大阪大学 理学部 物理学科 宇宙地球合同卒業論文発表会 2015 年 1 月31日(土) 10:00~16:20 大阪大学大学院理学部研究科 F 棟 102 号室 卒業研究発表会プログラム(発表7分、質疑応答3分) 【数字】は要旨掲載ページ数を示しています 午前の部 1.10:00~10:40 座長:常深教授 田中秀貴 (佐々木研) 【4】 福田隼大 (長峯研) 【4】 金木俊也 (中嶋研) 【5】 三田井慎吾 (近藤研) 【6】 2.10:40~11:10 座長:中嶋教授 渡邉彰吾 (長峯研) 【7】 五十嵐宣孝 (常深研) 【7】 秋本耕作 (近藤研) 【8】 休憩 10 分 3.11:20~12:00 座長:近藤教授 羽矢純也 (長峯研) 【9】 朝山暁 (中嶋研) 【9】 西谷隆介 (佐々木研) 【10】 森智宏 (寺田研) 4.12:00~12:30 【11】 座長:佐々木教授 上松和樹 (川村研) 【12】 上井優典 (近藤研) 【12】 福島拓真 (長峯研) 【13】 午後の部 5.13:30~14:10 座長:寺田教授 田中沙希 (常深研) 【13】 森藤直人 (中嶋研) 【14】 こむぎ航 (佐々木研) 【15】 大山照平 (芝井研) 【16】 6.14:10~14:50 座長:芝井教授 富澤亮太 (中嶋研) 【17】 小澤健司 (近藤研) 【17】 金丸仁明 (佐々木研) 【18】 赤井真道 (寺田研) 休憩 【19】 10 分 7.15:00~15:40 座長:川村教授 平尾優樹 (芝井研) 【20】 甲斐裕基 (中嶋研) 【21】 永金昌幸 (芝井研) 【22】 諏訪太一 (寺田研) 【23】 8.15:40~16:20 座長:長峯教授 蓮中亮太 (寺田研) 【24】 綱澤有哉 (中嶋研) 【24】 密本万吉 (芝井研) 【25】 田中哲夫 (川村研) 【26】 アナログ物質を使った縮小モデルでの マグマ挙動の再現 田中秀貴 佐々木研究室 Key words:溶岩流、ニュートン流体、粘性率、表面張力 溶岩流のアナログ物質を準備し、縮小地形モデルで流すことにより、溶岩の挙動の縮小 スケールと実スケールでの違いや問題を評価する。 アナログ物質(ボディーソープ)がニュートン流体であると仮定して、アナログ物質を ある傾斜角を持った平面に流し込み、流下中の流体の厚さや流下速度等から見かけの粘性 率を算出した。 また実験で用いたアナログ物質はある厚さの範囲で光を透過するので、より正確な厚さ を測定するために透過率が活用できると考え、厚さと透過度の関係を実験により求めた。 そして、表面張力によるアナログ物質の形状を測定し、ビンガム流体の形状と比較・考察 した。 銀河系内超新星爆発候補天体からの重力波信号 について 福田隼大 宇宙進化研究室 Key words:重力波、超新星、レーザー干渉計 アインシュタイン方程式によると、質量をもった物質が存在すると、それだけで時空に ゆがみができる。その物質が運動すると、時空のゆがみは光速度で伝搬する。これが重力 波である。そのような重力波が観測できる可能性のある現象として、超新星爆発や、中性 子性の連星合体などがある。 本研究では、銀河系内の超新星爆発候補天体について超新星爆発を起こした場合に発生 する重力波信号が,KAGRA, LIGO, Virgo といった地上レーザー干渉計検出器によって、ど のような強度で検出されるかについて、レーザー干渉計の感度の指向性をきちんといれて 調べた。候補天体としては、銀河系内の赤色巨星や、ウォルフライエ星を対象とした。講 演では、計算結果について発表する。 炭質物の熱分解による断層ガウジ黒色化の 実験的検証 金木俊也 Key words: 中嶋研究室 炭質物,熱分解,摩擦発熱,断層ガウジ 地震時に断層では高速滑りによる鉱物の破砕と摩擦発熱が生じ,地震後の回復過程を経 て,断層ガウジが形成される.この断層ガウジは様々な色(白色〜桃〜緑〜灰〜黒色)を 呈するが,堆積岩に発達するものは黒色であることが多い.しかし,断層ガウジの色変化 に関する研究はほとんど例がなく,さらに色変化と滑りパラメータの関係も不明である. そこで本研究では,堆積岩における摩擦滑りによる黒色化の原因を探るべく,粘土鉱物(モ ンモリロナイト)と石炭を混合させた試料にて高速摩擦試験と粉砕ミル実験を実施し,実 験前後の色およびラマンスペクトルの変化を調べた.その結果,実験後試料での黒色化を 検出,さらに石炭の混合量が多いほど黒色化の程度が大きいことが確認できた.また,実 験後試料の粘土鉱物表面にグラファイト構造に起因する G や D バンドが検出された.以上 を考察すると,滑りに伴い粉砕された石炭粒子が 300℃程度で熱分解し,発生した熱分解ガ スが粘土鉱物粒子表面に吸着,可視光の反射率を減少させていると推測される. 高温高圧下における FeS と H2O の反応関係 三田井慎吾 近藤研究室 Key words:核中の軽元素、放射光 X 線その場観察、レーザー加熱 DAC 地球核にはいくつかの軽元素が含まれていることが推定されているが、その種類や含有 量についてはまだよくわかっていない。特に鉄と複数の種類の軽元素を含んだ系での高温 高圧下での反応関係は研究例が限られている。そこで本研究では軽元素の有力な候補であ る S、O、H を含んだ系として FeS と H2O の系での高温高圧下での反応関係を調べた。高温高 圧発生にはレーザー加熱型ダイアモンドアンビルセルを用いた。反応生成物として想定さ れる金属水素化物中の水素が低圧側で試料から散逸してしまうために、放射光を用いた その場観察手法以外の観測は困難となる。そのために反応生成物の同定は高エネルギー 加速器研究機構(KEK)の放射光実験施設(PF-AR-NE1A)を用い、初期地球環境を想定した 温度圧力条件でX線回折法によって反応相を観察することにより、試料の相転移や反応 生成物の同定を行ったのでその結果を報告する。 LIGO データによる連星合体重力波の解析 渡邉 彰吾 宇宙進化研究室 Key words:重力波,連星中性子星合体,LIGO 重力波は一般相対論によって予言された時空の歪みが伝搬する波動現象であり,その検 出を目指して現在アメリカ,ヨーロッパ,日本において大型レーザー干渉計検出器が建設 されている.重力波はブラックホールや中性子星のような強重力の天体が激しい運動をす るとき大きく放射される。そのため、これらのような強重力天体の連星が重力波を放射し ながら合体する連星合体は、有望な重力波源である。 本研究では公開されている LIGO データを用いて連星中性子星合体重力波のテスト解析を 行った。その方法としてテンプレートとデータの相互相関を取って重力波信号を取り出す マッチドフィルターを用いた。テスト信号を LIGO データに埋め込みマッチドフィルター解 析を行い、検出できることを確認し,また,LIGO データで検出可能な距離を評価した。 マイクロレンジングイベントと X 線源の照合に よる孤立ブラックホールの探査 五十嵐宣孝 常深研究室 Key words: ブラックホール、マイクロレンジング、X線 銀河系には一億個の孤立した(連星系ではない)ブラックホール(BH)が存在しているとい う推測がある。 孤立 BH は希薄な星間ガスの降着のみで光るため X 線でも非常に暗く、実際、 現在まで確実な例は1個も知られていない。このような孤立 BH を探査するひとつの方法が 重力マイクロレンジングを利用した検出で、例えば Satore & Treves (2012)では 10 年分以 上の観測データを解析している。本研究では、この先行研究がカバーしていない OGLE-IV プロジェクトのマイクロレンジングイベント(2011-2013 年の分)に関して、タイムスケー ルが 100 日以上のイベントをピックアップした。これらのイベントに対応する位置に X 線 源がないかどうかを、X 線天文衛星 Chandara 衛星のアーカイブデータを用いて解析した。 比較照合の結果を報告するとともに、そこから導かれる、孤立ブラックホールの密度、明 るさに関して議論する。 激光 XII 号レーザーを用いた 鉄合金のレイリー・テイラー不安定性の観測 秋本耕作 近藤研究室 Key words:レイリー・テイラー不安定性、地球核形成 地球核形成過程として、マグマオーシャン底部に沈殿した高密度の鉄合金は、レイリー・ テイラー型重力不安定性(Rayleigh-Taylor instability :RTI)によって、低密度の珪酸 塩マントルの中に沈み込み、核とマントルが分離したという説が有力と考えられている。 この RTI による核形成についてはいくつかの理論研究が報告されているが、高圧かつ液体 条件下での核物質の実験は困難なため、実際に鉄合金を用いて行われた実験はこれまで報 告されていない。 そこで本研究では、大阪大学レーザーエネルギー学研究センターの激光 XII 号レーザー を用いることで重力を付加し、高温高圧下での液体鉄合金試料の RTI を観測することを目 的とした。試料として、Fe および Fe-Si 合金と、それぞれの表面にフォルステライト (Mg 2 SiO4)をスパッタリングで蒸着させた鉄合金を作成した。試料表面にはレーザーを用 いてあらかじめ擾乱を付加し、透過 X 線を用いて擾乱の時間変化を観測した。 ΛCDM モデルにおけるダークマターハローの質 量関数とその進化 羽矢純也 宇宙進化グループ Key words: ΛCDM model, dark mater halo, mass function 宇宙で支配的な物質成分はバリオンでなくダークマターであり、重力によってそのゆ らぎが成長することで宇宙の構造が形成されると考えられている。 ダークマターは構造形成の過程での無衝突減衰の度合いにより分類されている。その中で、 特にコールドダークマター(cold dark matter; CDM)を考えると、小スケールのゆらぎほ ど早い段階で非線形成長するため、小質量のダークマターハローはより早期に形成されや すい。銀河や恒星はバリオンがハローの中で凝集し冷却されることで作られると考えられ るため、ダークマターハローの形成とその数の時間変化を理解することで可視天体の形成 についても知ることができる。そこで本研究では、各質量ごとに形成されるダークマター ハローの個数密度を計算し、可視天体の光度関数と比較した。その際、最新のΛCDM モデル を仮定し、Press-Schechter 理論を用いた。 地震時の断層滑りによる鉱物の非晶質化と その定量法について 朝山 暁 中嶋研究室 Key words:活断層,断層ガウジ,非晶質物質 地震時の断層滑りに伴う破砕作用によって,断層内の構成鉱物は細粒化・非晶質化する. 例えば,1999 年集集地震で活動した台湾チェルンプ断層の主滑り面では,粒径数 10 nm 程 度の微粒子(一部は非晶質化)が確認された.この微粒子は主滑り面だけで確認されるた め,活断層としての指標の可能性が提案されている.但し,この確認法では,X 線回折パタ ーンでの鉱物組成定量解析(RockJock 法)によって,鉱物として同定されない物質(unfitted 成分)の情報を併用するが,同じく活断層である有馬高槻構造線では構成鉱物の同定が難 しい.そのため,本研究では, 「微粒子の発達・非晶質化≒活断層」が成立するかどうかの 実験的な検証を最終目標とするが,その前段階として,X 線回折における非晶質成分の定量 的評価法および RockJock 法の有効性について確認する. 溶媒中でのメタンハイドレートの分解抑制効果 西谷隆介 佐々木研究室 Key words:メタンハイドレート、自己保存効果 メタンハイドレートとは水分子で出来た籠の中にメタン分子が包接された化合物であり、 低温高圧の条件のもとで安定である。メタンハイドレートの特徴の一つとして自己保存効 果というものがあげられる。自己保存効果とは、分解挙動が抑制され安定化してしまう現 象のことであり、特に−20℃ではアノマラウスな自己保存効果が見られる。これはメタンハ イドレートの溶解とともにその表面に氷の膜を自ら作ることが原因と考えられている。こ の自己保存効果について理解を深めるべく、今回、 「自己保存における皮膜を人工的に作り 出す」 、「皮膜をハイドレートで作る」という2つのアイデアを思いつき実践することとし た。そこで様々な溶媒の中にメタンハイドレートを入れたところ、シクロペンタンの中に 入れた場合、特に分解が遅れることが分かった。アイデアが実現されたかを知るべく、メ タンハイドレートをシクロペンタンに投入し、一定時間経った後に残る固体をラマン分光 にかけた。その結果とともに溶媒中での分解過程のモデルを1つ立てたのでそれを発表す る。 ダスト整列機構の解明に向けた 非晶質シリケートの磁気異方性の検出 寺田研究室 森智宏 Key words ; 星間ダスト•非晶質シリケート•磁気異方性 非晶質シリケートは、星間•星周ダストを構成する主要な物質である。恒星からの可視・赤 外光には数%程度の偏光が観測されるが、それは宇宙磁場によって部分整列した上記の星 間ダストによって、恒星から出た光が散乱•吸収を受け、地上の観測者に整列方向に垂直な 偏光成分が伝わるからと説明される。しかしながら弱磁性の星間ダストがどのような機構 で整列するのか、未だ有効な説明がなされていない。 本研究では従来、結晶構造を持たず、等方的で存在しないものと考えられてきた非晶質 粒子の磁気異方性Δχを検出することによって、熱平衡条件下での磁気異方性エネルギー による整列の可能性を探求することにした。そのためには、厚さ数十μm(径~1mm)の微小 薄片試料のΔχを検出する必要がある。そこで、試料の回転振動をμg 環境下で観測してΔ χを検出する手法を改良することで、上記サイズの非晶質試料からΔχ〜10^-7emu/g 程 度の異方性を検出することに成功した。また同じ試料の ESR 測定を実施した結果、g 値の異 方性を検出し、ミクロな視点からも非晶質粒子に磁気異方性が存在することを見いだした。 𝐽1 -𝐽2 ハニカム格子上の量子 Heisenberg 模型 に対するボンドランダムネスの効果 上松和樹 川村研究室 Key words: フラストレーション、量子ゆらぎ、ランダムネス 近年の磁性研究においては、系のいくつかの最適条件が競合する「フラストレーション」 の効果が生む新奇な状態が注目されている。2 次元ハニカム格子はその特有の格子構造に由 来する量子現象により注目されているが、今回、この格子上の 𝑠 = 1⁄2 Heisenberg 模型に 対し、最近接相互作用に加え次近接相互作用を導入してフラストレーションを与えたモデ ルの低温量子状態を数値的に解析した。その際、相互作用にランダムネスを導入し、「フラ ストレーション」「量子ゆらぎ」 「ランダムネス」がどのような状態を生起するかに着目し た。最近研究が進みつつある、三角格子やカゴメ格子等の他のフラストレート格子系の性 質と比較しつつ議論したい。 高圧力下における鉄合金の融点判定 上井優典 Key words: 近藤研究室 地球核、レーザー加熱法、輻射温度計 鉄合金の融点測定は、核の組成や地球内部の温度構造を考える上で重要な基本情報である が、超高圧での鉄合金の融解判定には様々な方法があって、その結果も必ずしも整合的で は無い。本研究では、特に試料を加熱するレーザーの出力と試料の温度変化の関係から融 点を判断する方法について着目し、過去の報告でも違いの大きい Fe-Si 合金について、高 圧力下での融点の検出を試みた。高温高圧実験にはレーザー加熱ダイヤモンドアンビルセ ル(DAC)を用いた。加熱は YAG レーザーを用い、温度測定方法は、試料からの輻射スペク トルを分光器で計測し、計測したスペクトルをプランクの輻射式にフィッティングし温度 を算出した。DAC 中の試料の圧力測定には、ルビー蛍光法を用い、加熱の前後で圧力を測定 した。 銀河ガスのラム圧によるはぎとられから推測される 銀河団ガスの効果 福島 拓真 長峯研究室 Key words : Ram pressure stripping 煙の拡散 宇宙には様々な銀河が存在し、それぞれの銀河は水素を主成分としたガスをまとい、銀 河団の中を高速で運動している。これまでの観測により、銀河が銀河団中心に落ち込む際 に、そのガスが銀河団ガスとの相互作用ではぎとられ、まるで尾のように、長く伸びてい るというのが明らかにされている。本研究では、煙突から煙が排出され、風にのって拡散 していくモデルを考え、そのモデルに銀河のガスのはぎとられの様子が近似できるとして、 拡散係数を求めた。また、そのことから推測できる銀河団ガスの構造と、銀河へ与えうる 効果を議論した。 活動銀河核(AGN)の X 線長期変動の観測 田中沙季 常深研究室 Key words:活動銀河核、超巨大質量ブラックホール、X 線全天探査 宇宙に存在する銀河のうち、およそ 1%の割合で、中心核が明るく輝くものが存在する。こ れを活動銀河核(AGN)と呼び、その正体は、太陽の 105~1010 倍の質量をもつ超巨大質量ブラ ックホール(SMBH)への降着現象である。一方、AGN をもたないほぼ全ての銀河にも SMBH は 存在する。降着するガスが十分ある間は AGN として輝き、それが何らかの理由で欠乏する と暗くなるというのが一つの仮説であるが、具体的なサイクルは明らかでない。AGN として 輝く間は SMBH の質量が増加するので、これは SMBH の成長にとっても重要な問題である。 今回、AGN の明るさを評価するのに最適な X 線データを使い、長期的変動を調べた。対象 としては、HEAO1-A2 衛星が 1977-1978 年全天探査で検出した 32 個の AGN で、これが、 1990-1991 年の ROSAT 衛星全天探査、2009-2012 年の全天 X 線監視装置 MAXI の観測でどう 変化したのか追跡し、逆に新たに明るくなった AGN も探した。この結果を発表する。 珪藻土熱水加熱実験による 炭化水素生成過程の追跡 森藤 直人 中嶋研究室 Key words: 化石燃料,炭化水素,シリカ,赤外分光 石油や天然ガス等化石燃料炭化水素の起源は生物・微生物内の生体分子であるが,天然 水圏に普遍的に存在する植物プランクトン珪藻は,重要な起源物質の1つである.珪藻は 非晶質シリカ殻に覆われ,堆積後地下へと埋没するにつれ,シリカの構造変化が起こり, 特にクリストバライトから石英へ変化する深度で,石油や天然ガスが生成するとされてい る.しかしながら,炭化水素生成とシリカ構造変化との関係は殆どわかっていない.そこ で,珪藻土を熱水条件下で加熱し,シリカと炭化水素の変化を主に赤外分光法によって調 べた. 秋田県鷹巣地域の珪藻土 0.2g を 0.1 mol/L KOH 水溶液(pH~13)2g とともにテフロン反応 容器に入れ,オーブン内で 140oC,2 時間-6 日間加熱した.出発珪藻土のシリカには 950cm-1 の Si-OH 吸収ピークがなく,X線回折パターンはクリストバライトに似ている.反応生成 物の赤外スペクトルでは,脂肪族炭化水素 CH のピーク強度(高さ)が加熱時間と共に減少 した.今後は、顕微赤外分光器+熱水反応セルを用いて赤外分光その場観測を行い、CH の 減少速度を詳しく評価していく. Diamond/SiC 複合体の高圧アンビルとしての 実用化に向けて こむぎ航 佐々木研究室 Key words: 高圧アンビル、ダイヤモンド焼結体、高圧実験 地球内部の様な超高圧条件を実現するために用いる圧力装置の部品の一つがアンビルで ある。このアンビル材にはダイヤモンド焼結体を用いるのが理想的だが、サイズに限界が あり、また加工が難しく値段も高い。そこで大高グループでは、HIP(熱間等方圧加圧法) によって、ダイヤモンド粉と Si を反応焼結させて、Diamond/SiC 複合体(RDC)を作製し、高 圧アンビルとしての実用化を進めてきた。川井式二段加圧方式のアンビルとしては、実用 化に成功している。近年、二段加圧方式 MA6-6 の二段目アンビルを作製し、加圧実験を始 めた。通常用いられるタングステンカーバイドアンビルよりも圧力発生効率は良かったが、 しばしばアンビルの破壊が生じた。そこで、RDC の強度に対する、ダイヤモンド充填率やダ イヤモンド粒径の関係を調べるため、試料組織の電顕観察と一軸圧縮試験、さらには高圧 発生実験を行った。 宇宙観測用遠赤外線センサーの 信号読み出し用回路動作試験 大山照平 芝井研 Key words:遠赤外線センサー、AD 変換器、FPGA 我々のグループでは気球搭載型の遠赤外線観測装置を開発している。今回行ったのはそれ ら装置に含まれる、AD 変換器、FPGA、読み取り用 PC の3つをつなげた信号読み出し用回路 の動作確認である。AD 変換器は入力電圧を24bit のデジタルデータに変換することがで き、市販のカメラよりも高解像度の像を撮影することができる。また AD 変換器に信号を送 ることになる予定である遠赤外線センサーは5×15=75素子の二次元センサーであり、 感度も従来の検出器と比べ非常に高いものとなっている。FPGA はプログラミングによって 安価に回路設計を行うことができる IC の一種であり、市販品では対応できない読み出し用 回路を開発するのに重要である。私は先行研究によって作成されていた回路図を元に遠赤 外線センサー以外の各装置を組み合わせ、実際に信号が読み出せるかどうかを確かめた。 しかし結果として信号は正しく PC に読み込まれていなかった。そこで回路に不足している 部分を特定するために、個々の装置の配線の仕方や動作を確認した。結果、FPGA に動作開 始の命令を送る PC を用意する必要があることがわかった。今後は動作確認を続け、回路全 体の動作確認ができた後は同回路によって読み出した信号の精度やその読み出しの速さを 試験し、遠赤外線センサーを含めた全回路において同様の試験を行う予定である。 Calcium Silicate Hydrate の生成過程模擬実験 富澤亮太 中嶋研究室 Key words: 岩石,セメント,アルカリ変質,赤外分光 セメント、コンクリートに含まれる Ca(OH)2 は、雨水や地下水などに溶け出すことでアル カリ性(pH=12-14)水溶液を発生する。珪酸塩鉱物からなる岩石が強アルカリ性水溶液と反 応すると、Calcium Silicate Hydrate(CSH)という物質が生成する。CSH は元の岩石に比べ てもろいため、その生成によって岩石強度が劣化することがある。本研究では、非晶質 SiO2 粉末、Ca(OH)2 粉末、純水を出発物質として CSH 生成反応の模擬実験を行い、生成物の同定、 生成速度の解析を試みた。 140℃加熱バッチ実験の生成物を、KBr 錠剤法を用いて赤外吸収スペクトルを測定し、 SiO2(800 cm-1)、Ca(OH)2 (3645cm-1)のピーク高さ、及び Si-O 吸収帯(900-1300 cm-1)の形状 を解析して時間変化を追ったところ、2、3 日程度で反応が進むことがわかった。その生成 物を顕微ラマン分光法、X 線回折法で解析した結果、CSH 鉱物の 1 種 Tobermorite に似た物 質が確認できた。また、常温でも数日で反応が進むが,生成物は異なることがわかった。 今後は、顕微赤外分光器+熱水反応セルを用いて、加熱しながら赤外分光その場観測を行 い、CSH の生成速度を評価していく予定である。 高圧下における NaCl-H2O 系の融解曲線 小澤健司 近藤研究室 Key words:ラマン散乱、氷衛星、ダイヤモンドアンビルセル、相転 移 太陽系のスノーラインより外側の惑星に所属するいくつかの氷衛星は、内部に海を持つこ と、及び H2O 以外に硫酸塩や塩化物等が存在することが分光観測や探査機によって確かめら れている。これらの衛星内部の熱移動や構造のモデルの多くは含有されるイオンの濃度に よってその構造が大きく変わることが示唆されているが、実験的な研究例は少ない。そこ で本研究では、ダイヤモンドアンビルセルとラマン分光法による H2O 及び H2O-NaCl 系の高 圧下の融解曲線に関する実験を行った。温度制御にはアルコール媒体をダイヤモンドセル の周囲に冷却循環させ、圧力測定には SiO2 のラマンシフトを用いた。温度変化過程におけ るラマンシグナルの変化から相転移を検出し、低温高圧下における相変化を観察した。得ら れた実験結果より、液相線に対する塩の効果と氷衛星の内部構造について考察した。 モデル天体の重力場計算 金丸仁明 佐々木研究室 Key words:小惑星、重力 目標天体の重力場を知ることは、惑星探査機の軌道を決定する上で欠かせない問題であ る。天体周辺の重力場は天体内部の密度分布を反映したものである。そのため重力場を詳 細に調べることは、探査機の確実な運用のみならず、天体の内部構造や形成過程の理解の 手がかりとなる。 しかし、小惑星のようにバラエティに富んだ形状をもつ天体においては、内部の密度分布 まで考慮した重力場の計算はそれほど進んでいない。本研究は、内部に不均質な密度分布 をもつモデル天体を仮定し、その重力場を計算することを目標とする。天体を輪切りにし て考え、それぞれの円盤のサイズや密度を変えることで密度分布を表現するスキームを提 案する。今回は密度一定の円盤、またはそれを複数枚組み合わせたシンプルな形状で重力 ポテンシャルを計算した。その結果を報告する。 アルゼンチン NeuquénK/Pg 境界堆積岩に含まれ る有機炭素・硫黄含有量の分布 赤井真道 寺田研究室 Key words:K/Pg 境界、生物大量絶滅、硫酸還元バクテリア 序論:約 6500 万年前に起こった生物大量絶滅は、白亜紀/第三紀(K/Pg)境界粘土層から発 見されたイリジウム異常濃集(Alvarez et al. 1980) 等の証拠から巨大天体衝突が原因で あったと考えられている。しかし、天体衝突が地球環境や生命進化にもたらした影響につ いては未だ議論が続いている。そこで、本研究では、アルゼンチン Neuquén K/Pg 境界層堆 積岩中の有機炭素・硫黄含有量を分析し、当時の生命活動を理解することを目的とした。 実験:試料には、アルゼンチン Neuquén 盆地で採取された K/Pg 境界層とその上下層におけ る、深度の異なる 15 種の堆積岩粉末(2-145mg)を用いた。有機炭素の分析には、試料に塩 酸を滴下して炭酸塩を除去した。各試料中の、全有機炭素量(TOC)・全硫黄量(TS)を CHNS 元素分析装置で測定した。 結果と考察:TOC は白亜紀層(0.30-0.49%) から境界層(0.09〜0.20%) にかけて約 3 分の 2 に減少し、境界層上部で小値(0.09%)を示した後、第三紀層にかけて増加した。一方、TS は 白亜紀層で検出限界以下であったが、境界層(0.38-6.14%)で増加しその上部で最大値 (6.14%)を示した後、第三紀層にかけて再び減少した。TOC と TS の深度分布にこのような 逆相関が見出された結果は、生物大量絶滅期に、硫化物を生成する硫酸還元バクテリアな どの一部の生物が活動していた可能性を示唆する。 巨大ガス惑星による重力マイクロレンズイベン ト MOA-2013-BLG-651 の解析 平尾優樹 芝井研究室 Key words:重力マイクロレンズ、系外惑星 我々MOA(Microlensing Observation in Astrophysics)グループではニュージーランドの Mt.John 天文台において、重力マイクロレンズ現象を利用した系外惑星探査を行っている。 重力マイクロレンズとは観測天体(ソース天体)の光がそれより前の天体(レンズ天体) の重力によって曲げられることによって、一時的に増光して観測される現象である。レン ズ天体が一つの場合は増光の時間変化(光度曲線)が対照的となるが、伴星を持つ場合は 光度曲線が特徴的な形を持つ。得られた光度曲線を解析することにより主星と伴星の質量 比がわかり、惑星を検出することができる。 本研究では 2013 年に MOA グループによって発見された惑星イベント、 MOA-2013-BLG-651(OGLE-2013-BLG-1761)の解析を行った。その結果、レンズ天体の質量比 はq = 5.9 × 10−3 、主星と伴星の距離をアインシュタイン半径で規格化した値はs = 9.5 × 10−1となり、伴星は木星のような巨大ガス惑星であった。 融合によるタンパク質の機能付加 甲斐裕基 中嶋研究室 Key words: 蛍光タンパク質、流体力学的半径 タンパク質は生命活動を支える重要な物質であり、タンパク質全体および各領域の機能 や、タンパク質間の相互作用を解明することは非常に大きな課題である。タンパク質の機 能解析において有効な物理学的手法として蛍光を利用する方法がある。蛍光性タンパク質 は、他のタンパク質と融合させることにより各タンパク質の動きをリアルタイムで検出で きるので、タンパク質の機能を解析するためのツールとして今やなくてはならないものと なっている。 本研究では、青色光を当てると構造変化を起こし二量体化するフォトジッパー(PZ)を モデルタンパク質として研究を行った。蛍光タンパク質と PZ を融合させたタンパク質を準 備し、分光法及び動的光散乱法(DLS)を用いて融合タンパク質の機能を解析した。融合タ ンパク質の吸収・蛍光スペクトルは、蛍光タンパク質および PZ それぞれのスペクトルの和 となっており、青色光による PZ と同様な光変化も観測された。また、DLS による分子径測 定からは、融合タンパク質の二量体化が示唆された。これらの結果から、融合タンパク質 がそれぞれのドメインの機能を維持していることが確かめられた。 重力マイクロレンズ法による惑星イベント MOA-2014-BLG-490 の解析 永金昌幸 芝井研究室 Key words: 重力マイクロレンズ現象、系外惑星 本研究では、2014 年に起こった重力マイクロレンズイベントである MOA-2014-BLG-490 の 解析を行った。その結果、主星と伴星の質量比が6 × 10−4 程度になった。主星が M 型星であ るとすれば、土星程度の質量となる。よって、それが惑星であると考えられる。アインシ ュタイン半径と主星-伴星間距離の比であるセパレーションは、7.5 × 10−1 程度となった。 我々、Microlensing Observations in Astrophysics (MOA) グループでは、口径 1.8m の MOA-II 望遠鏡を用いて、重力マイクロレンズ現象を利用した広視野高頻度の系外惑星探索 を行っている。重力マイクロレンズ現象とは、観測している天体(ソース天体)の前を質量 を持った天体(レンズ天体)が通過したときに、レンズ天体の重力場によってソース天体か らの光が曲げられて一時的に増光する現象である。レンズ天体が伴星や惑星を持つときは、 それらによっても増光され特徴的な増光曲線を示すため、それを解析することによって主 星と伴星の質量比を求めることができる。 レーザーポストイオン化 SNMS を用いた プレソーラーSiC の同位体分析手法の開発 諏訪太一 寺田研究室 Key words:プレソーラー粒子、SNMS、同位体比異常 プレソーラー粒子とは、太陽系形成以前にできた物質であり同位体比異常を持つ。そし て、プレソーラー粒子の同位体比は母天体の元素合成過程を反映するため、プレソーラー 粒子の同位体比を知ることは非常に重要である。レーザーポストイオン化 SNMS(Sputtered Neutral Mass Spectrometry)は、スパッタされた中性粒子をフェムト秒レーザーによりポ ストイオン化することでイオンの生成効率が上がり、従来困難であった高精度なミクロン オーダーの微小領域での同位体比分析を可能にする。またポストイオン化が非共鳴型であ るため、高強度のレーザーにより非選択的なポストイオン化が可能であり同時に複数元素 の分析が可能である。さらに、搭載されている MULTUMⅡによりイオンを周回させることで 質量分解能を向上させることができる。本研究では、プレソーラーSiC を Murchison 隕石の 粉末試料から化学処理により分離し、SNMS を用いて Si の同位体比を測定し、標準試料の Si 同位体比と比較することで同位体比異常を持つか検証する。そして同装置によるプレソ ーラーSiC の同位体分析手法の確立を目指す。その結果、+100~200‰という大きな同位体 比異常が確認でき、これは母天体での 29Si、30Si を生成する中性子捕獲反応によるものと考 えられ、AGB 星起源であることが示唆される。 月面上の水分子は レゴリス中に捕獲されているか? 蓮中 亮太 寺田研究室 Key words : 月面、レゴリス、水分子、シミュレーション 月面における水の存在について、従来、非常にドライで地中大気ともにほぼ無水である と考えられていた。しかし近年のリモートセンシング技術の発達により、月面に一定量の 水が存在することを示唆する観測結果が得られている。月面に水があるとするなら供給、 保持、散逸のような水の推移を考える必要があるが、まだ詳しい事は分かっていない。そ こで私は供給された水がレゴリス中でどのように捕獲、保持されるのかをコンピューター シミュレーションを用いて考察した。 砂岩の吸水過程の速度とメカニズム 綱澤有哉 中嶋研究室 Key words: 毛管力,吸水速度,間隙 岩石と水が接触すると,毛管力により岩石の間隙に水が吸込まれる。水の浸透距離 x ,時間 t ,管の半径 r の関係として,Lucas-Washburn(LW)式がよく用いられる: x 2 rt cos 2 ( :表面張力, :接触角, :粘度) 。LW 式に実測した x と t を代入すると,一般に r は 主要な間隙径よりもかなり小さくなる。この原因が,LW 式で考慮していない因子によるの か,それとも,実際に小さな間隙の吸水速度が全体の吸水速度を支配しているのかを,Berea m の間隙が主体で,そのうち約 95%が>3 m の間隙である。まず,全間隙に水が浸透しうる状態(乾燥状態)で x ,t を測定した。次に, 3 m より小さな間隙のみを水で満たす処理を行い,3 m より大きな間隙のみに水が浸透 しうる状態で x ,t を測定すると,吸水速度(= x t )は乾燥状態より約 2 倍大きくなった。す なわち,3 m より小さな間隙に水が浸透しうる場合は,吸水速度が約 1/2 になる。この結 砂岩を用いて調べた。この砂岩は半径 1–100 果は,小さな間隙の吸水が全体の吸水を律速していることを示唆する。 気球搭載遠赤外線干渉計 FITE 用鉛直ステージの 動作試験 密本万吉 芝井研究室 本研究では、気球搭載遠赤外線干渉計 FITE で使用する自動ステージが本来の用途とは多少 違う状況下での動作の確認試験を行った。気球ゴンドラの振動を抑えるためには重心で吊 る必要があり、重心をあわせるためにこのステージを使用する。 実験は、ステージを本来の用途である水平方向での動作を定格荷重の状態で試験をした。 故障を防ぐためのリミットスイッチが正常に作動するか確認した。次に、本来の用途とは 違う鉛直方向での動作を確認した。その結果、ステージの機能としてある大きさ以上の力 が加わると動いてしまうことがわかったためそのままの状態で鉛直方向の使用は危険だと わかった。 したがって本研究ではモーターの保持力やギアを通常のギアからウォームギアに変えるこ とでより大きな力に耐えられるようになると考え試験を試みた。 フィードバック・コントロールの能率の数値シ ミュレーション 田中 哲生 川村研究室 Key words: 熱力学第二法則、feedback control、非平衡関係式 通常の熱力学第二法則(最大仕事の原理)によれば、系が、外部に対して行える仕事(dW') は、自由エネルギーの減少量(-ΔF)より少ない(dW'≦-ΔF)。ところが、ミクロに情報を 測定し、制御して仕事を行えば、外部に対して行う仕事量(dW')は自由エネルギーの減少量 (-ΔF)より大きくなる為に、この第二法則と反する(ように思える)。その事が、古くから 大きな論争となっていたが、その問題を、沙川・上田の二人が、解決した。 それによると、ミクロに行われた情報の測定と制御(フィードバック)により、系の自由エ ネルギーを増加させる事ができ、その結果、熱力学第二法則(dW'≦-ΔF)は、外部に行っ た仕事 W と自由エネルギーの減少量-ΔF について、ボルツマン定数 k、熱浴の温度 T、相互 情報量 I を用いて、W≦ΔF+kTI と修正されることが分かっている。 また、この二人は、非平衡でも成り立つ統計的関係式 Jarzynski 等式を拡張して、フィー ドバック・コントロールの効率を定義する式を、導き出した。 本研究では、調和ポテンシャル中の粒子の位置を測定して、そこに運ぶという操作に対 して、その手順の順番を変えたサンプル同士で、実際に定義式が能率を表しており、妥当 であることを分子動力学法を用いて、確認した。 また、それを Overdamped Langevin System のモデルで解析的に計算し、検証を行った。
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