報告2(横田氏)要旨(PDF

2015 年 7 月中東研究フォーラム・パネルディスカッション
「変容する中東の安全保障環境と新しい地域秩序の模索」報告②
報告者:横田貴之氏(日本大学国際関係学科准教授)
報告テーマ:
「
『アラブの春』後のイスラーム主義の再考」
横田氏は「アラブの春」後に提起されている「政治的イスラーム(Political Islam)は失
敗したのか」という問いを、①エジプトのムスリム同胞団の盛衰は彼らのイデオロギー・行
動様式に影響したか/するか、②イスラーム主義と民主主義の関係再考、③政治的イスラー
ムの失敗はイスラーム過激派の台頭と関係しているか、の 3 点から検討した。
まず先行研究によって「ポスト・イスラーム主義」の議論が紹介された。この論では、社
会変化などの結果、イスラームそのものが多様化し、イスラーム主義運動が普遍性を喪失し
たことが指摘された。
こうした状況下で、ムスリム同胞団も「アラブの春」以前から変質していた。特に政治活
動、政治参加の指向が強まるにつれに、世代間対立が顕在化した。また 2000 年代半ばから
「イスラーム的権威」だけでなく「民主主義」が準拠枠に加わるなど、同胞団は一定の「脱
イスラーム化」を模索せざるをえなかった。
「アラブの春」で同胞団は政権をとったが、その後の「失政」で、政治的イスラームの失
敗はいっそう顕著になった。ムルスィー政権が直面したのは、イデオロギー的分極化ではな
く、政治的分極化を背景にした世俗的な権力闘争だったが、同胞団は有効に対応できなかっ
た。また、サラフィー主義政党やワサト党の存在はイスラーム主義自体の多様化/分裂を示
しており、同胞団はこうした勢力からも挑戦を受けた。結局、イスラームが多様化した結果、
イスラーム的価値/道徳というフレーミングのみではかつてのように民衆を動員できなく
なり、同胞団はより具体的な(そして現実的な)諸政策を示さざるをえなくなった。
「政治的イスラームの失敗」とは、イスラーム主義の政治イデオロギーとしての失敗と考
えられる。無論、社会におけるイスラーム復興は定着しているので、それを有効に動員する
フレームとしての機能低下ということもできよう。他方、イスラーム過激派の台頭は、イス
ラーム主義を型に嵌めてきた民主主義・国家を否定する作用の中から生まれてきたと考え
ることも可能である。ただ、ポスト・イスラーム主義論だけでは軍の介入や民主化の挫折な
ど、実際の政治変動を説明できないという問題は残る。