「精神・知的障害に係る障害年金の認定の地域差に 関する

2015(平成 27)年7月 28 日
厚生労働大臣
塩 崎
恭 久
殿
日本年金機構
水島
藤一郎
殿
「精神・知的障害に係る障害年金の認定の地域差に
関する専門家検討会」委員各位
東京・無年金障害者をなくす会
代表幹事
兼 平
勝 子
「精神・知的障害に係る障害年金の認定の地域差に
関する専門家検討会」への要望書
東京・無年金障害者をなくす会は、1998(平成 10)年に全ての無年金障害者問題の解決を求めて結成
しました。学生無年金訴訟はじめ、障害年金の無年金問題解決のために運動を続けています。
納付要件や初診日の確認等ができない、保険料の納付や免除の手続きがうまくできない、行政の教示
ミスや年金診断書の不備等々で障害年金の受給ができないなどの理由から、無年金状態で生活している
方々がたくさんいます。日本は国民皆年金制度といわれていますが、無年金障害者を生み出す状況は今
なお続いています。
昨年から障害年金認定における地域間格差等が新聞報道され、今年 2 月から「精神・知的障害に係る
障害年金の認定の地域差に関する専門家委員会(以下、専門家委員会)」を開いて地域間の認定格差の是
正に取り組むということでしたが、検討内容をみていると、格差問題の多面的検討なしに認定が厳しい
方向で統一されて障害年金を受給できない障害者を増やすのではないかという危惧を持つに至りました。
私たちは、憲法第 11 条から 13 条(人権保障の基本原則)
、第 14 条(法の下の平等)に照らし、その
ようなことがあってはならないと考えます。当会としては、障害者が「私らしく生活していける権利」
を享受する(第 13 条「幸福追求権」
)ために障害者が所得を保障されることを求めて、厚生労働省及び
日本年金機構に対して下記を要望します。
また、専門家検討会の委員の皆様には「精神・知的障害の障害年金の認定の地域差」問題のみならず、
障害年金の認定にかかる問題について多角的・総合的な検討とご判断をお願いするところです。無年金
障害者の増加につながらないように、下記の要望を考慮してご検討下さるようお願いします。
なお、専門家検討会の開催と並行して、都道府県ごとの認定単位を全国 9 ブロック制にする案が報道
発表されていますが、この案を直ちに撤回することを厚生労働省に求めます。まずは現状起こっている
問題の改善を早急に進めていただきたく、併せて要望します。
1
記
1.障害認定基準に起因する格差の問題を認識し、改善してください
格差が生じる原因の一つは、障害認定基準の「障害状態の基本」が非常に厳しいことにあります。
これを厳格にあてはめる地域とそうでない地域では、格差が生まれるのは当然のことであると思い
ます。また、
「障害状態の基本」と認定要領で書かれている内容は、明らかに矛盾しています。
国民は等しく人間らしく社会で当たり前に暮らす権利があり、精神障害者、知的障害者も国民と
して健常者と同様にそれを享受する権利があります。ところが「障害状態の基本」を厳格にあては
めるならば、ほとんどの障害者が障害年金を受給できなくなる恐れがあり、生活が脅かされてしま
います。
「障害状態の基本」はただちに見直し、現在の医療・福祉の到達点を見極めながら、時代に
ふさわしい障害年金の認定基準を検討してください。
2.ガイドラインの導入は、慎重に検討して下さい
まず、年金診断書における「日常生活能力の判定」や「日常生活能力の程度」については、その
基準があいまいであるがゆえに年金診断書を作成する医師の間でも混乱があることは察して余りあ
ります。
しかしながら、ガイドライン導入を行う場合にこの二項目の数値化が客観的指標として妥当なも
のとなり得るのか、慎重に検討してください。また、障害ごとの特性に配慮したガイドラインを考
えてください。
次に、総合判定で考慮する要素として、①現在の病状または病態像、②療養状況、③生活環境、
④就労状況、⑤その他の 5 つが挙げられています。しかしながら、これらの項目を指標として「障
害状態の基本」と結び付けて評価されていれば、障害状態が過小評価されるケースが増えることは
明らかです。考えられる憂慮される状況は、サービスへの抵抗感が強い障害者が必要なサービスを
受けられていない(過去に受けていなかった)場合や医療機関の都合で外来受診の頻度が空いてい
る(過去に空いていた)場合、一人暮らしをしている場合、就労している場合等があげられます。
また、⑤その他において障害者手帳の等級なども検討されているようですが、障害者手帳の診断
書を作成する医師の理解不足やその診断書を作成する手引きが不十分であることから、その診断書
の内容が必ずしも障害のある本人自身の障害状態を適切に表していない場合も見受けられます。そ
の意味では、障害年金診断書と同じような問題が障害当事者や支援関係者の間でも認識されており、
このような課題を精査する必要性があるとともに、課題の整理がないままに総合判定のあり方が厳
格化につながる事のないよう、認定基準の改正と合わせて慎重な議論を望みます。
3.現状の認定システムで改善できるものを最優先に考えてください
障害年金の認定医は人数が少ないことから、障害年金の診断書やその他の書類を見て十分な審査
ができる時間や体制がとれていない現状は、既にご承知のことと思います。また窓口対応の問題点
などについても同様ですが、まずはこれらを改善してください。早急に認定医の数を増やし、判断
に迷うケースは合議を可能にするなどのシステムの検討を望みます。障害年金の受給権が守られる
2
ように窓口職員の研修等を充実させ、資質を担保するような体制がとれるようにご検討いただきた
いと思います。
なお、年金診断書作成医に対する「障害年金診断書作成にあたっての詳細な手引書」の作成や研
修の実施を考えてください。その際は所得保障としての障害年金のあり方をしっかりと示してくだ
さい。また、障害者の日常生活能力の判定には、具体的な生活状況(≒その障害者の生活障害)の
把握が不可欠です。診断書に偏った認定のあり方も見直してください。
また、特に級落ちや不支給など裁定の変更や審査請求・再審査請求の結果の理由については、でき
るだけ具体的で分かりやすい表現や説明を望みます。
4.調査のあり方とその結果の問題点を見直し、現状課題が分かる調査の実施と検討を考えてください
今回の専門家委員会にあたってプレスリリースされた調査対象は、障害基礎年金の新規のみとい
う極めて限定的なもので、格差問題の全容を明らかにしていません。特に受給者や支援関係者間で
問題になっている「就労(福祉的就労を含む)
」していることで障害年金が不支給となっているケー
スの増加や更新時の認定で級落ちや停止が増えている等の実態は、この調査からでは見えてきませ
ん。問題点を明らかにするためにどのような調査が必要かを再検討し、再度調査の実施を要望しま
す。また、障害年金認定にかかる地域差に関する検討のみでなく、当事者や医師以外の専門家を交
えた総合的な認定格差の検討や認定基準の見直しのために検討会を準備されることを切に望みます。
5.認定基準や認定システムが一般の人にも分かりやすい説明書などを作成してください
現在の認定基準の説明は抽象的で難解です。障害当事者や家族にもわかるような平易な言葉で書か
れたパンフレットを作成してください。障害年金の請求を行う場合に請求手続きから決定までのプロ
セスと不服申し立てなどについて、障害者やその家族が分かりやすい説明書を作成してください。
以上。
【団体の所在地】
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(電話)03-3207-5636
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