国 立 教 員 養 成 学 部 を 3 タ イ プ に 機 能 強 化

●特別レポート 国立教員養成学部を3タイプに機能強化
特
別
レ
ポ
ー
ト
新課程の廃止と今後の展望
国立教員養成学部を
3タイプに機能強化
近年、国立大教員養成学部において免許取得を卒業要件としていない課程、いわゆ
る「新課程」を見直す動きが活発化している。新課程には、従来の教育学部では見ら
れなかった特色ある教育を行っているところもあり、その存廃については、高校の先
生にとっても気になるところである。国立大教員養成学部の新課程の今後を取材した。
の確保、国立大学としての役割
当 時 の 文 部 省 は 1 9 8 6 年 に、
国立大のミッションの再定義
等を踏まえ組織見直し計画を策
教員養成課程の入学定員の一部
定し、組織の廃止や社会的要請
を教員以外の職業分野の人材を
最 近、 大 学 教 育 界 で 話 題 に
なっているのが、国立大の人文
の高い分野への転換に積極的に
養成することを目的とした課程
社会系学部の見直しである。こ
取り組むように努める」とある。 ( 教 員 免 許 の 取 得 を 義 務 づ け な
れは6月8日に文部科学省から (小誌 月号参照)
い課程)へ改組することなどを
出された通知「国立大学法人等
提言し、1987年に「新課程」
実際に原則廃止としているの
の組織及び業務全般の見直しに
は教員養成学部の新課程である
の設置が始まった。これは、当
ついて」に起因する。その文書
が、すでにそれを見据えた改革
時の教員の年齢構成から、当面
の中に、各国立大の「ミッショ
が進行中である。
は教員需要が小さくなる時期で
ンの再定義」を踏まえた組織の
あった一方で、将来はまた教員
ここで教員養成学部において
見 直 し が あ り、
「特に教員養成
新課程が生まれた経緯を見てお
需要が高まることが予想された
系大学・学部、人文社会系学部・ こう。戦後のベビーブームが過
ことから、教員養成学部の組織
大学院については、 歳人口の
ぎ、1985年ごろから小学校
は 維 持 し た ま ま、 い わ ば バ ッ
減少や人材需要、教育研究水準
児童数が減少に転じたことから、 ファ(緩衝的役割)として新課
20,100
0
20,100
0.0%
1990
16,975
2,955
19,930
14.8%
1994
16,100
3,245
19,345
16.8%
1998
13,255
4,545
17,800
25.5%
2002
9,750
6,175
15,925
38.8%
2006
9,848
5,127
14,975
34.2%
2010
10,498
4,357
14,855
29.3%
2014
10,796
3,819
14,615
26.1%
程を設けたということである。
実際、資料1でもわかるよう
に2002年には新課程の定員
が6千人台になり、国立大教員
養成学部全体における定員の割
合の約 %に迫った。少子化の
影響を受け、教員養成課程の一
部を新課程に改組した後も、教
員養成学部の卒業者の教員就職
率が年々減少してきたため、1
998年から2000年にかけ
て実施された行政改革において、
教員養成課程5000人削減計
画が示され、この3年度間で教
員養成課程の定員が4745人
削減されている。その一方で新
課程は約2000人増員された。
ところが最近は、資料1のよ
うに、教員養成課程の入学定員
が 若 干 増 加 し て い る の に 対 し、
新 課 程 の 減 少 が 目 立 っ て い る。
単に減員に留まらず他学部への
改組・転換もあり、ピーク時の
2002年に比べて %も減っ
ている。教員養成課程の機能強
化は、2013年の教育再生会
議の第3次提言において、初等
中等教育を担う教員の質の向上
のため教員養成大学・学部につ
うち国立
教員養成
学部出身
その割合
1986
34,982
14,677
42.0%
1990
33,364
14,450
43.3%
1994
19,834
8,708
43.9%
1998
14,178
5,704
40.2%
2002
16,688
7,001
42.0%
2006
22,537
7,077
31.4%
2010
26,886
7,585
28.2%
2014
31,259
8,573
27.4%
って、福井大のように新課程を
学部に転換するような計画も出
ており、国立大教員養成学部の
在り方が、大きく変わろうとし
ているのです。短期的には、ベ
ビーブームに伴う児童生徒の急
増期に大量に採用された世代の
教員が退職し、新採用者数が増
加することもありますが、それ
も 地 域 に よ っ て 状 況 が 異 な り、
例えば関西では既に退職者数の
ピークに達している地域もあり
ます。ですから、長期的に見れ
ば少子化という大きな流れの中
で児童生徒数が減少するのは確
実であり、各大学が教員養成課
45
公立学校
教員
採用者数
いては、量的整備から質的充実
への転換を図るとされたからで
ある。
1986
合計
新課程
40
年次
教員養成課程本来の機能を重視
資料2 教員就職者数の推移
新課程の廃止を含めた在り方の
を見直し教職大学院への重点化
検討がされてきたわけです。少
や新課程の廃止など、組織編成
子化や 歳人口の減少など、今
の 抜 本 的 見 直 し・ 強 化 な ど が、
後の教員需要などを踏まえた教
主な柱です。学生の学校現場に
員養成課程全体の量的縮小を背
おけるボランティア活動を推進
景に、教員養成課程本来の機能
するなど、大学と学校現場との
を強化しつつ、教員養成を目的
連携を進めていきます」という。
としない新課程の廃止を進める
アクティブラーニングに積極的
予定になっています」と話す。
な最近の学校現場などと連携し
教員養成機能の強化について、 て、従来の教員養成課程自体も
具体的には、
変わっていく必要がある。
「学校現場での指導経験のあ
それとともに教員養成学部の
る大学教員の採用増、実践型カ
中の教員養成を目的としない新
リキュラムへの転換、修士課程
課程については原則廃止する方
針を明確にしている。さらに
「 各 大 学 の 経 営 方 針 に し た が
10
教員養成
課程
18
18
年次
2015 / 11 学研・進学情報 -12-
-13- 2015 / 11 学研・進学情報
新課程の
割合
新課程の原則的な廃止につい
て、文部科学省大学振興課教員
養成企画室の安藤優樹係長は、
「 世 の 中 が 多 様 化・ 複 雑 化 し
ている中で国立大学も、どのよ
うな人材を育てるのか、目的を
はっきりする必要に迫られてい
ます。そのため、限られた資源
の中で、教員養成学部における
資料1 国立大教員養成学部における新課程の定員
●特別レポート 国立教員養成学部を3タイプに機能強化
兵庫教育大
鳴門教育大
②広域にわたる特定機能 北海道教育大
の強化(7大学)
宮城教育大
※地域密接に加え広域の拠点 東京学芸大 2015 年度に改組済み
となる特定の機能を併せ持つ
第 3 期中期目標・中期計画
ことを目指す教員養成大学な 愛知教育大
期間中に改組予定(※3)
ど。
第 3 期中期目標・中期計画
期間中に改組予定(※3)
-
2016 年度に廃止予定
2016 年度に廃止予定
第 3 期中期目標・中期計画
期間中に廃止予定(※3)
琉球大
第 3 期中期目標・中期計画
期間中に廃止予定(※3)
※1 文部科学省データをもとに編集部で作成。
※2 2015 年度以降の改組を記載。斜線は 2014 年度時点で新課程を設置していない又は既に見直し済みの大学。
※3 国立大学法人の第 3 期中期目標・中期計画期間は 2016 年度~ 2021 年度。
※4 2015 年度以降に新課程の資源を活用した新たな学部設置等の組織再編を記載。
20
75
こういう動きと並行して、国
立大学の教員養成分野も、ミッ
ションの再定義を行った。それ
ぞれの強みや特色、社会的役割
に沿って機能強化を進める必要
がある。それを具体的に機能分
類したものが、資料3の、
① 地域連携機能の強化
②広域にわたる特定機能の強化
に伴い、公立学校教員採用数の
うち、国立大教員養成課程出身
者の割合は減ってきている。そ
の点でも、国立大教員養成課程
において、質的転換が求められ
ていると言えよう。
③大学院重点大学(3 大学) 上越教育大
程の入学定員を将来さらに増や
すという動きにはならないで
しょう」と指摘する。
確かに資料2でもわかるよう
に、小学校教諭一種免許状の認
定課程を有する私立大学の増加
※北海道、東北、関東、中部、
関西、中国・四国、九州の各 大阪教育大
地域ブロックに1大学。
※広域で、教育人材養成の多
広島大
様 な ニ ー ズ に 対 応 す る た め、
新課程の存立もありうる。
福岡教育大
2016 年度に廃止予定
2016 年度に廃止予定
201 5年度に廃止済み
安藤係長は、この特定機能に
授業などのプロジェクトを展開
る。
ついて、
する予定である。
このように、ここ数年は教員
養成課程の強化や教職大学院の
「 学 校 現 場 で 多 様 化・ 複 雑 化
今まで以上に地元の教育委員
する教育課題に対し、教員に求
会と連携を進め、学校現場と大
強化など、国立大教員養成系大
学の教員養成教育とが断絶せず、 め ら れ る 役 割 が 拡 大 し て お り、 学・学部は新課程の廃止を含め
現在、中央教育審議会において、 た大きな改革を迫られそうだ。
さらに交流をしようという動き
教職員や様々な専門スタッフが
が、信州大、福井大、和歌山大
* チームとして適切に役割分担し
などで具体化している。
人文社会系志望の国立大受験
学校の教育力・組織力を向上さ
また地域振興が地方国立大の
生にとっては、今まで国立大教
せるための議論が行われていま
重要なミッションという認識の
員養成学部の新課程は魅力ある
もと、高知大や愛媛大のように、 す。広域にわたる特定機能の強
選択肢の一つであったが、大学
化を目指す大学においては、既
新課程の資源を活用し、地域振
が生まれ変わろうとする今、大
存の新課程を見直し、教員養成
興を目的とした新学部を創設す
学を目指す生徒の意識の変革も
学部にとっての必要性を十分に
るケースもある。山口大も新課
求められる。
検討した上で、例えばこういっ
程を廃止し、新学部を2015
変化の激しい時代の中で、先
た中央教育審議会の議論を踏ま
年に新設した。(資料3参照)
の予想が困難な時代を生きる力
え、学校を支える専門スタッフ
次の「広域にわたる特定機能
を育成するためにどういう大学
の 強 化 」 型 の 大 学 に つ い て は、 ( ス ク ー ル ソ ー シ ャ ル ワ ー カ ー
教 育 を 行 い、 学 生 を 鍛 え る か、
など)の養成機能を担う大学も
新課程の要素が多少残ることも
そのための組織は今のままでよ
ある。例えば、東京学芸大では、 あります」と話す。
いのか、という観点から、人文
今までの5つの新課程を見直し、 「広域にわたる特定機能強化」 社会系の大学・学部は組織改革
型の大阪教育大は、同じ関西地
教員免許を義務づけない教育支
を進め、教員養成系大学も本来
援課程を設けた。その課程には、 区の京都教育大と奈良教育大と
の教員養成機能を強化する改革
連携して教員養成としての機能
生涯学習コース、カウンセリン
を進めている。
を強化する。
グ コ ー ス、 ソ ー シ ャ ル ワ ー ク
地元志向にこだわる国立大学
コース、多文化共生教育コース、 三 つ 目 の「 大 学 院 重 点 大 学 」 志望の生徒に、大学それぞれの
では、教員の再教育の場として 「 ミ ッ シ ョ ン 」 を 見 定 め た 進 学
情報教育コース、表現教育コー
大学院における現職教員の再教
ス、生涯スポーツコースが開設
指導を行うことが一層必要とな
育・研修の拠点的機能を強化す
されている。 ろう。 ( 取材・執筆/木村誠)
※大学院教育を中核に位置付
け、我が国の現職教員再教育
の拠点的機能を目的として設
立した大学。
鹿児島大
機能分類で国立大教員養成
課程を3タイプに
大分大
宮崎大
社会共創学部(2016 年設置予定)
地域協働学部(2015 年設置)
芸術地域デザイン学部(2016 年設置予定)
愛媛大
高知大
佐賀大
長崎大
第 3 期中期目標・中期計画
期間中に廃止予定(※3)
2016 年度に廃止予定
福祉健康科学部(2016 年設置予定)
2016 年度に廃止予定
地域資源創生学部(2016 年設置予定)
熊本大
国際総合科学部(2015 年設置)
201 5年度に廃止済み
第 3 期中期目標・中期計画
期間中に廃止予定(※3)
2016 年度に廃止予定
201 5年度に廃止済み
2016 年度に廃止予定
香川大
国際地域学部(2016 年設置予定)
2016 年度に廃止予定
2016 年度に廃止予定
2016 年度に廃止予定
金沢大
福井大
山梨大
信州大
岐阜大
静岡大
三重大
滋賀大
京都教育大
奈良教育大
和歌山大
島根大
岡山大
山口大
第 3 期中期目標・中期計画
期間中に廃止予定(※3)
新潟大
2016 年度に廃止予定
国際教養学部(2016 年設置予定)
第 3 期中期目標・中期計画
期間中に廃止予定(※3)
横浜国立大
地域デザイン科学部(2016 年設置予定)
2016 年度に廃止予定
宇都宮大
群馬大
埼玉大
千葉大
密接な連携により、当該地域
の教員養成・現職研修の中核
的機能を担う総合大学などに
ある教員養成学部で、原則的
に新課程は廃止する。またほ
とんどの大学で地元小学校教
員採用数における当課程の採
用者数の占有率という目標値
も設定する。
茨城大
第 3 期中期目標・中期計画
期間中に廃止予定(※3)
弘前大
岩手大
※都道府県の教育委員会との 秋田大
③大学院重点大学
のそれぞれの役割である。
この中では、①の「地域連携
機能の強化」型の大学が %を
占める。
それぞれの大学で新課程の改
廃などについては資料3に掲載
したが、新課程を廃止して、教
員養成に特化することで機能強
化を図る。一部の大学では、地
域の教員採用の大幅な増加に対
応するため、新課程は廃止する
ものの、教員養成課程の定員を
一時的に増やす大学や、学内全
体の資源配分の見直しの中で新
課程を廃止した上で他学部の定
員を増やす大学もみられる。
こ の「 地 域 連 携 機 能 の 強 化 」
型は、新課程廃止が原則とされ
る。滋賀大は新課程の環境教育
課 程 の 定 員 名 を、 初 等 教 育
コースの強化に充てる。教員養
成としての機能を充実させる方
針だが、特に小学校英語の導入
に対応した改編をこれから加速
させそうだ。その小学校の英語
については、新課程の減員を進
める香川大でもカリキュラムに
導入し、大学生も参加する模擬
①地域連携機能の強化
2016 年度に廃止予定
2016 年度に廃止予定
(34大学)
新課程の資源を活用した
組織再編(※4)
新課程の改組状況(※2)
大学
ミッションの
再定義の類型
2015 / 11 学研・進学情報 -14-
-15- 2015 / 11 学研・進学情報
資料3 国立大学教員養成分野の新課程の状況(ミッションの再定義の分類別)