15/08/31 新興国通貨危機再来か

8 月 31 日版 新興国通貨危機再来か?
中国の為替調整による元安が、米国利上げに身構えるマーケットを大きく打撃した。
今月は、アジア新興国市場からのグローバル投資資金流出問題について考えてみたい。
先週はグローバルに大幅な株価・為替変動が起きた。そこで、当面の資金動向を予測する報道を追った。
・ウォール・ストリート・ジャーナル:
「世界経済を主導してきた新興国の成長の勢いは先進国にシフトしつつある」
・JP モルガン:
「投資家にヨーロッパでの資産を増やし、新興国の資産を減らすよう助言している」
「中国は 1990 年以
来の緩やかなペースの成長に留まる」
新興国の経済成長は、アメリカを始めとした先進国の金融緩和策による資金の流入によって支えられてき
たが、中国経済は先進国を上回るペースで成長しているのだから人民元は上昇を続けると言うのが、グロ
ーバル投資家のコンセンサスであった。中国政府は人民元をドルに緩やかにペッグさせながら、徐々に上
昇を許してきた。この為、中国人民銀行が経済成長鈍化を懸念し、ドルペッグに近い為替管理を中止し約
4%元安へ為替調整をした事が市場を驚かせ、逆に言えば、為替調整を必要とする程に経済が悪化してい
たのかと市場参加者が感じ取ったことが更に金融市場を大きく動揺させた。
その上 2015 年 9 月から米FRBが利上げを開始する可能性に言及したことで、資金が新興国から一気に
流出した。過去に 7~10%の高度経済成長を続けてきた中国の経済成長率が 6%台へと鈍化しており、今
まで、中国の経済成長のおかげで価格上昇が続いていた非鉄金属などの資源価格が下落したうえ、中国へ
の輸出が減少したため、これら中国との関係が深いアジア圏資源産出国である新興国の経済に大きな打撃
を与えているインドネシア、マレーシア、タイは資源国でもあり、現下の商品市況の調整も、景気低迷や
対外収支の悪化につながるとの連想を生みやすい。
マレーシアでは外貨準備が 6 月末で前年比 180 億ドル減に急減していた上、政治献金をめぐる疑惑から
ナジブ政権の支持率が低下している中、海外で活動するマレーシア企業は自国に外貨を戻して欲しいと発
言したことが更なるリンギ安に繋がった。2011 年 8 月の 2.95 リンギ/米ドルからこの 8 月末現在迄の 4
年で 4.17 と 30%の幅で暴落した。
タイでは暫定政権の長期化による民政移管の後ずれが懸念されるなど、政治的に不安定な状況も続いてい
るが、今月発生した爆弾テロによる情勢不安も懸念されるものの、2007 年通貨危機から 2015 年 8 月末
の最大巾は米ドル/タイバーツ 29500~35858 への下落であり 17%の幅に留まっている。
新興国に投資してきた投資家が資金を引き揚げ始めており、それにより、マレーシアリンギ、タイバーツ
といった通貨が対ドルで大幅に下落する動きが出ている。タイやインドネシアは、1997 年にアジア通貨
危機の“震源”となった国でもあり、投資家の中には根深い不信感があるものと考える。実際には通貨危
機を教訓として、アジア域内で外貨を融通し合うセーフティネットが構築されており、アジア発でグロー
バル金融市場に危機的状況が伝播するリスクは大きく軽減されたが、むしろ資金流出がこうした国々の経
済の体力を弱める恐れがある。
<結論>
1. 中国株価暴落・回復と動きの激しい状況が世界の株式・為替市場に大きな影響を与えたが、中国政府が更
なる為替元安誘導やどのような対応策を取るか判らず、引続きボラティリティーの高い状態が続くと想定
する。中国の不動産価格低迷・需要減速は長期化するが、中期で考えれば、大幅公共投資等形振り構わぬ
景気浮揚策等でどうにか 6%程度の経済成長は達成出来るものと考える。
2. 中国の景気動向は、貿易額が多い米国、オーストラリア、日本、ロシア、欧州、韓国等アセアン各国に大
きな影響を及ぼすだろう。それもかなり長期化することが想定され、通貨はアジア通貨危機の様に暴落す
る可能性は低いが、ゆっくり軟調に推移するのではないだろうか?新興国経済黄色信号か?
3. 9 月以降の米国政策金利引上実施の可能性は下がったが、12 月が最も予想が多く引上幅は低く、その後は
実施されない可能性が予想される。しかしながら、米国についてはこれ以上の脆弱性に陥ることはないだ
ろう。引続き米ドルキャッシュを中心とする保守的アセットアロケーションが効率的と考える。