平成27年9月5日 第12回日本乳癌学会中部地方会 Ⅱ 教育セミナー 「診断部門」 富山県立中央病院 外 科 :前田基一 病理診断科:石澤 伸 小腫瘤病変が単発あるいは多発性に存在する場合、精査を進めるべきか経過観察でよい のか、判断に迷うようなケースに遭遇することがある。腫瘤が小さくても悪性所見を呈する 場合には迷いはないが、境界明瞭平滑な円形、楕円形、分葉形の小腫瘤の場合、画像診 断での良・悪性の鑑別が困難なことがある。 小腫瘤が単発、多発性に認められる場合、まずその腫瘤が嚢胞性か充実性の腫瘤なのか を判定する必要がある。このような症例では、カラードプラが有用なことがあるが、血流が 検出されなくても嚢胞とは必ずしも断定できない。 質的診断(病理診断)を行う場合、ごく最近まで広く使われてきた手技は穿刺吸引細胞診で あったが、近年針生検の使用が増加してきた。針生検の利点は多く存在するが、穿刺吸引 細胞診は局所麻酔が不要で検査時間が短く、合併症がほとんどなく、手技が簡便であると いう利点がある。良・悪性の鑑別が必要と判断される小さな病変に対しては、穿刺吸引細 胞診は良い適応である。一方、穿刺吸引細胞診のみでは確定診断が困難な病変が存在す ること、すなわち細胞診の限界をわきまえておくことも重要である。乳頭状病変の良悪性の 鑑別、異型乳管過形成と非浸潤癌、非浸潤癌と浸潤癌の鑑別がこれに属する。 単発、多発する小腫瘤病変の一つにそうした乳頭状病変である乳頭腫のほか、乳頭腫と 関連の深い乳管腺腫/硬化性乳頭腫などがある。さらに乳頭腫と鑑別すべき境界・悪性病 変である、乳頭腫に発生した異型乳管過形成・非浸潤性乳管癌、乳管内乳頭癌、被包性 乳頭癌などがある。 今回のセミナーでは、我々が経験した小腫瘤が多発性に存在する症例を提示して、臨床的 なアプローチと病理学的なアプローチの仕方について皆さんと一緒に討議していきたいと 考えています。 単発あるいは多発する 小腫瘤に対するアプローチ 単発あるいは多発する小腫瘤の超音波 精査を進めるべきか? 経過観察でよいか? 放置でよいか? 症 例1 46歳 女性 既往歴:なし 家族歴:乳癌・卵巣癌なし、その他なし 主 訴:血性乳頭分泌 現病歴:数か月前より血性乳頭分泌を認めるように なり近医を受診した。検査で乳房内に腫瘤陰影を 指摘。乳頭分泌の細胞診、穿刺吸引細胞診で明 らかな悪性所見がなく経過観察となっていたが、 血性分泌が持続するため、当科を受診した。 視・触診:両側乳房内に明らかな腫瘤は触知しない。 腋窩リンパ節:触知せず マンモグラフィ 症例1 マンモグラフィ 症例1 超音波検査 1 症例1 超音波検査 2 症例1 乳汁分泌細胞診 症例1 穿刺吸引細胞診 症例1 症 例 2 51歳 女性 既往歴:慢性腎不全(透析中)、腎性貧血、異型 狭心症、高血圧 家族歴:乳癌・卵巣癌なし、祖母:癌(詳細不明) 主訴:検診異常 視・触診:両側乳房内に明らかな腫瘤は触知し ない。 腋窩リンパ節:触知せず マンモグラフィ 症例1 マンモグラフィ 症例1 超音波検査 1 症例1 超音波検査 2 症例1 超音波検査 3 症例1 超音波検査 4 症例1 CT検査 症例1 穿刺吸引細胞診は局所麻酔が不要で検査時間が短く、合併症が ほとんどなく、手技が簡便である、反復して施行ができるという大 きな利点がある。 一方針生検は穿刺吸引細胞診に比して使用する針が太く、組織 標本が直接採取されるため、良悪性診断のみならず、組織型を 含めた多くの病理学的情報を得ることができる。 では、どんなときに穿刺吸引細胞診を行いますか?
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