人工肝臓 - 日本人工臓器学会

●人工臓器 ─最近の進歩
人工肝臓
藤田保健衛生大学医学部 麻酔・侵襲制御医学講座
中村 智之,西田 修
Tomoyuki NAKAMURA, Osamu NISHIDA
1.
である。
はじめに
理想的な人工肝臓は,腎臓における血液透析のように,
肝臓の機能は,代謝,解毒,免疫,排泄など多岐にわたる。
長期的に肝機能を代替するものでなければならないが,ま
他の臓器機能や身体全体の恒常性の維持に重要な役割を果
だ実現されていない。しかし,肝不全症状に対する有力な
たし,生命維持に欠かせない臓器である。肝不全の病態に
対症療法として,人工肝臓はこの数十年の間に数多くの進
なると,蛋白合成能の障害により,凝固や免疫に関する蛋
化を遂げてきた。全身状態を良好に保ち,移植までのつな
白が枯渇し,出血傾向や易感染性を引き起こす。また解毒
ぎ(bridge to transplant)や 肝 の 再 生 を 待 つ(bridge to
能の障害により,いわゆる肝性脳症と呼ばれる意識障害を
regeneration)ための治療手段として非常に有効である。
惹起したり,脳浮腫,腎障害などの合併症の原因となる。
肝臓の 2 大機能は,上述したように合成能と解毒能に集
このように肝不全が進行すると,多臓器不全を呈して死に
約される。人工肝臓には,少なくともこれらの機能の代替
至る。急性肝不全でも,慢性肝不全の急性増悪でも,その
が求められる。現在の人工肝臓は,従来の血液浄化療法の
死亡率はいまだに高く,肝不全は集中治療領域の重要領域
発展である機械的人工肝臓と,細胞を利用したバイオ(生
となっている。
物学的)人工肝臓とに大別される(図 1)
。さらに,機械的
肝臓は本来,高度な再生能力を有する臓器であるが,十
分な肝の再生が得られない限り,現在のところ肝移植しか
有効な治療法はない。肝移植の普及により救命率は劇的に
向上しているが,移植医療の先進国である欧米でもドナー
人工肝臓において,本邦と欧米とでは異なる発展をしてき
た。本稿では,主要な人工肝臓の方法を解説する。
2.
機械的人工肝臓(artificial liver support: ALS)
不足が深刻な問題であり,移植待機中に多くの患者が死亡
細胞由来のデバイスを利用せず,人工物のみで構成され
している。本邦では,2010 年 7 月に改正臓器移植法が施行
た方法であり,従来の血液浄化療法の発展である。合成能
され,
「本人の臓器提供の意思が不明な場合であって,遺族
の代替としては,血漿交換が行われる。一方,解毒能にお
がこれを書面により承諾するとき」でも,脳死患者からの
いては,本邦では肝性昏睡起因物質などの毒素は水溶性で
臓器提供が可能となった。脳死肝移植も増加してきている
あるとの仮定の下,血液浄化量を飛躍的に増加させる方法
ものの,全体から見てその数は極めて少なく,生体肝移植
が発展した。肝臓が本来処理すべき毒素にはアルブミンに
に頼らざるを得ないのが現状である。一方で,肝移植に頼
結合したものも多く,欧米ではアルブミン結合毒素除去を
ることなく約 40%が肝再生により回復しているとの報告
目的にアルブミン透析とその変法が発展した。
もあるように 1),移植以外での救命が可能であれば,これ
1) 血漿交換(plasma exchange: PE)
に越したことはない。この意味で,人工肝臓は非常に重要
肝臓における合成能の代替として,凝固因子をはじめと
する必要蛋白を補充するために行われる。通常 1 回の PE
■著者連絡先
藤田保健衛生大学医学部 麻酔・侵襲制御医学講座
(〒 470-1192 愛知県豊明市沓掛町田楽ヶ窪 1-98)
E-mail. [email protected]
に 30 ∼ 40 単位の fresh frozen plasma(FFP)を用いるが,解
毒・排泄能の補助という面では十分ではない。肝性昏睡起
因物質を除去する目的で行っても,一時的な効果しか得ら
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図 1 人工肝臓の分類
れないことが多く,肝性昏睡からの覚醒を主目的に連日行
覚醒が得られることは明らかにされてきている 7) 。本邦で
うのは勧められない。解毒は後述する高効率血液浄化療法
行われている ALS は,細かな点で相違はあるが,基本的に
などで対処する。
は,肝の解毒能として透析液流量と濾過流量を増加させた
PE は大量の FFP を用いるので,医療資源的にも安易な
施行は避けるべきである。本邦での保険診療上は概ね 7 ∼
10 回と規定されている。凝固能や臨床上の出血傾向の有
無を評価しながら,できるだけ間隔をあけて施行する。
high flow-volume(C)HDF を行い,合成能としての PE を組
み合わせて行う。
個人用(濾過)透析装置と個人用 reverse osmosis(RO)装
置を用いて,RO 精製水とキンダリー液 ® やカーボスター
FFP にはクエン酸ナトリウムが含まれるので,FFP を大
液 ® などの透析液原液から透析液を作製し,30 l/hr(500
量に投与することでイオン化カルシウムの低下による循環
ml/min)程度の超高速で流すことで,非常に優れた覚醒効
抑制,代謝性アルカローシス,高ナトリウム血症などの合
果が得られることが報告されている 6),8) ∼ 11) 。施行時間は,
併症が起こる可能性がある。また,膠質浸透圧の低下によ
多くは 6 ∼ 10 時間程度であるが,12 ∼ 24 時間の長時間施
る肺水腫や脳浮腫などの問題もある。PE を後述する高効
行も可能である。濾過に関しては,前希釈で行う場合と後
率血液浄化療法の上流に組み込むことで,これらの合併症
希釈で行う場合とがある。使用する置換液量が同じであれ
を軽減できる 2) 。
ば後希釈の方が効率は良いが,血流の 25%以上の濾過は困
通常,PE は 2 時間程度で施行するが,これらの合併症を
難であるため,効率には上限がある。置換液は,バッグベー
軽減する目的と,ビリルビンなどの分子量が大きく血管外
スで行うことが多いが,作製した透析液自体を置換液とし
プールの大きな物質の除去効率を上げる目的で,ゆっくり
て用いる on-line HDF 装置も実用化され,透析医療では一
と 6 ∼ 7 時間かけて施行する slow PE(SPE)も行われてい
定の条件の下で保険が認められ行われている。使用される
る 2)
。
浄化器(膜)は様々で,厳密には HDF 用の浄化器を用いる
2) 高効率血液浄化療法
べきであるが,通常のダイアライザも多く使用されている。
本邦では,肝性昏睡起因物質は水溶性かつ中分子量物質
また,持続緩徐式血液濾過用のヘモフィルターを用いてい
との考えで血液浄化療法を行い,意識改善効果が報告され
る施設もある 6) 。
てきた 3) ∼ 5) 。しかしながら,透析液流量を増大させるこ
我 々 は,個 人 用 透 析 装 置 で 大 膜 面 積(2.1 m2)の poly-
とでも覚醒が得られることから 6),現在では小分子量物質
methyl methacr ylate(PMMA)膜ダイアライザを用いた
の 関 与 も 考 え ら れ て い る。 い ず れ に せ よ,continuous
HDF を考案し,sustained high-efficiency daily diafiltration
hemodiafiltration(CHDF)や hemodiafiltration(HDF)など
using a mediator-adsorbing membrane(SHEDD-fA)10),11) と
の血液浄化量を飛躍的に増加させることで肝性昏睡からの
して,その有効性を報告してきた。施行条件は,血液流量
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いる透析液や置換液を大量に使用すると,低リン血症,低
カリウム血症になる。また,抗生物質の投与も十分に行う
必要がある。透析装置を用いた方式では,水質管理のみな
らず,通常より長期の使用となるので装置のメンテナンス
も重要である。
3) アルブミン透析とその変法
肝 臓 が 処 理 す べ き 物 質 に は,ビ リ ル ビ ン,胆 汁 酸,
中・短鎖脂肪酸などアルブミンに結合したものも多い。透
析や濾過などの従来の方法は,水溶性毒素が除去できるの
みであるとの考えの下,欧米ではアルブミン結合毒素の除
去を目的として,透析液にアルブミンを追加する方法や,
図 2 HMGB1 クリアランス(15 分値)
血液 ( 試験液)クリアランス = 吸着クリアランス + 濾過クリアランス。
この実験系での濾過クリアランスの理論的な最大値は 17 ml/min(点線)
AN69ST 膜では,吸着による HMGB1 の高いクリアランスを示している。
(文献 16 より改変して引用)
大孔径膜を使用してアルブミンを含む血漿蛋白成分を分離
す る 方 法 が 行 わ れ て い る。 前 者 と し て Molecular
,後者としては
Adsorbents Recirculating Systems(MARS®)
P r o m e t h e u s ®〔f r a c t i o n a t e d p l a s m a s e p a r a t i o n a n d
adsorption(FPSA)
〕が代表的である。MARS® は 1990 年代,
(QB)は 150 ml/min,透析液流量(QD)は 300 ∼ 500 ml/
Prometheus ® は 2000 年代になってから臨床応用された比
min,濾過量(QF)は後希釈法で 1.25 ∼ 1.5 l/hr,施行時間
較的新しい方法であるが,両者とも日本には導入されてお
は 1 回が 8 ∼ 12 時間であるが,覚醒が得られるまでは連続
らず臨床使用できない。
で行い持続施行とする。覚醒が得られたら間歇の施行とす
MARS ® は,血液回路とアルブミン回路から成る。血液
る。透析液は透析液原液と RO 水から作製するが,置換液
回路では,アルブミン不透過性膜を介して,血液とアルブ
はサブラッドや重炭酸リンゲル液を用いたバッグベースの
ミンが対向して還流する。アルブミン回路には高濃度アル
置換である。サイトカインなどの除去能に優れ 12),肝性昏
ブミン液が充填され,アルブミン濃度差による結合の競合
睡からの覚醒のみならず,全身状態を良好に保つ上でも有
により,アルブミン結合毒素が拡散し,アルブミン回路内
効である。PE を施行する時は,SHEDD-fA との直並列で行
のアルブミンに結合する。アルブミン回路には,透析器,
う。
活性炭吸着器,イオン交換樹脂が組み込まれている。透析
また,急性肝不全では,高サイトカイン血症となってお
による拡散で水溶性毒素を除去し,さらに,活性炭と陰イ
り,これが全身状態の悪化につながっていることが指摘さ
オン交換樹脂による吸着でアルブミン結合毒素を除去し,
れているが 13),high flow-volume(C)HDF によりメディ
再度アルブミン透析液として利用される。
エータが除去され,覚醒効果のみでなく,全身状態の改善
肝性脳症を伴う肝硬変患者において,脳症の改善とアン
と維持に効果がある可能性もある。High mobility group
モニア,ビリルビン,胆汁酸,クレアチニン,芳香族アミノ
box 1(HMGB1)は,敗血症をはじめとする様々な炎症性疾
酸などの改善が報告された 17) 。その後,行われた RELIEF
患における late onset proinflammatory cytokine であり,炎
study 18) では,慢性肝不全の急性増悪患者において,標準
症反応増幅や細胞死誘導を行う「死のメディエータ」とし
治療群に比べ 28 日生存率の改善を認めることはできな
。肝不全においても,HMGB1 が上昇
かったが,MARS ® の安全性,有意な透析効果,重篤な肝性
て注目されている 14)
し,その病態形成に重要な役割を果たしている可能性が示
脳症の改善傾向を認めた。
。2014 年秋に,重症敗血症に対して保険
Prometheus® では,アルブミンが透過する 250 kDa の膜
適用となる AN69ST 膜(SepXiris ®)は,サイトカイン吸着
を介して血液濾過を行い,アルブミン分画を分離する。ア
能 が 高 い こ と が 知 ら れ て い る。 最 近 の 我 々 の 研 究 で,
ルブミンを含む濾液は,中性樹脂吸着器と陰イオン交換樹
AN69ST 膜を用いた血液浄化療法で HMGB1 を驚異的な効
脂による吸着でアルブミン結合毒素が除去され,再度血液
率で除去可能であることが明らかとなり(図 2)16),肝不全
回路に戻る。その下流に組み込まれた透析器で,水溶性毒
においてもその有効性が期待される。
素の除去も行われる。アルブミン製剤は必要としない。
唆されている 15)
高効率血液浄化療法の長時間連日施行では,有用物質の
MARS® と比較した研究では,レニン活性や NO を含む血
除去についても留意する必要がある。腎不全用に作られて
管作動物質を低下させることに伴う血行動態の改善は
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MARS® にしか認めないが,Prometheus® ではビリルビン,
特に間接ビリルビンの低下を認めた 19)
。その後の HELIOS
study 20) で は,慢 性 肝 不 全 の 急 性 増 悪 患 者 に お い て,
肝細胞への遺伝子操作による可逆性不死化ヒト肝細胞
や 25),肝 細 胞 へ の 分 化 能 を 有 す る ヒ ト 胚 性 幹 細 胞 26)
(embr yonic stem cells: ES 細胞),ヒト人工多能性幹細
Prometheus ® 治療群は標準治療群と比べ,28 日および 90
胞 27),28)(induced pluripotent stem cells: iPS 細胞)などが,
日生存率の改善を認めなかったが,model for endstage
次の世代の細胞元として研究されている。
liver disease(MELD)score が 30 点以上の重症例でのサブ
グループ解析では有意な予後改善を認めている。
本邦では,江口らがアルブミンふるい係数 0.3 の膜型血
また,バイオリアクターは BAL の核となる部分であり,
培養細胞の確実な接着と生存維持,肝特異的機能の確実な
発現,効率の良い物質交換が可能であることが必要とされ,
漿分離器エバキュアーEC-2A ®(川澄化学工業株式会社)を
その設計は非常に重要である。コンパクト,高密度細胞培
用いて血漿交換と透析を同時に行う方法である plasma
養,細胞と血液の効率良い接触,安定した体外循環が要求
filtration with dialysis(PDF)21) を考案し,その有効性を報
される。中空糸膜型が最も多く使用され,膜外に培養細胞
告している。エバキュアーEC-2A ® の中空糸の外側に,サ
を充填する方法や中空糸内に培養細胞を封入し中空糸外側
ブラッド液 ® を透析液として灌流するが,血漿分離用の膜
に血液を流す方法などがある。培養細胞が組織状に 3 次元
であるので,廃液中には血漿も多く含まれることになる。
構造を形成すると,高機能化,高細胞密度化が可能となり,
置換液には,FFP とアルブミン液,さらにサブラッド液 ®
機能発現や臨床応用にも有利とされる。
を混合した溶液を投与する。SPE + CHDF の FFP 使用量の
近年の急速なバイオテクノロジーの発展に伴い,この分
約 1/2 ∼ 1/3 で同等の効果があることが報告されている。
野でも大きな進歩が見られているが,残念ながらいまだ臨
血液浄化量は少なく意識改善効果は少ないため,high flow-
床応用には至っていない。以下に,主要な BAL について記
volume PDF も 試 み ら れ て い る。PDF は MARS ® と
す。
P r o m e t h e u s ® 両者の利点を兼ね備えている可能性があ
1) HepaMate ™,HepatAssist ™
り 22),今後が期待される。
米国 Food and Drug Administration(FDA)の許可を得
バイオ(生物学的)人工肝臓(bioartificial liver:
3.
BAL)
て,ヒトへの臨床試験が行われた初めての BAL である。中
空糸型バイオリアクターの膜外に,マイクロキャリアに固
定化した凍結ブタ肝細胞を充填し,中空糸内部に患者血液
ALS では,肝の 2 大機能である合成能と解毒能を代替し,
から分離した血漿を通して物質交換を行う。2004 年に,
肝不全に伴い生じる合併症のリスクを軽減する。しかし肝
Demetriou らにより多施設前向き無作為化臨床試験が行わ
の機能はそれらを含め,さらに数百種以上にも及び,その
れた 29) 。30 日生存率は,HepatAssist ® 治療群で 71%,コ
全てを人工的に補うことは困難である。そこで培養細胞を
ントロール群で 62%と統計学的有意差は認めなかった。
利用することで,肝臓が本来果たすべき機能を代替するの
劇症肝不全 / 亜劇症肝不全患者のサブグループ解析では,
が BAL である。多くは体外循環回路内に,培養細胞を固定
HepatAssist ® 群において統計学的にわずかな改善を認め
化したモジュール(バイオリアクター)を組み込む方法で
た。
2) Extracorporeal Liver Assist Device(ELAD®)
あり,ハイブリッド型人工肝臓とも呼ばれる。
使用する細胞はヒト正常肝細胞由来のものが理想である
中空糸型モジュールの外側にヒト肝芽腫由来 C3A 細胞
が,深刻なドナー肝不足,ex vivo での培養や増殖が困難,
を充填したシステムである。アンモニア,ビリルビンなど
凍結保存に弱く長期保存ができない,機能発現が不安定な
の有害物質除去や肝性脳症の改善が報告されているが 30),
ど,問題が多く,非現実的である。そのため,かつてはブ
明らかな生存率の改善は認められず,大規模多施設研究の
タ肝細胞が利用され,臨床利用もされていたが,ブタ内因
報告はない。ヒト細胞由来であるが腫瘍由来細胞であり,
性レトロウイルスの異種感染の問題が指摘されたため 23),
肝特異機能の発現が不安定である可能性があること,およ
異種動物由来細胞を用いることは難しい。ヒト腫瘍由来細
び細胞が患者側へ流入する危険性が指摘されている。
胞は増殖能を有するが,いくつか肝特異機能が欠落してい
3) Modular Extracorporeal Liver System(MELS®)
ることと,患者血液中に腫瘍細胞が流入する可能性があ
血漿流入,流出,ガス交換の 3 種類の中空糸が 3 次元的に
り 24),倫理的に問題がある。細胞元としては,十分な機能
編み込まれ,それらの中空糸の外側に肝細胞を充填したバ
発現に加え,必要時に安定した大量供給が可能,培養が容
イオリアクターと,吸着,透析を直列に配置したシステム
易,長期保存が可能なヒト由来細胞が望ましい。ヒト正常
である。初期にはブタ肝細胞が利用されていたが 31),ヒト
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肝細胞へと移行している 32) 。肝小葉類似構造が構築され,
能を代替する可能性を秘めており,さらなる発展が期待さ
効率良い代謝,換気,細胞固定が期待できる。急性肝不全
れる。
8 例において,移植への橋渡しとしての安全性が報告され
ている。しかし,装置が複雑でコストが高い。
4) Academic Medical Center
本稿のすべての著者には規定された COI はない。
BAL(AMC-BAL®)
らせん状親水性ポリエステル不織布にブタ肝細胞が 3 次
元的に充填され,酸素供給用の中空糸が組み込まれている。
患者血漿と肝細胞が直接接することにより,生体内での正
常な灌流状態を再現でき,最適な物質交換と酸素供給が行
われる。また,均一な酸素供給と代謝産物の蓄積防止が期
待できる。第 1 相試験では,12 例の肝移植待機患者に導入
され,11 例で肝移植が成功し,1 例では肝移植なしで改善
した 33) 。
4.
おわりに
本邦と欧米では,ALS において異なる発展を遂げた。し
かし,解毒能を代替して脳症などの合併症を回避し,移植
までの橋渡しをする治療法としては,両者とも確立されつ
つある。本邦の方法では,PE 施行時にしかアルブミン結
合毒素は除去できないことになるが,それでも優れた覚醒
効果,全身状態の改善を数多く経験している。今後,質の
高い多施設共同臨床研究が本邦から発信されることに期待
したい。
一方,BAL も進歩は見られるが,いまだ一部の国で試験
的に臨床使用されているのみである。移植までの橋渡しで
は ALS でも比較的良好な成績が得られるようになり,根治
術として肝移植が確立されているが,それでも BAL には多
くの期待が寄せられている。PE では合成能を代替するが,
実際には凝固能をモニタリングしながら,出血傾向を回避
しているのが主な側面である。FFP では失活している蛋白
もあり,全ての必要蛋白を補充できるわけではない。また
病態に応じて,その時々の個体にとって必要な蛋白を,量
や種類,時期まで調整できるわけでもない。
肝性昏睡起因物質が明らかになっていないのと同じく,
肝再生促進物質も明らかになっていない。高効率血液浄化
療法などの施行は除去可能な物質を非選択的に除去するた
め,肝の解毒能を強力に代替する一方で,肝の再生を遅ら
せている可能性もある。近年の急速なバイオテクノロジー
の発展をもってしてもまだ発見できていない肝性昏睡起因
物質や肝再生促進物質は,それぞれ単一物質ではなく,サ
イトカインをはじめとする種々の物質が織り成すネット
ワークのようなものかもしれない。これを ALS で再現する
のは,非常に困難だろう。BAL では,培養細胞を利用する
ことで,不全自己肝に代わり,複雑多岐にわたる肝臓の機
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