慢性呼吸不全患者のセルフマネジメントをサポートする 公益財団法人田附興風会医学研究所 北野病院 呼吸器センター 福井 基成 慢性呼吸不全患者のセルフマネジメントは、疾患の悪化を防ぎ、健康関連 QOL を向上・維 持するために不可欠である。特に在宅においてはその重要性はさらに増す。具体的には、 呼吸や病気への理解、服薬遵守、禁煙、ワクチン接種、急性増悪時や災害時の対応、息切 れを軽減する方法、栄養の適正摂取、社会資源などの活用、酸素や人工呼吸器の正しい使 用、体力の増進・維持などが大切である。さらに、近年エンド・オブ・ライフについて自 ら考えることも重視されている。 これら患者のセルフマネジメントを高めるには日頃の患者教育が重要であるが、それだけ でなく、患者のセルフマネジメントを医療側が積極的にサポートする仕組みづくりが重要 であると思われる。これらについていくつかの例を挙げてみたい。 服薬、特に吸入薬の使用にあたり、吸入手技が誤っていたり、治療アドヒアランスが 低下して、治療効果が低下することがしばしば見られる。これらを防ぐために、病院 の呼吸器内科医や薬剤師が、地域の薬剤師会や保険薬局とでネットワークを形成し、 地域で統一された吸入手技を定期的に指導するシステムをつくることが有効である。 大規模災害時には、患者が酸素療法や人工呼吸療法を速やかに再開できることが重要 であるが、その際、酸素流量や人工呼吸器設定など必要事項を記載したものを携帯し ておくことが大切である。また、Ⅱ型呼吸不全の場合、急性増悪で救急搬送される際、 高流量の酸素投与によって CO2 ナルコーシスを来すことが後を絶たないが、これも救 急隊が低濃度から酸素投与を開始できるようなシステムを構築すべきである。 息切れの軽減のためには、日常生活動作の工夫が必要であるが、病院と自宅では状況 が全く異なる。入院時から自宅での生活を想定してのリハビリや環境整備を行うこと が必要である。その際、地域の医療・介護との連携を図る地域医療コーディネーター がその調整に活躍している。また、退院後も訪問リハビリが入ることで、自宅の状況 に合ったセルフマネジメントを指導することが可能となる。 近年、非がん患者においても、アドバンス・ケア・プラニングが注目されている。す なわち、患者がエンド・オブ・ライフをどう生き、何を大切にしたいかを家族や医療 者と共有することである。特に在宅医療への移行時にはこの患者の意思決定支援が極 めて重要となってくる。 患者のセルフマネジメントは非常に重要であるが、在宅療養における管理面だけが強調さ れてはならない。最終目標はあくまでも自宅でのより良い「暮らし」を取り戻すことであ る。医療者はこれを色々な角度から支え続けることが重要である。
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