[第21回]誤嚥・誤飲と中毒

こどもの病気【第 21 回】
誤嚥・誤飲と中毒
誤嚥とは誤って空気の通り道(気管、気管支)に異物を吸い込んだ状態(気
道異物)で、誤飲とは誤って異物を飲み込み、食道や胃、腸に異物がある状態
(消化管異物)のことです。中毒とは、有害・有毒なものが体内にはいり、体
に害のある症状が出現することで、食中毒と毒物による中毒(薬物中毒、誤飲
による中毒)があります。小さい子どもは、何にでも興味を持ち、何でも口や
鼻に入れるため良く見かけられるものです。誤嚥・誤飲された物質は非常に多
岐にわたります。年齢的にも 1~5 歳という何にでも興味を持つ年代に多いこと
がわかります。
起因物質別患者の年年齢層別受信件数(⽇日本中毒情報センター2006年年)
誤飲された代表的物質
起因物質
1歳未満
1〜~5歳
6〜~12歳
13歳以上
合計
家庭⽤用品
タバコ・洗剤など
4,678件
(15.7%)
10,625件
(35.7%)
385件
(1.3%)
3,125件
(10.5%)
18,813件
(63.2%)
医療療⽤用医薬品
573件
(1.9%)
2,717件
(9.1%)
135件
(0.5%)
1,373件
(4.6%)
4,798件
(16.1%)
⼀一般⽤用医薬品
377件
(1.3%)
1,748件
(5.9%)
58件
(0.2%)
678件
(2.3%)
2,861件
(9.6%)
13件
(0.04%)
64件
(0.2%)
9件
(0.03%)
619件
(2.1%)
705件
(2.4%)
⾃自然毒
84件
(0.3%)
187件
(0.6%)
48件
(0.2%)
353件
(1.2%)
672件
(2.3%)
⼯工業⽤用品
148件
(2.5%)
373件
(1.3%)
63件
(0.2%)
792件
(2.7%)
1376件
(4.6%)
⾷食品・他
66件
(0.2%)
297件
(1.0%)
24件
(0.08%)
177件
(0.6%)
564件
(1.9%)
5,939件
(19.9%)
16,011件
(53.7%)
722件
(26.3%)
7,114件
(23.9%)
29,789件
(100%)
農業⽤用品
計
年年齢不不明は13歳以上に加算
誤嚥・誤飲の診断は、吸い込んだり飲み込んだりしたエピソードの確認が一
番ですが、小さい子どもでは、エピソードのはっきりしない場合がほとんどで
す。タバコが散らかっていて口に中にもあった、おもちゃの部品がなくなった、
ボタン電池がなくなったなどの状況から推測される場合がほとんどです。金属
はレントゲンで写りますが、プラスチック類や薬、洗剤などは確認する方法が
ありません。特異的症状が出現しない限り、状況証拠から判断し疑わしき例に
対しては処置をしなければなりません。
誤嚥の症状は、軽ければむせこむ程度ですが、空気の通り道が細くなると、
息をするときにヒューヒューやピューピューというような笛のような音がする
ように鳴ります。さらに細くなり、完全にふさがってしまうと窒息してしまい
ます。呼吸音が聞こえず、強い努力呼吸がある場合は、窒息を考えます。口の
中に異物があるときは直ちに取り出します。小さなものを無理に取り除こうと
すると、さらに奥に落ち込んでしまい窒息してしまうこともあるので注意を要
します。背中をたたいたり、胸を圧迫したりすると取り出せる場合もあります
が、無理をせず、できるだけ早く救急病院に連れて行きましょう。
誤飲は、飲み込んだものによって対処法が違います。代表的なものの誤飲に
関する家庭での対応をまとめておきます。
主な誤飲物質と家庭での対応
対応
誤飲物質
心配ない
ベビー
用品
台所食卓
周辺
おむつかぶれ用軟膏
ベビーパウダー
○
シリカゲル(乾燥剤)
○
インスタントコーヒー粉
石油
水か牛乳を飲ませて吐かせる
水か牛乳を飲ませて吐かせる
水か牛乳を飲ませて吐かせる
2cm以上
2cm以上なら吐かせて医師へ
ナフタリン
少量でも
水を飲ませて吐かせる(牛乳はダメ)
ボタン電池
飲んでいれば
すぐ医師へ
少量でも
水か牛乳を飲ませて吐かせる
少量なら
2cm未満
農業用殺虫剤・除草剤
石油・ガソリン
1ml
以上
なにも飲ませずに吐かせない
漂白剤(原液)
少量でも
牛乳(なければ水)を飲ませるが吐かせない
10g以上
牛乳(なければ水)を飲ませる
洗濯用合成洗剤
1g未満
1g以上
牛乳(なければ水)を飲ませるが吐かせない
台所用合成洗剤
少量でも
牛乳(なければ水)を飲ませるが吐かせない
トイレ洗浄剤
少量でも
牛乳(なければ水)を飲ませるが吐かせない
10ml
以上
水か牛乳を飲ませて吐かせる
香水・オーデコロン
2ml
以上
水か牛乳を飲ませて吐かせる
マニュキュア除光液
2ml
以上
なにも飲ませずに吐かせない
5ml
以上
牛乳(なければ水)を飲ませるが吐かせない
少量でも
水を飲ませて吐かせる(牛乳はダメ)
○
1m l未満
化粧水
1m l未満
シャンプー
文具
5g以上
5g以上
口紅・クリーム・乳液
化粧品
1g未満
1g未満
せっけん
洗剤類
家庭における応急処置
水か牛乳を飲ませて吐かせる
5g以上
たばこ
農業
医者へ
5g以上
呼吸困難があれば医師へ
食塩
化学調味料
身の回り
の品
様子を見る
1g未満
油絵の具
近年、中国製冷凍ギョーザ事件(市川の事例は、私たちが見つけました。)を
代表とするように、食の安全が脅かされています。誤って毒物を口にするだけ
でなく、事件に巻き込まれることもあるような世の中になってしまいました。
どちらの場合でも、中毒に対する対応は、体内に入ってしまっていてもまだ吸
収されていない毒物を体の外に出すことを急いで行います。具体的には、体に
付着したものを洗い流したり、胃の中に残っているものを吐かせたり、胃や腸
の中を洗ったりします。吸収されてしまったものを急いで体の中から尿として
出すために点滴をします。また、解毒剤があるものは使用します。典型的な中
毒の症状と原因を示しておきます。
縮瞳
有機リン、クロニジン、ニコチンなど
散瞳
アンフェタミン、抗ヒスタミン薬、環式抗うつ剤など
眼振
フェニトイン、カルバマゼピン、バルビタールなど
⾼高⾎血圧と徐脈
α 交感作⽤用の薬剤(フェニレフリンなど)
低⾎血圧と頻拍
β 交感作⽤用の薬剤(テオフィリン、カフェイン、ブリカニールなど)
⾼高⾎血圧と頻拍
α +β 交感作⽤用の薬剤(コカイン、アンフェタミンなど)
低⾎血圧と徐脈
交感神経遮断の薬剤(クロニジン、メチルドーパ、⿇麻薬など)
筋緊張異異常
ハロペリドール、フェノチアジンなど
筋硬直
リチウムなど
不不随意運動
アンフェタミン、抗ヒスタミン薬、環式うつ剤など
アセトン臭
アセトン、クロロホルムなど
アーモンド臭
シアン化合物
にんにく臭
ヒ素、有機リンなど
⽪皮膚の発⾚赤
⼀一酸化炭素中毒、ホウ酸、フェノチアジン、エタノールなど
行徳総合病院小児科 佐藤俊彦