4. 線形空間 I—定義と例 4.1. 線形空間の定義 線形空間の定義 F を R(実数),または,C(複素数) とする.空でない集合 V が以下の条件を満たすと き,V を F 上の線形空間またはベクトル空間といい,V の元をベクトル,F の元をス カラーという. [I] V の任意の 2 元 x, y に対して,その和とよばれる V の元 x + y が一意的に確 定し,次の演算法則を満たす. (1) x, y, z ∈ V に対して (x + y) + z = x + (y + z). (2) x, y ∈ V に対して x + y = y + x. (3) 「すべてのベクトル x ∈ V に対して x + 0 = x」となるような V の元 0 が存在する. (この元 0 を零ベクトルという) (4) 各 x ∈ V に対して x + (−x) = 0 となるような V の元 −x が存在する. (この元 −x を,x の逆ベクトルという) なお,x, y ∈ V に対して y +(−x) を y − x とも書く. [II] V の任意の元 x と F の任意の元 k に対して,x のスカラー倍とよばれる V の 元 kx が一意的に確定し,次の演算法則を満たす. (1) k, ℓ ∈ F , x ∈ V に対して (k + ℓ)x = kx + ℓx. (2) k ∈ F , x, y ∈ V に対して k(x + y) = kx + ky. (3) k, ℓ ∈ F , x ∈ V に対して (kℓ)x = k(ℓx). (4) x ∈ V に対して 1 x = x. F = R のとき V を実線形空間,F = C のとき V を複素線形空間という. ◁ 注意 • 零ベクトル 0 は一つに定まる. [証明] • 任意のベクトル x に対してその逆ベクトル −x は一つに定まる. [証明] • ベクトルの和は,和をとる順序によらずにその値が一意に定まる(上の条件 [I]-(1) による).たとえば, (x + y) + z = x + (y + z), ((x+y)+z)+u = (x+(y+z))+u = (x+y)+(z+u) = x+((y+z)+u) = x+(y+(z+u)) 1 したがって,ベクトルの和を括弧のない形で,x + y + z, x + y + z + u などと書 くことも多い. • パズル 次を証明せよ.(i) 0 x = 0, (ii) k 0 = 0, (iii) (−1) x = −x. [ヒント] (i) [II]-(1) において k = ℓ = 0 とおく. (ii) [II]-(2) において x = y = 0 とおく. (iii) [II]-(1) において k = 1, ℓ = −1 とおき,(i) を用いる. 線形空間の例 例 4.1 零ベクトル 0 のみからなる集合 V = {0} は線形空間である.和は 0 + 0 = 0, スカラー 倍は k 0 = 0 (k ∈ F ) である. 例 4.2 V = x= x1 , x2 , · · · , xn ∈ R . xn x1 x2 .. . この集合 V は 和 : x+y = x1 x2 .. . + xn y1 y2 .. . x1 + y1 x2 + y2 .. . = yn , スカラー倍 : kx = k xn + yn x1 x2 .. . = xn kx1 kx2 .. . (k ∈ R) kxn に関して,実線形空間となる.この空間を Rn と書く. 例 4.3 V = z= . z , z , · · · , z ∈ C 1 2 n zn z1 z2 .. . この集合 V は 和 : z+w = z1 z2 .. . zn + w1 w2 .. . wn = z1 + w 1 z2 + w 2 .. . , スカラー倍 : kz = k z1 z2 .. . zn zn + w n に関して,複素線形空間となる.この空間を Cn と書く. 2 = kz1 kz2 .. . kzn (k ∈ C) 例 4.4 V = 実数列 {xn }∞ n=0 の全体. この集合 V は ∞ ∞ 和: {xn }∞ n=0 + {yn }n=0 = {xn + yn }n=0 , ∞ スカラー倍: k{xn }∞ n=0 = {kxn }n=0 (k ∈ R) に関して,実線形空間となる.これを「実数列全体が成す線形空間」ということもある. 例 4.5 V = 集合 D 上で定義された実数値関数全体. この集合 V は 和: (f + g)(x) = f (x) + g(x), スカラー倍: (kf )(x) = kf (x) (k ∈ R) に関して,実線形空間となる.これを「集合 D 上で定義された実数値関数全体が成す線 形空間」ということもある. V = 実数の区間 I 上で定義された実数値連続関数全体 も,上記の和,スカラー倍に関して,実線形空間となる.この空間を C(I, R) または C 0 (I, R) と書く.これを「実数の区間 I 上で定義された実数値連続関数全体が成す線形空間」とい うこともある. 例 4.6 V = 実係数多項式全体 は,通常の多項式の和,定数倍に関して,実線形空間となる.この空間を P(R) と書く. これを「実係数多項式全体が成す線形空間」ということもある. また,n 次以下の多項式の全体も同様に実線形空間となる.この空間を Pn (R) と書く. これを「n 次以下実係数多項式全体が成す線形空間」ということもある. 3
© Copyright 2025 ExpyDoc