B U R I N 研ぎと扱い方 改訂版 BURIN 研ぎと扱 い 方 目次 BURIN 研ぎと扱い方 6 Ⅰ手による研ぎと扱い方 7 1. ビュランの形状及び種類 8 2. ビュランの研ぎ 17 3. 各砥石とそれらを用いて研いだ断面の拡大写真 17 4. ビュランの角度を見る 18 5. ビュラン・シャープナー及び遮光枠について 19 6. 制作時における砥石の使い分けについて 20 7. ビュランを扱う 21 8. 彫りの練習 25 9. 彫りが上手くいかない原因として 25 10. スクレーパー及び三角トリマーについて 27 11. クッサッン(彫版台)について 27 12. 銅版の裏に段ボール紙及び市販のシートを貼る 30 13. 拡大鏡について / ビュランで彫った後の研磨について 30 14. 指ぬきについて 31 15. 耐水研磨ペーパーとアクリル板について 32 Ⅱ 市販のビュラン・シャープナーを用いた研ぎ 33 1. ビュラン研ぎ器による研ぎ 36 2. ビュラン・シャープナーを用いた二側面の研ぎ 40 3. ビュラン・シャープナーの加工 41 4. 付属のネジを作り変える / ビュランの当て物 42 5. ビュラン研ぎ器のホルダーを作る 46 6. ビュラン・シャープナーとステンレス・ホルダーについて 47 7. 研ぎ器の使用に際して 48 8. 他のホルダーについて 49 Ⅲオリジナル研ぎ器 49 1. 断面用研ぎ器及び側面用研ぎ器について 50 2. 断面用研ぎ器での研ぎ 52 3. 側面用研ぎ器での研ぎ 54 4. 研ぎ器製作の変移について 55 その他 55 1. 銅版画制作に便利な道具 57 2. 油砥石(オイル・ストーン)の修正 60 3. 参考作品 60 「華」/「夜想曲」 61 「流れ」/「ヌード・エンボス」 62 4. 参考作品「夜想曲」の制作過程 62 「夜想曲」スケッチ 63 「夜想曲」下絵 64 「夜想曲」制作過程 68 あとがき Ⅰ手による研ぎと扱い方 ここでは、ビュランだけでの制作を指すのではなく、エッチングの補助として述べたい。エッ チングで仕事を終えた後、部分的に線が切れていたり、かすれていた場合、そして線を強調し たい時はビュランを用いるとよい。 ビュランの刃先の角度は、ビュランの下の二つの面が出合って出来る稜線に対して 45°に研 がなければならない。始めの間は絶えず刃先の角度を角度器で確認する必要がある。粗砥石は、 刃こぼれや形、角度を大きく変える場合に使用し、普通の研ぎには中砥石と仕上げ砥石を用い る。また、砥石は研ぐ面を同じ高さにそろえておくことで、ビュランを砥石から砥石へと移す際、 手首の角度を保つことができ同じ感覚で研ぐことができる。ビュランは砥石に密着させ、円を 描きながら研ぐ。そのため砥石は大きなものが欲しい。研ぎは刃先から離れた部分を研ぐよう に力を入れ、その余力で刃先を研ぐ感じである。その研ぐ際の力の配分は自分の癖を考慮する。 正しく研がれたビュランからは、刃先の中央からまっすぐ彫りくずが立ち上がる。その彫り くずはスクレーパーまたは三角トリマーで切り取る。また、スクレーパーの刃の一つの稜をグ ラインダーで削り落として使うと、刃先に添えた指に力を入れることができ、彫りくずを簡単 に切り取ることができる。とは言っても、ある程度の抵抗を感じる。そして最終の仕事が終え たらスルガ炭または朴炭を軽くかけて研ぎ、仕上げに金属研磨液で磨く。スルガ炭は桐材で作 られており、朴炭よりも目が細かい。 ビュランの彫りには、小さな銅版の場合は革製のクッサンと呼ばれる彫版台を用いる。大き な版は直接作業机の上で行うが、仕事のし易いように適当な彫版台を作るとよいだろう。いず れの場合も、銅版の裏に段ボール紙などの厚紙を両面テープで貼ると自在に動かすことができ る。また、この段ボール紙などを貼ることで、銅版の反りを気にせず動かすことができる。そ れは、大きな銅版には特に有効である。それに、銅版に厚みができ扱いやすくなる利点もある。 6 ビュランの形状及び種類 ビュランは金属を直接彫る道具である。そのビュランは、用途によって種類や扱い方が異な る。また、その用途において実用的なものと美術的なものに分けられるだろう。 実用的なものとして宝飾に用いられるビュランは概ねまっすぐなものである。また、札や切 手に使われるビュランは特殊な形状をしている。 もう一つの美術的なものとしてのビュランは、銅版画及び木口木版画に使用される。この銅 版画と木口木版画に使うビュランにおいても種類や扱い方が異なる。ここで述べる銅版画に用 いるビュランは、断面が四角形(Burin Square )のもので、握りの柄の辺りで 30°に曲がって いる。ビュランを揃えるならこの四角形のものがよい。しかし、仕事によっては細く深い線を 彫ることのできる菱形(Burin Lozenge )を求めてもよいだろう。この菱形のビュランは、形 状から見ても曲線より直線を彫るのに適している。 ビュランでの彫版は、細い線よりも太い線の方が難しく、太い線を彫るにはそれ相応の力が 要る。また、その太いビュランの刃先の角度を 45°に、しかも断面を平らに研ぐのは難しい。 四角形のビュランは 12 種類入手 可能だが、概して太いものは必要 ないだろう。尚、まっすぐなビュ ランは、同じように角度をつける 必要がある。写真は奥から、10 番、 8 番、5 番、そして 3 番の四角形 のビュランである。 また、一般的なビュランの長さは、刃先から握りの柄の端まで約 120 ミリと言われるが、そ れは握る手の大きさによっても変わる。ここではもう少し短く 110 ミリ程度とする。その刃先 から 70 ミリがまっすぐで、残りの 40 ミリは 30°の角度で曲がり握りの部分になる。しかし、 最初から手に合わせて短くせず、望む長さよりも 5 ミリ程長くしておくか、購入したままでも よいだろう。と言うのは、断面の刃の研ぎを覚えるには、それぐらいは直ぐに短くなるからで ある。短くする場合は粗砥石でゆっくり落とす。その場合グラインダーで落とすという方法も あるが、慣れないと直ぐに刃先が減り、それに焼きが戻ってしまう。また、長いまっすぐなビュ ランを短くするには、刃先の方を短くするのではなく、30°の角度で曲げたあと握りの方で調 整する。この時はグラインダーで落とし、その後ヤスリで整える。ここに示しているビュラン は四角形のもので、私が使い易いと思う長さである。 30° 45° 背(上側稜線) 腹(下側稜線) 70 ミリ 40 リ ミ 四角形ビュラン 8 番 7 研ぎにおけるビュランの持ち方 1. ビュランの柄を小指と薬指の間に通す。四角形 のビュラン 5 番は、刃先 10 ミリ程のところからゴ ムシートを巻いてビニールタイで止めている。 2. 親指と人差し指で刃先を挟み、中指を添えて持 つ。 3. 別の角度から見たところ。 1. 断面を 45°に研ぐ 粗砥石での研ぎ 1. 粗砥石にオイルを垂らし、ビュランの断面を 45° に研ぎ出す。ビュランは親指と人差し指で強く挟 み、中指はビュランの背を押すように力を入れる と手首が固定され、安定した状態で研ぐことが出 来る。言い換えれば、力が拮抗するように持つ。 2. ビュランの断面を粗砥石に密着させながら、ゆっ くり円を描くように研ぐ。研ぎ方は手首だけで回 転さすのではなく、肘を支点にして円を描くとい う感じである。写真は研いでいるビュランの刃先。 12 3. 角度器で 45°を確かめる。写真は、テーブルソー の角度切りガイドを用いているところ。 4. 写真は粗砥石で研いだ断面。このときに出来る 刃返りは粗砥石で取らない。この後、砥石を替え て研いでいくと、ある程度自然に取れてくる。 2. ビュラン下側の二辺を仕上げる 2-a. 粗砥石での研ぎ 1. ビュランの側面を粗砥石に密着させ、前後に動 かして研ぐ。この際の研ぎは引き研ぎ(引くとき に力を入れる)で行い、ぶれないように注意する。 2. 反対の側面を同様に研ぐ。その際、同じ回数だ け動かし、二つの側面の幅を同じに保つ。これは 中砥石、耐水研磨ペーパー、そして仕上げ砥石と 順に砥石をかえて研ぐときも同じである。そのよ うに両側面を研いだ後は、二つの面が出合う稜線 (腹)が、刃になっているはずである。 2-b. 中砥石での研ぎ 中砥石にかえて、同じように二つの側面を引き研 ぎで研ぐ。 13 2. 耐水研磨ペーパー# 1000 番で研いだビュランの 断面。この段階で刃返りはある程度取れている。 3-c. 仕上げ砥石での研ぎ 1. アーカンサス・オイル・ストーンで仕上げの研 ぎを行う。その研ぎは断面を密着させ、軽やかに 円を描くように研ぐ。研いだ後、断面に平面が出 ていなければ、再度耐水研磨ペーパーで研ぎ直す。 それでも平面が狂うようなら中砥石から研ぎ直す。 この砥石はできるなら幅の広いものがあるとよい。 2. 仕上げ砥石で断面を研いだ後、二つの側面を同 じアーカンサス・オイル・ストーンで研いで刃返 りを取り除く。研ぎは軽く前後に動かして引き研 ぎで行う。尚、砥石が平面でなければ刃返りは取 れない。 3. 再度、バイス用の口金で断面の二辺の長さを確 認する。ビュランの断面が 45°の平面に研がれ、 その断面の二辺も同じ長さに研がれていれば、自 ずと彫りくずは刃先の中央からまっすぐ立ち上が る。このとき彫りくずが円くなって前方に出たり、 左右どちらかに傾いて出てくるようでは正しく研 がれていない。 4. 写真は、アーカンサス・オイル・ストーンで断 面を研ぎ、さらに二側面を研いだ後のビュランの 断面。上手く研がれたビュランの断面は鏡面にな る。 16 各砥石とそれらを用いて研いだ断面の拡大写真 粗砥石 中砥石 耐水研磨ペーパー 耐水研磨ペーパー ハードアーカンサス # 1000 番 # 2000 番 # 6000 番 ビュランの角度を見る テーブルソーの角度切りガイド バイス用口金 上の写真は、左が断面 45°を見るために使っているテーブルソーの角度切りガイドで、右が 断面の二辺を見るバイス(万力)用の口金である。これらを用いてビュランを研ぐ際の目安に している。単に、研いだビュランを目の前にして、目視で確かめるよりはかなり正確である。 身の回りに使えそうなものを探してもよいだろう。 また、研ぎになれて仕事をしていると、いつの間 にか断面の角度が鋭角になることがある。その鋭角 な角度でもしっかり研いでいれば銅版を彫ることが 出来る。しかし、45°の角度に比べると刃先が欠け やすい。それは、交差する線を彫ったときに顕著で ある。それで、時々断面の角度を確かめる必要があ る。 それから油砥石に使う油(オイル)は、写真のよ うなスポイト瓶に移し替えて用いると扱いやすい。 17 ビュランを扱う ビュランには、握りの柄が異なるものがあるので一概には言えないが、銅版画で使用する 30°に曲がっているものは次のようにして持つ。初めは持ちにくいと感じるかも知れないが、 意識して握っていると自然と慣れてくる。ビュランの柄は小指と薬指で押さえるように持つ。 このようにして持ち、柄に力を入れて掌に押さえることで、刃先を彫り始める位置にすばやく 置くことができる。それで、最初にしっかり持ち方を身につけるとよい。 ビュランを持つ 1. ビュランの持ち方は、先ず小指と薬指を握りの 窪みに添えて掌に押さえる。 2. 次に親指と中指でビュランの軸を挟み、人差し 指を刃先近くに軽く乗せる(添える)。 3. 写真は、説明 2 を別の角度から見た状態。ビュ ランを扱うコツは、窪みに添えた薬指で掌に押さ えることと、指の爪を短く切っておくことである。 20 彫りの練習 ビュランを始めたばかりでは、直接銅版を彫って制作することは無理である。そこで、やは り研ぎを覚え、彫りの練習をすることが必要である。ビュランに慣れてきたら、太さの異なる ものを使ったり、彫る線も直線から曲線、あるいは線を交差させて彫る練習をするとよいだろ う。ビュランはゆっくり仕事を進めることが第一である。ある程度思うように彫ることができ れば練習自体が面白く感じられるだろう。尚、練習のためプレートマークは施していないが便 宜上銅版と表記する。 銅版を彫る 1. 写真はクッサンと段ボール紙を貼り合わせた銅 版。その上には四角形のビュラン 5 番とスクレー パー、そして手製の指ぬき。手前にあるのは掃除 用のブラシである。ここでは説明のために 5 番の ビュランを使用しているが、最初は 2 番、3 番が 扱い易い。 2. ビュランの刃先を浅い角度で銅版に当て、ゆっ くり掌で前に押し進める。直線を彫って、彫りく ずが刃先の中央からまっすぐに立ち上がれば、そ のビュランは正しく研がれている。 3. ビュランの刃先。 4. 彫りを止めるには、ビュランを握る手首を少し 持ち上げる。あるいは、ビュランの押す力を徐々 に抜きながら進める。その場合は線刻が細く浅く なり、彫りくずが銅版から離れる。写真は握りの 柄を持ち上げた状態。 21 5. 彫りくずを切り取るには、刃先を落としたスク レーパーの上に左の人差し指を添え、スクレーパー を握っている親指と一緒に前に押し出す。切り取 る際に少し抵抗を感じる。また、使用するビュラ ンの番号が大きくなれば彫りくずも太くなり、そ の力も比例して大きくなる。数本の彫りくずを切 り取るには、斜め横から切り取る。 6. 彫りくずを切り取ったところ。 7. スクレーパーで切り取った彫りくずとその跡。 切り取った跡を指で触れると残滓のささくれが感 じられる。それで、そのささくれをきれいに取り 除く。 直線を彫る 1. 写真は、直線を彫っているところ。ビュランは 掌で押し進める。左手は銅版をしっかり押さえて 固定する。 2. 彫るときはゆっくりビュランを押し進める。 22 Ⅱ 市販のビュラン・シャープナーを用いた研ぎ 今まで述べたビュランの研ぎは手によるものだったが、ここでは市販のビュラン・シャープ ナー研ぎ器を使用しての研ぎ説明である。このビュラン・シャープナーは、アメリカ・ライオ ンズ社の製品で、そのままでは扱いにくいが、少し工夫すると素晴らしい研ぎ効果を得ること ができる。このビュラン・シャープナーに手を加えた研ぎ器を使用すると、従来の手での研ぎ には戻れない。また、研ぎ器を用いた研ぎに使用する砥石は、ダイヤモンド砥石及びアーカン サス仕上げ砥石を用いる。 ビュラン・シャープナー研ぎ器は、手での研ぎでも述べたが、上の穴にビュランを差し込み 直接砥石の上で前後に滑らして研ぐ。しかし、それではビュランを装着する度に 45°の角度が 決め難い。また、このビュラン・シャープナー本体がアルミという素材なので、真鍮のネジを 必要以上に強く締め付けるとネジ溝が潰れてしまう。それに、付属のネジは扱い難い。ネジで 締め付けた場合、真鍮のネジと鋼材のビュランによりどうしても締めが甘くなる。それは、ネ ジの先に線状のキズが付くことにより、任意の位置で締めてもそのキズの為に望む位置に止め ることができないからだ。それで、ビュランを押さえる当て物をネジとビュランの間に挟んで しっかり固定する。写真は左2枚が市販のビュラン・シャープナーで、右が加工したもの。 32 ビュランの止め位置を決める 1. 写真は、砥石の上に置いて使用するアクリル板。 これは厚みが 5 ミリで、50 ミリ× 120 ミリの大き さのものを砥石幅に合わせて切り取っている。ま た、扱い易くするために、このアクリル板の端に クリップを挟み取っ手にしている。クリップ固定 の為に、間に滑り止めシートを挟むとよい。 2. これはビュランの刃先の出を決める台で、1 ミリ 厚のステンレス板 30 ミリ× 120 ミリに、厚さ 5 ミ リのアクリル板 30 ミリ× 90 ミリを両面テープで 貼り合わせている。このアクリル板は、砥石に置 くアクリル板と同じ厚さにする。そのアクリル板 の上には厚紙が貼ってある。また、ステンレス板 の裏に滑り止めを施す。 3. 研ぎ器をずらして刃先の出を確認しているとこ ろで、ステンレスの板に引っかからず、マスキン グテープには引っかかるか、擦れる状態がよい。 これは個人の感覚なので慣れるしかない。 4. 写真は、ビュランの刃先の出が決まった状態。 ここでのビュランは、刃先角度が 45°にすでに出 ていることとして述べている。それで、購入した ばかりや、刃先の角度が大きく離れている場合は、 先に粗砥石で 45°を出しておく。 5. 上の説明写真 4 を横から見た状態。この刃先の 出の位置を見るには、直接作業台の上では低いの で、もう少し高さがある方がやり易い。それで、 練習の彫りや制作では、クッサンに置いた銅版の 上で行うとよい。滑り止めを施しているので銅版 を傷つける心配は無い。その様子が、ビュラン研 ぎ器のタイトル写真である。 34 ビュランを研ぐ 1. ダイヤモンド砥石# 1000 番使い、研ぎ器を左右 にスライドさせて研ぐ。その際、アクリル板は左 手で固定するとよい。研ぎの後、ビュランの断面 が一様に研がれ、その断面の周囲に軽く刃返りが できているか確認する。研ぎができていれば、次 のダイヤモンド砥石# 6000 番に移る。 2. 写真はダイヤモンド砥石# 1000 番で研いだ断面 を拡大したもの。 3. ダイヤモンド砥石# 6000 番で、同じように左右 にスライドさせて研ぐ。研ぎ終えると、ビュラン の断面は鏡面になっているはずである。 4. ダイヤモンド砥石# 6000 番で研いだ断面の拡大 写真。 5. 最後にアーカンサス仕上げ砥石で研ぐ。ビュラ ンの断面の研ぎが終われば、ビュラン研ぎ器から ビュランを外し、ビュランの下側二面をアーカン サス仕上げ砥石で研いで刃返りを取り除く。この ように順を追って研ぐと刃の付きがよい。 35 ビュラン・シャープナーを用いた二側面の研ぎ ビュラン・シャープナーを利用してビュラン研ぎ器を作ったが、今度は同じビュラン・シャー プナーを使って断面下側二側面を研ぐ。この二側面も幾度も研いでいると、どうしても曲面に なり易い。それでは、しっかり刃にならない。正確に断面を 45°の平面に研いでも彫りが上手 くいかないことになる。 断面下側二側面の研ぎに用いるビュラン・シャープナーは、断面 45°に用いたものとは別に 準備する。このビュラン・シャープナーは、付属のローラーは取り外さずそのまま使用する。 そして、ビュランは斜めにネジが切ってある下側の穴に差し込む。この場合もビュランを押さ える当て物が必要になる。 研ぎに用いる砥石は、やはりダイヤモンド砥石になるが、そのダイヤモンド砥石は# 1000 番だけを使う。研ぐ際には次のことに注意する。それは、ビュラン・シャープナーに差し込ん で固定したビュランの研ぎ面と、ダイヤモンド砥石の面が水平の状態で接している必要がある。 言い換えると、ビュランの研ぎ面とダイヤモンド砥石の面が同じ高さであると言うことだ。 また、ビュランの側面が大きく曲面になっている場合は、このダイヤモンド砥石の裏側が # 400 番になっているので、その面で先に研ぐとよい。基本は# 1000 番で研ぐのだが、ビュ ランの状態に合わせて砥石を選ぶ。 実際に研ぐ場合は、平面が出ている厚みのあるアクリル板などにダイヤモンド砥石を置き、 ビュラン・シャープナーを使用する。先にも述べたが、どちらかが低い場合はかさ上げをして 同じ高さにする。あるいはアジャスターなどで高さ調節のできる台を作ってもよいだろう。こ こでは、ダイヤモンド砥石が低いのでこちらをかさ上げして研ぐ。ある程度の高さにした後、 薄い紙あるいは厚い紙を重ねて微調整するとよい。尚、ダイヤモンド砥石は砥石台を用いずに 使用する。そして、この器具を用いて二側面を研ぐと、稜線がしっかり刃になることに気づく だろう。手での研ぎではこのようにはいかない。 それから、この研ぎでは側面全体を平面に研ぎ上げる必要は無く、刃先からある程度研ぐこ とができればよい。それは次のような理由による。ビュラン自体まっすぐでなかったり、ビュ ラン・シャープナーの穴が直角とは限らないからである。精度の高い研ぎを行うには自分で研 ぎ器を作ることだ。 36 ビュラン・シャープナーの加工 写真はビュラン・シャープナーに自作のホルダーを取り付けたものと、ビュランを押さえる 当て物である。 先にも述べたように、ビュラン・シャープナーのま までは研ぎ難いので、ステンレス板を 45°の角度で曲 げたホルダーをボルト及びナットで接合する。それ には、付属のローラーを取り外す必要がある。また、 ネジも頭を削り、蝶ナットを嵌めてかしめると扱い易 くなる。そして、ビュランを固定する為にネジとの間 に当て物を挟む。この当て物はアルミアングルで作っ ている。写真の形は二側面の研ぎにも使用できるもの だが、次頁のように断面を研ぐ時のものは形を工夫す ると持ちやすくなるだろう。これらについては後の説 明を参照されたい。 ローラーを外す 1. 写真は市販のビュラン・シャープナーから付 属のネジを外したものである。このローラーは、 シャープナー・ホルダに取り付ける際に不都合な ので取り外す必要がある。 2. ビュラン・シャープナーは、滑り止めシートな どで包んで疵が付かないように保護した後、バイ スに挟む。その状態でローラーの軸受けに、軸よ りも細目の釘を当てて金槌で叩くと、ローラーの 軸は簡単に外れる。 3. 写真はローラーを取り除いたところ。 40 他のホルダーについて 写真はホルダー用の金型で、30°と 60°に削り出したものである。この金型で作ったホルダー を用いて研ぐと、それらの刃先角度は 60°と 30°になる。刃先角度が 60°のものは銅版画で使 用され、短い線を彫るのに適していると言われてい る。線というよりも点に近いのかも知れない。その 刃先角度が 60°のビュランは、握りの柄がここで説 明しているものとは異なる。 写真のホルダーは、45°と 60°の角度で曲げたホルダーである。45°のホルダーは、既述して いる銅版画制作におけるビュランの研ぎ用だが、60°のホルダーは銅版画ではなく、木口木版 画に使用される。しかし、木口木版画は四角形や菱形のビュランだけを用いるのではない。そ れで、ここで述べているホルダーに取り付けるビュラン・シャープナーでは、形状の異なる木 口木版画用のビュラン、例えばエリプス形などは研ぐことができない。そのような理由で、形 状の異なる種類のビュランが必要な木口木版画には、 それ用の研ぎ器が必要になる。また、木口木版画用の ビュランは研ぎ角度だけではなく、ビュランの持ち方 や彫り方など扱い方も異なる。 左の研ぎ器は、ホルダーの角度が 60°のものである。 そのビュラン・シャープナーのビュラン差込み口は形 を作り変えている。この研ぎ器に各種ビュラン用の当て物を使 用することで、連発ビュラン、エリプス形、アングル形、そし てラウンド形などを研ぐことができる。下の当て物の写真は、 左からその順になる。 また、銅版画用のホルダーにこのビュラン・シャープナーを 取り付け、これらの当て物を使って研いだビュランは銅版画制 作にも使用できる。その例として、エリプス形のビュランは直 線や平行線を彫るのに適している。そして、ラウンド形の太い ものは、スクレーパーで修正する前の粗修正に使用するとよいだろう。あるいは、ラウンド形 やフラット形で、板目木版画を制作するように彫ると、腐蝕とは違ったエッジの鋭い凹凸面が 得られる。その表面にアクアチントを施し、スクレーパーで削ったりバニッシャーで均したり するのもよいだろう。 四角形のビュランは、他の種類のビュランを手にした後で改めて握ると、とても優れた彫り 道具だと言うことに気づく。練習でただ彫ると言う行為だけでも時間を忘れてしまう。 48 Ⅲ オリジナル研ぎ器 写真上から : アーカンサス仕上げ砥石 ダイヤモンド砥石# 6000 番 ダイヤモンド砥石# 600 番 側面用研ぎ器 研ぎ器・長(無発泡ウレタン樹脂) 研ぎ器・短(無発泡ウレタン樹脂) 研ぎ器 (FRP) と刃先の研ぎ代を見る台 注※ ダイヤモンド砥石上の 5 ミリ厚のア クリル板は、両側にずれ防止として 3 ミリ厚のアクリルの小片を接着。 断面用及び側面用の研ぎ器について ここでは先に述べた研ぎ器ではなく、私が考案したオリジナルの研ぎ器について述べたい。 それは断面用と側面用の二種類になる。これらの研ぎ器を用いると手では得られない研ぎはも ちろん、アメリカ製のビュラン・シャープナーを加工した研ぎ器よりも簡単に確実に研ぐこと が出来る。また、側面用の研ぎ器を用いることで、さらに精度の髙い研ぎが行える。これらの 研ぎ器での研ぎを一度経験すると、二度と手での研ぎには戻れない。 この研ぎ器を用いた研ぎで使用する砥石は、ダイヤモンド砥石が良い。平面が出ていて、研 磨力が強い。それで従来のオイル・ストーンよりも効率的である。ただし、手での研ぎでダイ ヤモンド砥石を使用すると手におえない結果になるので、研ぎに自身が無い場合は控える方が 良いだろう。それから、研ぎで出来た刃返りはアーカンサス仕上げ砥石を用いる。 先ず断面の研ぎだが、これはダイヤモンド砥石に 5 ミリ厚のアクリル板を置いた上で、前後、 斜め、あるいは左右に動かして研ぐ。ただ、単にビュランを装着した研ぎ器をアクリル板に置き、 ビュランの刃先を砥石に触れさせた状態では研ぐことが出来ないので、少し工夫する必要があ る。これは、先に述べた「Ⅱ市販のビュラン・シャープナーを用いた研ぎ」の場合と同じであ る。砥石の上に置くアクリル板と同じ厚さのアクリル板を平面の出ているアクリル板などに貼 り付ける。そして、研ぎ代となる厚紙を一枚貼る。ここでは、同じ 5 ミリ厚の大小のアクリル 板(50 × 120 × H 5 と 50 × 90 × H 5)を両面テープで貼り合わせ、厚紙も両面テープで貼っ ている。また、刃先の触れる部分にはマスキングテープを貼る。これは刃先の滑り止めと見や すさの為で、このマスキングテープの上が実際に研ぐ際の砥石の面になる。それで、厳密に言 えば厚紙の厚さからマスキングテープの厚みを差し引いたものがビュランの研ぎ代になる。そ れから、厚紙が汚れた場合は貼り換える必要が生じるので、両面テープは剥がしやすいものを 用いると良いだろう。 49 研ぎ器製作の変移について 自作オリジナル研ぎ器は最初から今の形になったのではなく、初めは木片に穴を開けたよう な状態のもので、断面を単に 45°の平面に研ぐことと、研ぎにおいて砥石を変えても同じよう に研ぐことが出来ないかを考えていた。 その後、手元にあったアメリカ製のビュラン・シャープナーを見ていると、45°の角度で固 定すれば良いと思い、ビュラン・シャープナーを 45°の木片に取り付けた。これは刃先の断面 を同じように 45°の角度で平面に研ぐことが出来るようになったが、使い勝手悪いのと同じも のを作るには面倒なことである。そこで、角度の付いた木片の代わりに、ステンレスの板で作 ることにした。12 ミリ厚の鉄板を 45°の角度に削り出し、厚さ 1 ミリのステンレス板をあてがっ て曲げた。このホルダーはもともとビュラン・シャープナーにある穴を利用してネジで止め固 定している。これなら同じものを作ることが出来る。しかし、このビュラン・シャープナーは、 穴にビュランを差し込んで上部からネジで押さえるのだが、しっかりビュランを固定すること が出来ない。それでビュランを押さえる当て物が必要になる。これらは「Ⅱ市販のビュラン・ シャープナーを用いた研ぎ」で説明したものになる。 次に考えたものはボルトを利用した研ぎ器である。これは先ほどのビュラン・シャープナー・ ホルダーに、穴を開けたボルトを取り付けたもので、ビュランはプラスチックのワッシャーと 蝶ネジで固定する。このボルト型の研ぎ器の利点は、ビュランの装着が簡単になったことであ る。この研ぎ器は、銅版画で使う四角形ビュランを研ぐには十分である。 最終的な形はボルト型を樹脂に置き換えたものである。ビュランの装着がさらに簡単になり、 研ぎ器に置いたアクリル板の上で容易に滑らすことが出来る。また、型を取って作るので、同 じものを作ることが出来る。 研ぎ器の大きな特徴は、刃先断面を同じように繰り返せることにある。しかも、一度研ぎ器 で断面を研ぎ出せば、次からは素早く研ぐことが出来る。慣れると装着から研ぎあげまで 1 分 もかからないだろう。そして、手での研ぎが上手くいかず修正の修正を繰り返すこともないの で、ビュランの長さが保たれ維持することが出来る。 写真説明左から:木片を 45°に切り取り溝にビュランを差し込んで留めるもの。 アメリカ製のビュラン・シャープナーに 45°の木片をビス留めしたもの。 木片の代わりに 45°に曲げたステンレス・ホルダーをボルトで留めたもの。 ボルトを応用したもので、オリジナルのビュラン研ぎ器の原型になる。 オリジナルビュラン研ぎ器(FRP/ 繊維強化プラスチック)。 54 ― 下絵 ― 鉛筆 コピー紙 アルシュ水彩紙 400 × 553 1992 年 製作過程の 5 番になる。このときも版面を疵つけないために透明粘着フィルムを使っている(制 作過程 5)。 その後、幾度も試刷りを取りながら仕事を進めている(制作過程 6)。ここに述べている事 柄が、次頁以後の制作過程の試刷りに見て取れる。 それから制作を終えた版はクロームめっきを施している。めっきを施した版は、耐刷や拭き 取りの容易さ、それに後始末に優れている。しかし、その後で不注意などで版を疵をつけると 簡単に修正ができない。その場合は一度めっきを剥がしてからの修正になる。めっきを施した 版にはこのような面もあるので、丁寧に扱う。 写真は作品「華」の為の彫刻見本版にクロームめっきを施したもので、これも楕円ビュラン を使って彫っている。写真では判別し難いが、左から小、大、中の異なる太さのものを使っ ている。因みに、参考作品とし て挙げた作品は、全て同じ楕円 ビュランを用いた彫りになる。 作品「華」の為の彫刻見本版(クロームめっき) 80 × 185 63 制作過程 1 楕円ビュランで彫る。 制作過程 2 ニードルで四角形の模様に縦横斜めと線を刻む。作業で版面を傷つけない為に透明粘着フイル ムを貼ってから形を切り抜く。その後、スクレーパーで削り諧調をつける。 64 制作過程 3 レースの模様を転写してアクアチントを施している。転写には染色用のダンマル液を用いることで、細 かな模様もくっきり出る。 制作過程 4 人物と周囲の余白、そして四角形の模様を避けて全体にアクアチントを施す。人物との境界は軟らかい 感じにするためにバニッシャーで押さえている。 65 制作過程 5 四角形の諧調が気に入らないので、再度ニードルで素地を作る。その時も透明粘着フイルム貼って疵を 防ぐ。尚、人物の印刷が弱いのは、模様にだけインキを詰めたからである。 制作過程 6 版面の上部から先に模様の諧調を作り直している。この後これを繰り返して仕上げる。 66 制作過程 本刷り 作品を仕上げ、印刷インキ及び印刷用紙を決める。この作品は、ファブリアーノ・ウノ水彩紙と MO 水 彩紙で印刷することにした。これは、MO 水彩紙を用いた印刷。 制作における試刷りについて ビュランとアクアチントによる「夜想曲」の制作過程を試刷りで示した。試刷りを取る際に は2枚取り、その一枚は加筆及び修正の描き込み用とし、後は保存用にしている。ここでは、 数枚の試刷りで制作過程を示しているが、実際はそれよりも多くの試刷りを取っている。 それから、これらの試刷りと本刷りとでは印刷用紙が異なる。その大きな理由は経済的なこ とによる。できることなら、本刷りで使用したい印刷用紙を最初から使うことである。と言う のは、仕事を終えて本刷りを行った際に望む印刷効果が得られないからだ。ここでも試刷りに ハーネミューレ紙を使っているが、この紙はコットン 100%ではない。パルプ混入の印刷用紙 の為か刷り効果が良い。それで、他のコットン 100%の紙に変えて印刷すると、試刷りで得た 効果が得られない結果になる。印刷は紙で決まるのかも知れない。これは日本で販売されてい るものがそうであって、ハーネミューレ印刷用紙にもコットン 100%のものが存在する。一度、 紙やインキを変えて印刷のデータを取るのもよいだろう。その時は紙の湿し方、湿し時間など も考えるべきだ。 67 あとがき この「BURIN 研ぎと扱い方」は、「銅版画技法 / 準備と印刷」から 抜粋したものに新しく書き足したものである。 ここで述べている事柄を一度、二度、そして三度と試して見て上手く いかない場合は、やり方が悪いのか、自分に合っていないのか、それ とも書かれていることが間違っているのかと考え、自分なりの仕方を 模索すべきだ。必ず何か良い方法があるはずである。この冊子が、そ の一助になれば幸いである。 改訂 2013.09 第二改訂 2015.04 藤原久太郎:KYUTARO FUJIWARA E-mail : [email protected]
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