高速外乱オブザーバを用いた単相インバータの検出遅延誤差補償とデッド

高速外乱オブザーバを用いた単相インバータの
検出遅延誤差補償とデッドタイム誤差補償
◎永井 悟司,Le Hoai Nam・長野 剛・折川 幸司・伊東
淳一(長岡技術科学大学)
1.はじめに
近年,太陽光発電システムの小型化の観点から系統連系
vL
P  6 kW
V dc  380 V
インバータに用いる連系リアクトルの小型化が求められ
L
v ac  200 V rms
ている。連系リアクトルはスイッチング周波数を高周波化
Vdc
iout
vac fsw  100 kHz
することでインダクタンスを小さく設計できる。しかし,
L grid  106 μH
vconv
外乱抑圧性能が低下するため,デッドタイム誤差電圧の影
( Z L  0 .5 %)
響が大きくなり,インバータ出力電流のひずみ率(THD)が
T d  1.0 μs
(1)
悪化する。一方で,従来のデッドタイム誤差補償 では電
流センサや AD コンバータの遅延時間の影響で制御周期
Fig. 1. Main circuit of grid-connected inverter.
が制限される問題がある。
Control System Circuit
本論文では,FPGA を用いた高速サンプリングと外乱オ
vac
ブザーバ(2)(3)を適用し,デッドタイム誤差と検出遅延時間
vconv*
1
1
+
+ +
*
Vdc
iout
PI
iout
+
- sL
に伴うインバータ出力電流 THD の改善手法について検討
V
dc
*
+

v
c
dis
iout
vdead
する。シミュレーション結果により,提案法の有用性を確
 sT
- + s  c
+
e delay
認したので報告する。
c L
2. 外乱オブザーバを用いたデッドタイム誤差補償
図 1 に系統連系インバータの回路図を示す。今回は一般
Fig. 2. Dead-time error compensation by the disturbance observer.
的な単相 2 レベルインバータについて検討する。
Grid voltage vac[V]
Grid voltage vac[V]
図 2 に外乱オブザーバを適用した提案デッドタイム誤
200
200
差補償法を示す。デッドタイム誤差は電圧外乱として表わ
0
0
される。そこで,インバータ出力電流 iout を用いてデッド
-200
-200
タイム誤差を補償する外乱オブザーバを構成する。外乱電
Output current iac[A] THD:19.7% 50 Output current iac[A] THD:3.3%
50
圧を vdis とすると外乱電流 idis は(1)式で求められる。
v
0
0
idis  di s ................................................................................(1)
sL
-50
-50
ここで,vdis は外乱成分である系統電圧 vac,デッドタイム
40[ms]
40[ms]
0
20
20
0
誤差電圧 vdead の和となる。(1)式より連系リアクトルのイ
(a) Conventional method
(b) Proposed method
ンダクタンス L が小さい場合,idis が増加するため,外乱
Fig. 3. Output current waveform in conventional method and
抑圧性能が低下する。一方,外乱補償電圧 vdis*は(2)式で求
proposed method.
められる。
50
vdis 
*

c
 sT
*
vconv  c Lioute
c  s
delay
  Li
c
e
out
 sTdelay
fso:Sampling frequency of
disturbance observer
...............(2)
40
 sTdelay
は電圧指令値, e
は電流検出,AD 変換で発生する遅
延成分である。
3. シミュレーション結果
図 3 にシミュレーション結果を示す。今回はスイッチン
グ周波数 fsw は 100kHz,デッドタイム Td は 1sec,遅延時
間 Tdelay を 3μs とする。今回は遅延時間を変化させた時の
外乱抑圧性能をインバータ出力電流 THD より評価する。
なお,外乱オブザーバのサンプリング周波数 fso は 100kHz
とする。図 3(b)より,提案制御適用時は力率 1,およびイ
ンバータ出力電流 THD は 5%以下となり,良好に系統連
系できていることがわかる。
図 4 にインバータ出力電流 THD と出力電力の関係を示
す。結果より,定格出力時のインバータ出力電流 THD が
従来法では 19.7%に対し,提案法を適用した場合の THD
は 3.3%となり,83.2%改善できていることを確認した。こ
こで,Tdelay が 3μs 時には THD が悪化するが,提案制御適
用後は軽負荷領域においても良好に外乱抑圧でき,THD
が改善できていることがわかる。したがって,連系リアク
トルのインダクタンス値を小さく設計した場合において
も提案する外乱オブザーバを使用することによりデッド
タイム誤差及び検出遅延誤差を補償でき,連系リアクトル
を小型化可能であることが確認できた。
Output current THD [%]
ここで,ωc は外乱オブザーバのカットオフ周波数,vconv*
Conventional method
Tdelay:3s
30
Tdelay:0s
20
Tdelay:3s
10
Proposed method
Tdelay:0s
0
0
0.2
0.4
0.6
Output power P [p.u.]
0.8
1
1 p.u.=6 kW
Fig. 4. Inverter output current THD - Output power characteristics.
今後の課題として,実機実験による提案外乱オブザーバ
を用いたデッドタイム誤差補償の有用性の確認が挙げら
れる。
参考文献
(1) 杉本英彦・小山正人 他:「ACサーボシステムの理論と設計の
実際 - 基礎からソフトウェアサーボまで - 」,総合電子出版社
(2) 星野哲馬・伊東淳一:電気学会産業応用部門大会(2007.8) 1-4
pp.[I-175]~[I-180]
(3) Nils Hoffmann: ECCE, IEEE2012 pp.69 – 76