BMC系人工大理石の技術的変遷

BMC 系人工大理石の技術的変遷
吉本産業株式会社 加藤 尚寛
1 BMC 系人工大理石とは
2 BMC 系人工大理石の技術的変遷
今日、国内のシステムキッチン、システム洗面のカ (1)長尺カウンターの量産対応
た人工大理石。キッチン・バス工業会の出荷統計デー
昨年で 30 年目を迎えた。
タでは、2013 年度でキッチンカウンター材質として、
30 年前に遡ると、バブル景気直前であり、国内住
搭載率が常に 60%超に達し、さらに 2014 年度も増加
宅市場は第 4 次マンションブームに代表される通り、
傾向を示している。これほどまでに普及した人工大理
安定した成長を続けていた頃でもある。
石だが、その牽引役を担ったのは BMC 系人工大理石
また住宅環境においては、欧米で主流であった部材
であると言っても過言ではないだろう。
型システムキッチンから、簡易施工型システムキッチ
普 及 率 の 高 さ に 反 し て 馴 染 み の 薄 い「BMC」と
ンへの転換起点という大きな変化があった年代でも
い う 材 料 名 で あ る が、BMCと は、“Bulk Molding
あった。簡易施工型システムキッチンの登場により、
Compound”の頭文字をとったプレス成形複合材料で
システムキッチンは我が国の市場にマッチし、急速に
あり、その構成はマトリックスである熱硬化性の樹脂
普及期を迎える。これに対応するため、キッチン用
とフィラー、強化繊維等を混練機にて均一に混合し、
ワークトップとしての諸性能を満たし、短期大量供給
塊状になった均質なプレス成形材料である。
が可能であり、所定リードタイムでの対応を実現する
当社は当初から BMC 系人工大理石の特性を最大限
ために、前框とバックガード一体型のキッチンカウン
に生かし、キッチンカウンター、洗面カウンター等へ
ターの対応が必要となった。さまざまな検討開発の末、
応用展開を行ってきた。BMC 系人工大理石の普及は、
BMCを使用した前框、バックガード一体型(長尺)カ
国内キッチンメーカーの要望に応え、臨機応変に対応
ウンターの量産に成功し、対応してきた。この時より
した結果ともいえる。以降で、国内住宅環境の変化に
当社は BMCの持つ可能性に着目し、さらなる技術的
対して、BMC 系人工大理石がどのように技術的変遷
進化を追求していくことになる。
を遂げてきたか、主にキッチンカウンターを中心に、
述べたいと思う。
(2)高強度人工大理石の投入
1986 年から始まったバブル景気は 1991 年に終息
したが、簡易施工型システムキッチンの普及が進むこ
●図 1 UHS820 型シンク搭載ユニバーサルキッチンコンセプト
BMC 系人工大理石の技術的変遷
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構成部材・素材の技術動向
BMC 系人工大理石カウンターを販売開始して、一
第7章
ウンター材質として、目にする機会が非常に多くなっ
とにより、BMC 系人工大理石カウンターも、その優
れた諸性能と量産性が評価され、伸長を続けてきた。
この間に当社では、多様化するユーザーニーズに対応
するため、BMC 構成樹脂にアクリル樹脂を加え、ア
クリル BMC 系人工大理石を開発し、多様な色柄表現
をワークトップに持たすことができるようになってい
た。しかしながら、円高が招いたバブル景気と、その
●図 3 奥行 970mm 三方框カウンター(SFB 型)
後のデフレーションは住宅市場へも大きな影響を及ぼ
がなくなり、ダイニングエリアとキッチンエリアが融
し、さまざまな分野で価格破壊が進行し、人工大理石
合化したためであろうと思われる。
カウンターにも苛烈な価格競争をまねく事態となっ
バブル崩壊以降は長期デフレーションの影響から
た。いかに人工大理石カウンターを市場価格の要求に
か、居住空間の縮小化がおこり、ダイニングエリアと
応えてマッチングさせていくのか?
キッチンエリアの融合がさらに進み、両エリアを分断
その回答がカウンター厚みの薄肉化によるバリュー
していた間仕切り壁がなくなったことにより、シス
エンジニアリングだった。単に薄肉化しただけでは、
テムキッチンカウンターの広幅対応が必要となってき
ワークトップとして十分な性能は維持できない。また
た。一般的にペニンシュラキッチンというスタイルで
意匠性を含めた外観性能を維持していくことも必要で
ある。このペニンシュラスタイルは、ダイニングエリ
ある。私共は BMCの特長である構成素原料の組み合
アとキッチンエリアを融合したため、システムキッチ
わせによりさまざまな機能性が付加できることに着目
ンがリビングエリア側へ隣接し、開放感のある空間演
し、意匠性を犠牲にすることなく高強度化をはかり、
出ができるため、ユーザーに大変好評であり、瞬く間
薄肉化することに成功した。 に集合住宅におけるシステムキッチンレイアウトとし
これが現状スタンダードな BMC 系人工大理石と
て普及していった。
なっている「高強度 BMC」の誕生背景である。高強度
普及の結果、広幅カウンターのモジュール化が促進
BMCは、当初、人工大理石に付加価値性を求める市
され、さらに住空間のオープン化が進んだ。
場層からは敬遠されていたが、その性能のバランスの
このため、私共はペニンシュラキッチン専用カウン
良さや量産性などから、結果として人工大理石カウン
ターを開発。広幅化による強度面の問題に関しては、
ターの汎用化をすすめ、システムキッチンのさらなる
すでに開発していた「高強度 BMC」が、そのまま使用
普及への一助になったという点では、
当社にとっても、
できることを確認していた。
エポックメイキングな製品であると考えている。
このペニンシュラスタイルは、その後、集合住宅か
ら一般戸建住宅へも普及が進んでいく。
キッチンエリアのオープン化は、システムキッチン
のインテリア性の向上が市場から求められることにな
り、それまで日本では普及することはないと思われて
いた樹脂製シンクの普及へと繋がっていく。
(4)樹脂シンク専用材質の対応
●図 2 奥行 650mm カウンター(上段 EK 型/下段 YX 型)
上述した通り、システムキッチンがオープン化した
ことにより、多色対応が可能な樹脂製シンクを採用し
(3)広幅カウンターの普及
たシステムキッチンが、国内においても出現した。欧
集合住宅において、よく見られるシステムキッチン
米では古くから樹脂製シンクの普及が進んでおり、私
のレイアウトとして対面レイアウトがある。
共では 30 年前から、これら欧米の樹脂製シンクを取
キッチンで作業中もダイニングおよびリビングエリ
り寄せ、さまざまなテストを行うと同時に、実際に使
アを見通せる点が好評で、ほとんどの集合住宅で、こ
用してみて、各種データを収集してきた。収集した
のレイアウトが採用されていた。背景には核家族化が
データに基づき、ワークトップ以上に過酷な使用条件
進み、ダイニングエリアに大きなスペースを割く必要
となるシンクに求められる性能として、耐熱性、耐衝
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●図 4 HS810 型シンク(ローデッキ対応)
●図 7 省スペース対応ドレッサー洗面カウンター(LM 型)
よう、国内はもとより、20 年以上前から海外展示会
への定点観測を行い製品化している。現在、当社オリ
ジナル洗面カウンターのバリエーションは、一般住宅
用、高齢者福祉施設用等のさまざまな用途を考慮した
12 種類をラインナップしている。
(6)BMC 系人工大理石の今後
カーとして、住宅環境のさまざまな変化に対応して、
撃性等の強度対応に加え、ユーザーサイドでの清掃性
コストパフォーマンスに優れた BMC 開発、素材開発
に優れ、かつ数十年間の使用に耐えうる耐擦傷性、特
を行ってきた。
段の耐汚染性が必要であると考えた。我が国において
今後はヨーロッパの「デザイン最優先」の考え方を
樹脂シンクを普及させていくには、これらの性能を高
超えた、日本人ならではの繊細さを尊重し、日本人の
いレベルで実現した素材の開発を目標として、樹脂シ
生活慣習に対応した住空間創りのお手伝いをするべ
ンク専用 BMCの開発を行った結果、樹脂製シンク専
く、素材の技術革新をとおして「デザインと性能・機
用 BMCの開発に成功した。
能とが融合する」住宅部材の開発に専念する所存であ
る。
(5)洗面カウンターに関して
本稿では、主にキッチンカウンターおよび樹脂シン
クに焦点をあてて説明したが、洗面カウンターにおい
ては、素材そのものが製品の特長を表現するものであ
るため、常に新しい機能性・デザイン性を提案できる
●図 6 ユニバーサルデザイン洗面カウンター(UD900 型)
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構成部材・素材の技術動向
常に革新的でありながらユーザーフレンドリーかつ、
第7章
私共は BMC 系人工大理石カウンターの専業メー
●図 5 HS780 型シンク(奥行 600mm カウンター対応)