平成27年度 介護報酬改定と 経口摂取の 取り組み 平成27年度 介護

特 集
嚥下機能だけではなく対象者の食べる力を
と考えます」
この4月、介護報酬が改定されました。
マイナス2・ %とい
ことに意義があったという。そ
て皆でしっかり情報共有する
し、そ の 人 の 嚥下 機 能 につい
今回の経口維持加算の改定を
定 員 150 名 の 同 施 設 で は、
東 京 都 多 摩 市 に 位 置 す る、
あ い介 護 老 人 保 健 施 設。入 所
経口維持の取り組みを
地域へ広げる
う厳しい改定率の中、各施設ではどのような工夫でこれを乗
の 意 味で、VEが 算 定要 件で
多職種で総合的に評価することが求められる
り切ろうとしているのでしょうか? 栄養ケアに関する取り
Ⅱも同様の経口維持計画で1
れていた。なお、経口維持加算
れません」
のために視察されたのかもし
下げられて苦しいという声も
「経口維持加算の単位が引き
行っていくと蓮村医師は語る。
必要な人に必要な形でVEを
な く なった 今 で も 変 わ ら ず、
では経口維持加算Ⅱを月
施に くい環 境に あ り、これ ま
「当 施設ではVEやVFを実
らえている。
サービス向上のチャンスとと
組みの見直しを図る施設の事例を紹介します。
日5単 位 算 定で きる が、この
等が必須ではなくなったので、
今回の報 酬 改 定により、経
口維 持 加 算Ⅰ・Ⅱと もにVE
〜
場合はVEもしくはVFによ
件 算 定 していま し た。こ れ
嚥下機能評価が必要となる。
テス ト、頸 部 聴 診 な どによる
水飲みテストや反復唾液嚥下
加算Ⅰの単位は1日
単位か
たと言える。しかし、経口維持
算 定要 件のハードルが下 がっ
も 仕 方 の な い加 算 で す。そ れ
こと を 考 え れ ば、廃 止されて
算定率がわずか約1%だった
療法士、作業療法士、管理栄養
や看護師、ケアワーカー、理学
までも算定にあたっては、医師
あるかもしれません。しかし、
る評 価 は必要 な く、代 わ りに
40
「4月の介 護 報 酬 改 定によっ
ら1月 400 単 位、経口維 持
れ たので す から、その 意 義 を
をこういう形にせよ残してく
ンス を 行い、嚥下 機 能 や 栄 養
士などの多職種でカンファレ
は減収ということになるとい
加算Ⅱは1日5単位から1月
ンスなどで咀嚼能力等の口腔
う。
て、VE等 に よ る評 価 が 必 須
機能を踏まえた経口維持管理
経口維持加算のⅠとⅡを同時
「ただし、今回の改定により、
東京都昭島市に位置する愛
全 診 療 所。ここは同 じ 法 人 の
を評価することとなったので
今回 の 改 定によ り、このチ ー
よび養護老人ホーム偕生園に
す」
も1日
た。また、療養食加算について
状 態 の 評 価 を し て き ま し た。
併 設 す る 診 療 所 と な って お
蓮 村医 師は以 前 から、自 身
と 看 護 師、管 理 栄 養 士、ケ ア
へと 引 き 下 げ ら れ た も の の、
養管理に取り組んでいくべき
り、蓮村友樹久医師(NPO法
ワー カ ー、歯 科 衛 生士な ど 多
経口維持加算または経口移行
しっかりと受け止めて口腔・栄
人多摩胃ろうネットワーク理
職種からなる愛全園NSTを
加算との併算定が可能となり
げられた。結果、愛全園として
事)が両施設の診療にあたって
組織し、110名の入所者に対
ま し た。こ れ ら を入 所 者 の 栄
100単位へと、点数が引き下
「 昨 年 度、愛 全園では入 所 定
いる。
~
する栄 養 サポート を行ってい
ミールラウンドやカンファレ
名に対して経口維持加算Ⅰ
る。体 重 が 低下 す る 傾 向 の あ
養 状 態や嚥下 機 能、身 体 状況
要 件 で は な く な り ま し た。
医師は語る。
る人に対し、早期にNSTが介
の 結果 と して 算 定 していけ
に合 せて 総 合 的に評 価 し、そ
単位
嚥下造影検査(以下、VF)を
視鏡検査
(以下、VE)
あるいは
単 位)
。半 年に1回、嚥下内
画を作成することで算定
(1日
いる 施設 は、全国 の 施設 の 約
「経口維持加算Ⅰを算定して
視察に来たこともあるという。
組みを厚生労働省の担当者が
ケ ース も 多 々あ り、その取 り
る が、そ れ まで も加 算 を取 る
な お、同 診 療 所では所 内で
毎 週 火曜日にVEを行ってい
ないと考えています」
ば、そ れほどの減 収には な ら
単位から1日
行い、引 き 続 き誤 嚥 防 止のた
く、多 職 種 や家 族 が見 守る中
ために行 うというのではな
を算定していました」と、蓮村
に算定できるようになりまし
経口維持加算Ⅰとは嚥下機
能が低下している人に対して
加 し、栄 養 状 態 を 改 善 す る
入して栄養補助食品などを付
員110 名 のう ち、毎月
多 職 種 が協 働 し、経口維 持 計
めの食事の摂取を進めるため
件以上算定して
30
いるので、今回 の 改 定 の 参 考
でVEの 画 面 を 全 員 が 供 覧
施設は毎月
18
1% に 過 ぎ な いそ う で す。当
23
の管理が必要 と 判 断 され れ
ば、継 続 して 算 定で きる と さ
愛全診療所内でVEを行う蓮村友樹久医師。管理栄養士や歯科衛生士、
ケアワーカーら多職種がモニターを供
覧し、嚥下機能の情報を共有する
介 護 老人 福 祉 施設 愛 全園、お
経口維持加算の
取り組みの見直し
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平成 27 年度
介護報酬改定と
経口摂取の
取り組み
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(2 )
PDN 通信
PDN 通信
(3 ) で な い方 も、す べて の 地 域 の
をベースに胃ろうの方もそう
高齢者の方々が最期まで口か
の責 務であると考 えていま
す。幸い、この地域にはNPO
ら食べて幸せに暮らしていた
栄養ケアを継続できる体制構
築につなげたいと菅野さんは
が活 動 して おり、地 域の専門
法人多摩胃ろうネットワーク
が同施設内で推進されること
にな る が、そ れ を 施設 内の取
展望している。
ムでの取り組みがより高く評
価 される 結果 と な り、職員の
「さらに言えば、この取り組み
だける環境づくりに努めてい
り 組みに留 め ず、同 じ法 人 内
職同士が顔見知りという状況
で栄養マネジメントの情報を
を法 人 内 だけでな く、地域 全
ます」と、同施設を運営する医
共 有 し、同 法 人の利用 者 が病
モチベーション が向 上してい
療法人財団 天翁会の連携・広
きたいと思います」(菅野さん)
あおき・まさと● 1955 年、富山県出身。78 年、神戸大学経営学部卒。現在、株式会社
ウエルビー代表取締役として介護福祉ビジネスの経営・人事労務・教育分野などのコン
サルティング、自治体の福祉施策などのコンサルティングを展開する。
にあります。このネットワーク
介護と医療をつなげる地域包括ケア
また、
今回の介護給付費分科会で何度も出てきたキーワードとして
「ファンク
ション」
すなわち、
機能という言葉があります。
これは、
サービス名やサービス種
別が大切なのではなく、
患者や利用者をみたときに、
その人がやりたいことやそ
の人の生活の質を高めるための機能をもっているのかどうか、
ということで報酬
体系を変えていく
ということにつながります。
4つ目の柱である包括報酬サービス
はこれにあたります。
これは医療とのかかわりの重視ということでもあり、
たとえばリハビリに関して
言えば、
2014年度の診療報酬改定では医療保険のリハビリから通所リハや
訪問リハに移ると、
500点加算されるようになっています。
それを受けて、
今回の
介護報酬改定では、
前述したように通所リハ事業所がS
PDCAを行い、
リハビリ
マネジメント体制を強化しつつ、
自宅に帰れるようにする、
もしくは訪問リハから通
所リハや通所介護へと移行させることで
「社会参加支援加算」
というインセン
ティブが与えられるようになっているのです。
14年の診療報酬改定から報酬の
面で医療と介護が一本の流れになるようになっているというわけです。
今回の報酬改定からは、
医療機関側も介護のほうを向く必要があると示さ
れたともいえます。
ここで医療と介護が分断されると地域包括ケアができなくな
ります。
それに気が付く医師や医療職が多くなれば、
地域包括ケアも大きく変
化すると思います。
体に広げていくことが私たち
重度化防止のためのリハビリ強化
また、
リハビリテーションの強化推進として、
期限付きでADL、
IADL、
社
会参加などの生活行為の向上の成果を評価する
「生活行為向上リハビリ
テーション加算」
(通所リハ/訪問リハとの組み合わせも可)
や、
通所リハ
→通所介護、
訪問リハ→通所リハ・通所介護など「社会参加が維持できる
サービス」への移行時に算定できる
「社会参加支援加算」
( 訪問リハ・通
所リハ)
などが設けられています。
同様の趣旨で認知症短期集中リハビリ
テーション実施加算
(通所リハ)
も見直されています。
ここには、
今回の介護報酬改定でI
CF
(国際生活機能分類)
の考え方を強
人員不足のためサービスの効率化を図る
3つ目のサービス提供の効率化に関していいますと、
厚生労働省は2025年
には30万人の介護職が不足すると認めており、
少ない人数でサービスを提供
する必要が出てきます。
そのうえ、
給付費を切り下げてもサービスの質は落ちな
いように提供者側には求められます。
そこで、
人員基準を緩和し兼務を認める
などして、
サービスの効率化を図る必要があります。
これにより、
今改定の目玉でもある介護職員処遇改善加算が出てきました。
これは介護職員の賃金を平均1人当たり月1万2000円上げるといわれている
もので、
介護職員の処遇改善が後退しないように、
現行の加算の枠組みを維
持しながら、
さらなる資質向上、
雇用管理の改善、
労働環境の改善の取り組み
を進める事業所を対象として、
上乗せ評価を実施するための区分が創設さ
れました。
院から在宅までシームレスな
自分らしい生活を続けるための加算
次に、
訪問系、
通所系、
単期入所系、
介護保険施設それぞれのサービス
で、
中重度者の要介護者の受け入れが評価されることになりました。
施設系では、
2015年度より介護老人福祉施設の入所者が原則として要
介護3以上となることを踏まえ、
入所者にかかる算定要件の見直しと共に、
ユ
ニッ
ト型施設の入所者は、
単位数を従来型施設の入所者より引き上げられる
ことになっています。
中重度者
(要介護3以上)
への重点化ということは、
要介護
2以下を介護保険給付から外していく流れにもっていきたいという、
国の方針
も見え隠れします。
また、
今改定では、
多くのサービスで認知症関連の加算を新設したり、
手厚く
しています。
たとえば通所介護では60単位/日の認知症加算が新設、
居宅
介護支援では基本報酬への包括化で評価されることになっています。
特定
施設入居者生活介護
(地域密着型・介護予防を含む)
でも、
認知症専門ケア
加算が新設されました。
さらに、
「死亡日以前4日以上30日以下」
の看取り期のケアに重点が置かれ
ており「その人ら
、
しさを尊重した手厚い看取りケアの実現」
を目的に、
従来の
「看取り介護加算」
の算定額が大幅に増加しています。
つまり、
亡くなるまでの
プロセスの強化が図られているのです。
調している点が反映されています。
I
CFでは心身機能や身体構造を重視する
のではなく、
その人の生活の質を考えることを大切にしています。
提供者都合
としてリハビリを行う場合、
筋肉量を増やしたり、
関節の可動域を広くすることが
目標となっていましたが、
I
CFの考え方にもとづき、
患者や利用者中心に参加活
動を勧めるように促しているのです。
この参加活動においては、
「患者や利用
者が何を求めているのか」
を調査し、
目的性の高い目標設定および計画策定、
その実行とモニタリング、
修正といった、
いわゆるPDCAサイクルにS
(survey:調
査)
を足したS
PDCAを行うことも欠かせません。
こうしたS
PDCAのリハビリマネジメント体制の強化に向けて、
医師やPT、
OT
など多職種で連携して行うことが望まれます。
報担当部長の菅野俊也さんは
人の
正人
語る。
「現 在、当 施設では 約
胃ろうの方が入所されていま
す。これ らの 方 は 当 然 で す が
誤 嚥 性 肺 炎 の リス ク が あ り、
口腔ケアの必要性の高いケー
ス が 多 々 あ り ま す。今回 の 改
定により、多 職 種でのミ ール
ラウンドが算定要件となりま
したが歯科衛生士の意見も参
考 に して、さ らに口腔 ケア を
積 極 的に行っていけるのでは
ないかと期待しています」
と同
法 人 連 携 室長、有岡 弘子 さん
も今回の改定を評価している。
「高齢者医療・ケア」のパイオ
ニアである同法人は同施設の
10
地域包括ケアの確立を見据え、医療と介護の一本化をめざす
社会保障費の増加による介護報酬切り下げ
今回の介護報酬改定は全体ではマイナス2
・27%の改定率ですが、
介
護職員の処遇改善など
(プラス1
・65%)
や中重度・認知症ケア、
リハビリ、
口
腔・栄養管理に係る取り組み推進などのサービス充実
(プラス0
・56%)
を除
くと、
実質マイナス4
・48%というかなり厳しい改定がされています。
今改定では、
4つの柱があります。
まず1つ目が介護報酬の切り下げ、
2
つ目が中重度の要介護者や認知症高齢者への対応のさらなる強化、
3つ
目がサービス提供の効率化、
4つ目が包括報酬サービスへの集約になりま
す。
日本の財政赤字はGDP比で250%と、
世界一の高さです。
この理由は社会
保障費が高額であることが挙げられます。
2014年度の一般会計で社会保
障費は94兆円となっていますが、
税収は50数兆円程度。
これでは借金が膨ら
んでいくだけです。
増税は簡単にできるものではありません。
そこで国ができる
一手として、
今回の介護報酬改定の柱の一つである、
介護報酬の切り下げ
が出たのです。
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ほか、新天 本 病 院 や あいク リ
テ ー ション、多 摩 市 中 部 地 域
16
ニック 中 沢、あ い 訪 問 看 護ス
包括 支 援 センターな ど、全
事 業 所 を擁 しており、きめ細
かく高齢在宅療養者をサポー
株式会社ウエルビー 代表取締役 青木
ト して いる。今 回 の 改 定 を 受
介護報酬改定のポイント
け、経口維 持 加 算の取 り 組 み
菅野俊也さん
(左)
と有岡弘子さん。経口維持加算の改定につい
て、地域へ経口摂取の取り組みを広げるチャンスととらえている
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