無理数と実数 経営統計演習の補足資料 2015年9月14日 金沢学院大学経営情報学部 藤本祥二 数の分類 正の整数(自然数) 整数 有理数 ゼロ 負の整数 有限小数 実数 整数でない有理数(分数) 10進数では 分母が2, 5のみの倍数の分数 循環小数 無限小数 無理数 ・・・・・循環しない無限小数(無限連分数) 有理数と無理数を合わせて実数(real number)という 分数で表される実数を有理数(rational number)という 分数で表すことができない実数を無理数(irrational number)という 実数は有理数か無理数のどちらか一方になる 有理数と無理数 • 有理数 (rational number) – ratio(比、割合)で表される数、つまり分数で表される数 – 小数で表すと有限小数や循環小数 – ratio を形容詞化したのが rational, その意味である 「理性のある」「道理をわきまえた」は無理数が認められて なかった頃の名残 • 無理数 (irrational number) – 分数(有限小数や循環小数)で表せない数 – 「循環しない無限小数」や「無限連分数」で表される – 無理数の例 3 円周率𝜋,万有率𝑒,平方根 2, 3,立方根 2,等々 その他の名前がない無理数が殆ど – 実用的には有限小数で近似して扱うことが多い(最終的に 求めたい精度より数桁下の桁で四捨五入する) 無理数の歴史 • 紀元前5世紀の古代ギリシャ – ピタゴラス教団が 2が有理数でないことを発見したが教義に 反するため教団外には秘密にしてた(外に漏らした者は追放さ れ殺害されたという伝説が残る) • 紀元前4世紀古代ギリシャのアリストテレス – 円周率が無理数であることを予想 • 18世紀中頃ドイツのランベルト – 1761年に円周率が無理数であることを証明 • 19世紀後半ドイツのデーデキント – 1872年「連続性と無理数」という本で無理数の現代的な定義を 行った(有理数を使って無理数を構成した) – 1888年「数とは何か、何であるべきか」で上の本で抜けていた 四則演算の結合則を証明した – 有理数で四則演算の結合則,交換則,分配則が成り立てば, 実数でも四則演算の結合則,交換則,分配則が成り立つ 実数の演算の基本法則 𝑎, 𝑏, 𝑐 ∈ ℝ の時(ℝは実数の集合) • 𝑎+𝑏 ∈ℝ 加算で閉じてる • 𝑎×𝑏 ∈ℝ 乗算で閉じてる • 𝑎+𝑏 =𝑏+𝑎 加算の交換則 • 𝑎×𝑏 =𝑏×𝑎 乗算の交換則 • 𝑎 + 𝑏 + 𝑐 = 𝑎 + (𝑏 + 𝑐) 加算の結合則 • 𝑎 × 𝑏 × 𝑐 = 𝑎 × (𝑏 × 𝑐) 乗算の結合則 • 𝑎+𝑏 ×𝑐 =𝑎×𝑐+𝑏×𝑐 分配則 実数数になっても数の上記の基本法則を満たすように無理 数を有理数を使って構成した. 基本法則を満たすようになったので,これで実数も数の仲間 として扱える. 三平方の定理(ピタゴラスの定理) 面積𝑐 2 の 正方形 𝐴 𝑐 𝐵 ∠𝐶が直角の三角形𝐴𝐵𝐶の 辺𝑎, 𝑏, 𝑐 に成り立つ定理 𝑎2 + 𝑏2 = 𝑐 2 面積𝑏 2 の 正方形 𝑏 𝑎 𝐶 面積𝑎2 の 正方形 面積や長さなどの 図を使った証明が 100種類以上ある 無理数の発見 𝐴 𝑐 𝑏 𝐵 𝑎 𝐶 三平方の定理 𝑎2 + 𝑏2 = 𝑐 2 から有理数で表せない 数が発見された. • 𝑎 = 3, 𝑏 = 4 の場合 𝑐 2 = 32 + 42 = 9 + 16 = 25 = (±5)2 𝑐は5, −5のどちらかだ. 𝑐は長さなので正の数𝑐 = 5 • 𝑎 = 1, 𝑏 = 1 の場合 𝑐 2 = 12 + 12 = 2 2乗して2になる数で正の方 が𝑐であるが,整数や有理数 には答えがない. 有理数では表現できない長 さの発見. 2乗して2になる数で正の方を 2 と書くことにする.(定義) ルート(平方根) 1辺 𝑎[cm]の正方形 1 長さ 𝑎[cm] 長さ 𝑎[cm] ±1 ± 2 3 ± 3 平方数 ±2 5 ± 5 6 ± 6 7 ± 7 8 ±2 2 9 10 定義: 2乗して𝑎になる数を𝑎の平方根という 𝑎の平方根で正の方を 𝑎と書くことにする. 平方数 2 4 面積 𝑎[cm2] 平方根± 𝒂 平方𝒂 平方数 ±3 ± 10 平方 (square) :2乗のこと 平方根 (square root) :平方の逆 平方数 (square number):整数の平方 ルートの計算ルール • • • • • • ⋯ で一塊の文字のように扱うことができる (四則演算の結合則,交換則,分配則を自由に使える) の中の計算 (四則演算の結合則,交換則,分配則を自由に使える) 複素数(虚数)を扱わない限り の中は常に正 𝑎 ≥ 0, 𝑏 ≥ 0 の時 𝑎𝑏 = 𝑎 𝑏 𝑎 ≥ 0, 𝑏 > 0 の時 𝑎 𝑎 = 𝑏 𝑏 𝑎 ≥ 0 の時 𝑎2 = 𝑎 𝑎 = 𝑎 2 = 𝑎 ルートの計算例 • 2 + 3 + 2 2 + 3 = 3 2 + 2 3 ,( 2や 3を文字のように扱う) – 3 2 + 2 3 の正確な計算はこれ以上できない – 2の概算値1.414 ⋯, 3の概算値1.732 ⋯を代入して概算値を得る ことはできる 3 2 + 2 3 ≒ 3 × 1.414 + 2 × 1.732 = 7.706 • ルートの中はなるべく簡単になるようにする 8 = 23 = 22 2 = 2 2 3 6 ∙ 2 3 = 3 ∙ 2 ∙ 6 ∙ 3 = 6 2 ∙ 32 = 6 ∙ 3 ∙ 2 = 18 2 • 分母にルートが残らないようにする 0.252 = 2520 23 ∙ 32 ∙ 5 ∙ 7 2 ∙ 3 ∙ 2 ∙ 5 ∙ 7 3 70 = = = 2 10000 10 5 100 背理法の復習 2が無理数の証明の準備 論理学用語解説1 • 数学は論理学の一部 • 命題 proposition 「真」「偽」のどちらか一方に客観的に定まる主張 • 真 truth 命題が正しいこと • 偽 false 命題が正しくないこと 例)「1と1の合計は2 (1+1=2)」は真の命題 「2と3の合計は6 (2+3=6)」は偽の命題 「F先生はかっこいい」は命題じゃない(人によって 基準が違うので真偽が定まらない) 論理学用語解説2 • 否定 not (invert) 命題の真と偽を逆転させる操作 (日本語では「~ではない」をつける操作) • 仮定(仮説) hypothesis 仮に真であると定義された命題 • 矛盾 inconsistent ある命題が真であると同時に偽であること (絶対にあってはいけないこと, 0%絶対にありえない こと) (矛盾を認めると,ありとあらゆる命題が真だと証明で きてしまうので論理学では矛盾は厳しく禁止される) き びゅう 背理法(帰謬法)とは • 普通に証明するには難しい命題 • 証明したい命題の否定を仮定する • 仮定した命題から正しい論理で次々と新たな 命題を導く • どこかで矛盾した命題が1つでも導かれれば, 証明したい命題の否定は絶対にありえない ことが示される 論理学や数学だけでなく日常生活でも使える むちゃむちゃ便利な論証法 背理法の流れ 証明したい命題H1 (直接証明難しい) H1 の否定H0 が 真であると仮定 正しい論理 H0 が真という仮定 から矛盾した命題 が導かれた 正しい論理 H0 は偽である (絶対ありえない) 正しい論理 H1 は真である 命題 矛盾した 命題 三角不等式の証明 • 「仮説H1 :三角形の一辺は他の二辺 の合計より小さい」 B • 「仮説H0 :三角形の一辺は他の二辺 A C の合計より小さくない」 • H0 が真だと仮定すると三角形ABCで どんな時でも一直線になっちゃう AC=AB+BC又はAC>AB+BCのどちらか A B C が成り立たねばならない. • どちらの場合もABCは三角形であると どんな時でもBが一点に定まらない いう命題に矛盾するのでH0 は偽. B • H1 が真である,つまり三角形ABCでは A C AC<AB+BCでなければならない. 三角形の一例 AC<AB+BCの一つの事例を示すだけでは証明としては不十分. AC=AB+BCとAC>AB+BCの事例を全て排除(否定)することで, ありとあらゆる事例の場合を証明したことになる. 素数が無限にあることの証明 • 素数 prime number 1と自分自身以外に約数を持たない自然数 2, 3, 5, 7, 11, 13, 17, 19, 23, … • 素数じゃない数は素数の積に分解できる(素因数分解). 4 = 2 ∙ 2, 6 = 2 ∙ 3, 15 = 3 ∙ 5 • 偶数や奇数が無限個あることの証明は簡単: 偶数は自然数𝑛を用いて2𝑛で表わされ,自然数は無限個 あるので偶数は無限個あることが証明される. • 素数が無限個あることの証明を普通にやるには – 無限個の素数を全て提示する(一生かけても終わらない) – 素数を表す一般式を見つける(未解決問題) • 背理法を使えば簡単: 次のページから説明する. 素数が3個より多いことの証明 • 「仮説H1 :素数は3個より多い」 これを証明したい. • 「仮説H0 :素数は2,3,5の3個である」 これを仮定して矛盾を導き仮説H0 が絶対にありえないこと を証明すればH1 が証明される. • 3個の素数を𝑝1 , 𝑝2 , 𝑝3 で表す 𝑝1 = 2, 𝑝2 = 3, 𝑝3 = 5 • 次の操作で数𝑝4 を作成する 𝑝4 = 𝑝1 𝑝2 𝑝3 + 1 = 2 ∙ 3 ∙ 5 + 1 = 31 • 𝑝4 は𝑝1 , 𝑝2 , 𝑝3 のどれで割っても1余るので素数である. • 「素数は3個である」という命題から「4個目の素数がある」 という命題が導かれたが,これは矛盾である. • H0 の仮定から矛盾が導かれたのでH1 が証明された. 素数が無限個あることの証明 • 「仮説H1 :素数は無限個ある」 これを証明したい. • 「仮説H0 :素数は有限個で𝑛個である」 これを仮定して矛盾を導き仮説H0 が絶対にありえないこと を証明すればH1 が証明される. • 𝑛個の素数を𝑝1 , 𝑝2 , ⋯ , 𝑝𝑛 で表す • 次の操作で数𝑝𝑛 を作成する 𝑝𝑛+1 = 𝑝1 𝑝2 ⋯ 𝑝𝑛 + 1 • 𝑝𝑛+1 は𝑝1 , 𝑝2 , ⋯ , 𝑝𝑛 のどれで割っても1余るので素数である. • 「素数は𝑛個」という仮説から「𝑛 + 1個目の素数がある」こ とが導かれたが,これは矛盾である. • H0 の仮定から矛盾が導かれたのでH1 が証明された. アリバイ証明 • 殺人犯であることを疑われた時 • 普通に疑いを晴らすのは困難 – 動機を否定,凶器の指紋を否定,… – ありとあらゆる可能性(疑い)を全て否定しなければ ならない. • 背理法を使えば簡単 – 自分が犯人だと仮定し,矛盾を1つでも導けばよい. (自分には犯罪は不可能であることを証明する) – 犯行時に犯行現場にいないというアリバイは自分が 犯人だとした時の矛盾になり得る. 2が無理数であることの証明 2が無理数であることの証明 • 「仮説H1 : 2は無理数である」 これを証明したいが直接証明は難しいので背理法を使う. • 「仮説H0 : 2は有理数である」 これを仮定して矛盾を導き仮説H0 が絶対にありえないことを 証明すればH1 が証明される. • 「 2 が有理数」が正しいなら,互いに素の整数𝑎, 𝑏を用い 𝑎 2= 𝑏 と書くことができる. (𝑎と𝑏が互いに素とは𝑎と𝑏の最大公約数が1であるということ. 𝑎 言い換えると はこれ以上約分できない既約分数であるとい 𝑏 うこと.) 前ページの続き • 前ページ最後の式の両辺を2乗する 𝑎2 2= 2 𝑏 • 上の式の分母をはらう 𝑎2 = 2𝑏 2 ⋯ (∗) • 上の式の右辺は偶数(2の倍数)なので左辺 の𝑎2 も偶数である. • 𝑎2 が偶数なので𝑎も偶数である. (次ページのスライドで証明する.) 偶数の2乗は偶数,奇数の2乗は奇数 • 𝑛を整数とすると偶数は2𝑛で表せる • 𝑛を整数とすると奇数は2𝑛 − 1で表せる • 偶数の2乗は次のよう表せる 2𝑛 2 = 2 ∙ 𝑛 ∙ 2 ∙ 𝑛 = 2 2𝑛2 𝑛にどんな整数が入っても2 2𝑛2 は偶数 • 奇数の2乗は次のように表せるので奇数 2𝑛 − 1 2 = 4𝑛2 − 4𝑛 + 1 = 2 2𝑛2 − 2𝑛 + 1 − 1 偶数から1引くので奇数 𝑛にどんな整数が入っても 全体を2倍してるのでここは偶数 2ページ前の続き • 𝑎が偶数なので,整数𝑐を用いて次のように書ける 𝑎 = 2𝑐 𝑎2 = 2𝑏2 ⋯ • 上の式を2ページ前の(∗)式に代入する 2𝑐 2 = 2𝑏2 • 上の式を整理すると 4𝑐 2 = 2𝑏2 2𝑐 2 = 1𝑏2 2𝑐 2 = 𝑏2 • 上の式の左辺は偶数なので右辺の𝑏2 は偶数である • 𝑏2 が偶数なので𝑏も偶数である • 𝑏は偶数なので,整数𝑑を用いて次のように書ける 𝑏 = 2𝑑 ∗ 前ページの続き • 「 2が有理数である」という仮説から以下の関係 が同時に成り立つことが導かれた. 𝑎 2= 既約分数 , 𝑏 𝑎 = 2𝑐, 𝑏 = 2𝑑, 矛盾した命題 𝑎 2𝑐 = 既約分数ではない 𝑏 2𝑑 • 「 2が有理数である」という仮説から矛盾が導か れたので, 「 2が有理数である」の否定の 「 2が無理数である」が証明された.
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