北海道大学大学院理学院 Graduate School of Science, Hokkaido University 大気科学特論「熱帯湿潤気象学」 Atmospheric Science Lecture (Tropical Moist Meteorology) 稲津 將 (Masaru Inatsu) ④ 雲微物理の基礎 4. Introduction to Cloud Microphysics §4.1 水滴の生成 4.1. Generation of Water Droplet 【再掲】雲粒・氷晶 水蒸気を含む 未飽和空気 昇華 雲粒 (~10μm) 凝結 氷晶 (~50μm) http://www.snowtomamu.jp/summer/unkai/ http://photograph.pro/wallpaper/10020137_HD.html 表面張力 液体は分子間が引き合う凝集の物性がある。そのため、 界面で液体と接しない分子を最小にしようと力が働く。 表面張力とは、液体の表面積を最小にしようと作用する 力である。 http://www.kdd1.com/1151/siyabonn180.html http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%A2%E3%83%A1%E3%83%B3%E3%83%9C%E9%A1%9E 【復習】飽和水蒸気圧 飽和水蒸気圧は気温の みの関数である(クラウ ジウス=クラペイロンの 原理)。テテンの式が近 似式を与える。 𝑒𝑠 = 611 × 7.5 𝑇−273.15 10 𝑇−35.85 水滴の飽和水蒸気圧 2𝜎 𝑒𝑠 (𝑟) = 𝑒𝑠 ∞ exp 𝑟𝑅𝑣 𝜌𝑤 𝑇 表面張力𝜎: 76x10-3 N/m 水蒸気の気体定数𝑅𝑣 : 461 J/K/kg 水の密度𝜌𝑤 : 1.0x103 kg/m3 𝑟 半径𝑟の球面の 飽和水蒸気圧𝑒𝑠 𝑟 平面の飽和水蒸気圧𝑒𝑠 ∞ 過飽和度𝑆 = 𝑒 𝑒𝑠 ∞ −1 【小問題11.1】水滴と水蒸気が平衡状態のと き、水滴の半径rと過飽和度の関係を導きなさ い。 水滴半径と過飽和度(図4.2) 不純物なし(均一核形成)の場合、0.01μmの水滴を 作り出すのに、12%の過飽和度が必要である。 不純物なしでは雲粒や雨粒を生成するのは困難 4.2 エアロゾルと凝結核 エアロゾル エイトケン粒子 ~0.1μm 大粒子 0.1μm~1μm 巨大粒子 1μm~ http://www.se.fukuoka-u.ac.jp/geophys/am/ 凝結核 エアロゾルの中でも吸湿性粒 子は、凝結核として過飽和度 2%程度での水滴の形成に 寄与する。 • 海塩粒子(海のしぶき) • 煙・煤粒子(森林等の燃焼、 排煙) • 硫酸塩・硝酸塩粒子(火山 噴火、排煙) http://www.kajima.co.jp/news/digest/sep_2001/tokushu/toku02.htm http://www.shiibakanko.jp/shiru/yakihata.html http://homepage2.nifty.com/40boy/umi/kabegami018.htm ラウールの法則 希薄溶液に対して、溶質が溶媒の蒸発を邪魔 するために起こる蒸気圧降下や沸点上昇の法 則。 吸湿性粒子を含む水滴の飽和水蒸気圧は 𝑎 exp 𝑟 𝑒𝑠 ′(𝑟) = 𝑒𝑠 ∞ 𝑏 1+ 3 𝑟 よって、過飽和度=曲率効果÷溶質効果 ケーラー曲線 過飽和度(%) NaCl粒子を溶質とする 水滴の飽和水蒸気圧 臨界過飽和度 水滴半径(μm) http://en.wikipedia.org/wiki/File:Kohler_curves.png (小課題11.2) 相対湿度100%未満の未飽和な大気でも「もや」 が安定的に維持される理由を、ケーラー曲線を 使って考えよう。 4.3 凝結過程による雲粒の成長 4.4 併合過程による雨粒の成長 雲粒の成長 過飽和な雲内で、雲粒が凝結した水蒸気を吸 収して成長する。 𝑑𝑟 𝐷 𝜌𝑣 = 𝑆 𝑑𝑡 𝑟 𝜌𝑤 𝐷: 水蒸気の拡散係数(2.4x10-5 m2/s) 𝜌𝑣 : 水蒸気の密度 𝜌𝑤 : 水の密度 𝑆: 過飽和度 10μm程度までは効率的に成長するが、それ 以上に大きくなりにくい。 雨粒の成長 大きい粒子ほど落下速度が速いため、大きな 粒子が小さい粒子を併合しながら、成長する。 𝑑𝑟 𝑘𝑟 = 𝑑𝑡 4𝜌𝑤 𝑘: 比例係数 10μm以上の成長は半径が指数関数的に増 大する併合の方が効率的。 (小課題11.3) 初期条件を𝑟 0 = 𝑟0 として、過飽和に伴う雲粒 成長と、併合に伴う雨粒成長を解け。 「暖かい雨」と「冷たい雨」 「暖かい雨」…雨の形成過程に氷相を介在しな い場合の雨。過飽和状態で雲粒が成長し、落 下の併合で雨粒が成長する。 「冷たい雨」…雨の形成過程に氷相を介在する 場合の雨。氷と水に対する飽和水蒸気圧の違 いから氷晶が成長し、落下・融解して雨粒とな る。 4.5 氷晶の生成と氷晶核 氷晶核 • 粘土鉱物粒子(カオリナ イト、モンモリオナイト) • 二次氷晶(氷晶同士また は氷晶と過冷却水の衝 突により破砕した氷晶が 氷晶核となる) • 人工氷晶核(ヨウ化銀)… 人工降雨に応用 http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%95%E3%82%A1%E3%82%A4%E3%83%AB:KaoliniteUSGOV.jpg 氷晶形成 昇華凝結 氷過飽和の環境で氷晶を形成する。 水飽和以上の環境で凝結に続いて凝結 凝結凍結 水滴が凍結する。 微粒子と過冷却水滴とが接触して、水滴 接触凍結 が凍結する。 凍結 水滴内部にある微粒子が、過冷却を経て、 さらに冷却され凍結する。 4.6 氷粒子の成長 氷粒子の成長 昇華成長 過冷却中の氷粒子は、昇華成長により急速に 大きくなる。(-10℃に対し、水でちょうど飽和 の場合、氷では10%の過飽和) ライミング (雲粒捕捉) 過冷却雲粒と氷粒子が共存しているとき、過冷 却雲粒と衝突すると、水滴が氷粒子に張り付い て凍結する。上昇流が大きい場合、成長によっ てあられやひょうになることもある。 衝突併合 氷粒子同士の落下速度の違いにより衝突付着 して成長する。 【復習】水と氷の飽和 (小課題11.4) • 氷点下20℃の場合、水に対してちょうど飽和 しているとき、氷に対する過飽和度はどれだ けか?(教科書P59を参考に解答せよ) 【補足】中谷ダイヤグラム 到達確認(第13回) 1. 雲粒と氷晶の生成を理解する。 – 凝結核と氷晶核 – 均一生成と不均一生成 – エアロゾル 2. 雨粒と雪への成長を理解する。 – 衝突・併合過程 – 昇華・ライミング
© Copyright 2024 ExpyDoc