怪盗クイーンと魔界の陰陽師 お蔵出し

怪盗クイーンと魔界の陰陽師
バースディパーティ 後編
お蔵出し
作/はやみねかおる
絵/K2商会
★怪盗クイーン お蔵出し その1★
くら
だ
お蔵出し みょう
ぜんぺん
どうも、はやみねかおるです。
かい とう
ま かい
おん
じ
こう へん
『怪盗クイーンと魔界の陰陽師 バースディパーティ後編』、まもなく
はつばい
発売になります。
こうへん
編は、かなりカットしたのですが、前編よりも二百ページほどふえ
後
てしまいました。
ぶ ぶん
分は、どうなるか?
カットした部
い
くら い
れて、そのままお蔵入りに
いつもなら「グラフィティフォルダ」に入
こんかい
あお
とりぶん こ
するのですが、今回、青い鳥文庫のウェブサイトにアップしてくださる
ほんぺん
か
ぶ ぶん
ということなので、すこしだけひっぱりだしてきました。
げんこう
稿は、本編に書かれていない部分です。
カットした原
きょく
アールディー
きん む たい ど
たび じ たく
しゅう
ちゅう
たとえば──。
ごう
り
ごく
Dがトルバドゥール号の修理をしているとき、中国では
クイーンとR
なにがおきていたか?
ゆうびん
便局でバイトするゲルブの勤務態度、旅支度するエレオノーレ。
郵
はらいーとう
よう す
伊島にわたる、ホテルベルリンの様子。
原
ー
プ
ン
セ
サ
ミ
──などなど。
たの
くら だ
すこしでも楽しんでいただけたら、お蔵出しをしたかいがあるのです
が──。
オ
pen Sesame!
それでは、O
★怪盗クイーン お蔵出し その1★
シ
ー
ン
Scene ・
ぶ
りょうげ ん
01
げん ち
じ
め
かお
しゅう
ひか
現地にやってきました。」
ま
りゅう
しつもん
もくげき
りゅう
たい
もくげき
ろうじん
「あなたが、竜を目撃したのですか?」
に ほん ご
にゅうね ん
お
り、入念なリハーサルがされている。
りゅう
まちがいなく竜だ。」
あば
ぼし
うご
み
じょせい
め暴れているように見えたよ。」
ろうじん
こえ
ほくせい
やま
おく
き
きれず泣いてるんだろう。」
な
りゅう
きず
ご
すす
じょうほ う
りゅう
じょせい
くる
やま
りゅう
う
じんがい ま
み
ちゅうご く
きず
きょう
ちょうじょうげ ん しょう
ご
いた
み
し
ぶ
き
味な声がきこえるようになったのは──。あれは、竜が傷の痛みにたえ
み
「竜は、北西の山の奥に消えていった。それからだ。山のほうから不気
りゅう
人のことばに、女性レポーターがうなずく。彼女は中国語を知らな
老
き
いのだが、だれもそんなことは気にしない。
かのじょ
や流れ星の動きじゃない。わしには、傷ついた竜が、苦しみに身をゆが
なが
本語訳のテロップがはいるようになっている。
オンエアのときは、日
つき あ
そら
ひか
きょだい
やみ
き
さ
ひ こう き
「月明かりのない空を、光る巨大な竜が闇を切り裂いていった。飛行機
に ほん ご やく
「わしだけじゃない。そのとき起きていた者は、みんな見た。あれは、
もの
本語での質問。それに対し、老人は、中国語でこたえる。このあた
日
ちゅうご く
面目な顔をして、テレビカメラにむかって話す女性レポーター。
真
はいけい
さんかん
らく
もくぞう
いえ
た
景は、山間の集落。いくつも、木造の家が建っている。
背
じょせい
つえ
た
こ がら
ろうじん
性レポーターが、杖にもたれるように立っている小柄な老人にマイ
女
クをむけた。
はな
ンターズ』取材班は、光る竜が目撃されたという情報を受け、さっそく
しゅざいはん
うことばにふさわしい奥地です。われわれジャパンテレビ『超常現象ハ
おく ち
「ここは、中国の武陵源からさらに二百キロほど進んだ、人外魔境とい
ちゅうご く
02
しゅ ざい はん
りゅう
き
おく ち
せん
にゅう
はやくち
「 わ れ わ れ 取 材 班 は、 す ぐ に 竜 が 消 え た 奥 地 に 潜 入 す る こ と に し ま し
た!」
ろうじん
ほりこし
性レポーターが、老人にむけていたマイクをもどすと、早口でいっ
じょせい
女
た。
「よーし、カット!」
よこ
じ
き ざい
で、ディレクターズチェアにすわっていた堀越ディ
テレビカメラの横
た
レクターが立ちあがる。
し
「オープニングはこれぐらいでいいだろう。」
ほりこし
りゅう
アー
ほりこし
越ディレクターの指示のもと、スタッフが機材をかたづけはじめる。
堀
ひか
「しかし、光る竜なんて、ほんとうにいるんですかね?」
ひ と り
ちゅうご く じ ん りゅうが く せ い
み
人──Aが、堀越ディレクターにいう。
スタッフの一
もと
けい じ ばん
「だいたい、元ネタも、うそかほんとうかわからないネット掲示板への
か
書
き こ み で し ょ? そ れ を た ま た ま 中 国 人 留 学 生 の バ イ ト が 見 つ け て
うら
さつえい
。ちゃんと、裏づけをとってから撮影にはいってもよかったんじゃ
たい
りょう
いっ と かん
も
あ
し
ちょうし ゃ
え
と
ひ と り
おお
かったらいなかったで、それなりの映像を撮ればいい。
こう と
光塗料は一斗缶で持ってきただろうな?」
「は〜い、だいじょうぶです!」
りょう
つか
りゅう
へん じ
や
おーい、夜
夜光塗料を、いったいなんに使おうというのだ……?
や こう と
越ディレクターにきかれ、スタッフの一人が大きな声で返事した。
ほりこし
堀
─
こえ
待してチャンネルを合わせた視聴者をがっかりさせないこと。竜がいな
─
越ディレクター。
あっさりこたえる堀
しんじつ
に
つぎ
や
だい じ
き
「真実かどうかなんて、二の次だ。テレビ屋にいちばん大事なのは、期
ほりこし
「そんなことは、どうでもいいんだよ。」
ないですか?」
─
★怪盗クイーン お蔵出し その1★
★怪盗クイーン お蔵出し その1★
かんが
アー
しんぞう
アー
かた
かんが
そう考えると、Aの心臓がドキドキする。
いちにんまえ
や
「おまえも一人前のテレビ屋になりたいのなら、よけいなことを考えな
いのち
いことだ。」
ほりこし
ちょう
ひ
りゅう
越ディレクターが、Aの肩をポンとたたいた。
堀
し
りつ
ほりこしたかふみ
かれ
ばんぐみ
しんじつ
き たい
聴率命のジャパンテレビ堀越隆文。彼がつくる番組に、真実を期待
視
もの
する者はいない。
しゅっ
ちゅう
ちゅうご く
ご
「さぁ、いくぞ! 日があるうちに、竜がいるところまでいくんだ。」
ぱつ
ほりこし
ろうじん
はな
発しようとした堀越ディレクターに、老人が話しかける。
出
はやくち
ごく ご
かれ
り かい
口の中国語。もちろん、彼には理解できない。
早
「このじいさん、なんていってるんだ?」
ほりこし
き
も
もの
りゅう
のろ
─
と。」
越ディレクターは、中国語のわかるスタッフにきいた。
堀
やま
かんけい
やま
しんせい
し ぜん
「山にはいるなといってます。竜に関係なく、山は神聖なもの。自然を
うやま
敬う気持ちがない者がはいれば、呪われる
うご
し
ちょうり つ
あたま
きがとまる。
そのことばに、スタッフの動
へん か
ほりこし
かれ
化がないのは堀越ディレクターだけだ。彼は、頭をガシガシかいて
変
からいった。
や
おも
「あのな、じいさん。われわれはテレビ屋なんだ。視聴率をとるためな
のろ
おも
みぎ て
ら、呪いなんかすこしもこわくない。みんな、そう思ってるんだ。」
ちょうり つ
─
。」
ろうじん
せ
ってないぞ!」と右手をブンブンふる。
スタッフが、いっせいに「思
しん ぱい
「心配してくれるのはうれしいが、いかなきゃならないんだ。そこに、
し
ほりこし
視聴率がとれるネタがあるかぎり
かっこう
好よくまとめて、堀越ディレクターは老人に背をむけた。
格
おお に もつ
せ お
荷物を背負ったスタッフが、しぶしぶとつく。
そのあとに、大
ほりこし
やまみち
み
越ディレクターたちが、きゅうな山道のむこうに見えなくなったと
堀
★怪盗クイーン お蔵出し その1★
ろうじん
はしら
なんぼん
き、老人はぼそりとつぶやいた。
き かい
きょだい
「∂奇怪……。」
いわやま
─
すす
ひかり
あいだ
おも
こ
みどり
山が、巨大な柱のように何本もつきだしている。その間を、濃い緑
岩
がおおっている。
すす
たいよう
おも
ま
やみ
お
めばいいのか
というより、進んでもいいのかと思わせる、
どこを進
みち
さんどう
しげ
き ぎ
道ともいえない山道。うっそうと茂った木々が、光をさえぎる。
こ だち
やみ
─
立のむこうに太陽がかくれたと思ったら、あっという間に闇が押し
木
がいとう
くも
つき
ほし
み
よせる。外灯など、あるわけない。雲がでてきたのか、月も星も見えない。
しん
い
じょうす す
き けん
きょう
の闇
。
真
ぜんいん
も
ふう
なか
員、ハンドライトを持っているのだが、強風の中のマッチのように
全
やく
た
役に立たない。
ほりこし
ほりこし
「堀越ディレクター、これ以上進むのは危険です。」
ちょう
「…………」
イコール
き けん
て まね
ほりこし
越ディレクターはこたえない。
スタッフのことばに、堀
かれ
き けん
おも
ほり こし
も、危険だと思っている。しかし、堀越ディレクターにとっては、
彼
き けん
し
りつ
「危険 = 視聴率がとれる」なのだ。
き けん
やま
やみ
険さん、うえるかむ! と、危険にむかって手招きする堀越ディレ
危
クターだった。
き
─
き
ぎ
あいだ
ぬ
ぶ
き
み
おと
になるのは、山をつつんでいる闇。
気
くら
えいぞう
と
まったく……。こんなに暗かったら、おもしろ映像が撮れないじゃ
し ぜん
ないか。リアルな自然ってやつも、こまったもんだ。
かれ
らは木々の間を縫ってやってくる不気味な音をきいた。
そのとき、彼
ココーン、ココーン……。
ココーン、ココーン……。
★怪盗クイーン お蔵出し その1★
おと
あい ま
くう き
うたごえ
そして、音の合間にきこえる、空気をふるわせる歌声。
こえ
ヘイヘイホォ〜ヘイヘイホォ〜……。
おと
「なんだ、この音は……。」
ほりこし
ま
やま
なが
なぞ
うたごえ
し しゃ
まね
かれ
あたま
越ディレクターの声が、どことなくうれしそうだ。彼の頭
つぶやく堀
ばんぐみ
もん く
には、すでに番組のあおり文句ができている。
かい き
─
うやま
うやま
あたま
ほりこし
じ
くだ
て
うず ま
すす
『怪奇! 魔の山に流れる謎の歌声。それは死者を招いてるのか?』
いっぽう
ぜんいん
ろうじん
方、スタッフ全員の頭には、老人のことばがよみがえっていた。
一
し ぜん
き も
もの
やま
のろ
自然を敬う気持ちのない者が山にはいれば、呪われる……。この
なか
し ぜん
き も
中で、自然を敬う気持ちのないのは、だれだ?
ぜんいん
も
員が、いっせいに堀越ディレクターをハンドライトで照らした。
全
ココーン、ココーン……。
のろ
ヘイヘイホォ〜ヘイヘイホォ〜……。
なか
さんどう
の中で、『呪い』という文字がグルグルと渦巻く。
あたま
スタッフの頭
「うわぁ〜!」
ひ めい
さつ えい き ざい
鳴をきっかけに、いっせいに山道を下りだす。あれほど進
だれかの悲
じ かん
やま
しん
むのに時間がかかった山を、信じられないスピードでかけおりる。
ま
ほりこし
「 お い、 ち ょ っ と 待 て! に げ る な! せ め て、 撮 影 機 材 を お い て い
け!」
お
ひかり
ふたた
いかける堀越ディレクター。
スタッフのあとを追
み
やみ
やま
が見えなくなり、再び闇におおわれた山に、
ハンドライトのゆれる光
ココーン、ココーン……。
ヘイヘイホォ〜ヘイヘイホォ〜……。
ぶ き み
おと
うたごえ
おも
よど
気味な音と歌声だけが、重いガスのように淀んでいる。
不
怪盗クイーンと魔界の陰陽師
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