モバイル通信特集号に寄せて も,何処でも」という命題をほぼ充足しつつあると言 えますが,それらを利用してデータ通信を行ったこと のあるユーザの比率となると,僅かに携帯:1%, PHS:5%という低い率に留まっているのが実状です (1997年年間)。この利用率の低さこそ,モバイル端末 がまだ機器の面においても通信インフラの面において も,本当に幅広いお客様にご利用頂けるレベルには 至っていないという事実を物語っています。 まず,機器の面では,モバイルで業務やプライベー トの様々なコミュニケーションをこなすシーンを考え たとき,使い勝手・外形サイズ・重量・バッテリーラ イフなどに対する様々なご要望をすべて満足する理想 的な機器はまだ存在しておりません。お客様には不十 代表取締役 副社長 情報・通信・プリント事業統轄 分ながらご自分の用途に最も合った機器を摸索して頂 いているのが現状です。 鷲塚 諫 次に通信インフラの面では,携帯電話/PHSが普及 したとはいえ,電波の届く範囲の制約上,音声のみの 通話であってもまだ繋がり難い場所があったり,デー 21 世紀を目前に控え,情報通信分野においては世 界的規模での大競争時代を迎えるとともに,情報通信 タ通信となるとさらに,繋がったとしても速度が遅 かったり,切れやすかったりします。 このように考えて行くと, 「モバイル機器」と言っ 産業が経済成長を牽引するリーディング産業としての ても, 現状はまだまだお客様にある程度の我慢を強い 役割を果たすようになってきています。 各企業が, 生き残りをかけてより効率的な業務遂行 ながら使って頂いていることを認識せねばなりませ を可能とするソリューションを追求し, 個人において ん。今後こうした状況を通信インフラと機器開発の両 も広くオープンに人・社会との繋がりを求める方向に 面に於いて早急に改善し,完成度の高い,幅広いお客 あります。そうした中で「いつでも・何処でも・誰と 様に受け入れて頂けるものを提供して行くことが, でも」簡単にコミュニケーションを可能にする「モバ 我々情報通信産業に携わる技術開発者の課題と申せま イル通信」は,社会基盤として重要性が認知されるま しょう。 ●通信インフラの動向 でになって参りました。 そうした状況の中で 1997 年は「モバイル元年」と 通信キャリア各社は次世代通信システムの標準化を 呼ばれましたが, 現状ではまだモバイル環境に於いて 睨みながら, 世界的な大競争の中で移動通信インフラ ユーザが十分満足のいく利便性を得られる状況になっ の整備を強力に推進しています。 たとは言えません。携帯電話/PHSの目覚しい普及に モバイルマルチメディアサービスを実現する次世代 よって,確かに音声のみの通信については「いつで 移動通信システム(IMT-2000 : International Mobile ―3― Telecommunications-2000)については,携帯電話,パ こうしたコミュニケーションを気軽に実現するモバ ソコン,インターネット等の急速な発展に対応し,21 イル商品は,利便性だけでなく,個人個人の趣味・嗜 世 紀 初 頭 の 導 入 を 目 指 し て , ITU( International 好の世界,さらには「なぜその人にとってその機器が Telecommunication Union,国際電気通信連合)を中心 必要なのか」といった「心の問題」にまで入りこんで に国際標準化が進められております。 我が国において 考えて行くことも必要になるかも知れません。 も,郵政省,電波産業会(ARIB : Association of Radio 更に,業務で利用する時には,ユーザは目的意識を Industries and Businesses) ,電信電話技術委員会(TTC 持って能動的に機器に接しますが, 個人が生活の中で : Telecommunication Technology Committee)を中心に 利用する場合は, 必ずしも目的意識を持っているわけ 検討が行われています。各種方式の中では,広帯域 ではありません。 使っている事を意識しなくても使え CDMA(W-CDMA)方式を標準として行く方向で日本 るような,受動的な商品に仕上げて行く事が,普及の と欧州の間で基本的な合意が成立しており,MPEG4 鍵を握る大きなポイントとなるでしょう。 に代表される圧縮技術とあいまって, 現在の音声だけ ●シャープの目指すもの の電話が,動画像まで含めたマルチメディアコミュニ ビジネス用途でも,個人用途でも,ユーザは機器を ケーション端末へと発展して行きます。 使いこなす事自体が目的なのではなく, 仕事をするな ●企業で期待されるモバイルビジネスツール どの目的のため, 言わば道具としてお買い求め頂くわ 現在,国内のオフィスには 1,300 万台以上のパソコ けです。ですから,操作方法の習熟自体に労力を要す ンが導入され,その殆どが社内ネットワークに繋がれ るものや取り扱いが困難であるものは, 選択対象外と ています。業務効率の向上を図る上で今やパソコンは なる可能性があります。従って,これからは, 「EASY 必需品となっておりますが, モバイルユースにとって TO USE」 ,さらに言えば, 「ナビゲーション感覚で,取 現行のパソコンが必ずしも最適なツールであるとは限 扱説明書を読まなくても使える事を意識した商品」を りません。オフィスのデータとのシームレスな連携を 目指して行きたいと思います。 図りながら,外に持ち出したくなるようなデザイン 今後の商品化に於いては特に,①必需性の追求,② (形状,重量など)を持ち,時間を気にせず使えるバッ 情報装備率の向上,③機器を持つ事による安心感,な テリーライフを備え,かつ瞬時に起動する機器が必要 どを深く追究した商品開発によって,お客様になくて です。もちろんハードの軽薄短小化だけでなく,企業 はならない機器を創出できるものと確信しております。 のシステムとの連携を如何に簡単・確実に行えるかと 今後ますます拡大が期待される産業分野だけに, 取 いう観点で, 業務にジャストフィットするソフトウェ り組むべき課題は数多くありますが,情報関連商品で アも重要な要素です。 も通信関連商品でも実績を持ち,またお客様の目線で ●個人が期待するモバイルツール の商品作りをモットーとする当社としては,これから モバイル時代を迎え,時間や場所の制約を受けず, の独自技術開発に加えて通信キャリアやサービス事業 「気軽に」コミュニケーションが行えるようになると, 者の方々との連携を密に, また技術標準作り等での業 個人的な用途でも,情報を一人で大事に使うだけでな 界への貢献も図りながら,「モバイルならシャープ」 く,皆で共有することによって価値の高い情報に仕上 と言って頂けるよう力を発揮して行きたいと考えてお げていったり,また様々な問題を解決していったりす ります。 る事に用いられてきます。既に,同じ趣味や嗜好を持 今回の「モバイル通信特集」が,情報通信分野にお つ人々が電子メール/WWWの活用によって情報交換 ける大競争時代を勝ち抜くための新たな発想につなが のサークルを形成したりしている例は数多くあります。 れば幸いです。 ―4―
© Copyright 2024 ExpyDoc