運動会での再会 小学校の運動会。 サザエは、ビデオカメラの撮影係として観戦に来ている。 競技の半分を終え、昼食の時間。 サザエとワカメとカツオが、ワカメのクラスで昼食をとる。 ワカメの友達 ワカメちゃん、徒競走二位おめでとう! ワカメ ありがと! ワカメの友達 午後の玉入れもお願いね。 ワカメ 任せて! サザエ ワカメの友達、優しいね。 ワカメ うん、ずいぶん助けられてる。 サザエ ところで、敬五君って運動会に参加してるの? カツオ もちろんだよ。 サザエ 会ってみたいな。 カツオ 急いで食べて支援学級に行こう。 三人で、支援学級に行く。 ワカメ あ、居た。 カツオ 先生、姉が敬五君に会いたいというので、連れてきました。 支援学級の先生 おー、どうぞどうぞ。敬五君のお姉ちゃんとお母さんも来てるよー。 ワカメ (敬五に)こんにちは! 敬五 こんにちは! ワカメ お姉ちゃん、この子が敬五君だよ。 サザエ 始めまして。何年生? 敬五 一年生です。 サザエ まあ、入ったばっかりね。私は、サザエといいます。 イカコ サザエちゃん!? サザエ え? イカコ 私よ、イカコ! サザエ え、イカちゃん!? イカコ うわぁ、なんてこと!今、東京に住んでるの。 サザエ そうなんだー! カツオ 誰だい、姉さん。 サザエ 高校の同級生のイカコちゃんよ! イカコ 敬五は、ダウン症という障がいがあるの。 ワカメ ご安心ください。私もダウン症なんです。 イカコ 普通学級なの? すごい! 校内放送 ピンポンパンポン、間もなく午後の部が始まります。校庭にお集まりく ださい。 サザエ あまり話せないわ。イカちゃんとお母様、この後、一緒に観戦します? イカコ うん、もちろん。 サザエ じゃ、色々話そう。 生徒たちは、校庭に戻り、サザエたちは観戦席に行き、色々話す。 午後の部が始まり、敬五の出番が来る。 生徒たち け・い・ご!がんばれ、け・い・ごー!け・い・ご!がんばれ、け・い・ ごー! イカコ 凄い応援。どうしてみんな敬五のこと知ってるの? サザエ カツオの仕業だわ。カツオのクラスの子たちが中心になってる。 イカコ カツオ君にありがとうって伝えて。 敬五の母 ありがとうございます(泣)。 イカコ ヤダ、母さん、泣かないでよ。 サザエ 敬五君の勇姿もしっかりカメラに収めとくわ。 サザエ、敬五をカメラで撮る。 サザエ そういえば、敬五君が小学一年生ってことは、7 歳? イカコ そうよ、7 歳。 サザエ じゃ、イカちゃんが高校生の時に生まれたってこと? イカコ うん、私が 17 歳の時。生まれてすぐダウン症って診断されたから、誰 にも言えなかったの。 サザエ え? そうだったの。 イカコ うん、だからワカメちゃんを見て、びっくりしちゃった。時代は変わっ たのかな。すごいね。自分でダウン症って言い出すの凄い勇気だし、普 通学級だなんて信じられない。 サザエ モザイク型なのよ。障がいの程度が軽いんだって。 イカコ 敬五は、トリソミーよ。初めから支援学級。・・・実はね、私を生んだ後、 母さん、五度流産したの。そうして生まれてきた待望の息子がダウン症 だったの。だから、死んでいった五人を偲んで、敬五って名付けたの。 サザエ 良い名前ね。 イカコ でもね、格式ばった家柄だったから、父の理解が得られなくて、離婚し て、私が高校を出たころ、東京に越してきたの。母は、シングルマザー でここまでやってきたの。 サザエ そんなの酷いわ。 イカコ いいの、私たちは大丈夫。強くなったわ。 敬五の母 私は、生んで後悔した人を知りません。 運動会は、無事終了し、サザエとイカコらは連絡先を交換し、 帰途につく。 家に帰って、家族そろってビデオを観る。 波平 ワカメ、大活躍だな。 ワカメ ありがとうお父さん。みんなに助けられてることに改めて気付いたわ。 波平 カツオも運動会に関しては、文句なしの満点だな。 カツオ お父さん、勉強も頑張ってるんだよ。 波平 結果がすべてだ。社会はそんなに甘くないぞ。 カツオ あ、お父さん、この子が敬五君だよ。 波平 ・・・兄さんによく似ておる。この応援は? カツオ 僕が、クラスのみんなにお願いして、敬五君を応援したんだ。 波平 カツオ、お前というやつは・・・(泣)。 サザエ 敬五君って、不思議な子よ。 カツオ なんだか惹きつけられるんだ。 ワカメ 好きになったかも。 サザエ あんな素直な子、初めて見たわ。カツオも見習いなさい。 ビデオに録音されたサザエとイカコたちの会話が流れる。 ビデオからの声 ・・・生んで後悔した人を知りません。 フネ 私は、ワカメを誇りに思います。 波平 ワシもこの家族を誇りに思うし、これからも支える。 カツオ じゃあ、僕は敬五君の家族を支える。男手が必要なときもあるだろうか ら。 フネ カツオは優しいね。 カツオ そうやって育てられたからね。家族ってそういうものだと思うんだ。敬 五君は愛情に飢えている。そんなのフェアじゃない。ワカメが居場所を 見つけたのと同様、僕も居場所を見つけたんだ。 波平 カツオ、頼むぞ。ワシも全身全霊をかけてサポートする。 フネ 私も応援しますよ。 サザエ 私も。イカちゃん、喜ぶわ。 カツオ 任せて。なんだか僕、リミッターが外れたみたいなんだ。何でもできそ うな気がする。 ワカメ お兄ちゃんすごいよ。 カツオ すべてワカメのおかげだよ。ワカメ、君は気付いていないかもしれない けど、本当にすごいのは君だよ。 ワカメ 私が? カツオ そうだよ、みんなワカメから勇気をもらった。どこにもないような家族 の形が創られようとしている。我が家から世界に発信したい。ダウン症 は奇跡だと。何となく生まれて、何となく人生を送り、何となく死んで いく。そんな人生、つまらないじゃないか。みんなに教えてあげるんだ。 ダウン症は、苦ではない。最高のスパイスだと。僕は闘うよ。一生懸け て、それを証明するんだ! 意気投合して、決意を固める。 その頃、イカコの家では、神妙な会話がなされていた。 敬五の母 あまり大っぴらにやってほしくないわ。そっとしておいてほしい。 イカコ 母さん、そういう時代じゃないわ。今を逃したらこの先はないわ。観た でしょ、あの運動会での敬五の笑顔。私は、カツオ君たちに託してみた い。あの子たちならもしかしてこの状況を打破してくれるかもしれな い。 敬五の母 私は、もう期待しません。 イカコ そんなこと言わないで!一縷の望みがあるなら先に進もうよ。父さんだ って分かってくれるわ。敬五の将来が一番でしょ。 敬五の母 もう傷つきたくないの。 敬五 お父さんのお話? イカコ 敬五、起きちゃった? そうよ、お父さんのお話よ。 敬五 お母さん、僕、お父さんと一緒がいい。どうしてお父さんと一緒に居れ ないの? 敬五の母 ごめんね、敬五。お母さんのせいよ。 イカコ 母さん、嘘はいけないわ。 敬五の母 本当のことを話せと言うの? イカコ そうじゃないけど、自分のせいにするのは良くないわ。・・・敬五、よく 聞きなさい。お母さんは、お父さんと一緒に暮らせないの。お父さんが ね、一緒はダメって言ったの。でもね、敬五が頑張れば、一緒に暮らせ るかもしれないの。分かる? 敬五 分からない。でも、お父さんと一緒がいい。だって家族だもん。 敬五の母 ・・・そうね。敬五の言う通りね。でも、これ以上傷ついたら、壊れてし まいそう。 イカコ いいわ、母さん。これを最後のチャンスにしましょう。これでダメなら 私も諦めるわ。でも、カツオ君たちは本物よ。あの子たちは、凄い。任 せてみようよ。 敬五の母 そうね。でも、ダメならまた引越よ。 イカコ 分かったわ。私、頑張ってみる。敬五もいい子でいてくれる? 敬五 うん、いいよ。カツオ君とワカメちゃん大好き。 敬五の母 確かに、こんな敬五初めてね。・・・分かったわ。カツオ君たちに賭けて みましょうか。 イカコ そうよ、最後のチャンスよ。敬五を父さんに認めさせるの。 了 Copyright (C) 2015. Angel RISA. All Rights Reserved.
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