復興農学による科学技術コミュニケーション推進事業の

復興農学による科学技術コミュニケーション推進事業の展開
Future Aspects of Science Technology Communication for
Outreach Projects of Agriculture in Fukushima
徳本家康 1, 西脇淳子 2, 坂井勝 3, 加藤千尋 4,廣住豊一 5,渡辺晋生 3, 塩澤仁行 6, 溝口勝 7
1 佐賀大学,2 茨城大学,3 三重大学,4 弘前大学,5 四日市大学,6 ムシテックワールド,7 東京大学
要旨
福島の「復興農学」に関する科学技術コミュニケーションの推進により,小・中学校の義務教
育機関では放射線教育の教材や情報のニーズが高いことが明らかとなった.今年度のアウトリー
チ活動では,主に子供向けの安価な線量計の開発に取り組み,科学館における出前授業や教員向
けセミナーを実施することで土に関わる放射線教育の情報提供と教材開発を行った.また,ベル
ギーの原子力研究所(SCK)と本事業の連携により,インターネットを活用した放射線教育の資
料を提供頂いたので報告する.
キーワード:
復興農学, 放射線教育,アウトリーチ活動, セシウム除染
Key words: Recovery of agriculture, Radiation Education, Outreach projects, Cesium decontamination
1.はじめに
2014 年度に科学技術振興機構(JST)によって採択された「復興農学の科学技術コミュニケー
ション推進事業」により,復興農学に関する蓄積されたデータや有益な工法による土壌除染効果
の解釈を市民へ普及および浸透するためのアウトリーチ活動の実施に至った.本事業では,農業
農村工学会 土壌物理研究部会および土壌物理学会の若手研究者をはじめ,福島の農業復旧に取り
組む認定特定非営利活動法人「ふくしま再生の会」が中心となって“対話型ネットワーク”の連
携強化を図り,福島の科学館および教育機関に対して研究成果を情報提供することで,地域性を
反映させた“教育型ネットワーク”の構築を目指した.とりわけ,初年度の活動において,福島
県の小・中学校に対して義務づけられた放射線教育の活動時間(2 時間/ 年)を効果的に活用する
ための課題が明らかとなった.そこで,3 カ年事業の中間年度に当たる 2015 年には,子供向けの
安価な線量計の開発に取り組み,科学館にお
ける出前授業や教員向けセミナーを実施す
ることで土に関わる放射線教育の情報提供
と教材開発の改良を主な目的とした.また,
ベルギーの原子力研究所(SCK)と本事業の
連携により,インターネットを活用した放射
線教育の資料を提供頂いたので報告する.
2.方法
2. 1
参加機関との連携の状況・ネットワー
ク活用
本事業のネットワーク形成型では,主要な
参加機関3つ(NPO ふくしま再生の会,科
図 1 これまでに形成した科学技術コミュニケーション
ネットワークの概略図
学館ムシテックワールド,学協会である土壌物理学会)を軸として,これまでに飯舘村教育委員
会および草野・飯樋・臼石小学校へとネットワークの拡充・展開を図った(図1).また,ネット
ワークを活用し,外部評価委員会の設置と地域社会系の専門家である服部俊宏
講師(明治大学
農学部)や SCK のアウトリーチ活動部門(Eagle project)のスタッフの方々にもご協力頂いてい
る.
2. 2
主な活動内容
2015 年における主な活動内容 5 項目を以下に示す.
(1) ムシテックワールドでのポスター展示とイベントの充実化,常設展ブース設置による一般
市民向けアウトリーチの加速.巡回展示等による広域情報発信の検討.
(2) 現場観測と現場見学会への支援継続.現場状況を広く情報発信し,ふくしま再生の会と一
層の交流化.
(3) モデル小学校での復興農学教育継続,動画サイトの利用などによる広い授業展開.大人向
けの現状理解のためのイベント企画.
(4) 地域社会系の専門家の指導のもと,科学者と一般市民間での双方向コミュニケーションの
ためのアンケート作成と各イベント時のアンケート調査.NPO 団体との連携により,リス
クコミュニケーションの推進化.
(5) 国際学会および国内学会における発表を通じた,被災地の現状や放射線教育の成果報告.
3.平成27年度の上半期の成果
本事業では,これまで予定通り,すべての計画を
実施して有益な成果を挙げることができた.特に,
教育型ネットワークの構築において特筆すべき成果
を以下に挙げる.
(1) 科学館での出前授業・教員セミナーの実施
(2)ミサオネットワークとの線量計の教材開発
(3)SCK の放射線教育のネット教材の提供
図2 出前授業で受講証明書を手に喜ぶ子供たちの様子
成果(1)では,小学校低学年以下の児童 49 名と保
護者 47 名の参加があり,土壌中の放射性セシウムに対する,
土の吸着とろ過の働きについて学んでもらった(図2).一方
データの可視化
線源
で,教員セミナーを開講し,小・中学校の先生 計 10 名に成
果(2)の線量計を利用して頂き(図3),
「線量計を用いた教
グラフ化
線量計
材が望まれるが通常使われている線量計が高価過ぎること等」,図 3 開発した線量計による遮蔽実験
現場の声を聞くことができた.また SCK におけるセミナーで
は,放射線に関わる多くの研究者やアウトリーチ活動部門のス
タッフと交流を行った(図 4)
.子供向けの放射線教育には,
インターネットによるアニメーション,クイズやゲーム等があ
り,研究と一般市民との距離を縮めるような工夫に繋がってい
た.今後は,これらを参考に放射線教材や資料の開発に力を注ぐ 図 4 SCK におけるセミナーの様子
ことでアウトリーチ活動に貢献していきたい.
[謝辞]本アウトリーチ活動は,JST の科学技術コミュニケーション推進事業機関連携推進「ネットワーク形成型」によって
実施された.また各担当者の採択された競争的資金によって運営された.深謝いたします.