証明図の結論と 仮定 証明図は (根が下, 葉が上にある ) 木の形. 2015 年度 数理論理学 [P ∧ (P → Q)]1 講義資料 (5) [P ∧ (P → Q)]1 P→Q P Q P ∧ (P → Q) → Q 青戸 等人 (新潟大学 自然科学研究科) 証明図の結論 証明図の木の根にある 命題論理式 証明図の仮定 証明図の木の葉にある [A] や [A]i の部分 3/32 目次 推論ステッ プ 証明図は仮定から 始めて , 複数の推論ステッ プを 適用し て 構成さ れる . 証明図の横線で示さ れて いる 1 つ 1 つが推論 ステッ プ. - 自然演繹体系 (1) 証明図, → と ∧ の規則 - 自然演繹体系 (2) ¬ と ↔ の規則 [P ∧ (P → Q)] ∧E P→Q Q [P ∧ (P → Q)] ∧E P →E • 推論の方向は上から 下. • ど のよ う な推論が可能かは推論規則によ り 定めら れる . • ∧E や →E は推論規則の識別子. 4/32 自然演繹体系 仮定の除去 自然演繹体系は 20 世紀の初頭にゲン ツ ェ ン によ り 考案さ れた. 自然 演繹体系は, よ り 形式的な操作に適し たシ ーケ ン ト 計算, さ ま ざま な異 なる 体系を 扱う のに適し たヒ ルベルト 流の体系と と も に, 最も 一般的な 仮定は最初は肩に番号が付いて いないが, 推論の過程で 肩に番号を 付ける . 番号が付いて いる 仮定: 除去さ れた仮定 番号が付いて いない仮定: 除去さ れて いない仮定 証明体系の 1 つである . 自然演繹体系の重要性 • 自然演繹体系は我々 の直観と 合致し た証明体系 (“証明” の構成方法を 規定する 枠組み ) であり , そ の推論方法はそ の ま ま 数学の証明に用いる こ と が出来る . • こ の先に学ぶ述語論理 (∀, ∃ を 扱う 論理) を 包括し た証 明体系と なっ て いる . 述語論理では, 命題論理の推論に加 え て 新し い推論規則が追加さ れる . 例. 除去さ れた仮定と 除去さ れて いない仮定を 指摘せよ . [P → P → Q] P→Q [S → P] P [S]1 →E [S → P] [S]1 →E →E P →E Q 1 S → Q →I 5/32 1/32 証明図 証明図の直観的な意味 自然演繹体系では, 証明図と いう 図を 作る こ と によ っ て 導出を 行う . 証明図の例 [P ∧ (P → Q)]1 [P ∧ (P → Q)]1 ∧E ∧E P→Q P →E Q 1 P ∧ (P → Q) → Q →I 定義 5.1. Γ を 命題論理式の集合, A を 命題論理式と す る . 任意の B ∈ Γ に 対し て [[B]]v = T と なる 付値 v に ついて , [[A]]v = T と なる と き , Γ |= A と 記す. (特に , ∅ |= A は A がト ート ロ ジーである こ と を 意味する . ) Γ を 証明図の除去さ れて いない仮定の集合, A を 証明図 の結論と する と き , 証明図は Γ |= A を 意味し て いる . 例. 2/32 [P → Q] Q [P] →E {P → Q, P} |= Q 6/32 自然演繹体系における 導出 定義 5.2. 結論が A です べて の仮定が除去さ れた証明図を A の証明図と よ ぶ. A の証明図がある と き , A は導出可能 (証明可能) である と いい. そ のよ う な A を 定理と よ ぶ. A の証明図がある こ と (定理である こ と ) は, ∅ |= A, つ ま り , A がト ート ロ ジーである こ と に対応する . (注意) ただし ,「 そ う なる 」 と 記し ただけ で, 現段階では, ま だ証 明を し たわけ ではない. こ の対応関係は, 健全性や完全性 と よ ばれる 性質である . 3. 次に, → の導入規則を 用いて , 次の証明図が得ら れる . [P → Q]1 [P] →E Q 1 (P → Q) → Q →I 4. さ ら に, → の導入規則を 用いて , 次のよ う な証明図が得 ら れる . [P → Q]1 [P]2 →E Q 1 (P → Q) → Q →I 2 P → (P → Q) → Q →I 仮定の除去は, 推論前の証明図にあっ た仮定 [A] の肩に自 然数 i を 付け る こ と によ っ て 行う . ま た, 自然数 i には, そ れ以前に使われて いない新し い値を 用いる . 7/32 自然演繹体系の推論規則 11/32 各推論規則の直観的な意味 命題論理の自然演繹体系に は 12 種類の推論規則がある . ま ず, →, ∧, ∨, ¬, ↔ のそ れぞれの命題結合子について , 導 入規則と 除去規則がある . そ の他に, 排中律と 背理法と い う 特別な規則がある . • → の導入規則は, A を 仮定と し て B を 示せたなら ば, (A を 仮定せずに ) A → B を 示し たこ と になる , と いう 推 論. • → の除去規則は, A と A → B から B が推論でき る , と いう 推論. 英語で 導入は “introduction”, 除去は “elimination” な ので, → の導入規則を →I, ∧ の除去規則を ∧E 等と 記す. 演習 5.3. 以下の証明図に は 3 つの推論が使われて い る . ど の推論が正し く , ど の推論が正し く ないか? 推論規則を 記述す る ために, A を 結論に持つ証明図を 以 下のよ う に記す. .. A [P → Q]2 [Q]1 →E P 1 Q → P →I 2 (Q → P) → P → Q →I 12/32 8/32 → の導入・ 除去規則 (1) → の導入 除去する 仮定の数について (2) → の除去 [A]i .. B i A → B →I .. A→B B 除去さ れる 仮定は, 0 個でも 複数個でも 良い. 演習 5.4. P → Q → P の証明図である . 足り ない部分 (推 論規則の識別子を 含む) を 補え . .. A →E [ ] 1 Q → P →I P→Q→P 推論規則中の [A]i は, 推論規則を 適用す る と き に, 証明 図中に 現われる 仮定 [A] を 0 個以上 (適当な数だけ ) 除去し て よ い, と いう こ と を 意味する . i にはそ れま で使っ て いな い自然数を 用いる . 9/32 証明図の構成例 (1) 演習 5.5. 以下は, (P → P → Q) → P → Q の証明図であ る . 足り ない部分を 補え . 1. 証明図はま ず仮定から 構成する . ]2 [ [P] P→Q は結論が P の証明図. 同様に, は結論が P → Q の証明図と なる . 2. こ の 2 つの証明図から , → の除去規則を 用いる と , 次の 証明図が得ら れる . [P] [P]1 Q →E [P]1 (P → P → Q) → P → Q →I [P → Q] [P → Q] Q 13/32 →E 10/32 2 除去さ れる 仮定が 0 個のと き の → の導入規則は冗長な仮 定を 付加する こ と に相当し , 逆に, 除去さ れる 仮定が 2 個以 上の → の導入規則は何度も 使われて いる 同じ 仮定を 1 つに ま と めて , 冗長な仮定を なく すこ と に相当する . 14/32 ∧ の導入・ 除去規則 (3) ∧ の導入 1. ま ず, 結論が (P → Q → R) → P ∧ Q → R になっ て いる は ずなので, 証明図の形は (4) ∧ の除去 .. (P → Q → R) → P ∧ Q → R .. .. A ∧ B ∧E A ∧ B ∧E A B .. .. A B ∧I A∧B と なっ て いる こ と がわかる . ∧ の除去規則は 2 種類ある が区別し ない. 15/32 証明図の構成例 (2) → の導入で [P → Q → R] と いう 仮定は除去さ れる ので , P ∧ Q → R を 導く のに, [P → Q → R] と いう 仮定を 使っ て も よ いこ と がわかる . そ こ で, 証明図の上の方に覚え 書 き と し て , [P → Q → R] を 書いて おく (証明図完成後には 消し て よ い ). 書いて おいた仮定は, こ れよ り 上の推論の 途中で, 何度でも 使え る (使わなく て も よ い ). ま た, こ れよ り 以前に枝分かれし た証明図の部分では使え ない. 1. 証明図 [P ∧ Q] から ∧ の除去規則を 使う と , D1 = [P ∧ Q] Q ∧E 3. 次も 同様で, 素直に → の導入を 選ぶと 以下のよ う になる . と いう 証明図が作れる . ま た, 同様に D2 = [P → Q → R] [P ∧ Q] .. R P ∧ Q → R →I (P → Q → R) → P ∧ Q → R →I [P ∧ Q] P ∧E も 作れる . 2. 最後に適用でき る 推論規則が複数ある こ と も ある が, 一 般的に は 1 番外側の命題結合子の導入規則を 用いる と よ い. [P → Q → R] .. P∧Q→R (P → Q → R) → P ∧ Q → R →I 19/32 16/32 2. D1, D2 に ∧ の導入規則を 使う と , 20/32 4. こ こ で問題になる のは, ど う やっ て , 2 つの仮定 [P → Q → R] と [P ∧ Q] から , R を 導く か. [P ∧ Q] [P ∧ Q] Q ∧E P ∧E ∧I Q∧P と いう 証明図が作れる . 3. 最後に, → の導入規則を 適用し て , (2 箇所の [P ∧ Q] を 除 去する ) [P ∧ Q]1 [P ∧ Q]1 ∧E ∧E Q P ∧I Q∧P 1 P ∧ Q → Q ∧ P →I 今, R が使われて いる 仮定は [P → Q → R] だけである , と いう こ と から , R を 結論と する 証明図は以下の形の可能性 し かない. .. .. [P → Q → R] P →E Q Q→R →E R 21/32 17/32 定理の証明 5. こ こ で, P や Q が ∧ の除去規則によ っ て P ∧ Q から 導かれる こ と に気がつく と 次の証明図が得ら れる . 命題論理式が定理である こ と を 示すには, そ の命題論理 式を 証明図を 構成す ればよ い. こ のためには, そ の命題論 理式から 始めて , 下から 上へ, 適用でき る 推論規則を 探り ながら , 証明図を 書く . 演習 5.6. (P → Q → R) → P ∧ Q → R の証明図を 与え よ . 18/32 [P ∧ Q]1 ∧E [P ∧ Q]1 P →E ∧E Q →E R 1 →I P∧Q→R 2 (P → Q → R) → P ∧ Q → R →I [P → Q → R]2 Q→R 演習 5.7. (1) P → Q → P ∧ P の証明図を 与え よ . (2) (P → P ∧ P) ∧ (Q → P → Q) の証明図を 与え よ . 22/32 (1) ⊥ (常に 偽と なる 命題) がト ート ロ ジ ーと なる こ と はな い. なぜ, ⊥ を 導く 推論規則が必要なのだろ う か? [P]2 [P]2 P ∧ P ∧I 1 Q → P ∧ P →I 2 P → Q → P ∧ P →I 除去さ れる 仮定はなく て も よ い ([Q]1). ま た, 除去さ れる 仮定が 2 個 以上でも よ い ([P]2). (2) 3 [Q] [P]1 [P]1 2 P → Q →I 3 P ∧ P ∧I 1 P → P ∧ P →I Q → P → Q →I (P → P ∧ P) ∧ (Q → P → Q) ∧I 仮定は自分の分岐の上にある も のし か使え ないこ と に注意. 右の証 明図の [P] が余っ て いる から と いっ て 左の証明図で使っ て はいけない. 導出途中の証明図には, ま だ除去さ れて いない仮定があ る . 証明図の結論は, こ れら の除去さ れて いない仮定から 正し い推論によ っ て 導かれる 結論である . こ れら の仮定は, 正し い命題と は限ら ない. ま た, いく つかの仮定を おいた場合, こ れら が, 一緒に成立でき る よ う な場合も ある . 例え ば, ¬A と A を 同時に仮定し て いる か も し れない. こ のよ う な場合には, 正し い推論によ っ て , 仮 定から 矛盾が導かれる . 演習 5.8. (P → Q) → ¬Q → ¬P の証明図を 与え よ . 23/32 仮定の番号の付け方について の補足 26/32 1. 素直に → の導入で展開し て いく と , 仮定の番号の付け方に意味はない. 番号を 上から 順につ け て も よ いし , 分岐の上であれば区別がつく ので, 同じ 番 号を 使っ て も 構わない. 例え ば, 前ページ の証明図は, 以 下のよ う に番号付けし て 書いて も 構わない. [Q]2 [P]2 [P]2 1 P → Q →I 2 P ∧ P ∧I 2 →I →I P→P∧P Q→P→Q (P → P ∧ P) ∧ (Q → P → Q) ∧I [P → Q] [¬Q] .. ¬P ¬Q → ¬P →I (P → Q) → ¬Q → ¬P →I 2. こ こ で, ¬P が出て く る 論理式が仮定にないので, → の除 去規則では ¬P は導けない. そ こ で, ¬ の導入規則が使え ないか考え る . [P] 証明図の左側と 右側で 2 を 使っ て いる が, 2 つの枝は [A]2 の 仮定を 除去し た後に合流し て いる ので曖昧さ はない. 24/32 目次 [P → Q] [¬Q] .. ⊥ ¬I ¬P 27/32 3. [P], [P → Q], [¬Q] から ⊥ を 導く 証明図に気がつけば, [P → Q]3 [P]1 →E Q ⊥ 1 ¬E ¬P ¬I 2 ¬Q → ¬P →I 3 (P → Q) → ¬Q → ¬P →I - 自然演繹体系 (1) 証明図, → と ∧ の規則 - 自然演繹体系 (2) ¬ と ↔ の規則 [¬Q]2 28/32 24/32 ¬ の導入・ 除去規則 (5) ¬ の導入 [A]i .. ⊥ i ¬A ¬I → の推論規則と の関連性 (6) ¬ の除去 ¬A と A → ⊥ は論理的同値であっ た. ¬ に関す る 推論規則において , ¬A を A → ⊥ と 置き 換え て みる と , → に関す る 推論規則の特殊な場合と みなす こ と ができ る : .. . ¬A A ¬E ⊥ し ばし ば ⊥ は矛盾と 読ま れる . つま り , ¬ の導入規則: ¬A を 示すには, A を 仮定し て 矛盾を 導け ¬ の除去規則: ¬A と A が同時に言え たなら , 矛盾である と よ めばよ い. 25/32 [A]i .. ⊥ i A → ⊥ →I .. A→⊥ ⊥ .. A →E 従っ て , → に関す る 推論を 認める なら ば, ¬ に関す る 推論 はご く 自然に得ら れる 推論である . 29/32 まとめ ↔ の導入・ 除去規則 (7) ↔ の導入 (8) ↔ の除去 [A]i [B]i .. .. B A i A ↔ B ↔I .. A↔B B .. A ↔E .. A↔B A .. B ↔E 30/32 →, ∧ の推論規則と の関連性 A ↔ B と (A → B) ∧ (B → A) は論理的同値であっ た. ↔ に 関す る 推論規則に お いて , A ↔ B を (A → B) ∧ (B → A) と 置き 換え て みる と , → と ∧ に関する 推論規則に よ る 推論ステッ プの省略と みなすこ と ができ る : .. (A → B) ∧ (B → A) ∧E A→B B • → と ∧ に関する 導入規則と 除去規則 定理の証明 • ¬ と ↔ に関する 導入規則と 除去規則 ⊥ を 矛盾と よ む → と ∧ に関する 規則と の関係 ↔ の除去規則は 2 種類ある が区別し ない. [B]i [A]i .. .. A B i →Ii A → B →I B → A ∧I (A → B) ∧ (B → A) • 自然演繹法 証明図, 推論規則, 導出 仮定の除去 導出可能性, 定理 .. A →E 従っ て , → と ∧ に関する 推論を 認める なら ば, ↔ に関する 推論はご く 自然に得ら れる 推論である . 31/32 32/32
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