患者の予後を変えた経口摂取への取り組み 〜チームアプローチが及ぼし

第10回 健育会グループ
チーム医療症例検討会 in 熱川
演 題 名
患者の予後を変えた経口摂取への取り組み
~チームアプローチが及ぼした患者と家族の心境の変化
チームアプローチが及ぼした患者と家族の心境の変化~
患者と家族の心境の変化~
施 設 名
医療法人社団
医療法人社団 健育会 石巻健育会病院
発 表 者
○鈴木正人(
○鈴木正人(看護師)
看護師)、田邊有三(
、田邊有三(看護師)
看護師)、阿部喜恵(
阿部喜恵(看護師)
看護師)、佐藤寿恵
、佐藤寿恵(
寿恵(介護福祉士)
介護福祉士)、
庄司剛仁(
庄司剛仁(理学療法士)
理学療法士)、小野寺恭一(
、小野寺恭一(作業療法士)
作業療法士)、大川晶(
、大川晶(言語聴覚士)
言語聴覚士)、
吉田隆(
吉田隆(MSW)
MSW)、栗田有希(
、栗田有希(管理栄養士)
管理栄養士)、勝又貴夫(
勝又貴夫(医師)
医師)
概
要
【はじめに】
廃用症候群により、食への意欲、嚥下機能、認知
力低下のある高齢患者に、家族は積極的なリハビリ
を望まない状況で当院回復期病棟に転院となった。
本症例に対し、多職種で 3 食経口摂取を目標に介入
を行った結果、ADLが改善し、施設退院に至った
経過を報告する。
【症例紹介】
E氏 94 歳 男性 娘夫婦と孫の 4 人暮らし
診断名:廃用症候群
尿路感染、敗血症の治療の為 I 病院入院中(19 日)に
嚥下機能が低下した。
入院前ADL:自立 風呂の掃除など行っていた。
本人の希望:当院入院後は帰宅願望あり。
家族の希望:積極的なリハビリや延命治療は望まず、
自然看取りを希望していると情報あり。
入院時 FIM:27 点(運動 13 点、認知 14 点)
【ケアおよびリハビリ計画】
看護:口腔内の清潔保持。食に対する意欲の向上
安全に 3 食経口摂取が出来る。
リハビリ:耐久性と持久力の向上、起居動作獲得、
移乗軽介助、口腔内清潔維持、経口摂取。
【経過】
入院 1 週目:認知力低下があり、センサーコール
を使用、夜間は不穏が強く安定剤を服用していた。
リハビリに対し消極的で拒否があった為、患者のペ
ースに合わせ床上訓練を行った。言語聴覚士により
嚥下訓練開始されたが、覚醒状態が悪く絶食、輸液
管理となった。常に開口状態で、口腔内は乾燥し汚
染がひどく、自力喀痰も困難であった。トロミ水に
よる嚥下評価では、努力的で口唇閉鎖は促しが必要
であったが、ムセなく摂取。誤嚥性肺炎予防や食へ
の意欲を向上させる為、1 日 4 回以上口腔ケア、吸
引を行った。
入院 2 週目:カンファレンスで嚥下食摂取を目標
としてゼリー食を開始。当初は数口程度で拒否する
が、無理に食を勧めず少量ずつ日々の訓練を継続す
ることで摂取量は増加した。
入院 3 週目:昼食のみ重湯ゼリー開始。夜間不穏
状態が多く、スタッフが朝まで付き添い、見守るこ
ともあった。家族は「食べているんですよね・・」
と冴えない表情であったが、病棟スタッフやMSW
はほぼ毎日各々の視点からE氏の様子を伝えた。
入院 6 週目:口腔内環境が整い、嚥下持久力が向
上し、全粥食開始。「朝も食べたい」などの言葉が
あり、それまで拒否的であった家族からは経口摂取
できるようになってほしいとの希望が聞かれるよう
になった。
入院 8 週目:2 食経口摂取、軽介助で歩行可能。
家族の面会時には不穏なく落ち着きを取り戻した。
入院 10 週目:3 食経口摂取、「いつ食べても魚は
うまいなー」と喜びを表出するようになった。その
後、尿意を訴えるようになり、定時または希望時に
トイレ誘導を行い、失禁なく排泄可能になった。入
院時みられた夜間の不穏が少なくなった。
MSWから家族に退院について何度か話があり、
入院当初は病院への入院継続を希望していたが、施
設を 4 件見学後、家族の納得する施設を選択した。
【結果】
高齢の為、家族は自然看取りと考えていたが多職
種でアプローチした結果、3 食経口摂取可能となり、
入院 16 週目に特別養護老人ホームへ杖歩行で退院
となった。退院時 FIM51 点(運動 34 点、認知 17 点)
【考察】
経口摂取への取り組みを行うか、否かで患者の予
後に大きな差が生じる。人間本来の食べるという最
も根源的な欲求が満たされたことで精神状態が安定
し、ADLおよび患者のQOL改善に繋がった。家
族はリハビリに対し、当初は消極的であった。しか
し、患者の食べる意欲や喜びを伝えることで、少し
ずつ家族の心境が変化してきたことが感じ取られた。
認知力低下がある高齢患者の意思決定は家族により
代弁されることが多い。家族の想いや介護負担を考
慮し、患者の最善とされる方向性の選択ができるよ
う援助する必要がある。患者の持つ残存機能を多職
種で評価し、諦めず最大限に活用すること、また意
思を引き出すことはチーム医療の役割であることを
学んだ。