河村 新吾 - 法と教育学会

法と教育学会
第 6 回学術大会
第 6 分科会-⑥
ハンムラビ法典で学ぶ法教育
学校設定科目「政治経済探究」の試み
河村新吾(広島市立舟入高等学校)
「何が公正で何が正義かなどを今まであまり考えたことがなかった」と感想を書く生徒がいる。
ここに法教育の可能性と必要性がある。本校では平成 27 年度より高校 3 年生に「政治経済探究」
(4 単位)を開設した。一学期の最後の授業で次のようなミッションを与えてみた。
ミッション1「酒の席でふとしたことから口論に…。」「一郎は有罪か無罪か」
ミッション2「困らせてやろうとして、自転車の…。」「二郎は有罪か無罪か」
ミッション3「金持ちの老人は両目が霞んで生活…。」「手術代金は支払うべきか」
ミッション4「金持ちの老人は両目が霞んで生活…。」「医者四郎は有罪か無罪か」
ミッション5「五郎は大工に頼んで家を新築して…。」「五郎は家の代金を支払うべきか」
ミッション6「六郎(大工)は一ヶ月以内に家を…。」「六郎は有罪か無罪か」
ミッション7「アパートに強盗が押し入った。一…。」「七子の住む市は生活費を支払うべきか」
ミッションの条件を「もしハンムラビ法典しかなかったら」に設定し、同法典 282 条全文を記
載した資料を渡し、4 人 1 班で法典の条文を抽出できるかどうか作業させた。その後班員を移動
させ、前回の班の結論について吟味させた。生徒の活動をまとめると次のようになる。
事実認定→関係条文抽出→適用あり(有罪 or 支払)→妥当性の吟味
→妥当性あり(追加根拠)
→妥当性なし(反論理由)
適用なし(無罪 or 不払)→妥当性の吟味
→妥当性あり(追加根拠)
→妥当性なし(反論理由)
本発表では法典の意義や価値に着目する(法典を学ぶ)のではなく、法典に関連付ける(法典
で学ぶ)ことで法体験させる。さらに答えを教員がもっていてそれを生徒に獲得させることが目
標ではなく、即答できそうにない事案を与えて生徒が問いを獲得するかどうかを目標とする実験
的な試みである。つまり、試行錯誤の授業例である。
生徒の書いたワークシートには、過去に学習した「法の支配」や「罪刑法定主義」という語句
は出てこなかった。また授業の最後に教員から模範解答が示されない授業スタイルに生徒は大い
に困惑した様子で、その結果「難しい」という感想が返ってきた。その一方で「公平に判断する
には本当に必要なものは何か、もともと格差がある中でみんなに公平な判断をするためにはどう
したらよいか」と問いを獲得した生徒もいた。変化の激しい社会では、法知識を学び博識となる
授業から、問いを獲得し法知識へと探究する授業が必要とされるのかもしれない。(2015.8.6.記)