二重化・ループ化などの対策によって供給信頼性を高めた熱供給地区

非常時でも安定した冷熱供給を実現する熱供給システム②
二重化・ループ化などの対策によって供給信頼性を高めた熱供給地区
特集⃝
供給
地域熱
横浜ビジネスパーク地区 事業の概要
に設立され、1990(平成 2)年に供給を開始した。
横浜ビジネスパーク(以下、YBP)は、横浜市地域
熱製造エネルギーの安定確保のため、都市ガスと電気
整備計画の一環として、都心のバックオフィス機能を有
を併用するベストミックス方式を採用。現在、冷熱源は
した最先端のインテリジェントビジネスシティ創設を目
電動ターボ冷凍機 3 台、吸収式冷凍機 6 台(製造能力
的に、工場跡地 13.1ha を再開発して誕生した街である。
7,630RT)、温熱源は炉筒煙管式ボイラー 4 台(40.8t/h)
1990(平成 2)年 2 月の第Ⅰ期工事完了から現在までに、
があり、冷水(7℃)と蒸気(0.3 ~ 0.8MP)を供給して
高層オフィス 3 棟、企業の研究・開発拠点となる低層棟
いる(図 2)。
3 棟、電算センター、ラーニングセンター、レストラン棟、
スポーツセンター棟、DHC 棟の 11 棟が完成している
(図 1)
。
計画当初から非常時を想定したプラント設計が行なわ
横浜ビジネスパーク熱供給は、この YBP 地区に安定
した熱の供給を行なうことを目的に 1987(昭和 62)年
冷水管
蒸気管
ノース
スクエアⅢ
ノース
スクエアⅡ
ノース
スクエアⅠ
スポーツ
センター棟
供給区域
イースト
タワー
エネルギー
センター
ウエスト
タワー
ラーニング
センター
電算センター
れ、プラント内の冷水往還配管はヘッダーを兼ねたルー
プ配管とし、蒸気系統もヘッダーを 2 分割している。
地域導管も、供給区域を 2 つの敷地に分けて考え、A
敷地をループ方式、B 敷地をダブル配管方式(図 1)と
して供給の信頼性を高め、万一の時も必要最小限の供給
停止で済むように計画された(但し、A 敷地は建築計
画の変更によりループ化を未実施)。
水のホール
レストラン棟
B 敷地
熱供給システム設計と非常時対策
各機器への補給水も、各水槽に工業用水、上水の 2 系
統を取り込める形にしている。
NRI
タワー
A 敷地
また、従来から非常用発電機を用意していたのに加え、
東日本大震災後の 2012 年に燃料タンク増強などの設備
改修を行ない、停電時でも冷熱 2,000RT、蒸気 10t/h の
図1 供給区域図
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熱供給 vol.95 2015
供給を 48 時間継続可能にした。同時に都市ガスが停止
横浜ビジネスパーク熱供給㈱
還水槽
還水槽
(クリーン槽) (ダート槽)
ボイラー
12t/h×2台
9.6t/h×1台
7.2t/h×1台
14℃
冷水還ヘッダー 蒸気吸収式冷凍機
(ループ)
(1,000USRT×6台)
(冷水還)
14℃
415V
14℃
市 水
砂ろ過装置
上水槽
効率化に取り組んで来た。
(冷水還)14℃
冷却塔
2009(平成 21)年から 2011(平
成 23)年にかけては、経済産業省
冷却水
ポンプ
の「エネルギー使用合理化事業者支
7℃
7℃
冷水ポンプ
冷却水ポンプ
援事業」を活用して、ピーク負荷以
冷水往
ヘッダー
(ループ)
冷水
ポンプ
外の大半の冷熱製造を賄える冷凍機
を高効率機に更新した。その結果、
冷却水ポンプ
7℃
先ほどの運転上の工夫も寄与して、
冷水ポンプ
高効率INT駆動電動ターボ冷凍機
(530USRT×1台)
(570USRT×1台)
工業用水
向上させるなど、エネルギー使用の
(冷水往)
7℃
電動ターボ冷凍機 7℃
(530USRT×1台)
415V
14℃
電 力
(蒸気)
0.6∼0.8MPa
(蒸気)
0.6∼0.8MPa
蒸気ヘッダー
(蒸気)
0.6∼0.8MPa
需要家
0.6∼0.8MPa
ントの総合効率を 0.78 から 0.92 に
(還水)
80℃
ドレン
フィルター
ポンプ
80℃
(還水)
ボイラー
給水ポンプ ドレン
フィルター
都市ガス
ボ冷凍機の増設(2005 年)でプラ
エネルギーセンター
2014(平成 26)年のプラント総合
効率が 1.06 まで向上している。
工水槽
現在は、さらなる冷却能力の改善
図2 システムフロー図
のために、更新期に合わせて複数の
した場合でも、冷熱 1,000RT が供給可能である。
冷却塔を連結させる工事に取り組んでいる。
安定供給のためのB敷地配管の運用
今後の展望
蓄熱槽等の設備を持たない当プラントは、冷凍機の起
供給開始から 25 年が経過したプラントのトラブル発
動・停止時に供給温度の変動が短時間発生してしまう。
生リスクを確実に排除しながら、更なる効率化に向けた
特に、機械の冷却に大量の冷熱が必要な施設では、起動・
更新を行なうことで安定供給と経済性の向上を継続して
停止時に流量が 100 ~ 200㎥ /h も変動するため、需要
推し進めていく。このことにより、熱供給事業法改正後
発生前の時間帯に冷凍機を追加起動して対応していた。
の顧客ニーズに幅広く対応が可能となる熱供給事業者を
その後、冷凍機の起動・停止時に、ループヘッダーと
目指したい。
地域導管に設置された計 4 箇所のバルブ(図 3)を操作
(横浜ビジネスパーク熱供給㈱ 技術部 島尾幸久)
して、起動したばかりの機器で製造
した冷水の流れを一時ループヘッダ
ー内で制御し、その時の温度の冷水
が直接需要家へ供給されないように
対応方法を変更している。
電動弁④(遠隔)
[凡例]
蒸気吸収式冷凍機
電算
センター
ラーニング
センター
(B敷地)
(B敷地)
(A敷地)
R-9
電動ターボ冷凍機
単なる熱負荷に合わせた熱源機器
R-10
の操作だけでなく、手動によるバル
ブ操作を追加することで常に安定し
手動弁①
た温度の冷水を供給しており、お客
DHC棟受入
R-4
R-7
(A敷地)
R-2
R-6
冷水加圧
R-8
オフィス棟
これまで、高効率インバータター
手動弁③
冷水還ループ
がっている。
高効率運転に対する取り組み
手動弁②
R-5
R-1
スポーツセンター棟
冷水往ループ
さまからも評価をいただいている。
この工夫は、運転の高効率化にも繋
レストラン棟
(A敷地)
図3 エネルギーセンター内ループ配管図
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