ダウンロード - 一般社団法人 日本木質バイオマスエネルギー協会

特集 木質バイオマス利用と地域再生の現場から︵
中山間地における
︶
くま
ざき
みのる
熊 崎 実
実のところ、炭や薪を扱う都市部の店舗がこれほど多いと
は予想していなかった。大変な量の木質燃料が消費されてい
あった。木炭であれば、舟を使って相当な遠方から運ばれて
たと思う。それは近隣の地域で生産され運び込まれたもので
徳川幕府が嘉永四︵一八五一︶年に作成した﹃諸問屋名前
帳﹄全五八巻を集計したところ、江戸市中の総店舗一万三、
きた可能性もある。市場で取引される薪炭は、一定の規格を
つきごめ や
すみたきぎ なかがい
満たす商品であり、生産地から消費地に至る流通経路で、さ
︶
一 四 七 軒 の う ち、 業 種 別 で 最 も 多 か っ た の は﹁ 炭 薪 仲 買 ﹂
1
になったであろう。
あるうえに、薪炭も米も結構な重量物だから、そのような形
江戸の町を隈なく覆い尽くすそうだ。両者とも生活必需品で
というより、野山の管理に付随して発生する木質バイオマス
近くの野山に入って燃料を調達していた。意識的な﹁調達﹂
落とすと、あたかも店ごとの﹁地区割り﹂があるかのように、 これが農村部に行くと、木質燃料の売買はあまりみられな
くなる。地域住民の圧倒的多数は農家であり、この人たちは
︵
で三、七〇二軒もあったという。第二位は﹁舂米屋﹂の二、
まざまなビジネスと雇用がつくり出されていた。
百万都市江戸を支えた木質燃料
木質エネルギービジネスの展望
1
九一九軒。店舗数ではこの炭薪屋と米屋が断トツで、地図に
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たのは、自家用の燃料の確保に繋がっていたからであろう。
然のこととみなされていた。それがごく自然に実行されてい
分の所有︵または利用︶する野山をきれいに保つことは、当
枯損木が絶えず発生している。適切な植生管理を通して、自
るし、木材生産のための人工林や薪炭林においても不要木や
のまわり、道や水路の周辺では木や草が自然に生い茂ってく
を捨てないで利用したというべきかもしれない。屋敷や田畑
向けるならどんな形状のものでもよい。曲がり材や端材、枝
太さがあって真っ直ぐな幹材でなければならないが、燃料に
変わらない。中目丸太の仕向け先は柱角だから、ある程度の
万二、〇〇〇円にもなる。スギの中目丸太の値段とほとんど
エネルギー価値も一㎥当たり一〇〇ドル、円に換算すると一
時代に入っていると見てよかろう。そうだとすれば、木材の
少下落しているが、大きな流れとしてはバレル一〇〇ドルの
条、何でもエネルギー価値は同じである。
の持ちくされである。恐らく昔ながらのかまどでは、薪の持
木質燃料の復権
いずれにせよ、木質燃料にかかわる経済活動では、市場取
引を経由しない部分が少なからずあるため、過少に評価され
つエネルギーの一〇~二〇%くらいしか有効な熱に換えられ
さて、木質燃料が内包する化学エネルギーがどれほど多く
とも、それを上手に取り出して利用する技術がなければ、宝
やすいが、市場に表出しない分まで勘案すると、いつの時代
ら、付加価値額においても雇用量においても、無視できない
そうしたエネルギーの供給を一手に引き受けていたわけだか
工作などに必要な熱のほとんどが薪や木炭で賄われていた。
べて遜色がない。
便性、経済性のいずれをとっても、化石燃料焚きの機器と比
焼機器の熱効率は八五~九〇%に高まっている。効率性、利
でも相当な規模に達していたように思う。往時は調理や暖房、 なかったであろう。それが最近の技術進歩で、木質焚きの燃
存在であったことは間違いない。
権の兆しが見えてきた。一㎥の木材には一バレルの原油とほ
一世紀に入って化石燃料価格の高騰が続き、木質燃料にも復
エネルギー源としての木質燃料の重要性は、安価な化石燃
料の出現とともに、目に見えて低下していく。ところが二十
ントでありながら、そうした﹁熱電併給﹂を効率的にやって
き上げられる。海外では、二〇~二〇〇㎾程度の小規模プラ
を上手に利用すれば、総合的な変換効率は六〇~八〇%に引
ギーの二五%くらいしか電気に換えられないが、発電の排熱
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木質チップを蒸気ボイラで燃やしてタービンで発電すると
な る と、 五、 〇 〇 〇 ㎾ く ら い の 発 電 所 で も、 木 材 の エ ネ ル
ぼ同等のエネルギーが含まれている。今でこそ原油価格は多
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七㎥というごく低いレベルに甘んじている。欧州のトップは
ドイツとオーストリアで、ともに四・八㎥、日本の六~七倍
だ。全森林面積の四割が成長の早い針葉樹人工林に変えられ
木材資源の賦存量が強く効いている。日本は今のところ推定
ア一五%、ドイツ五%︵いずれも概数︶といったところで、
燃料のシェアを見ると、スウェーデン約二〇%、オーストリ
欧州の諸国について、総一次エネルギー供給に占める木質系
刻な結果を生んでいる。端的に言えば、二、五〇〇万
的な路網整備がほとんどなされてこなかった。これがいま深
欧州の主要国では、おおむね九〇年代までに林道網の全国
的なネットワークをつくりあげているのだが、日本では計画
日本は一九mしかない。
含む︶は、ドイツ一一八m、オーストリア八九mに対して、
四つの原則
ギーとして利用する場合に、厳守すべきは次の四つの原則で
いずれにしても森林は貴重な資源であり、ここから生産さ
れ る 木 質 原 料 を 浪 費 す る わ け に は い か な い。 こ れ を エ ネ ル
木質バイオマスのエネルギー利用
われる国内の森林のなかで、主伐や間伐などの収穫行為が行
ha
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のける機種がどんどん普及し始めている。
木質バイオマスの資源的ポテンシャル
どうしてか。まずはっきりと目につく原因の一つは、木材生
ているにもかかわらず、現実の木材生産がかくも少ないのは
日本でも木質燃料への関心は着実に高まっている。もちろ
ん今日のエネルギー需要は化石燃料の大量消費で巨大に膨ら
当たりの路網密度︵林道のほか公道を
産の基本的インフラともいうべき路網が十分に整備されてい
一~二%にとどまっているが、資源状況からすればドイツの
われているのは、林道の入った一部の森林だけに限られいて
ないことだ。森林一
レベルにまでは引き上げられると思う。
るように思う。人工林と天然林の双方にしっかりした道を入
とい
林野庁は五年かけて全国を一巡する森林資源のサンプリン
グ調査を行っているが、第二期︵二〇〇四~〇八年度︶の調
れない限り、豊かな森林資源は生かされない。
アを除く︶のどこにもない。
ところがFAOのデータベースで森林一 当たりの現実の
丸太生産量︵二〇〇八~二〇一二年の平均︶をみると、〇・
ha
ると推定される。これほどの資源を有する国は、欧州︵ロシ
間の年成長量︵森林蓄積の増分+伐採量︶は二億㎥近くにな
査によると、森林の総蓄積量は六〇億㎥に達している。これ
ha
は、五年前の第一期調査に比べて八億㎥の増加であり、この
部でしかないが、実際問題としてどれほど賄えるだろうか。
んでいるから、国内の木質バイオマスで賄えるのは、その一
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この地域資源をうまく利用してエネルギービジネスが展開で
ある。
きれば、次のような効果が期待できる。
幸いなことに低利用のまま放置されてきた雑木山などのエ
ネルギー価値が高まり、いまや﹁宝の山﹂に変わりつつある。
︻原則一︼持続性の確保 木質バイオマスは確かに再生可能
な資源だが、持続性の確保には細心の注意を必要とする。少
① 地 域 で 自 前 の エ ネ ル ギ ー を つ く る こ と に よ り、 外 部 に 支
②エネルギービジネスを通して地域の雇用と所得を増やすこ
なくとも毎年の収穫量は成長量の範囲内に抑えなければなら
されることで、安定した木材生産が可能になるとともに、か
ない。
が優先され、それに適さない部分がエネルギー用となる。
つての日本の農村に見られた美しい自然景観を再現すること
払っていたエネルギー代を減らし、それを内に向けることが
︶ 木質バイオマスのメリットは発電よりも熱の生産
Power
において発揮される。比較的安いコストで良質の熱が生産で
ができる。
できる。
きるからだ。しかし可能ならば、熱供給と両立する範囲内で
ケード的に利用されるべきである。一般にはマテリアル利用
電気も取る分散型のCHPを目指すべきである。
端的に言えば、必要なエネルギーを自前で賄っていた、か
つての農山村への逆戻りである。しかし、それは過去への単
︻ 原 則 二 ︼ カ ス ケ ー ド 利 用 収 穫 さ れ た バ イ オ マ ス は カ ス
︻原則四︼中山間地の振興 木質燃料の生産と消費において
最も有利な条件に恵まれているのは中山間地である。この地
純な回帰ではない。
木質バイオマスを軸にした地域のエネルギー自立
︻ 原 則 三 ︼ 熱 主 導 の 熱 電 併 給︵ C H P:
とができる。
Combined
Heat
&
③放置されたままの山林原野から持続的にバイオマスが収穫
においてこそ効率的な﹁エネルギーの地産地消﹂が実現され
る。
地方再生の一助として
くに注目されるのは、中欧の小国オーストリアである。この
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欧州では再生可能エネルギーによる地域興しが各地に広
がっている。木質バイオマスを軸にしたエネルギー自立でと
わが国の中山間地はすっかり元気を失っている。この地域
を元気にする有力な手立ての一つは、恵まれた森林資源を有
国の森林面積は四〇〇万
︵日本の約六分の一︶程度で、木
効に利用することであろう。
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ha
源がフルに活用されている。
材資源にそれほど恵まれているわけではないが、限られた資
ない。これに対して図にある﹁熱供給施設﹂は熱出力が大き
いずれにせよ、薪とペレットの主たる仕向け先は個別的な
暖房や給湯で、燃焼機器の熱出力︵容量︶はそれほど大きく
れている。
しい街場の世帯ではペレットストーブやペレットボイラを入
く、おおむね木質チップを燃料とする。典型的なのは、この
ブであり、新
能の薪ストー
いるのが高性
人気を支えて
ている。薪の
な役割を担っ
暖房で中心的
農村部の住宅
にはこのほかに熱だけを生産する産業用のボイラがある。
メンバーによる自家生産で賄われている。なお、熱供給施設
あたっているケースが多い。必要なチップのかなりの部分は、
所有者が何人かで有限会社や組合をつくって、施設の運営に
所に暖房・給湯用の温水をパイプで送っている。地域の森林
〇〇㎾程度の木質焚きボイラを設置して、近隣の住宅や事業
ある程度集まっている地域に、熱出力で一〇〇㎾から三、〇
しているケー
生産し、貯蔵
燃料は自家で
ラントはほとんど見られなくなっている。
つまり熱電併給が義務づけられているわけで、発電だけのプ
プラントで発電された電気でないと、買取の対象とならない。
る。この国の固定価格買取制度では、総合効率六〇%以上の
い。それが難
スが少なくな
薪ボイラだが、 体の約四〇%で、残りの約二〇%が熱電併給施設で消費され
たに出現した
オーストリアの場合、家庭部門の個別的熱供給と規模の大
きい熱供給施設に向けられる木質バイオマスは、それぞれ全
シェアを占め、 十数年来急速に増えてきた地域熱供給のシステムだ。人家が
なおかなりの
︶。一見して明らかなように、薪が今
図 1 オーストリアでの木質バイオマスのエネルギー利用実績
と予測(2001∼20 年)
エネルギー利用に供される木質バイオマスの量を見ると、
この十数年来、着実に伸びてきて、近年では二、〇〇〇万㎥
の大台に乗った︵図
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る小丸太や林地残材からつくられている。これだけでは量も
由来の燃料用チップの多くは、人工林の伐採に伴って発生す
もう一つ重要なのは、地域に賦存する木質資源の有効活用
と熱電併給の実現である。わが国の場合、現在のところ森林
の維持管理や燃料の調達などに気を配らなくてもよくなる。
四時間中いつでも必要なだけ使うことができるし、燃焼機器
高まることだ。顧客にしてみれば、冷暖房・給湯用の熱を二
有の無駄が少なくなり、全体としてのエネルギー変換効率が
個別的な熱供給に代わって集合的な地域熱供給が増加して
いる理由はいくつかある。まず挙げられるのは、個別暖房特
置を備え、堅牢な構造になっていなければならない。地域熱
け入れるには、ボイラも比較的大型で、しっかりした除塵装
活ごみの一部も利用できる。こうした雑多なバイオマスを受
るだろう。さらに言えば、畜糞などの農業残滓、乾燥した生
このほか公園緑地の維持管理で発生する雑多なバイオマス
があるし、各地にはびこる竹林もエネルギー利用の対象にな
ば、エネルギー用木材の生産量は大幅に増える。
てきた広大な天然生林で、伐採即更新の施業方式が定着すれ
然生林は一般に強い更新力を持っている。これまで放置され
はいかないが、広葉樹を主体に多様な樹種から成る多くの天
スギやヒノキは天然更新が難しいからヒバ林のようなわけに
き伐りして収穫することがすべてである。それがそのまま後
少ないし、増やそうとすればマテリアル利用への喰い込みも
中山間地で重要な地域熱供給
激しくなる。今後目を向けるべきは未利用のまま残されてい
供給の施設であればそれが可能でなる。
継樹種の更新と育成を促しているからである。残念なことに
る、人工林以外のバイオマス資源である。
ドイツやオーストリアでは、小型プラントによるCHPが急
中山間地の﹁エネルギー自立﹂で望まれるのは、地域で必
要な熱のみならず、電気も自前でつくることである。近年の
熱電併給の可能性を探る
用であれば、樹種、樹齢、形状を問わず何でも使えるから、
構造用材狙いの木材生産であれば、スギやヒノキの針葉樹
を植え付け、下刈りや除・間伐を繰り返しながら六〇~八〇
この種の保育作業は不要である。可能な限り自然の力で森林
速に広がってきた。その根底にある考え方は、木質バイオマ
年の歳月をかけて育てなければならない。これがエネルギー
の更新を図るべきだろう。
まず発電して電気を取り、暖房や給湯はその排熱で間に合わ
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スを燃やして暖房・給湯用の熱だけを取るのはもったいない、
下北半島の国有林で行われているヒバ林の択伐施業がその
よい例だ。自然状態で生えてくるさまざまな樹木を適切に抜
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固定価格買取制度︵FIT︶が孕む難題
C︶のシステムである。発電効率は二〇%に届かないが、運
されているのは、オーガニック・ランキン・サイクル︵OR
れられない。数百㎾から一、五〇〇㎾の範囲内で一般に採択
択される伐出技術、輸送距離などに規定されて複雑に変わっ
でつくられる﹁森林チップ﹂の調達コストは、山の状況や選
大きく左右される。厄介なことに、小径の間伐材や林地残材
者とは違って大量の燃料を必要とし、発電コストは燃料費に
欧州で太陽光発電や風力発電が急速に伸びたのはFITに
負うところが大きい。しかし木質バイオマス発電は、この両
20
せようということである。実際に使われているCHP方式を
転コストが比較的安く、安定した熱需要があれば、一定の収
てくる。恐らく生t当たり五、〇〇〇円から一万五、〇〇〇
二〇一二年にFITの制度がスタートして、三年の歳月が
流れた。期待と懸念を抱きながらこれまでの推移を見守って
益性は確保される。
・電気出力二、〇〇〇㎾くらいまでの大型のプラントであれ
・数百㎾以下のクラスで、近年急速に普及しているのが、木
円くらいの幅があるであろう。
きたのだが、最近では懸念することのほうが多くなってきた。
質チップやペレットをガス化してガスエンジンで発電するタ
FITの買取価格も、想定される燃料の調達コストいかん
で高くもなれば低くもなる。だが、買取価格をどのようなレ
中山間地での木質エネルギービジネスからすると、FITは
イプのものである。小型ながら発電効率は二五~三〇%と比
頻 出 す る の は 避 け ら れ な い。 低 め に 設 定 す れ ば 支 援 過 剰 の
ば、通常の蒸気タービンによる熱電併給が可能である。ただ
較的高く、熱を含めた総合効率は六〇~八〇%に達する。
ケースは減るが、発電事業への参入者は激減するだろう。逆
発生する排熱の量も相当に大きいから、まとまった熱需要が
このうち蒸気タービン発電とORC発電は大型のボイラが
使われているため、さまざまなタイプのバイオマスを燃やす
に、高めに設定すると支援不足のケースが減って参入者は激
両刃の剣である。
ことができる。これに対して最後の小型ガス化発電のシステ
増するけれど、そうすると今度は燃料の需要が増えて、他の
・電気出力がそれよりも小さくなると蒸気タービン発電は入
ムでは、含水率の低い良質のチップ、ないしはグレードの高
用途に向けられていた木質原料に食い込む可能性がある。現
ベルに設定しても、﹁支援不足﹂と﹁支援過剰﹂のケースが
いペレットでないとうまくいかない。
あることが必須の条件となる。
大別すると、次の三つに分けられる。
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実にはこの兼ね合いで、政策的に︵匙加減で︶決めるしかな
れているかを見ると︵図
発電プラント︵一、〇〇〇㎾以上︶でどのような燃料が使わ
︶、大部分が建築廃材や黒液、森
い。
違いは政策によってもたらされたとも言える。
︶
などの製造に向けられ、エネルギー利用の分野では薪、木質
発電用の燃料は木材利用の序列からいうと最下位にある。
それだけにFITの買取価格の引き上げは、既存の利用秩序
︵
周知のように、広義の木質バイオマスの用途は極めて広い。 林残材などで賄われ、丸太からのチップは三%しかない。間
マテリアル利用としては製材、合板、木質ボード、紙パルプ
伐材のチップを大量に使う日本の発電所とは大違いだ。この
材利用のこ
ペレット、小型ボイラ用の上質チップなどの原料となる。木
当たり六セ
を根底から揺さぶってしまうのだ。ドイツはそれを意識して、
質燃料は最
発電用の木
使えるのは、電気が三二円で売れるからである。
ス発電所でt当たり一万二、〇〇〇円の未利用木材チップが
れば、廃棄物系の安価な燃料しか使えない。日本のバイオマ
ント︵約八円︶に抑えている。売電価格がこんなに安いとす
からすると、 五、〇〇〇㎾以上の発電については買取価格を
下位に位置
マスが向け
ないバイオ
大々的に行われた。ところが、一九七〇年代あたりから予想
るという想定のもとに、木材の自給を目指して針葉樹造林が
わが国の木質バイオマスFITは、政策意図が最初から鮮
明であった。第二次大戦後、海外からの木材輸入が難しくな
途にも使え
られている
に反して大量の外材が流れ込むようになり、国内の木材生産
活動は一挙にしぼんでいく。折角造成した造林地でも除間伐
のだ。
迫られる未利用木材の再定義
する。つま
㎾h
2
などの手入れがないがしろにされ、木材を搬出するための路
外のどの用
り、発電以
図 2 木質バイオマス発電の燃料構成
(ドイツ、1 MW 以上、2011 年)
ドイツの
バイオマス
21
2
うした序列
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がら利用されずに林地に放置されている未利用間伐材や主伐
材としては使えない木質原料のことだ。人工林の主伐・間伐
的な意味を失い、何の役にも立たなくなった。未利用木材の
なのは、これまで放置されてきた天然生林・竹林の整理伐採
本来の定義に立ち返るべきであろう。未利用材とは、構造用
材﹂とは何か。
から出てくる低質のバイオマスや、森林以外の公園緑地など
三二円という買取価格は、一般木材の二四円、建廃などの一
経済産業省の告示では﹁森林における立木竹の伐採又は間
伐に由来する未利用の木質バイオマス﹂とされている。しか
三 円 に 比 べ て 明 ら か に 高 い。 か く も 優 遇 さ れ る﹁ 未 利 用 木
し﹁未利用﹂についての定義はどこにも見当たらない。そこ
から発生する﹁修景残材﹂などである。これらはまさに残さ
で発生する小径丸太や末木枝条もその一つだが、もっと重要
で林野庁の﹃ガイドラインQ&A﹄を見ると、﹁伐採されな
22
網整備も進まなかった。
ところがこの二、三年来﹁伐り捨て間伐﹂のたぐいが急速
に減ってきた。森林チップに対する需要が全国的に増加し、
削減で、森林がその一部を分担すること
された間伐材や主伐残材﹂はほとんど見られなくなった。そ
らに京都議定書の
のため最近では、山から下りてくるエネルギー用の木材は、
になり、間伐の実施が求められた。多額の補助金を投入して
こない。こうした﹁未利用木材﹂は、年に二、〇〇〇万㎥も
す べ て 未 利 用 木 材 の 扱 い に な っ て い る。 今 の と こ ろ エ ネ ル
低質材の奪い合いが激しくなっている。﹁伐採のあと山に残
発生していると言われたものだ。木材生産を目的とした人工
間伐が進むのだが、木が伐り倒されるだけで肝心の材が出て
林で、市場に出る丸太を上回るほどの材が伐倒されたまま山
ギー用は製材用や合板用に比べて安価だから一応の﹁棲み分
FITがスタートした時点では、木質バイオマスに関して
﹁既存利用に影響を与えない﹂という一項が入っていた。こ
け﹂はできているが、将来的には用途間の競合を激化させる
に残るというのは、まことに異様な事態である。
可能性が高い。
当たり三二円くらいで売れればこれ
㎾h
が発電用の燃料として使えるという判断があったのであろう。 れで何を担保するのか。これまでの未利用木材の定義は実質
よるものだが、電気が
質材の販路がない、道がなくてコストが嵩むといった理由に
わが国の木質バイオマスFITは、このような意味での未
利用木材をターゲットにしていた。材が出てこないのは、低
CO2
その一方で樹木のほうは、放っておいても年々大きくなる。 残材といったもの﹂との解説がある。マテリアル利用にも使
手入れ不足の人工林は危険なまでに過密になっていった。さ
える材でも、山に残っていれば未利用木材なのだ。
山 林 2015・9
れた貴重な木質資源であって、収集に手間がかかることから、 なお、今回の﹁別区分化﹂は小規模発電のコスト高を理由
にしているが、肝心なのは分散型CHPシステムの普及であ
さらに、本年の四月からは、未利用木材を使った二、〇〇
〇㎾以下の発電が﹁別区分化﹂されて、四〇円/ が支払わ
域がここにある。
結するとは限らない。CHP化を進めるには、熱生産に対す
ある。小規模層の買取価格を高めても、それがCHP化に直
合効率六〇%以上のCHPプラントに限る﹂と明記すべきで
る。二、〇〇〇㎾以下のプラントではどのような発電方式で
あまり利用されてこなかった。FITが活躍すべき重要な領
れるようになった。未利用木材と一般木材との格差がまた一
も、CHPにしないと成り立たない。別区分化の対象を﹁総
段と拡大したわけだが、この差が大きくなると、木質原料の
注
︶﹁山室恭子の商魂の歴史学﹂、朝日新聞二〇一五年六月六日
る政策的配慮や、新しい機器の開発・導入支援などと組み合
︵
わせる必要があるからである。
う。二、〇〇〇㎾以下のCHPプラントを備えた木材加工場
カスケード利用が難しくなることに注意したい。
が、未利用木材の中から良質の丸太だけを選び出して製品を
付
未利用木材を大量に集めているある業者さんの話では、こ
の中には製材や合板に向く材が三割くらい含まれていると言
つくり、出てきた木屑で発電したとしよう。工場残材は一般
︵
︶日本がお手本にしてきたドイツのFITは、二〇一四年の
面による。
2 be 1
い。
︵筑波大学名誉教授︶
エネルギ学会誌、二〇一五年十一月号︵掲載予定︶を参照された
Tのもとでの木質バイオマス発電:ドイツと日本の比較﹂、日本
制度改革で大きく改変されることとなった。詳しくは拙稿﹁FI
木材だから、電気は二四円でしか売れない。ところが木材加
工を一切やめて、入手した丸太の全部を発電に回せば、電気
は四〇円で売れる。
これはどこかおかしい。FITの制度を設計するにあたっ
て、カスケード利用への影響を慎重に考慮すべきである。山
らつくられたそれとをなぜ差別するのか。燃料としての物理
的・化学的特性に差はないはずだ。ドイツやオーストリアの
FITでも差別していない。
23
㎾h
からの小丸太からつくられた燃料用チップと、製材の背板か
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