16.アミロイドイメージング剤合成法 - 東北大学CYRIC 核薬学 Group

16.アミロイドイメージング剤合成法
16.アミロイドイメージング剤合成法
16-1.[11C]PiB 合成法
(石渡
喜一)
[11C]PiB([N−methyl−11C]2−(4’−methylaminophenyl)−6−hydroxybenzothiazole)は、アル
ツハイマー病の脳に蓄積するアミロイドタンパク質(A)を PET により特異的に画像化する
ことを目的として、米国のピッツバーグ大学の Mathis 博士らによって開発された。彼らは、
幾つかの arylbenzothiazole 類似体を、インビトロによるマウス脳やヒト死後脳での結合実験や
サル脳の PET による動態解析により比較検討し、
最も適切な薬剤として[11C]PiB を選択した 1-3)。
臨床研究は、スウェーデンのウプサラ大学及びピッツバーグ大学で開始された 4,5)。アルツハイ
マー病の早期診断という社会要請から、また Wilson らの改良合成法とも相まって急速に広まり、
[11C]PiB PET による診断的意義の解明が進んでいる 6)。
A− 1.[11C]よう化メチル法(Mathis 法)
Mathis らが開発した方法で 2)、下記の反応スキームにより合成する。
CH3OCH2 O
1) 11 CH3 I, KOH,
DMSO, 80°C, 3 min
S
HO
NH2
N
2) HCl, 130°C, 1 min
11
S
N
CH3
N
H
[使用試薬]
[11C]よう化メチル
6−MOMO−BTA−0(前駆体)ABX(註1)
無水 DMSO Aldrich(27,685-5)
KOH特級試薬
HCl特級試薬
酢酸ナトリウム特級試薬
ポリソルベ—ト 80(polyoxyethylene(20) sorbitan monooleate)和光純薬工業
註1) 2−(4’−Methylaminophenyl)−6−methoxymethoxybenzothiazole。合成は Mathis らの
方法による 2)。
[方法]
KOH を乳鉢で粉末にし、反応容器に 10 mg をとり 6−MOMO−BTA−0 の DMSO 溶液(3
mg/mL、0.5 mL)で懸濁する。これに室温下で N2 気流下(30-50 mL/min)[11C]よう化メチル
を通して捕集する。130ºC で 3 分間反応させた後、反応液に 4 M HCl(0.5 mL)を加えて加熱
し(130ºC、1分間)、6 位を水酸基とする。反応液に 4 M 酢酸ナトリウム(0.5 mL)を加えて
185
中和し、HPLC により分離精製する。
分離された[11C]PiB 溶液は、ロータリエバポレーターのフラスコに分取し、溶媒を除いた後、
注射用生理食塩水に溶解する。(註1、2)メンブレンフィルター(0.22 µm)に通し、無菌バ
イアルに捕集する。(註3)
註1) [11C]PiB 溶液は濃縮、乾固により多少の分解が認められるが、前もってアスコルビン
酸(0.2 mL の 100 mg/mL の注射用アスコルビン酸水溶液)を加えておくことで分解
を抑えることができる。
註2) 生理食塩水は 0.25%ポリソルベート 80 を含む。
註3) メンブレンフィルターには、脂溶性薬剤の吸着の少ない Millex-GV フィルターTM(ミ
リポア)などを使用する。
A− 2.[11C]メチルトリフレート法(Wilson 法)
Wilson らが開発した方法で 6)、下記の反応スキームにより合成する。
HO
S
11
NH2
N
CH3OTf
HO
MEK, 80°C, 3 min
S
N
11
CH3
N
H
[使用試薬]
[11C]メチルトリフレート
2−(4’−Aminophenyl)−6−hydroxybenzothiazole(前駆体)ABX 製(註1)
Methylethylketone(MEK)特級試薬
ポリソルベート 80(polyoxyethylene(20) sorbitan monooleate)和光純薬工業
註1) 合成法は Mathis ら方法による 2)。
[方法]
2−(4’−Aminophenyl)−6−hydroxybenzothiazole の MEK 溶液(1 mg/mL)0.25 mL(註1)
に、室温下で He 気流下(30~50 mL/min)[11C]メチルトリフレートを通して捕集し、80ºC で
3 分間反応させる。反応液に H2O で 2 倍希釈した HPLC 溶離液 1.3 mL を加えて希釈し、HPLC
により分離精製する。
以下の処理及び注意点は、[11C]よう化メチル法に準ずる。
註1) 2−(4’−Aminophenyl)−6−hydroxybenzothiazole の MEK 溶液は、半年間は室温で保存
して使用するできるが、徐々に分解が進むので−20 ºC 保存する。
[合成法の特徴と問題点]
[11C]よう化メチル法の Mathis らの原報では 2)、メチル化は 125C で 5 分間反応し、脱保護
反応はメタノール塩酸水溶液として 125C で 5 分間行っているが、筆者らの経験では上記の条
件で反応時間を短縮できた。
[11C]メチルトリフレート法の Wilson らの報告では 6)、室温下で[11C]メチルトリフレートを通
じるだけで、高収率で[11C]PiB を得ているが、筆者らはそれを再現できず、[11C]メチルトリフ
186
16.アミロイドイメージング剤合成法
レートの捕集後に 80C で 1~3 分間反応することにより、[11C]PiB の合成収率を向上させた。
収量を安定させるため、3 分間の反応時間を設定している。また、2−(4’−aminophenyl)−6−
hydroxybenzothiazole の量を増やすと、やや収率は向上する。なお、NaOH の存在下では全く
反応しない。
2 つの合成法を比較すると、[11C]メチルトリフレート法の方が反応は簡単で、収率的にも優
れている。
[HPLC 分取条件]
カラム:YMC-Pack ODS-A(内径 10 mm X 長さ 250 mm)、ワイエムシー
溶離液:CH3CN/50 mM AcOH/50 mM AcONH4 (45/27.5/27.5)(註1)
流
速:6 mL/min
検出器:UV(260 nm)、線検出器
保持時間:2−(4’−aminophenyl)−6−hydroxybenzothiazole 4.1 分、目的物 6.7 分
註1) CH3CN/H2O(45/55)でもよい。
[11C]メチルトリフレート法の例
B.分析法
[放射化学的純度]
HPLC
i)
カラム:TSKgel Super-ODS(内径 4.6 mm X 長さ 100 mm)、東ソー
溶離液:CH3CN/50 mM AcOH/50 mM AcONH4(35/32.5/32.5)
流
速:1 mL/min
検出器:UV(380 nm、260 nm)、線検出器
保持時間:2−(4’−aminophenyl)−6−hydroxybenzothiazole 2.6分、目的物5.5分
ii)
カラム:TSKgel ODS-140HTP(2.1 mm×長さ 50 mm、2.3 m)、東ソー
溶離液: CH3CN/50 mM AcOH/50 mM AcONH4(30/35/35)
流
速:0.5 mL/min
検出器:UV、380 nm(260 nm)、線検出器
保持時間:2−(4’−aminophenyl)−6−hydroxybenzothiazole 1.0分、目的物1.7分
187
C.その他
[被曝線量]
ヒト全身 PET 動態計測による。
線量データ17)
実効線量:4.7 Sv/MBq
胆嚢壁:41.5 Gy/MBq、肝臓:19.0 Gy/MBq、膀胱壁:16.6 Gy/MBq
全身:2.8 Gy/MBq
線量データ28)
実効線量:5.3 Sv/MBq
胆嚢壁:44.8 Gy/MBq、 肝臓:19.9 Gy/MBq、膀胱壁:26.3 Gy/MBq
全身:3.2 Gy/MBq
[急性毒性]9)
雌雄それぞれ 5 匹のラットに、臨床想定の最大投与量の 740 MBq/74 nmol/60 kg の 10,000
倍にあたる 13.0 mol/3.16 mg/kg の PiB を単回投与(腹腔)して、30 分、1、3、6 時間後、
その後 14 日まで 1 日 1 回観察したが、死亡するものはなく、一般状態に異常を認めなかった。
体重増加も正常であり、第 15 日に病理学的検査をおこなった結果、いずれの動物にも異常所見
は認められなかった。LD50:ラット(雌雄、腹腔)、>13.0 mol/3.16 mg/kg
[11C]PiB の臨床用調製薬剤 3 ロットについて、雌雄各 3 匹のラットに臨床想定の最大投与量
(740 MBq/60kg)の 100 倍量(1.23 GBq/kg)を静脈投与し、上記と同様に 14 日間の観察と
病理学的検査をおこなったとき、いずれの動物にも異常所見は認められなかった。
[突然変異試験(Ames 試験)]9)
S. Typhimurium TA98、TA100、TA1535 および TA1537(いずれも S9)を用いて調べた
PiB の復帰変異原性は、4.9 g/plate 以下のアッセイで陰性であった。
Klunk らは、chromosomal aberration、mouse lymphoma mutagenesis、bacterial reverse
mutation assay、mouse micronucleus assay で、遺伝毒性が認められなかったと報告している
4)。
参考文献
1.
Mathis C.A., Basckai B.J., Kajdasz S.T., et al.: Bioorg. Med. Chem. Lett., 12, 295–298
(2002).
2.
Mathis C.A., Wang Y., Holt D.P., et al.: J. Med. Chem., 46, 2740–2754 (2003).
3.
Klunk W.E., Wang Y., Huang G.-F., et al.: J. Neurosci., 23, 2086–2092 (2003).
4.
Klunk W.E., Engler H., Nordberg A., et al.: Ann. Neurol., 55, 306–319 (2004).
5.
Price J.G., Klunk W.E., Lopresti B.J., et al.: J. Cereb. Blood Flow Metab., 25, 1–20
(2005).
6.
Wilson A.A., Garcia A., Chestakova A., et al.: J. Label Compd. Radiopharm., 47,
679–682 (2004).
188
16.アミロイドイメージング剤合成法
7.
Scheinen N.M., Tolvanen T.K., Wilson I.A., et al.: J. Nucl. Med., 48, 128–133 (2007).
8.
O'Keefe G.J., Saunder T.H., Ng S., et. al.: J. Nucl Med., 50, 309–315 (2009).
9.
東京都健康長寿医療センター研究所附属診療所短寿命放射性薬剤臨床利用委員会資料
16-2.[11C]BF-227 合成法
(古本
祥三)
アルツハイマー病に特徴的な脳病理所見である老人斑は、臨床症状である認知機能障害の出
現よりも数十年先行すると考えられている。したがって、生体において老人斑を可視化できれ
ば、従来の診断法よりも早期段階で高精度にアルツハイマー病を診断できるようになると期待
されている。このようなコンセプトに基づき、老人斑の主要構成成分であるアミロイド β タン
パク質(Aβ)の凝集体に対する PET 用リガンド(アミロイドイメージング剤)の開発が進められて
い る 。 [11C]BF-227 ( 5−[(E)−2−[6−(2−fluoroethoxy)−1,3−benzoxazol−2−yl]vinyl]−N,N−
di(methyl)−thiazol−2−amine)は、BF 研究所と東北大学の共同研究によって開発された日本
独自のアミロイドイメージング剤であり、現在、探索的臨床研究が進められている。
A.合成法 1)
下記の反応スキームにより合成する。
11CH
3OTf
aq.NaOH, DMSO
Room Temp
[11C]BF-227
THK001
[使用試薬]
[11C]メチルトリフレート
5−[(E)−2−[6−(2−Fluoroethoxy)−1,3−benzoxazol−2−yl]vinyl]−N−methyl−thiazol−2−amine
(THK001)(註1)
無水 DMSO———Aldrich(276855)
2 M 水酸化ナトリウム溶液———和光純薬(196-05635)
5%ポリソルベート 80/エタノール溶液(註2)
局方 25%アスコルビン酸注射液———扶桑薬品
註1) 委託合成品(委託先:田辺 R&D)
註2) 特級 polyoxyethylene(20) sorbitan monooleate (和光純薬 164-15741)と日本薬局方エ
タノールから自家調製する。
[方法]
THK001(0.125 mg)(註1)を DMSO(0.3 mL)に溶解し、2 M 水酸化ナトリウム溶液(2
189
µL)を加える。この時溶液の色は黄色から赤黄色に変化する。この DMSO 溶液を反応容器に
セットし、室温条件下でバブリング法によりメチル化反応を行う。反応容器にトラップされる
放射能がプラトーに達したら、分取 HPLC 溶離液(0.3 mL)を添加して反応を終了し、He で
軽くバブリング撹拌する。この反応液を HPLC インジェクターのループに導入し(1-7参照)、
分取 HPLC により目的生成物の分離精製を行う。[11C]BF-227 を含む画分を蒸留水で希釈し、
Sep-Pak Plus tC18 カートリッジにロードして[11C]BF-227 を固相抽出する(1-8参照)。カ
ートリッジ固相を蒸留水で洗浄し、HPLC 移動相を除去した後、エタノールで[11C]BF-227 を
溶出する。このエタノール液に 5%ポリソルベート 80/エタノール溶液(1 mL)、25%アスコル
ビン酸注射液(0.2 mL)を添加し、オイルバス加温条件下(80C)でロータリエバポレーター
により溶媒を減圧留去し、残渣を溶解した生理食塩液(適量)をフィルター濾過滅菌(註 2)
して滅菌済バイアル(褐色)に封入する。
註1) 2.0 mg の THK001 を褐色バイアルに量りとり、4.0 mL のアセトンに溶解して褐色バ
イアルに 0.25 mL(0.125 mg)ずつ小分けし、遠心エバポレーターでアセトンを留去
する。溶媒を完全に除去したあとは、冷暗所に保存する。
註2) フィルター名:Millipore Millex-GV、 膜材質:親水性 PVDF、孔径:0.22 m、滅菌:
ガンマー線、滅菌済み、包装:個別包装。
[合成法の特徴と問題点]
本反応で使用する THK001 及び生成物の[11C]BF-227 は、光により二重結合部分がトランス
構造からシス構造に異性化するため、試薬の調製、標識合成反応、分離精製、注射液調製など
を行う際は可能な限り遮光を行うように注意する。溶液の場合、無色透明のバイアル、硝子容
器に入れて一般的な蛍光灯照明下に置いた場合、約 30 分程度でシス-トランスの構造異性化は
平衡状態に達する。一方、溶液を褐色のバイアルや硝子容器に入れて取り扱った場合、異性化
はほぼ防ぐことができる。標識合成時の異性化をさけるためには、東北大学では合成装置の入
っているホットセル内全体を遮光し、高感度カメラで反応容器、エバポレーターに装着したフ
ラスコ等をモニターしながら合成操作を行っている。
[11C]BF-227 はそのままでは水に溶解しないため、生理食塩液に溶解する際にはポリソルベ
ート 80 を溶解補助剤として使用している。また濾過滅菌を行う際は、フィルターの材質によっ
ては[11C]BF-227 が吸着されることもあるので注意を要する。
[11C]BF-227 は、高比放射能、高放射能濃度で製造した場合、放射線分解を起こす傾向にあ
るので注意を要する。
[HPLC 分取条件]
カラム:YMC-Pack Pro C18 RS(内径 10 mm X 長さ 250mm)
+ガードカラム(内径10 mm X 長さ 30 mm)、ワイエムシー
溶離液:CH3CN/EtOH/20mM NaH2PO4 (45/15/40)
流速:6.0 mL/min
検出器:UV(400 nm)、放射能検出器
190
16.アミロイドイメージング剤合成法
溶出時間:THK001(標識前駆体)4.5~5 分、[11C]BF-227 7~8 分
B.分析法
[放射化学的純度]
カラム:YMC-Pack Pro C18 RS(内径 4.6 mm X 長さ 150mm)、ワイエムシー
溶離液:CH3CN/20 mM NaH2PO4 (1/1)
流
速:2.0 mL/min
検出器:UV(400 nm)、放射能検出器
溶出時間:THK001 2.4 分、[11C]BF-227(トランス体)4.5 分、[11C]BF-227(シス体、
異性体)4.9 分
C.その他 2)
[被曝線量]
MIRD 法によって推定された臓器別の被曝線量は下に示す表の通りである。
臓器
線量(µGy/MBq)
臓器
線量(µGy/MBq)
脳
1.87
上方大腸壁
1.97
甲状腺
1.59
下方大腸壁
1.64
胸腺
1.70
副腎
2.27
胸
1.47
腎臓
4.42
心臓
2.44
精巣
1.49
肺
3.68
卵巣
1.92
肝臓
9.67
子宮
1.95
膵臓
2.25
膀胱壁
2.64
脾臓
1.98
骨
1.70
胃壁
1.78
骨髄
1.69
筋肉
3.20
1.60
全身の実効線量当量に換算すると 2.47(女性)~2.50(男性)Sv/MBq となる。
小腸壁
191
[安全性]
単回投与毒性試験から求められた雌雄のマウス、ラットの最大耐容量はそれぞれ 10 mg/kg、
1 mg/kg である。東北大学では、[11C]BF-227 の非放射性担体に対する安全性は、1 回に投与で
きる最大投与量を動物実験で得られた最大耐容量の 10,000 分の 1 以下(安全係数:10,000)と
することで確保している。すなわち、ラットの最大耐容量 1 mg/kg を基準に、安全係数を 10,000、
ヒトの体重を 60 kg として、ヒトに単回投与できる非放射性担体量を 6 µg(18 nmol)以下と
定めている。変異原性については、最大量となる 6 µg を投与した場合において、分布容積を
42 L(0.7 L/kg X 60 kg)とすれば、非放射性担体の生体内濃度は 0.142×10-9 g/mL となり、
変異原性試験(Ames test)で有意な変異が認められた最小濃度 0.0145×10-3 mg/mL(TA100、
+S9 mix)の 10,000 分の 1 以下となり、安全性に問題はないと考えられる。
参考文献
1.
東北大学 CYRIC
PET 核種製造・放射性薬剤合成マニュアル
2.
東北大学 CYRIC サイクロトロン製造放射性薬剤品質管理基準
第3版
16-3.[18F]AV-45 合成法
(寺崎
一典)
[18F]AV-45([18F]florbetapir、4–[(E)−2−[6−[2−[2−(2-[18F]fluoroethoxy)ethoxy]ethoxy] −3−
pyridyl)vinyl)−N−methylaniline)は、米国 Avid 社で開発された 18F-標識アミロイドイメージ
ング剤である。[18F]AV-45 は脳への取り込みが速く、非特異的結合部位から迅速に排出され、
投与 50 分後に平衡に達し、5~10 分の画像収集でコントラストの高い画像が得られるなど優れ
た特徴を有する 1-3)。現在、米国では第 III 相試験が実施されており、世界中に急速に広まりつ
つある。
A.合成法 4,5)
下記の反応スキームにより合成する。
[K+/K.222]18FDMSO
N-Boc-[18F]AV-45
AV-105
3 M HCl
[18 F]AV-45
[使用試薬]
[18O]H2O
[18F]フッ素イオン(註1)
192
16.アミロイドイメージング剤合成法
(E−2−(2−(2−(5−(4−(tert−Butoxycarbonyl(methyl)amino)styryl)pyridin−2−yloxy)ethoxy)ethoxy)ethyl 4−methylbenzenesulfonate (AV-105)
DMSO
Avid(註2)
Aldrich(276855)
無水アセトニトリル———和光純薬(有機合成用)、Merck(1.12636.0050)
Kryptofix 222(K.222)———Merck(8.10647.0001)
炭酸カリウム・1.5H2O———Merck(1.04926.0050)
アスコルビン酸ナトリウム(USP)———Spectrum(SO108)(註3)
無水エタノール注———扶桑薬品(17410)(註4)
3 M HCl(註5)
1 M NaOH———和光純薬(容量分析用、192‐02175)
Sep-Pak Light Accell Plus QMA———Waters(WAT023525)(註6)
Sep-Pak Light C18———Waters(WAT020550)(註7)
Sep-Pak Plus C18 ———(WAT039550)(註7)
Millex-GV———Millipore(SLGV13SL)
註1) [18O]H2O を用い、18O(p,n)18F 反応により製造する。
註2) 臨床使用に関しては Avid 社(Lilly 社)との契約が必要である。
註3) 0.5%アスコルビン酸ナトリウム溶液を注射用蒸留水で調製する。アスコルビン酸ナト
リウム溶液は酸化され易く、また、酸化されると褐変してしまうため用事調製とする。
放射線分解を防ぐ目的で全製造工程を通して加えている。
註4) 注射剤の添加剤として使用できる局法無水エタノールがないため、経皮的エタノール
注入療法用(腫瘍内注入)を用いている。院内製剤として調製した無水エタノールも
使用できる。
註5) 5 M HCl(和光純薬、容量分析用、081-05435)を Milli-Q 水で希釈して調製する。
註6) QMA カートリッジは、炭酸カリウム溶液を通じて炭酸イオン形に変換し、Milli-Q 水
で充分洗浄したものを使用する。
註7) C18 カートリッジは、エタノール(5 mL)を通した後、0.5%アスコルビン酸ナトリウ
ム液または注射用水(10 mL)で洗浄する。
[方法]
[18F]フッ素イオンを、QMA カートリッジ(炭酸イオン形)に通じて吸着させる。[18F]フッ
素イオンを K.222(20 mg)と炭酸カリウム(4 mg)を含むアセトニトリル(0.7 mL)と Milli-Q
水(0.3 mL)との混液 1 mL で溶出し、反応容器に導入する。He 気流下で溶媒を加熱乾固し、
さらに無水アセトニトリル(0.7 mL)を加え、共沸留去によって無水化処理を行う。
AV-105(1 mg)を含む DMSO(1 mL)を加え、110C で 8 分間のフッ素化反応を行う。反
応後、反応容器を 60C 程度まで冷却し、3 M HCl(0.7 mL)を加え 120C、6 分間の加水分解
を行う。1 M NaOH(2 mL)を加え中和後、0.5%アスコルビン酸ナトリウム(5 mL)で希釈
し Sep-Pak plus C18 に通す。0.5%アスコルビン酸ナトリウム(5 mL)でカートリッジを洗浄
した後、アセトニトリル(1.0 mL)で溶出し、0.5%アスコルビン酸ナトリウム(1.2 mL)を加
え、HPLC に導入し分離精製を行う。
193
[18F]AV-45 の分画をリザーバーに分取し、0.5%アスコルビン酸ナトリウム溶液(15 mL)を
加えて希釈した後、Sep-Pak Light C18 に通し、0.5%アスコルビン酸ナトリウム溶液(10 mL)
で洗浄する。[18F]AV-45 を無水エタノール(0.6 mL)で溶出し(註1)、生理食塩水(5 mL)
の入った無菌バイアルに回収し、Millex-GV フィルターに通して(註2)、生理食塩水(15 mL)
の入った無菌バイアル(30 mL)に捕集する(註3)。
註1) 回収されるエタノール量を 0.5 mL に設定し、Light C18 に残留するエタノールを考慮
して 0.6 mL としている。
註2) 滅菌フィルターには、脂溶性薬剤の吸着の少ない Millex-GV フィルターを使用する。
エアーベント付きが市販されていないので、ガス加圧による濾過ではエアーロックが
生じるため使用できない。また、残液量を最小にするため、フィルター直径 13 mm(処
理量:<10 mL)のものを使用している。
註3) [18F]AV-45 の液量は 20 mL、最終エタノール濃度は約 2.5%になる。
[合成法の特徴]
本法では、ロータリエバポレーターによる濃縮乾固を行わず、固相抽出によって得られた
[18F]AV-45 のエタノール液を生理食塩水で希釈して製剤としている。また、エタノールは本剤
の放射線分解防止と可溶化のためには不可欠である。したがって、エタノールの毒性を充分に
考慮し、製剤の安定性が保持できる最小のエタノール濃度を設定することが重要である。仁科
記念サイクロトロンセンターでは、エタノール濃度を 2.5%(最終濃度)と設定している。この
場合、[18F]AV-45 の製造量を 1850 MBq(液量:20 mL)、投与放射能量を 370 MBq(液量:4
mL)とすると、投与されるエタノール量は 100 L となる。実際の投与に際しては、エタノー
ルに対する過敏症がないのを確認し(パッチテスト)、ゆっくり注入することを原則としている。
[HPLC 分取条件]
カラム:Zorbax Eclipse XDB-C18(内径 9.4 mm × 長さ 250 mm)、Agilent
溶離液:CH3CN/0.5%アスコルビン酸ナトリウム(55/45)(註1)
流速:4.0 mL/min
検出器:UV(320 nm または 350 nm)、線検出器
保持時間:11 分
註1) アスコルビン酸ナトリウ
ム溶液は酸化され易く、
また、酸化されると褐変
してしまうため用事調製
とする。他の溶離液とし
て 、 CH3CN/20
mM
AcONH4(0.5%アスコル
ビン酸ナトリウムを含
む)(55/45)も使用でき
る。
194
16.アミロイドイメージング剤合成法
B.分析法
[放射化学的純度]
HPLC
カラム:Zorbax Eclipse XDB-C18(内径 4.6 mm × 長さ 150 mm)、Agilent
溶離液:CH3CN/20 mM AcONH4(55/45)
流速:1.0 mL/min
検出器:UV(320 nm または 350 nm)、線検出器
保持時間:6.5 分
C.その他
[毒性]6)
ラットに対し、予想されるヒトヘ最大臨床適用量(50 g)の 100 倍にまでに相当する非放射
性 AV-45 の単回投与毒性試験、反復投与毒性試験を行ったところ、いずれの投与量においても
特に有意な所見はみられなかった。
[変異原性試験]6)
ラットに対し、予想される最大臨床適用量の 83 倍にまでに相当する非放射性 AV-45 を 3 回
の反復投与し、小核試験を実施ところ、遺伝毒性は有する所見はみられなかった。
[被曝線量]7)
ヒト全身PET動態計測による。
実効線量:19.7 Sv/MBq
胆嚢壁:185 Gy/MBq、小腸:55.4 Gy/MBq、肝臓:44.4 Gy/MBq
全身:11.9 Gy/MBq
[薬理作用]
ラットに対し、中枢神経に対する薬理学的安全性の試験を最大臨床適用量の 100 倍までの
[19F]AV-45 を単回投与、および 25 倍までの量を 28 日間連続投与し、長期影響を観察した。そ
の結果いずれの試験においても中枢神経に対する影響は認められなかった。
参考文献
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