使用するとこの保持時間が長くなるが、充分時間
をかけてガスを流せばほぼ同じ結果が得られる。このほかピリジンを保持させた
Sep-Pak C18 を使用して同様な確認を行うことも可能であるが、この場合[11C]よう化
メチルの保持時間はかなり長くなるので注意する必要がある。
註 3) このカラムの寿命に関しては、まだ充分な使用経験がなく明確なことを示すことはで
きない。しかし、その寿命は使用条件に大きく依存することは容易に予想される。例え
ば、加熱下で酸素が混入すれば AgOTf は容易に酸化的に分解するだろうし、比放射能
の低い[11C]よう化メチルを使用すれば、AgOTf は急速に消耗する。
参考文献
1.
Jewett D.M.: Appl. Radiat. isot., 43, 1383–1385 (1992).
2.
Holschbach M., Schueller M.: Appl. Radiat. Isot., 44, 897–898 (1993).
1-5.[11C]ホスゲンの合成
A-1.[11C]ホスゲン合成法(その1)
(西嶋
剣一)
下記の反応スキームで合成する 1, 2)。
11
CH4
Cl2
560oC
11
CCl4
Fe + Fe2O3
11
COCl2
320oC
[使用試薬]
[11C]メタン
Cl2———―ADEKA(99.999%:アデカ高純度液化塩素)
鉄———―Aldrich(granules, 10-40 mesh, 99.999%:413054)
酸化鉄(Ⅲ)———―和光純薬(096-01025)
アンチモン———―Merck(<150 mm:1078320025)、和光純薬(粉末:018-04382)
ガラスビーズ———―アズワン(BZ-06)
五酸化リン———特級試薬(特級試薬:167-02345)
Porapak Q———Waters(80-100 mesh)
[方法]
通常ターゲットは 5%の H2 を添加した窒素ガスとし、[11C]メタンを製造する。[11C]メタンは、
五酸化リンカラム(内径 3.0 mm X 長さ 100 mm)を経て、液体窒素により冷却された Porapak
Q カラム(内径 4 mm X 長さ 150 mm、銅製で、照射終了 10 分前までに液体窒素または液体ア
10
1.基礎技術
ルゴン 3, 4)で冷却しておく)に捕集して濃縮する。その後、銅カラムを室温に戻し、He により
[11C]メタンを、五酸化リンカラムを経て、Cl2(2 mL)を含むガスタイトシリンジ(100 mL)
へ移送して混合する。混合ガスは、およそ 25 mL/min の流速で 560oC に加熱した空の U 字型
石英管(内径 10 mm X 長さ 250 mm)に通じて[11C]四塩化炭素とする。次いで、25 mL/min
の流速の He 気流で[11C]四塩化炭素を 320C に加熱された鉄顆粒-酸化鉄粉末カラム(1.5 g:
酸化鉄粉末/鉄顆粒:1/28 w/w)を詰めた U 字型石英管(内径 3.0 mm X 長さ 100 mm)に通し
て[11C]ホスゲンとする。更に、これをアンチモン(200 mg)とガラスビーズ(200 mg)を混
合したカラム(内径 3.0 mm X 長さ 50 mm)を通過させて過剰の Cl2 を除去し、[11C]ホスゲン
を得る。
[合成収率の測定法]
[11C]ホスゲンの分析はそのままでは困難であるため、[11C]ホスゲンをトルエン溶媒中アニリ
ンと反応させ、[11C]ジフェニルウレアに誘導体化することにより行う
1)。トルエンを除去した
後、反応容器に残存する放射能が、[11C]ジフェニルウレアであり、トルエン溶媒中の放射能が、
[11C]四塩化炭素である。
[その他の注意事項]
合成前後において、不活性ガスによる十分なパージを行う。
[11C]メタンの捕集が低下したときは、Porapak Q カラムのエージングを行ことで改善する。
塩素ガスを使用するため、電磁弁の故障が考えられる。そのため Cl2 が通じるラインは、不
活性ガスで置換しておくこと。
Cl2 の採取は、ディスポーザブルタイプの 10 mL シリンジを用いている。
アンチモンカラムは、10 回程度の使用が可能である。
[11C]ホスゲンの収量が低下した場合は、1)[11C]四塩化炭素が圧倒的に多い、2)[11C]四塩化
炭素も少ない場合の2つのパターンがある。1)の場合は、[11C]ホスゲンが生成していないた
め、鉄顆粒-酸化鉄粉末カラムの不具合を考え、カラムの調製や電気炉の調整が必要となる。2)
の場合は、[11C]ホスゲンの分解が推定され、装置内の水分が原因と考えられる。この場合はラ
インのパージを行うなど水分の除去を行うことが肝要である。
A-2.[11C]ホスゲン合成法(その2)
(高田
下記の反応スキームで合成する 5)。
ガス検知管の反応管
メタナイザー
560oC
[使用試薬]
[11C]CO2
H2 ——— 大陽日酸(G1 グレード)
Cl2/He 混合ガス(20/80) ——— 大陽日酸
アンチモン——— 和光純薬(粉末 500g:012-04385)
11
由貴)
ガラスビーズ——— Alltech (60/80 mesh 125g:5420)
五酸化リン——— 和光純薬(特級試薬:167-02345)
アスカライト——— Aldrich(20-30 mesh:223921)
Porapak Q——— Waters (80-100 mesh)
北川式ガス検知管の反応管——— 光明理化学工業(四塩化炭素:147S)(註1)
註1) 1 箱(5 回分)が 2,100 円(税込)で販売されている。
[方法]
[11C]CO2 を常法により製造、濃縮する。得られた濃縮[11C]CO2 を H2 と共にメタナイザー(GL
サイエンス 211MT)へ流速 10 mL/min で導入し、[11C]メタンとする。これを水分及び未反応
の[11C]CO2 を除くために五酸化リン-アスカライト II の入ったカラムに通したのち、あらかじ
め液体窒素により冷却(—130ºC)された Porapak Q カラム(内径 1.0 mm X 長さ 300 mm)
に捕集して濃縮する。余剰 H2 を除くため N2 を Porapak Q カラムに流速 10 mL/min で 15 秒
間流したのち、室温程度まで加熱し、[11C]メタンを 20%Cl2/He(2 mL)が入ったディスポー
ザブルプラスチックシリンジ(テルモ SS-10ESZ 10 mL)へ移送して混合する。この混合ガス
(約 7 mL)を、50 mL/min の流速の N2 で 560ºC に加熱した空の石英管(外形 10 mm、内径
8 mm X 長さ 300 mm)に通じて[11C]四塩化炭素とし、次いで、常温で北川式ガス検知管の反
応管に通して[11C]ホスゲンとする。更に、アンチモンとガラスビーズを混合したカラム(1:1、
500 mg)を通過させて過剰の塩素ガスを除去し、[11C]ホスゲンを得る。
[合成収率の測定法]
[11C]ホスゲンの分析はそのままでは困難であるため、[11C]ホスゲンをトルエン溶媒中アニリ
ンと反応させ、[11C]ジフェニルウレアに誘導体化することにより行う
6)。トルエンを除去した
後、反応容器に残存する放射能が、[11C]ジフェニルウレアであり、トルエン溶媒中の放射能が、
[11C]CO2 や[11C]四塩化炭素である。
[その他の注意事項]
[11C]ホスゲン合成の成否は、石英管および北川式ガス検知管の反応管へ導入する際の流速に
左右される。[11C]ホスゲンの前駆体である[11C]四塩化炭素は石英管での流速が遅いほど収量が
上がるが、流速が遅いまま反応管に導入すると[11C]COCl2 まで酸化されてしまう。
逆に、流速が速いと十分な[11C]四塩化炭素が生成されず、結果として[11C]ホスゲンの収量が
低くなる。放医研では流速 50 mL/min のときが最もバランスがよかった。各サイトにおいては
流速の調整が必要である。
反応管は、2 回目までなら再使用できるが 3 回目では[11C]ホスゲンの収量が半減した。安定
した収率を望むならば使い捨てにした方がよい。
参考文献
1.
Nishijima K., Kuge Y., Seki K., et al.: Nucl. Med. Biol., 29, 345–350 (2002).
2.
Link J.M., Caldwell J.H., Krohn K.A.: J. Nucl. Med., 42, 70P (2001) (Abstract).
3.
Landais P., Crouzel C.: Appl. Radiat. Isot., 38, 297–300 (1987).
4.
Link J.M., Krohn K.A.: J. Label. Compd. Radiopharm., 40, 306–308 (1997).
12
1.基礎技術
5.
Ogawa M., Takada Y., Suzuki H., et al.: Nucl. Med. Biol., 37, 73–76 (2010).
6.
Nishijima K., Kuge Y., Seki K., et al.: Nucl. Med. Biol., 29, 345–350 (2002).
1-6.オンカラム標識法とループ標識法
11C
(岩田
錬)
の標識合成では、主に気体の標識前駆体([11C]CO2、[11C]よう化メチル、[11C]メチルト
リフレートなど)と液体に溶解した反応基質との反応が用いられる。標識前駆体を含む気体(N2
や He)を反応溶媒中にバブリングすることでこの反応(液相法)を行う。この場合、その導入
管への反応液の逆流を防止したり、反応容器(通常ガラス製)を加圧して反応液を移送したり、
と面倒な操作が必要となる。また、気体の標識前駆体を効率よく捕集するためには、ある程度
の反応用液量(0.2∼1 mL)を使用せざるを得ない。反応溶媒量を減らし、標識反応操作を簡便
化して自動化を容易にするために、オンカラム標識法やループ標識法が開発されている(下図
参照)。
He/液体試薬
排気
標識前駆体
次へ
標識前駆体
反応液
排気
反応カラム
反応液
He/液体試薬
次へ
標識前駆体
反応液
反応ループ
He/液体試薬
排気
次へ
反応容器
液相法
オンカラム法
ループ法
A-1.オンカラム標識法
オンカラム標識法では、反応基質を含む溶媒を小さな固体粒子表面に吸収分散させ気体との
接触表面積を大きくすることで、そこを通る気体の標識前駆体の反応溶媒への捕集効率を大幅
に改善する。使用する固体粒子として市販のルアータイプの使い捨て固相抽出カートリッジ(例
えば Waters の Sep-Pak C18 など)が便利である。
調製した反応溶媒 0.2∼0.4 mL を、必要ならばよく乾燥させたカラムにシリンジで注入し、空
気で過剰分を押し出す(註 1)。このカラムを装置に接続し、標識前駆体を通した後に液体試薬
や He で反応物をカラムから追い出して次の操作に移る。このオンカラム標識法で合成される
PET 薬剤には、[11C]メチオニン 1)、[11C]コリン 2)、[11C]WAY1006353)などがある。一般的なバ
ブリング法では標識前駆体の捕集後に加熱による反応促過程を必要とされるが、オンカラム法
では室温で迅速に反応が進行し、標識前駆体の導入完了後には直ちに次の処理を開始すること
がでる。
註 1) 例えば Sep-Pak Plus C18 は 1 mL 程度の液体を保持できるので、0.5 mL 以下ならば
出口から溢れることはない。
13
A-2.ループ標識法
オンカラム標識法では反応物をカラムから効率よく溶出するために比較的多量の溶媒が必要
なので、[11C]メチオニンや[11C]コリンのように反応後に HPLC による精製を必要としない標識
合成に適する。一方、レセプターリガンド合成のような HPLC 分離精製過程を必ず伴う標識合
成には使用する溶出溶媒の選択やその量、または前段階での濃縮操作などが考慮されなければ
ならず、簡便な方法とは必ずしも言えない。ループ標識法は使用する反応溶媒量を大幅に少な
くすることを可能にし、そのまま HPLC カラムに直接導入したり固相抽出濃縮を経る HPLC
カラムへの導入により、迅速で簡便な方法である。
長さ 5∼10 cm プラスチック製チューブ(内径 0.5∼0.8 mm の PEEK またはテフゼルが適する)
を 4∼5 cm 径のループ状にしてその両端にルアージョイントを接続したものを反応容器とする。
このチューブ内にシリンジで 50 L 前後の反応溶媒を注入し、装置に接続して標識前駆体を通
す。標識前駆体は、内壁に広がる反応溶媒膜に接したり短い液層を押し上げて壊れる時に捕集
される。従って、まず標識前駆体のキャリアーガスの流速が、捕集効率に対して大きな影響を
与える。通常 10∼50 mL/min の流速が使用される。沸点の高い標識前駆体が捕集効率の点から
望ましく、[11C]メチル化には[11C]よう化メチルよりは[11C]メチルトリフレートが適する。原理
が気液反応であるため溶媒の存在が不可欠であり、この点からアセトンなどの揮発性の溶媒は
避け、MEK(2-butanone)や DMF などの高沸点溶媒を用いるとこが必要である。
ループ標識法は迅速な反応が望ましく、[11C]CO2 とグリニャール試薬との反応 4)や[11C]メチ
ルトリフレートを用いる反応 5)に適する。いずれの場合も使用する反応基質量を大幅に減らし、
前者では比放射能を改善し、後者ではオンカラム標識法で述べたように HPLC カラムへの反応
物注入が簡単に自動化される。HPLC インジェクターの試料ループをそのまま反応容器として
用いるか 6)、あるいは試料ループに代わり固相抽出濃縮カラムを用いることで 7)オンライン的に
反応物のカラムへの導入が可能である(1-7を参照のこと)。
参考文献
1.
Pascali C., Bogni A., Iwata R., et al.: J. Label. Compd. Radiopharm., 42, 715–724
(1999).
2.
Pascali C., Bogni A., Iwata R., et al.: J. Label. Compd. Radiopharm., 43, 195–203
(2000).
3.
Wilson A.A., DaSilva J.N., Houle S.: J. Label. Compd. Radiopharm., 38, 149–154
(1996).
4.
McCarron J.A., Turton D.R., Pike V.W., Poole K.G.: J. Label. Compd. Radiopharm., 38,
941–953 (1996).
5.
Iwata R., Pascali C., Bogni A., et al.: Appl. Radiat. Isot., 55, 17–22 (2001).
6.
Wilson A.A., Gacia A., Jin L., Houle S.: Nucl. Med. Biol., 27, 529–532 (2000).
7.
Iwata R., Yamazaki S., Ido T.: Appl. Radiat. Isot., 41, 1225–1227 (1990).
14
1.基礎技術
1-7.分取 HPLC カラムへの反応液自動注入法
(岩田
錬)
[18F]FDG や[11C]メチオニンなど一部を除き多
[ 11 C]よ う化メチル
くの場合には合成の最終過程で未反応の標識前駆
体やその分解物、あるいは出発原料(前駆体)を
6方切換バルブ
HPLC で迅速に除去する必要があり、自動合成装
置には下記に示すいくつかの HPLC カラムへの反
ポンプ
応物自動注入法が採用されている。これらの方法
では、高価な分取カラムの分離能低下を招く恐れ
反応ループ
のある空気の注入を避けつつ効率よく試料をカラ
HPLCカ ラム
ム内に導入する工夫がなされている。最近のルー
溶離液
プ標識法(Captive solvent 法)では、1~2 mL の
Captive solvent 法
気体を反応物と一緒にカラムに注入していること
は注目する必要がある 1)。
標識反応物
シリンジポンプ
A-1.シリンジポンプ法
最も一般的で自動化しやすい方法である。シリ
ンジを使用する手動での注入法に従い、6 方のイン
6方切換バルブ
ジェクションバルブの一方からシリンジポンプで
吸引して、予め容器に集めた反応液をループに移
ポンプ
送する。この場合ループ内に溶離液が充填されて
いなければならない。従ってループをポンプ側に インジェクション
ル ープ
しておき、試料の導入直前にバルブを切換える。
HPLCカ ラム
反応液などは通常その使用量が一定で注入すべき
液量は既知であるため、予め設定値だけシリンジ
溶離液
シリンジポンプ法
を引くことで空気をループに入れることなく効率
的に反応液を注入できる。
シリンジポンプの代わりにマイクロポンプを使用することができる。1 回のストロークが固
定されているので、液量に合わせて必要回数だけポンプを駆動して反応液を移送する。シリン
ジポンプに比べ小型で安価であるが確実性は劣る。液量が未知の場合は、インジェクションバ
ルブの試料入口に液面センサーを設けることで、この信号
溶離液
とシリンジポンプを連動させることで自動化できる 2)。
標識反応物
A-2.ポンプ入口直接注入法
HPLCカ ラム
HPLC ポンプの溶離液吸い込み口から反応液をカラム
に注入するため 6 方のインジェクターバルブが不要とな
る簡便な方法である。ポンプを停止した状態で入口に設け
た専用の液溜に反応液を入れて、次にポンプを作動させて
15
ポンプ
液面
セ ンサー
ポンプ入口直接注入法
反応液を吸い込みカラムに注入する。
試料の拡散による分離の低下を避けるため、まず液溜への溶離液の流入を止め、中の溶離液
をできるだけ少なくした状態でポンプを停止する。反応液を液溜に移送し、ポンプを作動させ
てこれを吸い込む。溶離液の液溜への流入を再開し HPLC 分離を行う。
また、ポンプ内に空気が入ると溶離液の流速が不安定になるため、液面操作に最大限の注意
が必要である。これらの操作を自動化するため、液溜の最下部に液面センサーを設けてその信
号でポンプや電磁弁の動作を制御する 3)。
A-3.固相抽出カラム濃縮法
標識反応物 シリンジポンプ
6 方インジェクションバルブの試料ループに
代えて小さな逆相の固相抽出(SPE)カラムを用
い、ここに反応液中の目的物を濃縮して集め、バ
ルブを切換えてカラム内に注入する方法である
4)。逆相カラムを用いる
HPLC 分取では、精製対
6方切換バルブ
水 溶液
象の目的化合物は低極性であることが多い。従っ
て、この目的物を過剰の極性の高い水に溶解させ
ポンプ
て逆相カラムに通せば少量の充填剤でも効率よ
く捕集できる。逆に、極性の高い添加物や副反応
生成物などは捕集されないので、分取カラムに注
固相抽出
カ ラム
HPLCカ ラム
入されない。
溶離液
SPE カラムで先端濃縮されるため、液量を気
SPE カラム濃縮法
にすることなく反応液と移送用の水をカラムに
通しても分離が低下すること
[ 11 C]よ う化メチル/
[ 11 C]メ チルトリフレート
はなく、また空気の注入も簡単
に避けることができ自動化に
標識反応
ル ープ
適する。但し、SPE カラムに
液を通すにはある程度の高圧
が必要なため使用するポンプ、
シリンジポンプ
6方切換バルブ
バルブおよび配管は耐圧性を
考慮する必要がある。本法の利
用法として最も適するのはル
ープ標識法との組み合わせで
水
ポンプ
ある。この場合、標識反応用の
ループ内には少量の反応液し
固相抽出
カ ラム
か存在しないので、水を流すだ
HPLCカ ラム
けで反応溶媒は希釈され SPE
溶離液
カラムに容易に捕集される。実
ループ SPE 法
際には図に示すように、シリン
16
1.基礎技術
ジポンプとインジェクターの間に標識反応ループを入れ、シリンジポンプからループと SPE カ
ラムに連続して流し、一定量の水を流し終えた時点でインジェクションバルブを切換えて反応
物を HPLC カラムに注入する 5)。
参考文献
1.
Wilson A.A., Gacia A., Jin L., Houle S.: Nucl. Med. Biol., 27, 529–532 (2000).
2.
Iwata R., Yamazaki S., Ido T.: Appl. Radiat. Isot., 41, 1225–1227 (1990).
3.
Suzuki K., Inoue O., Hashimoto K., et al.: Int. J. Appl. Radiat. Isot., 36, 971–976
(1985).
4.
Luthra S.K., Brady F., Turton D.R., et al.: Appl. Radiat. Isot., 45, 857–873 (1994).
5.
Iwata R., Pascali C., Bogni A., et al.: J. Label. Compd. Radiopharm., 45, 271–280
(2002).
1-8.HPLC 分離精製物の固相抽出調製法
(岩田
錬)
一般に、標識反応物を HPLC カラムに注入して目的化合物を分離精製しそのフラクションを
分取しても、そのまま注射液とすることができない。人に投与できない有機溶媒を含む場合が
多いからである。有機溶媒を迅速に除去し投与可能な注射液とするためには、真空ポンプで減
圧されたロータリエバポレーターに分取液を集めて溶媒を乾固した後、生食などの水溶液で残
渣を溶解して滅菌フィルターを通してバイアルに集める。従って、大きなエバポレーターをホ
ットセル内に設置しなければならず、限られた遮蔽空間のかなりの部分を占拠してしまう。こ
の溶媒留去法に代わり、使い捨ての逆相固相抽出カラムで分取液中の目的物だけを分離捕集し
て最終注射液を調製する方法が用いられ
分取液
る 1)。この方法では分取液中の有機溶媒だ
けでなく、HPLC 溶離液に添加した物質
シリンジポンプ
も除去できるので、最終注射液への混入
を考慮することなく HPLC 精製を行える
利点がある。
固相抽出による調製では、目的化合物
蒸留水
エタノール
分取液
リザーバー
を含む分取液に水を加えて極性を高めた
混合溶液を、C18 などの逆相固相抽出カ
ラムに通して目的物だけを捕集分離する。
Sep-Pak C18
水でカラムを洗って残存する溶離液成分
を除いた後、少量のエタノールで捕集物
を溶出する。エタノールを含む水溶液が
蒸留水
投与可能ならば注射用の蒸留水や生食を
加えてエタノール濃度を規定以下にして
廃液
17
目的物
注射液とする。エタノール投与を避ける場合は、ロータリエバポレーターでエタノールを留去
する必要があるが、乾固操作は短時間で済み、少なくとも溶離液中の添加物は除去できる。
実際の操作は、右図に示すような装置により、HPLC カラムからの分取液をあらかじめ水
(30~50 mL)(註 1)を入れたリザーバーに集め、次に活性化処理した C18(あるいは tC18)
に通す(註 2)。分取液に含まれる目的物が固相抽出カラムに保持される。次に注射用蒸留水で
ラインとカラムを洗い、最後に少量のエタノールを流して目的物を溶出しバイアルないしはロ
ータリエバポレターへ送る(註 3)。
化合物によっては無視できない量が固相抽出カラムに残存する場合があるので tC18 も検討
する。また、固相抽出カラムに濃縮される時点で放射線分解(自己放射線分解)が起きる可能
性があるので、必ずその前後で放射化学的純度を分析して分解の程度を調べておくことが必要
である。
註 1) 混合液の極性を高めるために水と混合するが、水の添加量は分取される溶離液量とそ
の組成(アセトニトリルなどの割合)に依存する。
註 2) 活性化処理とは、通常未使用の乾燥したカラムにエタノール(約 5 mL)を通し、次に
水(5 mL)と空気を通す操作を言う。この処理なしでいきなり極性の高い水溶液を通
しても低極性物質が保持されない。
註 3) ここでは切換バルブの付いたシリンジポンプの例を示すが、マイクロポンプによる移
送や圧送を用いることもできる。
参考文献
1.
Lemaire C., Plenevaux A., Aerts J., et al.: J. Label. Compd. Radiopharm., 42, 63–75
(1999).
1-9.分取 HPLC 時の溶媒選択ガイド
(村上
松太郎)
PET トレーサーの調製に先立ち、標識合成反応混合物から目的とする化合物を迅速に分離精
製する手法として、分取 HPLC が広く用いられている。 現在使用されている PET トレーサ
ーの多くがアミンやアミドのアルキル体であることを考慮すると、分取 HPLC として、目的物
が原料物質その他に先行して流出し、流出溶媒の除去がたやすい順層系クロマトが望ましいに
もかかわらず、流出時間や流出溶媒選択の多様さなどの面から逆層系クロマトが一般的に用い
られる。その際の流出溶媒には、極性有機溶媒と水の混液、もしくはそれに種々の酸や塩基を
添加したものが用いられる。溶媒や添加物の除去の容易さ、残留した場合の安全性への配慮か
ら一定の流出溶媒選択ガイドを設けておくことは意義深いと考えられる。
A.秋田脳研の例
[11C]メチルスピペロン分取を想定して記述するが、他の化合物についても大部分は適用可能
と考える。以下の条件で溶媒選択の基礎検討を行う。
18
1.基礎技術
使用カラム:Inertsil ODS-5(内径 4.6 mm X 長さ 300 mm)
、GL サイエンス
流
速:2.0 mL/min
検出器:UV、254 nm
最 初 の 報 告 で は CH3OH/H2O/HCO2NH41) 、 そ の 後 CH3OH/H2O/triethylamine2) 、
CH3CN/CH3CO2NH4/CH3CO2H3) 等が用いられていた。その 1 例を Chart a に示す。
Chart a: CH3CN/0.1 M CH3CO2NH4/CH3CO2H(500/500/1)
スピペロン(15 nmol)とメチルスピペロン(5 nmol)、AUFS 1.0
上記の溶媒系は、3 者とも良好な分離能を示すが、下記の観点から、より良い流出溶媒を検索
することになる。
1)極性有機溶媒に関して
表 1 にみるように、沸点からみた留去し易さの点では 3 者間に大差はないといえる。ヒト換
算毒性の点では、
(1)エタノール、
(2)アセトニトリル、
(3)メタノールの選択順位となるが、
粘性率を考慮すると、高流量でも圧力上昇の少ないアセトニトリルが第 1 選択候補となる。
2)添加化合物に関して
現在まで、HCO2NH4、CH3CO2NH4、CH3CO2H、triethylamine 等が汎用されてきた。と
りわけて重大な問題はないと考えられるが、毒性と除去の 2 点から再考する。
アミン、アミド類は弱酸性条件下が安定である。分取 HPLC で目的標識物の画分の溶媒留去
を考えると、酸性化合物が望ましい。そこで HCO2H、HCO2NH4、CH3CO2H、CH3CO2NH4、
NaH2PO4 等が候補に残るが、これらはいずれも標識合成過程における通常の減圧留去での完全
除去は困難と考えられる。
表 2 に依ればアンモニウムイオンの毒性が以外に強いことが判る。いま Chart a の溶媒によ
る分取 HPLC(6 mL/min)で 1 分間の画分をとったとすれば、アンモニウムイオンは 5.4 mg 混
入することになる。この量は望ましい安全係数 1/10,000 に至らない。また、体重 60 kg の成
人の全血液容量を 5.0 L とした場合、血液中レベル(正常で 100 µg/dL 以下)を 2 倍以上に引
き上げる計算になる。循環血液容量は更に少ないこと、アンモニアによる中毒症状は血液中レ
ベルの 610 倍で確実に出現することを考えるとき、肝や腎機能の悪い被検者への投与は控え
たい。
そこで、化合物を添加しない場合のクロマトを Chart b に示すが、原料、 メチルスピペロン
共に流出せず、有機溶媒と水の比率を変えたところで実用的ではないと判断される。
Chart b: CH3CN/H2O(40/60)
スピペロン(25 nmol)とメチルスピペロン(5 nmol)、AUFS 1.0
表 1.有機溶媒特性
沸 点
粘性率
LD50 値
ヒト(60 kg)換算毒性
エタノール
78.2
1.14
10.6 g/kg(rat, young, po)
7.1 g/kg(rat, old, po)
LD50: 636 g(young)
426 g(old)
アセトニトリル
81.6
0.39
3.8 g/kg(rat, po)
LD50: 228 g
メタノール
64.7
0.52
5.6 g/kg(rat, po)
LD50: 336 g
(水)
(100)
(0.95)
溶
媒
Merck Index(v.11)による。
19
次に添加化合物を検討することになるが、残る HCO2H、CH3CO2H、NaH2PO4 のうち、昇
華、共沸で幾分は除去可能であるが、強酸であるとの理由から HCO2H は最終選択候補に残し
た(しかしながら、フルマゼニルなどの場合には、正リン酸の使用が抜群の効果を発揮するこ
とも事実である。これら不揮発性の強酸を用いた場合には、溶媒留去の後に生理食塩液を加え
ただけでは、注射剤としての許容範囲ながらも最終製品は酸性となるため、炭酸水素ナトリウ
ム注射液等で中和するのが望ましい)。
先ずは減圧蒸留で不完全ながらも除去可能な弱酸候補の CH3CO2H を最初に検討するが、テ
ーリングが強く、より緩衝作用の強い添加物が望まれた(Chart c)
。
Chart c: CH3CN/0.1% CH3CO2OH(40/60)
スピペロン(25 nmol とメチルスピペロン(5 nmol)、AUFS 1.0
残る候補の NaH2PO4 は、蒸留除去は不可能であるが、体液緩衝剤として臨床にも使用され
るものである。本品を用いて完全に分離して流出することが判明した(Chart d)。
Chart d:CH3CN/0.1 M NaH2PO4(50/50)
スピペロン(15 nmol)とメチルスピペロン(5 nmol)、AUFS 2.0
分取時に原料の混入を最小限度に抑えるために、水比率を増やして流出時間の差を大きくす
ることができた(Chart e)。仮に本液の 10 mL を分取したとすれば、NaH2PO4 を 72 mg 含む
ことになる。表 2 の筋注毒性でみる安全係数は、200 倍前後である。
Chart e:CH3CN/0.1M NaH2PO4(40/60)
表 2.添加化合物毒性
添加化合物
ギ
酸
アンモニウムイオン
報告毒性
ヒト(60 kg)換算毒性
LD50:145 mg/kg(mouse, iv)*
LD50:8.7 g(iv)
LD50:1100 mg/kg(mouse, po)*
LD50: 66.0 g(po)
LD100:2 mg/20 g(mouse, iv)*
LD100: 6.0 g(iv)
LD100: 2-3 g(iv)**
LD50:30 mg/kg(rat, im)*
LD50: 1.8 g(im)
LD50:500 mg/kg(mouse, sc)***
LD50: 30.0 g(sc)
LD50:3530 mg/kg(rat, po)*
LD50: 211.8 g(po)
LD50:460 mg/kg(rat, po)*
LD50: 27.6 g(po)
LD50:7400 mg/kg(rat, po)*
LD50: 444.0 g(po)
LD50:326 mg/kg(rat, ip)****
LD50: 19.6 g(ip)
LD50:12930 mg/kg(rat, po)*
LD50: 775.8 g(po)
LD50:2000 mg/kg(rat, ip)****
LD50: 120.0 g(ip)
リン酸二水素一ナトリウム LD50:250 mg/kg(rat, im)****
LD50: 15.0 g(im)
塩化アンモニウム
酢
酸
トリエチルアミン
リン酸三ナトリウム
リン酸一水素二ナトリウム
*
Merck Index(v.11)
** 現代内科学大系、中毒編(中山書店)
***
Drug dosage in laboratory animals; a handbook
**** 実験化学ガイドブック(丸善書店)日本化学会編
20
1.基礎技術
スピペロン(15 nmol)とメチ
ルスピペロン(5 nmol)、AUFS
2.0
そこで、NaH2PO4 濃度を 1/10 に
減じても、流出時間がわずか長くなる
のみで分離精製に支障ないことが判
明した(Chart f)。通常は 10 mL も
分取しないこと、100 mCi 位製造し
て 1020 mCi 位投与することから、
安全係数 10,000 倍を合格することに
なる。
Chart f : CH3CN/0.01 M
NaH2PO4(40/60)
スピペロン(25 nmol)とメチ
ルスピペロン(5 nmol)、AUFS
1.0
実際の供給用標識合成は、原料のス
ピペロン 2.5 µmol、分取カラムは同
一充填剤の同長カラム(内径 10.7
mm X 長さ 300 mm)で行うことを
想定する。保持量は充填剤量に比例す
ることから、今回の検討カラム(内径
4.6 mm)でスピペロン 0.46 µmol と微少のメチルスピペロンが完全に分離流出する必要があ
るが、良好な結果を得た(Chart g)。
Chart g:CH3CN/0.01M NaH2PO4(40/60)
スピペロン(500 nmol)とメチルスピペロン(5 nmol)、AUFS 2.0
よって、現在の臨床供給用の分取 HPLC は、内径 10.7 mm X 長さ 300 mm のカラムに 7
mL/min で流し、8 分前後に流出する[11C]メチルスピペロン画分を分取している。
参考文献
1.
Burns H.D., Dannals R.., Langström B., et al.: J. Nucl. Med., 25, 1222–1227 (1984).
2.
Omokawa H., Tanaka A., Ito M., et al.: Radioisotopes, 34, 480–485 (1985).
3.
日本アイソト-プ協会医学薬学部会サイクロトロン核医学利用専門委員会、Radioisotope,
44 (suppl.), 1–23 (1995).
21
1-10.添加剤概論
A-1.可溶化剤
(田沢
周作)
水に溶けにくい PET 用放射性薬剤は、エバポレーターを用いて HPLC 分取溶媒を濃縮乾固
した後に製剤溶液に再溶解する際にフラスコに残留することがある。また、メンブランフィル
ターを用いて無菌ろ過する際にフィルターに残留することにより、大きく放射化学的収率を低
下することがある。これらの場合、製剤化の過程で可溶化剤を添加することで改善することが
できる。
本書に収載されている PET 用放射性薬剤では、ポリソルベート 80(Tween 80)1)とエタノ
ール 2)が多く用いられ、IAEA から出版されている「Strategies for Clinical Implementation
and Quality Management of PET Tracers」では、これらに加えてプロピレングリコール 3,4)
が多く用いられている。何れかを単独で、あるいは組み合わせて用いることで可溶化に成功す
ると思われるが、何らかの疾病を持ち薬剤治療を受けている患者に投与する可能性を考えると、
極力少ない種類で少量の可溶化剤を用いた製剤に最適化を行うべきである。一方、プロピレン
グリコールについては、エバポレーターで濃縮乾固する際に[11C]mHED と反応することが報告
されている 5)。有効成分である標識化合物に影響しないことを確認することも重要である。
医薬品で用いられている添加剤について、日本医薬品添加剤協会で編集され、薬事日報社か
ら出版されている「医薬品添加物辞典 2007」に詳細が記載されている。その中で、可溶化剤と
して PET 用放射性薬剤で用いられているもの、用いられる可能性があるものを下表に示す。
静脈内注射
名称
用途
規格
販売先
最大使用量
安定化剤、界面活性剤、
ポリソルベート20
医薬品添加物規格
40 mg
和光純薬工業
日本薬局方
500 mg
和光純薬工業
日本薬局方
800 mg
溶解補助剤
安定化剤、界面活性剤、
ポリソルベート80
可溶化剤、溶解補助剤
安定化剤、可溶化剤、溶
エタノール
解補助剤
プロピレングリコー
安定化剤、可溶化剤、溶
ル
解補助剤
日本薬局方
安定化剤、可溶化剤、溶
マクロゴール300
医薬品添加物規格
解補助剤
日本薬局方
3.2 g
日本薬局方
120 mg
溶解補助剤
安定化剤、可溶化剤、溶
マクロゴール4000
解補助剤
ベンジルアルコール
安定化剤、溶解補助剤
4875 mg/m2
小堺製薬
丸石製薬
日油
(体表面積)
安定化剤、界面活性剤、
マクロゴール400
3.32 g
健栄製薬
日本薬局方
22
0.5 mL
丸石製薬
和光純薬工業
丸石製薬
メルク
1.基礎技術
参考文献
1.
Hashimoto, K., Inoue, O., Suzuki, K., et al.: Ann. Nucl. Med., 3, 63–71 (1989).
2.
Debruyne, J.C., Versijpt, J., Van Laere, K.J., et al.: Eur. J. Neurol., 10, 257–264 (2003).
3.
Minn, H., Salonen A., Friberg J., et al.: J. Nucl. Med., 45, 972–979 (2004).
4.
Suzuki, K., Inoue O., Hashimoto K., et al.: Int. J. Appl. Radiat. Isot., 36, 971–976
(1985).
Arponen, E., Helin, S., Någren, K., et al.: J. Label. Compd. Radiopharm., 48, S200
5.
(abstract) (2005).
A-2.放射線分解抑制剤
(福村
利光)
放射線分解は、放射線の作用により時間とともに標識化合物の純度が低下する現象であり、
トレーサー研究の分野では、古くから知られている現象である。放射線分解の起こりやすさは
一般的に放射能濃度、比放射能等と相関関係にあることが知られ、また放射線の種類によって
も異なることが知られている。すなわち、放射線分解の程度及び起こりやすさは、放射能量、
放射能(濃度)及び比放射能の上昇と共にリスクが上昇し、電離能力の高い放射線ほど放射線
分解を起こしやすい。一方で放射線分解に対する感受性は、化合物によって差があり分解しや
すい物質と比較的分解しにくい物質が存在している。また下記に示すように反応性の高いラジ
カルが分解に関与していることから溶液中の不純物の存在により分解の程度は左右され易く、
一般的に不純物の少ない高品位の PET 薬剤にしようとすればするほど放射線による分解を受
けやすくなる。
PET 薬剤等の希薄溶液の放射線分解は、多くの場合、間接作用と呼ばれる放射線と周囲の分
子との作用によって生成するイオンやラジカルが関与しており、特に水性の注射剤として供与
される PET 用放射性薬剤の放射線分解では、ほとんど場合、周囲の水分子と放射線の相互作用
によって生成した活性ラジカルにより分解が引き起こされる。従ってこの分解のプロセスをい
かに抑制するかが放射化学的純度を高く保つうえで重要になる。
水の放射線分解において生成される活性ラジカルの中で重要なものは、G 値(100 eV あたり
生成する数)の大きい酸化性のヒドロキシラジカル、還元性の水和電子や最終生成物の過酸化
水素等があげられる。PET 薬剤の放射線分解に際しては、ほとんどの場合、ヒドロキシラジカ
ルにより分解が引き起こされていると考えてよい。しかしながら少数ではあるが水和電子や水
和電子とヒドロキシラジカルの両方が分解に関与していることもある。
PET 用薬剤の放射線分解を抑えるためにはこれらの活性ラジカルを捕捉するいわゆるラジカ
ル捕捉剤を加えることで分解を抑制することができる。ここで放射性薬剤に使用するラジカル
捕捉剤の要件として以下のような事項があげられる。
①
上記の活性ラジカルに対して概ね 108~1010 M-1S-1 程度の大きな反応速度定数を有する
こと。
②
PET 薬剤と反応しないこと。
③
PET 薬剤による測定を阻害しないこと。
④
人体に対して無害であること。
23
以上の要件に当てはまり局方品が比較的手軽に利用できるものとして、エタノール、アスコ
ルビン酸等があげられる。また溶解補助剤として使われる界面活性剤にも分解抑制の効果が認
められる。但し、これらの添加物もすべての場合において万能ではなく、効果がないかかえっ
て分解を促進する場合もあるので、実際に添加後、経時的に純度の確認を行っておく必要があ
る。
ラジカル捕捉剤の添加は、PET 薬剤製造のプロセス中で分解が起こりやすい工程で行う必要
がある。通常最も分解しやすい工程は、HPLC 等によって分離精製を行った後の溶媒の除去の
工程である。この場合には濃縮用エバポレーターのナスフラスコ中にあらかじめラジカル捕捉
剤を加えておく必要がある。また水系の分離溶媒を使用した際の HPLC 分離中にもカラム内で
分解することもあり、この場合には分離溶媒中にラジカル捕捉剤を添加しておく必要がある。
添加するラジカル捕捉剤の必要な濃度は、活性ラジカルとラジカル捕捉剤の反応速度定数と
PET 薬剤と活性ラジカルの反応速度定数から推定することができるが、多くの場合、最終製剤
に数パーセント添加することで分解を抑制することができる。
24
2.薬剤選択の考え方
2.薬剤選択の考え方
(石渡
喜一)
新たな PET による臨床研究や基礎研究を計画するとき、その研究対象によっては評価の定ま
った幾つかの薬剤を使用することができる。どのように薬剤を選択すべきか、はじめに一般論
を、次いでアミノ酸薬剤とドーパミン神経系薬剤についての選択の考え方を紹介する。
まず、核種の選択については、臨床研究での使用者の使い勝手は半減期の比較的長い
18F
標
識薬剤にメリットがある。また、18F の陽電子の飛程が他の PET 核種に比べて短いため、得ら
れる画像も解像度に優れている。更に、[18F]FDG のように放射化学的収率が良好なときには、
一回の合成で数人の計測をすることも可能になり、スループットを上げることができる。将来
的には、欧米のように多施設へ供給できるという可能性もある。しかし、被験者の被曝線量は
11C
標識薬剤等の短寿命核種の比べると多くなるというデメリットもある。PET/CT 装置が主流
となった昨今では、PET 計測より CT による被曝線量がむしろ問題になると考えられているが、
薬剤選択に当たっても考慮されるべき点である。
一方、11C 標識薬剤等などでは、研究目的により、また薬剤によっては一回の合成で数人の
PET 計測が可能であるが、基本的には計測毎に薬剤合成が必要である。また、脳の病態研究な
どでは、複数の PET 薬剤を同一被験者に使用することもあり得る。例えば、東京都健康長寿医
療センター研究所では、認知症の[11C]PiB によるアミロイドイメージングでは可能な限り
[18F]FDG での糖代謝計測も同日に行い、パーキンソン症候群では、ドーパミン神経系の節前及
び節後機能の計測(-[11C]CFT と[11C]ラクロプライド)に[18F]FDG 計測を組み合わせて、的
確な診断を行っている。また、脳の薬物占拠率評価や受容体賦活などの研究では、同じ薬剤で
複数回計測することもあり得る。このような目的には、被験者の負担だけでなく計測の精度や
診断の信頼性を高める上で、同日に繰り返し計測のできる
11C
標識薬剤は極めて重要である。
がん診断でも、[18F]FDG 診断で難しい場面では[11C]コリンや[11C]メチオニンであれば同日に
併用することも可能である。私たちの脳腫瘍研究では、[11C]メチオニンを標準薬剤として、こ
れに O-[11C]メチル-L-タイロシン、[11C]コリン、[11C]4DST あるいは[18F]FBPA などを同日に
併用して比較研究を行ってきた。
今回は未収録であるが[18F]フルマゼニルは[11C]フルマゼニルと同一のプローブであり、[18F]
フルオロコリンは[11C]コリンと同等の機能を評価できるであろう。どちらを選択するかは、施
設のそれぞれの合成環境に制限されることもあるが、臨床研究の目的に応じて適切な薬剤の選
択をしていただきたい。また、本てびきにはアミロイドイメージング剤や低酸素イメージング
も複数の薬剤が収録され、前者については現在のところの主流は[11C]PiB であるが、今後は
[18F]AV-45 などの 18F 標識薬剤に移行することは間違いない。また、後者では[62Cu]Cu—ATSM
がジェネレータ核種であるなどの特徴がある。しかし、現在の段階ではいずれも研究進行中で
あり、それぞれの薬剤の特徴や選択基準に関しては、今後の展開を待ちたい。
25
2-1.アミノ酸薬剤
アミノ酸薬剤の最も期待される役割は脳腫瘍診断と考えられる。本手引きに収録された薬剤
はいずれも脳腫瘍診断に有効である。この中で[11C]メチオニンだけが天然のアミノ酸で、その
他は人工アミノ酸である。[18F]フルオロフェニルアラニンは動物実験では天然アミノ酸とよく
似た動態を示すが、ヒトでは[11C]メチオニンよりは他の人工アミノ酸の性質に近いようである。
また、ドーパミン神経伝達系に収録されている[18F]フルオロドーパも人工アミノ酸として腫瘍
診断で応用されている。18F 標識アミノ酸のうち、[18F]FET 以外の薬剤は[18F]F2 を標識前駆体
として使用するため、比放射能が低く投与物質量(化学量)が多くなり、また合成収量にも限
度があり、スループットを上げることが難しい。
生体内の代謝動態については、[11C]メチオニンは主にタンパク質合成により腫瘍へ集積する
が、またメチル基転移反応も無視できないと考えられている。そのため図1に示すように、全
身での放射能分布をみると、膵臓や肝臓に強い集積が認められ、通常は腎尿路系の排泄は無視
できる程度である。一方、人工アミノ酸はいずれも代謝的にかなり安定で、腫瘍のアミノ酸輸
送を画像化していると考えられている。これらはタンパク質合成等の生体内反応に関与しない
ため、[18F]FDG と同様に腎尿路系で排泄され、時間とともに膀胱への強い集積が認められる。
このような天然と人工のアミノ酸の性質の違いは、全身の腫瘍診断では、[11C]メチオニンは膀
胱周辺の腫瘍診断に、人工アミノ酸は肝臓周辺の診断に有利であると考えられる。頭頸部腫瘍
診断では、[11C]メチオニンが顎下腺や脳下垂体に集積が認められるのに対して、人工アミノ酸
ではそれらの組織への集積が無視できるようである
1)。人工アミノ酸による腫瘍診断において
は、バックグランドとなる組織の放射能は[18F]FDG と同様に時間とともに低下するが、
[18F]FDG のような集積機序がないため、腫瘍からの放射能も低下すると考えられる。実際、
O-[11C]メチル-L-タイロシンでは、脳腫瘍への集積は投与後 10-20 分が最大で、放射能の腫瘍/
脳の比は 10-60 分でほぼ一定であった。一方、[18F]ボロノフルオロフェニルアラニンは脳腫瘍
へ投与後 60 分程度は集積パターンを示した。人工アミノ酸によっては、多少性質に違いがある
ようである。
図1.アミノ酸製剤の全身放射能分布。左から、順に[11C]メチオニン、[11C]タイロシン、O-[11C]
メチル—L—タイロシン、[18F]ボロノフルオロフェニルアラニンを示す。矢印は腫瘍を示す。[11C]
メチオニン(健常者)と O—[11C]メチル—L—タイロシンの画像は国際医療センターの窪田和雄先
26
2.薬剤選択の考え方
生より、[11C]タイロシンの画像は University Medical Center Groningen より提供され、[18F]
ボロノフルオロフェニルアラニン(健常者)の画像は東京都健康長寿医療センター研究所の例
である。
2-2.ドーパミン神経系薬剤
パーキンソン症候群などの神経変性疾患や精神疾患を対象として、本手引きに収録された薬
剤を初めとして数多くの PET 薬剤が臨床研究に使用されている。ドーパミン神経系の節前機能
を評価するには、ドーパミン代謝を評価する方法と、放出されるドーパミンの再取り込み機能
をもつトランスポータで評価する方法がある。
前者で最も臨床使用されたプローブは[18F]フルオロドーパであるが、末梢での代謝が早く、
PET 計測にはカルビドーパなどの代謝阻害薬の服用が望まれる。その欠点を補うために比較的
代謝が遅い[18F]フルオロメタタイロシンなどが提案されており、診断の定性的指標となる線条
体/小脳比は優れている。しかし、ドーパ類似のこれらのプローブは、パーキンソン病の治療薬
として用いられている L—ドーパと競合するため、PET 計測に際しては漸減中止するのが望ま
しく、被験者にとっては必ずしも望ましいことではない。一方、ドーパミントランスポータプ
ローブを用いる PET 診断では、代謝阻害剤の負荷や L—ドーパの漸減中止などの問題はなく、
また、線条体/小脳比も優れているようである。[11C]—CFT はトランスポータへの親和性が高
く、図2に示すように、11C 標識薬剤の計測できる時間帯の 90 分程度では定性画像診断で受容
体結合を評価する (線条体集積小脳集積)/(小脳集積) 比が、最適な疑似平衡状態に達しないた
め、本来は 18F 標識の[18F]—CFT を用いるのが望ましいと言われているが 2)、その比は十分お
おきく、診断上は問題にはならない。[11C]—CFT と[11C]PE2I を比較すると、後者の方がやや
親和性が低いため疑似平衡状態に近くなるため
11C
薬剤の計測上は望ましく、選択性も優れて
いる 3)。
ドーパミン神経系の節後機能は、[11C]ラクロプライドによるドーパミン D2 受容体の計測が最
も一般的である。[11C]ラクロプライドは選択性に優れ、また親和性がやや低いために受容体結
合が 60 分以内に定性画像診断に最適な疑似平衡状態になるが(図2)
、内因性のドーパミンと
も拮抗すると考えられており、受容体賦活研究等にも使用されてきた。初めてドーパミン D2
受容体の画像化に使用された[11C]メチルスピペロンは、親和性が高く受容体結合は疑似平衡に
達しないが、定性画像診断では[11C]—CFT と同様に十分な情報を与える。しかし、セロトニン
受容体への親和性が無視できず、[11C]ラクロプライドに比べると大脳皮質への結合が明らかで
ある。パーキンソン病では、[11C]—CFT 結合の低下が顕著な被殻で[11C]ラクロプライドの結合
が健常者に比べて増加傾向が認められ、死後脳などの研究からこれは受容体の upregulation と
理解されがちであるが、[11C]メチルスピペロンではそのような現象は認められない
4)。これら
の違いは、障害の強い被殻では内因性ドーパミン濃度が低いため、親和性の比較的低い[11C]ラ
クロプライドの結合が相対的に増加したと考えると説明できる。即ち、神経変性疾患の程度を
評価するには、内因性ドーパミン濃度の影響を受け難い[11C]メチルスピペロンを選択するとい
27
う考え方もある。
ドーパミン神経系の節後機能を[11C]SCH23390 などのプローブとしてドーパミン D1 受容体
で評価することもあるが、それほど一般的ではない。[11C]SCH23390 はセロトニン受容体への
親和性も多少あることが知られており、より選択性に優れた[11C](+)NNC112 などのプローブも
臨床研究に用いられ 5)、国内では放医研で使用されたことがある。
精神疾患領域では、大脳皮質のドーパミン受容体に興味がもたれているが、受容体密度が低
いため上記のプローブは望ましくなく、D2 受容体計測に関しては高親和性の[11C]FLB457 が最
も広く臨床使用されている。[11C]FLB457 の使用で注意すべきことは、投与する薬物量が多く
なると、[11C]FLB457 が受容体に結合する割合が増え(FLB457 自身の受容体占拠により)、計
測で得られるシグナルが小さくなることである
6) 。そのためできるだけ高い比放射能の
[11C]FLB457 を使用することが望ましいが、ルーチン計測では多少比放射能が低めでも安定し
て合成することが重要である。通常、11C 標識薬剤の計測時間帯では、[11C]FLB457 により線
条体への結合を評価することは適切でないと考えられているが、半減期の長い
18F
標識の高親
和性プローブである[18F]fallypride では、全脳部位の D2 受容体を長時間計測であれば可能とな
る 7)。大脳皮質の D1 受容体計測については、最近は多くの報告がなされるようになり、低密度
の受容体計測に[11C](+)NNC 112 が利用できると報告されている 8)。
11
11
[ C]-CFT
6
4
4
2
2
30
60
90
Time after injection (min)
4
2
0
0
11
30
60
90
Time after injection (min)
Striatum
Cerebellum
Specific binding
6
4
2
0
0
[ C]N-methylspiperone
8
Striatum
Cerebellum
Specific binding
6
Radioactivity (SUV)
Radioactivity (SUV)
6
0
[ C]Raclopride
8
Striatum
Cerebellum
Specific binding
Striatum
Cerebellum
Specific binding
Radioactivity (SUV)
11
[ C]PE2I
8
Radioactivity (SUV)
8
0
30
60
Time after injection (min)
90
0
0
30
60
90
Time after injection (min)
図2.[11C]—CFT、[11C]PE2I、[11C]ラクロプライド及び[11C]メチルスピペロンの時間放射能
曲線と受容体結合。受容体結合は、(線条体集積小脳集積)/(小脳集積) で評価した。[11C]PE2I
のデータは藤元早鈴病院の藤田晴吾先生より提供され、他の3薬剤のデータは東京都健康長寿
医療センター研究所の例である。
参考文献
1.
Ishiwata K., Kubota K., Nariai T., Iwata R.: In: Cancer Imaging: Instrument and
Application. Vol. 2, Hayat MA (ed), Amsterdam: Elsevier; 2008. pp.175—179.
2.
Laakso A., Bergman J., Haaparanta M., et al.: Synapse, 28, 244—250 (1998).
3.
Halldin C., Erixon-Lindroth N., Pauli S., et al.: Eur. J. Nucl. Med. Mol. Imaging, 30,
1220–1230 (2003).
28
2.薬剤選択の考え方
4.
Ishibashi K., Ishii K., Oda K., et al.: Nucl. Med. Commun., 31, 159–166 (2010).
5.
Halldin C., Foged C., Chou Y.H., et al.: J. Nucl. Med., 39, 2061–2068 (1998).
6.
Olsson H., Halldin C., and Farde L.: NeuroImage, 22, 794–803 (2004).
7.
Mukherjee J., Christian B.T., Dunigan K.A., et al.: Synapse, 43, 170–188 (2002).
8.
Slifstein M., Kegeles L.S., Gonzales R., et al.: J. Cereb. Blood Flow Metab., 27,
1733–1741 (2007).
29
3.[13N]NH3 合成法
3.[13N]アンモニア合成法
静注された本製剤は組織血流に従い、組織内に移行する。そこで、比較的早い時間に撮像す
ることにより、局所組織血流のイメージが得られる。
[13N]アンモニアの合成方法としては核反応 16O(p,)13N に基づく[13N]硝酸イオンをデバルダ
合金で還元する方法 1-3)、水酸化チタンを使用する方法 4)、13C(p,n)13N 反応に基づく合成方法 5)、
12C(d,n)13N
反応に基づき CH4 を照射して直接[13N]アンモニアを合成する方法 6)、水素雰囲気下
の水またはエタノール水溶液からターゲット内で直接合成する方法 7)等が知られている。
A-1.還元法
(間賀田
泰寛)
下記の反応スキームにより合成する。
TiCl3, NaOH
13
NOx
13
Heat
NH3
[使用試薬]
10 M NaOH(註1)
8% TiCl3———ナカライテスク、25%試薬を購入し希釈して使用する。
註1) NaOH ペレット(特級試薬)200 g を注射用蒸留水に溶かし 500 mL として調製する。
[方法]
照射容器に注射用蒸留水を充填する。このとき水の循環を念入りに行い、照射容器内に空気
が入らないようにする。
充填完了後、プロトンビームを照射する。16O(p,)13N の反応により、ターゲット水中に[13N]
硝酸イオンが主として生成する(註1)。
[13N]硝酸イオンを回収する前に 10 M NaOH(約 15 mL)反応器に注入し、ヒーターを昇温
する。ヒーターの昇温開始時期の目安は、[13N]硝酸イオンを回収した時点で 120C 前後になる
ように設定する。
[13N]硝酸イオンを回収した後、8% TiCl3(約 5 mL)反応器に注入し蒸留を開始する。蒸留
は 150C 前後で行っている。蒸留の中止の時期は NaI(Tl)シンチレータで放射能を確認しなが
ら決める。
註1) この他[13N]亜硝酸イオン、[13N]アンモニア等が生成する。
[合成法の特徴と問題点]
[13N]アンモニアの合成法としては様々な方法が報告されているが、本法ではターゲット水に
注射用蒸留水を用い、16O(p,)13N の核反応により生成する[13N]硝酸イオンを Ti(OH)3 で還元
31
する方法を用いている。特徴としては、照射時間、合成時間(註1)ともに短時間で高収量(註
2)の[13N]アンモニアを得ることが可能である。また、同一反応容器を使用して 1 日に複数回
の繰り返し合成(註3)が可能である。
問題点としては、複数回合成していると徐々にではあるが収量が低下してくることがある。
この原因ははっきりしていないが、経験的に TiCl3 を通常 5 mL 注入のところ 10 mL に増やす
ことで対処可能である。
また、合成装置のバルブ、ラインの劣化が挙げられる。10 M NaOH を使用するのである程
度覚悟しておく必要があるが、合成終了後に念入りに注射用蒸留水でバルブ、ラインの洗浄を
することで対処している。
註 1) 照射時間は 20 分で合成時間(回収時間含む)は 10 分である。
註 2) 上記の条件で 100150 mCi の収量が得られている。
註 3) 照射を開始してから合成終了まで約 30 分程度なので、1 日に複数回の合成は可能であ
る。
A-2.水素ガス添加による直接法
(山崎
茂樹)
本方法では、ターゲットとして注射用蒸留水を使用し、照射容器内を水素ガスで充填しター
ゲット水をポンプで循環する。この様に、還元的雰囲気下でターゲット水をプロトンビームで
照射することにより[13N]アンモニアを直接合成する。
[使用試薬類]
Sep-Pak Plus Accell CM(註1)———Waters
註1) 陽イオン交換体としてこの他、陽イオン交換膜(AG50W-X8、Bio-Rad)を使用するこ
とが可能である。陽イオン交換体は使用前に、ペリスタポンプを用いて加温した(約
60C)注射用蒸留水 500 mL を約 20 mL/min の流速で流すことで洗浄する。
[方法]
水素ガスにより、照射容器内にリークが無いことを確認する。
照射容器内に注射用蒸留水を送り、ポンプで循環して洗浄する。
Sep-Pak Plus Acell CM に注射用生理食塩水を流し、イオン型を Na 型に調製する。
注射用蒸留水を照射容器に送液し、水素ガスを充填、加圧(1.0~3.0 kg/cm2)する。その後、
ポンプを作動させ、ターゲット水を循環させて、照射容器内の還元雰囲気を作る。(註1)
プロトンビームを照射する。
照射済ターゲット水を照射容器から取り出す。
ターゲット水を Accell CM(または AG50W-X8)に通し、[13N]アンモニアを保持し、不純物
の[13N]硝酸イオンを洗い流す。
次に注射用生理食塩水により[13N]アンモニアを溶出する。
(註2)
註1) 水素の充填およびターゲット水の循環が不十分な場合は[13N]硝酸イオンが生成する。
註2) 陽イオン交換体は繰り返して使用可能。通常は 1 回目の合成により合成した[13N]アン
モニアを薬剤検定に使用し、2 回目以降を臨床に使用する。
32
3.[13N]NH3 合成法
[合成法の特徴と問題点]
照射容器内に水素を充填し、ターゲット水を循環して[13N]アンモニアをプロトンビーム照射
で直接合成する方法では、繰り返して[13N]アンモニアを合成することが可能である。放射化学
的不純物や照射容器由来の化学的不純物は陽イオン交換法で除去され、簡便に生理食塩水中に
[13N]アンモニアを得ることが出来る。
A-3.エタノール添加による直接法
(永津
弘太郎)
本法は,エタノールを添加した注射用蒸留水をターゲット容器に充填し,16O(p,)13N 反応に
よって[13N]アンモニアを直接生成させる方法である。
[使用試薬]
注射用蒸留水———日本薬局方
無水エタノール(99.5%)———日本薬局方
1 M NaOH (*1)(註1)
Sep-Pak Plus Accell CM (*2)(註1)(註2)
生理食塩液 (*1、*2)———日本薬局方(註1)
註1) ターゲット容器から回収される照射液中には[13N]アンモニアのほか,微量の不純物が
含まれているため,何らかの精製を行う必要がある。いくつかの方法が知られている
が、ここでは強塩基条件下での[13N]アンモニア蒸留法を採用する場合に(*1)を、陽
イオン交換カラムを利用した陽イオン交換法を採用する場合には(*2)を、それぞれ
準備する。
註2) 樹脂のイオン形を Na+とする。生理食塩液 10 mL をシリンジに取り、CM カートリッ
ジに通した後、注射用蒸留水 30 mL で洗って調製する。
[方法]
無菌的に調製した 10 mM エタノール水溶液(註1)をターゲット容器へ充填する。
プロトンビームを照射してターゲット容器内部で[13N]アンモニアを製造する。
(1)アンモニア蒸留法の場合:
照射液の回収容器に,事前に 1 M NaOH(約 2 mL)を入れ予熱しておく。照射液の回収開
始までに 100130C、回収完了~蒸留中の段階で 150~200C 設定が通常採られる(註2)。
[13N]アンモニアは、適量の生理食塩液を入れた無菌容器へ、不活性ガス 3050 mL/min に乗
せてバブリングしながら回収する(註3)。
(2)陽イオン交換法の場合:
照射液を CM カートリッジに通して[13N]アンモニアを保持させ、不純成分を通過させる。
照射液の回収が完了したら、10~20 mL の注射用蒸留水をカラムに通過させ、残留する不純
成分を洗い流す。
適量の生理食塩液をカラムに通し、[13N]アンモニアを溶出する(註4)。
註1) ターゲットとする 10 mM エタノール水溶液は、合成当日にその日の使用分(50 mL)
を調製する。無水エタノール(0.5 mmol、29 L)を注射用蒸留水(50 mL)に添加し
33
十分混和させる。長期間おいたターゲット水は[13N]アンモニアの生成を不安定にさせ
ることがある。
註2) 照射液が回収されるとアルカリ溶液が冷却され蒸留効率が低下するため、ヒーター出
力を上げる必要がある。但し、事前の加熱はアルカリ溶液の蒸発や容器の損傷などが
起こりやすくなるため、2 段階で加温するのが望ましい。また、ガラス容器は使用に伴
い徐々にアルカリによる腐食等の劣化が見られるため、適宜交換する必要がある。
註3) 無菌を保証しやすいディスポーザブル配管等を製品回収に利用する場合、高温蒸気の
通過する配管では熱変形に注意する必要がある。特に、ピンチバルブを利用する系で
は、比較的太い配管を利用する、あるいは挟み込む部分を適宜ずらすなどして、配管
の弾力性を維持する必要がある。
註4) [13N]アンモニアを溶出させた後、注射用蒸留水で洗浄することで繰り返し同じカラム
を再利用できる。但し、再利用は当日だけに限定し、接続部を外さないなどの衛生面
から推奨される手順が望まれる。
[合成法の特徴と問題点]
照射容器内で直接[13N]アンモニアが得られる本法は、準備作業が簡便で繰り返し合成にも適
しているという利点がある。
純水をターゲットとした場合、ほとんどの
13N
は
13NOx-の化学形で照射液中に生成する。
エタノールを添加することにより、13N はほぼ 100%の収率で
13NH3
となる。しかし、大電流
で長時間照射などをした場合にエタノールの枯渇を招き、[13N]アンモニアの放射化学的純度が
低下する恐れがあるが、常用される照射量(註1)で問題となる例はほとんどない。消費され
たエタノールは主に CO2 になるとの報告がある 9)。
また,ターゲット容器由来の金属核種が照射した液中に含まれる場合があるため、最終製品
中への混入がないことを確認すると同時に、廃液及びカラムの取扱いには十分注意する必要が
ある。
註1) 例として、照射野のターゲット水容積約 1.6 mL、18 MeV プロトン 20 A X 15 min 照
射を行った場合、[13N]アンモニアの放射化学的純度は 99%以上が得られている。
B.分析法
[放射化学的純度]
HPLC
i)
カラム:Nova-PakC18 4 m(内径 3.9 mm X 長さ 150 mm)
、Waters
溶離液:CH3CN/5 mM PIC B-8(60/40)(註1)
流
速:0.5 mL/min
保持時間:2.5 分
ii)
カラム:Adsorbosphere SCX 5 m(内径 4.6 mm X 長さ 150 mm)、Alltech
溶離液:2 mM AcONH4(1 mM AcOH を含む、pH 5)
流
速:2.0 mL/min
保持時間:4.9 分
34
3.[13N]NH3 合成法
註1) PIC B-8:イオンペアクロマトグラフィ用試薬(Waters、WAT85142)
C.その他
[被曝線量]8)
臓器
線量(Gy/MBq)
臓器
線量(Gy/MBq)
脾臓
2.5
肝臓
4.0
腎臓
4.6
膀胱壁
8.1
脳
4.2
全身の線量当量は 2.7 Sv/MBq
参考文献
1.
MacDonald N.S., Cook J.S., Birdsall R.L., et al.: Proceeding of 27th Conference on
Remote Systems Technology, 314–315 (1979).
2.
Shefer R.E., Hughey B.J., Kinkowstein R.E., et al.: Nucl. Med. Biol., 21, 977–986
(1994).
3.
Slegers G., Vandecasteele C., Sambre J.: J. Radioanal. Chem., 59, 585-587 (1980).
4.
井戸達雄, 岩田錬: Radioisotopes, 30, 1–6 (1981).
5.
Tilbury R.S., Dahl J.R., Monahan W.G., et al.: Radiochem. Radioanal. Lett., 8, 317–323
(1971).
6.
Ferrieri R.A., Schlyer D.J., Wieland B.W., et al.: Int. J. Appl. Radiat. Isot., 34, 897–900
(1983).
7.
Berridge M.S., Landmeier B.J.: Appl. Radiat. Isot., 44, 1433–1441 (1993).
8.
Lockwood A.H.: J. Nucl. Med., 21, 276–278 (1980).
9.
Ferrieri R.A., MacDonald K., Schlyer D.J., et al.: J. Label. Compd. Radiopharm., 32,
461–463 (1992).
35
4.[18F]FDG 合成法
4.[18F]FDG合成法
[18F]フルオロデオキシグルコース(2-deoxy-2-[18F]fluoro-D-glucose、[18F]FDG)は、脳、
心筋および癌等のグルコース代謝を診断する薬剤として使用される。グルコース類似体として
ヘキソキナーゼによりリン酸化されて[18F]FDG-6-リン酸となり、組織内に蓄積する。15O-標
識ガスや水とならんで、PET において最も汎用される基本的薬剤である。
(佐々木
基仁、石渡喜一、岩田
錬)
A-1.ワンポット酸加水分解法 1-3)
下記の反応スキームにより合成する。
i) [K+/K.222]18F-/CH3CN
ii) HCl
[使用試薬]
[18O]H2O———大陽日酸、Rotem 社、Euriso-top 社、Isotec 社等(化学的純度 99.9%、通常市
販されている試薬は 95 原子%以上の濃縮水である)(註1)
[18F]フッ素イオン(註2)
1,3,4,6–Tetra–O–acetyl–2–O–trifuluoromethanesulfonyl––D–mannopyranose(マンノース
トリフレート)———和光純薬(209-16061)、ABX(92051-23-5)など(註3)
Kryptofix 222(K.222)———Merck(29111-0)(註4)
無水アセトニトリル———Merck(12636)
炭酸カリウム———Merck(4926、化学的に高純度 99.999%の試薬を使用する)(註5)
1 M HCl(註6)
Sep-Pak Accell Plus Light QMA———Waters(註7)
Maxi-Clean IC-H———Alltech(30256)など(註8)
Sep-Pak C18———Waters(註9)
Sep-Pak alumina N———Waters(註 10)
イオン遅延樹脂 AG 11A8———Bio-Rad(143-7834 Biotechnology grade, 50-100 mesh)(註
11)
註1) PET 用の[18F]フッ素イオン製造原料をうたった市販の[18O]H2O を使用する。また、使
用済みの[18O]H2O の再利用はできるだけ避けることが望ましいが、再利用のためには、
KMnO4 と KOH を少量加え還流し、その後蒸留操作を行って混入した不純物を除去し、
37
残留する有機物をガスクロマトグラフィで、比放射能の低下を招く安定なフッ素イオ
ンの混入をイオンクロマトグラフィであらかじめ検定する必要がある。
註2) [18O]H2O を用い、18O(p,n)18F 反応により製造する。照射終了直後には、多少に係わら
ず
13N
のイオン性物質が検出される。また、イオンクロマトグラフ装置と放射能検出
器により放射化学的純度と[18F]フッ素イオンの比放射能を求めることができる。
註3) マンノーストリフレートは、水分の存在や温度により分解しやすい性質を有するため
取り扱いに注意が必要である。窒素封入し冷暗所で保存する。また、購入後はなるべ
く早く使用することが望ましい。
註4) 正式名称は、4,7,13,16,21,24–hexaoxa–1,10–diazabicyclo–[8,8,8]–hexacosane。
註5) [18F]フッ素イオンの陰イオン交換樹脂からの脱離に使用するため、不純物等が混入し
ている場合そのまま反応系にも混入して、フッ素化の効率を損ねる可能性がある。な
お、溶液調製に用いる水は、超純水を使用することが望ましい。
註6) 定量分析用試薬を利用すると便利である。
註7) 1 M K2CO3 水容液(10 mL)と注射用水(30 mL)で洗浄し炭酸イオン形に調製した
ものを使用する。この使い捨てカートリッジの代わりに強塩基性陰イオン交換樹脂 AG
1X8(Bio-Rad 140-1431 Analytical grade, 50-100 mesh)を使用することもできる。
註8) 注射用水で良く洗浄して使用する。この使い捨てカートリッジの代わりに強酸性陽イ
オン交換樹脂 AG 50W-X8(Bio-Rad 143-5441 Biotechnology grade, 100-200 mesh)
を滅菌したガラスカラム(内径 7.0 mm X 長さ 20 mm)に充填して使用することもで
きる。
註9) エタノール(5 mL)と注射用水(5 mL)であらかじめ洗い活性化しておく。
註 10) 注射用水(約 10 mL)で洗浄したものを使用する。
註 11) 滅菌したガラスカラム(内径 7.0 mm X 長さ 150 mm)に充填して使用する。微生物含
有量が少ない biotechnology grade の樹脂を使用することが望ましい。通常、樹脂は購
入後消毒用の 70%エタノールで洗浄し、同液に入れて室温保存する。使用する直前に
カラムに充填し、注射用水 500 mL で洗浄する。洗浄に輸液セットを用い、最大流量
で洗浄すると便利である。
[方法]
[18F]フッ素イオンを含むターゲット水(1~2.0 mL)を Sep-Pak Accell Plus Light QMA に通
し、[18F]フッ素イオンを吸着させる。(註1)
樹脂に吸着させた[18F]フッ素イオンを 66 mM 炭酸カリウム水溶液(0.3 mL)で脱離し、
[18F]KF として反応器に導入する。(註2)
次に、15 mg/mL の K.222 のアセトニトリル溶液(1 mL)を加え、濃縮乾固して溶媒を除く。
(註2)
反応基質である 20 mg/mL のマンノーストリフレートのアセトニトリル溶液(1 mL)を加え、
閉鎖系で撹拌しながら 85C で 5 分間フッ素化を行う。(註3)
次いで、アセトニトリルを濃縮乾固する。
残渣に 1 M HCl(2 mL)を加え、閉鎖系で撹拌しながら 130C で 15 分間加水分解を行う。
38
4.[18F]FDG 合成法
次いで室温程度まで冷却し、一連の精製カラム(IC-H カートリッジ、AG 11A8 カラム、C18
カートリッジおよび alumina N カートリッジ)に通して精製する。更に、注射用水(10 mL 程
度)を精製カラムに通して溶出液を合わせる。
(註4)
溶出液を 0.22 m のメンブレンフィルターに通して注射用薬剤とする。
註1) 樹脂に通過させる速度が速い場合、[18F]フッ素イオンの吸着率が低下することがある。
註2) この操作に代わり、あらかじめ K2CO3 水溶液に K.222 とアセトニトリルを混合した液
を使用することができる(A-2を参照)。この場合、K.222 の代わりに TBAHCO3
(tetra–n–butylammonium bicarbonate)を使用することができる 4)。また、ここで
は充分に水分を除くことが重要であり、再度無水アセトニトリルを加え共沸により充
分に水分を蒸発させる方法も有効である。
註3) 反応容器の材質は、温度特性に優れ壁損失の少ない物を使用することが望ましい。材
質によっては、収量の低下や不安定化を引き起こすことがある。
註4) IC-H により K.222 を、AG 11A8 により HCl を、Sep-Pak C18 により未加水分解物や
着色物質、Sep-Pak alumina N により未反応の[18F]フッ素イオンを除去する。溶出速
度が速すぎる場合には充分に HCl が除去されず酸性側に傾き、 Sep-Pak alumina N
よりアルミニウムイオンが溶出する。また、その他の不純物も混入する可能性が高く
なる。
A-2.ワンポットアルカリ加水分解法 5)
下記の反応スキームにより合成する。
i) [K+/K.222]18F-/CH3CN
ii) NaOH
[使用試薬]
[18O]H2O———大陽日酸、Rotem 社、Euriso-top 社、Isotec 社等(化学的純度 99.9%、通常市
販されている試薬は 95 原子%以上の濃縮水である)(註1)
[18F]フッ素イオン(註2)
1,3,4,6–Tetra–O–acetyl–2–O–trifuluoromethanesulfonyl––D–mannopyranose(マンノース
トリフレート)———和光純薬(209-16061)、ABX(92051-23-5)など(註3)
Kryptofix 222(K.222)/炭酸カリウム溶液(註4)
無水アセトニトリル———Merck(12636)
0.3 M NaOH(註5)
Sep-Pak Accell Plus Light QMA———Waters(註6)
Maxi-Clean IC-H———Alltech(30256)など(註7)
Sep-Pak PS-2———Waters(註8)
39
Sep-Pak alumina N———Waters(註9)
註1) A-1を参照。
註2) A-1を参照。
註3) A-1を参照。
註4) K2CO3(Merck4926)28 mg を注射用水 2 mL に溶解し約 0.1 M K2CO3 水溶液を調製
する。K.222(Merck29111-0)200 mg をアセトニトリル 7 mL に溶解し、この 0.7 mL
に対し K2CO3 水溶液 0.2 mL を用事調製して使用する。
註5) 市販の容量分析用 1 M NaOH 水溶液(和光純薬 190-13085)15 mL に対し注射用水
35 mL を加えて調製する。
註6) A-1を参照。
註7) A-1を参照。
註8) エタノール(5 mL)と無菌水(5 mL)であらかじめ洗い活性化しておく。
註9) A-1を参照。
[方法]
[18F]フッ素イオンを含むターゲット水(1~2.0 mL)を Sep-Pak Accell Plus Light QMA に
通し、[18F]フッ素イオンを吸着させる。(註1)
樹脂に吸着させた[18F]フッ素イオンを K2CO3 水溶液/K.222 溶液(0.9 mL)で脱離し、[18F]KF
として反応器に導入する。(註2)
アセトニトリル(1 mL)を加え、濃縮乾固して溶媒を除く。(註2)
反応基質である 20 mg/mL のマンノーストリフレートのアセトニトリル溶液(1 mL)を加え、
閉鎖系で撹拌しながら 85C で 5 分間フッ素化を行う。(註3)
次いで、アセトニトリルを濃縮乾固する。
残査に 0.5 M NaOH(4 mL)を加え、閉鎖系で加熱した後、室温で撹拌しながら加水分解を
行う。(註4)
加水分解液を精製カラム(IC-H カートリッジ、PS-2 カートリッジ、および alumina N カー
トリッジ)に通して精製し、0.22 m のメンブレンフィルターに通して注射用薬剤とする。
註1) A-1を参照。
註2) A-1を参照。
註3) A-1を参照。
註4) 残渣を溶解するためには加熱が必要であるが、この加水分解反応を加熱下で行うと生
成した[18F]FDG は一部異性化し 2–deoxy–2–[18F]fluoro–D–mannose(FDM)となる
ので十分注意する。自動合成装置を使用する場合は、この操作は最適化されている。
A-3.オンカラムアルカリ加水分解法 6)
次の反応式により合成する。
40
4.[18F]FDG 合成法
i) [K+/K.222]18F-/CH3CN
ii) NaOH
[使用試薬]
[18O]H2O———大陽日酸、Rotem 社、Euriso-top 社、Isotec 社等(化学的純度 99.9%、通常市
販されている試薬は 95 原子%以上の濃縮水である)(註1)
[18F]フッ素イオン(註2)
1,3,4,6–Tetra–O–acetyl–2–O–trifuluoromethanesulfonyl––D–mannopyranose(マンノース
トリフレート)———和光純薬(209-16061)、ABX(92051-23-5)など(註3)
Kryptofix 222(K.222)/炭酸カリウム溶液(註4)
無水アセトニトリル———Merck(12636)
2 M NaOH(註5)
クエン酸緩衝液(註6)
Sep-Pak Accell Plus Light QMA———Waters(註7)
Sep-Pak tC18———Waters(註8)
Sep-Pak alumina N———Waters(註9)
註1) A-1を参照。
註2) A-1を参照。
註3) A-1を参照。
註4) K2CO3(Merck4926)水溶液(35 mg/mL)と K.222(Merck29111-0)アセトニトリ
ル溶液(110 mg/mL)を等量用事調製して使用する。
註5) 市販の容量分析用 2 M NaOH 水溶液(和光純薬 194-05631)が使用できる。
註6) クエン酸水素二ナトリウム–0.5 水和物(C6H6Na2O70.5H2O、25 mg、 関東化学
37218-08)、クエン酸三ナトリウム–2 水和物(C6H5Na3O72H2O、144 mg、関東化
学 6448-1M)、2 M 塩酸(1 mL、Merck1.09063.100)、純水(5 mL)の混合物が使
用できる。
註7) A-1を参照。
註8) A-1を参照。
註9) A-1を参照。
[方法]
[18F]フッ素イオンを含むターゲット水(1~2.0 mL)を Sep-Pak Accell Plus Light QMA に
通し、[18F]フッ素イオンを吸着させる。(註1)
樹脂に吸着させた[18F]フッ素イオンを K2CO3 水溶液/K.222 溶液(0.4 mL)で脱離し、[18F]KF
として反応器に導入する。(註2)
アセトニトリル(1 mL)を加え、濃縮乾固して溶媒を除く。(註2)
反応基質である 30 mg/mL のマンノーストリフレートのアセトニトリル溶液(1.5 mL)を加
41
え、閉鎖系で撹拌しながら 85C で 4 分間フッ素化を行う。(註3)
次いで、反応液を注射用水(30 mL)で希釈し、活性化した tC18 カートリッジに通す。
カートリッジを注射用水(10 mL)で 2 回洗い、窒素ガスを通して大部分の水分を除去する。
カートリッジに 2 M NaOH(0.8 mL)を満たし、室温で 4 分間放置して加水分解を行う。
カートリッジからクエン酸緩衝液、又はリン酸緩衝液で生成した[18F]FDG を溶出し、次いで
精製カラム(alumina N カートリッジと tC18 カートリッジ、又は Oasis カートリッジと
alumina A カートリッジ)に通して精製し、0.22 m のメンブレンフィルターに通して注射用
薬剤とする。
註1) A-1を参照。
註2) A-1を参照。
註3) A-1を参照。
[トラブル処理]
1.エンドトキシン試験で陽性になったとき。
応急に対処できない。陽性となる主な原因は、イオン遅滞樹脂の洗浄処理が不十分なときと
考えられるので、イオン遅滞樹脂の洗浄法を再点検する。
2.アルミニウムイオンが検出されたとき。
メイロン等でアルカリ性にして、精製した沈澱を 0.22 m フィルターに通して除く。
[HPLC 分取条件]7)(註1)
カラム:Delta-pak C18(内径 25 mm X 長さ 100 mm を 2 本連結)、Waters、又は、
YMC-Pack ODS(内径 20 mm X 長さ 250 mm)、ワイエムシー(註2)
溶離液:注射用生理食塩水
流
速:10 mL/min
0
5
10
15
20
UV
Radioactivity
検出器:UV(210 nm)
0
5
10
15
Retention time (min)
20
カラム管理:通常カラムは局方の 95%エタノールに平衡化しておく。使用前には、まず注射用
蒸留水(約 200~250 mL)でエタノールを十分に除き、次いで注射用生理食塩水(約 200~250
mL)で平衡化して用いる。使用後は、初め注射用蒸留水(約 200~250 mL)で洗浄して塩を十
42
4.[18F]FDG 合成法
分に除き、次いで局方の 95%エタノールによりカラムを洗浄する。(註3)
註1) 通常 HPLC 分取は必要ないが、簡単な[18F]FDG 精製法として紹介する。方法は、
(塩
酸加水分解の後)反応液をロータリエバポレーターで濃縮乾固し、残渣をメイロン(2
mL)に溶かす。この溶液をガラスウールを充填したフィルターに通して HPLC カラ
ムに注入し、分離精製を行う。
註2) カラムとしては、YMC-Pack ODS の方が優れた分離を示し、[18F]FDG の溶液量は 5∼
6 mL と少ない。Delta-Pak C18 を用いるとき、[18F]FDG の溶液量は約 10 mL と多く
なり臨床使用に適当である。また、経済的にも、後者の方が安価である。どちらのカ
ラムによっても、放射性不純物はほぼ完全に除くことができる。UV 検出器(210 nm)
で見る限りかなり大部分の非放射性の不純物も除かれる。
註3) HPLC ポンプによる溶離液の吸い上げ口には、通常のフィルターを使わずに、長いス
テンレス針(24 cm、16 ゲージ)を乾熱滅菌して使用すると便利である。
B.分析法
[放射化学的純度]
HPLC(註1)
i)
カラム:Bondapak Carbohydrate(内径 3.9 mm X 長さ 300 mm)、Waters(註2)
溶離液:CH3CN/H2O(85/15)
流
速:2 mL/min
保持時間:3.8 分
ii)
カラム:Asahipak NH2P-50 4E(内径 4.6 mm X 長さ 250 mm)、昭和電工
溶離液:CH3CN/H2O(9/1)
流
速:2 mL/min
保持時間:5.9 分
iii)
カラム:Aminex HPX-87H(内径 7.8 mm X 長さ 300 mm)、Bio-Rad(註3)
溶離液:H2O(85C)
流
速:1 mL/min
保持時間:7.0 分
註1) 通常の分析には1つの条件で分析すればよいが、反応条件等の検討やなんらかのトラ
ブル時には、性質の異なる 2 つの条件で分析することが望ましい。また、溶離液に緩
衝液を使用しない系では、[18F]フッ素イオンはカラムに吸着され溶出されないので注
意を要する。通常アルミナカラムを通したときは、[18F]フッ素イオンは含まれていな
いと考えられる。
註2) 加水分解が不十分なとき除ききれない放射性不純物は、条件 i)では[18F]FDG と分離
できず、条件 iii)では分離が良好である。
註3) Bio-Rad 社の HPX 87C カラムがほぼ同様に使用できる。
43
TLC
i)
プレート:セルロース、Merck
溶離液:2–butanol/conc.NH4OH/H2O(66/1/33)
Rf 値:0.67
ii)
プレート:シリカゲル(0.2 M NaH2PO4 に浸し室温で乾かしたのち、110C で 30 分加
熱して活性化する)
溶離液:iso–propanol/H2O(4/1)
Rf 値:0.70
iii)
プレート:シリカゲル(0.2 M NaH2PO4 に浸し室温で乾かしたのち、110C で 30 分加
熱して活性化する)
溶離液:2–butanol/MeOH/AcOH(3/1/1)
Rf 値:0.76
[化学的純度]
無担体添加のフッ素イオン法で合成された[18F]FDG の比放射能の測定には、高感度の電気化
学検出器が必要である。電気化学検出器の場合には、糖の高感度分析になるためパルスドアン
ペロメトリーモードが利用できる機種が必要である(日本ダイオネックス、横河アナリティカ
ル等)。[18F]FDG の定量限界は 3050 ppb である。
カラム:Dionex CarboPac PA1(内径 4 mm X 長さ 250 mm)、日本ダイオネックス
溶離液:0.1 M NaOH; ポストカラム試薬:0.35 M NaOH
速:どちらも 1 mL/min
流
保持時間:9.5 分
化学的不純物
K.222:フッ素イオン法による[18F]FDG 標品中の K.222 の検出には、以下の 2 つの方法があ
る。
TLC による展開・発色テスト
展開後よう素にて発色させる。確認限界は約 30 ppm である。(註1)
i)
プレート:シリカゲル
溶離液:MeOH/conc. NH4OH(9/1)
Rf 値:K.222:0.38、[18F]FDG:0.83
ii)
プレート:シリカゲル
溶離液:triethylamine/MeOH(0.1/99.9)
Rf 値:[18F]フッ素イオン:0、K.222:0.16、glucose:0.36、[18F]FDG:0.62
よう化白金酸試薬によるスポットテスト 8)
よう素白金酸試薬溶液に浸し乾燥させて調製した TLC シリカゲルプレート上に 5-10 μL の
試料液を滴下し、発色により判定する。確認限界は約 20 ppm である(注2)。
註1) 通常、精製に陽イオン交換樹脂 AG50W-X8 を使用するとき、標品中に K.222 が検
出されることはほとんど無い。
注 2) 専用の TPLC プレート「カラースポットテスト K222」が JFE エンジニアリングお
44
4.[18F]FDG 合成法
よび同様の製品がユニバーサル技研から市販されている。
TBAHCO3:反応触媒に TBAHCO3 を使用した場合には、本試験を必要とする。1 mM TBA
イオン標準液を 0.1~0.5 mL の範囲で一定量とり、これに 3.75 mM の sodium bis(cis–1,2–
diethylenedithiolate)nickelate 溶液(3 mL)と 0.1 M 酢酸緩衝液(pH 5)(1 mL)を加え、
さらに水を加えて 5 mL にした後、約 20 分間放置して標準試薬溶液とする。次に、クロロホル
ム(10 mL)を分液漏斗にとり、これに標準試薬溶液を加えて充分に振り混ぜ、下層のクロロ
ホルム層を分取し、テフロン濾紙で濾過して混入する水分を除去した後、分光光度計によって
波長 318 nm で吸光度を測定して検量線を作成する。同様の操作で検体(1 mL)を用いて検体
試料を調製して吸光度を測定し、検量線から本品中の TBA イオン濃度を定量する。
アルミニウムイオン:[18F]FDG の精製にアルミナカラムを使用するときは、本検査を必要と
する(註1)
。[18F]FDG 溶液1滴を滴板にとり、アンモニア試薬1滴、次いでアリザリンスル
ホン酸水溶液を 1 滴加えたとき紫色を呈し、さらに酢酸溶液を加え酸性にしたとき赤色を呈し
ない。確認限界は 0.65 mg(約 0.02 ppm)である。
市販のイオン試験紙アルミチェック(アドバンテック東洋)の測定範囲は、2~100 ppm であ
る。
註1) 通常、[18F]FDG 標品が中性のとき、アルミニウムイオンは検出されない。
C.その他
[毒性]
FDG:LD50(腹腔注射)
、ラット:およそ 600 mg/kg9)
K.222:LD50(経口)、ラット:0.032∼0.035 g/kg
[被曝線量]10)
ヒト全身 PET 動態計測による(日本人男)。
実効線量:21 Sv/MBq (ICPR 60)
膀胱壁:120 Gy/MBq、心臓:45 Gy/MBq、脳:44 Gy/MBq、膵臓:38 Gy/MBq
参考文献
1.
Hammacher K., Coenen H.H., Stöcklin G.: J. Nucl. Med., 27, 235–238 (1986).
2.
Chaly T., Dahl J.R.: Nucl. Med. Biol., 16, 385–387 (1989).
3.
Morlein S.M.M., Brodack J.W., Siegel B.A., et al.: Appl. Radiat. Isot., 40, 741–743
(1989).
4.
Culbert P.A., Adam M.J., Hurtado E.T., et al: Appl. Radiat. Isot., 46, 887–891 (1995).
5.
Füchtner F., Steinbach P., Mäding P., et al.: Appl. Radiat. Isot., 47, 61–66 (1996).
6.
Lemaire C., Damhaut Ph., Lauricella B., et al.: J. Label. Compd. Radiopharm., 45,
435–447 (2002).
7.
Ishiwata K., Ishii S., Senda M.: Appl. Radiat. Isot., 44, 1119–1124 (1993).
8.
Mock B.H., Winklw W., Vavrek M.T.: Nucl. Med. Biol., 24, 193–195 (1997).
9.
Bessell E.M., Courtenay V.D., Foster A.B., et al.: Eur. J. Cancer, 9, 463–470 (1973).
45
10. Deloar H.M., Fujiwara T., Shidahara M., et al.: Eur. J. Nucl. Med., 25, 565–574 (1998).
46
5.アミノ酸合成法
5.アミノ酸合成法
脳や癌のアミノ酸代謝を診断するためには、多くの薬剤が臨床使用されている。主に蛋白質
合成能を診断する目的では、11C-標識のメチオニンやチロシンなどの天然アミノ酸が、また、
18F-標識のフェニルアラニンやチロシン、あるいは、[11C]-aminocyclopentyl
carboxlic acid
などの代謝的に安定な人工アミノ酸は、アミノ酸輸送を測定する目的で用いられている 1)。
5-1.[11C]メチオニン合成法
[11C]メチオニン(L−[methyl−11C]methionine)はがん診断に最も一般的に使用されており、
がんや脳組織においては主に蛋白質合成に利用されていることが基礎的臨床的研究により示さ
れている。しかし、メチル基転移反応の寄与も示唆され
2)、蛋白質合成能の半定量的評価ある
いはアミノ酸輸送の測定に使用されることが望ましいと考えられる。
A-1.[11C]よう化メチルによる液相法
(石渡
喜一)
下記の反応スキームにより合成する。
NH2
S
O
11CH
NH2
3I
NaOH/acetone, 120oC, 5 min
11
H3 C
S
COOH
[使用試薬]
[11C]よう化メチル(註1)
L−Homocysteine thiolactone・HCl ———Sigma(H 6503)
アセトン———特級試薬
0.5 M HCl
0.5 M NaOH
メイロン(注射用 7%炭酸水素ナトリウム水溶液)———25 mL、1本
註1) メチオニンは血漿中に相当量含まれており、必ずしも高比放射能の薬剤として合成さ
れる必要はないと考えられる。従って、[11C]よう化メチルの合成には 0.1~1 M の
LiAlH4 試薬を用いればよい。
[方法]
L−Homocysteine thiolactone・HCl(約 3 mg)を注射用蒸留水(0.05 mL)に溶かし、これ
にアセトン(0.95 mL)を加える。この溶液(0.8 mL)を低温(-15~-20C)に保ち、流速 30-50
47
mL/min の He 気流下の[11C]よう化メチルを吹き込む。
アセトン溶液に、0.5 M NaOH 水溶液(0.8 mL)を加え(註1)、120C で 2~5 分間加熱す
る。(註2)
反応液に 0.5 M 塩酸(0.9 mL)を加え、メイロン(1 mL)を前もって入れた梨型フラスコ
に移し、ロータリエバポレーターにより濃縮乾固する。(註3)
残渣を注射用生理食塩水(9 mL)と注射用蒸留水(3 mL)に溶かし、0.22 m のメンブレ
ンフィルターを通して注射用薬剤とする。
註1) 反応液の NaOH 濃度を高くすると放射化学的収率はあがる傾向があるが、D-メチオニ
ンの割合が増加する。また、アセトンに[11C]よう化メチルを捕集し、L−homocysteine
thiolactone・HCl を溶かした NaOH 溶液(溶解後 2 時間程度まで)を加えて反応して
も、放射化学的収率や光学的純度に影響を与えない。
註2) 収率は、反応時間(2∼10 分)や反応温度(60~120C)にあまり依存しない。
註3) 捕集用のフラスコ内のメイロンを前もって入れておくことにより確実に弱アルカリ性
とする。また、メイロンを使用しないでも溶媒を充分に留去することで最終生成物は
中性の水溶液として得ることができる。
[合成法の特徴と問題点]
A-1の合成法は、Comar らにより開発された方法 3)に準じた方法で、放射化学的収率が高
いこと、薬剤として高比放射能を要求されないこと、また、原料として用いられる
L−homocysteine thiolactone を必ずしも除去しなくてもよいと考えられていることなどから、
最も容易な合成法の 1 つである。
問題点としては、反応時の NaOH 濃度を高くすると光学異性体の D-メチオニンの割合が
4~5%まで増加する 4)ことがあげられるが、臨床使用には実質的にはなんら影響はないと考えら
れる。
A-2.[11C]メチルトリフレートによる液相法
(石渡
下記の反応スキームにより合成する。
NH2
S
O
11 CH
3OTf/OH
Acetone
NH2
11
H3 C
S
[使用試薬]
[11C]メチルトリフレート
L−Homocysteine thiolactone・HCl ———Sigma(H 6503)
アセトン———特級試薬
0.05 M HCl
0.1 M NaOH
メイロン(注射用 7%炭酸水素ナトリウム水溶液)
48
COOH
喜一)
5.アミノ酸合成法
[方法]
L−Homocysteine thiolactone・HCl(約 1 mg)を 0.1 M NaOH(0.5 mL)に溶かし、これに
1.0 mL のアセトンを加える。これに室温下で流速 30-50 mL/min の N2 気流下の[11C]メチルト
リフレートを吹き込む。直ちに反応液をロータリエバポレーターに移し、反応容器に 1.2 mL
の 0.05 M HCl を加え、ロータリエバポレーターに移送して反応液に合わせて濃縮乾固する。
残渣を 0.1 mL の 10%アスコルビン酸注射液を含む 10 mL の注射用生理食塩水に溶かし、0.22
μm のメンブレンフィルターを通して注射用薬剤とする。
[合成法の特徴と問題点]
東京都健康長寿医療センター研究所では、2005 年 5 月より、多少であるが放射化学的収率の
向上と合成時間の短縮にメリットのある[11C]メチルトリフレートによる液相法を採用している。
また、最近になってパイロジェンを定量評価するとき、メイロンが定量値を過小評価すること
がわかったため、メイロンをアスコルビン酸に置き換えた。
A-3.[11C]よう化メチルによるオンカラム法 6)
(岩田
錬)
次の反応スキームにより合成する。
NH2
S
O
11CH
NH2
3I/OH
EtOH-H2O, C18
11
H3 C
S
COOH
[使用試薬]
[11C]よう化メチル
1 M NaOH(註1、註2)
エタノール
L−Homocysteine thiolactoneHCl ———Sigma(H 6503)(註2)
Sep-Pak Plus C18———Waters(註2)
0.5%酢酸水溶液(註3)
註1) 注射用水(50 mL)に特級 NaOH(2.0 g)を溶解する(予め滅菌した 50 mL バイアル
を用意し、ゴム栓をしてシールした状態で長期間使用する)。
註2) 1 M NaOH 水溶液(1 mL)バイアルに取り、これにエタノール(1 mL)を加えて 0.5
M NaOH の H2O−EtOH(1:1)溶液を調製する。この 1 mL に、L−homocysteine
thiolactone・HCl(15 mg)を溶解する。この調製した液(0.4 mL)をシリンジに取り、
C18 カートリッジに注入する。
註3) プラボトル入りの注射用水(500 mL)に容量分析用特級酢酸(2.5 mL)を添加して調
製する。
[方法](註1)
上記の方法に従い調製した C18 カートリッジに、流速 30∼50 mL/min の He 気流下の[11C]
よう化メチルを通し捕集する。
49
捕集後直ちに、中和用の 0.5%酢酸水溶液(3 mL)で C18 カートリッジから反応生成物を洗
い出し、ロータリエバポレーターのフラスコに集める。
過剰の酢酸を溶媒とともに充分留去した後、生理食塩水を加えて残渣を溶かし、メンブレン
フィルターを通し注射用薬剤とする。
註1) 基礎技術1-6を参照のこと。
[合成法の特徴]
オンカラム合成法
5)は化学的観点からは、液相法と何ら変わる点はない。しかしカラム上で
の合成反応は室温でも迅速で、操作の大幅な簡便化と合成時間の短縮がなされている。
注射液の中にエタノールを含むことが許容されるならば、反応液中の[11C]メチオニンの放射
化学的純度は充分高いので、リン酸緩衝液で反応物を C18 カートリッジから溶出し、乾固操作
なしでそのまま注射液として調製できる。
A-4.[11C]メチルトリフレートによるオンカラム法 6)
(渡辺
利光)
下記の反応スキームにより合成する。
NH2
S
O
11CH
3OTf/OH
C18
NH2
11
H3 C
S
COOH
[使用試薬]
[11C]メチルトリフレート
L−Homocysteine thiolactone・HCl ———Sigma(H 6503)
1 M NaOH(註1)
0.1 M NaOH(註2、註3)
Sep-Pak Plus C18———Waters(註3)
Sep-Pak Plus Light Accell QMA———Waters(註4)
Sep-Pak Plus Accell CM———Waters(註5)
註1) 注射用水(100 mL)に特級 NaOH(4.0 g)を溶解する。
註2) 注射用水(50 mL)に特級 NaOH(0.2 g)を溶解する(予め滅菌した 50 mL バイアル
を用意し、ゴム栓をしてシールした状態で長期間使用する)。
註3) 0.1 M NaOH 水溶液(1 mL)をバイアルに取り、L−homocysteine thiolactone・HC(l6
mg)を溶解する。この調製した液 0.2 mL をシリンジに取り、C18 カートリッジに注
入する。
註4) 樹脂のイオン形を OH-とする。1 M NaOH(5 mL)をシリンジに取り QMA カートリ
ッジに通した後、注射用蒸留水(10 mL 以上)でよく洗い、最後に空気を通して余分
な水分を除いておく。
註5) 通常イオン形は H+であるので、注射用蒸留水(10 mL 以上)で洗い、最後に空気を通
して余分な水分を除いておく。
50
5.アミノ酸合成法
[方法](註1)
上記の方法に従い調製した C18 カートリッジに、He 気流下(3050 mL/min)[11C]メチル
トリフレートを通し捕集する。
捕集後直ちに、生理食塩水(3~5 mL)で C18 カートリッジから反応生成物を洗い出し、QMA
と CM カートリッジを直列につないだ Sep-Pak カートリッジに通して中和し、そのままメンブ
レンフィルターを通し注射用薬剤とする。
註1) 基礎技術1-6を参照のこと。
[合成法の特徴と注意点]
[11C]メチルトリフレートが[11C]よう化メチルに比べ水溶液への捕集効率が高いために可能な
反応である。アルカリ性の反応液の中和操作のために使い捨てのイオン交換カートリッジを使
用するが、陽イオン交換で NaOH 水溶液中の Na+を除くだけでは、塩酸塩として使用した出
発原料中の Cl-のために酸性になる。このため、反応液を最初に陰イオン交換カートリッジに
通して Cl-を除去し、その後に Na+を除いて最終溶出液を中性にしている。このイオン交換樹
脂の順番を逆にすると、[11C]メチオニンの一部が陽イオン交換カートリッジ中で分解し、放射
化学的純度が低下するので注意する。
本合成法では反応溶媒の留去操作がないため、揮発性の副生成物も最終注射液に混入する可
能性があることに留意する。出発原料の使用量を少なくしているため、[11C]メチルトリフレー
トの比放射能が低い場合、その一部が標識反応に関与しないで残留するか、OH-により分解し
て放射化学的純度を低下させる場合がある。また、合成装置と無菌に保持する目的で使用する
エタノールが流路などに残留している場合、[11C]メチルトリフレートと反応して放射化学的純
度を低下させる。C18 カートリッジに多くの
11C
の残留が見られる場合にこの可能性を疑う必
要がある。
B.分析法
[放射化学的純度]
HPLC
i)
カラム:Capsell Pac C18 UG120(内径 4.6 mm X 長さ 250 mm)、資生堂
溶離液:10 mM HCO2NH4
流
速:2 mL/min
保持時間:2.8 分
ii)
カラム:Partisil 10-SCX(内径 4.6 mm X 長さ 250 mm)、Whatmann
溶離液:50 mM citric acid/trisodium citrate(10/1)
流
速:2 mL/min
保持時間:3.4 分
TLC
プレート:シリカゲル、Merck
溶離液:アセトン/20% KCl(5/95)
51
Rf 値:0.83
[化学的純度]
UV 検出器(200 nm)を用いる HPLC による分析方法がある。しかし、メチオニンを精製し
ない場合には、原料由来の非放射性不純物が含まれ実質的には意味ない。
C.その他
[被曝線量]9)
ヒト全身 PET 動態計測による(日本人男)。
実効線量: 5.0 Sv/MBq (ICRP 60)
膵臓:27 Gy/MBq、肝臓:17 Gy/MBq、膀胱壁:15 Gy/MBq
[その他]
ヒト血漿中メチオニン濃度:26~49 mol/L(生化学データブック)
参考文献
1.
Vaalburg W., Coenen H.H., Crouzel C., et al.: Nucl. Med. Biol., 19, 227–237 (1992).
2,
Ishiwata K., Kubota K., Murakami M., et al.: J. Nucl. Med., 34, 1936–1943 (1993).
3.
Comar D., Carton J.-C., Maziere M., Marazano C.: Eur. J. Nucl. Med., 1, 11–14 (1976).
4.
Ishiwata K., Ido T., Vaalburg W.: Appl. Radiat. Isot., 39, 311–314 (1988).
5.
Någren K., Halldin C.: J. Label. Compd. Radiopharm., 41, 831–841 (1998).
6.
Pascali C., Bogni A., Iwata R., et al.: J. Label. Compd. Radiopharm., 42, 715–724
(1999).
7.
Ishiwata K., Ishii, S., Senda M.: Appl. Radiat. Isot., 44, 1119–1124 (1993).
8.
Längström B., Lundqvist H.: Int. J. Appl. Radiat. Isot., 27, 357–363 (1976).
9.
Deloar H.M., Fujiwara T., Nakamura T., et al.: Eur. J. Nucl. Med., 25, 629-633 (1998).
5-2.O−[11C]メチル−L−タイロシン合成法
(岩田
錬、石渡
喜一)
O−[11C]メチル−L−タイロシンは、L-タイロシンの水酸基を O-メチル基で置き換えた人工ア
ミノ酸であり、[18F]FET 同様アミノ酸のトランスポータにより細胞内に取り込まれるが蛋白合
成に組み込まれず、このアミノ酸トランスポータの活性を反映する薬剤として開発された。主
に腫瘍に集積し炎症へは取込みは低い。
A.合成法
次の反応スキームにより合成する 1)。
52
5.アミノ酸合成法
CO2Na
NH2
NaO
CO2H
11CH Iまたは11CH OTf
3
3
11
DMSO
H3 C
O
NH2
[使用試薬]
[11C]よう化メチルまたは[11C]メチルトリフレート
L−タイロシン・2Na———Sigma(T1145)
無水 DMSO———Aldrich(27,685-5)
[方法]1,2)
L-タイロシンを溶解した DMSO 溶液(0.3 mL)
(註1)に[11C]よう化メチルまたは[11C]メチ
ルトリフレートを流速約 50 mL/min の He 気流でバブリングし捕集する。HPLC で精製する場
合は、水(1 mL)を加えてよく混合した後カラムに導入し、ロータリエバポレーターのフラス
コに分取して溶媒を留去した後残渣を生食に溶解し、O-[11C]メチル-L-タイロシンのフラクシ
ョンをメンブランフィルターに通して無菌バイアルに捕集する。固相抽出カラムで精製する場
合は、水(2 mL)を加えてよく混合した後カラムに導入し、O-[11C]メチル-L-タイロシンのフ
ラクションをメンブランフィルターに通して直接無菌バイアルに捕集する。
註1) 乾燥した小さなバイアルに反応基質の L-tyrosine・2Na(~8 mg)を測り取り、これに
無水 DMSO を基質量の濃度が 1 mg/0.1 mL となるように加える。これを良く振り混ぜ
てしばらく放置し、その澄み液 0.3 mL を使用する。
[合成法の特徴と注意点]
[11C]よう化メチルまたは[11C]メチルトリフレートのいずれを使用しても反応は室温で迅速で
あり、捕集後反応時間を設ける必要はない。ただし、[11C]よう化メチルの場合は捕集効率が低
くなることを考慮する。[11C]メチルトリフレートの場合は使用する反応液の容量を減らしても
捕集効率は充分高いが、導入口への反応液の逆流に注意が必要である。
[分取条件]1,2)
HPLC
カラム:YMC ODS A-324(内径 10 mm X 長さ 300 mm)、ワイエムシー
溶離液:EtOH/AcOH/H2O(10/2.5/87.5)
流
速:4 mL/min
検出器:UV(280 nm)
溶出時間:10.5 分
53
UV
O -[11C]Methyl-L-tyrosine
Radioactivity
0
2
4
6
8
10
12
14
16
18
20
Elution time (min)
固相抽出カラムクロマトグラフィ
カラム:SCX+C18(註 1)
溶離液:注射用生理食塩水
流
速:約 5 mL/min
検出器:放射能
溶出時間:8 分
註1) SCX カートリッジ(Bond Elut SCX、Varian 1216-6011B)を注射用蒸留水 10 mL で
洗い空気で水を追い出し、これにエタノール(5 mL)と注射用蒸留水(5 mL)で活性
化した Sep-Pak C18 カートリッジ(Sep-Pak Plus C18、Waters N20229)を接続する。
11
Radioactivity response
0
EOS
Collect [ C]MT
fraction
2
4
6
8
Elution time (min)
54
10
12
14
5.アミノ酸合成法
B.分析法
[放射化学的純度]
HPLC
カラム:YMC Pack Pro C18(内径 4.6 mm X 長さ 100)、ワイエムシー
溶離液:EtOH/AcOH/H2O(10/2.5/87.5)
流
速:1.5 mL/min
保持時間:3.9 分
C.その他
[急性毒性]3,4)
雌雄それぞれ 5 匹のラットに、臨床診断での最大投与量の 740 MBq/74 nmol/60 kg の 10,000
倍、予定標準投与量 300 MBq/8.1 nmol(比放射能 37 TBq/mmol)の 91,000 倍にあたる 12.3
mol/2.41 mg/kg の O−メチル−L−タイロシンを単回投与(静注)して、30 分、1、3、6 時間後、
その後 14 日まで 1 日 1 回観察したが、死亡するものはなく、一般状態に異常を認めなかった。
体重増加も正常であり、第 15 日に病理学的検査をおこなった結果、いずれの動物にも異常所見
は認められなかった。LD50:ラット(雌雄、静注)、>12.3 mol/2.41 mg/kg
O−[11C]メチル−L−タイロシン注射液の臨床用調製薬剤 3 ロットについて、雌雄各 3 匹のラッ
トに臨床診断での最大投与量(740 MBq)の 100 倍量(1.23 GBq/kg)を静脈投与し、上記と
同様に 14 日間の観察と第 15 日に病理学的検査をおこなったとき、いずれの動物にも異常所見
は認められなかった。
[突然変異試験(Ames 試験)]3,4)
S. Typhimurium TA98、TA100、TA1535 および TA1537 を用いて調べた O−メチル−L−タ
イロシンの復帰突然変異原性は、5000 g/plate 以下のアッセイで陰性であった。
[被曝線量]3)
臓器
線量(Gy/MBq)
臓器
線量(Gy/MBq)
脳
甲状腺
胸腺
0.64
3.62
4.07
大腸上壁
大腸下壁
副腎
4.98
4.62
6.17
胸部
3.54
腎臓
4.92
心臓
2.19
睾丸
3.30
肺
4.66
卵巣
15.20
肝臓
2.09
子宮
5.09
膵臓
2.25
膀胱
3.47
脾臓
3.38
骨表部
0.54
胃壁
3.35
骨髄
2.42
小腸壁
5.38
骨
1.88
全身の線量当量は 4.54 Sv/MBq
55
参考文献
1.
Iwata R., Furumoto S., Pascali C., et al.: J. Label. Compd. Radiopharm., 46, 555–566
(2003).
2.
Ishikawa Y., Iwata R., Furumoto S., et al.: Appl. Radiat. Isot., 62, 55–61 (2005).
3.
Ishiwata K., Tsukada H., Kubota K., et al.: Nucl. Med. Biol., 32, 253–262 (2005).
4.
東京都老人総合研究所附属診療所短寿命放射性薬剤臨床利用委員会資料.
5-3.[18F]フルオロフェニルアラニン合成法
(村上
松太郎)
[18F]フルオロフェニルアラニン(L−2−[18F]fluorophenylalanine、[18F]Phe)は 1)、生体内に
おける代謝が緩徐で、中性アミノ酸輸送担体によりフェニルアラニンと競合的に血液ー組織間
を移行する。動物実験においては蛋白質合成に利用されていることは示されているが
2)、臨床
的には脳組織および種々の腫瘍等のアミノ酸輸送過程を、定量的あるいは定性的に診断する薬
剤として使用される 3) 。
A.合成法 2)
下記の反応スキームにより合成する。
CO2H
NH2
CO2H
AcO18F
AcOH
18
F
NH2
[使用試薬]
L-フェニルアラニン———特級試薬(和光純薬など)
トリフルオロ酢酸———特級試薬(和光純薬など)
L-フルオロフェニルアラニン———和光純薬(065-02371)、東京化成(F 0273)(ラセミ体は
他社も販売)
[方法]
Acetyl [18F]hypofluorite(註1)を流速 200500 mL/min で、氷冷した L-フェニルアラニン
(註2)を含むトリフルオロ酢酸(約 10 mL) 中に吹き込んで反応させる。
反応液をロータリエバポレーターに移し、減圧下トリフルオロ酢酸を留去する。
(註3)
残渣を少量の注射用蒸留水によく溶かして HPLC 注入用のシリンジに採り、(註4)HPLC
により分離精製する。UV 検出器(254 nm)により[18F]Phe 画分を分取する。
ロータリエバポレーターにより溶媒を充分留去した後、生理食塩水を加えて残渣を溶かし、
0.22 m のメンブレンフィルターを通して注射薬とする。
註1) Acetyl [18F]hypofluorite の製造法:通常ターゲットのネオンガス中のフッ素ガス濃度
を 0.050.2%とし、[18F]F2 を製造する。これを、酢酸ナトリウム(あるいは酢酸カリ
ウム)を充填した小カラム(内径 4 mm x 長さ 40 mm)に通じて acetyl [18F]hypofluorite
56
5.アミノ酸合成法
とする。
製造法に関し、使用する酢酸カリウムの調製法について詳細な取り扱いを記してい
る報告もあるが 8)、多少収量が落ちるが市販の試薬をそのまま使用して問題はない。た
だし、試薬が湿気を含むようであればその試薬の使用は避けた方がよい。また、無水
の粉末試薬よりは結晶水を含む顆粒状の試薬の方がよい収量を与えるようである。
酢酸ナトリウムのカラムは通常 10 回程度は繰り返し使用できる。ガラスカラムに充
填すると、反応した
18F
による放射線によりガラスが黄色に変色する。使用回数とと
もに変色域が広がり、半分を越えたころを交換時の目安とするのが簡便である。
註2) Acetyl hypofluorite 化学量の 1.5~2.0 倍量を勧める。HPLC 分取時に原料ピークを確
認できることで、次に溶出してくるの[18F]Phe ピークを捕えやすい。
註3) 酸化分解を避けるために、約 50C に保った水浴上で減圧留去する。この時点で水分が
混入していると、溶媒減少につれて褐色の程度が増加し、留去終了時点に炭化する傾
向がある。
註4) HPLC 分離の点から 0.5 mL 以下が望ましい。通常、無色透明である。著しく着色し、
炭化していそうな場合には、0.45 m フィルターでろ過してから HPLC に注入するこ
とが望ましい。着色成分は原料の L-フェニルアラニンに先んじて、残留トリフルオロ
酢酸と同容量くらいで流出するため、可溶性の放射能量さえ十分であれば以後の操作、
使用に支障はない。
[HPLC 分取条件]
カラム:Bondapak C18(内径 7.8 mm X 長さ 300 mm)、Waters(註1)
溶離液:CH3OH/0.1%AcOH(10/90)
流
速:4 mL/min
検出器:UV(254 nm)
溶出時間: 8 分
註1)HPLC 分取には、カラムとして YMC-Pack ODS(内径 20 mm X 長さ 150 mm、ワイ
エムシー)を、溶離液として注射用生理食塩水を用いる方法もある 1)。保持時間が流速
10 mL/min として 36 分前後と、多少時間がかかるが分離は良好である。
下図にその溶離パターンの例を示す。
Analytical HPLC
5
CF3COOH
3-/4-F-Phe
CF3COOH
L-Phe
UV(254nm)
2-F-Phe
10
15
3-/4-F-Phe
0
L-Phe
Preparative HPLC
UV(254nm)
Radioactivity
2-F-Phe
0
5
10
15
0
Elution time (min)
5
10
15
Elution time (min)
57
[トラブル処理]
不純物混入を防ぐためには、分取カラムの分離能の低下に常に配慮し 2-フルオロ異性体
[18F]Phe 画分の分取を欲張らないことに尽きる。分取画分に反応溶媒のトリフルオロ酢酸が多
く混入した場合、酸化剤として作用するためか、分取液の濃縮に伴い、[18F]Phe の酸化分解が
起 こ り 放 射 能 の 殆 ど を 失 う こ と が あ る 。 ま た 、 [18F]Phe に 次 い で 溶 出 す る
L−3−[18F]fluorophenylalanine は毒性が強いので、その混入を避けるために[18F]Phe 分取を早
めに切り上げるべきである。
[合成法の特徴と問題点]
本合成法は、特別の熟練や前準備を要することもない簡便な方法である。唯一と言える問題
は、残留溶媒のトリフルオロ酢酸により分取カラムが劣化しやすいことである。トリフルオロ
酢酸を完全に留去するためには、再度エタノール等を加えて共沸除去することも有効かも知れ
ない。すべてのトラブルがカラムの劣化に起因するため常に注意を配りたい。その意味で、分
析システム用にも全く同一系を準備し、分取クロマトに不満が残る場合、再分離を行えるよう
にしている。
L-フェニルアラニンのフッ素化段階でラセミ化は否定しきれないが、構造と反応機構上起こ
りにくいものと思われる。もしも高比率で起こったとしても、本トレーサの使用目的に大きく
障害をもたらすとは考え難い。
B.分析法
[放射化学的純度]
HPLC
i)
カラム:Bondapak C18(内径 7.6 mm X 長さ 300 mm)、Waters(註1)
溶離液:CH3OH/0.1%AcOH(10/90)
流
速:4 mL/min
保持時間:7.5 分
ii)
カラム:Crestpak C18S(内径 4.6 mm X 長さ 150 mm)、日本分光
溶離液:CH3OH/50 mM HCO2NH4(6/4)
流
速:2.0 mL/min
保持時間:2.6 分
註1) 同一充填剤の分析用カラムが経済的であろう(合成法の特徴と問題点の項を参照)。
TLC
プレート:セルロース、Merck
溶離液:n-butanol/AcOH/H2O(20/3/5)
Rf 値:0.4
[化学的純度]
UV 検出器(254 nm)を用いる HPLC による。
58
5.アミノ酸合成法
C.その他
[生理活性]
フルオロフェニルアラニン類の Phe−tRNA synthetase 基質としての性質をラセミ体ながら
も L-フェニルアラニンと比較した報告がある 4)。D-体が全く無効と仮定した場合、上記報告に
よれば、三種異性体 L-2-FPhe、L-3-FPhe、L-4-FPhe の Km は、L-Phe のそれぞれ 50 倍、
14 倍、5.5 倍となり、L-2-FPhe が同化代謝基質となりにくいことを示している。この代謝さ
れにくい可能性は、村上らによっても別の手法による検討から確認されている 1)。
[毒性]
フルオロフェニルアラニン類の毒性は、代謝結果としてフルオロ酢酸が生じ、これが TCA 回
路の回転を止めることに起因している。クエン酸の蓄積量を TCA 回路停止の指標として LD50
を推測した報告がある
5)。それによれば、L-2-FPhe、L-3-FPhe、L-4-FPhe
のマウス LD50
値(mg/kg、腹腔)はそれぞれ 1,000 以上、5.9、1,000 以上となっている。
[薬理作用]
L-3-FPhe はマウスに痙攣を引き起こす。その用量は毒性と相関し、4.2 mg/kg(腹腔)で作
用なく、10 mg/kg 以上(腹腔)で 100%痙攣を引き起こす。
[被曝線量]
臓器
線量(Gy/MBq)
臓器
線量(Gy/MBq)
膵臓
382
胃壁
66
骨表面
147
肝臓
52
小腸壁
118
腎臓
51
大腸壁
97
膀胱
42
全身の線量当量は 59 Sv/MBq6)
参考文献
1.
Murakami M., Takahashi K., Kondo Y., et al.: J. Label. Compd. Radiopharm., 27,
245–255 (1989).
2.
Murakami M., Takahashi K., Kondo Y., et al.: J. Label. Compd. Radiopharm., 25,
773–782 (1988).
3.
三浦修一, 村上松太郎, 菅野巌, 他: 日本臨床, 49, 1537–1540 (1991)
4.
Santi D. V., Danenberg P. V.: Biochemistry ,10, 4813–4820 (1971).
5.
Weissman A., Koe B.K.: J. Pharmacol. Exp. Ther., 155, 135–144 (1967).
6.
東京都健康長寿医療センター研究所附属診療所短寿命放射性薬剤臨床利用委員会資料
5-4.[18F]ボロノフルオロフェニルアラニン合成法
(藤井
亮)
[18F] ボ ロ ノ フ ル オ ロ フ ェ ニ ル ア ラ ニ ン ( 4−borono−2−[18F]fluoro−L−phenylalanine 、
59
[18F]FBPA)は、腫瘍の中性子捕捉療法(boron neutron capture therapy、BNCT)に用いら
れるボロノフェニルアラニン(4−[10B]borono−L−phenylalanine)の患部集積性を体外的に計
測するトレーサとして有効であり、また、種々の腫瘍におけるアミノ酸輸送の計測にも有用で
ある 1-7)。
A.合成法
次の反応スキームにより合成する 1)。
CO2H
HO
B
NH2
CO2H
AcO18F
THF
OH
HO
B
18
F
NH2
OH
[使用薬剤]
Acetyl [18F]hypofluorite(註1)
4−Borono−L−phenylalanineKatchem(チェコ)(註 2)
トリフルオロ酢酸
0.1%酢酸(註 3)
註 1) Acetyl [18F]hypofluorite による[18F]フルオロフェニルアラニン合成と同一方法による。
註 2) 和光純薬を通じて購入可能。価格は時価で、入荷に約 2 ヵ月要する。
註 3) 酢酸(精密機器分析用特級試薬)を 500 mL の注射用蒸留水に添加して調製する。
[方法]
4−Borono−L−phenylalanine(30 mg)を溶解したトリフルオロ酢酸(6 mL)中に acetyl
[18F]hypofluorite を流速 150 mL/min で通じる。終了後、反応溶媒を減圧下留去し、0.1%酢酸
(2 mL)に溶解して HPLC により分離精製する。0.1%酢酸で溶出された目的分画を蒸発乾固
したのち注射用生理食塩水に溶かし、最終的に 0.22 m のメンブレンフィルターを通して注射
用薬剤とする。(註1)
註1) 目的分画の 0.1%酢酸水溶液に局方アスコルビン酸注射液と局方 10%塩化ナトリウム注
射液を加えて pH やイオン強度を調整して注射用薬剤とすることもできる。この場合、
比放射能の測定には、アスコルビン酸を添加する前に分取した液から必要量採取する。
[合成法の特徴と問題点]
溶媒のトリフルオロ酢酸は分取用カラムの劣化を招くことから、溶媒の減圧乾固は十分に行
ったほうが良いが、乾固しすぎると 0.1%酢酸による再溶解の際の回収率が悪くなる。したがっ
て、僅かにトリフルオロ酢酸が残留する程度まで減圧乾固する。カラムは、使用頻度が増すに
つれて分離能が悪くなるが、エタノールにより十分に洗浄することにより回復する(毎回洗浄
したほうが良い)。(編者註1)
編者註1)FBPA は市販されていない。
60
5.アミノ酸合成法
[HPLC 分取条件]
カラム:デルタパック C18(内径 25 mm X 長さ 100 mm)
、Waters(編者註1)
溶離液:0.1%AcOH
流
速:10 mL/min
溶出時間:19 分
編者註1)
YMC-Pack ODS-A(内径 20 mm X 長さ 150 mm、ワイエムシー)も使用でき
る。
B.分析法
[放射化学的純度]
HPLC
i)
カラム:YMC-Pack ODS-A(内径 4.6 mm X 長さ 250 mm)、ワイエムシー
溶離液:0.1%AcOH
流
速:0.8 mL/min
検出器:UV(280 nm)
保持時間:19 分
ii)
カラム:NVC18(内径 8 mm X 長さ 100 mm)、Waters
溶離液:MeOH/0.8%AcOH, 1 mM EDTA, 1 mM sodium octylsulfate(15/85)
流
速:2 mL/min
保持時間:13.5 分
iii)
カラム:TSK-gel Super ODS(4.6 mm X 100 mm)、東ソー
溶離液:50 mM AcOH/50 mM AcONH4(1/1)
流
速:1 mL/min
保持時間:4.3 分
61
[化学的純度]
UV 検出器を用いる HPLC による。
C.その他
[毒性]
[18F]FBPA は生体内で比較的安定であり、代謝を受けず、また蛋白質には殆ど取り込まれな
い。FBPA の毒性は環開裂により生成するモノフルオロ酢酸による TCA サイクルの阻害により
発現すると考えられ、o-置換フルオロ体はモノフルオロ酢酸には代謝変換されないので、毒性
は m- 置 換 体 に 比 べ 非 常 に 低 い 。 ま た 、 パ ラ ボ ロ ノ フ ェ ニ ル ア ラ ニ ン ( 4−borono−L−
phenylalanine)については、LD50 が 3000 mg/kg 以上(マウス腹空内投与)であり、毒性が
低い 8)。更に FBPA については、ラットに臨床投与量の約 1,000 倍量にあたる 10 mg/kg の静
脈内投与したとき、何らかの生物学的、解剖学的変化を認めなかった。
[被曝線量]9)
ヒト全身 PET 動態計測による。
実効線量:20 Sv/MBq
膀胱壁:132 Gy/MBq、心臓:41 Gy/MBq、腎臓:38 Gy/MBq
全身:101 Gy/MBq
参考文献
1.
Ishiwata K., Ido T., Mejia A.A., et al.: Appl. Radiat. Isot., 42, 325–328 (1991).
2.
Ishiwata K., Ido T., Kawamura M., et al.: Appl. Radiat. Isot., 18, 745–751 (1991).
3.
Ishiwata K., Ido T., Honda C., et al.: Appl. Radiat. Isot., 19, 311–318 (1991).
4.
Ishiwata K., Shino M., Kubota K., et al.: Melanoma Res., 2, 171–179 (1992).
5.
Imahori Y., Ueda S., Ohmori Y., et al.: J Nucl Med., 39, 325–333 (1998).
6.
Imahori Y., Ueda S., Ohmori Y., et al.: Clin. Cancer Res., 4, 1825–1832 (1998).
7.
Imahori Y., Ueda S., Ohmori Y., et al.: Clin. Cancer Res., 4, 1833–1841 (1998).
8.
Taniyama K., Fujiwara H., Kuno T., et al.: Pigment Cell Res., 2, 291–296 (1989).
9.
東京都健康長寿医療センター研究所附属診療所短寿命放射性薬剤臨床利用委員会資料.
5-5.[18F]フルオロ−アルファ−メチルタイロシン合成法
(冨吉
勝美)
[18F] フ ル オ ロ − ア ル フ ァ − メ チ ル タ イ ロ シ ン ( L−[18F]fluoro−alpha−methyltyrosine 、
[18F]FAMT)は、脳神経細胞あるいは悪性腫瘍細胞にアミノ酸トランスポータを介してアミノ
酸プールとして取り込まれた後、タイロシン水酸化酵素の阻害剤として働き、カテコールアミ
ンの生成が押さえられ、タンパク合成過程に進まない性質を有する
1)。そのため、[18F]FAMT
を投与後、脳あるいは腫瘍のイメージングを行うことにより、精神疾患など脳神経細胞の機能
異常を呈する疾患、悪性腫瘍などのカテコールアミンあるいはアミノ酸代謝異常を検出するこ
とが可能である 2,3)。
62
5.アミノ酸合成法
A.合成法
次の反応スキームにより合成する。
C H3
AcO18 F
CO2H
HO
NH 2
18
F
AcOH-CF3 CO2 H
HO
CH3
CO2H
NH 2
[使用試薬]
L−−Methyltyrosine(Aldrich)
酢酸特級試薬
トリフルオロ酢酸特級試薬
メイロン(注射用 7%炭酸水素ナトリウム水溶液)
[方法]4)
Acetyl [18F]hypofluorite(註1)を流速 500 mL/min で、L−−methyltyrosine(20 mg)を
含む酢酸/トリフルオロ酢酸(1/1)溶液(2 mL)に吹き込んで反応させる(註2)。反応液をロ
ータリエバポレーターに移し、減圧下で溶媒を留去する(註3)。残渣を生理食塩水(1.0 mL)
に溶かして、HPLC により分離精製する。UV 検出器(280 nm)により、[18F]FAMT を分取し
たのち、再びロータリエバポレーターにより溶媒を留去し、生理食塩水(5.0 mL)に溶かす。
pH 調整のため、メイロン(0.1 mL)を加え、pH を 6 から 7 に調整した溶液をメンブレンフィ
ルターを通じて、無菌バイアルに入れ注射剤とする。
註1) Acetyl [18F]hypofluorite による[18F]フルオロフェニルアラニン合成と同一方法による。
註2) 酢酸/トリフルオロ酢酸(1/1)溶液が反応中、透明から薄く黄色味を帯びる。反応時間
が長い程、収率が良くなる。
註3) 減圧下で溶媒を留去する際、薄茶色に変色する。
[合成法の特長と問題点]
[18F]FAMT 中には、90%以上の 3-フルオロ体の 3-[18F]FAMT と 10%未満の 2-異性体の
2−[18F]FAMT が存在しており、現在臨床応用では分取していない。(編者註1)
編者註1)2-異性体および 3-異性体はナードから入手可能。
[HPLC 分取条件]
カラム:Lichrosorb RP18-10(内径 10 mm X 長さ 250 mm)
、GL サイエンス
溶離液:MeOH/0.1% AcOH(1/9)
流
速:4 mL/min
検出器:UV(280 nm)、放射能検出器
溶出時間:前駆体 8 分、3-[18F]FAMT 15 分、2-[18F]FAMT 17 分
63.
B.分析法
[放射化学的純度]
HPLC
カラム:Lichrosorb RP18-10(内径 10 mm長さ 250 mm)、GL サイエンス
溶離液:MeOH/0.1% AcOH(1/9)
流
速:6 mL/min
検出器:UV(280 nm)、放射能検出器
保持時間:前駆体 8 分、3−[18F]FAMT 10 分、2−[18F]FAMT 12 分
C.その他
[被曝線量]
健常者 3 人の体内分布および尿のデータから計算された被曝線量を次表に示す。(註1)
[18F]FAMT はそのほとんどが腎臓から膀胱へ排出され、投与後 60 分で全投与量の約 50%、2
時間後にはさらに約 20%が排出される。わずかな取込みが脳、肝臓にみられる
註1) 癌患者の被曝線量も[18F]FAMT が癌部位に集まる以外、ほとんど同じと思われる。
64
5.アミノ酸合成法
臓器
線量(Gy/MBq)
臓器
線量(Gy/MBq)
腎臓
52
小腸壁
15
肝臓
12
大腸壁
14
骨髄
11
膀胱
254
16(男)18(女)
生殖腺
全身等量線量は 25 Sv/MBq
[毒性]
D,L−m−fluoro−−metyltyrosine の LD50(マウス、経口)は 1,000 mg/kg 以上と報告され
ている 5,6)。臨床では、投与量当たり約 1 mg の FAMT が含まれ、平均体重を 60 kg とすれは、
20 g/kg 以下であることから、LD50 の 1/50,000 以下であり問題ない。FAMT は褐色細胞腫や
高血圧の治療剤として、1~4 g/日の量を最長 10 ヶ月間経口投与の報告がある。これらは主に胃
腸から吸収され、タイロシン水酸化酵素を阻害剤することから、カテコールアミンの生成を抑
制し、上記の病気による高血圧や発汗、動悸、頭痛の治療として使用されている。
参考文献
1.
Tomiyoshi K., Inoue T., Higuchi T., et al.: J. Nucl. Med., 39, 1424–1427 (1998).
3.
Inoue T., Tomiyoshi K., Higuchi T., et al.: J. Nucl. Med., 39, 663–667 (1998).
4.
Tomiyoshi K., Ahmed K., Sarwar M., et al.: Nucl. Med. Commun., 18, 169–175 (1997).
5.
Neissman A., Koe B.: J. Pharmacol. Exp. Ther., 155, 135–144 (1967).
6.
Engelman K., Horwitz D., Jequier E., et al.: J. Clin. Invest., 47, 577–594 (1968).
5-6.[18F]FET 合成法
(林
和孝)
18F-標識したタイロシン誘導体である[18F]FET( O−(2−[18F]fluoroethyl)−L−tyrosine)は、
アミノ酸輸送過程を定量的または定性的に診断する薬剤として使用される。[18F]FET は、タン
パク質合成には取り込まれないが、アミノ酸トランスポータを介して細胞内に輸送されること
から腫瘍への集積は、アミノ酸トランスポータの活性を反映している 1,2)。
A-1.[18F]臭化フルオロエチル法
下記の反応スキームにより合成する。
BrCH2CH2OTf
[K+/K.222]18F
o-DCB
CO2Na
CO2Na BrCH CH 18F
2
2
NaO
18
NH2
65
F
O
NH2
[使用試薬]
[18O]H2O(註1)
[18F]フッ素イオン(註2)
2−ブロモエチルトリフレート(註3)自家調製品 3)
無水アセトニトリルMerck(1.12636.0050)
Kryptofix 222(K.222)Merck(8.10647.0001)
炭酸カリウム・1.5H2OMerck(1.04926.0050)
L-タイロシンAldrich(T9,040-9)
無水 o-ジクロロベンゼン(o-DCB)Aldrich(24,066-4)
無水 DMSOAldrich(27,685-5)
2.5 M NaOH(註4)
Sep Pak light Accell plus QMAWaters(WAT023525)(註5)
註1) [18F]FDG 合成法参照
註2) [18O]H2O を用い、18O(p,n)18F 反応により製造する。
註3) 名称は、2−bromoethyl trifluoromethanesulfonate。合成後、褐色バイアルに入れ、
N2 でパージして冷凍庫で保管する。
註4) 5 M NaOH を希釈して使用する。
註5) QMA カートリッジは、消毒用エタノール、注射用水の順に洗浄後、炭酸カリウム溶液
を通じて炭酸イオン形に変換し、注射用水で充分洗浄したものを使用する。
[方法]
製造した担体無添加の[18F]フッ素イオンを、QMA カートリッジに通じて吸着する。
QMA カートリッジに吸着させた[18F]フッ素イオンを、K.222(15 mg)と炭酸カリウム(2.77
mg)を含む 50%アセトニトリル溶液(0.4 mL)(註1)で溶出し、反応容器に導入する。
He 気流下で加熱し、溶媒を留去する。次に、無水アセトニトリル(0.1 mL)を加え、共沸
乾固させ、充分に反応容器を乾燥する。(註2)
2-ブロモエチルトリフレート(10 L)を含む o-ジクロロベンゼン(150 L)を加え、130C
に加熱し、生成した[18F]フルオロエチルブロマイドを He ガス(30 mL/min)気流下で蒸留す
る。(註3)
蒸留した[18F]フルオロエチルブロマイドを L—タイロシン(4.6 mg)と 2.5 M NaOH(20 L)
を含む DMSO(0.3 mL)に捕捉する。
捕捉後、90C で 10 分間、フルオロエチル化反応を行う。
反応容器を冷却後、HPLC 溶離液(0.2 mL)を加えて攪拌し、反応溶液を HPLC に導入し、
分離精製を行う。
精製した[18F]FET をロータリエバポレーターのフラスコに分取し、溶媒を留去した後、生理
食塩水(10 mL)に溶解し、メンブレンフィルター(0.22 m)に通じ、無菌バイアルに捕集す
る。
註1) 注射用水(2 mL)に溶解させた炭酸カリウム(27.7 mg)とアセトニトリル(2 mL)
に溶解させた K.222(150 mg)を 1 つのバイアルに加え、冷所保存しておいたものを
66
5.アミノ酸合成法
使用する。
註2) ここで、乾固が不完全な場合、次のフッ素化反応の収率が著しく低下する。
註3) 蒸留の時間が長くなると、不純物が混入し、次のフルオロエチル化反応の収率が低下
する。
[合成法の特徴と問題点]
A-1の合成法は、短時間で高収率の[18F]FET を得ることができ、 [18F]フルオロエチルブ
ロマイドは他の化合物のフルオロエチル化反応に応用可能である 4,5) 。
問題点としては、2-ブロモエチルトリフレートを自家調製しなければならないことと、保存
状態により[18F]フルオロエチルブロマイドの合成収率が低下することである。
[HPLC 分取条件]
カラム:YMC-Pak ODS-AQ(内径 10 mm X 長さ 300 mm、5 m)、ワイエムシー
溶離液:CH3CN/50 mM AcONH4/50 mM AcOH(40/460/2.5)
流
速:5.0 mL/min
検出器:UV(280 nm)、NaI(Tl)
保持時間:13.9 分
[ F]FET
UV (280 nm)
18
Radioactivity
0
2
4
6
8
10
12
14
Retention time (min)
A-2.[18F]フッ素イオン法
下記の反応スキームにより合成する 6)。
CO2t-Bu
TsO
O
HN
C(Ph)3
CO2t-Bu
[K+/K.222]18F
MeCN
18
F
HN
O
C(Ph)3
CO2H
HCl
67
18
F
O
NH2
[使用試薬]
[18O]H2O(註1)
[18F]フッ素イオン(註2)
O-(2-Tosyloxyethyl)-N-trityl-L-tyrosine tert—butylesterABX(305.0012)
無水アセトニトリルMerck(1.12636.0050)
K.222Merck(8.10647.0001)
炭酸カリウム・1.5H2OMerck(1.04926.0050)
2 M 塩酸容量分析用
酢酸ナトリウム・3H2Oアミノ酸自動分析用
Sep Pak light Accell plus QMAWaters(WAT023525)(註3)
註1) [18F]FDG 合成法参照
註2) [18O]H2O を用い、18O(p,n)18F 反応により製造する。
註3) A-1参照
[方法]
製造した担体無添加の[18F]フッ素イオンを、QMA カートリッジに通じて吸着する。
QMA カートリッジに吸着した[18F]フッ素イオンを、K.222(15 mg)と炭酸カリウム(2.77
mg)を含む 50%アセトニトリル溶液(0.4 mL)(註1)で溶出し、反応容器に導入する。
He ガス気流下で加熱し、溶媒を留去する。次に、無水アセトニトリル(0.1 mL)を加え、
共沸留去し充分に反応容器を乾燥する。(註2)
合成前駆体(12 mg)を含む無水アセトニトリル(0.3 mL)を加え、110C で 10 分間、フッ
素化反応を行う。
反応容器を冷却後、90C で 1 分間加熱し、アセトニトリルを留去する。
反応容器を冷却後、2 M 塩酸(0.5 mL)を加え、120C で 10 分間加水分解反応を行う。
反応容器を冷却後、2 M 酢酸ナトリウム(1.5 mL)を加えて攪拌し、反応溶液を HPLC に導
入し、分離精製を行う。
精製した[18F]FET をロータリエバポレーターのフラスコに分取し、溶媒を留去した後、生理
食塩水(10 mL)に溶解し、メンブレンフィルターに通じ、無菌バイアルに捕集する。
註1) A-1参照
註2) A-1参照
[合成法の特徴と問題点]
A - 2 の 合 成 法 に よ る [18F]FET の 収 率 は 、 K.222 よ り も tetra−n−butylammonium
bicarbonate を用いた方が良いと報告されている 6)。しかし、九州大学病院においては、どちら
を用いても収率としてあまり差がなく、合成後の混入量の検定を考慮して K.222 を選択してい
る。
[HPLC 分取条件]
A-1参照
68
5.アミノ酸合成法
B.分析法
[放射化学的純度]
HPLC
カラム:コスモシール 5C18-MS-II(内径 4.6 mm X 長さ 250 mm)、ナカライテスク
溶離液:CH3CN/50 mM AcOH/50 mM AcONH4(50/450/2.5)
流
速:1.0 mL/min
検出器:UV(280 nm)、NaI(Tl)
保持時間:6 分
[化学的純度]
K.222:[18F]FDG 合成法参照
C.その他
[毒性]7)
LD50、マウス(静注):>150 g/kg
[被曝線量]7)
ヒト全身 PET 動態計測による。
実効線量:17 Sv/MBq(ICPR 60)
膀胱壁:60 Gy/MBq、子宮:22 Gy/MBq、腎臓:20 Gy/MBq
全身:12 Gy/MBq
参考文献
1.
Wester H.J., Herz M., Weber W., et al.: J. Nucl. Med., 40, 205-212 (1999).
2.
Langen K.J., Jarosch M., Muhlensiepen H., et al: Nucl. Med. Biol., 30, 501-508 (2003).
3.
Chi D.-Y., Kilbourn M.R., Katzenellenbogen J., et al.: J. Org. Chem., 52, 658-664
(1987).
4.
Zhang M.-R., Tsuchiyama A., Haradahira T., et al.: Appl. Radiat. Isot., 57, 335-342
(2002).
5.
Wilson A.A., Dasilva J.N., Houle S.: Appl. Radiat. Isot., 46, 765-770 (1995).
6.
Hamacher K., Coenen H.H.: Appl. Radiat. Isot., 57, 853-856 (2002).
7.
Pauleit D., Floeth F., Herzog H., et al.: Eur. J. Nucl. Med. Mol. Imaging, 30, 519-524
(2003).
69
6.[11C]酢酸合成法
6.[11C]酢酸合成法
[11C]酢酸は、血流により局所心筋組織に分布し、摂取されたあと[11C]アセチル CoA となり
TCA 回路に入り、局所組織の酸素代謝速度に応じて[11C]CO2 に代謝され洗い出される。従って、
[11C]酢酸の初期の分布は心筋の血流を、また、その後のクリアランス速度は酸素代謝機能を反
映する。最近では、腫瘍診断薬としても使用されている。腫瘍においてはかなりの割合の放射
能が細胞膜を構成する脂質に取込まれると考えられている 1)。
A-1.抽出法 2)
(間賀田
泰寛)
下記の反応スキームにより合成する。
CH3MgBr
11CO
2
11
CH3 COOMgBr
H+
11
CH3 COOH
[使用試薬]
2 M HCl(註1)
0.25 M HCl(註2)
0.1 M NaOH(註2)
3 M 臭化メチルマグネシウムエーテル溶液———東京化成(M 0785)(註3)
乾燥エーテル———特級試薬(註4)
n−ヘキサン———特級試薬
註1) 当日に濃塩酸を注射用蒸留水で希釈して使用する。
註2) 京大病院においては、薬剤部から無菌製剤として供給される。
註3) 密封で冷蔵保存する。約 3 カ月程度で交換することが望ましい。もちろん、保存状態
が良ければかまわないが、試薬の劣化は収量の低下と純度の低下を招く。
註4) 塩化カルシウムを加え 1 晩以上乾燥させ、上清を使用する。この乾燥が不十分のとき
グリニャール反応がうまく行かないことが多い。
[方法]
乾燥エーテル(4~5 mL)と 3 M 臭化メチルマグネシウム(0.1~0.2 mL)を 10ºC 以下に空
冷された反応器(註1)に注入する。
濃縮した[11C]CO2 を 10 mL/min 程度の流速で反応器を空冷下吹き込み反応させる。
ここに 2 M HCl(0.5 mL)を加えた n−ヘキサン(4 mL)を注入し、窒素ガスを吹き込むこ
とで撹拌して[11C]酢酸を有機相に抽出する。
30 秒間程度静置した後、ペリスタポンプにより水相を除去し、0.1 M NaOH(5 mL)を加え
71
撹拌することにより[11C]酢酸ナトリウムの形で水相に抽出する。
静置後、水相を移送しエーテルを除去する。0.25 M HCl(1.45 mL)を加え pH を 6.5~7.5
の間に調整し、生理食塩水(5 mL)を加えて 0.22 m のメンブレンフィルターを通して注射用
薬剤とする。
(註2)
註1) 反応器は湿気を含んでいると反応がうまくいかないので、しつこいくらい乾燥を繰り
返す。
註2) 0.25 M HCl、0.1 M NaOH を加え調整する。
[合成法の特徴と問題点]
本方法は、生成した[11C]酢酸を酸性下で有機溶媒中に抽出し水相を排除したのち、アルカリ
存在下で[11C]酢酸をイオン形として水相に逆抽出して精製する方法である。従って、アルコー
ル系溶媒は使用せず、グリニャール試薬もエーテル溶液のものを用いる。最終段階で、十分残
存の有機溶媒を留去する必要があるが、応用範囲は広く、有用性の高い方法と思われる。反応
自身はグリニャール反応であるので、しっかりと反応器を乾燥させること、グリニャール反応
時の温度、[11C]CO2 ガスの吹き込み速度がポイントとなる。
A-2.固相法 3)
(石渡
喜一)
下記の反応スキームにより合成する。
CH3MgBr
11CO
2
11
CH3 COOMgBr
H+
11
CH3 COOH
[使用試薬]
1 M 臭化メチルマグネシウム THF 溶液———東京化成(M 0362)
、関東化学(25856-25)
(註1)
0.25 M HCl のエタノール水溶液(註2)
SEP-IC-Ag plus cartridge(1.6 meq.)———Lida Manufacturing Corp.(註3)
局方エタノール
メイロン(注射用 7%炭酸水素ナトリウム水溶液)
註1) 東京化成の 3 M の試薬を用いるときは、 Aldrich の乾燥 THF(基礎技術1-3参照)
により希釈する。
註2) 1 M HCl と局方エタノールを 1/3 として調製する。
註3) 通常、この陽イオン交換樹脂カートリッジは、注射用蒸留水、局方エタノール、注射
用蒸留水、局方エタノールの順に洗浄して使用する。
[方法]
[11C]CO2 を濃縮し、これを 10~15 mL/min の低流速の窒素ガス気流下に、0~10ºC に冷却し
た 1 M 臭化メチルマグネシウム溶液(0.25 mL)に吹き込んで反応させる(註1)
。
反応液に、0.25 M HCl エタノール水溶液(2 mL)を加え(註2)、次いで、反応液を 60ºC
に加熱しながら流速 100 mL/min の窒素ガスを十分に(1.5 分間程度)通じることにより、未
72
6.[11C]酢酸合成法
反応の[11C]CO2 を完全に除く。
反応液を SEP-IC-Ag カートリッジに通し、まえもってメイロン溶液(1 mL)を入れて置い
たロータリエバポレーターの梨型フラスコに導く。(註3)
カートリッジを局方エタノール(2 mL)で洗浄してろ液をあわせる。(註4)これをロータ
リエバポレーターにより濃縮乾固して揮発性の非放射性と放射性不純物を除去し、残渣を生理
食塩水に溶かし 0.22 m のフィルターを通して注射用薬剤とする。(註5)
註1) [11C]CO2 はグリニャール試薬の温度を下げるほど効率よくトッラプされるが、低温で 1
M の試薬、特に東京化成の試薬は沈殿を析出することがあるので注意を要する。沈殿
の析出を防ぐために 0.5 M の試薬を用いると収量が減る傾向がある。
註2) エタノールを加えることにより、[11C]酢酸の SEP-IC-Ag カートリッジへの吸着を抑え
ることができる。
註3) 生成したハロゲン化銀は、カートリッジの上部に黒い層としてトラップされる。
註4) [11C]酢酸の樹脂への吸着は少なく、注射用蒸留水でもよい。
註5) 炭酸マグネシウムあるいは炭酸銀と思われる微細な沈殿が生ずることがあるが、フィ
ルター濾過により除去できる。このとき、かなり圧力がかかるので注意を要する。
[合成法の特徴と問題点]
イオン交換樹脂等の固相を用いて[11C]酢酸を精製する簡便な方法はいくつか報告されている
4-6)。その中で本方法は、エバポレーターによる濃縮乾固の工程を含み煩雑ではあるが、[11C]よ
う化メチルの合成および[11C]メチル化薬剤を合成できるシステムがあれば、容易にこれを転用
できる。注意すべき点は、ガス流量の設定と温度調整である。
B.分析法
[放射化学的純度]
HPLC
i)
カラム:Partisil-10 SAX(内径 4.6 mm X 長さ 250 mm)、Whatman
溶離液:10 mM H2NaPO4
流
速:2 mL/min
保持時間:5.9 分(室温)(註 1)
ii)
カラム:Aminex Fermentation monitoring column(HPX-87H、内径 7.8 mm X 長さ
150 mm)、Bio-Rad
溶離液:H2O(65ºC)
流
速:1 mL/min
保持時間:5.1 分
iii)
カラム:Richrosorb(内径 7.5 mm X 長さ 300 mm)、ケムコ
溶離液:H2O(40ºC)
流
速:1 mL/min
保持時間:9.6 分
註1) この陰イオン交換カラムは、使用頻度により保持時間が短くなる傾向がある。
73
C.その他
[毒性]
LD50(静注)
、マウス:525 mg/kg
LD50(経口)
、ラット:3310 mg/kg
TDL0(経口)、ヒト:1470 g/kg、消化器障害(産業中毒便覧)
[被曝線量]7)
ヒト全身 PET 動態計測による。
実効線量:4.9 Sv/MBq
膵臓:17 Gy/MBq、上部大腸壁:11 Gy/MBq、下部大腸壁:10 Gy/MBq、小腸:10 Gy/MBq
全身:2.9 Gy/MBq
参考文献
1.
石渡喜一: 臨床放射線, 51, 801–806 (2006).
2.
Fiore G.D., Peters J.M., Quaglia L., et al.: J. Radioanal. Nucl. Chem. Lett., 87, 1–14
(1984).
3.
Ishiwata K., Ishii S., Senda M.: Appl. Radiat. Isot., 46, 1035–1037 (1993).
4.
Meyer, G.-J., Gunter, K., Matzke, K.-H., et al.: J. Label. Compd. Radiopharm., 32,
182–183 (1993).
5.
Iwata R., Ido T., Tada, M.: Appl. Radiat. Isot., 46, 117–121 (1995).
6.
Kruijer P.S., Ter Linden T., Mooij R., et al.: Appl. Radiat. Isot., 46, 317–321 (1995).
7.
Seltzer M.A., Jahan S.A., Sparks R., et al.: J. Nucl. Med., 45, 1233–1236 (2004).
74
7.コリン合成法
7.コリン合成法
7-1.[11C]コリン合成法
[11C]コリン([methyl−11C]choline)は、さまざまな悪性腫瘍の検出に有用なトレーサーで
ある 1-3)。検出される腫瘍は、脳腫瘍、頭頚部癌、肺癌、食道癌、直腸癌、膀胱癌、卵巣癌、子
宮癌、前立腺癌、精巣癌、悪性リンパ腫等である
4-11)。[11C]コリンは、正常の肝、膵、脾、腎
にも集積するので、上腹部の腫瘍の検出には不向きである。腫瘍細胞において、[11C]コリンは、
細胞膜リン脂質(ホスファチジルコリン)生合成系に組みこまれる。悪性腫瘍細胞は、細胞分
裂が盛んであるから、それに応じて細胞膜合成も盛んであり、従って[11C]コリンを強く集積す
る。
A-1.液相法 1,2)
(原
敏彦)
下記の反応スキームにより合成する。
C H3
H 3C
N
11
OH
CH3 I
H 3 11 C
o
130 C, 5 min
H 3C
C H3
N
+
OH
[使用試薬]
[11C]よう化メチル
2–ジメチルアミノエタノール(DMAE)———東京化成
Sep-Pak Plus Accell CM———Waters(Sep-Pak Plus または Light)(註1)
註1) あらかじめガス滅菌しておく。
[方法]
枝付きハート型ガラス容器(内容積 5 mL)に DMAE(0.2 mL)を入れておき、低温(-15C)
に保ちながら、N2 に乗せて[11C]よう化メチルを吹き込み、DMAE に[11C]よう化メチルを溶解
する。
この容器の下部を 130C で 5 分間加熱し、DMAE に[11C]よう化メチルを反応させる。
つぎに、DMAE を完全に留去する(DMAE の沸点は、135C)。これを行うには、容器の下
部を 130C に、上部を 150C に加熱しながら、容器を真空引きする(低真空で 1 分間、さらに
高真空で 1 分間)。乾燥した容器には、[11C]コリンのよう化水素酸塩が残る。
後の操作は、すべて無菌的に行う。器具、試薬には検定済みの医療用具および医薬品のみを
用いる(ただし、CM カートリッジだけは自家滅菌したものを用いる)。
75
[11C]コリンよう化水素酸塩を 2.5 mL の蒸留水に溶かし、CM カートリッジに通す。[11C]コ
リンの放射能はすべてカートリッジに吸着される。
つぎに、カートリッジを 20 mL の蒸留水で洗う。このとき、パイロジェンは(たとえ混入し
ていても)すべて除かれる。(編者註1)ただし、DMAE はこのステップでは除かれない(こ
れはその前の留去のステップで除く)。
最後に、5 mL の生理的食塩水を用いて、カートリッジから[11C]コリンを溶出し(このとき、
その化学形は[11C]コリン塩酸塩である)、メンブレンフィルターで濾過し、滅菌バイアルに受け
る。
[合成法の特徴と問題点]
サイクロトロン照射終了後、[11C]CO2の回収から[11C]コリン合成終了までに 20 分を要する
(このうち、[11C]よう化メチル合成に 10 分)。800 mCi(29.6 GBq)の[11C]CO2 から、300 mCi
(11.1 GBq)の[11C]コリン注射液が得られる。[11C]コリン注射液は、原理的にパイロジェンフ
リーであるから、パイロジェンテストの必要はない。(編者註1)[11C]コリン注射液の放射化学
的純度は、ほぼ 100%である。[11C]コリン注射液の成分(化学的純度)は、食塩と水以外は、
ほぼすべてコリンである。立体異性体は存在しない。問題点は、11C の半減期が短いことである。
この欠点を補うために、[18F]コリンすなわち[fluoroethyl−18F]choline を用いることもできるが、
合成法がはなはだ面倒である 12)。
編者註1) このことは最終注射液の発熱性物質試験(エンドトキシン試験)が不要であるこ
とを意味しない。FDG のガイドラインに準じると、合成毎のエンドトキシン試験
はどの合成においても求められている。
A-2.オンカラム法
(寺崎
一典)
下記の反応スキームにより合成する。
C H3
H 3C
N
CH3 I
H 3 11 C
CM, r.t.
H 3C
11
OH
C H3
N
+
OH
[使用試薬]
[11C]よう化メチル
2–ジメチルアミノエタノール(DMAE)———Aldrich(47,145-3)
Sep-Pak Plus Accell CM———Waters(註1)
註1) Light タイプの場合、充填剤量は Plus タイプ(充填剤量 360 mg)の 1/3 になるため[11C]
コリンの保持量が低下する可能性がある。
[方法]
DMAE(50~100 L)を Accell CM に注入しておき(註1)、ここに He 気流下(30 mL/min)
[11C]よう化メチルを通した後、エタノール(10 mL)、次いで注射用蒸留水(10 mL)で洗浄し、
76
7.コリン合成法
生理食塩水(10 mL)で[11C]コリンを溶出、0.22 m のメンブレンフィルターに通して注射剤
とする。
註1) DMAE は、乾燥した Accell CM のインレット側からマイクロピペッターを使用して充
填剤に滲みこませるように注入するとよい。Accell CM の使用直前のコンディショニ
ングは特に必要としない。
[合成法の特徴と問題点]
本法は、Pascali らの方法 13)に準じている。この場合[11C]メチル化反応を行う Sep-Pak C18
とその後の精製に用いる Accell CM とを連結して合成しているが、Accell CM だけで問題なく
合成が可能である。
フロー式で反応を行うカラム法では[11C]よう化メチルの捕集効率が反応収率を大きく支配す
る。バッチ法(液相法)に比べ使用する DMAE 量が少ないため、[11C]よう化メチルの導入速
度が小さいほど効率的な捕集が実現できる。しかし、[11C]コリンの合成反応は迅速で高収率で
あるため、50 mL/min 程度の流速でも充分な収量が期待できる。
DMAE の毒性は比較的低く、本合成法を用いた場合、製剤への微量な混入は特に問題になる
ことはないと思われるが、DMAE は、コリンの腫瘍取り込みの際に競合的に作用することが報
告されていることから 14)、製剤中の混入量を適切な分析法で評価しておく必要がある。分析法
としては FID を検出器とする GC 法が高感度で最適な方法である 13)。また、感度の点で劣るが、
示差屈折率計を検出器とする HPLC が同様に使用できる。
LC/MS も有用であると思われるが、
脱塩処理の問題を解決する必要がある。
B.分析法 1)
[放射化学的純度]
HPLC
i)
カラム:Inertsil ODS-2(内径 6 mm X 長さ 250 mm)、GL サイエンス
溶離液:1 mM naphthalene–2–sulfonic acid を含む 0.05 M H3PO4
流
速:1 mL/min
保持時間:11.7 分
ii)
カラム:Nova-Pak C18(内径 3.9 mm X 長さ 150 mm)、Waters(註 1)
溶離液: CH3CN/5 mM PIC B-8(1/9)(註 2)
流
速:1 mL/min
保持時間:4.5 分
[化学的純度]
GC
DMAE の分析 13)
カラム:SGE BP20 capillary column(内径 0.33 mm X 長さ 25 m)、SGE
カラム温度:70~220C(10C/min)
インジェクター:splitless
検出器:FID
77
HPLC 上記条件の他に
カラム:Nova-Pak C18(内径 3.9 mm X 長さ 150 mm)、Waters(註 1)
溶離液:5 mM PIC-B8 を含む 5 mM H3PO4(註 2)
流
速:1 mL/min
検出器:示差屈折率計(210-6 RIU)
保持時間:DMAE 11 分、コリン 14 分
註 1) イオンペアークロマトグラフィ専用のカラムとして、ほかのカラムと使い分けた方が
良い。分析終了後には必ずカラム洗浄を実施する。
註 2) PIC B-8(Waters):オクタスルホン酸を主成分とするイオンペアー試薬。
C.その他
[被曝線量]15)
ヒト全身 PET 動態計測による。
実効線量:4.4 Sv/MBq
膵臓:29 Gy/MBq、腎臓:21 Gy/MBq、肝臓:20 Gy/MBq
全身:3.0 Gy/MBq
[その他]
[11C]コリンの血中放射能は 5 分以内に最低値に達する。腫瘍組織の放射能は 5 分以内に最大
値に達し、それ以後は一定(減衰補正して)である。[11C]コリンを人体に用いる時には、被検
者は空腹であることが必要である。摂食後に[11C]コリンを注射すると、その一部は、尿および
大便中に排泄される(空腹時には、ほとんど排泄されない)。コリンはビタミンであるから、生
体は必要量以上にこれを利用しない。なお、尿および大便中に排泄された[11C]コリンは、画像
上でアーチファクトとなるが、それらは、時間とともに、濃度も場所も変化する。時間をずら
して 2 回の撮像を行い、得られた 2 枚の画像を比較すると、アーチファクトを特定することが
できる(腫瘍組織の放射能は、時間とともに変化しない)
。コンピュータを用いて 2 枚の画像を
比較し、アーチファクトのない腫瘍組織だけの画像を得ることもできる(原・天野が作成した
ソフトウェアーがある)
。
参考文献
1.Hara T., Yuasa M.: J. Nucl. Med., 39, 240P-241P (1998).
2.
Hara T., Yuasa M.: Appl. Radiat. Isot., 50, 531-533 (1999).
3.
平野昌章, 加藤融, 加藤修, 他: Radioisotopes, 47, 945-952 (1998).
4.
Hara T., Kosaka N., Kondo T, et al.: J. Nucl. Med., 38, 250P (1997).
5.
Hara T., Kosaka N., Shinoura N., et al.: J. Nucl. Med., 38, 842-847 (1997).
6.
Hara T., Kosaka N., Kishi H.: J. Nucl. Med., 39, 990-995 (1998).
7.
Kosaka N., Hara T., Kishi H.: J. Nucl. Med., 39, 52P (1998).
8.
Kishi H., Kosaka N., Hara T.: J. Nucl. Med., 40, 60P (1999).
78
7.コリン合成法
9.
Kobori O., Kirihara N., Kosaka N., et al.: J. Nucl. Med., 40, 59P (1999).
10. Inagaki K., Morita T., Fujii N., et al.: J. Nucl. Med., 40, 59-60 (1999).
11. Que T.H., Boonstra H., vd Zee A., et al.: J. Nucl. Med., 40, 255P (1999).
12. Hara T., Yuasa M., Yoshida H.: J. Nucl. Med., 38, 44P (1997).
13. Pascali C., Bogni A., Iwata R., et al.: J. Label. Compd. Radiopharm., 43, 195-203
(2000).
14. Rosen M.M., Jones R.M., Yano Y., et al.: J. Nucl. Med., 26, 1424-1428 (1985).
15. Tolvanen T, Yli-Kerttula T., Ujula T., et al.: Eur. J. Nucl. Med. Mol. Imaging, 37,
874-883 (2010).
7-2.[18F]フルオロコリン合成法
(寺崎
[11C]コリンよりも半減期の点で実用性の高い数種の
18F
一典)
標識コリン誘導体が開発されたが、
[11C]コリンと同程度の代謝動態を有している[18F]フルオロメチルコリン([18F]FCH)が最も普
及している
1,2)。[18F]FCH
は[11C]コリンと同様に、投与後数分以内に速やかに血液中より消失
し、肝臓に集積には集積するが、脳、肺、骨などには集積しないため、特に、前立腺癌、脳腫
瘍の診断に用いられている。
A.合成法 3)
下記の反応スキームにより合成する。
K.222/K18F
CH2Br2
18
AgOTf
FCH2Br
CH3CN
18
C H3
H 3C
N
18
OH
FCH2OTf
on Accell CM
18
200oC
FCH2OTf
F
CH3
H 3C
N
+
[使用試薬]
[18O]H2O
[18F]フッ素イオン(註1)
銀トリフレートカラム(AgOTf)(註2)
2–ジメチルアミノエタノール(DMAE)———Aldrich(47,145-3)
ジブロモメタン———Merck(8.10278.0100)
無水アセトニトリル———和光純薬(有機合成用)、Merck(1.12636.0050)
Kryptofix 222(K.222)———Merck(8.10647.0001)
炭酸カリウム・1.5H2O———Merck(1.04926.0050)
79
OH
Sep-Pak Light Accell QMA———Waters(WAT023525)(註3)
Sep-Pak Plus Accell CM———Waters(WAT020550)(註4)
Sep-Pak Plus Silica (long) ———Waters(WAT020520)(註5)
註1) [18O]H2O を用い、18O(p,n)18F 反応により製造する。
註2) [11C]メチルトリフレートの合成参照
註3) QMA カートリッジは、0.5 M 炭酸カリウム溶液(5 mL)を通して炭酸イオン形に変換
し、Milli-Q 水(20 mL)で洗浄したものを使用する。
註4) Accell CM カートリッジは、エタノールで洗浄した後、充分に乾燥したものを使用する。
註5) Silica カートリッジのコンディショニングは不要である。Long 型 4 個を直列に連結し
使用する。
[方法]
[18F]フッ素イオンを、QMA カートリッジ(炭酸イオン形)に通じて吸着させ、K.222(20 mg)
と炭酸カリウム(4 mg)を含むアセトニトリル(0.7 mL)
、Milli-Q 水(0.3 mL)との混液(1
mL)で溶出し、反応容器に導入する。He 気流下で溶媒を加熱乾固し、さらに少量の無水アセ
トニトリルを加え、共沸留去によって充分に無水化処理を行う。
ジブロモメタン(50 L)を含む無水アセトニトリル(1 mL)を加え、90~120C で 5 分間
の反応を行う。反応中は反応容器と Silica カートリッジに通じる排ガスラインを開けておく。
(註1)反応後、80C 程度まで自然冷却し、ガス状生成物を He 気流下(30~100 mL/min)で
Silica カートリッジに導入する。(註2)
精製した臭化[18F]フルオロメチル([18F]CH2BrF)を 200C に加熱した AgOTf カラムに通
して[18F]フルオロメチルトリフレート([18F]CH2FOTf)に変換し、Accell CM(予め DMAE
を 200~400 L を注入する)に導入する。(註3)
反応後、メタノール(10 mL)を Accell CM カートリッジに通し、次いで注射用蒸留水(10
mL)で洗浄後、精製した[18F]FCH を生理食塩水(5~10 mL)で溶出し、滅菌フィルターに通
して無菌バイアルに捕集する。
註1) [18F]フルオロメチル化反応時には反応液が Silica カートリッジに徐々に流入するが、
上記 He 流速(30~100 mL/min)においては、アセトニトリルの影響を受けずにジブ
ロモメタンと[18F]CH2BrF は良好に分離できる。
註2) 連結した最下流の Silica カートリッジの放射能をモニターしながら[18F]CH2BrF を分
取する。
註3) 下図にオンカラム合成時の Silica および Accell QMA カートリッジにおける放射能変
化を示す。
80
7.コリン合成法
[合成法の特徴と問題点]
[11C]コリンの合成と同様な Accell CM を用いたオンカラム合成法である。この場合、標識前
駆 体 と し て [18F]CH2BrF 、 [18F]CH2FOTf の い ず れ に よ っ て も 合 成 は 可 能 で あ る が 、
[18F]CH2FOTf の方が数倍高収率である。[18F]CH2BrF はジブロモメタンとコンタミしやすく、
フルオロメチル化反応において競合するが、Silica カートリッジ(4 連)によって両者は、ほぼ
完全に分離できる 3)。また、Silica カートリッジはアセトンおよびジクロロメタンで洗浄し、乾
燥することで 2~3 回の再利用が可能である。
本法では Accell CM を陽イオン交換体としてだけではなく、反応基質の支持担体としても使
用するため、DMAE の添加量は最大~400 L と設定している。本法での標識前駆体の導入速度
(30~100 mL/min)を適応した場合、これ以上増量しても DMAE が Accell CM から漏れ出し、
収率の向上も期待できない。DMAE の使用量は、合成収率と製剤中に残留する DMAE 量を最
小とする精製(洗浄)条件に基づいて設定されるべきである。仁科サイクロトロン記念センタ
ーではこれらの条件を満たす最適量を 200 L に設定している。
コリン、DMAE は紫外・可視部に吸収帯をもたないので UV 検出器は使用できない。そのた
め、注射剤中の DMAE の測定は、[11C]コリン合成で述べたように、示差屈折計を用いるのが
簡便で実用的であるが、高感度測定が必要な場合は、電気伝導度検出器、および陰イオン測定
用のサプレッサーを用いるイオンクロマトグラフィーが有用であり、この場合、コリンと
DMAE を同時に測定できる 4)。
B.分析法
[放射化学的純度]
[11C]コリン合成法参照
[DMAE の分析]
[11C]コリン合成法参照
HPLC(示差屈折率計による)DMAE の分析例
81
C.その他
[被曝線量]5)
ヒト全身 PET 動態計測による。
臓器
男性
(mSv/MBq)
女性
(mSv/MBq)
肝臓
0.059
0.069
肺
0.014
0.012
腎臓
0.158
0.173
膀胱壁
0.063
0.096
脾臓
0.054
0.063
小腸
0.023
0.025
骨髄
0.017
0.020
実効線量当量:0.031 mSv/MBq(男性)
0.036 mSv/MBq(女性)
[急性毒性]2,6,7)
BALB/c マウス 4 匹に、通常の投与量(比放射能:~74 GBq/mol)の 300,000 倍に相当する
[19F]FCH(1 mg/kg)を静注し 48 時間観察したところ、死亡するものもなく、異常な所見は認
められなかった。
DMAE
LD50(腹腔内投与):1080 mg DMAE/kg
参考文献
1.
DeGrado T.R., Coleman R.E., Wang S., et al.: Cancer Res., 61, 110–117 (2001).
2.
DeGrado T.R., Baldwin S.W., Wang S., et al.: J. Nucl. Med., 42, 1805–1814 (2001).
3.
Iwata R., Pascali C., Bogni A., et al: Appl. Radiat. Isot., 57, 347–352 (2002).
4.
Kryza D., Tadino V., Filannino M.A., et al: Nucl. Med. Biol., 35, 255–260 (2008).
5.
DeGrado T.R., Reiman R.E., Price D.T., et al: J. Nucl. Med., 43, 92–96 (2002).
6.
Hartung R., Cornish H.H.: Toxicol. Appl. Pharmacol., 12, 486–494 (1968).
7.
Dimethylethanolamine
(DMAE)
and
Selected
Toxicological Literature (update), Nov. (2002).
82
Salts
and
Esters.
Review
of
8.チミジン誘導体合成法
8.チミジン誘導体合成法
8-1.[11C]4DST 合成法
(豊原
潤)
4–[methyl–11C]Thiothymidine([11C]4DST)は、thymidine の 4–O を 4–S に置換した
thymidine 誘導体の 5–CH3 位を
11C
標識したものである
1,2)。Thymidine
に比べて生体内で
の安定性が高く DNA 合成の基質として DNA へ取り込まれることから DNA 合成速度の定量評
価が可能な薬剤として期待されている。放射線医学総合研究所で開発され、2010 年 3 月より臨
床応用が開始されている。以前、[11C]4DST は[11C]S–dThd とも呼ばれていたが、臨床使用を
契機に名称を[11C]4DST に統一した。
A.合成法
下記の反応スキームにより合成する。
[使用試薬]
[11C]よう化メチル
脱水 DMF(有機合成用、水分含量 50 ppm 以下)———和光純薬(041-25473)
Tris(dibenzylideneacetone)dipalladium(0) ———Aldrich (328774)
Tris(o–tolyl)phosphine(97%)———Aldrich (287822)
CuCl(99.995% trace metals basis)———Aldrich (229628)
K2CO3(99.995% trace metals basis)———Aldrich (367877)
Sn–precursor/脱水 DMF 溶液(8 mg/mL)(註1)
局方 10 %アスコルビン酸注射液
註1) Sn–precursor の脱水 DMF 溶液は、1年は-20C で保存して使用することができる。
保存容器にはミニナートバルブ(GL サイエンス、SC-13)付きのバイアルを使用する。
Sn–precursor(NP049–1)および標準の 4DST(NP049-0)は株式会社ナード研究所
が販売している。
83
[方法]
ス パ ー テ ル を 用 い て tris(dibenzylideneacetone)dipalladium(0) ( 0.8~1.0 mg )、
tris(o–tolyl)phosphine(1.1~1.3 mg)を V バイアルに量り取る。スパーテルを用いて CuCl(ca.
4 mg)、K2CO3(ca. 5 mg)を Eppendorf チューブ(95170)に量り取り、予めスパーテルの
背中で K2CO3 を押しつぶしておく。Sn–precursor/脱水 DMF 溶液(8 mg/mL)を室温に戻し
て、グローブボックス内でガスタイトシリンジに 0.1 mL 分取する(註1)。
V バイアルに脱水 DMF(0.1 mL)と Sn–precursor/脱水 DMF 溶液(0.1 mL)を加え、良
く混和する。Eppendorf チューブに、脱水 DMF(0.5 mL)を加えて良く混和した後、速やか
に 0.05 mL を分取して V バイアルに加え、全量(0.25 mL)を反応容器に導入する(註2)。
反応試薬混合後、速やかに[11C]よう化メチルの合成を開始し、-15C に冷却した反応容器に、
[11C]よう化メチルを捕集する(註3)。
80C で 5 分間反応させた後、反応液を H2O(1.3 mL)で希釈し、HPLC により分離する(註
4)。
分離された[11C]4DST 溶液は、ロータリエバポレーターのフラスコに分取し、溶媒を除いた
後、生理食塩水に溶解し、メンブレンフィルターを通して無菌バイアルに捕集する(註5)
。
註1) 粉末試薬の秤量および液体試薬の準備は前もって準備が可能である。通常、照射中に
これらの作業を前もって準備している。また、Eppendorf チューブは 2.0 mL を使用す
ると K2CO3 を押しつぶし易い。
註2) 反応試薬の混合は、照射終了直前に実施する。
註3) 反応試薬混合から[11C]よう化メチル捕集までの時間が、[11C]メチル化反応に大きく影
響する。試薬混合後、10 分以上経過すると標識されない場合がある。我々の施設(液
相法)では照射終了時から 5.5~6 分後、[11C]よう化メチル捕集が可能であり、概ね照
射終了直前に試薬混合を実施している。GE 社の気相法による[11C]よう化メチル合成装
置の様に、照射終了時から[11C]よう化メチル捕集まで時間がかかる場合には、予め、
試薬混合の時間を決めておく必要がある。筆者らの経験では、よう素カラムでのリサ
イクル反応開始時に試薬を混合すると、丁度、試薬混合から 5~6 分後に[11C]よう化メ
チル捕集が可能であった。
註4) 不溶性のパラジウム触媒を除く目的で、ファインフィルターF(F162、フォルテグロ
ウメディカル株式会社)に石英ウール(Fine、東ソー・エスジーエム株式会社)を充
填したフィルターを通してから HPLC に導入する。
註5) [11C]4DST 溶液は、調剤化後、多少の分解が認められるが、前もってアスコルビン酸
(0.1 mL の 10%アスコルビン酸注射液)を加えておくことで分解を抑えることができ
る。
[合成法の特徴と問題点]
[11C]4DST の合成方法は C–C クロスカップリング法により行う。当初、C–C クロスカップ
リングは 2–pot 法で実施されていたが、[11C]4DST および他の薬剤においても、1–pot で合成
可能な事が示されている 3)。
本合成方法は、試薬を入れるタイミングさえ間違わなければ、高収率で再現性良く合成可能
84
8.チミジン誘導体合成法
である。標識反応に若干時間がかかるものの、副反応はほとんどなく、通常 HPLC 上で目的物
の放射能ピークは 80%以上であり、分離精製も容易である。
不溶性のパラジウム触媒が残留するので HPLC 導入前にフィルターでろ過する必要が有る点
が問題点である。
本 HPLC 系では、Sn–precursor が溶出されないため、合成終了後 CH3OH にてカラムの洗
浄をすること。
[HPLC 分取条件]
i)
カラム:YMC-Pack ODS-A(内径 10 mm X 長さ 150 mm)、ワイエムシー
溶離液:CH3CN/50 mM AcONH4/50 mM AcOH(8/46/466)
流
速:4 mL/min
検出器:UV(260 nm)、線検出器
保持時間:[11C]4DST, 6.0 分、Sn-precursor は溶出されない。
ii)
カラム: Atlantis T3(内径 10 mm X 長さ 150 mm, 5 m)、Waters
溶離液:生理食塩水/マクロゴール 400(99.5/0.5)(註1)
流
速:6 mL/min
検出器:UV (272 nm)、線検出器
保持時間:[11C]4DST、約 10 分
青線:放射能検出器
[11C]4DST
黒線:UV 検出器
0
2
4
6
Time (min)
8
10
12
注1) この分離方法では、HPLC の溶出液を直接メンブレンフィルターを通して無菌バイア
ルに捕集し、利用することができる。
85
B.分析法
[放射化学的純度]
HPLC
i)
カラム:TSK-gel ODS-140HTP(内径 2.1 mm X 長さ 50 mm)、東ソー
溶離液:CH3CN/50 mM AcONH4/50 mM AcOH(3/48.5/48.5)
流
速:0.2 mL/min
検出器:UV (260 nm)、線検出器
保持時間:[11C]4DST
ii)
4.2 分
カラム:TSK-gel Super-ODS(内径 4.6 mm X 長さ 100 mm)
、東ソー
溶離液:CH3CN/50 mM AcONH4/50 mM AcOH(8/46/46)
流
速:1.0 mL/min
検出器:UV (260 nm)、線検出器
保持時間:[11C]4DST、3.2 分
C.その他
[化学的不純物]
[11C]4DST の臨床用調製薬剤3ロットについて、ICP-MS を用いて混入が予想されるスズ元
素を分析したところ、いずれのロットにおいてもスズの存在量は検出限界以下であった 4)。
薬剤合成に使用される tris(o–tolyl)phosphine 及び反応により前駆体より脱離して生成する
と考えられる tributyltin(IV) iodide は、[11C]CHIBA-1001 注射液の調製と同様に 3)、用いる
HPLC での溶離条件で完全に排除できる。
[毒性]4,5)
放射線医学総合研究所では PET 検査時に予想される臨床投与量の 100,000 倍の薬物量の
4DST をマウスに投与したとき、東京都健康長寿医療センター研究所附属診療所では 100~200
倍の[11C]4DST 注射薬をラットに投与したときに死亡例は認められず、剖検においても何ら異
常は認められなかった。
LD50:ラット(雌雄、静脈内)、>38.7 mol/10 mg/kg
放射線医学総合研究所では、細菌を用いる復帰突然変異試験(Ames 試験)ならびに哺乳類
培養細胞を用いる染色体異常試験を実施し、4DST は染色体異常誘発性を有すると結論したが、
以下の理由により臨床使用が承認された。すなわち、医薬品中の遺伝毒性を有する不純物の実
質安全性量の 1 ヵ月以下の暴露量は 120 g/day 以下とされており、予定される投与[11C]4DST
注射液の薬物量と比較すると遺伝毒性のリスクは極めて低いことが予想されたからである。
[被曝線量]4)
ヒト全身 PET 動態計測による。
実行線量:4.2 Sv/MBq
膀胱壁:17.6 Gy/MBq、腎臓:13.6 Gy/MBq、肝臓:12.4 Gy/MBq、骨髄:4.5 Gy/MBq
全身:2.8 Gy/MBq
86
8.チミジン誘導体合成法
参考文献
1.
Toyohara J., Kumata K., Fukushi K., et al.: J. Nucl. Med., 47, 1717–1726 (2006).
2.
Toyohara J., Okada M., Toramatsu C., et al.: Nucl. Med. Biol., 35, 67–74 (2008).
3.
Toyohara J., Sakata M., Wu J., et al.: Ann. Nucl. Med., 23, 301–309 (2009).
4.
東京都健康長寿医療センター研究所附属診療所短寿命放射性薬剤臨床利用委員会資料
5.
放射線医学総合研究所新規短寿命放射薬剤審査部会資料
8-2.[18F]FLT 合成法
細胞の増殖能を指標とした腫瘍の性状診断が可能となれば、その悪性度や治療効果を判断す
る上で非常に有用な情報が期待される。3’−[18F]fluoro−3’−deoxythymidine([18F]FLT)はヌク
レオシドであるチミジンの誘導体を
18F
で標識した化合物で、増殖細胞に速やかに取り込まれ
た後、チミジンキナーゼ-1(TK1)によりリン酸化され、細胞内に捕捉される 1)。
TK1 は DNA 合成における核酸サルベージ経路の第 1 酵素であり、その活性は静止期細胞で
はほとんど認めないが、増殖細胞(特に G1 後期から S 期)に亢進するという特徴を有する 2)。
[18F]FLT はチミジンと異なり DNA に組み込まれないが、その細胞集積は TK1 活性を反映する
ことが示されており 3,4)、細胞増殖能(DNA 合成)の間接的な評価が可能となる。
A-1.合成法1(京大)
(河嶋
秀和)
下記の反応スキームにより合成する 5)。
O
O
H3C
CH3
N
O
O
O
O
N
O
CH3
CH3
HN
1. H18F
2. K2CO3, Kryptofix 2.2.2
HO
O
o
/ DMSO 200 C, 10 min
3. HCl 65oC, 10 min
O
N
18
F
[使用試薬]
[18O]H2O———大陽日酸、Rotem 等(通常市販されている試薬は化学的純度 99.9%,同位体純
度原子 95%以上の濃縮水である)
[18F]フッ素イオン(註1)
5’−O−(4,4’−Dimethoxytrityl)−2,3’−anhydrothymidine———ABX(121.0010)
Kryptofix 222(K.222)———Merck(8.10647.0001)
無水アセトニトリル———Merck(1.12636.0050)
66 mM 炭酸カリウム水溶液(註2)
無水 DMSO———Aldrich(276855-100ML)
1 M 塩酸———和光純薬(080-08065)
87
0.5 M 酢酸ナトリウム水溶液(註3)
局方 25%アスコルビン酸注射液
Sep-Pak Plus C18———Waters(WAT020515)(註4)
註1) [18O]H2O を用い、18O(p,n)18F 反応により製造する。
註2) 炭酸カリウム・1.5 水和物(Merck,8.10647.0001)から製する。
註3) 酢酸ナトリウム(和光純薬,198-01071)から製する。
註4) エタノールと注射用水を通じ、活性化しておく。
[方法]
[18F]フッ素イオンを含むターゲット水を AG18 陰イオン交換樹脂(定法により調製)に通
し、[18F]フッ素イオンを吸着させる。66 mM 炭酸カリウム水溶液(0.35 mL)で脱離後、[18F]
フッ化カリウムとして、35 mM K.222 アセトニトリル溶液(1.5 mL)
(註1)が入った反応器
に導入する。加熱(120°C、15 分)により溶媒を除去する。
原 料 で ある 5’−O−(4,4’−dimethoxytrityl)−2,3’−anhydrothymidine( 10 mg) を溶 解 し た
DMSO 溶液(1 mL)を反応器に導入し、フッ素化を行う(200°C、10 分)。
1 M 塩酸(0.35 mL)を加え、加水分解を行い(65°C、10 分)、反応終了後、0.5 M 酢酸ナ
トリウム水溶液(1.5 mL)を加え、注射用水(10 mL)を入れたリザーバへ移送する。この溶
液を Sep-Pak C18 カートリッジに通し、[18F]FLT を吸着する(註2)。注射用水(20 mL)で
未反応の[18F]フッ素イオンおよび水溶性不純物を洗浄除去後、DMSO(1.5 mL)で[18F]FLT
を溶出し、HPLC にて分離精製する。
予め 25%アスコルビン酸注射液(50 L)
(註3)を入れたフラスコに[18F]FLT の画分を分取
し、エバポレーターにより溶媒を除く。ここに注射用蒸留水を適宜加え、0.22 µm の滅菌フィ
ルターに通して[18F]FLT 注射液を得る。
註1) K.222 20 mg/1.5 mL に相当する。
註2) 反応が進行し、[18F]FLT が得られた場合は、カートリッジに淡褐色の帯を確認できる。
註3) 放射線分解を防ぐ目的でアスコルビン酸を添加しておく。
[合成法の特徴と問題点]
原料を導入する段階で水分を十分に除去できていないと、収率が極端に低下する。したがっ
て、無水アセトニトリルと共沸させる操作は特に入念に行う。
[HPLC 分取条件]
カラム:Megapak SIL C18-10(内径 7.5 mm X 長さ 250 mm)、日本分光
溶離液:EtOH/H2O(10/90)
流
速:5.0 mL/min
検出器:UV(254 nm)
保持時間:原料 5.5 分、[18F]FLT 9.0 分
88
8.チミジン誘導体合成法
原料の加水分解物
[18F]FLT
UV
Radioactivity
0
5
10
Retention Time (min)
A-2.合成法2(放医研)
(林
和孝)
下記の反応スキームにより合成する 8-10)。
O
OMe
NBoc
N
O
MeO
O
O
O
O
O
OMe
NH
NBoc
N
[K/K222]+18F- MeO
CH3CN
N
O
HCl
O
O
O
O
O S
18
F
O
HO
18
F
NO2
[使用試薬]
[18O]H2O(註1)
[18F]フッ素イオン(註2)
3−N−Boc−5’−O−dimethoxytrityl−3’−O−nosyl−thymidine ( 合 成 前 駆 体 ) ———ABX
(124.0015)
無水アセトニトリル———Merck(1.12636.0050)
Kryptofix 222(K.222)———Merck(8.10647.0001)
炭酸カリウム・1.5H2O———Merck(1.04926.0050)
1 M 塩酸———容量分析用
酢酸ナトリウム・3H2O———アミノ酸自動分析用
局方 25 %アスコルビン酸注射液
メンブレンフィルター(Millex−LG)———Millipore(SLLG 013 SL)
Sep Pak Light Accell Plus QMA———Waters(WAT023525)(註3)
註1) [18F]FDG 合成法参照
註2) [18O]H2O を用い、18O(p,n)18F 反応により製造する。
註3) QMA カートリッジは、消毒用エタノール、注射用水の順に洗浄後、炭酸カリウム溶液
を通じて炭酸イオン形に変換し、注射用水で充分洗浄したものを使用する。
89
[方法]
製造した担体無添加の[18F]フッ素イオンを、QMA カートリッジに通じて吸着する。
QMA カートリッジに吸着した[18F]フッ素イオンを、K.222(7.5 mg)と炭酸カリウム(2.77
mg)を含む 50 %アセトニトリル溶液(0.4 mL)(註1)で溶出し、反応容器に導入する。
He 気流下で加熱し、溶媒を留去する。次に、無水アセトニトリル(0.1 mL)を加え、共沸
留去し、充分に反応容器を乾燥する。(註2)
合成前駆体(15 mg)を含む無水アセトニトリル(0.3 mL)を加え、フッ素化反応(130C、
10 分間)を行う。
反応容器を冷却後、1 M 塩酸(0.5 mL)を加え、加水分解反応(120ºC、5 分間)を行う。
反応容器を冷却後、80C で 1 分間加熱し、反応溶媒中のアセトニトリルを留去する。
(註3)
反応容器を冷却後、1 M 酢酸ナトリウム(1.5 mL)を加えて攪拌し、反応溶液をメンブレン
フィルター(Millex-LG)に通じて HPLC に導入し、分離精製を行う。
(註4)
精製した[18F]FLT を、ロータリエバポレーターのフラスコ(0.4 mL の 25%アスコルビン酸
注射液を含む)に分取し、溶媒を留去した後生理食塩水(10 mL)に溶解し、メンブレンフィ
ルター(0.22 m)に通じ、無菌バイアルに捕集する。(註5)
註1) 注射用水(2 mL)に溶解させた炭酸カリウム(27.7 mg)とアセトニトリル(2 mL)
に溶解させた K.222(75 mg)を 1 つのバイアルに加え、冷所保存しておいたものを使
用する。
註2) ここで、乾固が不完全な場合、次のフッ素化反応の収率が著しく低下する。
註3) アセトニトリルの残留は、HPLC 分取に影響するため加水分解反応後、アセトニトリ
ルを留去する必要がある。
註4) 1 M 酢酸ナトリウムを加え、攪拌後、沈殿が生じるため、その沈殿を除去するために
メンブレンフィルタ(Millex-LG)に通じる。
註5) 放射線分解を防ぐためにアスコルビン酸をフラスコ内に予め加えておく。
[HPLC 分取条件]
カラム:XBridge C18(内径 10 mm X 長さ 250 mm、5 m)、Waters
溶離液:CH3CN/H2O(45/455)
流
速:6.0 mL/min
検出器:UV(266 nm)、NaI(Tl)
保持時間:[18F]FLT 8.6 分
90
8.チミジン誘導体合成法
A-3.合成法3(がんセンター東)
(小島
良紀)
下記の反応スキームにより合成する 11,12)。
1) K18 F/K.222
2) aq. NaOH
[使用試薬]
[18O]H2O(註1)
[18F]フッ素イオン(註2)
炭酸カリウム・1.5H2O ——— Merck(1.04926.0050)
Kryptofix222(K.222)———Merck(8.10647.0001)
無水アセトニトリル ——— Merck(1.12636.0050)
5’–O– (Benzoyl)–2,3’–anhydrothymidine——— ABX(1230.0010)
無水 DMSO ———Aldrich(276855-100ML)
0.2 M 水酸化ナトリウム ———和光(容量分析用)
リン酸二水素カリウム———和光(試薬特級)
局方無水エタノール
局方 25%アスコルビン酸注射液
局方注射用水
アセトニトリル———和光(高速液体クロマトグラフ用)
滅菌用フィルターMillex-GS———Millipore(SLGSV255F)
Sep-Pak Light Accell Plus QMA———Waters(WAT023525)(註3)
註1) [18F]FDG 合成法参照
註2) [18O]H2O を用い、18O(p,n)18F 反応により製造する。
註3) A-2合成法2参照
[方法]
[18F]フッ素イオンを陰イオン交換樹脂(QMA カートリッジ)で捕集する。33 mM K2CO3 水
溶液(0.6 mL)(註1)を QMA カートリッジに通して[18F]フッ素イオンを溶出する。
K.222 溶液(1.5 mL)(註2)を反応器に加え、アセトニトリルと水を留去する。
合成前駆体(10 mg)の無水 DMSO 溶液(1.0 mL)を加え、閉鎖系にて加熱攪拌してフッ素
化(160˚C、10 分間)を行う。
反応容器を冷却後、0.2 M 水酸化ナトリウム(0.3 mL)を加え、加水分解反応(80˚C、5 分
間)を行う。
(註3)
反応容器を 40˚C に冷却し、50 mM リン酸二水素カリウム(0.7 mL)を加えて中和後、分取
91
HPLC により分離精製する。
溶出した[18F]FLT 分画をロータリエバポレーターにより蒸発乾固した後、注射用水(10 mL)
(註4)に溶解し、滅菌用フィルターを通して注射剤とする。
註1) 33 mM K2CO3 溶液:所定の K2CO3・1.5H2O を 544 mg 秤量し、所定の蒸留水または、
超純水 100 mL に溶かし、33 mM の炭酸カリウム溶液に調製する。溶液は、よく乾燥
したバイアル瓶に密封し、冷暗所に保存する。
註2) K.222 溶液:所定の K.222 を 100 mg 秤量し、所定のアセトニトリル 7.5 mL に溶解
する。溶液は、よく乾燥させたバイアル瓶に密封し、窒素置換を行い、空気に触れな
いようにして、冷暗所に保存する。
註3) Blocher ら 11)は 50˚C で 10 分間の加水分解を行っている。
註4) 放射線分解を防ぐ目的で 25%アスコルビン酸注射液(0.1 mL)を加えておく。
[合成法の特徴と問題点]
煩雑な準備操作も不要で、簡便且つ安定した合成法である。当院では分取液を蒸発乾固させ
てエタノールを除いているが、そのまま必要量を生理食塩液で希釈して投与することも可能で
ある。
反応溶媒である DMSO が古くなると収率の低下を招くので注意を要する。(当院ではステン
レス製注射針で吸い上げているため、溶け出した金属イオンがフッ素化を妨害するのではない
かと考えている。)
[HPLC 分取条件]
カラム:CAPCELL PAK C18(内径 10 mm X 長さ 250 mm)
、資生堂
溶離液:EtOH/10 mM KH2PO4(5/95)
流
速:6.0 mL/min
検出器:UV(267 nm)
保持時間:[18F]FLT 18 分
92
8.チミジン誘導体合成法
B.分析法
[放射化学的純度・化学的純度]
HPLC
カラム:YMC AM-312(内径 6.0 mm X 長さ 150 mm)、ワイエムシー
ⅰ)
溶離液:EtOH/H2O(10/90)
流
速:1.5 mL/min
保持時間:[18F]FLT 5.6 分
カラム:XBridge C18(内径 3.0 mm X 長さ 50 mm、2.5 m)、Waters
ⅱ)
溶離液:90%CH3CN/50 mM リン酸アンモニウム緩衝液(pH 9.3)
(9/91 (0~0.6 min) –70/30 (0.61~7.0 min))
流
速:1.0 mL/min
検出器:UV(210 nm)、NaI(Tl)
保持時間:[18F]FLT 約 0.85 分、原料 約 6.3 分(註1)
カラム:Finepak SIL C18(内径 4.6 mm X 長さ 150 mm)、日本分光
ⅲ)
溶離液:CH3CN/50 mM KH2PO4(1/9)
流
速:1.0 mL/min
UV 波長:267 nm
保持時間:[18F]FLT 7.4 分、thymidine 3.5 分、安息香酸 9.9 分
註1) この分析条件では、加水分解反応により生じる thymidine、4,4’-ジメトキシトリフェ
ニルメタノール、p-ニトロベンゼンスルホン酸や K.222 も同時に測定することが可能
である。
TLC
プレート:シリカゲル、Merck
移動相:MeOH/conc. NH4OH(90/10)
Rf 値:K.222 0.36、原料 0.60、[18F]FLT 0.85
C.その他
[毒性]
FLT は TK1 阻害活性を有するため、AIDS 治療薬としての有効性が検討された。HIV-1 に対
する FLT の EC50 は 0.0052 M だが、細胞(MT4:ヒト白血病 T 細胞)に対する毒性は低く、
その IC50 は 240 ± 78 M であった 6)。
CD-1 マウス(1 群 10 匹)に 30 日間連続で FLT を経口投与し、毒性を検証した実験では、
投与量が 100、250、500 及び 1,000 mg/kg の場合の最終生存率は、それぞれ 90%、50%、10%、
0%であり、胸腺/脾臓の免疫系および骨髄造血器系に障害を認めた 13)。一方、AIDS 治療薬とし
ての第Ⅰ相試験において、HIV 患者に 100 mg/day の FLT を数週間投薬しても骨髄や肝毒性を示さ
なかったと報告されている 14)。
93
[被曝線量]7)
ヒト全身 PET 動態計測による。
実効線量当量:男 28 Sv/MBq、女 33 Sv/MBq(ICPR 53)
膀胱壁:男 179 Gy/MBq、女 174 Gy/MBq
肝臓:男 45 Gy/MBq、女 64 Gy/MBq
骨髄:男 24 Gy/MBq、女 33 Gy/MBq
全身:男 12 Gy/MBq、女 16 Gy/MBq
参考文献
1.
Shields A.F., Grierson J.R., Dohmen B.M., et al.: Nat. Med., 4, 1334–1336 (1998).
2.
Coppock D.L., Pardee A.B.: J. Cell. Physiol., 124, 269–274 (1985).
3.
Rasey J.S., Grierson J.R., Wiens L.W., et al.: J. Nucl. Med., 43, 1210–1217 (2002).
4.
Barthel H., Perumal M., Latigo J., et al.: Eur. J. Nucl. Med. Mol. Imaging, 32, 257–263
(2005).
5.
Wodarski C., Eisenbarth J., Weber K., et al.: J. Label. Compd. Radiopharm., 43,
1211–1218 (2000).
6.
Kong X.B., Zhu Q.Y., Vidal P.M., et al.: Antimicrob. Agents Chemother., 36, 808–818
(1992).
7.
Vesselle H., Grierson J., Peterson L.M., et al.: J. Nucl. Med., 44, 1482–1488 (2003).
8.
Oh S.J., Mosdzianowski C., Chi D.Y., et al.: Nucl. Med. Biol., 31, 803–809 (2004).
9.
Teng B., Wang S., Fu Z., et al.: Appl. Radiat. Isot., 64, 187–193 (2006).
10. Martin S.J., Eisenbarth J.A., Wagner-Utermann U., et al.: Nucl. Med. Biol., 29,
263–273 (2002).
11. Blocher A., Bieg C., Ehrilichmann W., et al.: J. Nucl. Med., 42, 257P (2001).
12. Becouarn S., Czerfnecki S., Valery J.-M.: Nucleos. Nucleot., 14, 1227–1232 (1995).
13. Mansuri M.M., Hitchcock M.M., Buroker R.A., et al.: Antimicrob. Agents Chemother.,
34, 637–641 (1990).
14. Flexner C., van der Horst C., Jacobson M.A., et al.: J. Infect. Dis., 170, 1394–1403
(1994).
94
9.ドーパミン神経伝達系プローブ合成法
9.ドーパミン神経伝達系プローブ合成法
9-1.[11C]SCH23390 合成法
SCH23390 はドーパミン D1 レセプタに選択的なアンタゴニストで、その
11C
標識体は脳内
ドーパミン D1 受容体測定用放射薬剤として米国 Johns Hopkins 大学、スウェーデンのカロリ
ンスカ研究所、放射線医学総合研究所などで用いられてきた 1-3)。
A-1.[11C]よう化メチル法
(鈴木
和年)
下記の反応スキームにより合成する。
Cl
Cl
NH
N
11
CH3I
HO
11
CH3
HO
DMF, 70oC, 3 min
SCH24518
[11C]SCH23390
[使用試薬]
[11C]よう化メチル
SCH24518(R(+)−7−chloro−8−hydroxy−1−phenyl−2,3,4,5−tetrahydro−1H−3−benzazepine)
Schering 社提供品または RBI 社製品(Cat. No. S-114)を用いる。
(註1)
無水 DMFAldrich (22705-6)
註1) RBI 社製品は塩酸塩の形で供給されるため、その炭酸バッファー溶液(570 mg Na2CO3
+ 414 mg NaHCO3/100 mL H2O)から酢酸エチルを用いて抽出して脱塩する。抽出液
は減圧下、室温で蒸発乾固した後、無水 DMF で溶解し、1 mg/mL 溶液とする。得ら
れた溶液は N2 置換し、冷凍室に保管する。このようにして調製、保管した溶液は数カ
月程度にわたり繰り返し使用することが可能である。1回の使用量は 0.3 mL 程度であ
る。
[方法]
SCH24518 の DMF 溶液(1 mg/mL、0.3 mL)を-15C 程度に冷却し、これに N2 気流下(100
mL/min)[11C]よう化メチルを通し、70C で 3 分間反応させる。反応液は窒素ガス気流下 HPLC
用インジェクターに輸送し、分離精製する。[11C]SCH23390 を含む分画はロータリエバポレー
95
ターに導入し、減圧下分離溶媒を除いた後、生理食塩水(10 mL)で溶解し、メンブレンフィ
ルター(0.22 m)に通し、無菌バイアルに捕集する。
[合成法の特長と問題点]
Halldin や、放医研での初期頃の合成では Schering 社により提供されたフリーの SCH24518
を反応基質として用いていたため、塩基を特別に加えず[11C]よう化メチルと反応させていたが、
RBI 社製品は塩酸塩の形で市販されているのでそのままでは反応が進行しない。SCH24518 に
対し、10 倍量の KOH を加えた実験でもフリーの SCH24518 を用いた場合に比し反応収率は 1
桁程度低い結果が得られている。
[HPLC 分取条件]
カラム:Megapak SIL C18-10(内径 7.5 mm X 長さ 250 mm)
、日本分光
溶離液:CH3CN/50 mM AcONH4(425/75)(註1)
流
速:6 mL/min
検出器:UV(280 nm)、放射能検出器
保持時間:目的物 6.5 分、原料 9 分
註1) 溶媒組成の比率により[11C]SCH23390 と SCH24518 の溶出順序が入れ替わるので注意
が必要である。アセトニトリルの比率を低くすると[11C]SCH23390 の溶出位置は
SCH24518 よりも後ろになる傾向にあり、SCH24518 の除去を困難にする。
A-2.[11C]メチルトリフレート法
(石渡
次の反応スキームにより合成する。
96
喜一)
9.ドーパミン神経伝達系プローブ合成法
Cl
Cl
NH
HO
11
CH3OTf
N
11
CH3
HO
NaOH, acetone
[使用試薬]
[11C]メチルトリフレート
SCH24518RBI 製(塩酸塩、70-0320-50)、ABX 製(塩酸塩)
アセトン特級試薬
水酸化ナトリウム特級試薬
[方法]
SCH24518 の塩酸塩あるいはトリフルオロメタンスルホン酸塩(トリフレート)(註1)の
アセトン溶液(1 mg/mL、0.25 mL)(註1)に 1 当量の NaOH 水溶液を加え、これに室温下
で He 気流下(30~50 mL/min)の[11C]メチルトリフレートを通して捕集する。SCH24518 の
遊離塩基(註2)を用いる場合には NaOH は必要としない。直ちに反応液に H2O で 2 倍希釈
した HPLC 溶離液(1.3 mL)を加えて希釈し、HPLC により分離精製する。
以下の処理及び注意点は、[11C]よう化メチル法に準ずる。
註1) トリフレートの調製法は、[11C]ラクロプライドの[11C]メチルトリフレート法の註2を
参照。
註2) 遊離塩基の調製法は、上記の[11C]よう化メチル法の註1に準ずる。
[合成法の特徴と問題点]
[11C]メチルトリフレートによるメチル化に SCH24518 の遊離塩基を使用する場合には
NaOH は不要であるが、塩の場合は 1 当量の NaOH が必要である。トリフレートや遊離塩基
型の前駆体を使用するとき、[11C]メチルトリフレートに対して 65~70%の収率であるのに対し、
塩酸塩の前駆体での収率はほぼ 50%に低下する。しかし、臨床診断に十分対応できる収率であ
り、必ずしも化学形を変換しなくともよい。一方、大過剰の NaOH 存在下には、いずれの場合
にも収率は 50%以下に低下する。(石渡、未発表データ)
B.分析法
[放射化学的純度]
HPLC
カラム:Finepak SIL C18S(5 m, 内径 4.2 mm X 長さ 150 mm)、日本分光
溶離液:CH3CN/AcOH/100 mM AcONH4(250/1/250)
流
速:2 mL/min
検出器:UV(280 nm)、放射能検出器
保持時間:原料 1.7 分、目的物 2.1 分
97
A rbitrary U nit
[11 C ]SC H 23390
SC H 24518
0.0
0.5
1.0
1.5
2.0
2.5
3.0
R etention Tim e (m in)
C.その他
[毒性]
SCH23390(10 mg/kg)を雄性 ddY マウス(10 匹)の尾静脈より投与し、10 日間にわたっ
て、生死の観察を行った結果、死亡例は認められず、剖検においても特記すべき変化は認めら
れなかった。この値は、37 GBq/mol の比放射能で標識した[11C]SCH23390 を体重 60 kg のヒ
トに 370 MBq(10 mCi)投与するものと仮定すると、少なくとも 200,000 倍以上の安全計数
を有していることを示しており、毒性的には問題がないと考えられる。
また、前記合成法に従って製造された最終製剤3ロットについて、0.2 mL を雄性 ddY マウ
スに静注し、10 日間にわたって生死、中毒症状の有無を観察した結果(1 群 10 匹)、死亡例は
認められず、また何らの中毒症状も認められなかった。
[被曝線量]
[11C]SCH23390 を雄性 ddY マウスの尾静脈より投与し、経時的に血、肝、腎、心、肺、小脳、
筋肉、睾丸、脳を摘出し、その重量及び放射能を測定した。得られた結果より、ヒト(25 歳、
体重 60 ㎏)における被曝線量を MIRD 法に準じて推定した。
なお、直接放射能分布を測定しなかった臓器については、その放射能濃度は血流中のそれと
同一と仮定して計算した。その結果を次表に示す。
臓器
線量(Gy/MBq)
臓器
線量(Gy/MBq)
腎臓
5.61
膵臓
2.00
甲状腺
1.07
胸部
0.427
肝臓
11.9
肺
3.01
生殖腺
1.75
全身の線量当量は 3.34 Sv/MBq
参考文献
1.
Halldin C., Stone-Elander S., et al.: Int. J. Appl. Radiat. Isot., 37, 1039–1043 (1986).
2.
Farde L., Halldin C., Stone-Elander S., et al.: Psychopharmacology, 92, 278–284
(1987).
3.
Okubo Y., Suhara T., Suzuki K., et al.: Nature, 385, 634–636 (1997).
98
9.ドーパミン神経伝達系プローブ合成法
9-2.[11C]ラクロプライド合成法
ラクロプライドはドーパミン D2-like 受容体に選択的に結合するアンタゴニストである。神
経遮断薬としては用いられていないが、その高い選択性のため、薬理学、神経化学の実験によ
く用いられる。炭素-11 標識体である[11C]ラクロプライド注射液は静脈注射後脳内へ移行し、
黒質線条体経路のシナプス後神経に存在するとされる D2-like 受容体に結合する 1)。この結合は
可逆的かつ PET 測定可能な時間内に平衡化するため、薬剤分布の時間変化を解析することによ
り結合と解離の速度定数をもとめることができる
2)。また、内在性のドーパミンとの受容体の
競合、治療薬による受容体占有率の測定など様々な試みが行われているのも、この薬剤が優れ
た性質を持っているためである。
[11C]ラクロプライド合成法としては当初[11C]よう化エチルによる N-エチル化反応
3)が報告
されたが、[11C]よう化メチルによる O-メチル化(DMSO 中)が主流となった 4)。この反応を
DMF−NaH 系で行う方法も報告された 5)。最近、より反応性に富む[11C]メチルトリフレートに
よる O-メチル化を用いたものが報告されており 6)、その有効性が注目されている。
A-1.[11C]よう化メチル法
(籏野
健太郎)
下記の反応スキームにより合成する。
OH
Cl
O
OH
N
H H
OH
Cl
11CH I
3
N
C2H5
Cl
O
N
H H
11
O CH3
DMSO, NaOH
N
C2H5
Cl
HBr
[使用試薬]
[11C]よう化メチル
デメチルラクロプライド臭化水素酸塩(DMR・HBr)Astra 製(無償提供)、RBI 製(D-204)
(註1)
無水 DMSOAldrich(27,685-5)
水酸化ナトリウム(無水)Sigma(S-8045)(註2)
註1) 乾燥したバイアルに 1 mg を秤量し窒素置換して密栓する。RBI 製は推奨しない。
註2) 純度の良い水酸化ナトリウムを推奨する。注射用蒸留水に約1時間窒素を通じて製し
た脱酸素水に溶解し、5 M NaOH 水溶液を調製する。
[方法]
DMR・HBr(1 mg)を含むバイアルに DMSO(0.4 mL)を加え溶解する。ここに 5 M NaOH
(3 L)を加え強くかくはんする(註1)。この溶液を超音波照射すると 10~20 分で淡緑色を
呈する。ここに室温下、N2(50 mL/min 程度)によって[11C]よう化メチルを通じる。合成装置
の放射能センサーの指示値が最大になったところで直ちに導入を停止し、密閉加温して反応を
行う(100C、5 分)。反応液に 10 mM リン酸(0.5 mL)を加え、N2 気流によって未反応の[11C]
99
よう化メチルを除いた後 HPLC にて精製する。
精製された[11C]ラクロプライドはロータリエバポレーターに分取し、溶媒を除いた後、生理
食塩液に溶解し、メンブランフィルターを通じて無菌バイアルに捕集する。
註1) DMR の量が多いと収率が向上しかつ安定化する傾向があるが、製剤への DMR 混入は
増加すると考えられる。
[合成法の特長と問題点]
本法は反応溶媒に DMSO を用いるため、[11C]よう化メチル捕集時に冷却することができな
い(m.p. 18˚C)。このため、合成装置の放射能センサーの指示値に注意し、適当なところでメ
チル化反応のステップに移らなくてはならない。また、収率は 5~40%とばらつく。DMR 溶液
が着色することが必須であるが、NaOH の加えすぎは必ずしも良好な結果につながらない。収
率のばらつきは反応活性種である遊離 DMR が DMSO 中で不安定であることが原因であると推
定される。
A−2.[11C]メチルトリフレート法
(三宅
義徳)
下記の反応スキームにより合成する。
OH
Cl
O
OH
N
H H
OH
Cl
11CH OTf
3
N
C2H5
Cl
O
N
H H
11
O CH3
Acetone, NaOH
N
C2H5
Cl
CF3SO3H
[使用試薬]
[11C]メチルトリフレート
DMR・トリフレート(註1)
アセトン特級試薬
水酸化ナトリウム特級試薬
註1)
DMR・HBr より調製する。
DMR・HBr(42.5 mg)を蒸留水(約 3 mL)に溶かし、0.1 M NaOH 水溶液で中性と
し、一夜冷蔵庫静置後析出する沈殿を濾取し、少量の蒸留水で洗い乾燥すると遊離
DMR が無色の粉末(33.8 mg、収率 98.6%)として得られる。この粉末(12.8 mg)
に 0.1 M トリフルオロメタンスルホン酸水溶液(0.6 mL)を加えると溶解後短棒状結
晶が析出する。暫く冷蔵庫に静置後に結晶を濾取し、ジエチルエーテルで洗浄した後
乾燥し、DMR・トリフレート(14.6 mg)を得る。
[方法]
DMR・トリフレート(2 mol、0.97 mg)をアセトン(0.4 mL)
(註1)に溶解後、0.5 M NaOH
(15 L)を加える。この溶液に、[11C]メチルトリフレートを室温にて 2 分間トラップし、そ
100
9.ドーパミン神経伝達系プローブ合成法
の後適宜加温して反応する。反応液に 10 mM リン酸を加え、HPLC に導入して精製する。精
製した[11C]ラクロプライドは予めアスコルビン酸またはエタノール(註3)を入れたロータリ
エバポレーターに分取、溶媒を除いた後生理食塩液に溶解し注射剤の製法で製する。
註1) アセトンなどのケトンを溶媒とするとき反応するが、DMF では反応しない。
註2) 濃縮時に放射線に起因すると思われる不純物が生成するため、アスコルビン酸または
エタノールの添加が必要である。
[合成法の特長と問題点]
[11C]よう化メチルを用いた[11C]ラクロプライドの合成には DMSO が反応溶媒として用いら
れる。しかし、遊離 DMR の反応活性種は DMSO 中では不安定であり、これが[11C]ラクロプラ
イドの収量のばらつきの原因と推定される。一方、[11C]メチルトリフレートを用いる本法は、
反応溶媒に DMR の反応活性種が安定に存在するアセトンを用いることができ、その反応は速
やかに進行するため、高収量で再現性に優れた方法である。
本法では、トリフレートを用いているが、遊離型(ABX 製)でも同様に合成される。しかし、
前者の方が収率は高く、NaOH はトリフレートでは 2 当量、遊離型では 1 当量以上が必要であ
るが、大過剰の方が高収率であり、また臭素酸塩では低収率である。
[HPLC 分取条件]
i)
カラム:Capcellpak C18 UG120(内径 20 mm X 長さ 250 mm)、資生堂
溶離液:CH3CN/10 mM H3PO4(33/67)
流
速:10 mL/min
検出器:UV(254 nm)、線検出器
保持時間: 13 分
ii)
カラム:YMC PackODS-AQ323(内径 10 mm X 長さ 250 mm + ガードカラム、内径
10 mm×長さ 30 mm)、ワイエムシー
溶離液:CH3CN/10 mM H3PO4(30/70)
流
速:4 mL/min
検出器:UV(254 nm)、線検出器
保持時間:20 分
iii)
カラム:YMC PackODS-A(内径 20 mm X 長さ 150 mm)、ワイエムシー
溶離液:CH3CN/10 mM H3PO4(35/65)
流
速:15 mL/min
検出器:UV(254 nm)、線検出器
保持時間:6.5 分
101
Radioactivity
UV (254nm)
0
2
4
6
8
10
Time (min)
12
14
16
18
B.分析法
[放射化学的純度]
HPLC
カラム:Capcellpak C18 UG120(内径 4.6 mm×長さ 150 mm)、資生堂
溶離液:CH3CN/10 mM H3PO4(25/75)
速:2 mL/min
流
検出器:UV(254 nm)
溶出時間:DMR 4 分、目的物 6.5 分
C.その他
[被曝線量]
ヒト全身 PET 動態計測による。
線量データ17)
実効線量: 6.26 Sv/MBq
胆嚢壁:31.5 Gy/MBq
小腸:25.8 Gy/MBq、肝臓:17.7 Gy/MBq、膀胱壁:13.5 Gy/MBq
全身:2.83 Gy/MBq
線量データ28)
実効線量: 男 6.7 Sv/MBq、女 8.4 Sv/MBq
腎臓:40.6 Gy/MBq、膀胱壁:25.2 Gy/MBq、胆嚢壁:24.6 Gy/MBq
[毒性]9)
LD50(腹腔注射):660 mol/kg (229 mg/kg)
102
9.ドーパミン神経伝達系プローブ合成法
[薬理効果]10,11)
下表に示すとおり、ラクロプライドの薬理効果はハロペリドールと同程度である。健常者に
投与する場合は問題を生じる可能性は無いと考えられるが、錐体外路疾患患者等に投与する場
合はハロペリドールとの比較により慎重に行うこととする。
製剤への混入が考えられる、原料のデメチルラクロプライドはインビトロの受容体結合実験
において不活性な化合物であることが報告されており、検査上支障はない。
[3H]Spiperone
binding
Apomorphine antagonism ED50 (mol/kg, ip)
IC50 (M)
Hyperactivity
ラクロプライド
0.032
0.13
(R)—Remoxipride
1.57
(S)—Sulpiride
0.21
ハロペリドール
0.012
Stereotype
1.70
120
28.2
1.70
162
0.29
0.27
参考文献
1.
Farde L., Hall H., Ehrin E., et al.: Science, 231, 258–260 (1986).
2.
Farde L., Eriksson L., Blomquist G., et al.: J. Cereb. Blood Flow Metab., 9, 696–708
(1989).
3.
Ehrin E., Farde L., de Paulis T., et al.: Appl. Radiat. Isot., 36, 269–273 (1985).
4.
Ehrin E., Gawell L., Hoeberg T., et al.: J. Label. Compd. Radiopharm., 34, 931–940
(1987).
5.
Ishiwata K., Ishii S., Senda M.: Ann. Nucl. Med., 10, 195–197 (1999).
6.
Langer O., Någren K., Dolle F., et al.: J. Label. Compd. Radiopharm., 42, 1183–1193
(1999).
7.
Slifstein M., Hwang D.-R., Martinez D., et al.: J. Nucl. Med., 47, 313–319 (2006).
8.
Ribeiro M.-J., Ricard M., Bourgeois S., et al.: Eur. J. Nucl. Med. Mol. Imaging, 32,
952–958 (2005).
9.
de Paulis T., Kumar Y., Johansson L., et al.: J. Med. Chem., 28, 1263–1269 (1985).
10. de Paulis T., Kumar Y., Johansson L., et al.: J. Med. Chem., 29, 61–69 (1986).
11. Pike V.W., Kensett M.J., Turton D.R., et al.: Appl. Radiat. Isot., 41, 483–492 (1990).
9-3.[11C]メチルスピペロン合成法
[11C]メチルスピペロン(3−N−[11C]メチルスピペロンあるいは 3−N−[11C]メチルスピロペリ
ドール)は脳内の D2 ドーパミン受容体測定剤であり、最も早く臨床利用が行われた PET 用レ
セプターリガンドである
5)。このリガンドはスピペロンと[11C]よう化メチルとの反応により合
103
成されるが 1-4)、スピペロンはメチルスピペロンと同等の受容体親和性を有するため、原料の混
入は見かけの比放射能を下げ、したがって HPLC による成績体の精製が重要である。
A-1.[11C]よう化メチル法
(鈴木
和年)
下記の反応スキームにより合成する 2,6)。
O
O
O
O
NH
N
N
NaH/DMF
F
N
11CH I
3
11
N
CH3
N
F
[使用試薬]
[11C]よう化メチル
スピペロン———エーザイ製(提供品)、RBI 製(塩酸塩、70-0320-50)
無水 DMF———Aldrich(22705-6)(註1)
NaH ———和光純薬(7646-69-7)(註2)
ポリソルベート 80(註3)
局方エタノール
註1) 乾燥 N2 で置換した褐色バイアル瓶に小分けして使用する。
註2) 無水ヘキサンで数回洗浄し、減圧乾燥した後無水 DMF を加える(~0.2 g NaH/1 mL
DMF)。使用時にはよく撹拌する。他に、NaH 粉末、tetrabutylammonium hydroxide
(TBAOH)溶液も利用できるが、スピペロンがアルカリ雰囲気下で不安定なため、そ
の使用量、混合のタイミングに注意する必要がある。要するに、可能な限りその使用
量を低く押さえ、スピペロンとの接触時間も短くすることがポイントである。
註3) Polyoxyethylene(20) sorbitan monooleate(和光純薬製、164-15741)を静注薬添加用
に第 1 ラジオアイソトープ研究所が無菌処理した(放医研への提供品)。
[方法]
スピペロンの DMF 溶液(1 mg/mL、0.4 mL)
(註1)に NaH の DMF 溶液(10 L、1 mg
程度の NaH を含む)を加え、−15C 程度に冷却し、これに N2 気流下(100 mL/min)の[11C]
よう化メチルを通し、捕集する。50C で1分間スピペロンと反応した後、反応液を HPLC 注
入用容器(註2)に N2 気流下移送する。エタノール(0.4 mL)で反応容器、輸送ライン中の
反応残液を洗い出し、反応液と混合した後 HPLC に導入し、分離精製する。
精製した[11C]メチルスピペロンは、ロータリエバポレーターのフラスコ(150 L のポリソル
ベート 80 と 500 L の局方エタノールを含む)に分取し、溶媒を除いた後、生理食塩水(11 mL、
局方エタノール 80 L を含む)に溶解し、メンブレンフィルターを通して無菌バイアルに捕集
する(註3)
。
[11C]メチルスピペロンの場合、放射化学純度が時間とともに低下する現象がしばしば観察さ
104
9.ドーパミン神経伝達系プローブ合成法
れるため、迅速な品質検査が不可欠である。そのため、分析法に示す分析条件は、製品の放射
化学純度、スピペロン混入量、比放射能などを 3 分以内に決定できるようにする。
註1) スピペロンの DMF 溶液や NaH の DMF 溶液は、N2 加圧下(0.1~0.2 気圧)冷凍庫内
に保存すれば長期にわたり繰り返し利用が可能である。前者に関しては 1 ヵ月程度、
後者に関しては 1 年以上の使用実績がある。
註2) HPLC 用ループインジェクターを使用せず、HPLC ポンプ吸引側に配置した注入容器
に反応液を移送し、HPLC に導入する。この方法は、装置としては簡便で、反応液を
無駄なく全量 HPLC に導入できるが、注入時の試料の拡散に問題がある。この防止に、
液面レベルセンサーを用いている。
註3) [11C]メチルスピペロンの場合、比放射能や放射能濃度が高くなると、その放射化学純
度が時間とともに低下する現象がしばしば観察される。ポリソルベート 80 と局方エタ
ノールはその防止のため使用される。
[合成法の特徴と問題点]
本法は、[11C]よう化メチルを反応前駆体としたメチル化反応に最も広く適用できる方法であ
る。本法により非常に多くの 11C-標識薬剤が高収量・高比放射能で合成されている。反応は one
pot で行えるため、準備・合成・後片付け作業等に要する手間はそれほどでもない。
本法では、反応基質を含んだ溶媒中に[11C]よう化メチルを直接バブリングして捕集し反応さ
せるため、効率良く[11C]よう化メチルを捕集するためには溶媒の冷却が必要である。そのため、
DMSO 等の高融点溶媒の利用が困難となる欠点がある。また、本法では、反応混合物を全量
HPLC に導入できるよう、反応容器や輸送ラインの洗浄液も反応液と一緒にポンプ吸入口手前
に設置したガラス製の液溜に集め、それを HPLC に導入している。そのため、標識物のロスは
少なくなるが、HPLC ピークが広がる欠点がある。これを補うため、分離条件は多少余裕を持
たせて設定する必要がある。
[11C]メチルスピペロンは、高比放射能、高放射能濃度で製造した場合、放射線分解を起こし
やすい。本法ではその防止のためヒドロキシルラジカルスキャベンジャーとして局方エタノー
ルとポリソルベート 80 を添加している。
[HPLC 分取条件]
カラム:Megapak SIL C18-10(内径 7.5 mm X 長さ 250 mm)
、日本分光
溶離液:CH3CN/AcOH/3 mM AcONH4(265/2.5/235)
流
速:6 mL/min
検出器:UV(254 nm)
溶出時間:スピペロン 6.5 分、目的物 10 分
105
A-2.[11C]メチルトリフレート法
(石渡
喜一)
下記の反応スキームにより合成する。
O
O
O
O
NH
N
N
11CH OTf
3
11
N
N
CH3
N
NaOH/acetone F
F
[使用試薬]
[11C]メチルトリフレート
スピペロンRBI(塩酸塩、70-0320-50)、Med-Life System(遊離塩基、Upper Darby, PA,
USA)
アセトン特級試薬
水酸化ナトリウム特級試薬
[方法]
0.2 M NaOH(6 L)を含むスピペロン塩酸塩のアセトン溶液(1 mg/mL、0.25 mL)
(註1)
に、室温下で He 気流下(30-50 mL/min)の[11C]メチルトリフレートを通して捕集する。直ち
に反応液に H2O で 2 倍希釈した HPLC 溶離液(1.3 mL)を加えて希釈し、HPLC により分離
精製する。
以下の処理及び注意点は、[11C]よう化メチル法に準ずる。
註1) スピペロン塩酸塩のアセトン溶液は、数ヶ月は室温で保存して使用することができる。
[合成法の特徴と問題点]
上記の方法では、スピペロンの塩酸塩に対して 2 当量の NaOH を用いているが、前駆体のト
リフレートや遊離塩基も同様に使用でき、前駆体の化学形はそれほど大きな影響を与えない。
塩の場合は 2 当量の、遊離塩基の場合には 1 当量以上の NaOH が必要であるが、大過剰の NaOH
106
9.ドーパミン神経伝達系プローブ合成法
存在下では収率が多少低下する傾向がみられた。
B.分析法
[放射化学的純度]
HPLC
カラム:Finepak SIL C18S(5 m, 内径 4.2 mm X 長さ 150 mm)、日本分光
溶離液:CH3CN/AcOH/100 mM AcONH4(250/1/250)
流
速:3 mL/min
検出器:UV(254 nm)
溶出時間:スピペロン 1.6 分;目的物 2.2 分
C.その他
[被曝線量]6)
臓器
線量(Gy/MBq)
臓器
線量(Gy/MBq)
腎臓
16
小腸壁
7.3
肝臓
15
膵臓
5.9
肺
14
副腎
5.9
脾臓
11
膀胱
2.7
全身の線量当量は 6.8 Sv/MBq
参考文献
1.
Burns H.D., Dannals R.F., Langstrom B., et al.: J. Nucl. Med., 25, 1222–1227 (1984).
2.
Suzuki K., Inoue, O., Tamate K., et al.: Appl. Radiat. Isot., 41, 593–599 (1990).
3.
Dannals R.F., Ravert H.T., Wilson A.A., et al.: Appl. Radiat. Isot., 37, 433–434 (1986).
4.
Iwata R., Pascali C., Yuasa M., et al.: Appl. Radiat. Isot., 43, 1083–1088 (1992).
5.
Wagner H.N. Jr., Burns H.D., Dannals R.F., et al.: Science, 221, 1264–1266 (1983).
6.
放射線医学総合研究所サイクロトロン製造放射薬剤品質管理基準.
9-4.[11C]FLB457 合成法
FLB457((S)−5−bromo−2,3−dimethoxy−N−[(1−ethyl−2−pyrrolidinyl)methyl]benzamide)
はドーパミン D2 受容体に高い親和性を有する(Ki: 0.018 nM)。PET によるドーパミン D2
受容体の測定は[11C]ラクロプライドや[11C]メチルスピペロンを用いて線条体においてなされて
きた。しかし精神分裂病をはじめとする人間の高次機能の異常を伴う疾患においては大脳皮質
特に大脳辺縁系における異常の有無が問題となる。[11C]FLB457 はこれまでのドーパミン D2
107
受容体測定用のリガンドでは測定できなかった線条体以外の領域のドーパミン D2 受容体を測
定できる初めてのリガンドとしてスウェーデンのカロリンスカ研究所で開発され、臨床利用さ
れてきた 1-3)。
A−1.[11C]よう化メチル法
(鈴木
和年)
下記の反応スキームにより合成する。
O
O
Br
N
H
11
H
CH3I
Br
N
H
N
OH
NaH, DMSO
11
H
N
O CH 3
OCH3
OCH3
[使用試薬]
[11C]よう化メチル
FLB604((S)−5−bromo−N−[(1−ethyl−2−pyrrolidinyl)methyl]−2−hydroxy−3−
methoxybenzamide)ABX 製
無水 DMFAldrich(22,705-6)
無水 DMSOAldrich(27,685-5)
NaH和光純薬(191-07662)(註1)
註1) 無水ヘキサンで数回洗浄し、減圧乾燥した後無水 DMF を加え(0.1g NaH/1 mL
DMF)、N2 置換をした後、冷凍庫中に保管する。使用時にはよく撹拌し、均一にして
から使用する。
[方法]
FLB604(1.5 mg)を無水 DMSO( 220 L)に溶かし、NaH の DMF 溶液(10 L)を添
加した溶液に N2 気流下(100 mL/min)の[11C]よう化メチルを通し、80C で 3 分間反応させ
る。反応液は N2 気流下 HPLC 用インジェクターに輸送し、分離精製する。[11C]FLB457 を含
む分画はロータリエバポレーターに導入し、減圧下分離溶媒を除いた後、3.5% Na2HPO4 ・
12H2O 水溶液(7.5 mL)で溶解し、メンブレンフィルター(0.22 m)に通し、無菌バイアル
に捕集する。
[合成法の特長と問題点]
[11C]よう化メチルを効率的に捕集するには反応溶液を冷却する必要があるが、その場合には
DMSO が凝固してしまい[11C]よう化メチルを含んだガスが流れなくなるため注意が必要であ
る。DMSO を冷却する場合にはガス導入用の針が反応液と接触しないように注意する必要があ
る。反応溶媒としては DMF が利用しやすいが、この場合には反応収率を著しく低下させるた
め、上のような条件を採用した。
[HPLC 分取条件]
カラム:Diasil 10C18(内径 8 mm X 長さ 300 mm)クロマトテック(GL サイエンス
108
9.ドーパミン神経伝達系プローブ合成法
取扱)
流
速:6 mL/min
溶離液:CH3CN/100 mM H3PO4(22/78)(註1)
検出器:UV(230 nm)、放射能検出器
保持時間:原料 8.0 分、目的物 12 分
註1) [11C]FLB457 の溶出位置は溶媒組成の比率により大きく変化する傾向があるので注意
が必要である。溶離液に加える酸としてリン酸の代わりに酢酸を試みたが、ピークが
テーリングするため採用しなかった。リン酸は減圧下においても除くことは困難なた
め、乾固後の溶解液に 3.5% Na2HPO4・12H2O 水溶液を用いて pH 調製を行っている。
A−2.[11C]メチルトリフレート法
(石渡
喜一)
下記の反応スキームにより合成する。
O
O
Br
N
H
11
H
CH3OTf
Br
N
H
N
OH
NaOH, acetone
11
H
N
O CH 3
OCH3
OCH3
[使用試薬]
[11C]メチルトリフレート
FLB604ABX 製
アセトン特級試薬
水酸化ナトリウム特級試薬
[方法]
0.25 M NaOH(5 L)を含む FLB604 のアセトン溶液(1 mg/mL、0.25 mL)に、室温下で
He 気流下(30 mL/min)[11C]メチルトリフレートを通して捕集する。直ちに反応液に H2O で
2 倍希釈した HPLC 溶璃液(1.3 mL)を加えて希釈し、HPLC により分離精製する。
以下の処理及び注意点は、[11C]よう化メチル法に準ずる。
109
[HPLC 分取条件]
カラム:YMC-Pack ODS-Pro(内径 10 mm×長さ 250 mm)
、ワイエムシー
溶離液:CH3CN/50 mM AcOH/50 mM AcONH4(25/37.5/37.5)
流
速:5 mL/min
検出器:UV、260 nm、線検出器
保持時間:9.3 分、原料 3.8 min
B.分析法
[放射化学的純度]
HPLC
i)
カラム:Diasil 5C18(内径 4 mm X 長さ 200 mm)、クロマトテック(GL サイエンス
取扱)
溶離液:CH3CN/100 mM H3PO4(22/78)
流
速:1.5 mL/min
検出器:放射能検出器および UV(208 nm)
保持時間:原料 3.3 分、目的物 4.0 分
カラム:TSKgel ODS-140HTP(内径 2.1 mm×長さ 50 mm、2.3 m)、東ソー
ii)
溶離液:CH3CN/50 mM AcOH/50 mM AcONH4(20/40/40)
流
速:0.5 mL/min
保持時間:原料 2.5 分、目的物 2.6 分
C.その他
[毒性]
FLB457 塩酸塩の生理食塩水溶液(0.1%)10 mg/kg を C3H 雄性マウス(5 匹)の尾静脈よ
り、1 回静脈内投与し、7 日間にわたって観察を行った結果、死亡例は認められなかった。この
値は、37 GBq/mo1(1 Ci/mo1)の比放射能で標識した[11C]FLB457 を体重 60 kg のヒトに
370~740 MBq(10~20 mCi)投与するものと仮定すると、少なくとも 20 万倍以上の安全係数
を有していることを示しており、毒性的には問題がないと考えられる。また、前記規格試験に
用いた最終製剤3ロットについて、C3H 雄性マウスに静注し(0.2 mL/30 g、1 群 5 匹)、7 日
110
9.ドーパミン神経伝達系プローブ合成法
間にわたって生死、中毒症状の有無を観察した結果、死亡例はなく、中毒症状も認められなか
った。また、体重の増減は、対照群(生理食塩水 0.2 mL/30 g)と同じ増加率が観測された。以
上から、[11C]FLB457 注射液は、毒性的には問題がないと考えられる。
以下に、スウェーデンで人体投与を前提に報告された毒性データの一部を示す。
FLB457 は OECD ガイドライン No 420 による GLP の基準に従った毒性試験のデータが報
告されている。雌ラットに FLB457 を 561 mg/kg(1.4 mmol/kg)静脈内投与ところ 30 秒でラ
ットは死亡、55.4 mg(0.14 mmol/kg)では静注後約 50 秒で死亡した。静注量 5.4 mg/kg(0.013
mmol/kg)では静注後 1−6 時間にわたって活動量が軽度低下したが他に異常は認められなかっ
た。静注量 10.9 mg/kg(0.027 mmol/kg)では静注直後にけいれんが認められ 1~6 時間にわた
って活動性の低下が認められた。10.9 mg/kg と 5.4 mg/kg 静注ラットは 14 日間にわたって観
察されたが著明な異常は認められなかった。(Scantox test report 1996)
[被曝線量]
[11C]FLB457 注射液を雄性 ddY マウスの尾静脈より投与し、経時的に血液、肝、腎、肺、脾、
小腸、筋肉、睾丸を摘出し、その重量及び放射能を測定して、放射能分布を求めた。その結果
に基づいて、各臓器にわたる生物学的半減期を推定し、MIRD 法により、ヒト(25 歳、体重
60 kg)における被曝線量を推定した。なお、直接放射能分布を測定しなかった臓器については、
その放射能濃度は血液中のそれと同一と仮定して計算した。その結果を次表に示す。
臓器
線量(µGy/MBq)
臓器
線量(µGy/MBq)
腎臓
5.71
膵臓
1.27
肝臓
2.55
脾臓
2.75
肺
4.24
小腸壁
0.608
生殖腺
0.863
全身の線量当量は 1.17 µSv/MBq
参考文献
1.
Halldin C., Farde L., Hogberg T., et al.: J. Nucl. Med., 36, 1275–1281 (1995).
2.
Farde L., Suhara T., Nyberg S., et al.;.: Psyshopharmacology, 133, 396–404 (1997).
3.
Suhara T., Sudo Y., Okauchi T., et al.: Int. J. Neuropsychopharmacol., 2, 73–82 (1999).
9-5.[18F]フルオロドーパ合成法
[18F]フルオロドーパ(L−3,4−dihydroxy−6−[18F]fluorophenylalanine、[18F]FDOPA)は、
脳のドーパミン代謝を診断する薬剤として使用される。タイロシンと同様のアミノ酸輸送によ
り血液脳関門を通過し、芳香族アミノ酸脱炭酸酵素により脱炭酸されて[18F]フルオロドーパミ
ンとなり、ドーパミンニュ-ロンのシナプス小胞内に蓄積される。
このドーパミン合成を評価するためのトレーサとしては、天然基質である 11C−標識ドーパも
111
用いられているが、合成の容易さや PET による測定時間などから
18F−標識のフルオロドーパ
が最も多くの施設で使用されている。しかし、[18F]フルオロドーパは代謝されやすく、定量的
解析に血漿中代謝物を分析することなどが要求され、また、この代謝を抑える目的で酵素阻害
剤が併用される。この欠点を補う目的で、最近になってより代謝的に安定な[18F]フルオロメタ
タイロシンの利用も検討され始めた。
A-1.Adam 法 12)
(岩田
錬)
下記の反応スキームにより合成する。
CO2Me
MeO
AcO
NHAc
CO2Me
MeO
AcO18F
AcOH
18
AcO
HI
F
NHAc
CO2H
HO
HO
18
F
NH2
[使用試薬]
Acetyl [18F]hypofluorite(註1)
L−Methyl−N−acetyl−[−(3−O−methoxy−4−acetoxyphenyl)]alanine(註2)
57%よう化水素酸(註3)———和光純薬特級試薬(083-01012)
0.1%酢酸水溶液(註4)
局方 25%アスコルビン酸注射液
註1) Acetyl [18F]hypofluorite による[18F]フルオロフェニルアラニン合成法の使用試薬の註
1を参照のこと。
註2) 自家調製試薬である。その方法は参考文献 2 に記載されている。
註3)
空気酸化されていない未開封のアンプル入りのものを使用する。
註4) 酢酸(精密分析用特級試薬)を 500 mL の注射用蒸留水に添加して調製する。
[方法]
反応基質(約 20 mg)を酢酸(10~12 mL)に溶かした溶液に、Ne 気流下(500 mL/min)
の acetyl [18F]hypofluorite(約 100 mol の担体フッ素を含む)を吹き込んで反応させる。
反応液をロータリエバポレーターに移し、減圧下酢酸を留去する。(註1)
残渣によう化水素酸 5 mL を加え、加熱還流下 20 分間加水分解する。(註2)
よう化水素酸を減圧下留去する。(註3)
水(1 mL)をフラスコに加え、残渣をよく溶かして HPLC 注入用のシリンジに採り、HPLC
により分離精製する。0.1%酢酸水溶液で溶出された目的分画をメンブレンフィルターを通して
バイアルに捕集する。(註4)これに 25%アスコルビン酸注射液(2 mL)を加えることで pH
調整を行い注射用薬剤とする。(註5)
註1) 合成システムとして、オートジャッキに取り付けたロータリエバポレーターに逆流止
112
9.ドーパミン神経伝達系プローブ合成法
めのガラス球を介して 30 mL の梨型フラスコを取り付け、水溶性のオイルを 100C に
加熱した油浴をその下に用意する。800~1,000 W 位の強力なドライヤーを加水分解用
の熱源として使用する。フラスコが油浴に浸った時にちょうどガラス球がドライヤー
で加熱されるように調整すると、酢酸およびよう化水素酸の減圧留去時、還流する溶
媒をガラス球部分で止め、ここを強力に加熱することで留去時間を短縮できる。
註2) この時オートジャッキで反応液の入った梨型フラスコをちょうどドライヤーの熱風に
直接当たる部分に持ち上げる。よう化水素酸の沸点は 127C であるためフラスコ内で
還流するが、一部ガラス球に貯まる。
註3) 次の精製操作である HPLC 分取用カラムの劣化を防ぐため、茶褐色のよう素の色が完
全に消えるまで、乾固しても少量の水を加えて留去を繰り返す。
註4) [18F]フルオロドーパは、0.1%酢酸溶液で分離したのち濃縮乾固することにより、化学
形の異なる成分を生じる。
註5) 比放射能の測定が必要な場合、アスコルビン酸を添加する前に分取した液から必要量
採取する。
[HPLC 分取条件]
カラム:YMC R-ODS-5(内径 20 mm X 長さ 250 mm)、ワイエムシー(註1)
溶離液:0.1% AcOH
流
速:15 mL/min
検出器:UV(280 nm)
溶出時間:15 分
註1) カラム管理:通常カラムはエタノールで満たしておく。使用前に、0.1%酢酸水溶液(200
mL 以上)でエタノールを十分に除きつつ平衡化する。使用後は再びエタノールで十分
にカラムを洗い、乾燥しないように保存する。
Radioactivity
6-FDOPA
FDOPA
2-FDOPA
UV
0
4
8
12
Elution time (min)
113
16
20
A-2.Ishiwata 法 3)
(石渡
喜一)
下記の反応スキームにより合成する。
CO2H
HO
(CH3)3CCOO
NH2
AcO18F
AcOH
CO2H
HO
18
(CH3)3CCOO
4 M HCl
F
NH2
CO2H
HO
HO
18
F
NH2
[使用試薬]
Acetyl [18F]hypofluorite(註1)
4−O−Pivaloyl−L−dopa(註2)
8 M HCl
0.1%酢酸水溶液(註3)
局方 25%アスコルビン酸注射液
註1) Acetyl [18F]hypofluorite による[18F]フルオロフェニルアラニン合成法の使用試薬の註
1を参照のこと。
註2) 初めは萬有製薬株式会社より供給を受けた。その合成方法は参考文献 4 に記載されて
いる。ABX 社が販売している。
註3) 酢酸(精密分析用特級試薬)を 500 mL の注射用蒸留水に添加して調製する。
[方法]
4−O−Pivaloyl−L−dopa(20~30 mg)を酢酸(6 mL)に溶かした溶液に、Ne 気流下(500
mL/min)の acetyl [18F]hypofluorite(100~200 mol の担体フッ素を含む)を吹き込んで反応
させる。
反応液に 8 M HCl(6 mL)を加え、還流下加水分解(20~25 分)する。(註1)
反応液を濃縮乾固し、残渣を注射用蒸留水(2 mL)に溶かし、以下A-1と同様の方法によ
り HPLC 分離し、[18F]フルオロドーパ注射薬とする。(註2)
註1) 油浴を使うときは 120C、10 分程度で十分であるが、エアーヒーターを使うときは、
多少長い時間を要する。
註2) 文献 3 では、HPLC 分離に酢酸緩衝液により pH を 55.5 にした生理食塩水を用いて
いるが、分取カラムへの負荷が大きく、また、カラムの種類によっても影響を受けや
すいため、0.1%酢酸溶液で分離する方法が実際的である。
[トラブル処理]
収量が低下したとき。
通常 6−[18F]フルオロドーパの比放射能を上げるため、担体としてのフッ素量を[18F]FDG 合
成の場合に比べ下げている。収量の減少は、[18F]F2 の生成量に依存しており(この点に関して
114
9.ドーパミン神経伝達系プローブ合成法
は[18F]FDG の項参照)、その原因は担体フッ素量の低下に起因することが多い。[18F]F2 の製造
に低圧ターゲットを用いるため照射ごとに再現性のある担体フッ素濃度の制御が難しいときは、
多少高めの濃度に設定すると良い。
一方、4−O−pivaloyl−L−dopa に対するフッ素の割合が多くなると、HPLC 分離において
6−[18F]フルオロドーパのあとに溶出する 2,6−[18F]ジフルオロドーパ 5)の生成量が増加し、結果
として 6−[18F]フルオロドーパの収量を低下させる。反対に、4−O−pivaloyl−L−dopa の使用量
を増やすことにより副反応を抑えることができるが、 HPLC による異性体の分離能を低下する
恐れがある。
従って、安定した 6−[18F]フルオロドーパの合成には、それぞれの施設における[18F]F2 の製
造システムと HPLC 分離に使用するカラムにより、担体フッ素量と反応原料の割合を見極める
必要がある。経験的には HPLC 分離において、原料が少なくとも 2 割程度は残っていること、
また、2,6−[18F]ジフルオロドーパの生成量が 6−[18F]フルオロドーパの 1 割程度までの条件に設
定することがその目安となる。上記の条件では、反応原料 30 mg 程度までは HPLC 分離にあ
まり影響を与えない。
[合成法の特徴と問題点]
[18F]フルオロドーパの合成法としては、acetyl [18F]hypofluorite を用いる親電子置換反応に
基づく方法と、最近では[18F]フッ素イオンによる親核置換反応による合成法も開発されている。
前者のうち、Adam らの方法 1,2)は 6 位と 2 位フルオロの異性体を生成し(約 1/1)、脱保護基反
応によう化水素酸を用いる。一方 Ishiwata らの方法 3)では、6 位と 2 位フルオロの異性体比が
多少向上し(約 3/2)、また、塩酸で容易に脱保護ができる点でも実際的である。どちらの方法
も 5−フルオロ体の割合は少ない。
欧米では 6 位特異的な反応として水銀化合物を前駆体とした方法 6,7)が一般的であるが、水銀
の混入のチェックをする必要がる。
[18F]フッ素イオンを用いる無担体添加の合成法は、[18F]FDG 合成の場合と同様に今後一般的
になっていくと予想されるが、現在のところ臨床使用している施設は少ない 8)。
B.分析法
[放射化学的純度]
HPLC
i)
カラム:Crestpak C18S(内径 4.6 mm X 長さ 150 mm)、日本分光
溶離液:MeOH/1% AcOH, 1 mM sodium octylsulphate, 1 mM EDTA(1/9)
流
速:2 mL/min
検出器:UV(283 nm)(註1)
保持時間:6—FDOPA 15.9 分;2—FDOPA 13.8 分
ii)
カラム:TSKgel Super ODS(内径 4.6 mm X 長さ 50 mm)、東ソー
溶離液:MeOH/1% AcOH, 1 mM sodium octylsulphate, 1 mM EDTA(1/9)
流
速:1 mL/min
保持時間:6−FDOPA 3.6 分、2−FDOPA 3.1 分
115
註1) 比放射能の測定用の標準試料は、6−FDOPA の吸光計数 e283 = 3836 L/mole・cm9)を用
いて調製するのが簡単である。なお、2−FDOPA の吸光計数は e283 = 1850 L/mole・cm
と評価されている 9)。
C.その他
[毒性]
L—DOPA の毒性:LD50(経口)、ラット 4,000 mg/kg;マウス 3,650 mg/kg;ウサギ 609 mg/kg
(Merck Index)
[被曝線量]10)
臓器
線量(Gy/MBq)
臓器
線量(Gy/MBq)
膀胱
215
精巣
15
腎臓
89
副腎
14
膵臓
30
大腸壁
14
子宮
20
骨髄
13
全身の線量当量は 26 Sv/MBq
編者註1)ヒト全身 PET 動態計測による評価が一部報告されている 11)。
実効線量当量:19 Sv/MBq
膀胱壁:159 Gy/MBq、子宮:16 Gy/MBq、下部大腸:11 Gy/MBq
参考文献
1.
Adam M.J., Grierson J.R., Ruth T.J., et al.: Appl. Radiat. Isot., 38, 877–882 (1986).
2.
Adam M.J., Ruth T.J., Grierson J.R., et al.: J. Nucl. Med., 27, 1462–1466 (1986).
3.
Ishiwata K., Ishii S., Senda M., et al.: Appl. Radiat. Isot., 44, 755–759 (1993).
4.
Ihara M., Tsuchiya Y., Sawasaki Y., et al.: J. Pharmac. Sci., 78, 525–529 (1989).
5.
Hatano K., Ishiwata K., Yanagisawa T.: Nucl. Med. Biol., 23, 101–103 (1996).
6.
Luxen A., Barrio J.R.: Tetrahedron Lett., 29, 1501–1504 (1988).
7.
Adam M.J., Jivan S.: Appl. Radiat. Isot., 39, 1203–1206 (1988).
8.
Reddy G.N., Haeberli M., Beer, H.-F., et al.: Appl. Radiat. Isot., 44, 645–649 (1993).
9.
Cumming P., Hausser M., Martin W.R.W., et al.: Biochem. Pharmacol., 37, 247–250
(1988).
10. Mejia A.A., Nakamura T., Itoh M., et al.: J. Radiat. Res., 32, 243–261 (1991).
11. Dhawan V., Belakhlef A., Robeson W., et al.: J. Nucl. Med., 37, 1850–1852 (1996).
9-6.[18F]フルオロメタタイロシン合成法
(阿久津
源太)
[18F]フルオロメタタイロシン([18F]6−fluoro−m−L−tyrosine)は m−tyrosine の誘導体で、
116
9.ドーパミン神経伝達系プローブ合成法
ド ー パ ミ ン 神 経 内 の 芳 香 族 L- ア ミ ノ 酸 脱 炭 酸 酵 素 ( AADC: aromatic amino acid
decarboxylase)の基質であり、AADC 活性の定量的評価に利用される 1)。パーキンソン病にお
いては神経細胞脱落(変性)による ADDC 活性の低下が認められ、病気の進行度や治療効果判
定のために、この AADC 活性の定量的測定は有用とされている。
A.合成法
下記の反応スキームにより合成する 1)。
1)
18
F2 /CCl3 F, 0o C
2) HI/H2 O, 130o C
[使用試薬]
N,O−di−Boc−6−trimethylstannyl−m−tyrosine ethyl ester (FMT 前駆体)(註 1)
トリクロロフルオロメタン(フロン 11)———東京化成(F0042)
よう化水素酸(55~57%)———特級試薬(和光純薬など)
註 1) Di−Boc−6−trimethylstannyl−L−phenylalanine ethyl ester(FMT precursor 2)の名
称で ABX(311.0100)から入手。
[方法]
FMT 前駆体(約 20 mg)をフロン 11(2 mL)に溶解し(註1)、0˚C 以下に冷却した反応容
器内に注入後、サイクロトロンで製造した[18F]F2 ガスを直接バブリングし反応させる(約 10
分)。
反応後よう化水素酸(1 mL)を加え 130˚C、10 分で加水分解させる。加水分解終了後、180˚C
でよう化水素酸を留去させる(減圧下、150˚C 留去でもよい)。残渣(註2)に少量の注射用水
を加え溶解し HPLC に導入、UV 検出器(280 nm)にて[18F]フルオロメタタイロシン画分を
分取する。
註1) 反応容器の形状にもよるが、バブリング中も蒸発するため多めのフロン 11 で溶解させ
たほうがよい。
註2) 反応容器を完全に乾固させてしまうと残渣がガラス用器に固着する恐れがあるため、
注意深く目視で確認する必要がある。
[合成法の特徴と問題点]
担体フッ素を多く含む[18F]F2 ガスから合成するため、フルオロメタタイロシンそのものの化
学量が多い。即ち比放射能が低く、通常の[18F]F-からの合成薬剤に比べておよそ 1000 分の 1
以下である。また、[18F]F2 ガスの担体量が過剰になると不純物(ジフルオロ体と推測される)
の生成割合が増えるため注意を要する。
117
[HPLC 分取条件]
カラム:YMC-Pak ODS-AQ(内径 10 mm×長さ 300 mm)
、ワイエムシー
溶離液:MeOH/0.1% AcOH(3/97)
速:4 mL/min
流
検出器:UV(280 nm)、放射能検出器
溶出時間:約 18 分
下図にそのクロマトグラムを示す。
B.分析法
[化学的純度及び放射化学的純度]
HPLC
カラム:GRACE Alltima C18(内径 4.6 mm×長さ 250 mm)、GRACE
溶離液:MeOH/0.1% AcOH(12/88)
流速:1 mL/min
検出器:UV(280 nm)、放射能検出器
保持時間:7.8 分
[残留スズ濃度測定]
ICP 発光分析法にて測定(事後検定)。総スズ量として 20 ppm 以下 2) 。
C.その他
[毒性]
[18F]フルオロメタタイロシン製剤をヒトに投与する場合、おおよそ 1 mg のフルオロメタタ
イロシン(コールド体)が投与されることになるが、現在のところ有害作用等の報告はなされ
ていない 2)。
118
9.ドーパミン神経伝達系プローブ合成法
[被曝線量]2)
臓器
線量(μGy/MBq)
臓器
線量(μGy/MBq)
膀胱
219
卵巣
18
脳
6
膵臓
7
臓器
線量(μGy/MBq)
臓器
線量(μGy/MBq)
胃
7
赤色骨髄
8
小腸
11
精巣
16
大腸
32
甲状腺
5
腎臓
17
子宮
37
肝臓
6
全身
9
参考文献
1.
VanBrockin H.F., Blagoev Mi.,t al.: Appl. Radiat. Isot., 61 1289-1294 (2004).
2.
Clinical Protocol No.AAV-hAADC-2-003-FMT-PET/MRI(2004)
(非公開資料;Genzyme
社から資料提供は可能)
9-7.[11C]—CFT 合成法
[11C]—CFT(2——[methyl— 11C]carbomethoxy—3——(4—fluorophenyl)tropane、[11C]WIN
35,428)はコカインに類似した構造を持ち、ドーパミントランスポータに高い親和性を示すリ
ガンドである 1-3)。また、18F—標識の—CFT も臨床使用され 4)、インビボ結合は高親和性のため
投与後 3~4 時間で平衡状態に達することが明らかにされている 5)。類似化合物の—[11C]CIT に
6)。パーキンソン症候群などのド
比べて高い選択性を有し、脳内線条体に特異的な結合を示す
ーパミン神経細胞の変性や脱落の程度を診断する薬剤として使われている。
A−1.[11C]よう化メチル法
(二ツ橋
下記の反応スキームにより合成する。
11
H
N
CH3
N
CO2CH3
11CH I
3
H
F
CO2CH3
H
DMF
H
F
H
[使用試薬]
[11C]よう化メチル
119
昌実)
2——Carbomethoxy—3——(4—fluorophenyl)nortropaneABX 製、PharmaSynth 製(註1)
無水 DMFAldrich(22705-6)
註1) 合成法は報告されているが
7)、麻薬取扱の対象となる試薬を使用するので特別の手続
きが必要である。
[方法]
2——Carbomethoxy—3——(4—fluorophenyl)nortropane(約 0.5 mg)の DMF 溶液(0.5 mg
前後/0.5 mL)を−15C に冷却し、これに N2 気流下(200 mL/min)の[11C]よう化メチルを通
し、捕集する。120C で 3 分間反応させた後、反応液を HPLC 注入用容器に N2 気流下で移送
する。注射用蒸留水(0.3 mL)で反応容器と輸送ライン中の反応残液を洗い出し、反応液と混
合した後 HPLC に導入し、分離精製する。
分離された[11C]—CFT 溶液は、ロータリエバポレーターのフラスコに分取し、溶媒を除い
た後、生理食塩水に溶解する。
(註1)メンブレンフィルターを通して無菌バイアルに捕集する。
(註2)
註1) [11C]—CFT 溶液は濃縮・乾固により多少の分解が認められるが、前もってアスコルビ
ン酸(0.2 mL の 100 mg/mL の注射用アスコルビン酸注射液)を加えておくことで分
解を抑えることができる。
註2) メンブレンフィルターには、脂溶性薬剤の吸着の少ないマイレックス GV フィルター
TM(ミリポア)などを使用する。
[HPLC 分取条件](註1)
カラム:YMC-Pack ODS-AL(内径 10 mm X 長さ 250 mm)
、ワイエムシー
溶離液:CH3CN/20 mM リン酸緩衝液(pH 6.9)(70/30)
流
速:6 mL/min
検出器:UV(260 nm)、線検出器
nor--C FT
UV
11
[ C ]-C FT
R adioactivity
保持時間:5.7 分、原料 9.7 min
0
5
R etention tim e (m in)
120
10
9.ドーパミン神経伝達系プローブ合成法
A−2.[11C]メチルトリフレート法
(石渡
喜一)
下記の反応スキームにより合成する。
11
CH3
H
N
N
CO2CH3
11CH OTf
3
H
F
CO2CH3
H
Acetone
H
F
H
[使用試薬]
[11C]メチルトリフレート
2——Carbomethoxy—3——(4—fluorophenyl)nortropane
アセトン特級試薬
[方法]
2——Carbomethoxy—3——(4—fluorophenyl)nortropane のアセトン溶液(1 mg/mL、0.25 mL)
に、室温下で He 気流下(30~50 mL/min)の[11C]メチルトリフレートを通して捕集する。直ち
に H2O で 2 倍希釈した HPLC 溶離液(1.3 mL)を加えて希釈し、HPLC により分離精製する。
以下の処理及び注意点は、[11C]よう化メチル法に準ずる。
[合成法の特徴と問題点]
本方法では、どちらのメチル化剤でも塩基を加えることなく高収率で−[11C]CFT が合成され
る。[11C]よう化メチルを用いる方法では 3 分程度反応する必要があるが、[11C]メチルトリフレ
ートのときはアセトン溶媒で速やかに反応が進行する。[11C]メチルトリフレートの反応でも
DMF を反応溶媒とすることもできるが、その場合は 80~120C で反応した方がよいものの、ア
セトン溶媒での反応に比べ収率が低下する。この薬剤合成における最大の問題点は、標識前駆
体の入手である。RBI 社より個人輸入するか、報告されている方法 7)に基づいて合成すること
ができるが、どちらも麻薬取り締まりに関連した諸手続をする必要がある。これに代わっては
GMP 対応した業者に依頼する方法がある。
註1) HPLC 分離では−[11C]CFT が原料の 2−−carbomethoxy−3−−(4−fluorophenyl)−
nortropane より先に溶出するが、用いるカラムや溶離液の pH やイオン強度により著
しくされるため 8)、分離条件は本条件を基準に使用するカラム毎に検討することが望ま
しい。なお、アセトン溶媒中で[11C]メチルトリフレートと反応したときは、HPLC 分
離時にアセトン溶媒に由来する大きな UV 吸収があるので注意を要する。
B.分析法
[放射化学的純度]
HPLC
i)
カラム:Finepak SIL C18-S(内径 4.6 mm X 長さ 150 mm)
、日本分光
121
溶離液:CH3CN/AcOH/30 mM AcONH4(250/1/250)
流
速:2 mL/min
検出器:UV(260 nm)、線検出器
保持時間:原料 4.1 分、目的物 5.3 分
ii)
カラム:TSKgel Super-ODS(内径 4.6 mm X 長さ 50 mm)、東ソー
溶離液:CH3CN/3% triethylamine-H3PO4(pH 2.0)(10/90)
流
速:1 mL/min
検出器:UV(260 nm)、線検出器
保持時間:目的物 3.4 分、原料 4.3 分
iii)
カラム:TSKgel ODS-140HTP(内径 2.1 mm×長さ 50 mm、2.3 m)、東ソー
溶離液:CH3CN/50 mM AcOH/50 mM AcONH4(15/42.5/42.5)
流
速:0.5 mL/min
検出器:UV、263 nm、線検出器
保持時間:原料 2.5 分、目的物 2.1 分
C.その他
[被曝線量]
全身
4.2 Sv/MBq(ほぼ同一の体内分布を示す−[11C]CIT のデータ)
参考文献
1.
Frost J.J., Rosier A.J., Reich S.G., et al.: Ann. Neurol., 34, 423–431 (1993).
2.
Rinne J.O., Sahlberg N., Ruottinen H., et al.: Neurology, 50, 152–156 (1998).
3.
Ouchi Y., Kanno T., Okada H., et al.: Ann. Neurol., 46, 723–731 (1999).
4.
Laakso A., Bergman J., Haaparanta M., et al.: Synapse, 28, 244–250 (1998).
5.
Rinne J.O., Bergman J., Ruottinen H., et al.: Synapse, 31, 119–124 (1999).
6.
Rinne J.O., Laihinen A., Nagren K., et al.: Synapse, 21, 97–103 (1995).
7.
Meltzer P.C., Liang A.Y., Brownell A.-L., et al.: J. Med. Chem., 36, 855–862 (1993).
8.
Kawamura K., Ishiwata K., Futatsubashi M., et al.: Appl. Radiat. Isot., 52, 225–228
(2000).
9.
Någren K., Halldin C., Müller L., et al.: Nucl. Med. Biol., 22, 965–970 (1995).
9-8.[11C]PE2I
(中尾
隆士)
PE2I( N−(3−iodoprop−2E−enyl)−2−carbomethoxy−3−(4−methylphenyl)−nortropane)
はフランスのツール大学によって開発されたコカイン誘導体であり 1)、−CFT や−CIT と同様
にドーパミントランスポータに対して高い親和性と選択性を有する。11C 標識体のほか
123I
で
標識した PE2I も臨床応用され、パーキンソン病などの疾患の病態研究に利用されている 2-4)。
122
9.ドーパミン神経伝達系プローブ合成法
A.合成法
下記の反応スキームにより合成する。
11
CH3I
(C4H9)4NOH/DMF
[使用試薬]
[11C]よう化メチル
PE2I acid———PharmaSynth(註1)
10% TBAOH(註2)メタノール溶液———和光純薬
無水 DMF———Aldrich (22705 -6)
局方 25%アスコルビン酸注射液
ポリソルベート 80
註1) 国内ではナード研究所より購入可能である。
註2) Tetra−n−butylammonium hydroxide
[方法]
PE2I acid(0.5~0.7 mg)を DMF(0.4 mL) に溶かし、10% TBAOH のメタノール溶液(5
L)を添加した溶液を−15C 程度に冷却し、これに N2 気流下(100 mL/min)[11C]よう化メチ
ルを通し、80C で 3 分間反応する。反応液に HPLC 分取用溶離液を加え、N2 気流によって
HPLC 用インジェクタに輸送し、分離精製する。
精製した[11C]PE2I を、ロータリエバポレーター(ナスフラスコ内に 400 L の 25%アスコル
ビン酸注射液、75 L のポリソルベート 80 及び 300 L のエタノールを含む)に分取し、減圧
下分離溶媒を除いた後、生理食塩水(10 mL)で溶解し、メンブレンフィルター(0.22 m)に
通し、無菌バイアルに捕集する(註1)。
註1) [11C]PE2I は、高比放射能、高放射能濃度で製造した場合、放射線分解を起こしやすい。
その防止のためアスコルビン酸を添加する 5)。また、ナスフラスコやメンブランフィル
ターへの吸着防止のためポリソルベート 80 などの可溶化剤も必要とする。
[合成法の特徴と問題点]
塩基(TBAOH)の量が[11C]メチル化反応に大きく影響を与えた。反応基質に対して 10 倍量
の TBAOH を用いたとき副生成物(下記 HPLC 分取条件において[11C]PE2I の直前に溶出する)
を生じた。そのため、反応基質 0.5~0.7 mg(1.2~1.6 mol)に対し 1~2 当量分の 10%TBAOH
5 L(1.9 mmol)を加えることで高収率かつ安定した製造を行っている。また、[11C]よう化メ
チル以外にも[11C]メチルトリフレートを用いた方法が報告されている 6)。[11C]メチルトリフレ
ート法では、PE2I acid(0.4~0.6 mg)、反応溶媒にアセトン(0.3 mL)、塩基として 2.5 M NaOH
(2 L、PE2I acid に対して約 3~5 倍量)が用いられ、[11C]よう化メチル法と同様に高収率で
ある。
123
[HPLC 分取条件]
カラム:Bondapak C18(内径 7.8 mm X 長さ 300 mm)、Waters
溶離液:CH3CN/10 mM HCl(40/60)
検出器:UV(254 nm)
流
速:6.0 mL/min
[11C]PE2I
PE2I acid
溶出時間:前駆体 4.0 分、目的物 7.0 分
Radioactivity
UV (254 nm)
0
2
4
6
8
10
Time (min)
B.分析法
[放射化学的純度、化学的純度]
HPLC
カラム:XBridge RP18(2.5 m、内径 3.0 mm X 長さ 50 mm)、Waters
溶離液:90% CH3CN/100 mM リン酸アンモニウム緩衝液(pH 2.1)(45/55)
検出器: UV(220 nm)、NaI(Tl)
流
速:1.0 mL/min
保持時間:前駆体 0.49 分、目的物 0.86 分
C.その他
[毒性]
ddy マウスを用いて PE2I の静脈内単回毒性試験を 1 mg/kg の用量で実施した結果、死亡例、
中毒症状はなく、体重測定、剖検においても PE2I に起因する変化は認められなかった(放医研での
試験結果)。
[被曝線量]7)
ヒト全身 PET 動態計測による。
実効線量:6.4 Sv/MBq
124
9.ドーパミン神経伝達系プローブ合成法
膀胱壁:18 Gy/MBq、腎臓:16 Gy/MBq、胃:14 Gy/MBq
全身:2.3 Gy/MBq
参考文献
1.
Guilloteau D., Emond P., Baulieu J.L., et al.: Nucl. Med. Biol., 25, 331–337 (1998).
2.
Poyot T., Conde F., Gregoire M.C., et al.: J. Cereb. Blood Flow Metab., 21, 782–792
(2001).
3.
Schwarz J., Storch A., Koch W., et al.: J. Nucl. Med., 45, 1694–1697 (2004).
4.
Prunier C., Payoux P., Guilloteau D., et al.: J. Nucl. Med., 44, 663–670 (2003).
5.
Fukumura T., Nakao R., Yamaguchi M., et al.: Appl. Radiat. Isot., 61, 1279–1287
(2004).
6.
Frédéric D., Michel B., Stéphane D., et al.: J. Label. Compd. Radiopharm., 43,
997–1004 (2000).
7. Ribeiro M.-J., Ricard M., Liévre M-A., et al.: Nucl. Med. Biol., 34, 465–470 (2007).
125
10.セロトニン神経伝達系プローブ合成法
10.セロトニン神経伝達系プローブ合成法
10-1.[11C]WAY100635 合成法
(張
明栄)
[carbonyl−11C]WAY100635 はセロトニン 5−HT1A 受容体に対する特異的な PET リガンドで
ある 1)。健常者における脳内 5−HT1A 受容体密度や薬物の 5−HT1A 受容体占有率、うつ病患者
におけるリチウムの効果や脳内 5−HT1A 受容体に対する影響との関連、未服薬の精神分裂病患
者の 5−HT1A 受容体の変化及びその臨床症状との関連などの研究に使用されている 2, 3)。
A.合成法
下記のスキームにより合成する。
O
MgCl
O
11
11
C OMgCl
11
CO2
SOCl2
OMe
N
N
N
N
WAY100634
OCH3
N
N
N
N
11
C O
[carbonyl-11 C]WAY100635
[使用試薬]
[11C]CO2
WAY100634PharmaSynth(註1)
1 M C6H11MgCl(エーテル/THF(1/1)溶液)(註2)
塩化チオニル和光純薬(註3)
トリエチルアミンAldrich
ポリソルベート 80
註1) 国内ではナード研究所より購入可能である。
127
H
C Cl
註2) N2 置換したグローブボックス内で Aldrich の 2 M エーテル溶液(256692)を Aldrich
の無水 THF(基礎技術1-3参照)により希釈する。
註3) N2 置換したグローブボックス内で塩化チオニルを Aldrich の無水 THF にて希釈し、
塩化チオニル/THF(5200 v/v)の溶液を調製する。
[方法]
ターゲット中に生成した[11C]CO2 を−190˚C 程度に冷却したステンレスチューブ(外径 1/16”、
内径 1 mm、長さ 150 cm)に捕集する。
[11C]CO2 を事前に内面を 1 M C6H11MgCl 溶液(0.2 mL)でコートしたポリエチレンチュー
ブ(外径 1/16”、内径 0.75 mm、長さ 40 cm)に–10˚C、毎分 2 mL の流速で通すことにより、
11C
複合体を製造する。その後、塩化チオニルの THF 溶液(5/200, 200 L)で回収することに
より、[carbony–11C]C6H11COCl を合成する。
WAY100634 のトリエチルアミン溶液(1.0 mg/20 L)に[carbony-11C]C6H11COCl を加え、
70˚C で 5 分間反応させる。反応液に HPLC 分取用溶離液を加え、HPLC に導入し、分離精製
する。
精製された[carbony–11C]WAY100635 を、ロータリエバポレーター(ナスフラスコ内に 75 µL
のポリソルベート 80 と 300 L のエタノールを含む)に分取し、減圧下分離溶媒を除いた後、
生理食塩水(10 mL)に溶解し、メンブレンフィルター(0.22 m)に通し、無菌バイアルに捕
集する。
[合成法の特徴と問題点]
[carbonyl–11C]WAY100635 の合成法について、現在まで one pot 法とループ法は報告されて
いる。One pot 法は操作が簡単でグリニヤル反応の効率が高いが、塩化チオニルなどのアシル
試薬が多く要すると同時に、1 回合成に必要な標識前駆体(WAY100634)が大量になる。それ
故に、反応の制御が難しく、最終製品の収率が低くなるため、この方法は多く使用されていな
い。
ループ法では、長く細いチューブに事前にグリニャール試薬を沈殿(コーティング)させる
ことによって、反応に使用されるグリニャール試薬が非常に少なく、また、[11C]CO2 との反応
効率も保持されたままである。従い、後続反応に必要なアシル試薬と標識前駆体は少量でも、
最終製品の収率及び比放射能が比較的に高い。
問題点として、通常の[11C]よう化メチルによる標識に比べ、制御がやや難しいということが
挙げられる。また、塩化チオニルなどのアシル試薬を使用するため、合成システムが傷みやす
く、入念かつ迅速なメンテランスが必要である。
[HPLC 分取条件]
カラム:ODS-AQ-324-10(内径 10 mm X 長さ 300 mm、10 m)、ワイエムシー
溶離液:CH3OH/50 mM 酢酸アンモニウム緩衝液 (pH 4.7)(70/30)
流
速:6.0 mL/min
検出器:UV(254 nm)
溶出時間:前駆体 4.5 分、目的物 9.2 分
128
[11C] WAY100635
WAY100634
10.セロトニン神経伝達系プローブ合成法
Radioactivity
UV (254 nm)
0
2
4
6
8
10
12
14
Time (min)
B.分析法
[化学的純度、放射化学的純度]
HPLC
カラム:XBridge C18(内径 3.0 mm X 長さ 50 mm、2.5 m)、Waters
溶離液:90 %CH3CN/50 mM リン酸アンモニウム緩衝液 (pH 9.3)(65/35)
流
速:0.8 mL/min
検出器:UV(268 nm)、NaI(Tl)
保持時間:前駆体 約 0.40 分、目的物 約 0.86 分
C.その他
[被曝線量]4)
ヒト全身 PET 動態計測による。
実効線量:14.1 Sy/MBq
膀胱壁:194 Gy/MBq、腎臓:34.8 Gy/MBq、子宮:9.8 Gy/MBq
全身:2.7 Gy/MBq
参考文献
1.
McCarron J., Turton D.R., Pike V.W., et al.: J. Label. Compd. Radiopharm., 38,
941–953 (1996).
2.
Pike V.W., McCarron J.A., Lammertsma A.A., et al.: Eur. J. Pharmacol., 301, R5–R7
(1996).
3.
Farde L., Ginovart N., Ito H., et al.: Psychopharmacology, 133, 196–202 (1997).
4.
Parsey R.V., Belanger M.J., Sullivan G.M., et al.: J. Nucl. Med., 46, 614–619 (2005).
129
10-2.[11C]DASB 合成法
(中尾
隆士)
[11C]DASB([11C]N,N−dimethyl−2−(2−amino−4−cyanophenylthio)benzylamine)はセロト
ニントランスポータに対して高い親和性と選択性を有する PET 用リガンドで、カナダのトロン
ト大学で開発された 1, 2)。うつ病、統合失調症などの精神疾患の病態研究やセロトニントランス
ポータ阻害薬による占有率測定への臨床研究に利用されている 3。また、わが国で初めて PET
による治験薬(duloxetine:セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害剤)の臨床用量設
定に使用されたリガンドでもある 4)。
A.合成法
下記の反応スキームにより合成する。
NH2
NH2
S
S
11CH I
3
CN
H3C
N
DMF
H
CN
H3C
N
11
CH3
[使用試薬]
[11C]よう化メチル
N−Methyl−2−(2−amino−4−cyanophenylthio)benzylamine ( MASB ) ABX ま た は
PharmaSynth(註1)
無水 DMFAldrich (22705 -6)
局方 25%アスコルビン酸注射液
註1) PhamaSynth 製の MASB は、ナード研究所より購入可能である。MASB の DMF 溶
液は冷凍庫内に保存すれば、長期にわたり繰り返し使用が可能で、2~3 ヶ月程度の使
用実績がある。
[方法]
MASB の DMF 溶液(2.5 mg/mL、0.2 mL)を–15C 程度に冷却し、これに N2 気流下(100
mL/min)[11C]よう化メチルを通し、90C で 4 分間反応させる。反応液に HPLC 分取用溶離
液を加え、窒素ガス気流によって HPLC 用インジェクタに輸送し、分離精製する。
精製した[11C]DASB を、ロータリエバポレーター(予めナスフラスコ内に 400 L の 25%ア
スコルビン酸注射液を加えておく)に分取し、減圧下で分離溶媒を除いた後、生理食塩水(10
mL) で溶解し、メンブレンフィルター(0.22 m)に通し、無菌バイアルに捕集する(註1)。
註1) [11C]DASB は、高比放射能、高放射能濃度で製造した場合、放射線分解を起こしやす
い。その防止のため、アスコルビン酸やエタノールの添加が必要である 5)。
[HPLC 分取条件]
カラム:XBridge C18(内径 10 mm X 長さ 250 mm)、Waters
130
10.セロトニン神経伝達系プローブ合成法
溶離液:CH3CN/50 mM AcONH4(55/45)
検出器:UV(254 nm)
流
速:6.0 mL/min
[11C]DASB
MASB
溶出時間:前駆体 3.8 分、目的物 7.2 分
Radioactivity
UV (254 nm)
0
2
4
6
8
10
Tim e (min)
B.分析法
[放射化学的純度、化学的純度]
HPLC
カラム:XBridge RP18(2.5 m、内径 3.0 mm X 長さ 50 mm)、Waters
溶離液:90% CH3CN/50mM リン酸アンモニウム緩衝液(pH 9.3)(68/32)
検出器:NaI(Tl)、UV(225 nm)
流
速:1.0 mL/min
保持時間:前駆体 0.44 分、目的物 0.83 分
C.その他
[被曝線量]6)
ヒト全身 PET 動態計測による。
実効線量: 7.0 Sy/MBq
膀胱壁:44.3 Gy/MBq、腎臓:34.3 Gy/MBq、胆嚢壁:34.3 Gy/MBq
全身:10.2 Gy/MBq
参考文献
1.
Houle S., Ginovart N., Hussey D., et al.: Eur. J. Nucl. Med., 27, 1719–1722 (2000).
2.
Wilson A.A., Houle S.: J. Label. Compd. Radiopharm., 42, 1277–1288 (1999).
3.
Meyer J.H., Wilson A.A., Ginovart N., et al.: Am. J. Psychiatry, 158, 1843–1849 (2001).
131
4.
Takano A., Suzuki K., Kosaka J., et al.: Psychopharmacology, 185, 395–399 (2006).
5.
Fukumura T., Nakao R., Yamaguchi M., et al.: Appl. Radiat. Isot., 61, 1279–1287
(2004).
6.
Lu J.Q., Ichise M., Liow J.S., et al..: J. Nucl. Med., 45, 1555–1559 (2004).
132
11.アセチルコリン神経伝達系プローブ合成法
11.アセチルコリン神経伝達系プローブ合成法
11-1.(+)N-[11C]メチル-3-ピペリジルベンジレート合成法
(+)N−メチル−3−ピペリジルベンジレート(3NMPB)は QNB に構造類似のムスカリン受容
体の拮抗薬である。ムスカリン受容体の PET 診断に使われてきた[11C]トロパニルベンジレート
や(+)N−[11C]メチル−4−ピペリジルベンジレート([11C]4NMPB)は、受容体への親和性やや強
く PET 測定内に脳内で平衡状態に達しないため、定量に限界があるとされている 1)。これらに
比べて 3NMPB の受容体への親和性は低いことが知られており
2) 、この特性を利用して、
[11C]3NMPB はヒトでのムスカリン受容体の定量的測定に用いられている。
A−1.[11C]よう化メチル法
(高橋
和弘)
下記のスキームにより合成する 3)。
11CH I
3
CO2
OH
N
H
DMF
CO2
OH
N
11
CH3
[使用試薬]
[11C]よう化メチル
(+)3−ピペリジルベンジレート(註1)
DMF特級試薬
註1) 遊離塩基を用いる。この前駆体及び 3NMPB はナードから入手可能。以下の方法でも
合成できる 1)。
(純度基準:化学的純度 99%、光学的純度 99%)
3−ピペリジノール(0.4 g、4 mmol)とベンジル酸メチル(1.0 g、4 mmol)をベン
ゼン(30 mL)に溶解し、ナトリウムメトキサイド(20 mg) を加え、3 時間加熱環
留する。このとき、モレキュラーシーブ等を用いて生成するメタノールを除くように
工夫する。反応液を室温に冷却した後、1 N 塩酸(50 mL)を 加え、よく振盪した後、
塩酸層を分離する。塩酸層はジエチルエーテル(50 mL)で 2 回洗浄した後、28%ア
ンモニア水を加えてアルカリ性にし、ジエチルエーテル(30 mL)を加え、塩基性物
質を抽出する。ジエチルエーテル層は蒸留水で 2 回洗浄した後、ジエチルエーテル層
は無水炭酸カリウムを加え乾燥する。無水炭酸カリウムをろ過し、溶媒を留去して、
133
オイル状の残渣を得る。エーテルとヘキサンから結晶化し、結晶をろ取し、乾燥させ
て 0.5 g(収率 40%)の 3-ピペリジルベンジレートを得る。
光学活性の(+)3-ピペリジルベンジレートは、下記の HPLC 条件を用いて光学分割し
て得る。
光学分割 HPLC
カラム:キラルセル OJ カラム (内径 4.6 X 長さ 250 mm) 、ダイセル化学
溶離液:Hexane/EtOH(80/20)
流
速:0.5 mL/min
検出器:UV(254 nm)
保持時間:(−)体 16.8 分、(+)体 27.0 分
[方法]
(+)3−ピペリジルベンジレートの DMF 溶液(1 mg/mL、0.5 mL)(註1)を–20C 程度に冷
却し、これに He 気流下(150 mL/min)[11C]よう化メチルを通して捕集する。80C で 5 分間
反応させた後、反応液を HPLC に導入し、分離精製する。
溶出された[11C]3NMPB 画分は、ロータリエバポレーターのフラスコに分取し、溶媒を除い
た後、生理食塩水に溶解し、メンブランフィルター(0.22 m)を通して無菌バイアルに捕集す
る。
註1) 本品は冷蔵保存下で 3 ヶ月程度の利用が可能である。
A−2.[11C]メチルトリフレート法
(石渡
喜一)
下記の反応スキームにより合成する。
11CH OTf
3
CO2
OH
N
H
Acetone
CO2
OH
N
11
CH3
[使用試薬]
[11C]メチルトリフレート
(+)3−ピペリジルベンジレート
アセトン特級試薬
DMF特級試薬
[方法]
(+)3−ピペリジルベンジレートのアセトンあるいは DMF 溶液(1 mg/mL、0.25~0.5 mL)に、
He 気流下(30 mL/min)[11C]メチルトリフレートを通して捕集する。直ちに反応液に H2O で
2 倍希釈した HPLC 溶離液を加えて希釈し、HPLC により分離精製する。
134
11.アセチルコリン神経伝達系プローブ合成法
以下の処理は、[11C]よう化メチル法に準ずる。
[合成法の特長と問題点]
本方法では、遊離塩基型の(+)3−ピペリジルベンジレートを前駆体として用いており、[11C]
よう化メチルにより高収率で[11C]3NMPB が合成される。塩酸塩型等を前駆体とする反応は検
討されていない。また、[11C]メチルトリフレートを用いる方法では、アセトンと DMF では溶
媒にほとんど影響されず、反応は速やかに進行する。
[HPLC 分取条件]
HPLC
i)
カラム:Bondapak C18 セミ分取用(内径 7.8 mm X 長さ 300 mm)、Waters
溶離液:CH3CN/100 mM AcONa/AcOH(300/700/1)
流
速:7.0 mL/min
検出器:UV(254 nm)
保持時間:原料 8.0 分、目的物 10.5 分
ii)
カラム:YMC Pack ODS-A(内径 10 mm X 長さ 150 mm)、ワイエムシー
溶離液:CH3CN/0.1 M AcONa/AcOH(350/650/1)
流
速:5 mL/min
検出器:UV(260 nm)、線検出器
保持時間:原料 6.5 分、目的物 7.5 分
150
100
UV absorption
Radioactivities
50
0
0
5
10
15
Elution time (min)
B.分析法
[放射化学的純度]
HPLC
i)
カラム:Inertsil ODS2(内径 4.6 mm X 250 mm)、GL サイエンス
溶離液:CH3CN/AcOH/100 mM AcONH4(500/1/500)
流
速:2.0 mL/min
検出器:UV(254 nm)
135
保持時間:原料 2.1 分、目的物 2.7 分
ii)
カラム:TSKgel Super-ODS(内径 4.6 mm X 長さ 50 mm)、東ソー
溶離液:CH3CN/50 mM HCO2NH4(3/7)
速:1 mL/min
流
検出器:UV(260 nm)、線検出器
保持時間:原料 1.7 分、目的物 2.5 分
C.その他
[毒性]
LD50(静注)
、マウス:50 mg/kg4)
[被曝線量]
臓器
線量(Gy/MBq)
臓器
線量(Gy/MBq)
脳
18.4
肺
11.5
肝臓
12.3
脾臓
6.3
腎臓
12.1
卵巣
4.3
全身、5.31 Sv/MBq5)(MIRD 法、ICRP1977 年勧告に基づき算出)
参考文献
1.
Koeppe R.A., Frey, K.A., Mulholland G.K., et al.: J. Cereb. Blood Flow Metab., 14,
85–99 (1994).
2.
Baumgold J., Abood L.G., Aronstam R.: Brain Res., 124, 331–340 (1977).
3.
Takahashi K., Murakami M., Miura S., et al.: Appl. Radiat. Isot., 50, 521–525 (1999).
4.
Jovic R., Milosevic M.: Eur. J. Pharmacol., 12, 85–93 (1970).
5.
秋田脳研サイクロトロン産生放射性薬剤品質管理基準.
11-2.N-[11C]メチル-4-ピペリジルアセテート合成法
(入江
俊章)
N−[11C]メチル−4−ピペリジルアセテート([11C]MP4A)は、中枢におけるコリン神経伝達物
質であるアセチルコリン(ACh)の分解酵素、アセチルコリンエステラーゼ(AChE)、の活性
測定を目的として、放医研において新規デザイン、開発されたアセチルコリン類似の化学構造
を有す放射薬剤である。本放射薬剤は脳血液関門を容易に透過し、脳組織において AChE によ
り特異的に加水分解代謝を受け、生成した標識代謝物は脳組織内に比較的長く滞留し、一方未
代謝体は速やかに脳組織から流出する特性を有する 1-2)。1996 年秋に本放射薬剤の PET 臨床応
用が開始されている。3-5)
136
11.アセチルコリン神経伝達系プローブ合成法
A.合成法
下記の反応スキームにより合成する。
O
O
H
O
C
CH3
+
11
CH3I
H311C
N
O
C
CH3
N
[使用試薬]
[11C]よう化メチル
4−ピペリジルアセテート(P4A)(註1)
無水 DMFAldrich (27,685-5)
註1) 4−Hydroxypiperidine 塩酸塩を acetyl chloride によりアセチル化した後、カラムクロ
マトグラフィにより精製、これをジクロロメタン溶液中でアンモニアガスにて脱塩し
て製す。(NMR 及び元素分析により同定)
[方法]
P4A の DMF 溶液(3.6 mg/mL、0.3 mL)
(註1)を–15C 程度に冷却し、これに N2 気流下
(100 mL/min)[11C]よう化メチルを通し、70C で 3 分間 P4A と反応させた後、反応液を HPLC
注入容器に N2 気流下移送する。その後 HPLC に導入し、分離を行う。
[11C]MP4A を含むフラクション液はロータリエバポレーターに分取され、溶媒を留去した後、
生理食塩水(8 mL)に溶解し、メンブレンフィルター(0.22 m)を通し、無菌バイアルに捕
集する。
註 1) P4A の DMF 溶液は冷蔵庫内に保存すれば、長期にわたり繰り返し利用が可能であり、
2~3 ケ月程度の使用実績がある。
[HPLC 分取条件]
HPLC
カラム:Megapak SIL C18(内径 7.5 mm X 長さ 250 mm)、日本分光
溶離液:CH3CN/3 mM AcONH4(pH 4.9)(20/80)
流
速:6.0 mL/min
検出器:UV(254 nm)、放射能検出器(註 1)
保持時間:原料 5.0 分、目的物 8.5 分
註 1) 目的物である MP4A 及び標識前駆基質である P4A はともに UV による検出ができない
ため、放射能検出器をモニターによるとして分取を行っている。なお、質量分析計を
用いた試験によって、本分離条件での P4A の溶出時間は、約 5 分であることが確認さ
れている。
137
11C-MP4A
RI
UV(254 nm)
0
5
10
elapsed time(min)
B.分析法
[放射化学的純度]
HPLC
カラム:XBridge RP18(2.5 m、内径 3.0 mm X 長さ 50 mm)、Waters
溶離液:90% CH3CN/50 mM リン酸アンモニウム緩衝液(pH 9.3)(14/86)
流
速:1.0 mL/min
検出器:UV(210 nm)、放射能検出器
保持時間:前駆体 0.35 分、目的物 0.86 分
C.その他
[毒性]
MP4A 塩酸塩の生理食塩水溶液(0.1%)10 mg/kg を Jcl 雄性マウス(5 匹)の尾静脈より、
単回静脈内投与し、7 日間にわたって、生死の観察を行った結果、死亡例は認められず、剖検
においても特記すべき変化は見られなかった。この値は、37 GBq/mol の比放射能で標識した
[11C]MP4A を体重 60 kg のヒトに 740 MBq(20 mCi)投与するものと仮定すると、少なくと
も 15.5104 倍以上の安全係数を有していることを示しており、毒性的には問題がないと考えら
れる。なお、[11C]MP4A 注射液には、極微量の標識前駆体の混入が予想されるため、標識前駆
体 P4A(10 mg/kg)についても同様の試験を行った結果、死亡例は認められなかった。この値
は、規格の混入量(10 µg/370 MBq)から推算すると、少なくとも 3104 倍以上の安全係数を
有していることになる。
[被曝線量]7)
ヒト全身 PET 動態計測による。
実効線量:4.2 Sv/MBq
膀胱壁:18.6 Gy/MBq、腎臓:13.7 Gy/MBq、肝臓:7.8 Gy/MBq
全身:2.8 Gy/MBq
138
11.アセチルコリン神経伝達系プローブ合成法
参考文献
1.
Irie T., Fukushi K., Akimoto Y., et al.: Nucl. Med. Biol., 21, 801–808 (1994).
2.
Irie T., Fukushi, K., Namba H., et al.: J. Nucl. Med., 37, 649–655 (1996).
3.
Iyo M., Namba H., Fukushi K., et al.: Lancet, 349, 1805–1809 (1997).
4.
Namba H., Iyo M., Shinotoh H., et al.: Lancet, 351, 881–882 (1998).
5.
Namba H., Iyo M., Fukushi K., et al.: Eur. J. Nucl. Med., 26, 135–143 (1999).
6.
Shinotoh H., Namba H., Yamaguchi M., et al.: Ann. Neurol., 46, 62–69 (1999).
7.
Virta J.R., Tolvanen T., Någren K., et al.: J. Nucl. Med, 49, 347–353 (2008).
11-3.[11C]ドネペジル合成法
ドネペジルはアセチルコリンの分解酵素であるアセチルコリンエステラーゼを阻害すること
により、アセチルコリン作動性神経細胞の機能を活性化する抗認知症薬として、広く臨床に使
用されている。[11C]ドネペジルはアセチルコリンエステラーゼの脳局所の分布や活性を評価す
る。従って、[11C]ドネペジルはアセチルコリン作動性神経細胞の神経伝達異常が疑われる患者、
アルツハイマー型認知症などの患者の、アセチルコリン系神経機能を定量診断することを目的
として使用される。
A-1.[11C]メチルトリフレートによるループ法
(船木
善仁)
下記の反応スキームにより合成する。
CH3O
O
11CH OTf
3
N
HO
TBAH
2-Butanone
CH3O
11
O
N
CH3O
[使用試薬]
[11C]メチルトリフレート
5−デメチルドネペジル(註1)———ナード研究所
2−Butanone(MEK)——— Aldrich(270695)
Tetra−n−butylammonium hydroxide(TBAOH)——— Aldrich(230189)(註2)
局方 25%アスコルビン酸溶液———扶桑薬品
註1) 1−Benzyl−4− (5−hydroxy−6−methoxy−1−indanon−2−yl)methylpiperidine
註2) 1.0 M のメタノール溶液である。
[方法]
5-デメチルドネペジル(約 1 mg)を含むバイアルに MEK(60 µL)を加え混和する。ここ
に TBAOH(4 µL)を加え溶解する(註1)。pH 試験紙にてこの反応液がアルカリ(pH 9 以
上)であることを確認後反応ループに注入し、He 気流下(50 mL/min)[11C]メチルトリフレ
ートを通し、これを捕集する(註2)。反応溶液を固相抽出カラムで濃縮し(註3)、HPLC イ
139
ンジェクターに導入の後、分取カラムで分離精製する。その分取液に蒸留水(30 mL)を加え、
Sep-Pak Plus tC18 に通して目的物を捕集分離する(註4)
。エタノールで捕集物を溶出し、ロ
ータリエバポレーターでエタノールを留去する(註5)。生理食塩水を加えて残渣を溶かし、メ
ンブレンフィルターを通して無菌バイアルに捕集する。
註1) 5−デメチルドネペジルは MEK には溶けにくいが、TBAOH を添加すると容易に溶解
する。
註2) 1-6ループ標識法を参照。
註3) 1−7分取 HPLC カラムへの反応液自動注入法を参照。
註4) 1−8HPLC 分離精製物の固相抽出調製法を参照。
註5) 放射線分解を抑制させるため、留去前に注射用アスコルビン酸(0.2 mL)を加えてお
く。
[HPLC 分取条件]
カラム:YMC ODS A-324(内径 10 mm X 長さ 300 mm)、ワイエムシー
溶離液:CH3CN/50 mM HCO2NH4 (35/65)
流
速:5 mL/min
検出器:UV(254 nm)、γ線検出器
保持時間:8~9 分
60
40
RI
UV
20
0
0
5
10
Elution time (min)
A-2.[11C]メチルトリフレートによる液相法
(石渡
下記の反応スキームにより合成する。
CH3O
O
11CH OTf
3
N
HO
NaOH
Acetone
140
CH3O
11
CH3O
O
N
喜一)
11.アセチルコリン神経伝達系プローブ合成法
[使用試薬]
[11C]メチルトリフレート
5−デメチルドネペジル
アセトン———試薬特級
水酸化ナトリウム———試薬特級
局方 25%アスコルビン酸溶液
[方法]
1 M NaOH(5 L)を含む 5−デメチルドネペジルのアセトン溶液(1 mg/mL、0.25 mL)
(註
1)に、室温下で He 気流下(30~50 mL/min)[11C]メチルトリフレートを通して捕集する。直
ちに反応液に H2O で 2 倍希釈した HPLC 溶離液(1.3 mL)を加えて希釈し、HPLC により分
離精製する。
以下の処理及び注意点は、A−1に準ずる。
註1) 5−デメチルドネペジルのアセトン溶液は、数ヶ月は室温で保存して使用することがで
きる。
B.分析法
[放射化学的純度]
HPLC
カラム:TSK-gel ODS 80(内径 8 mm X 長さ 150 mm)、東ソー
溶離液:CH3CN/100 mM HCO2NH4 (30/70)
流
速:2 mL/min
検出器:UV(254 nm)、γ線検出器
保持時間:7 分
C.その他
[毒性]
マウス(♂)での LD50(i.v.)は 3.7 mg/kg である。
[被曝線量]
370 MBq(10 mCi)の[11C]ドネペジルを投与したと仮定した場合、吸収線量の一番高かった
肺において 2.15 mGy となり、FDA によって規定された吸収線量の限界値である 50 mGy を大
きく下回っている値となる。また、実効線量等量は 0.76 mSv となり、FDA の規定値 30 mSv
を下回る。
臓器
線量(µGy/MBq)
臓器
線量(µGy/MBq)
脳
1.51
上方大腸壁
0.97
甲状腺
0.80
下方大腸壁
0.77
胸腺
0.92
副腎
1.29
胸
0.79
腎臓
5.01
141
臓器
線量(µGy/MBq)
臓器
線量(µGy/MBq)
心臓
2.29
精巣
0.93
肺
5.82
卵巣
0.91
肝臓
5.18
子宮
0.91
膵臓
4.74
膀胱壁
0.74
脾臓
3.88
骨
0.86
胃壁
0.98
骨髄
0.87
小腸壁
1.56
筋肉
0.81
全身の実効線量当量は 2.06 µSv/MBq(MIRD 法を用いて算出)2)
参考文献
1.
Funaki Y., Kato M., Iwata R., et al.: J. Pharmacol. Sci., 91, 105–112 (2003).
2.
東北大学サイクロトロン製造放射性薬剤品質管理基準
142
12.ベンゾジアゼピン受容体プローブ合成法
12.ベンゾジアゼピン受容体プローブ合成法
12-1.[11C]フルマゼニル(Ro15-1788)合成法
フルマゼニルはスイスの Roche 社により開発された強力なベンゾジアゼピン拮抗薬であり、
ベンゾジアゼピン受容体の分布に対応した特異的な脳内局所分布を示すことが報告されている。
[11C]フ ル マ ゼ ニ ル についてもその標識合成法やヒトでの PET によるベンゾジアゼピン受容
体の測定が報告されている 1-3)。
A-1.[11C]よう化メチル法
(鈴木
和年)
下記の反応スキームにより合成する 3,4)。
N
COOC2H5
N
O
N
11CH I
3
NaH/DMF
N
F
N
H
COOC2H5
N
F
11
O
CH3
[使用試薬]
[11C]よう化メチル
Demethyl Ro15-1788(Ro 15-5528)———Roche 社提供品、ABX 製
無水 DMF———Aldrich(22705-6)(註1)
NaH ———和光純薬(7646-69-7)(註2)
註1) 乾燥 N2 で置換した褐色バイアル瓶に小分けして使用する。
註2) 無水ヘキサンで数回洗浄し、減圧乾燥した後無水 DMF を加える(~0.2 g NaH/1 mL
DMF)。使用時にはよく撹拌する。
[方法]
Demethyl Ro15-1788 の DMF 溶液(1 mg/mL、0.4 mL)
(註1)に NaH の DMF 溶液(10
L、1 mg 程度の NaH を含む)を加え、–15C 程度に冷却し、これに N2 気流下(100 mL/min)
[11C]よう化メチルを通し、捕集する。
50C で 1 分間反応させた後、反応液を HPLC 注入用容器(註2)に窒素気流下移送する。
注射用蒸留水(0.5 mL)で反応容器、輸送ラインを洗浄し、反応液と混合した後、HPLC に導
入し、分離精製する。
精製された[11C]フ ル マ ゼ ニ ル は、ロータリエバポレーターのフラスコに分取し、溶媒を除
143
いた後、生理食塩水(11 mL)に溶解し、メンブレンフィルターを通して無菌バイアルに捕集
する。この化合物は比較的安定で、調製後 1 時間以上にわたり 95%以上の放射化学純度を保っ
ていた。
註1) 本品についてもスピペロンの DMF 溶液と同様、1 ヵ月程度の利用は可能と思われるが
まだその実績はない。
註2) [11C]メチルスピペロンの項参照。
[HPLC 分取条件]
カラム: Megapak SIL C18-10(内径 10 mm X 長さ 250 mm)、日本分光製
溶離液: CH3CN/6 mM H3PO4(160/340)
流
速: 6 mL/min
検出器: UV(254 nm)
[11C]Ro15-1788
Ro15-5528
溶出時間: 原料 5 分;目的物 8 分
UV
RI
0
5
10
Elapsed Time (min)
A-2.[11C]メチルトリフレート法
(石渡
喜一)
下記の反応スキームにより合成する。
N
N
O
N
11CH OTf
3
NaOH/acetone
N
F
N
COOC2H5
H
N
F
11
O
[使用試薬]
[11C]メチルトリフレート
デメチル Ro15-1788(Ro 15-5528)———ABX 製
アセトン特級試薬
水酸化ナトリウム特級試薬
144
COOC2H5
CH3
12.ベンゾジアゼピン受容体プローブ合成法
[方法]
0.2 M NaOH(5 L)を含むデメチル Ro15-1788 のアセトン溶液(0.5 mg/mL、0.25 mL)
(註1)に、室温下で He 気流下(30 mL/min)[11C]メチルトリフレートを通して捕集する。
直ちに反応液に H2O で 2 倍希釈した HPLC 溶璃液(1.3 mL)を加えて希釈し、HPLC により
分離精製する。
以下の処理及び注意点は、[11C]よう化メチル法に準ずる。
註1) デメチル Ro15-1788 のアセトン溶液は、数ヶ月は室温で保存して使用することができ
る。但し、保存中に針状結晶が析出してくるので、使用前に加熱して再溶解する。な
お、粉末状のデメチル Ro15-1788 はアセトンに 1 mg/mL 程度までは溶ける。
[合成法の特徴と問題点]
[11C]よう化メチル法及び[11C]メチルトリフレート法ともに極めて高収率で[11C]フ ル マ ゼ
ニ ル を 合成できる。しかし、前者では、NaH が過剰の時、また、NaH 添加後からメチル化反
応までの時間が長くなると、デメチル Ro15-1788 が徐々に分解して、収率の低下をきたす。一
方、後者では、無水性を気にすることなく、デメチル Ro15-1788 に対して 1 当量以上の NaOH
が必要であるが、大過剰の NaOH 存在下では収率が多少低下する傾向がみられた。
B.分析法
[放射化学的純度]
HPLC
i)
カラム:Finepak SIL C18S(5 m、内径 4.6 mm X 長さ 150 mm)、日本分光
溶離液:CH3CN/AcOH /100 mM AcONH4(250/1/250)
流
速:2 mL/min
検出器:UV(254 nm)、線検出器
保持時間:原料 1.2 分;目的物 1.5 分
ii)
カラム:TSKgel ODS-140HTP(内径 2.1 mm×長さ 50 mm、2.3 m)、東ソー
溶離液:CH3CN/50 mM AcOH/50 mM AcONH4 (20/40/40)
流
速:0.5 mL/min
検出器:UV、260 nm、線検出器
保持時間:原料 1.1 分;目的物 1.6 分
C.その他
[毒性]
LD50(静注)
、 マウス:100~300 mg/kg
ラット:100~1,000 mg/kg
145
[被曝線量]4)
臓器
線量(Gy/MBq)
臓器
線量(Gy/MBq)
小腸壁
21
生殖腺
2.4
膀胱
14
甲状腺
1.6
腎臓
3.3
骨表面
1.3
肝臓
2.6
肺
1.2
参考文献
1.
Wagner H.N., Burn H.D., Dannals R.F., et al.: Science, 221, 1264–1266 (1983).
2.
Maziere M., Hantraye P., Prenant C., et al.: Appl. Radiat. Isot., 35, 973–976 (1984).
3.
Suzuki K., Inoue O., Hashimoto K., et al.: Int. J. Appl. Radiat. Isot., 36, 971–976
(1985).
4.
放射線医学総合研究所サイクロトロン製造放射薬剤品質管理基準
12-2.[11C]PK11195 合成法
PK11195((2−chlorophenyl)−N−methyl−(1−methylpropyl)−3−isoquino1inecarboxamide)
は Rhone Poulenc Sante 社により開発された薬物である。PK11195 は心筋,肺,副腎,唾液
線,グリア細胞に高密度に存在する末梢性ベンゾジアゼピン受容体と特異的に結合するアンタ
ゴニストであると考えられている。
[11C]PK11195 は 1983 年仏のフレデリックジュリオ研究所で標識合成され、心筋イメ一ジン
グ剤として臨床研究が開始され、その後種々の研究機関で利用されてきた
1)。当初は脳腫瘍の
イメージングに用いられたが 2)、光学活性体((R)体)開発に伴い 3)神経変成疾患、脳梗塞等の
イメージングに用いられるようになってきた 4)。
A-1.NaOH 法
(籏野
下記の反応スキームにより合成する。
O
O
N
H
N
N
11
Cl
CH3I
NaOH/DMSO
[使用試薬]
[11C]よう化メチル(註1)
146
N
11
Cl
CH3
健太郎)
12.ベンゾジアゼピン受容体プローブ合成法
デメチル(R)PK11195ABX(160.0001)
無水 DMSOAldrich(27,685-5)
水酸化ナトリウムSigma(S-8045)
ポリソルベート 80特級 polyoxyethylene(20) sorbitan monooleate
(和光純薬
164-15741)
註1) 本法は LiALH4 法による[11C]よう化メチルについてのみ検証されている。
[方法]
水酸化ナトリウムの DMSO 懸濁液を調製する。適当なガラスバイアルを攪拌回転子、ガラス
ビーズ(2.5 mm, BioSpec Products, Bartlesville, OK, USA)とともに乾熱滅菌する。窒素置
換したグローブボックス中で水酸化ナトリウムペレット1片(100 mg 程度)を加え、密栓する。
ここに無水 DMSO を加えペレットが崩れるまで攪拌する(註1)。
デメチル PK11195(1 mg)を含むバイアルに上記の懸濁液(0.3 mL)を加え溶解する。室
温にて、これに N2 気流下(100 mL/min)[11C]よう化メチルを通し、100ºC で 4 分間反応させ
る。反応液は N2 気流下 HPLC 用インジェクタに輸送し、分離精製する。[11C]PK11195 を含む
分画はロータリエバポレーターに導入し、減圧下分離溶媒を除いた後、注射用生理食塩水(510
mL )にて溶解する。(註2)メンブレンフィルタ(0.22 µm)に通し、無菌バイアルに捕集
する。(註3)
註1) 1週間程度か?ガラスビーズを用いることでペレットの崩壊を早めることが出来る。
この懸濁液は半年程度有効である。報告 3)では水酸化カリウムの DMSO 懸濁液を用い
ているが、どちらの塩基でも同様に合成できると考えられる。
註2) 0.25%ポリソルベート 80 を含む。
註3) Millex-GV(ミリポア)フィルタを用いると吸着が少なく良好である。
[合成法の特長と問題点]
安定した収率で成績体が得られる。しかし、同様の方法で[11C]メチルトリフレートを使用し
たときは、無効であった(石渡、未発表データ)。
[HPLC 分取条件]
カラム:CAPCELL PAK C-18 UG120(内径 20 mm X 長さ 250 mm)、資生堂
溶離液:CH3CN/H2O(72/28)
流
速:10 mL/min
検出器:UV(235 nm)、放射能検出器
保持時間:原料 16 分、目的物 13 分
147
A-2.KOH 法
(西山
新吾、加藤
O
Cl
周作)
O
N
H
N
孝一、田沢
N
11
CH3I
N
KOH/DMSO
11
CH3
Cl
[使用試薬]
[11C]よう化メチル
デメチル(R)PK11195ABX(1600.0001)
無水 DMSOAldrich(276855-100ML)
水酸化カリウム(試薬特級)和光純薬(168-21815)(註1)
ポリソルベート 80(日本薬局方)和光純薬(169-22722)
プロピレングリコール(日本薬局方)丸石製薬
註1) ペレット状の水酸化カリウムを乳鉢ですりつぶし、粉末状態でデシケーターに保存す
る。吸湿し、秤量しにくくなった場合は、再調製する。
[方法]
デメチル PK11195(1 mg)と水酸化カリウム粉末(2 mg)を同じバイアルに天秤で量りと
り、セプタム等で密栓しておく。合成を開始する直前に、無水 DMSO(0.3 mL)を加え、水が
入らない様に約 10 秒間超音波をかける。デメチル PK11195 と水酸化カリウムが溶解した溶液
を、合成準備が終了した反応容器へ移す(註1)。
室温にて、これに N2 気流下(50 mL/min)[11C]よう化メチルを通し、100˚C で 4 分間反応
させる。反応液は窒素ガス気流下 HPLC 用インジェクタに輸送し、分離精製する。
148
12.ベンゾジアゼピン受容体プローブ合成法
[11C]PK11195 を含む分画はロータリエバポレーターに導入し、減圧下分離溶媒を除いた後、
注射用生理食塩液(10 mL、1%ポリソルベート 80 および 9%プロピレングリコールを含む)に
溶解する。その後、メンブレンフィルター(ミリポア製 Millex-GV 0.22 m)に通し、滅菌バ
イアルに捕集する。
註1) 溶解しない水酸化カリウム粉末(大きい粒)は必ずしも移す必要はない。
[合成法の特長と問題点]
安定した収率で成績体が得られる。反応溶媒として DMF を使用した場合には目的物は得ら
れなかった。
[HPLC 分取条件]
カラム:COSMOSIL 5C18-AR-Ⅱ(内径 10 mm X 長さ 250 mm)、ナカライテスク
溶離液:CH3CN/H2O(70/30)
流
速:6 mL/min
検出器:UV、235 nm、放射能検出器
保持時間:原料 8 分、目的物 6 分
B.分析法
[放射化学的純度]
HPLC
i)
カラム:CAPCELL PAK C-18 UG120(内径 4.6 mm X 250 mm)、資生堂
溶離液:CH3CN/H2O(65/35)
流
速:1 mL/min
検出器:UV(215 nm)、放射能検出器
保持時間:目的物 9.3 分
ii)
カラム:COSMOSIL 5C18-AR-Ⅱ(内径 4.6 mm X 長さ 100 mm)、ナカライテスク
149
溶離液:CH3CN/H2O(65/35)
流
速:2 mL/min
検出器:UV、215 nm、放射能検出器
保持時間:目的物 2 分
C.その他
[毒性]
PK11195 は水に難溶性のため、その物自体の静脈内投与による LD50 値は溶剤による影響の
ため求めることはできないが、腹腔内投与でのマウスにおける LD50 値は約 1600 mg/kg である。
また、ビーグル犬において 1 mL(2.5 mg)/kg/day を 15 日間投与した実験報告では、主要臓
器における病理所見には何ら異常を認めなかった、と報告されている(Rhone・Poulenc Sante
社資料)。
37 GBq(1 Ci)/mo1 の比放射能で標識した 370 MBq(10 mCi)の[11C]PK11195 を体重 60
kg のヒトに投与したと仮定すると 10,000,000 倍以上の安全係数を有する事となり、毒性上問
題は無いと考えられる。
最終薬剤 0.2 mL を ddY マウスに投与し、投与直後および 4 日間にわたって生死・中毒症の
観察を行なった(1 群 10 匹)。その結果、死亡例は認められず、また何らの中毒症状も認めら
れなかった。
[被曝線量]
ヒト全身 PET 動態計測による。
線量データ15)
実効線量:5.1 Sv/MBq
腎臓:14.0 Gy/MBq、脾臓:12.5 Gy/MBq、小腸:12.2 Gy/MBq
全身:2.8 Gy/MBq
線量データ26)
実効線量当量:4.6 Sv/MBq
膀胱壁:12.0 Gy/MBq、腎臓:11.4 Gy/MBq、胆嚢壁:8.0 Gy/MBq
全身:2.8 Gy/MBq
参考文献
1.
Camsonne R., Crouzel C., Comar D., et al.: J. Label. Compd. Radiopharm., 21, 985–991
(1984).
2.
Roelcke U.J. : Neurooncol., 22, 275–9 (1994).
3.
Shah F., Hume S. P., Pike V. W., et al.: Nucl. Med. Biol., 21, 573–581 (1994).
4.
Banati R.B.: Glia, 40, 206–217 (2002).
5.
Hirvonen J., Roivainen A., Virta J., et al.: Eur. J. Nucl. Med. Mol. Imaging, 37, 606–612
(2010).
6.
Kumar A., Muzik O., Chugani D., et al.: J. Nucl. Med., 51, 139–144 (2010).
150
13.その他の神経伝達系プローブ合成
13.その他の神経伝達系プローブ合成法
13-1.[11C]ドキセピン合成法
ドキセピンは三環系抗うつ薬であり、様々な病気の治療薬として用いられている。11C−標識
された[11C]ドキセピンはヒスタミン作動性神経細胞におけるシナプス後膜にあるヒスタミン
H1 受容体に結合し、脳内のヒスタミン H1 受容体測定の放射性薬剤として利用される 1)。
A-1.[11C]メチルトリフレートによるループ合成法
(加藤
元久)
下記の反応スキームにより合成する。
11
H
N
CH3
CH3
N
11CH OTf
3
CH3
NaOH/2-butanone
O
O
[使用試薬]
[11C]メチルトリフレート
NordoxepinHCl ———Sigma(N-0392)
1.2 M NaOH ———試薬特級
2−Butanone(MEK)——— Aldrich(270695)
局方 25%アスコルビン酸注射液———扶桑薬品
[方法]
NordoxepinHCl(約 1 mg)を MEK(60 L)に溶かし、これに 1.2 M NaOH(2 L)を加
える。pH 試験紙を用いてこの反応溶液がアルカリ(pH 9 以上)であることを確認する。反応
溶液を反応ループに注入し、He 気流下(50 mL/min)[11C]メチルトリフレートを通し、これ
に捕集する(註 1)。反応溶液を固相抽出カラムで濃縮し(註2)、HPLC インジェクターに導
入の後、分取カラムで分離精製する。その分取液に蒸留水(30 mL)を加え、Sep-Pak Plus tC18
に通して目的物を捕集分離する(註3)。エタノールで捕集物を溶出し、ロータリエバポレータ
ーでエタノールを留去する(註4)
。生理食塩水を加えて残渣を溶かし、メンブレンフィルター
を通して無菌バイアルに捕集する。
註1) 1-6オンカラム標識法とループ標識法のループ標識法を参照。
註2) 1-7分取 HPLC カラムへの反応液自動注入法の固相抽出カラム濃縮法を参照。
151
註3) 1-8HPLC 分離精製物の固相抽出調製法を参照。
註4) 放射線分解を抑制するため、留去前に 0.2 mL の注射用アスコルビン酸を加えておく。
[HPLC 分取条件]
カラム:YMC-Pack ODS-A(内径 10 mm X 長さ 250 mm)、ワイエムシー
溶離液:CH3CN/50 mM AcONH4(43/57)
速:5 mL/min
流
検出器:UV(254 nm)、放射能検出器
溶出時間:前駆体 4.5 分;目的物 9.5 分
Radioactivity
10
9
8
7
6
5
4
3
Nordoxepin
2
UV
Doxepin
1
0
0
3
6
9
Elution time (min)
12
15
A-2.[11C]メチルトリフレートによる液相法
(石渡
喜一)
下記の反応スキームにより合成する。
11
H
N
N
11CH OTf
3
CH3
CH3
CH3
NaOH/acetone
O
O
[使用試薬]
[11C]メチルトリフレート
NordoxepinHCl ———Sigma (N-0392)
アセトン———試薬特級
水酸化ナトリウム———試薬特級
局方 25%アスコルビン酸注射液
[方法]
1 M NaOH(10 L)を含む nordoxepinHCl のアセトン溶液(1 mg/mL、0.25 mL)(註1)
152
13.その他の神経伝達系プローブ合成
に、室温下で He 気流下(30-50 mL/min)[11C]メチルトリフレートを通して捕集する。直ちに
反応液に 1.3 mL の HPLC 溶璃液を加えて希釈し、HPLC により分離精製する。
以下の処理及び注意点は、A−1に準ずる。
註1) NordoxepinHCl のアセトン溶液は、数ヶ月は室温で保存して使用することができる。
B.分析法
[放射化学的純度]
HPLC
カラム:TSK-GEL ODS-80TM(内径 8 mm X 長さ 100 mm)
、東ソー
溶離液:CH3CN/180 mM HCO2NH4(45/55)
流
速:1.5 mL/min
検出器:UV(254 nm)、放射能検出器
保持時間:7.0 分
C.その他
[急性毒性]2)
LD50 マウス:96 mol/26 mg/kg (i.v.)
ラット:59 mol 16 mg)/kg (i.v.)
(Merck Index 11th Ed.)
[被曝線量]3)
臓器
線量(Gy/MBq)
臓器
線量(Gy/MBq)
脳
18
腎臓
42
肝臓
10
腸
3.3
脾臓
51
赤髄
1.3
睾丸
0.70
膀胱壁
16
胃壁
3.1
肺臓
31
全身の線量当量は 6.9 Sv/MBq
参考文献
1.
Yanai K., Watanabe T., Yokoyama H., et al.: Neurosci. Lett., 137, 145−148 (1992).
2.
東北大学サイクロトロン製造放射性薬剤品質管理基準
3.
Nakamura T., Hayashi Y., Watabe H., et al.: Phys. Med. Biol., 43, 389−405 (1998).
13-2.[11C]SA4503 合成法
(石渡
喜一)
[11C]SA4503(1−(3,4−dimethoxyphenethyl)−4−(3−phenylpropyl)piperazine)はシグマ 1 受
153
容体に高い親和性を示すリガンドである 1-4)。シグマ 1 受容体は脳内に広く分布し、アルツハ
イマー病、認知症、鬱病、統合失調症、不安神経症等の中枢神経疾患と関連した受容体であ
ることが明らかとなり、新しい PET 診断法として期待され 5)、2000 年 6 月より臨床研究が
開始された 6-8)。また、ハロペリドールなど多くの向精神薬はシグマ受容体への親和性を有し、
これら薬剤の受容体占拠率と薬理効果の関係を PET により明らかにすることが可能になる
9-11)。
A−1.[11C]よう化メチル法
下記の反応スキームにより合成する 1)。
N
11
N
OCH3
OH
CH3 I
NaOH, DMF
N
N
OCH3
O11 CH3
[使用試薬]
[11C]よう化メチル
デ メ チ ル SA4503 ( 1−(4−hydroxy−3−methoxyphenethyl)−4−(3−phenylpropyl) piperazine
2HCl)(註1)
無水 DMFAldrich(22705-6)
NaHAldrich
註1) 合成は Fujimura らの方法による 12)。
[方法]
NaH(1-2 mg)を含むデメチル SA4503 の DMF 溶液(1 mg/mL、0.25 mL)を–15ºC に冷
却し、これに He 気流下(30-50 mL/min)[11C]よう化メチルを通して捕集する。120ºC で 1 分
間反応させた後、反応液に H2O で 2 倍希釈した HPLC 溶離液(1.3 mL)を加えて希釈し、HPLC
により分離精製する。
分離された[11C]SA4504 溶液は、ロータリエバポレーターのフラスコに分取し、溶媒を除い
た後、注射用生理食塩水に溶解する。
(註1)メンブレンフィルターを通して無菌バイアルに捕
集する。(註2)
註1) [11C]SA4503 溶液は濃縮、乾固により多少の分解が認められるが、前もってアスコルビ
ン酸(0.2 mL の 100 mg/mL の注射用アスコルビン酸水溶液)を加えておくことで分
解を抑えることができる。
註2) メンブレンフィルターには、脂溶性薬剤の吸着の少ないマイレックス GV フィルターTM
(ミリポア)などを使用する。
A−2.[11C]メチルトリフレート法
次の反応スキームにより合成する 13)。
154
13.その他の神経伝達系プローブ合成
N
11
N
OCH3
OH
CH3OTf
N
N
NaOH, DMF
OCH3
O11 CH3
[使用試薬]
[11C]メチルトリフレート
デメチル SA4503
DMF特級試薬
水酸化ナトリウム特級試薬
[方法]
NaOH(5 L)を含むデメチル SA4503 の DMF 溶液(1 mg/mL、0.25 mL)を–15ºC 冷却
し、これに He 気流下(30-50 mL/min)[11C]メチルトリフレートを通して捕集する。120ºC で
1分間反応させた後、反応液に H2O で 2 倍希釈した HPLC 溶離液(1.3 mL)を加えて希釈し、
HPLC により分離精製する。
以下の処理及び注意点は、[11C]よう化メチル法に準ずる。
[合成法の特徴と問題点]
[11C]メチルトリフレートとの反応では、通常溶媒として汎用されるアセトンへのデメチル
SA4503 の溶解度が低く、溶媒として DMF を用いた。DMF 溶媒では、室温下で[11C]メチルト
リフレートを通じただけでは、[11C]SA4503 の合成収率は低く、120℃で1分間の加熱が必要で
あった。
[HPLC 分取条件](註1)
カラム:YMC-Pack ODS-A(内径 10 mm×長さ 250 mm)、ワイエムシー
溶離液:CH3CN/50 mM AcOH/50 mM AcONH4(35/32.5/32.5)
流
速:5 mL/min
検出器:UV(280 nm)、線検出器
保持時間:原料 5.0 分、目的物 7.5 分
155
B.分析法
[放射化学的純度]
HPLC
i)
カラム:TSKgel Super-ODS(内径 4.6 mm×長さ 100 mm)
、東ソー
溶離液:CH3CN/50 mM AcOH/50 mM AcONH4(30/35/35)
流
速:1 mL/min
検出器:UV、280 nm、線検出器
保持時間:目的物 4.6 分、原料 4.2 分
ii)
カラム:TSKgel ODS-140HTP(2.1 mm×長さ 50 mm、2.3 m)、東ソー
溶離液:CH3CN/50 mM AcOH/50 mM AcONH4(25/37.5/37.5)
流
速:0.5 mL/min
検出器:UV、280 nm、線検出器
保持時間:原料 1.5 分、目的物 2.0 分
C.その他
[被曝線量]14)
ヒト全身 PET 動態計測による。
実効線量:6.9 Sv/MBq
甲状腺:24.1 Gy/MBq、脾臓:23.6 Gy/MBq、肺:22.1 Gy/MBq
全身:2.9 Gy/MBq
[急性毒性]14)
LD50:マウス雄、437 mol (193 mg)/kg (p.o.)
雌、356 mol (157 mg)/kg (p.o.)(未発表データ)
[11C]SA4503 の担体量効果を調べる実験において、SA4503 を 4 匹の雄マウスに 5 mol (2.2
mg)/kg を静脈注射したところいずれのマウスも死亡しなかった。また、[11C]SA4503 の PET
実験において、非放射体をネコに 2.3 mol (1.0 mg)/kg、サルに 1.9 mol (0.86 mg)/kg を負荷
したとき、特に異常な所見は観察されなかった。
[薬理作用]14)
SA4503 は坑健忘効果、坑うつ効果、神経保護効果を有する。
体温低下:100 mg/kg、振せん誘発:40 mg/kg、瞳孔縮小誘発:50 mg/kg など。
参考文献
1.
Kawamura K., Ishiwata K., Tajima H., et al.: Nucl. Med. Biol., 27, 255–261 (2000).
2.
Kawamura K., Ishiwata K., Shimada Y., et al.: Ann. Nucl. Med., 14, 285–292 (2000).
3.
Ishiwata K., Tsukada H., Kawamura K., et al.: Synapse, 40, 235–237 (2001).
4.
Kawamura K., Kimura Y., Tsukada H., et al.: Neurobiol. Aging, 24, 745–752 (2003).
5.
Hashimoto K., Ishiwata K.: Curr. Pharm. Design, 12, 3857–3876 (2006).
156
13.その他の神経伝達系プローブ合成
6.
Mishina M., Ishiwata K., Ishii K., et al.: Acta Neulologica, 112, 103–107 (2005).
7.
Sakata M., Kimura Y., Naganawa M., et al.: NeuroImage, 35, 1–8 (2007).
8.
Mishina M., Ohyama M., Ishii K., et al.: Ann. Nucl. Med., 22: 151–156 (2008).
9.
Ishiwata K., Oda K., Sakata M., et al.: Ann. Nucl. Med., 20, 569–573 (2006)
10. Ishikawa M., Ishiwata K., Ishii K., et al.: Biol. Psychiatry, 62, 878–883 (2007).
11. Ishikawa M., Sakata M., Ishii K., et al.:
Int. J. Neuropsychopharm., 12, 1127–1131
(2009).
12. Fujimura K., Matsumoto J., Niwa M., et al.: Bioorg. Med. Chem., 5, 1675–1683 (1997).
13. Kawamura K., Ishiwata K.: Ann. Nucl. Med., 18, 165–168 (2004).
14. 東京都健康長寿医療センター研究所附属診療所短寿命放射性薬剤臨床利用委員会資料
13-3.[11C]MPDX 合成法
(石渡
喜一)
[11C]MPDX([3−methyl−11C]8−dicyclopropylmethyl−3−methyl−1−propylxanthine)はキサ
ンチン構造を持ち、アデノシン A1 受容体に高い親和性を示すリガンドである
1,2)。アデノシン
A1 受容体は脳に広く発現しており、アルツハイマー病やてんかん等の神経変性疾患や脳虚血を
診断する薬剤として期待され 3)、2002 年 6 月より臨床研究が開始された 4,5,6)。
A.合成法
下記の反応スキームにより合成する。
O
O
H
N
HN
O
N
N
11
CH3I
NaH, DMF
H311C
O
H
N
N
N
N
C3H7
C 3H7
[使用試薬]
[11C]よう化メチル
デメチル MPDX(註1)
無水 DMFAldrich(22705-6)
NaHAldrich
註1) 8−dicyclopropylmethyl−1−propylxanthine。合成は Shimada らの方法による 6)。
[方法]
NaH(1~2 mg)を含むデメチル MPDX の DMF 溶液(1 mg/mL、0.25 mL)を–15C に冷
却し、これに He 気流下(30~50 mL/min)[11C]よう化メチルを通して捕集する。120C で 1 分間
反応させた後、反応液に 0.1 M HCl で 2 倍希釈した HPLC 溶離液(1.3 mL)を加えて希釈し、
157
HPLC により分離精製する。(註1)
註1) メンブレンフィルターには、脂溶性薬剤の吸着の少ないマイレックス GV フィルターTM
(ミリポア)などを使用する。
[合成法の特徴と問題点]
本方法では、目的の[11C]MPDX の他に少量の 7−[11C]メチル体が合成される。この 7−異性体
のアデノシン A1 受容体に対する親和性は[11C]MPDX より低いが、両者を確実に分離するため、
比較的大きめのカラムを用いている。また、DMF の無水状態の十分でないと 7−異性体の割合
は増加する。少量の NaOH を含む DMF 溶液中での[11C]メチルトリフレートとの反応でも、
[11C]MPDX は 34%の放射化学的収率で得られたが、7−[11C]メチル体の割合も 15%に達した 7)。
[HPLC 分取条件]
カラム:YMC-Pack ODS-A(内径 20 mm X 長さ 150 mm)、ワイエムシー
溶離液:CH3CN/H2O(45/55)
流
速:15 mL/min
検出器:UV(260 nm)、線検出器
保持時間:原料 5.1 分、目的物 8.0 分
B.分析法
[放射化学的純度]
HPLC
i)
カラム:TSKgel Super-ODS(内径 4.6 mm X 長さ 100 mm)
、東ソー
溶離液:CH3CN/H2O(40/60)
流
速:1 mL/min
検出器:UV(260 nm)、線検出器
保持時間:原料 2.4 分、目的物 3.8 分
ii)
カラム:TSKgel ODS-140HTP(内径 2.1 mm×長さ 50 mm、2.3 m)、東ソー
溶離液:CH3CN/H2O(30/70)
流
速:0.5 mL/min
検出器:UV(260 nm)、線検出器
保持時間:原料 1.1 分、目的物 2.4 分
158
13.その他の神経伝達系プローブ合成
C.その他
[被曝線量]9)
ヒト全身 PET 動態計測による。
実効線量:7.7 Sv/MBq
小腸:22.1 Gy/MBq、肝臓:11.2 Gy/MBq、心臓壁:8.9 Gy/MBq
全身:2.9 Gy/MBq
[急性毒性]2)
雌雄それぞれ 5 匹のラットに、臨床想定の最大投与量の 740 MBq/74 nmol/60kg(最低の比
放射能 10 TBq/mmol として)の 10,000 倍にあたる 12.3 mol/3.73 mg/kg の MPDX を単回投
与(腹腔)して、30 分、1、3、6 時間後、その後 14 日まで 1 日 1 回観察したが、死亡するも
のはなく、一般状態に異常を認めなかった。体重増加も正常であり、第 15 日に病理学的検査を
おこなった結果、いずれの動物にも異常所見は認められなかった。LD50:ラット(雌雄、腹腔)、
>12.3 mol/3.73 mg/kg
[11C]MPDX の臨床用調製薬剤 3 ロットについて、雌雄各 5 匹のラットに臨床想定の最大投与
量(740 MBq)の 40 倍量(500 MBq/kg)を静脈投与し、上記と同様に 14 日間の観察と病理
学的検査をおこなったとき、いずれの動物にも異常所見は認められなかった。
[突然変異試験(Ames 試験)]2)
S. Typhimurium TA98、TA100、TA1535 および TA1537 を用いて調べた MPDX の復帰突
然変異原性は、5,000 g/plate 以下のアッセイで陰性であった。
参考文献
1.
Noguchi J., Ishiwata K., Furuta R., et al.: Nucl. Med. Biol., 24, 53–59 (1997).
2.
Ishiwata K., Nariai T., Kimura Y., et al.: Ann. Nucl. Med., 16, 377–382 (2002).
3.
Nariai T., Shimada Y., Ishiwata K., et al. J. Nucl. Med., 44, 1839–1844 (2003).
4.
Fukumitsu N., Ishii K., Kimura Y., et al.: Ann. Nucl. Med., 17, 511–515 (2003).
5.
Fukumitsu N., Ishii K., Kimura Y., et al.: J. Nucl. Med., 46, 32–37 (2005).
6.
Fukumitsu N., Ishii K., Kimura Y., et al.: Ann. Nucl. Med., 22, 841–847 (2008).
7.
Shimada J., Suzuki J., Nonaka H., et al.: J. Med. Chem., 35, 924–930 (1992).
8.
Kawamura K., Ishiwata K.: Ann. Nucl. Med., 18, 165–168 (2004).
9.
東京都老人総合研究所附属診療所短寿命放射性薬剤臨床利用委員会資料
13-4.[11C]TMSX 合成法
(石渡
喜一)
[11C]TMSX([7−methyl−11C](E)−8−(3,4,5−trimethoxystyryl)−1,3,7−trimethylxanthine、別
名[11C]KF18446)はキサンチン構造を持ち、アデノシン A2A 受容体に高い親和性を示すリガン
ドである
1-3 )。アデノシン
A2A 受容体は脳ではドーパミン D2 受容体と同じ GABAergic–
159
enkephaline ニューロンに発現しており、パーキンソン症候群などのポストシナプスの変性や
脱落あるいは統合失調症等の診断する薬剤として期待される。2003 年 2 月より臨床研究が開始
され 4-6)、心筋や骨格筋のアデノシン A2A 受容体イメージングや機能評価へも応用可能である 7,8)。
[11C]TMSX は水溶液中で光により異性化するので、合成から臨床使用に至る全ての行程で注意
を要する。
A−1.[11C]よう化メチル法 1,3)
下記の反応スキームにより合成する。
O
H3C
O
N
N
O
H
N
N
CH3
OCH3
OCH3
11
CH3I
Cs 2CO3, DMF
H3C
O
OCH3
11
CH3
N
N
N
N
CH3
OCH3
OCH3
OCH3
[使用試薬]
[11C]よう化メチル
デメチル TMSX(註1)
無水 DMFAldrich(22705-6)
炭酸セシウム
ポリソルベ—ト 80(polyoxyethylene(20) sorbitan monooleate)和光純薬工業製
註1) 合成は Shimada らの方法による 7)。最近、ParmaSynth 社が販売している。
[方法](註1)
炭酸セシウム(5~10 mg)を入れた遮光した反応容器にデメチル TMSX の DMF 溶液(1
mg/mL、0.25 mL)を入れ、120C で 1 分間加熱する。この反応溶液を–15C に冷却し、これ
に He 気流下(30~50 mL/min)[11C]よう化メチルを通して捕集する。120C で 3 分間反応さ
せた後、反応液に 0.1 M HCl で 2 倍に希釈した HPLC 溶離液(1.3 mL)を加えて希釈し、HPLC
により分離精製する。
分離された[11C]TMSX 溶液は、ロータリエバポレーターのフラスコに分取し、溶媒を除いた
後、注射用生理食塩水に溶解する。
(註2、3)メンブレンフィルターを通して無菌バイアルに
捕集する。(註4)
註1) TMSX およびデメチル TMSX のスチリル基は、水溶液では光により異性化するので、
すべての操作はなるべく光を避けて行うことが望ましい。
註2) [11C]TMSX 溶液は濃縮、乾固により多少の分解が認められるが、前もってアスコルビ
ン酸(0.2 mL の 100 mg/mL の注射用アスコルビン酸水溶液)を加えておくことで分
解を抑えることができる。
註3) 生理食塩水は 0.25%ポリソルベート 80 を含む。
註4) メンブレンフィルターには、脂溶性薬剤の吸着の少ないマイレックス GV フィルターTM
(ミリポア)などを使用する。
160
13.その他の神経伝達系プローブ合成
A−2.[11C]メチルトリフレート法 10)
下記の反応スキームにより合成する。
O
H3C
N
N
N
N
CH3
O
O
H
OCH3
OCH 3
11
CH3OTf
Cs 2CO3, DMF
H3C
N
O
OCH3
11
CH3
N
N
N
CH3
OCH3
OCH3
OCH3
[使用試薬]
[11C]メチルトリフレート
デメチル TMSX
無水 DMFAldrich(22705-6)
炭酸セシウム
[方法](註1)
炭酸セシウム(5~10 mg)を入れた遮光した反応容器にデメチル TMSX の DMF 溶液(1
mg/mL、0.25 mL)を入れ、120C で1分間加熱する。この反応溶液を–15C に冷却し、He
気流下(30~50 mL/min)[11C]メチルトリフレートを通して捕集する。120C で 1 分間反応さ
せた後、反応液に 0.1 M HCl で 2 倍に希釈した HPLC 溶璃液(1.3 mL)を加えて希釈し、HPLC
により分離精製する。
以下の処理及び注意点は、[11C]よう化メチル法に準ずる。
[合成法の特徴と問題点]
E−体(trans 体)である[11C]TMSX は水溶液中で光により異性化し、E−体と R−体(cis 体)
の平衡状態になる。R−体はアデノシン A2A 受容体に対する親和性は E−体より低いので、HPLC
分離以後は、光をなるべく遮断する必要がある。
[11C]メチルトリフレートとの反応では、通常溶媒として汎用されるアセトンへのデメチル
TMSX の溶解度が低く、溶媒として DMF を用いた。また、アルカリとして NaOH を用いたと
きは、[11C]TMSX の放射化学的収率は炭酸セシウムを用いたときより低下した 10)。
[HPLC 分取条件]
カラム:YMC-Pack ODS-A(内径 10 mm X 長さ 250 mm)、ワイエムシー
溶離液:CH3CN/H2O(50/50)
流
速:5 mL/min
検出器:UV(260 nm)、線検出器
保持時間:原料 3.9 分、目的物 5.7 分
161
B.分析法
[放射化学的純度]
HPLC
i)
カラム:TSKgel Super-ODS(内径 4.6 mm X 長さ 100 mm)
、東ソー
溶離液:CH3CN/H2O(40/60)
流
速:1 mL/min
検出器:UV(260 nm)、線検出器
保持時間:原料 2.4 分、目的物 5.5 分
ii)
カラム:TSKgel ODS-140HTP(内径 2.1 mm×長さ 50 mm、2.3 m)、東ソー
溶離液:CH3CN/H2O(25/75)
流
速:0.1 mL/min
検出器:UV(260 nm)、線検出器
保持時間:原料 1.3 分、目的物 2.6 分
C.その他
[被曝線量]11)
ヒト全身 PET 動態計測による。
実効線量:3.6 Sv/MBq
肝臓:11.0 Gy/MBq、胆嚢壁:11.0 Gy/MBq、腎臓:9.2 Gy/MBq
全身:2.9 Gy/MBq
[急性毒性]3)
雌雄それぞれ 5 匹のラットに、臨床想定の最大投与量の 740 MBq/74 nmol/60kg(最低の比
放射能 10 TBq/mmol として)の 10,000 倍にあたる 12.3 µmol/4.77 mg/kg の TMSX を単回投
与(腹腔)して、30 分、1、3、6 時間後、その後 14 日まで 1 日 1 回観察したが、死亡するも
のはなく、一般状態に異常を認めなかった。体重増加も正常であり、第 15 日に病理学的検査を
おこなった結果、いずれの動物にも異常所見は認められなかった。
LD50:ラット(雌雄、腹腔)、>12.3 µmol/4.77 mg/kg
[11C]TMSX の臨床用調製薬剤 3 ロットについて、雌雄各 3 匹のラットに臨床想定の最大投与
量(740 MBq)の 100 倍量(1.23 GBq/kg)を静脈投与し、上記と同様に 14 日間の観察と病理
学的検査をおこなったとき、いずれの動物にも異常所見は認められなかった。
162
13.その他の神経伝達系プローブ合成
[突然変異試験(Ames 試験)]3)
S. Typhimurium TA98、TA100、TA1535 および TA1537 を用いて調べた TMSX の復帰突然
変異原性は、5,000 g/plate 以下のアッセイで陰性であった。
参考文献
1.
Ishiwata K., Noguchi J., Wakabayashi S., et al.: J. Nucl. Med., 41, 345–354 (2000).
2.
Ishiwata K., Ogi N., Shimada J., et al.: Ann. Nucl. Med., 14, 81–89 (2000).
3.
Ishiwata K., Wang W.F., Kimura Y., et al.: Ann. Nucl. Med., 17, 205–211 (2003).
4.
Ishiwata K., Mishina M., Kimura Y., et al.: Synapse, 55, 133–136 (2005).
5.
Mishina M., Ishiwata K., Kimura Y., et al.: Synapse, 61, 778–784 (2007).
6.
Naganawa M., Kimura Y., Mishina M., et al.: Eur. J. Nucl. Med. Mol. Imaging, 34,
679–787 (2007).
7.
Ishiwata K, Mizuno M, Kimura Y., et al.: Nucl. Med. Biol., 31, 949–956 (2004).
8.
Mizuno M., Kimura K., Tokizawa K., et al.: Nucl. Med. Biol., 32, 831–836 (2005).
9.
Shimada J., Suzuki F., Nonaka H., et al.: J. Med. Chem., 35, 2342–2345 (1992).
10. Kawamura K., Ishiwata K.: Ann. Nucl. Med., 18, 165–168 (2004).
11. 東京都老人総合研究所附属診療所短寿命放射性薬剤臨床利用委員会資料
13-5.S−(−)−[11C]CGP-12177 合成法
(西嶋
剣一、久下
裕司)
S−(−)− CGP-12177 は、親水性の非選択的アンタゴニスト(部分的アゴニスト)である。こ
の化合物は、1)受容体に対する親和性が高いこと、2)脂溶性が低く非特異的な結合が少ない
こと、3)細胞内に取り込まれないため、膜表面受容体のリガンドとみなせることなどの優れた
特徴を有している。その 11C-標識された S−(−)−[11C]CGP-12177 は心臓や肺の受容体密度測定
に有効であると報告されている 1)。
A. 合成法
下記の反応スキームにより合成する 2-7)。
t-Bu
N
H HO
t-Bu
O
H
11
COCl2
NH 2
N
H HO
O
H
H
N
11
C O
N
H
NH 2
[使用試薬]
[11C]ホスゲン(註1)
(2S)−1−(2−Amino−3−nitrophenoxy)−3−(t−butylamino)−2−propanol(アミノニトロ体)
(註2)
163
(2S)−1−(2,3−Diaminophenoxy)−3−(t−butylamino)−2−propanol(ジアミノ前駆体)(註3)
トルエン———和光純薬(有機合成用:209-13445)
Palladium/carbon———和光純薬(5% Pd:165-07542)
註1) 1-5[11C]ホスゲンの合成参照。
註2) セティカンパニー経由で ABX に受託合成できる。価格は、500 mg が 80 万円、1 g が
110 万円、2 g が 160 万円(各税別)であり、納期は 3 ヶ月程度となっている。
註3) アミノニトロ体を 5% palladium/carbon、H2 による還元反応により合成する 5,7)。室温
下、5 時間程度で定量的に反応は進行する。反応後、palladium/carbon をフィルター
ろ過し、溶媒を除去すると無色のペースト状でジアミノ前駆体が得られる。このジア
ミノ前駆体の再結晶は行わず、このまま標識反応に用いる。ジアミノ前駆体は、不安
定なため、空気や時間の経過により黒く変色するので、前駆体合成時や保存時に注意
を要する。ジアミノ前駆体が黒く着色すると収量の低下、比放射能の低下が観察され
る。保存状態がよければ、6 ヶ月程度の使用は可能である。
[方法]
ジアミノ前駆体(3 mg 程度)をトルエン(0.5 mL)に溶解させる(註1)。この溶液を反応
容器に加え、[11C]ホスゲンを吹き込んで反応する(註2)。反応終了後、トルエン溶媒を減圧下
で留去し(註3)、HPLC 溶離液(1.7 mL)に溶解して HPLC により分離精製する。溶出した
目的分画をロータリエバポレーターに導入し、エタノールを減圧除去したのち(註4)、注射用
生理食塩水に溶かし、最終的に 0.22 m のメンブレンフィルターを通して注射用薬剤とする(註
5)。
註1) ジアミノ前駆体は、ペースト状のため、スパーテルでかきとる。目安としてトルエン
溶媒に黄色がつく程度で十分である。溶液の色が黄暗色の場合は、収量の低下の恐れ
がある。
註2) 室温下で[11C]ホスゲンを捕集している。反応容器の放射能センサー値が最大になった
ところで He を止め反応を終了する。
註3) トルエンを完全に除去してしまうと、反応容器から放射性化合物が移送しにくくなる。
トルエンは、完全に除去せずある程度残し、カラムへインジェクトする。カラムはエ
タノールにより洗浄することによりトルエンを除く。
註4) 蒸 発 乾 固 さ せ て し ま う と 、 生 理 食 塩 水 で は ガ ラ ス 容 器 の 壁 に 吸 着 し た S−(−)−
[11C]CGP-12177 が溶解されにくくなるので注意する。したがって、製剤中には、微量
のエタノールが含まれるため濃度を測定する必要がある 7)。
註5) 本製剤の pH は HPLC 溶出溶媒の pH が 2.3 のため、4.0 と酸性側を示す。そのため「放
射性薬剤の基準と臨床使用の指針」に従い最終的に日本薬局方炭酸水素ナトリウム注
射液を加えることにより pH を 7.0 とする 7)。
[その他の注意事項]
合成前後において、不活性ガスによる十分なパージを行う。
[11C]メタンの捕集が低下したときは、Porapak Q カラムのエージングを行ことで改善する。
Cl2 を使用するため、電磁弁の故障が考えられる。そのため塩素ガスが通じるラインは、不活
164
13.その他の神経伝達系プローブ合成
性ガスで置換しておくこと。
Cl2 の採取は、ディスポーザブルタイプの 10 mL シリンジを用いている。
アンチモンカラムは、10 回程度の使用が可能である。
[合成法の特徴と問題点]
S−(−)−[11C]CGP-12177 の合成は、[11C]ホスゲン合成の成否が鍵となる。収量が低下した場
合は[11C]ホスゲンの収量が低く、1)[11C]四塩化炭素が圧倒的に多い場合と、2)[11C]四塩化
炭素も少ない場合の 2 つのパターンがある。1)の場合は、[11C]ホスゲンが生成していないた
め、鉄顆粒−酸化鉄粉末カラムの不具合を考え、カラムの調製や電気炉の調整が必要となる。2)
の場合は、[11C]ホスゲンの分解が推定され、装置内の水分が原因と考えられる。この場合はラ
インのパージを行うなど水分の除去を行うことが肝要である。
[HPLC 分取条件]
カラム:Megapak SIL C18-10(内径 7.5 mm X 長さ×250 mm)
、日本分光
溶離液:EtOH/0.9% NaCl/85% H3PO4(200/800/1.7)pH 2.3(註1)
流
速:3 mL/min
検出器:UV(254 nm)、放射能検出器
溶出時間:前駆体 4.0 分、目的物 7.0 分
註1) 0.9% NaCl は注射用の生理食塩水を用いるが、注射用蒸留水でも可。
Radio
UV (254 nm)
ジアミノ体
[11C]CGP12177
0
10
5
165
min
B.分析法
[放射化学的純度]
HPLC
カラム:Finepak SIL C18S(内径 150 mm X 長さ 4.6 mm)
、日本分光
溶離液:EtOH/0.9% NaCl/85% H3PO4(200/800/1.7)pH 2.3(註1)
流
速:0.5 mL/min
検出器:UV(254 nm)、放射能検出器
溶出時間:6.0 分
註1) 0.9% NaCl は注射用生理食塩水を用いるが、注射用蒸留水でも可。
[化学的純度]
エタノールの分析濃度
GC
カラム:TSG-1 15% Shincarbon A 60/80 glass column; (ガラスカラム、内径 3.2 mm X
長さ 3.1 m)、信和化工
検出器:FID 検出器(カラムオーブン温度 120C、カラム温度 90°C、インジェクター
温度 180°C、FID 温度 180°C;H2 50 kPa、air 50 kPa、He 50 kPa)
C.その他
[毒性]
参考:LD50、ラット 104~135 mg/kg(Dr. C. Crouzel より提供された資料より)
[被曝線量]
臓器
線量(Gy/MBq)
臓器
線量(Gy/MBq)
副腎
5.99
筋肉
2.85
脳
8.73
卵巣
5.21
胸部
4.92
膵臓
6.03
胆嚢
5.15
赤色髄
5.00
小腸壁
4.78
骨表面
5.09
胃壁
5.19
皮膚
3.48
大腸壁
4.01
脾臓
1.09
心臓
8.43
精巣
1.73
腎臓
1.22
胸腺
5.62
肝臓
5.52
甲状腺
4.88
肺
3.75
膀胱
4.53
子宮
5.30
全身の線量当量は 4.30 Gy/MBq 8)
166
13.その他の神経伝達系プローブ合成
[定量解析のための低比放射能製剤調製法]
受容体密度(Bmax)は、高比放射能および低比放射能の S−(−)−[11C]CGP-12177 製剤の 2
回投与を行い、左室心筋および左室内腔の時間放射能曲線を作成し、グラフ解析法を用いて算
出する 9,10)。低比放射能の S−(−)−[11C]CGP-12177 製剤は、次の手順で S−(−)−[11C]CGP-12177
に、非放射性 S−(−)−CGP-12177 を添加して次の手順で調製する。
1. S−(−)−CGP-12177(註 1)を精秤し、注射用生理食塩液を加えて、一定濃度の溶液を
調製した後、無菌ろ過(0.22 μm)する。
2. 滅菌バイアルに、一定量を小分けして、密封し、添加用 S−(−)−CGP-12177 溶液とする。
(註2、3)
3. 短寿命放射性薬剤品質管理基準に適合した S−(−)−[11C]CGP-12177 注射液に一定量の
添加用 S−(−)−CGP-12177 溶液を加え、S−(−)−[11C]CGP-12177 製剤(低比放射能製剤)
とする。(註4)
註1) 非放射性 S−(−)−CGP-12177 は、1) 市販のラセミ体(TOCRIS 社、Cat. No:1134、和
光純薬で購入可能)を HPLC で光学分割するか、2)ジアミノ前駆体とトリホスゲン
との反応により得られる。
註2) 添加用 S−(−)−CGP-12177 溶液は冷暗所に保存する。
註3) 添加用 S−(−)−CGP-12177 溶液の有効期限は安定性試験の結果により定める。
註4) 低比放射能の S−(−)−[11C]CGP-12177 製剤は薬物として 30~40 μmg(100~140 nmol)
の S−(−)−CGP-12177 を含有するため、ヒトへの投与に当っては、通常の PET 薬剤に
関する基準に加えて、薬物量を考慮した基準の設定が必要である。
参考文献
1.
Elsinga P.H., Van Waarde A., Vaalburg W.: Eur. J. Pharmacol., 499, 1–13 (2004).
2.
Aigbirhio F., Pike V.W., Francotte E., et al.: J. Label. Compd. Radiopharm., 31, 159–161
(1992).
3.
Aigbirhio F., Pike V.W., Francotte E., et al.: Tetrahedron Asymm., 3, 539–554 (1992).
4.
Boullais A., Crouzel C., Syrota A.: J. Label. Compd. Radiopharm., 23, 565–567 (1986).
5.
Brady F., Luthra S.K., Tochon-Danguy H., et al.: Appl. Radiat. Isot., 42, 621–628
(1991).
6.
Hammadai A., Crouzel C.: J. Label. Compd. Radiopharm., 29, 681–690 (1991).
7.
Nishijima K., Kuge Y., Seki K., et al.: Nucl. Med. Commun., 25, 845–849 (2004).
8.
Nishijim K.: Yakugaku Zasshi, 126, 737–745 (2006).
9.
Delforge J., Syrota A., Lancon J.P., et al.: J. Nucl. Med., 32, 739–748 (1991).
10. Delforge J.: J. Nucl. Med., 35, 921 (1994).
167
13-6.[11C]カーフェンタニル合成法
(石渡
喜一)
カーフェンタニル(carfentanil、4–((1–oxopropyl)–phenylamino)–1–(2–phenylethyl)–4–
piperidine-carboxylic acid methyl ester)は µ オピオイド受容体に対し高い親和性・選択性(KD
= 0.08 nM、human cortical and thalamic tissues)を示すアゴニストで 1)、µ オピオイド受容
体を測定できる PET 薬剤として Johns Hopkins 大学で開発、臨床利用された。その後、多く
の研究機関で臨床利用され、てんかんなどの脳障害、精神疾患、鎮痛発現機序、薬物依存性、
薬物占拠率、心筋や腫瘍の受容体に関する研究が報告され、近年では特に鎮痛に関連した受容
体賦活研究に関心が持たれている 2-5)。
A.合成法
下記の反応スキームにより合成する。
CO211CH3
CO2Na
N
N
COC2H5
11
CH3OTf, NaOH
N
N
COC2H5
DMF, r.t.
[使用試薬]
[11C]メチルトリフレート
デメチルカーフェンタニル Na 塩PharmaSynth 製
無水 DMFAldrich(22705-6)
NaOH特級試薬
[方法]
0.1 M NaOH(6 μL)を含むデメチルカーフェンタニル Na 塩の DMF 溶液(1 mg/mL、0.25
mL、0.62 μmol)に(註1)、室温下で He 気流下(30~50 mL/min)[11C]メチルトリフレート
を通して捕集する。直ちに反応液に H2O で 2 倍希釈した HPLC 溶離液(1.3 mL)を加えて希
釈し、HPLC により分離精製する。
分離された[11C]カーフェンタニル溶液は、ロータリエバポレーターのフラスコに分取し、溶
媒を除いた後、生理食塩水に溶解する。
(註2)メンブレンフィルターを通して無菌バイアルに
捕集する。(註2)
註1) 前駆体溶液は−20C で保存して1ヶ月程度の使用には影響がなかったが、半年の保存
では収率がかなり低下した。
註2) アスコルビン酸などの安定化剤なしに、少なくとも調製後 2 時間までは[11C]カーフェ
ンタニルの分解は認められなかった。
註3) メンブレンフィルターには、脂溶性薬剤の吸着の少ないマイレックス GV フィルターTM
(ミリポア)などを使用する。
168
13.その他の神経伝達系プローブ合成
[合成法の特徴と問題点]
本法では、デメチルカーフェンタニル Na 塩に対して NaOH を 1 当量を使用するとき、放射
化学的収率は[11C]メチルトリフレートに対して 50%を越えるが、2 当量では収率は低下する傾
向があり、大過剰では収率が低下する。NaOH がない時の放射化学的収率は数%であった。
一方、Dannals らの方法では、デメチルカーフェンタニル Na 塩を溶かした DMF 溶液に[11C]
よう化メチルをトラップして 35℃で 3 分間加熱するが、塩基は使用しない 6)。また、Studenov
らは、デメチルカーフェンタニルの Na 塩あるいは NH4 塩に対して少量の tetra–n–butylammonium hydroxide を加え、液相法やループ法で[11C]よう化メチルと反応させた 7)。
[11C]メチルトリフレート法に関しては、Jewett は遊離酸型のデメチルカーフェンタニルの
DMSO 溶液に少量の tetra–n–butylammonium hydroxide を加え、これに[11C]メチルトリフレ
ートを吹込んで合成している 8)。
[HPLC 分取条件]
カラム:YMC-Pack ODS-A(内径 10 mm×長さ 250 mm)、ワイエムシー
溶離液:CH3CN/50 mM AcOH/50 mM AcONH4(35/32.5/32.5)
流
速:5 mL/min
検出器:UV(260 nm)、線検出器
保持時間:原料 3.8 min、目的物 9.3 分
B.分析法
[放射化学的純度]
HPLC
i)
カラム:TSKgel Super-ODS(内径 4.6 mm×長さ 100 mm)
、東ソー
溶離液:CH3CN/50 mM AcOH/50 mM AcONH4(30/35/35)
流
速:1 mL/min
検出器:UV(220 nm)、線検出器
保持時間:原料 1.8 分、目的物 4.5 分
ii)
カラム:TSKgel ODS-140HTP(内径 2.1 mm×長さ 50 mm、2.3 m)、東ソー
溶離液:CH3CN/50 mM AcOH/50 mM AcONH4(25/37.5/37.5)
流
速:0.5 mL/min
検出器:UV(220 nm)、線検出器
169
保持時間:原料 1.0 分、目的物 2.5 分
C.その他
[被曝線量]9)
ヒト全身 PET 動態計測による。
実効線量:4.6 Sv/MBq
膀胱壁:36.5 Sv/MBq、肝臓:9.7 Sv/MBq、腎臓:4.3 Sv/MBq
全身:2.7 Sv/MBq
[急性毒性]
LD50:ラット、 7.86 mol(3.2 mg)/ kg(i.v.)
10)
[薬理作用]
カーフェンタニルはμ-オピオイド受容体に対し高い親和性を有し、モルヒネの 10,000 倍、
フェンタニル(全身麻酔導入時 1.5-8 g/kg を緩徐に静注)の 100 倍の鎮静作用を持つ。動物
には使用されているが、ヒトには使用されていない。10)
Tail-withdrawal test(尻尾を熱湯につけ尻尾をはねるまでの潜時をみる尻尾引っ込み試験)
による薬理効果は次の通りである。10)
Lowest ED50:ラット 1.01 nmol/0.4 g/kg(i.v.)
Johns Hopkins 大学では[11C]カーフェンタニルによる臨床研究を開始するに先立ち、麻酔専
門医師により非放射性のカーフェンタニルを用いた single subject toxicity study(マイルドな
効果の現れる 9 mg まで緩徐に静注)を施行し、[11C]カーフェンタニルの最大薬物量をおおよ
そ 0.1 g/kg と定め、その後の臨床研究で、副作用等の安全性に関する問題は認められていな
い。4)
最近の被曝線量評価の研究では、薬理量以下の 0.03 g/kg(1.8 g/60 kg)で多少の眠気
(primarily mild drowsiness)をきたした被験者おり、その効果が最も大きかった被験者では
呼吸数と血圧がやや低下したが、いかなる臨床的に重要な副作用はなかったと報告された。9)
参考文献
1.
Titeler M., Lyon R.A., Kuhar M.J., et al.: Eur. J. Pharmacol., 167, 221–228 (1989).
2.
Zubieta J.K., Stohler C.S.: Ann. N.Y. Acad. Sci., 1156, 198–210 (2009).
3.
Sprenger T., Berthele A., Platzer S., et al.: Eur. J. Pain, 9, 117–121 (2005).
4.
Frost J.J.: Nucl. Med. Biol., 28, 509–513 (2001).
5.
Koepp M.J., Duncan J.S.: Adv. Neurol., 83, 135–156 (2000).
6.
Dannals R.F., Ravert H.T., Frost J.J., et al.: Int. J. Appl. Radiat. Isot., 36, 303–306
(1985).
7.
Studenov, A.R., Jivan, S., Buckley, K.R. et al.: J. Label. Compd. Radiopharm., 46,
837–842 (2003).
8.
Jewett D.M.: Nucl. Med. Biol., 28, 733–734 (2001).
170
13.その他の神経伝達系プローブ合成
9.
Newberg A.B., Ray R., Scheuermann J., et al.: Nucl. Med. Commun., 30, 314–318
(2009).
10. Chemical Research, Development and Engineering Center (CRDEC-TR-88029).
13-7.[11C]mHED 合成法
[11C]mHED(1R,2S–(–)–[11C]meta–hydroxyephedrine)はノルエピエフリン誘導体であり、
Rosenspire K.C.らにより合成された 1)。[11C]mHED は、交感神経終末における伝達物質であ
るノルエピネフリン(NE)と同様、交感神経への特異的取り込み機構である uptake–1 を介し
て神経終末に取り込まれ貯留小胞に蓄えられる。しかしながら、その後は NE とは異なり、カ
テコール–O–メチル転移酵素(COMT)、モノアミン酸化酵素(MAO)による代謝を受けない。
そのため投与後の放射能分布を測定することにより、交感神経終末機能(主に Uptake–1)を
評価する 2)。また神経内分泌腫瘍の診断薬として臨床研究にも用いられている 3)。
A-1.[11C]よう化メチル法
(西嶋
剣一、久下裕司)
下記の反応スキームにより合成する。
OH
OH
11
HO
NH 2
CH3I
DMSO
HO
11
NH CH3
[使用試薬]
[11C]よう化メチル
Metaraminol(free base)———ABX(註 1)
無水(有機合成用)DMSO –———Aldrich、Wako
註1) ABX 社の Metaraminol (free base)は、購入したものに無水 DMSO を加え、合成 1 回
分(1 mg/0.5 mL)に小分けしている。小分け後 3 カ月程度の使用実績がある。
[方法]
Metaraminol free base(1 mg)を無水 DMSO(0.5 mL)に溶解させる(註 1)。この溶液を
反応容器に加え、室温下、N2 気流下(50 mL/min)[11C]よう化メチルを通し 100°C で 5 分間
反応させる。反応終了後、反応液に HPLC 溶離液(1.5 mL)を加えて HPLC により分離精製
する。溶出した目的分画をロータリエバポレーターに導入し、エタノールを減圧除去した後、
生理食塩液に溶かし、最終的に 0.22 μm のメンブレンフィルターを通して注射用薬剤とする。
註1) Rosenspire K.C.ら 1)は、反応溶媒として DMF/DMSO(3/1)混液を用いている。しか
しながら逆相 HPLC による分離精製では DMF を除去することができず製剤中への混
入が確認される。
171
[合成法の特徴と問題点]
[11C]よう化メチル法および[11C]トリフレート法が報告されている 4)。[11C]よう化メチル法に
おいては、立体異性体と考えられる不純物が生成する 1)。分離精製 HPLC において目的物の直
後に立体異性体が溶出されるため分取に注意しなければならない。
[HPLC 分取条件]
カラム:Develosil PRAQUEOUS(5 μm、内径 10 mm×長さ 250 mm、ガードカラム:
内径 8 mm×長さ 10 mm)(註 1)、野村化学
溶離液:第一溶出液 6 mM NaH2PO4、第二溶出液 EtOH/H2O(1/99)
流
速:7 mL/min
検出器:UV(254 nm)、放射能検出器
保持時間:第一溶出液により前駆体を溶出後、第二溶出液にて溶出したとき目的物は 18
min 前後に溶出される。
註1) 溶離液として 100%水系を用いているため、カラムの性能によっては保持時間の短縮が
起こり、再現性が得られない。そのため 100%水系においても再現性を有する C30 カ
ラム(Develosil PRAQUEOUS)を用いている。
A-2.[11C]メチルトリフレート法
(伊藤
由麿)
下記の反応スキームにより合成する。
[ 11 C]MeOTf
HO
MeCN
65℃, 2min
NH2
HO
11
NH CH 3
[使用試薬]
[11C]メチルトリフレート
Metaraminol(free base)———ABX 社(3380) (註1)
172
13.その他の神経伝達系プローブ合成
無水アセトニトリル———Merck (12636)
無水メタノール———Ardrich(322415)
メイロン(注射用 7%炭酸水素ナトリウム水溶液)
註1) あるいは Sigma の metaramiol bitartrate salt (33402-03-8)から、脱塩して調製できる。
Metaraminol bitartrate(250 mg)を注射用蒸留水(500 μL)に溶解後、重曹(500 mg)
を加える。水層に酢酸エチル(50 mL)を加え、溶媒抽出後、有機層を無水硫酸ナト
リウムで脱水し、ろ過する。ロータリエバポレーターで酢酸エチルを除去し、得られ
た残渣を無水エタノールに溶解し、清浄なバイアルに回収する。これを、アルゴンガ
ス加圧下、遮光冷蔵保存する。溶解後 5 週間使用可能である。
[方法]
あらかじめ作成しておいた metaraninol /無水メタノール(0.4 mg/50 μL)(註1)に、無水
アセトニトリル(300 μL)を加えた液に、常法で得られた[11C]メチルトリフレートを 30~50
mL/min の流速で通して捕集する。捕集後、65˚C で 2 分間反応させる。反応液に注射用蒸留水
(0.5 mL)を加え(註2)、良く撹拌後 HPLC にて分取する。分取液は、メンブランフィルタ
ーを通じてメイロン(30 μL)入り無菌バイアルへ捕集する。
註1) Metaraminol(free base)に無水メタノールを加え、清浄なバイアルにアルゴンガス
加圧下で遮光冷蔵保存する。溶解後 5 週間使用可能。
註2)
ここでの水量が少ないと、ピーク形状が異常になる可能性があり、注意が必要。
[HPLC 分取条件]
カラム:Megapak SIL C18-10(内径 7.5 mm×長さ 250 mm)
、日本分光(註1)(註2)
溶離液:EtOH/10 mM NaH2PO4(1/99)
流
速:7.0 mL/min
検出器:UV(280 nm)、線検出器
保持容量:90 mL
註1)
カラム管理:通常、カラムは消毒用エタノールで満たしておく。使用前に EtOH/10 mM
NaH2PO4(1/99)を流し、エタノールを十分除きつつ平衡化する。
尚、当該条件下では、毛管作用によりカラム充填剤細孔から移動相が抜け出て、保
173
持容量が減少する恐れがあるので、平衡化後、使用直前までカラムを若干の加圧状態
にしておく。使用後は、再び消毒用エタノールで置換して保管する。
註2)
当該条件下では、全量を分取すると、mHED の手前に不純物ピークが混入することが
ある。この場合、最初の一部分を捨てて分取する必要がある。
[合成法の特徴と問題点]
本法は、よう化メチル法に比べて低い温度で短時間に反応が進行し、収率も高い。本法では、
分取 HPLC に C18 逆相カラム、溶離液に EtOH/10 mM NaH2PO4(1/99)を用いており、カ
ラムの劣化が早いが、溶離液をフィルトレーション後、pH 調整して直接注射液と出来る。ただ
し、微量のエタノールを含有するので、アルコール過敏症の患者等では禁忌である。
B.分析法
[放射化学的純度]
HPLC
i)
カラム: Xbridge C18 (内径 4.6 mm×長さ 150 mm、5 μm)、Waters
溶離液:CH3CN/ 100 mM HCOO NH4(5/95)
流
速: 1 mL/min
検出器:UV(254 nm)、線検出器
溶出時間:前駆体 3.6 分、目的物 4.7 分前後
ii)
カラム:TSKgel Super ODS(内径 4.6 mm X 長さ 100 mm、2.3 μm)、東ソー(註1)
溶離液:EtOH/20 mM NaH2PO4/85% H3PO4(15/500/0.5)pH 2.5
流
速:0.5 mL/min
検出器:UV(280 nm)、線検出器
保持容量:原料 1.8 mL、mHED 2.2 mL
註1)
当該条件下では、毛管作用によりカラム充填剤細孔から移動相が抜け出て、保持が減
少するので、平衡化後、使用直前まで、カラムを若干の加圧状態にしておく。
C.その他
[毒性]
拡張型単回静脈内投与毒性試験
mHED の 0.18 及び 2 mg/kg を 1 群雌雄各 6 匹の Crl:CD (SD) ラットに単回静脈内投与、対
照群(雌雄各 6 匹)には媒体(生理食塩液)を同様の方法で投与した[各群それぞれに投与翌日
剖検群(雌雄各 3 匹)及び投与後 14 日剖検群(雌雄各 3 匹)を設けた]。その結果、被験物質
投与に起因したと考えられる変化は 2 mg/kg 群において肺に認められた。病理組織学的検査に
おいて、投与翌日剖検群の雌雄で軽度又は中等度の出血を伴った炎症が巣状に観察された。投
与後 14 日剖検群では雄 1 例で軽度な出血を伴った炎症巣、雌 1 例で炎症巣がみられたが、回
復性が確認された。一般状態、体重、血液学的検査、血液生化学的検査では、毒性学的に意義
のある変動は認められなかった。本試験条件下において、最大無毒性量は 0.18 mg/kg と推察さ
174
13.その他の神経伝達系プローブ合成
れた。なお、2 mg/kg において肺に出血を伴った炎症巣が認められたが、回復性がみられる変
化であった。
[11C]mHED 製剤による単回投与毒性試験
[11C]mHED 製剤(120 MBq/kg: 臨床想定の最大投与量 740 MBq/60 kg の 10 倍量)を雄性
Wistar ラット(WKAH)の尾静脈内に投与、また対照群として生理食塩液を 0.2 mL 投与した
(各 1 群 6 匹)。12 日間の体重測定と全身症状観察を実施した結果、いずれの群のラットにも
死亡例はなく、全身症状においても特記すべき変化は見られなかった。体重は、[11C]mHED 製
剤投与群と対照群とに有意な差は見られなかった。
参考文献
1.
Rosenspire K.C., Haka M.S., Van Dort M.E., et al.: J. Nucl. Med., 31, 1328–1334
(1990).
2.
Schwaiger M., Kalff V., Rosenspire K., et al.: Circulation, 82, 457–64 (1990).
3.
Shulkin B.L., Wieland D.M., Schwaiger M., et al.: J. Nucl. Med., 33, 1125–1131 (1992).
4.
Någren K., Muller L., Halldin C., et al.: Nucl. Med. Biol., 22, 235–239 (1995).
175
14.[11C]ベラパミル合成法
14.[11C]ベラパミル合成法
(石渡
喜一)
[11C]ベラパミルは腫瘍の細胞膜に過剰に発現する P 糖タンパク質(P-gp)や血液脳関門の
P-gp の結合能を評価できる。オランダの Groningen 大学病院で標識合成され 1,2)、動物の腫瘍
モデルや脳の P-gp の評価することができるプローブであることが明らかにされた後 3-5)、2001
年には腫瘍患者を対象にした最初の試みが報告され 6)、次いで幾つかの PET 施設で脳研究へ応
用されている 7-9)。多くの研究ではラセミ体の[11C]ベラパミルを使用しているが、(R)−体が望ま
しいという主張もある 10)。
A.合成法
下記の反応スキームにより合成する。
OCH3
OCH3
OCH3
H3 CO
OCH3
CN
N
H
11
CH3 OTf
OCH3
H3CO
OCH3
CN
NaOH, acetone
11
N
CH3
[使用試薬]
[11C]メチルトリフレート
デメチル()ベラパミル塩酸塩Sigma-Aldrich (RBI) 製(註1)
アセトン特級試薬
NaOH特級試薬
註1) (R)−体の前駆体は市販されていないので、光学異性体の分離をする必要がある。
[方法]
1 M NaOH(10 µL)を含むデメチルベラパミル塩酸塩のアセトン溶液(1 mg/mL、0.25 mL)
(註1)に、室温下で He 気流下(30~50 mL/min)[11C]メチルトリフレートを通して捕集する。
直ちに反応液に H2O で 2 倍に希釈した HPLC 溶離液(1.3 mL)を加えて希釈し、HPLC によ
り分離精製する。
分離した[11C]ベラパミル溶液は、ロータリエバポレーターのフラスコに分取し、溶媒を除い
た後、生理食塩水に溶解する。メンブレンフィルターを通して無菌バイアルに捕集する。(註2)
註1) デメチルベラパミルのアセトン溶液は、半年間は室温で保存して使用することができ
る。
註2) メンブレンフィルターには、脂溶性薬剤の吸着の少ない Millex GV フィルターTM(ミ
177
14.[11C]ベラパミル合成法
リポア)などを使用する。
[合成法の特徴と問題点]
本法では、デメチルベラパミル塩酸塩に対して NaOH が 1 当量や 2 当量でも合成できるが、
大過剰の方が高収率である。また、[11C]ベラパミルは初めに[11C]よう化メチルを用いて合成さ
れたが 1)、他の多くの薬剤同様に[11C]メチルトリフレート法が優れている 2)。
[HPLC 分取条件]
カラム:YMC-Pack ODS-A(内径 10 mm X 長さ 250 mm)、ワイエムシー
溶離液:CH3CN/50 mM AcONH4 (45/55)
流
速:6 mL/min
検出器:UV(260 nm)、線検出器
保持時間:原料 4.4 分、7.8 分
B.分析法
[放射化学的純度]
HPLC
i)
カラム:TSKgel Super-ODS(内径 4.6 mm X 長さ 100 mm)、東ソー
溶離液:CH3CN/50 mM AcOH/50 mM AcONH4(40/30/30)
流
速:1 mL/min
検出器:UV(260 nm)、線検出器
保持時間:原料 4.2 分、目的物 4.8 分
ii)
カラム:Inertsil ODS-3(内径 1.0 mm X 長さ 100 mm)、GL サイエンス
溶離液 CH3CN/50 mM AcOH/50 mM AcONH4(40/30/30)
流
速:0.1 mL/min
検出器:UV(260 nm)、線検出器
保持時間:原料2.3分、目的物5.7分
178
14.[11C]ベラパミル合成法
C.その他
[薬理作用等]
塩酸ベラパミルはフェニルアルキルアミン系のカルシウム拮抗薬として認可されており、狭
心症、心筋梗塞、その他の虚血性心疾患などの患者に使用されている。内服薬としては 1 回
40~80 mg(1 日 3 回増減)を服用したり、1 回 5 mg を生理食塩液又はブドウ糖注射液で希釈
し、5 分以上かけて静注(増減)する。(日本医薬品集、第 26 版)
[被曝線量]11)
卵巣:33.4 Gy/MBq、脾臓:5.6 Gy/MBq、大腸壁:7.2 Gy/MBq
全身:5.8 Gy/MBq
[急性毒性]
LD50:マウス(静注)、18 mol(8 mg)/kg;ラット(静注)、35 mol(16 mg)/kg(MERCK
INDEX 11th Ed より)
参考文献
1.
Elsinga P.H., Franssen E.J., Hendrikse N.H., et al.: J. Nucl. Med., 37, 1571−1575
(1996).
2.
Wegman T.D., Maas B., Elsinga P.H., et al.: Appl. Radiat. Isot., 57, 505−507 (2002).
3.
Hendrikse N.H., Schinkel A.H., de Vries E.G., et al.: Br. J. Pharmacol., 124, 1413−1418
(1998).
4.
Hendrikse N.H., de Vries E.G., Eriks-Fluks L., et al.: Cancer Res., 59, 2411−2416
(1999).
5.
Hendrikse N.H., Franssen E.J., van der Graaf W.T., et al.: Eur. J. Nucl. Med., 26,
283−293 (1999).
6.
Hendrikse N.H., de Vries E.G., Franssen E.J., et al.: Eur. J. Clin. Pharmacol., 56,
827−829 (2001).
7.
Kortekaas R., Leenders K.L., van Oostrom J.C., et al.: Ann. Neurol., 57, 176−179
(2005).
8.
Brunner M., Langer O., Sunder-Plassmann R., et al.: Clin. Pharmacol. Ther., 78,
182−190 (2005).
9.
Takano A., Kusuhara H., Suhara T., et al.: J. Nucl. Med., 47, 1427−1433 (2006).
10. Luurtsema G., Molthoff C.F.M., Windhorst A.D., et al.: Nucl. Med. Biol., 30, 747−751
(2003).
11. 東京都健康長寿医療センター研究所附属診療所短寿命放射性薬剤臨床利用委員会資料
179
15.[18F]FES 合成法
15.[18F]FES 合成法
(森
哲也)
16α−[18F]fluoro−17−estradiol([18F]FES)1)は、女性ホルモンであるエストロゲンの中で最
も生理活性の高いエストラジオール(E2)の誘導体であり、エストロゲン受容体イメージング
薬剤として、エストロゲン依存性疾患の診断やホルモン治療の効果判定に役立つと期待されて
いる。さらに、乳ガンのホルモン療法に対し、治療前の効果予測として腫瘍や転移巣のエスト
ロゲン受容体の有無を判定するのに有用と考えられている 2-4)。
A.合成法
下記の反応スキームにより合成する。
1) [K+/K.222]18 F- /CH3CN
2) HCl / 90%CH3CN
[使用試薬]
[18F]フッ素イオン(註1)
無水アセトニトリル———Aldrich(H 6503)
炭酸カリウム/Kryptofix 222(K.222)溶液(註 2)
3−O−Methoxymethyl−16,17−O−sulfuryl−16−epiestriol———ABX(Product No. 190)
0.2 M HCl/90%アセトニトリル溶液(註3)
局方 25 %アスコルビン酸注射液
注射用蒸留水
Sep-Pak Accell Plus Light QMA———Waters
註 1) [18O]H2O を用い、18O(p,n)18F 反応により製造する。
註 2) 炭酸カリウム(試薬特級、7 mg)を Milli-Q 水(300 μL)で溶解させたものと K.222
(22 mg)をアセトニトリル(300 μL)で溶解させたものを混和して調製する。福井
大学高エネルギー医学研究センターでは、[18F]FES 合成を TRACERlabMXFDG(GE)
で行っており 5)、[18F]FDG 合成と同じ試薬を使用している。
註 3) 2 M HCl(試薬特級)をアセトニトリルで 10 倍希釈して調製する。数か月の長期保存
で分解が生じることを確認している。
181
[方法]
小型サイクロトロンで
18O(p,n)18F
反応により製造した[18F]フッ素イオンを含むターゲット
水を Sep-Pak QMA カートリッジに通じ、[18F]フッ素イオンを吸着させる。これを炭酸カリウ
ム/K.222 溶液で反応容器に溶出させ、濃縮乾固して溶媒を取り除く(註1)。これに反応基質
である 3−O−methoxymethyl−16,17−O−sulfuryl−16−epistriol(2 mg)のアセトニトリル溶液
(2 mL)を加えて閉鎖系で 105ºC、10 分間フッ素化を行う。次いでアセトニトリルを濃縮乾
固した後、残渣に 0.2 M HCl/ 90%アセトニトリル溶液(2 mL)を加えて閉鎖系で 95ºC、10
分間加水分解を行う。得られた反応液に蒸留水(2 mL)を加え(註2)、HPLC により分離精
製する。カラムから溶出した[18F]FES 画分を、アスコルビン酸注射液(0.1 mL)を予め入れて
おいた(註3)小型ロータリエバポレーターに分取し、溶媒を除いた後、生理食塩水に溶解さ
せ、0.22 μm のメンブレンフィルターを通して無菌バイアルに捕集する。(註4)
註1) FDG 合成と同一方法による。
註2) 福井大学ではこの中和反応までの合成を TRACERlabMXFDG(GE)で行っている。合
成用プログラムは提供可能である。
註3) 放射線分解を防ぐため、ラジカルスカベンジャーとして予め分取容器に加えておく。
註4) メンブレンフィルター(Millex-GS、Waters)に 10~20%程度の放射能が残留する。少
量のエタノールで回収は可能である。
[HPLC 分取条件]
カラム:COSMOSIL 5C18-AR-II(内径 20 mm X 長さ 250 mm)、ナカライテスク
溶離液:CH3CN/EtOH/H2O(30/30/40)
流
速:6 mL/min
検出器:UV(280 nm)、放射能検出器
溶出時間: 16 分
カラム管理:通常エタノールで置換しておき、使用前に溶離液で平衡化して用いる。
[18F]FES
UV(280nm)
Radioactivity
0
2
4
6
8
10
12
14
16
Retention Time (min)
182
18
20
22
24
15.[18F]FES 合成法
B.分析法
[放射化学的純度]
HPLC
カラム:COSMOSIL 5C18-MS-Ⅱ(内径 4.6 mm X 長さ 150 mm)、ナカライテスク
溶離液:CH3CN/H2O(40/60)
流
速:1 mL/min
検出器:UV(280 nm)、放射能検出器
保持時間:8 分
C.その他
[毒性]
FES(1 mg/kg)を雌 ddY マウス(n=10)の尾静脈より投与し、2 週間にわたって観察を行
った結果、死亡例およびけいれん等の中毒症状は認められず、剖検においても特記すべき変化
は認められなかった。この値は、111 GBq/μmol の比放射能で標識した[18F]FES を体重 50 kg
のヒトに 370 MBq 投与すると仮定すると、50,000 倍以上の安全係数を有していることから、
毒性的には問題がないと考えられる。また、本合成法により製造された最終製剤について、雌
ddY マウス(n=10)に体重換算でヒト常用量の 500 倍量を投与し、2 週間にわたり観察を行っ
た結果、死亡例およびけいれん等の中毒症状は認められなかった。
[被曝線量]6)
ヒト全身 PET 動態計測による。
実効線量当量:22 Sv/MBq
肝臓:126 Gy/MBq、胆嚢壁:102 Gy/MBq、膀胱壁:50 Gy/MBq
参考文献
1.
Kiesewetter D.O., Kilbourn M.R., Landvatter S.W., et al.: J. Nucl. Med., 25, 1212−1221
(1984).
2.
Vollenweider-Zerargui L., Barrelet L., Wong Y., et al.: Cancer, 57, 1171−1180 (1986).
3.
Dehdashti F., Flanagan F.L., Mortimer J.E., et al.: Eur. J. Nucl. Med., 26, 51−56 (1999).
4.
Mortimer J.E., Dehdashti F., Siegel B.A., et al.: J. Clin. Oncol., 19, 2797−2803 (2001).
5.
Mori T., Kasamatsu S., Mosdzianowski C., et al.: Nucl. Med. Biol., 33, 281−286 (2006).
6.
Mankoff D.A., Peterson L.M., Tewson T.J., et al.: J. Nucl. Med., 42, 679−684 (2001).
183
16.アミロイドイメージング剤合成法
16.アミロイドイメージング剤合成法
16-1.[11C]PiB 合成法
(石渡
喜一)
[11C]PiB([N−methyl−11C]2−(4’−methylaminophenyl)−6−hydroxybenzothiazole)は、アル
ツハイマー病の脳に蓄積するアミロイドタンパク質(A)を PET により特異的に画像化する
ことを目的として、米国のピッツバーグ大学の Mathis 博士らによって開発された。彼らは、
幾つかの arylbenzothiazole 類似体を、インビトロによるマウス脳やヒト死後脳での結合実験や
サル脳の PET による動態解析により比較検討し、
最も適切な薬剤として[11C]PiB を選択した 1-3)。
臨床研究は、スウェーデンのウプサラ大学及びピッツバーグ大学で開始された 4,5)。アルツハイ
マー病の早期診断という社会要請から、また Wilson らの改良合成法とも相まって急速に広まり、
[11C]PiB PET による診断的意義の解明が進んでいる 6)。
A− 1.[11C]よう化メチル法(Mathis 法)
Mathis らが開発した方法で 2)、下記の反応スキームにより合成する。
CH3OCH2 O
S
NH2
N
1) 11 CH3 I, KOH,
DMSO, 80°C, 3 min
2) HCl, 130°C, 1 min
HO
11
S
N
CH3
N
H
[使用試薬]
[11C]よう化メチル
6−MOMO−BTA−0(前駆体)ABX(註1)
無水 DMSO Aldrich(27,685-5)
KOH特級試薬
HCl特級試薬
酢酸ナトリウム特級試薬
ポリソルベ—ト 80(polyoxyethylene(20) sorbitan monooleate)和光純薬工業
註1) 2−(4’−Methylaminophenyl)−6−methoxymethoxybenzothiazole。合成は Mathis らの
方法による 2)。
[方法]
KOH を乳鉢で粉末にし、反応容器に 10 mg をとり 6−MOMO−BTA−0 の DMSO 溶液(3
mg/mL、0.5 mL)で懸濁する。これに室温下で N2 気流下(30-50 mL/min)[11C]よう化メチル
を通して捕集する。130ºC で 3 分間反応させた後、反応液に 4 M HCl(0.5 mL)を加えて加熱
し(130ºC、1分間)、6 位を水酸基とする。反応液に 4 M 酢酸ナトリウム(0.5 mL)を加えて
185
中和し、HPLC により分離精製する。
分離された[11C]PiB 溶液は、ロータリエバポレーターのフラスコに分取し、溶媒を除いた後、
注射用生理食塩水に溶解する。(註1、2)メンブレンフィルター(0.22 µm)に通し、無菌バ
イアルに捕集する。(註3)
註1) [11C]PiB 溶液は濃縮、乾固により多少の分解が認められるが、前もってアスコルビン
酸(0.2 mL の 100 mg/mL の注射用アスコルビン酸水溶液)を加えておくことで分解
を抑えることができる。
註2) 生理食塩水は 0.25%ポリソルベート 80 を含む。
註3) メンブレンフィルターには、脂溶性薬剤の吸着の少ない Millex-GV フィルターTM(ミ
リポア)などを使用する。
A− 2.[11C]メチルトリフレート法(Wilson 法)
Wilson らが開発した方法で 6)、下記の反応スキームにより合成する。
HO
S
11
NH2
N
CH3OTf
HO
MEK, 80°C, 3 min
S
N
11
CH3
N
H
[使用試薬]
[11C]メチルトリフレート
2−(4’−Aminophenyl)−6−hydroxybenzothiazole(前駆体)ABX 製(註1)
Methylethylketone(MEK)特級試薬
ポリソルベート 80(polyoxyethylene(20) sorbitan monooleate)和光純薬工業
註1) 合成法は Mathis ら方法による 2)。
[方法]
2−(4’−Aminophenyl)−6−hydroxybenzothiazole の MEK 溶液(1 mg/mL)0.25 mL(註1)
に、室温下で He 気流下(30~50 mL/min)[11C]メチルトリフレートを通して捕集し、80ºC で
3 分間反応させる。反応液に H2O で 2 倍希釈した HPLC 溶離液 1.3 mL を加えて希釈し、HPLC
により分離精製する。
以下の処理及び注意点は、[11C]よう化メチル法に準ずる。
註1) 2−(4’−Aminophenyl)−6−hydroxybenzothiazole の MEK 溶液は、半年間は室温で保存
して使用するできるが、徐々に分解が進むので−20 ºC 保存する。
[合成法の特徴と問題点]
[11C]よう化メチル法の Mathis らの原報では 2)、メチル化は 125C で 5 分間反応し、脱保護
反応はメタノール塩酸水溶液として 125C で 5 分間行っているが、筆者らの経験では上記の条
件で反応時間を短縮できた。
[11C]メチルトリフレート法の Wilson らの報告では 6)、室温下で[11C]メチルトリフレートを通
じるだけで、高収率で[11C]PiB を得ているが、筆者らはそれを再現できず、[11C]メチルトリフ
186
16.アミロイドイメージング剤合成法
レートの捕集後に 80C で 1~3 分間反応することにより、[11C]PiB の合成収率を向上させた。
収量を安定させるため、3 分間の反応時間を設定している。また、2−(4’−aminophenyl)−6−
hydroxybenzothiazole の量を増やすと、やや収率は向上する。なお、NaOH の存在下では全く
反応しない。
2 つの合成法を比較すると、[11C]メチルトリフレート法の方が反応は簡単で、収率的にも優
れている。
[HPLC 分取条件]
カラム:YMC-Pack ODS-A(内径 10 mm X 長さ 250 mm)、ワイエムシー
溶離液:CH3CN/50 mM AcOH/50 mM AcONH4 (45/27.5/27.5)(註1)
流
速:6 mL/min
検出器:UV(260 nm)、線検出器
保持時間:2−(4’−aminophenyl)−6−hydroxybenzothiazole 4.1 分、目的物 6.7 分
註1) CH3CN/H2O(45/55)でもよい。
[11C]メチルトリフレート法の例
B.分析法
[放射化学的純度]
HPLC
i)
カラム:TSKgel Super-ODS(内径 4.6 mm X 長さ 100 mm)、東ソー
溶離液:CH3CN/50 mM AcOH/50 mM AcONH4(35/32.5/32.5)
流
速:1 mL/min
検出器:UV(380 nm、260 nm)、線検出器
保持時間:2−(4’−aminophenyl)−6−hydroxybenzothiazole 2.6分、目的物5.5分
ii)
カラム:TSKgel ODS-140HTP(2.1 mm×長さ 50 mm、2.3 m)、東ソー
溶離液: CH3CN/50 mM AcOH/50 mM AcONH4(30/35/35)
流
速:0.5 mL/min
検出器:UV、380 nm(260 nm)、線検出器
保持時間:2−(4’−aminophenyl)−6−hydroxybenzothiazole 1.0分、目的物1.7分
187
C.その他
[被曝線量]
ヒト全身 PET 動態計測による。
線量データ17)
実効線量:4.7 Sv/MBq
胆嚢壁:41.5 Gy/MBq、肝臓:19.0 Gy/MBq、膀胱壁:16.6 Gy/MBq
全身:2.8 Gy/MBq
線量データ28)
実効線量:5.3 Sv/MBq
胆嚢壁:44.8 Gy/MBq、 肝臓:19.9 Gy/MBq、膀胱壁:26.3 Gy/MBq
全身:3.2 Gy/MBq
[急性毒性]9)
雌雄それぞれ 5 匹のラットに、臨床想定の最大投与量の 740 MBq/74 nmol/60 kg の 10,000
倍にあたる 13.0 mol/3.16 mg/kg の PiB を単回投与(腹腔)して、30 分、1、3、6 時間後、
その後 14 日まで 1 日 1 回観察したが、死亡するものはなく、一般状態に異常を認めなかった。
体重増加も正常であり、第 15 日に病理学的検査をおこなった結果、いずれの動物にも異常所見
は認められなかった。LD50:ラット(雌雄、腹腔)、>13.0 mol/3.16 mg/kg
[11C]PiB の臨床用調製薬剤 3 ロットについて、雌雄各 3 匹のラットに臨床想定の最大投与量
(740 MBq/60kg)の 100 倍量(1.23 GBq/kg)を静脈投与し、上記と同様に 14 日間の観察と
病理学的検査をおこなったとき、いずれの動物にも異常所見は認められなかった。
[突然変異試験(Ames 試験)]9)
S. Typhimurium TA98、TA100、TA1535 および TA1537(いずれも S9)を用いて調べた
PiB の復帰変異原性は、4.9 g/plate 以下のアッセイで陰性であった。
Klunk らは、chromosomal aberration、mouse lymphoma mutagenesis、bacterial reverse
mutation assay、mouse micronucleus assay で、遺伝毒性が認められなかったと報告している
4)。
参考文献
1.
Mathis C.A., Basckai B.J., Kajdasz S.T., et al.: Bioorg. Med. Chem. Lett., 12, 295–298
(2002).
2.
Mathis C.A., Wang Y., Holt D.P., et al.: J. Med. Chem., 46, 2740–2754 (2003).
3.
Klunk W.E., Wang Y., Huang G.-F., et al.: J. Neurosci., 23, 2086–2092 (2003).
4.
Klunk W.E., Engler H., Nordberg A., et al.: Ann. Neurol., 55, 306–319 (2004).
5.
Price J.G., Klunk W.E., Lopresti B.J., et al.: J. Cereb. Blood Flow Metab., 25, 1–20
(2005).
6.
Wilson A.A., Garcia A., Chestakova A., et al.: J. Label Compd. Radiopharm., 47,
679–682 (2004).
188
16.アミロイドイメージング剤合成法
7.
Scheinen N.M., Tolvanen T.K., Wilson I.A., et al.: J. Nucl. Med., 48, 128–133 (2007).
8.
O'Keefe G.J., Saunder T.H., Ng S., et. al.: J. Nucl Med., 50, 309–315 (2009).
9.
東京都健康長寿医療センター研究所附属診療所短寿命放射性薬剤臨床利用委員会資料
16-2.[11C]BF-227 合成法
(古本
祥三)
アルツハイマー病に特徴的な脳病理所見である老人斑は、臨床症状である認知機能障害の出
現よりも数十年先行すると考えられている。したがって、生体において老人斑を可視化できれ
ば、従来の診断法よりも早期段階で高精度にアルツハイマー病を診断できるようになると期待
されている。このようなコンセプトに基づき、老人斑の主要構成成分であるアミロイド β タン
パク質(Aβ)の凝集体に対する PET 用リガンド(アミロイドイメージング剤)の開発が進められて
い る 。 [11C]BF-227 ( 5−[(E)−2−[6−(2−fluoroethoxy)−1,3−benzoxazol−2−yl]vinyl]−N,N−
di(methyl)−thiazol−2−amine)は、BF 研究所と東北大学の共同研究によって開発された日本
独自のアミロイドイメージング剤であり、現在、探索的臨床研究が進められている。
A.合成法 1)
下記の反応スキームにより合成する。
11CH
3OTf
aq.NaOH, DMSO
Room Temp
THK001
[11C]BF-227
[使用試薬]
[11C]メチルトリフレート
5−[(E)−2−[6−(2−Fluoroethoxy)−1,3−benzoxazol−2−yl]vinyl]−N−methyl−thiazol−2−amine
(THK001)(註1)
無水 DMSO———Aldrich(276855)
2 M 水酸化ナトリウム溶液———和光純薬(196-05635)
5%ポリソルベート 80/エタノール溶液(註2)
局方 25%アスコルビン酸注射液———扶桑薬品
註1) 委託合成品(委託先:田辺 R&D)
註2) 特級 polyoxyethylene(20) sorbitan monooleate (和光純薬 164-15741)と日本薬局方エ
タノールから自家調製する。
[方法]
THK001(0.125 mg)(註1)を DMSO(0.3 mL)に溶解し、2 M 水酸化ナトリウム溶液(2
189
µL)を加える。この時溶液の色は黄色から赤黄色に変化する。この DMSO 溶液を反応容器に
セットし、室温条件下でバブリング法によりメチル化反応を行う。反応容器にトラップされる
放射能がプラトーに達したら、分取 HPLC 溶離液(0.3 mL)を添加して反応を終了し、He で
軽くバブリング撹拌する。この反応液を HPLC インジェクターのループに導入し(1-7参照)、
分取 HPLC により目的生成物の分離精製を行う。[11C]BF-227 を含む画分を蒸留水で希釈し、
Sep-Pak Plus tC18 カートリッジにロードして[11C]BF-227 を固相抽出する(1-8参照)。カ
ートリッジ固相を蒸留水で洗浄し、HPLC 移動相を除去した後、エタノールで[11C]BF-227 を
溶出する。このエタノール液に 5%ポリソルベート 80/エタノール溶液(1 mL)、25%アスコル
ビン酸注射液(0.2 mL)を添加し、オイルバス加温条件下(80C)でロータリエバポレーター
により溶媒を減圧留去し、残渣を溶解した生理食塩液(適量)をフィルター濾過滅菌(註 2)
して滅菌済バイアル(褐色)に封入する。
註1) 2.0 mg の THK001 を褐色バイアルに量りとり、4.0 mL のアセトンに溶解して褐色バ
イアルに 0.25 mL(0.125 mg)ずつ小分けし、遠心エバポレーターでアセトンを留去
する。溶媒を完全に除去したあとは、冷暗所に保存する。
註2) フィルター名:Millipore Millex-GV、 膜材質:親水性 PVDF、孔径:0.22 m、滅菌:
ガンマー線、滅菌済み、包装:個別包装。
[合成法の特徴と問題点]
本反応で使用する THK001 及び生成物の[11C]BF-227 は、光により二重結合部分がトランス
構造からシス構造に異性化するため、試薬の調製、標識合成反応、分離精製、注射液調製など
を行う際は可能な限り遮光を行うように注意する。溶液の場合、無色透明のバイアル、硝子容
器に入れて一般的な蛍光灯照明下に置いた場合、約 30 分程度でシス-トランスの構造異性化は
平衡状態に達する。一方、溶液を褐色のバイアルや硝子容器に入れて取り扱った場合、異性化
はほぼ防ぐことができる。標識合成時の異性化をさけるためには、東北大学では合成装置の入
っているホットセル内全体を遮光し、高感度カメラで反応容器、エバポレーターに装着したフ
ラスコ等をモニターしながら合成操作を行っている。
[11C]BF-227 はそのままでは水に溶解しないため、生理食塩液に溶解する際にはポリソルベ
ート 80 を溶解補助剤として使用している。また濾過滅菌を行う際は、フィルターの材質によっ
ては[11C]BF-227 が吸着されることもあるので注意を要する。
[11C]BF-227 は、高比放射能、高放射能濃度で製造した場合、放射線分解を起こす傾向にあ
るので注意を要する。
[HPLC 分取条件]
カラム:YMC-Pack Pro C18 RS(内径 10 mm X 長さ 250mm)
+ガードカラム(内径10 mm X 長さ 30 mm)、ワイエムシー
溶離液:CH3CN/EtOH/20mM NaH2PO4 (45/15/40)
流速:6.0 mL/min
検出器:UV(400 nm)、放射能検出器
190
16.アミロイドイメージング剤合成法
溶出時間:THK001(標識前駆体)4.5~5 分、[11C]BF-227 7~8 分
B.分析法
[放射化学的純度]
カラム:YMC-Pack Pro C18 RS(内径 4.6 mm X 長さ 150mm)、ワイエムシー
溶離液:CH3CN/20 mM NaH2PO4 (1/1)
流
速:2.0 mL/min
検出器:UV(400 nm)、放射能検出器
溶出時間:THK001 2.4 分、[11C]BF-227(トランス体)4.5 分、[11C]BF-227(シス体、
異性体)4.9 分
C.その他 2)
[被曝線量]
MIRD 法によって推定された臓器別の被曝線量は下に示す表の通りである。
臓器
線量(µGy/MBq)
臓器
線量(µGy/MBq)
脳
1.87
上方大腸壁
1.97
甲状腺
1.59
下方大腸壁
1.64
胸腺
1.70
副腎
2.27
胸
1.47
腎臓
4.42
心臓
2.44
精巣
1.49
肺
3.68
卵巣
1.92
肝臓
9.67
子宮
1.95
膵臓
2.25
膀胱壁
2.64
脾臓
1.98
骨
1.70
胃壁
1.78
骨髄
1.69
筋肉
3.20
1.60
全身の実効線量当量に換算すると 2.47(女性)~2.50(男性)Sv/MBq となる。
小腸壁
191
[安全性]
単回投与毒性試験から求められた雌雄のマウス、ラットの最大耐容量はそれぞれ 10 mg/kg、
1 mg/kg である。東北大学では、[11C]BF-227 の非放射性担体に対する安全性は、1 回に投与で
きる最大投与量を動物実験で得られた最大耐容量の 10,000 分の 1 以下(安全係数:10,000)と
することで確保している。すなわち、ラットの最大耐容量 1 mg/kg を基準に、安全係数を 10,000、
ヒトの体重を 60 kg として、ヒトに単回投与できる非放射性担体量を 6 µg(18 nmol)以下と
定めている。変異原性については、最大量となる 6 µg を投与した場合において、分布容積を
42 L(0.7 L/kg X 60 kg)とすれば、非放射性担体の生体内濃度は 0.142×10-9 g/mL となり、
変異原性試験(Ames test)で有意な変異が認められた最小濃度 0.0145×10-3 mg/mL(TA100、
+S9 mix)の 10,000 分の 1 以下となり、安全性に問題はないと考えられる。
参考文献
1.
東北大学 CYRIC
PET 核種製造・放射性薬剤合成マニュアル
2.
東北大学 CYRIC サイクロトロン製造放射性薬剤品質管理基準
第3版
16-3.[18F]AV-45 合成法
(寺崎
一典)
[18F]AV-45([18F]florbetapir、4–[(E)−2−[6−[2−[2−(2-[18F]fluoroethoxy)ethoxy]ethoxy] −3−
pyridyl)vinyl)−N−methylaniline)は、米国 Avid 社で開発された 18F-標識アミロイドイメージ
ング剤である。[18F]AV-45 は脳への取り込みが速く、非特異的結合部位から迅速に排出され、
投与 50 分後に平衡に達し、5~10 分の画像収集でコントラストの高い画像が得られるなど優れ
た特徴を有する 1-3)。現在、米国では第 III 相試験が実施されており、世界中に急速に広まりつ
つある。
A.合成法 4,5)
下記の反応スキームにより合成する。
[K+/K.222]18FDMSO
N-Boc-[18F]AV-45
AV-105
3 M HCl
[18 F]AV-45
[使用試薬]
[18O]H2O
[18F]フッ素イオン(註1)
192
16.アミロイドイメージング剤合成法
(E−2−(2−(2−(5−(4−(tert−Butoxycarbonyl(methyl)amino)styryl)pyridin−2−yloxy)ethoxy)ethoxy)ethyl 4−methylbenzenesulfonate (AV-105)
DMSO
Avid(註2)
Aldrich(276855)
無水アセトニトリル———和光純薬(有機合成用)、Merck(1.12636.0050)
Kryptofix 222(K.222)———Merck(8.10647.0001)
炭酸カリウム・1.5H2O———Merck(1.04926.0050)
アスコルビン酸ナトリウム(USP)———Spectrum(SO108)(註3)
無水エタノール注———扶桑薬品(17410)(註4)
3 M HCl(註5)
1 M NaOH———和光純薬(容量分析用、192‐02175)
Sep-Pak Light Accell Plus QMA———Waters(WAT023525)(註6)
Sep-Pak Light C18———Waters(WAT020550)(註7)
Sep-Pak Plus C18 ———(WAT039550)(註7)
Millex-GV———Millipore(SLGV13SL)
註1) [18O]H2O を用い、18O(p,n)18F 反応により製造する。
註2) 臨床使用に関しては Avid 社(Lilly 社)との契約が必要である。
註3) 0.5%アスコルビン酸ナトリウム溶液を注射用蒸留水で調製する。アスコルビン酸ナト
リウム溶液は酸化され易く、また、酸化されると褐変してしまうため用事調製とする。
放射線分解を防ぐ目的で全製造工程を通して加えている。
註4) 注射剤の添加剤として使用できる局法無水エタノールがないため、経皮的エタノール
注入療法用(腫瘍内注入)を用いている。院内製剤として調製した無水エタノールも
使用できる。
註5) 5 M HCl(和光純薬、容量分析用、081-05435)を Milli-Q 水で希釈して調製する。
註6) QMA カートリッジは、炭酸カリウム溶液を通じて炭酸イオン形に変換し、Milli-Q 水
で充分洗浄したものを使用する。
註7) C18 カートリッジは、エタノール(5 mL)を通した後、0.5%アスコルビン酸ナトリウ
ム液または注射用水(10 mL)で洗浄する。
[方法]
[18F]フッ素イオンを、QMA カートリッジ(炭酸イオン形)に通じて吸着させる。[18F]フッ
素イオンを K.222(20 mg)と炭酸カリウム(4 mg)を含むアセトニトリル(0.7 mL)と Milli-Q
水(0.3 mL)との混液 1 mL で溶出し、反応容器に導入する。He 気流下で溶媒を加熱乾固し、
さらに無水アセトニトリル(0.7 mL)を加え、共沸留去によって無水化処理を行う。
AV-105(1 mg)を含む DMSO(1 mL)を加え、110C で 8 分間のフッ素化反応を行う。反
応後、反応容器を 60C 程度まで冷却し、3 M HCl(0.7 mL)を加え 120C、6 分間の加水分解
を行う。1 M NaOH(2 mL)を加え中和後、0.5%アスコルビン酸ナトリウム(5 mL)で希釈
し Sep-Pak plus C18 に通す。0.5%アスコルビン酸ナトリウム(5 mL)でカートリッジを洗浄
した後、アセトニトリル(1.0 mL)で溶出し、0.5%アスコルビン酸ナトリウム(1.2 mL)を加
え、HPLC に導入し分離精製を行う。
193
[18F]AV-45 の分画をリザーバーに分取し、0.5%アスコルビン酸ナトリウム溶液(15 mL)を
加えて希釈した後、Sep-Pak Light C18 に通し、0.5%アスコルビン酸ナトリウム溶液(10 mL)
で洗浄する。[18F]AV-45 を無水エタノール(0.6 mL)で溶出し(註1)、生理食塩水(5 mL)
の入った無菌バイアルに回収し、Millex-GV フィルターに通して(註2)、生理食塩水(15 mL)
の入った無菌バイアル(30 mL)に捕集する(註3)。
註1) 回収されるエタノール量を 0.5 mL に設定し、Light C18 に残留するエタノールを考慮
して 0.6 mL としている。
註2) 滅菌フィルターには、脂溶性薬剤の吸着の少ない Millex-GV フィルターを使用する。
エアーベント付きが市販されていないので、ガス加圧による濾過ではエアーロックが
生じるため使用できない。また、残液量を最小にするため、フィルター直径 13 mm(処
理量:<10 mL)のものを使用している。
註3) [18F]AV-45 の液量は 20 mL、最終エタノール濃度は約 2.5%になる。
[合成法の特徴]
本法では、ロータリエバポレーターによる濃縮乾固を行わず、固相抽出によって得られた
[18F]AV-45 のエタノール液を生理食塩水で希釈して製剤としている。また、エタノールは本剤
の放射線分解防止と可溶化のためには不可欠である。したがって、エタノールの毒性を充分に
考慮し、製剤の安定性が保持できる最小のエタノール濃度を設定することが重要である。仁科
記念サイクロトロンセンターでは、エタノール濃度を 2.5%(最終濃度)と設定している。この
場合、[18F]AV-45 の製造量を 1850 MBq(液量:20 mL)、投与放射能量を 370 MBq(液量:4
mL)とすると、投与されるエタノール量は 100 L となる。実際の投与に際しては、エタノー
ルに対する過敏症がないのを確認し(パッチテスト)、ゆっくり注入することを原則としている。
[HPLC 分取条件]
カラム:Zorbax Eclipse XDB-C18(内径 9.4 mm × 長さ 250 mm)、Agilent
溶離液:CH3CN/0.5%アスコルビン酸ナトリウム(55/45)(註1)
流速:4.0 mL/min
検出器:UV(320 nm または 350 nm)、線検出器
保持時間:11 分
註1) アスコルビン酸ナトリウ
ム溶液は酸化され易く、
また、酸化されると褐変
してしまうため用事調製
とする。他の溶離液とし
て 、 CH3CN/20
mM
AcONH4(0.5%アスコル
ビン酸ナトリウムを含
む)(55/45)も使用でき
る。
194
16.アミロイドイメージング剤合成法
B.分析法
[放射化学的純度]
HPLC
カラム:Zorbax Eclipse XDB-C18(内径 4.6 mm × 長さ 150 mm)、Agilent
溶離液:CH3CN/20 mM AcONH4(55/45)
流速:1.0 mL/min
検出器:UV(320 nm または 350 nm)、線検出器
保持時間:6.5 分
C.その他
[毒性]6)
ラットに対し、予想されるヒトヘ最大臨床適用量(50 g)の 100 倍にまでに相当する非放射
性 AV-45 の単回投与毒性試験、反復投与毒性試験を行ったところ、いずれの投与量においても
特に有意な所見はみられなかった。
[変異原性試験]6)
ラットに対し、予想される最大臨床適用量の 83 倍にまでに相当する非放射性 AV-45 を 3 回
の反復投与し、小核試験を実施ところ、遺伝毒性は有する所見はみられなかった。
[被曝線量]7)
ヒト全身PET動態計測による。
実効線量:19.7 Sv/MBq
胆嚢壁:185 Gy/MBq、小腸:55.4 Gy/MBq、肝臓:44.4 Gy/MBq
全身:11.9 Gy/MBq
[薬理作用]
ラットに対し、中枢神経に対する薬理学的安全性の試験を最大臨床適用量の 100 倍までの
[19F]AV-45 を単回投与、および 25 倍までの量を 28 日間連続投与し、長期影響を観察した。そ
の結果いずれの試験においても中枢神経に対する影響は認められなかった。
参考文献
1.
Choi S.R., Golding G., Zhuang Z., et al.: J. Nucl. Med., 50, 1887–1894 (2009).
2.
Wong D.F., Rosenberg P.B., Zhou Y., et al.: J. Nucl. Med., 51, 913–920 (2010).
3.
Lin K.J., Hsu W.C., Hsiao I.T., et al.: Nucl. Med. Biol., 37, 497–508 (2010).
4.
Liu Y., Zhu L, Plössl K., Choi S.R., et al.: Nucl. Med. Biol., 37, 917–925 (2010).
5.
Yao C.H., Lin K.J., Weng C.C., et al.: Appl. Radiat. Isot., 68, 2293–2297 (2010).
6
Summary of Development Program and Proposed Phase III Plan,
18F-AV-45:
PET
Amyloid Plaque Imaging Agent, FDA 諮問委員会会議資料, Avid Radiopharmaceuticals,
Inc. (2008).
195
7.
Lin K.-J., Hsu W.-C., Hsiao I.-T., et al.: Nucl. Med. Biol., 37, 497–508 (2010).
196
17.低酸素細胞イメージング剤合成法
17.低酸素細胞イメージング剤合成法
17-1.[18F]FMISO 合成法
18F
(林
和孝)
標識したニトロイミダゾール誘導体である[18F]FMISO([18F]fluoromisonidazole)は、
腫瘍細胞の低酸素状態を診断する薬剤として使用される。低酸素状態の細胞内でイミダゾール
環のニトロ基が代謝還元され、極性の高いアミン系化合物となり、細胞内に蓄積する。低酸素
状態にある腫瘍細胞は、放射線療法に対して抵抗性を示すため、腫瘍組織中の低酸素細胞の割
合を評価することにより、治療方針の決定が可能になる 1,2)。
A.合成法
下記の反応スキームにより合成する 3,4)。
NO2
NO2
N
N
O
O
O
[K/K222]+18F-
S
CH3CN
N
NO2
18
N
F
HCl
O
O
N
18
N
F
OH
O
O
[使用試薬]
[18O]H2O(註1)
[18F]フッ素イオン(註2)
1−(2’−Nitro−1’−imidazolyl)−2−O−tetrahydropyranyl−3−O−osyl-propanediol(NITTP)
(前駆
体)ABX(140.0005)
無水アセトニトリルMerck(1.12636.0050)
Kryptofix 222(K.222)Merck(8.10647.0001)
炭酸カリウム・1.5H2OMerck(1.04926.0050)
1 M 塩酸容量分析用
酢酸ナトリウム・3H2Oアミノ酸自動分析用
Sep-Pak Light Accell Plus QMA(QMA、炭酸イオン形)Waters(WAT023525)
(註3)
Sep-Pak Light Accell Plus QMA(QMA*、塩素イオン形)Waters(WAT023525)(註
4)
局方 25%アスコルビン酸注射液25%ビスコリン注、第一製薬
註1) [18F]FDG 合成法参照
註2) [18O]H2O を用い、18O(p,n)18F 反応により製造する。
註3) QMA カートリッジは、消毒用エタノール、注射用水の順に洗浄後、炭酸カリウム溶液
197
を通じて炭酸イオン形に変換し、注射用水で充分洗浄したものを使用する。
註4) QMA カートリッジは、消毒用エタノール、注射用水の順に洗浄したものを使用する。
[方法]
製造した担体無添加の[18F]フッ素イオンを、QMA カートリッジ(炭酸イオン形)に通じて
吸着させる。
QMA カートリッジに吸着させた[18F]フッ素イオンを、K.222(7.5 mg)と炭酸カリウム(2.77
mg)を含む 50%アセトニトリル溶液(0.4 mL)(註1)で溶出し、反応容器に導入する。
He ガス気流下で加熱し、溶媒を乾固させる。次に、無水アセトニトリル(0.1 mL)を加え
て共沸留去し、充分に反応容器を乾燥する。(註2)
前駆体(5 mg)を含む無水アセトニトリル(0.3 mL)を加え、110C で 10 分間、フッ素化
反応を行う。
反応容器を冷却後、1 M 塩酸(0.3 mL)を加え、80C で 1 分間加水分解反応を行う。
反応終了後、80C で 1 分間加熱し、反応溶媒中のアセトニトリルを留去する。(註3)
反応容器を冷却後、1 M 酢酸ナトリウム(0.6 mL)を加え、攪拌し、反応溶液を HPLC に導
入し、分離精製を行う。
精製した[18F]FMISO を、QMA カートリッジ(塩素イオン形)に通じ(註4)、ロータリエ
バポレータのフラスコ(0.4 mL の 25%アスコルビン酸注射液を含む)に分取し、溶媒を留去し
た後、生理食塩水(10 mL)に溶解し、メンブレンフィルタ(0.22 m)に通じ、無菌バイアル
に捕集する。
(註5)
註1) [18F]FLT 合成法(A-2)参照
註2) [18F]FLT 合成法(A-2)参照
註3) [18F]FLT 合成法(A-2)参照
註4) 脱離基である p−トルエンスルホン酸は、下記の HPLC 分取条件では、完全に分離する
ことができないため、陰イオン交換カートリッジに通じて除去している。
註5) [18F]FLT 合成法(A-2)参照
[合成法の特徴と問題点]
加水分解反応において、既報では 1 M 塩酸を用いて、100C、5 分間行っている 3,4)。強酸に
より[18F]FMISO の分解が確認されたため、放医研においては、1 M 塩酸を用いて 80C、1 分
間と緩和な条件で反応を行っている。
[HPLC 分取条件]
カラム:XBridge C18(内径 10 mm X 長さ 250 mm、5 m)、Waters
溶離液:エタノール/H2O(註1)(15/485)
流
速:5.0 mL/min
検出器:UV(325 nm)、NaI(Tl)
保持時間:10 分
註1) 注射用蒸留水を使用。
198
[18F]FMISO
17.低酸素細胞イメージング剤合成法
UV (325 nm)
Radioactivity
Retention Time (min)
B.分析法
[放射化学的純度、化学的純度]
HPLC
カラム:XBridge C18(内径 3.0 mm X 長さ 50 mm、2.5 m)、Waters
溶離液:90%CH3CN/50 mM リン酸アンモニウム緩衝液(pH 9.3)(9/91 (0~0.6 min)-
70/30 (0.6~4.0 min))
流
速:1.0 mL/min
検出器:UV(210 nm)、NaI(Tl)
保持時間:[18F]FMISO 約 0.77 分、前駆体 約 4.4 分(註1)
註1) こ の 分 析 条 件 で は 、 加 水 分 解 反 応 に よ り 生 じ る 1−(2,3−dihydroxypropyl)−2−
nitroimidazole、p−トルエンスルホン酸や K.222 も同時に測定することが可能である。
C.その他
[被曝線量]5)
ヒト全身 PET 動態計測による。
実効線量当量:男 13 Sv/MBq、女 14 Sv/MBq(ICPR 60)
膀胱壁:21 Gy/MBq、心臓:19 Gy/MBq、肝臓:18 Gy/MBq
全身:13 Gy/MBq
参考文献
1.
Eschmann S.M, Paulsen F., Reimold M., et al.: J. Nucl. Med., 46, 253–260(2005).
199
2.
Bruehlmeier M., Roelcke U., Schubiger P.A., et al.: J. Nucl. Med., 45, 1851–1859
(2004).
3.
Tang G., Wang M., Tang X., et al.: Nucl. Med. Biol., 32, 553–558 (2005).
4.
Oh S.J., Chi D.Y., Mosdzianowski C., et al.: Nucl. Med. Biol., 32, 899–905 (2005).
5.
Graham M.M., Peterson L.M., Link J.M, et al.: J. Nucl. Med., 38, 1631–1636 (1997).
17-2.[18F]FRP-170 合成法
(石川
洋一)
[18F]FRP-170(1−(2−[18F]fluoro−1−[hydroxymethyl]ethoxy)methyl−2−nitroimidazole)は、
低酸素状態の腫瘍細胞をターゲットとして、[18F]FDG PET を補完する有望な PET 腫瘍イメー
ジング剤である
1)。加えて虚血生存域において高集積を呈し、実用的な虚血心筋の画像化のト
レーサーとしても適している 2,3)。
A.合成法 4-6)
下記の反応スキームにより合成する。
[K+/K.222]18F-
NaOH
o
DMF, 110 C
[使用試薬]
[18O]H2O(>98atom%)———大陽日酸等(化学的純度>99.9%)
[18F]フッ素イオン(註1)
合成前駆体(M.W. 413.4)(註2)
酢酸−アセトニトリル−蒸留水(註3)
Kryptofix 222(K.222)———Merck(29111-0)
無水アセトニトリル———Merck(12636)
アセトニトリル(HPLC 用)———関東化学
炭酸カリウム(99.999%)———Merck(4926)(註4)
無水ジメチルホルムアミド(DMF)———Sigma-Aldrich
エタノール(99.5%)———和光純薬工業
塩酸(註5)———和光純薬工業
NaOH———和光純薬工業
Sep-Pak Light Accell QMA———Waters(註6)
Sep-Pak Plus C18 (Environment)———Waters(註7)
註1) [18O]H2O を用い、18O(p,n)18F 反応により製造する。
註2) ポーラ化成工業社から提供された RP-170(1−[2−(toluene−4−sulfoxy)−1−(acetoxy−
methyl)ethoxy]−methyl−2−nitroimidazole)から合成した 4)。
200
17.低酸素細胞イメージング剤合成法
註3) 酢酸(和光純薬特級、5 mL)、アセトニトリル(和光純薬特級、35 mL)、蒸留水(大
塚製薬、60 mL)から調製する。
註4) [18F]フッ素イオンの陰イオン交換樹脂からの脱離に使用する。
註5) 定量分析用試薬を利用すると便利である。
註6) 0.5 M K2CO3 水溶液(5 mL)で洗浄し炭酸イオン形とし、蒸留水(5 mL)で洗浄し、
空気を十分に送り水分を除去する。
註7) 特級 EtOH 99.5%(5 mL)、ついで注射用蒸留水(5 mL)で洗い活性化する。
[方法]
[18F]フッ素イオンを含むターゲット水を Sep-Pak Light Accell QMA カートリッジに通し、
[18F]フッ素イオンを分離捕集する。
(註1)
この[18F]フッ素イオンを 33 mM K2CO3(0.6 mL)で脱離し[18F]KF としてガラス製反応容
器に導入する。
K.222(20 mg)を溶解したアセトニトリル(2 mL)を加え乾固して溶媒を除く。(註2)
DMF(0.7 mL)に溶解した合成前駆体(2 mg)を加え、110C で 3 分間[18F]フッ素化反応
を行う。
冷却後 0.05 M HCl(5 mL)を加え、混合液を Sep-Pak Plus C18 カートリッジに通して反
応物を抽出し、引き続き H2O(5 mL)で反応容器と C18 カートリッジを洗浄する(註3)
C18 カートリッジに 0.5 M NaOH(2 mL)を満たし、室温下 3 分間放置してオンカラム的に
反応物の加水分解を行う。
C18 カートリッジを H2O(1 mL)で洗浄して大部分の NaOH を除去後、加水分解生成物を
アセトニトリル−酢酸の混合溶媒(0.35 mL/0.10 mL)、引き続き H2O(1.55 mL)で溶出する。
(註4)
この溶出液(2 mL)を HPLC 分取カラムに注入して分離精製を行う。減圧下エタノール(3~5
mL)を繰り返し添加し溶媒を留去して分取液を乾固する。
(註5)
残渣を生理食塩水に溶解、0.22 m のメンブレンフィルターを通して滅菌バイアルに捕集し
注射薬剤とする。
註1) 樹脂を通過する速度が速い場合、[18F]フッ素イオンの吸着率が低下することがある。
註2) ここでは、充分に水分を除くことが重要であり、再度無水アセトニトリルを加え共沸
により充分に水分を蒸発させる方法が有効である。
註3) 目的物を保持しつつ K+等の極性の高いものを除く。
註4) 加水分解物を Sep-Pak Plus C18 から効率的に溶出するにはアセトニトリルの使用量
を増せば良いが、FRP-170 の HPLC カラムによる分離は試料液の組成(極性)に大き
く影響され、その極性はできるだけ高いことが望ましい。従って少量のアセトニトリ
ルと酢酸の混合溶媒でまず加水分解物を溶出した後水で残存物を洗い出し、両者を混
合した後インジェクターに導入しカラムに注入する。
註5) 分取液をそのまま減圧留去した場合、放射線分解により放射化学的純度が低下する。
アスコルビン酸注射液を予め数滴添加することでこの分解は効果的に防止できる場合
が多いが、[18F]FRP-170 の場合は逆に純度が 30~50%と顕著に低下する。[18F]FRP-170
201
は電子親和性が高いので、酸化防止作用のあるアスコルビン酸の添加は水和電子の濃
度を高め還元的な分解を促進したと推測される。水和電子による分解を抑制するには
NaNO3 の添加が効果的だとの報告があるが 7)、ここではある程度水和電子の捕獲能力
があり、水と共沸混合液をつくるエタノールを減圧留去中に 5 mL ずつ数回に分けて添
加し、注意深く乾固する。
[HPLC 分取条件]5)
カラム:YMC Pack ODS A-324(内径 10 mm X 長さ 300 mm)、ワイエムシー(註1)
溶離液:CH3CN/H2O(12/88)
流
速:4 mL/min
検出器:UV(280 nm)、放射能検出器
註1) 使用後は、カラムを 99.5%エタノ-ル(約 100~150 mL)で洗浄する。
UV (280 nm)
Radioactivity
[18F]FRP-170
0
2
4
6
8
10
12
Elution time (min)
B.分析法
[放射化学的純度]
HPLC
カラム:Waters Puresil(内径 4.6 mm X 長さ 150 mm)、Waters
溶離液:CH3CN/H2O(7/93)
流
速:2 mL/min
検出器:UV(280 nm)、放射能検出器
保持時間:5.1 min
C.その他
[毒性]
6 週齢の Sprague-Dawley 系雄性ラットを用いた試験結果 6)
単回静脈内投与毒性試験
FRP-170 の最小致死量は 250~500 mg/kg の間にあると推定された。
最大投与放射能量を 185 MBq(5 mCi)、最小比放射能は 7.4 GBq/µmol(200 mCi/µmol)と
202
17.低酸素細胞イメージング剤合成法
すれば、成人への担体の最大投与量は 5.5 µg である。成人の体重を 60 kg と仮定し、最小致死
量(250 mg/kg)との比は、0.37  10-6 となり、最小致死量の 1/1,000,000 以下である。
2 週間反復静脈内投与毒性試験
無毒性量は 10 mg/kg/day と推定された。
標識合成した注射液の毒性試験
合成した注射液には重篤な変化を引き起こす不純物の混入はないものと考えられる。
[変異原性試験]
2 種類のサルモネラ菌株(TA98、TA100)を用いた Ames 試験
TA98:0.20 mg/mL 以上
TA100:0.018 mg/mL 以上
最大量を投与したときの変異原性に対する安全係数は(1.37 x 105)で 100,000 倍以上である。
[被曝線量]
(註1)
臓器
線量(Gy/MBq)
臓器
線量(Gy/MBq)
膀胱
4.77
肝臓
13.90
心筋
5.69
脾臓
5.42
腎臓
13.00
膵臓
6.07
脳
5.97
子宮
5.65
全身の線量当量は 5.40 Sv/MBq
註1) [18F]FRP-170(約 740 kBq)投与マウスのデータ 6)から MIRDOSE38)を用いて計算推
定される成人での吸収線量および実効線量。最大投与量を 185 MBq(5 mCi)として
[18F]FRP-170 を投与した場合、全身の吸収線量は 0.83 mGy となり、FDA によって規
定された吸収線量の限界値である 50 mGy を大きく下回っている値となる 9)。また、
実効線量は 1.00 mSv である。
参考文献
1.
Kaneta T., Takai Y., Kagaya Y., et al.: J. Nuc1. Med., 43, 109–116 (2002).
2.
高井良尋、金田朋弘、梅津篤志、他:癌の臨床, 47, 59–63 (2001).
3.
高井良尋、金田朋弘、他:臨床放射線, 51, 837–843 (2006).
4.
Wada H., Iwata R., Ido T., Takai Y.: J. Label. Compd. Radiopharm., 43, 785–793 (2000).
5.
Ishikawa Y., Iwata R., Furumoto S., et al.: Appl. Radiat. Isot., 62, 705–710 (2005)..
6.
石川洋一、船木善仁、岩田錬、他:核医学, 42, 1–10 (2005).
7.
Fukumura T., Araike S., Yoshida Y., et al.: Nucl. Med. Biol., 30, 389–395 (2003).
8.
Stabin M.G.: J. Nucl. Med., 37, 538–546 (1996).
9.
DeGrado T.R., Reiman R.E., Price D.T., et al.: J. Nucl. Med., 43, 92–96 (2002).
203
17-3.[18F]FAZA 合成法
(林
和孝)
低酸素細胞イメージング剤として[18F]FMISO([18F]fluoromisonidazole)は、最も広く臨床
で用いられている薬剤である。しかしながら[18F]FMISO は、比較的脂溶性が高いために、1)
低酸素腫瘍組織への集積が遅い、2)体内からのクリアランスが遅い、3)腫瘍バックグラウン
ド比が低いなどの問題点がある 1)。[18F]FAZA([18F]fluoroazomycin arabinoside)は、カナダ
の Alberta 大学の Kumar らにより 1999 年に報告され 2)、脂溶性を抑えて[18F]FMISO の問題
点を改善した第二世代の低酸素細胞イメージング剤として期待されている薬剤である。
A.合成法
下記の反応スキームにより合成する。
0.1 M NaOH
[K+/K.222]18 FMeCN
[使用試薬]
[18O]H2O(註1)
[18F]フッ素イオン(註2)
1−(2,3−diacetyl−5−tosyl−α−D−arabinofuranosyl)−2−nitroimidazole ( 前 駆 体 ) ———ABX
(1450.0005)
無水アセトニトリル———DNA 合成用(max. 10 ppm H2O)、Merck(1.12636.0050)
Kryptofix 222(K.222)———合成用、Merck(8.10647.0001)
炭酸カリウム・1.5H2O———Merck(1.04926.0050)
0.1 M 水酸化ナトリウム———容量分析用、和光純薬工業(194-02191)
0.1 M 酢酸———容量分析用、和光純薬工業(016-18835)
メタノール———高速液体クロマトグラフ用、和光純薬工業(132-06471)
局方 25%アスコルビン酸注射液
局方エタノール
Sep-Pak Light Accell Plus QMA———Waters(WAT023525)(註3)
Oasis HLB plus———Waters(186000132)(註4)
註1) [18F]FDG 合成法参照。
註2) [18O]H2O を用い、18O(p,n)18F 反応により製造する。
註3) QMA カートリッジは、消毒用エタノール注射用水の順に洗浄後、炭酸カリウム溶液を
通じて炭酸イオン形に変換し、注射用水で充分洗浄したものを使用する。
註4) HLB カートリッジは、消毒用エタノール で洗浄後、注射用水で充分洗浄したものを
使用する。
204
17.低酸素細胞イメージング剤合成法
[方法]
製造した担体無添加の[18F]フッ素イオンを、QMA カートリッジに通じて吸着させる。
QMA カートリッジに吸着させた[18F]フッ素イオンを、K.222(7.5 mg)と炭酸カリウム(2.77
mg)を含む 50%アセトニトリル溶液(0.4 mL)(註1)で溶出し、反応容器に導入する。
He ガス気流下で加熱し、溶媒を乾固させる。次に、無水アセトニトリル(0.15 mL)を加え
て共沸留去し、充分に反応容器を乾燥させる。
(註2)
前駆体(5 mg)を含む無水アセトニトリル(0.3 mL)を加え、100 ºC で 10 分間フッ素化反
応を行う。
反応終了後、反応溶媒であるアセトニトリルを留去する。(註3)
反応容器を冷却し、0.1 M 水酸化ナトリウム(0.5 mL)を加え、25~30ºC で 3 分間加水分解
反応を行う。
反応終了後、0.1 M 酢酸(1.5 mL)を加え、撹拌し、反応溶液を HPLC に導入し、分離精製
を行う。
分取した[18F]FAZA 溶液を直接 HLB カートリッジに捕捉させた後、He ガスでパージする。
次に、局方エタノール(3 mL)で[18F]FAZA を溶出させロータリエバポレーターのフラスコ
(0.1 mL の 25%アスコルビン酸注射液を含む)に分取し、溶媒を留去した後、生理食塩水(10
mL)に溶解し、メンブレンフィルター(0.22 m)に通じ、無菌バイアルに捕集する。
(註4)
註1) [18F]FLT 合成法A-2参照
註2) [18F]FLT 合成法A-2参照
註3) 放医研では、フッ素化反応終了後、アセトニトリルを留去している。しかし完全に乾
固させると収率が低下するなどの問題もあり、この工程は省略した方が良い。
註4) エタノール留去時の温度が高いと[18F]FAZA の放射化学的純度が低下する。
[合成法の特徴と問題点]
反応溶媒として、アセトニトリルを用いているが、DMSO、DMF を用いても同様に合成は
行える。
加水分解において、溶媒留去後、液体窒素を噴霧して冷却し、25~30ºC になって 90 秒程度
してから加水分解用アルカリを加えている。これは、反応容器を充分に冷却するためで、加水
分解時の温度が高いと分解してしまい、[18F]FAZA の収率が低下する。放医研では、反応容器
中でアルカリ加水分解を行っているが、17-2[18F]FRP-170 のように Sep-Pak Plus C18 カ
ートリッジ中でアルカリ加水分解する方法もある。
17-1[18F]FMISO と同様に、脱離基である p–トルエンスルホン酸の混入する場合があり、
陰イオン交換カートリッジを用いて除去したほうが良い場合がある。
[HPLC 分取条件]
カラム:XBridge C18(内径 10 mm X 長さ 250 mm、5 m)、Waters
溶離液:CH3OH/H2O(註1)(50/450)
流
速:6 mL/min
検出器:UV(325 nm)、NaI(Tl)
保持時間:13 分
205
註1) 注射用蒸留水を使用。
B.分析法
[放射化学的純度、化学的純度]
HPLC
カラム:XBridge C18(内径 3.0 mm X 長さ 50 mm、2.5 m)、Waters
溶離液:90%CH3CN/50 mM リン酸アンモニウム緩衝液(pH 2.0)/100 mM リン酸アン
モニウム緩衝液(pH 9.3)(0/50/50 (0-2.0 min)-60/20/20 (2.0-6.0 min))
流
速:1.0 mL/min
検出器:UV(325 nm (0-2.5 min)、210 nm (2.5-5.0 min)、325 nm (5.0-6.0 min))、NaI(Tl)
保持時間:2.3 分
C.その他
[急性毒性]3)
最終製剤 3 ロットについて、雄性 ddy マウスに静注し(0.3 mL、5 匹/1 群)、14 日間にわたり
生死および中毒症状の有無を確認した結果、死亡例はなく、中毒症状も認められず、剖検にお
いても特記すべき変化は見られなかった。
FAZA(0.1%)の生理食塩溶液を雄及び雌性 ddy マウスに静注し(0.3 mL、5 匹/1 群)、14
日間にわたり生死および中毒症状の有無を確認した結果、死亡例はなく、中毒症状も認められ
ず、剖検においても特記すべき変化は見られなかった。ただしこの用量は、規格の比放射能(>3.7
GBq/μmol)を体重 60kg のヒトに 370 MBq 投与すると仮定したときの値の 1.8×104 倍以上、
また規格試験の比放射能(平均 378 GBq/μmol)と比較すると 1.8×106 倍以上の安全係数を有
していることになり、毒性的には問題ないと考えられる。
[被曝線量]
マウスの体内動態の結果に基づいて、被曝線量推定ソフト(OLINDA 1.0)により標準成人
(男性 73.7 kg、女性 56.8 kg)における各臓器における被曝線量を推定した 3)。
206
17.低酸素細胞イメージング剤合成法
臓器
線量(Gy/MBq)
臓器
線量(Gy/MBq)
脳
3.5
副腎
13.3
胸部
10.9
大腸上壁
15.3
大腸下壁
15.7
胃壁
14.7
心臓
10.5
腎臓
11.5
肝臓
9.1
肺
8.3
膵臓
14.8
脾臓
9.0
骨髄
11.4
卵巣
15.6
子宮
16.1
睾丸
7.9
全身
12.2
実効線量当量
男性:13.7 Sv/MBq、女性:16.4 Sv/MBq
参考文献
1.
Grönroos T., Minn H.: Eur. J. Nucl. Med. Mol. Imaging., 34, 1563–1565 (2007).
2.
Kumar P., Stypinski H., Xia A.J.B., et al.: J. Label. Compd. Radiopharm., 42, 3–16
(1999).
3.
放射線医学総合研究所「FAZA(18F)注射液製品標準書」
17-4.[62Cu]Cu—ATSM 合成法
(福村
利光、藤林
靖久)
藤 林 ら に よ っ て 、 [62Cu]Cu–ATSM ( [62Cu]copper(II)–diacetyl bis(N4–methylthio–
semicarbazone))が低酸素部位に特異的に集積することを見出された。この集積機序は、電子
伝達系酵素によって銅が還元されることによって細胞内に留まると推定されている。現在
[62Cu]Cu–ATSM は低酸素イメージング特に腫瘍の低酸素領域のイメージングに有効なトレー
サとして期待されている 1,2)。
A.合成法
下記の反応スキームにより合成する。
H
N
H
N
N
N
N
SH
62
N
N
S
N
62
Cu
2+
Cu
SH
N
N
N
H
207
S
N
H
[使用試薬]
[62Cu]Cu2+水溶液(註1)
H2ATSM ———ケミカマテリア研究所製(註2)
DMSO———試薬特級品
アスコルビン酸ナトリウム溶液(2 w/v%)———自家調製(註3)
註1)
62Zn/62Cu
ジェネレータより供給される[62Cu]Cu2+水溶液を用いる 3-6)。
註2) 比較的容易に自家合成することが可能である 7)。
註3) 市販のアスコルビン酸ナトリウムを注射用水に溶解後滅菌ろ過して使用する。アスコ
ルビン酸は酸化されやすいので、調整後 12 時間以内に使用する。局方の注射用アスコ
ルビン酸を使用した場合には、放射化学的純度が低くなる傾向があるため注意するこ
と。
[方法]
0.5 mM H2ATSM/DMSO 溶液 200 L を含む無菌バイアル中へ[62Cu]Cu2+水溶液 5 mL を加
える。直ちにアスコルビン酸ナトリウム溶液 5 mL もバイアルへ加え良く混和する。
[合成法の特徴と問題点]
この合成法は、99mTc キットのように 62Zn/62Cu ジェネレータより[62Cu]Cu2+を溶出し混和す
るだけで必要時に手軽に合成できる。但しジェネレータのタイプにより、[62Cu]Cu2+溶液の中
和等が必要になる場合があるので注意すること。藤林らによって開発されたジェネレータでは
中和の必要が無いが、Robinson ら方法 3)に準じた方法では塩酸が含まれているため、[62Cu]Cu2+
溶液の中和が必要になる。原料の溶解に DMSO を使用しているため、浸透圧が高張になるので
注意する。
B.分析法
[放射化学的純度、化学的純度]
HPLC
カラム:Bondapak C18(内径 3.9 mm X 長さ 150 mm)、Waters
溶離液:CH3CN/20 mM リン酸塩緩衝液(pH 7.0)(45/55)
流
速:2.0 mL/min
検出器:UV(315 nm)、放射能検出器
保持時間:2.3 分
C.その他
[毒性]
最終製剤 3 ロットについて、雄性 ddy マウスに静注し(0.3 mL(標準的な臨床での投与量の
約 50 倍)、5 匹/1 群)、7 日間にわたり生死および中毒症状の有無を確認した結果、死亡例はな
く、中毒症状も認められず、剖検においても特記すべき変化は見られなかった。また、体重の
増減を有意差検定により判定した結果、対照群(生理食塩水 0.3 mL)と有意な差は認められな
208
17.低酸素細胞イメージング剤合成法
かった 8)。また主成分(Cu-ATSM)及び主原料(H2ATSM)の毒性を検討するため、マウスに
体重換算でヒト常用量の 1,000 倍量の Cu-ATSM または H2ATSM を投与したが、いずれの群(10
匹/1 群)でも 10 日間にわたって変化は観察されなかった 9)。
[被曝線量]10)
臓器
線量(Gy/MBq)
臓器
線量(Gy/MBq)
肝臓
17
胆嚢
4
腎臓
5
心臓壁
4
脾臓
3
全身
3
実効線量は 3 Sv/MBq
参考文献
1.
Fujibayashi Y., Taniuchi H, Yonekura Y., et al.: J. Nucl. Med., 38,1155–1160 (1997).
2.
Takahashi N., Fujibayashi Y., Yonekura Y., et al.: Ann. Nucl. Med., 14, 323–328 (2000).
3.
Robinson G.D, Jr, Zielinski F.W., Lee A.W.: Int. J. Appl. Radiat. Isot., 31, 111–116
(1980).
4.
Haynes N.G., Lacy J. L., Nayak N., et al.: J. Nucl. Med., 41, 309–314 (2000).
5.
Fujibayashi Y., Matsumoto K., Yonekura Y., et al.: J. Nucl. Med., 30, 1838–1842 (1989).
6.
Fukumura T., Okada K., Suzuki H., et al.: Nucl. Med. Biol., 33, 821–827 (2006).
7.
Gingras B.A., Suprunchuk T., Bayley C.H.: Can. J. Chem., 40, 1053–1059 (1962).
8.
放射線医学総合研究所「Cu-ATSM(62Cu)注射液製品標準書」
9.
福井大学倫理委員会用資料
10. Laforest R., Dehdashti F., Lewis J.S., et al.: Eur. J. Nucl. Med. Mol. Imaging, 32,
764–770 (2005).
209
18.[18F]NaF 合成法
18.[18F]フッ化ナトリウム合成法
(藤井
亮)
[18F]フッ化ナトリウムは、PET による骨イメージング剤として広く用いられており、生体内
に投与されたのち血液中から骨表面に化学吸着し、ヒドロキシアパタイトの水酸基と交換され、
骨に取り込まれることが知られている。PET による 3 コンパートメントモデルを用いた定量解
析により、局所骨血流量やフッ素イオンの influx rate の定量的評価ができ 1)、骨疾患の分類や
治療後の評価に応用可能である。
A.合成法
[使用試薬]
[18O]H2O(註1)
[18F]フッ素イオン(註2)
メイロン(注射用 7%炭酸水素ナトリウム水溶液)
強塩基性陰イオン交換樹脂 AG1-X8(註3)Bio-Rad(143-2446 biotechnology grade,
200~400 mesh) (編者註1)
註1)
[18F]FDG 合成法を参照のこと。
註2)
[18O]H2O を用い、18O(p,n)18F 反応により製造する。
註3)
樹脂は、70%エタノールに浸した状態で保存する。
編者註1) Sep-Pak Plus Light Accell QMA を使用することもできる。
[方法]
強塩基性陰イオン交換樹脂(200 L)を内径4 mm のカラムに充填し、
注射用蒸留水(20 mL)
で洗浄した後、メイロン(5 mL)を通ずる。さらに注射用蒸留水(20 mL)で洗浄してイオン
交換樹脂の調製を行う。
(註1)
[18F]フッ素イオンを含むターゲット水を AG1-X8 樹脂カラムに通じて、[18F]フッ素イオンを
樹脂に吸着させる。カラムを注射用蒸留水(2 mL)で洗浄した後、注射用生理食塩水(1 mL)
をカラムに通じて[18F]フッ素イオンを[18F]フッ化ナトリウム水溶液の形で樹脂から溶出して
生成する。これに 5 mL の注射用生理食塩水を追加し、0.22 m のメンブレンフィルターを通
して注射用薬剤とする。
註1) メイロンを樹脂に通ずる際、最初強アルカリを示し次第にメイロンの pH へと変化す
ることから、pH をチェックしてイオン形が交換されたことを確認する。
[合成法の特徴と問題点]
18O(p,n)18F
核反応による[18F]フッ素イオン製造の際、ターゲットボックスやフォイルの素材
211
にチタンを用いている場合、48Ti(p,n)48V の核反応により同時にバナジウム-48 が生成される
2,3)。また、低濃縮度の[18O]H2O
をターゲット水として用いた場合、[13N]NOx 等が同時に生成
される事から、これらを取り除くために AG1-X8 樹脂に通じる流速および樹脂の量に注意する
必要がある。
(編者註2)
[18F]フッ素イオンを含むターゲット水を無菌の状態で取り出す必要があり、このためにター
ゲットボックスおよび搬送ラインを注射用蒸留水で十分に洗浄し、パイロジェンフリーの状態
にした段階でターゲット水を充填する。
AG1-X8 樹脂のイオン形として、炭酸水素イオン形の他に酢酸イオン形での生成も可能であ
る。その特徴は、最終薬剤の pH が炭酸水素イオン形における 8 に比べ 7.5 と中性に近い。し
かし、炭酸水素イオン形に比べ[18F]フッ素イオンの AG1-X8 樹脂への吸着効率が若干悪いため
に収率が低下する。
編者註2) その耐食性と低放射化のためニオブ製の照射容器が最近主流となりつつある 4-6)。チ
タン製照射容器では入射窓も同一のチタン合金であるのに対し、ニオブ製照射容器
ではビーム入射窓にハーバホイル(Co (42.5%)、 Cr (20%)、Ni (13%)、W (2.8%)、
Mo (2%)、Mn (1.6%)、C (0.2%)、Be (0.04%)、Fe (balance))を使用するため、93mMo
(半減期:6.85 時間)や
55-58Co
など多くの長寿命核種が照射液中に混入する
5,7)。
従って、これらの核種の除去に関してはチタン製ターゲットボックスを使用する場
合とは別の分離精製法による十分な検討がなされるべきである。
B.分析法
[放射化学的純度]
HPLC
カラム:IC-Pak Ion-Exclusion(内径 7.8 mm X 長さ 300 mm)、Waters
溶離液:1 mM octanesulfonic acid
流
速:1 mL/min
保持時間:7.5 分
0
5
10
15
Elution time (min)
212
20
18.[18F]NaF 合成法
[化学的純度]
電気伝導度検出器を用いることにより測定可能。
C.その他
[毒性]
LD50(経口)
、ラット:0.18 g/kg8)
[被曝線量]
ヒト全身 PET 動態計測による 9)。
実効線量:37 Sv/MBq(ICPR 80)
膀胱壁:220 Gy/MBq、骨表面:40 Gy/MBq、骨髄:40 Gy/MBq
参考文献
1.
Schiepers C., Nuyts J., Bormans G., et al.: J. Nucl. Med., 38, 1970–1976 (1997).
2.
Schlyer D.J., Firouzbakht M.L., Wolf A.P.: Appl. Radiat. Isot., 44, 1459–1465 (1993) .
3.
Mazza S.M., Yoshizumi T.: Nucl. Med. Biol., 21, 677-679 (1994).
4.
Berridge M.S., Kjellström R.: Appl. Radiat. Isot., 50, 699-705 (1999).
5.
Zeisler S.K., Becker D.W., Pavan R.A., et al.: Appl. Radiat. Isot., 53, 449-453 (2000).
6.
Nye J.A., Avila-Rodriguez M.A., Nickles R.J.: Appl. Radiat. Isot. 64, 536-539. (2006).
7.
Wilson J.S., Avila-Rodriguez M.A., Johnson et al.: Appl. Radiat. Isot., 66, 565-570
(2008).
8.
Smyth H.F., Carpenter, C.P., Weil, C.S., et al.: Am. Ind. Hyg. Assoc. J., 30, 470–476
(1969).
9.
Grant F.D., Fahey F.H., Packard A.B., et al.: J. Nucl. Med., 49, 68–78 (2008).
213
編集後記(第1版)
編集後記(第1版)
座右の書なるものは研究者には一つや二つは必ずあるものだが、PET化学者にとって一昔前
までは J.C. Clark と P.D. Buckingham の ”Radioactive gases for clinical use” くらいしかなか
った。ようやく最近になってEC(現在EU)でPET薬剤合成のための実用的な手引書(G.
Stöcklin、V.W. Pike 編 “Radiopharmaceuticals for positron emission tomography”)が編纂さ
れ非常に役立っている。日本でもこのような本ができないものかとPET化学者の集まりである
「PET化学ワークショップ」(通称「冬の学校」)で提案があり、ワークショップ編として本手引
書を作成することが決議されたのは1995年 2 月のことである。翌月末の薬学会で幹事が集ま
って取上げる内容とその執筆担当者を決め、10 月の核医学会では執筆者が持ち寄った草稿をもと
に幹事を含めて執筆上の問題点と今後の方針を話し合った。翌年の 2 月までに何とかたたき台と
しての原本を完成させ、ワークショップで配布するとともに参加者を加えて内容を討議すること
ができた。
執筆者と編集者(石渡、岩田)間の連絡および作成した文章ファイルの送付は、時代を反映し
てほとんどインターネットの電子メールとこれにファイルを添付することで行ったが、ファイル
は遠く離れたコンピュータ間を相互にひんぱんに交換されることになり、迅速な編集処理のため
執筆者の皆様には無理を言って Microsoft Word を共通のプラットホームとして使用するようお
願いした。しかし OS までは統一することができないため、また転送する上でファイルの大きさ
を出来るだけ小さくする必要があったため、掲載する図を制限した。このため、薬剤合成に使用
する装置の流路図を示すことができず、最も不満の残る点となった。
編集上のもう一つの問題点は、第 1 章の不十分さである。この「基礎技術」には 4 つの有用な
技術や情報を集めたが、本来はそれぞれ関連する章の最後に挿入する予定で企画されたもので、
従って全体が基礎技術として体系的にまとまったものとはなっていない。今後現場の声を聞く形
で基礎的技術情報を加えることでより充実したものとしていく必要があるだろう。
このほかにもいろいろな問題点、不完全な点が多々あることは編集者として痛切に実感すると
ころであるが、実際に利用しその経験に基づいて改善すべき点を提案して頂ければと願っている。
また合成上のトラブルや疑問については、その都度ネットワーク等を通じて遠慮無く執筆者や幹
事まで問い合わせていただきたい(そのために執筆者名の下に e-mail アドレスを記してある)。
そうすることで近い将来には、本小冊子が日本のPET化学者の座右の書の一つになれば幸いで
ある。
最後に、本書の校正にあたって樫田義彦先生(放射線医学研究所)には、編集者が見過ごした
多くの誤記の指摘に加え、薬剤名の表記や和英混在表記に関しては貴重な提案をいただくととも
に、有用なエンドトキシン試験法や最近の米国におけるPET薬剤の動向等の情報をお寄せくだ
さった。多くの指摘された修正点はそのまま採用させていただいた。ここに編集者としてまた執
筆者を代表して深謝する。
1996年3月
岩田
215
錬
あとがき(第3版)
あとがき(第3版)
「てびき」が世に出て 10 年余りが経過し、PET 薬剤への要求が多様化する時代の要請を強く感じ
て、この度は第 3 版の制作に至りました。結果として今回の改訂は前回に比べてかなり大幅なも
のになっています。基礎技術は 5 項目から 8 項目に、収載薬剤数では 22 品目から 2 品目削除し、
新たに 19 品目追加して 39 品目になりました。前回改訂からの 7 年間で臨床使用される PET 薬剤
が多様化し、製造技術も確立して来ていることを反映した内容となりました。編集作業はこれま
での記述を見直すとともに、各薬剤に関して既に技術的に確立していると思われる施設の合成担
当者の方々に情報提供(執筆)を依頼しました。技術者にしても研究者にしても自らの権利を守
るべく情報の公開を拒むのが当然な世の中にあって、快く引受けて頂き心から感謝しております。
これまで PET 化学ワークショップ(通称、冬の学校)を核として「PET 化学の技術的底上げとよ
り多くの施設での情報の共有」を目指して培われてきた開かれた同業者意識を改めて再確認いた
しました。また今回の改訂では用語や書式の統一にも注意を払い、冊子としての体裁も大幅に改
善されていると自負しております。ボリュームが第 2 版の約 2 倍になり、編集作業も倍増したの
は言うまでもありませんが、岩田・石渡両先生の熱意により完成に漕ぎ着けたのは言うまでもあ
りません。私も今回から編集に加わったとはいえ、お二人の足を引っ張らないようにするのがや
っとでした。この第3版が多くの PET 薬剤の製造開発に携わる関係諸氏のマニュアルとして多い
に活用されることを心から願っております。
それから、この「てびき」の使い方について注意して頂きたい事があります。この「てびき」は
基準やガイドラインのように製造を縛るものではありません。非常に信頼性の高い成功レシピ集
と考えた方が良いと思います。その信頼性ゆえに多くの方々から支持されて今日に至っていると
思いますし、そのために執筆者にも度重なる推敲をお願いしてきました。また、「てびき」に掲
載された通りやったのに出来ないと言って「てびき」に不満を待たれる方がおられるかもしれま
せん。しかし、PET 化学の現場は施設によりそれぞれ違った環境(サイクロトロン、ターゲット
システム、合成装置等)であることをご理解の上、「てびき」に記述された註の 1 つでも問題解
決に役立てて頂けば、編者の一人として大いに幸いだと思います。困った時は「てびき」に記載
された執筆者のメールアドレスを使って直接相談するのも問題解決への早道かもしれません。
「て
びき」を通して人と人の繋がりを広げることが出来れば、それはとても喜ばしいことだと思って
います。
最後に PET 化学を生活の糧とする皆様の今後の更なるご活躍を祈念して筆を擱きます。
2007年1月
高橋
216
和弘
あとがき(第 4 版)
あとがき(第4版)
昨年のワークショップでのお約束通りに、何とか第4版の出版にこぎつけたことにホッとし
ています。私たち編集者のスタートが遅かったのにもかかわらず、迅速にご協力をいただきま
した執筆者の皆様方に厚く御礼申し上げます。
第1版の編集後記の「本小冊子が日本の PET 化学者の座右の書の一つになれば」
(岩田)と
の思いでこのてびきの編集に関わってきたつもりでしたが、これまで私自身はこのてびきを
時々利用する程度でした。しかし、最近になって、このてびきが本当に頼りにされているのだ
と実感することがあり、その目で見直すと「こんなことも書いてあったのか」と、思いを新た
にしました。
さて、最近の PET 分子イメージング臨床研究の大きな流れの中で、PET・SPECT のイメー
ジング薬剤をどのように利用していくかの議論が欧米を中心に進み、米国では医薬品製造基準
(Current Good Manufacturing Practice: cGMP)に、PET 薬剤に関するガイダンスが 2009
年に最終化されました。国内でもこのような状況を踏まえて対応が検討され、日本核医学会に
「分子イメージング戦略会議」が設置されるなど、今後新たな視点から PET 薬剤の製造なども
議論され、遠からず「標準化」という方向に進むと考えられます。2007 年の第3版のあとがき
には、
『この「てびき」は基準やガイドラインのように製造を縛るものではありません。』
(高橋)
との編集者の考えが示されていますが、来るべき「標準化」においては、本「てびき」が必ず
やそのたたき台となり、また執筆者の皆様が議論の中心となるだろうと思います。一方で、
「標
準化」されたものには、
「論文では書ききれないようなノウハウをできる限り書き入れた」
(1996
年初版、はじめに)内容になることを望むべくもなく、
「てびき」はなおその存在意義を持ち続
けると思います。
PET 化学ワークショップの皆様にこの「てびき」を大いに活用していただけることは、執筆
者や編集者の喜びであり、また誇りです。皆様方の PET 臨床研究への更なる貢献を期待します。
2011年1月
石渡 喜一
183