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線形数学 II A,B,C 組–6,7
補足:宿題 8 について解説を与えたいと思います。A = {x2 + 1, x − 1, 2}
が 2 次以下の多項式関数の空間 P2 (R) の基底であることを示せという問
題でした。まず,基底の定義を復習しましょう。A が P2 (R) の基底であ
るとは,A が一次独立であり,P2 (R) の生成系であることです。
まず,一次独立についてです。定義を思い出します。つまり,
{a1 , . . . , ar } が一次独立 ⇔
r
∑
ci ai = o ならば c1 = · · · = cr = 0
i=1
でした。この問題の場合,まず出発点は
f (x) = c2 (x2 + 1) + c1 (x − 1) + c0 2 = o
(1)
とおくことです。ここで,右辺の零ベクトルである o ∈ P2 (R) は実数 0 へ
の恒等関数であることに注意してください。つまり,任意の x ∈ R に対
して,o(x) = 0 となる関数です。方針は,方程式 (1) から,c2 , c1 , c0 の連
立一次方程式を作り出して,c2 = c1 = c0 = 0 を示すことです。簡単には,
適当に 3 つの実数を選んで代入してみて,連立一次方程式を何でもいい
から作ってみることです。例えば,x = 0, 1, −1 でも代入してみましょう。
f (0) = c2 − c1 + 2c0 = 0,
f (1) = 2c2 + 2c0 = 0,
f (−1) = 2c2 − 2c1 + 2c0 = 0,
ここで,f (x) = o(x) = 0 としてあるので,右辺はすべて 0 ∈ R であるこ
とに注意してください。このとき,上の連立一次方程式の係数行列は正
則になりますから,解は自明な解 (c2 = c1 = c0 = 0) のみとなります。も
ちろん,素直に上の連立一次方程式を計算して解が c2 = c1 = c0 = 0 で
あることを確かめても構いません。問題によっては,代入する値をうま
く選ばないと係数が全て 0 であることを示せない場合もありますから注
意が必要です。ここで,一般の Pn (R) の場合の証明にならって,勝手な
3 つの異なる実数を代入して,c2 , c1 , c0 の連立一次方程式を作り出してく
れた人もいました。もちろん,それでもいいですが,上のように適当な 3
点を選ぶだけで十分です。これで,A が一次独立であることが示されま
した。
次に生成系についてです。素直に生成系の基本の証明スタイルである
∀g ∈ P2 (R) に対して, g ∈< x2 + 1, x − 1, 2 >
1
を示してみましょう。∀g ∈ P2 (R) は,g(x) = a0 + a1 x + a2 x2 の格好をし
ています。g ∈< x2 + 1, x − 1, 2 > ということは,g(x) = a0 + a1 x + a2 x2
が x2 + 1, x − 1, 2 の一次結合で表せるということを意味しています。つ
まり,ある c2 , c1 , c0 ∈ R が存在して,
a0 + a1 x + a2 x2 = c2 (x2 + 1) + c1 (x − 1) + c0 2
(2)
となれば良いわけです。右辺を展開してやれば,c2 (x2 +1)+c1 (x−1)+c0 2 =
c2 x2 + c1 x + c2 − c1 + 2c0 ですから,
a2 = c2
a1 = c1
a0 = c2 − c1 + 2c0
を c2 , c1 , c0 について解いてやればいいです。解けば,c2 = a2 , c1 = a1 ,
c0 = (a0 + a1 − a2 )/2 となり,式 (2) を満たす,c2 , c1 , c0 の存在が言えま
した。よって,A は P2 (R) の生成系であることが示せたことになります。
以上より,A が一次独立であり,P2 (R) の生成系であることが示せたの
で,A が P2 (R) の基底であることが示せました。どうでしょうか,自分
の言葉でまとめてみましょう。
感想:
(1) 教科書を読み込むのは,とても good だと本当に思います。
(そうなんです。教科書で答えを探すのではなく,時間をかけて読み
込むと理解が深まります。それが正しい勉強の仕方です。)
(2) 線形写像を考えていると,
「行列」と「関数」という今まで別に考え
ていた数学が一つになっていく感じがして面白いです。
(良い感想をありがとうございます。それを一番に伝えたかったの
ですが,みなさんも分かっていただけましたか?)
参考文献
[1] 村上正康,佐藤恒雄,野澤宗平,稲葉尚志,
「教養の線形代数」,培風
館,1977 年.
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