1.ごみとして片づけていいか

エッセー 新・ごみに優しく(1)
ごみとして片づけていいか
財団法人 日本環境衛生センター
会長 小林 康彦
1.災害廃棄物での難題
この度の東日本大震災の被害の甚大さには言葉もない。
大量の廃棄物への対応が迫られているが、被害を受けた家屋、自動車、船舶などをご
みとして片付けてよいかが、大きな課題として持ち上がっている。
通常のごみ処理においても、整理しきれていなかったテーマである。
2.所有権放棄?
30年前頃に、清掃現場の皆さんから「夜逃げ」の後始末の話を聞いた。賃貸のマン
ションに住んでいた人が、ものを置いたまま転出し行く先は不明、家主が契約条件によ
って、全ての片づけを清掃部局に要請してくる話である。
当時の清掃行政は現在に比べると大らかで、そうした部屋の片づけも引き受けていた
自治体もあったようである。
くみ取り公衆トイレから、金の入れ歯が出てきた話も全国共通であった。こうした場
合、個人のポケットに入れることはなく、作業に関係した人々のフロック(僥倖)とし
て扱っても、社会的に不思議と思われなかった時代がある。
こうした余得にブレーキがかかったのは、ごみ収集で、段ボールがあれば、それを仕
分け売却し現場事務所の共益費に充てていたことが社会問題になり、中止したと報じら
れて以来ではなかろうか。
ごみ集積場から有価物になりそうなもののみを収集車が来る前に横取りし、それを売
る行為を「アパッチ」と呼んでいた。分別排出・収集が徹底してくると、資源ごみとし
て排出されたものを、正規の収集の前に取り上げ、それにより収益を得ることが可能に
なった。住民が数個出すスチールやアルミの缶は無価値であっても、まとまれば売れる。
資本なし、手段なしの人の稼ぎのターゲットになるのは、経済原則に沿った事業活動で
ある。
現在、無価物から有価物に転じる間隙をぬっての活動に、地方自治体及び住民は不快
感を示し、ごみの集積場にあるものの所有権は市町村にあると宣言する条例の制定が行
われている。ごみと有価物の境界をめぐるせめぎ合いである。
3.ウェスト・ピッカーで3R?
開発途上国のごみ問題について多くの人が感想や意見をのべている。なかでも、かっ
てはスカベンジャー、今ではウェスト・ピッカーと呼ばれている、ごみの中から、売れ
るものを拾い集める人々の存在が注目を集めてきた。ごみ埋立地、実態はごみを集めた
後の投棄場所、で、ごみの中から、金属類、プラスチック、紙類などを背負ったかごの
中に拾い、買い手に渡すことで生計を立てている人々である。ごみの隣に住み、働き手
の多くが子供である。
日本語での論調は、非衛生で、子供にとって過酷な労働であり、ごみへの対応策とし
て適切でない、というものであった。日本で推奨できる対策でないことは確かである。
最近、出席したアジアの3Rの会合で、ある国の代表が、
「ウェスト・ピッカーによ
り、3Rが促進され、また、雇用の機会が生まれている。わが国において、適切な方法
である。
」と主張されたのを聞き、私は考え込まざるを得なかった。
4.「ごみ」と認定するまで
道路などに放置された自動車の扱いも厄介な問題であった。ガラスが割れ、車輪がは
ずれているなど、美観を損ねるだけでなく、交通を阻害し、危険ですらある。だからと
いって、市町村がすぐ撤去に乗り出すにはためらいがあった。その自動車が①盗まれた
ものか、②置き忘れたものか、③所有権を放棄して投棄したものかの判別が必要であり、
また、撤去・処理の費用を誰が負担するかという問題もあった。横浜市は1991年に
条例を制定し、判定委員会の判定にもとづき、また警察署長とも協議の上、市が撤去で
きるよう制度化した。費用については自動車業界が自主的に協力することになった。自
動車リサイクル法により、経費負担のルール化は進んだが、廃棄物として扱ってよいか
どうかの課題は残っている。
お亡くなりになった方の身寄りが判らなかったり、面倒をみる人がいない場合に、残
された家財や建物をどうするかもこれから課題になりそうである。
5.産地廃棄
好天に恵まれキャベツが豊作、一方、消費は伸びないので、出荷価格は平年の半値。
安値で売るよりは産地で廃棄して、価格を維持する動きが広がったと報道されたことが
ある。
廃棄物に該当するかどうかは、占有者の意思と有償で引き取ってもらえる状況かどう
か、で判断されている。売れる状態であっても廃棄物として扱うことに法律上は問題な
いにしても、もったいない話ではある。
(初出:月刊廃棄物 2005 年 11 月号)
【筆者プロフィール】
小林 康彦 (財)日本環境衛生センター 会長
横浜市、厚生省、環境庁で水道、廃棄物、環境を担当。1974年から1992年の間の、廃棄
物の新制度・制度改正には、室長、課長、部長として関与。
現在、中央環境審議会専門委員、環境省循環型社会形成推進審議委員会委員、(厚生労
働省)健康科学総合研究評価委員会委員、横須賀市廃棄物減量等推進審議会会長、逗子
市廃棄物減量等推進審議会会長、浄化槽設備士センター副理事長、廃棄物研究財団評議
員。
過去に、埼玉大学非常勤講師(生活環境システム)、芝浦工業大学非常勤講師(人間と
環境)、各種委員会、開発途上国への技術協力、海外での調査・委員会。
著書:「市町村長・事務組合管理者のためのごみ政策ベースライン」(編著)、「廃棄
物政策概論」(編著)、「新・水道入門」、「水道・環境衛生分野での海外活動のすす
め」、「知恵のある豊かさを-省資源・エネルギー・リサイクル推進データブック」(共
著)。「月間廃棄物」に、エッセー「ごみに優しく」を3年間連載。水道、廃棄物につ
いて簡潔で分りやすく、問題提起型の報文を多数発表。研修会・講習会講師も。