題 世界文化遺産富士山の地域振興資源としての活用

平成 26年度 日本大学文理学部個人研究費 研究実績報告書
所属・資格
申請者氏名
研
究
課
題 世界文化遺産富士山の地域振興資源としての活用
研究目的
および
研究概要
報
告
の
概
要
研 究
の
結 果
地理学科 ・ 教授
佐野 充
㊞
世界文化遺産富士山は、人類共通の財産として後世に継承していくことが決まった。今日
まで富士山は、周辺地域の生活・産業を支えてきた地域資源である。今後も富士山を地域振
興資源としての活用していくことは必要不可欠なことである。そこで、世界文化遺産に指定
された地域の実態を把握し、将来に向けての地域振興のための観光資源化を容認しつつ、人
類共通の財産として維持・管理していく『世界遺産の日本的維持管理の方法』を探求し、構
築することを目的に調査・研究を行う。富士山観光は、人々が豊かで快適に暮らすための富
士山周辺地域経営の推進に、欠くことのできないものであり、21 世紀の富士山周辺地域主要
産業である。日本の象徴である富士山からのもうけは自然の恵みであると理解し、富士山の
環境保全と観光推進の共存する地域発展を目に見える形で実践することが重要であるとの認
識を持って研究する。
富士山は、1936 年国立公園に指定された富士箱根伊豆国立公園の富士地域に属する。現在
年間 3000 万人の観光客が訪れる一大観光地であり、富士山頂は夏の 2 か月間に 30 万人超が
登頂する登山のメッカである。富士山は、1992 年以降、富士山周辺地域の市民・自治体を主
体とした国民的レベルの世界遺産指定推進活動によって盛んに行われてきた。2013 年 6 月 22
日に世界文化遺産として登録された。そこで、富士山を地域経済発展のための資源として位
置付けながら、人類共通の財産として後世に継承していくために、行政における国立公園・
世界遺産としての富士山の維持管理における方策の調査、内在する課題についての言及に、
夏季における富士山周辺訪問観光客・観光登山客へのアンケート、観光・宿泊関連産業への
ヒヤリング・アンケートを加えて、富士山の環境保全と観光推進を分析した。
世界遺産指定地域および世界遺産指定される地域の環境保全と観光推進の実態を把握し、
観光資源化を容認しつつ、人類共通の財産として維持・管理していく国立公園の維持管理方
法と環境保全の高まりの中で爆発的な拡大を見せている観光関連産業の実態把握と推進手法
の分析を探求した。国立公園の一部である富士山は、富士箱根伊豆国立公園の冨士地域に位
置している。従来の維持管理は国・県の管理事務所を中心に行われてきたが、その業務はデ
スクワーク中心ので、実践的な公園管理は施設・管理官の数が少ないことも影響して、充分
に行われてこなかった。その影響なのか、観光関連産業は国立公園内での産業活動であるこ
とを日常的に意識することなく展開している実態があり、観光客も同様な状況であることを
把握した。結果として、充分にコントロールされていない観光開発、産業廃棄物・ゴミなどの不法投
棄、入山制御無しの観光登山によるラッシュ登山、登山道沿いのトイレ不足などが常態化した維持管
理不足の実態が明らかになった。
ヒヤリング・アンケート調査の結果、環境を保全しながら安全な登山を維持し、観光関連産業を
発展させるための方策をいくつか見つけることができた。その第一は、世界遺産の管理維持
基準に見合う富士山の管理維持にするために、登山者数の調整である入山制限を実効性があ
がる方策の積極的な導入が急務である。富士信仰では六合目を天上、これから上を聖域とし
ている。山岳信仰場であった富士山は、古来から人は歩いて登ることとされている。
アンケート結果では 80%以上の観光客が入山規制による環境保全を望んでいる。霊山富士
山の入山規制の強化は、それほど困難な問題ではない。人間界の最上場の五合目の活用をダ
イナミックに検討する必要がある。富士山の学術・科学的普及活動と環境保全教育のための
場としての活用;ビジターセンターと自然と文化のミュージアム、富士山山岳レンジャーと
ガイドの基地、山岳観光地としての充分な機能を備えた観光施設;アルプスのユングフラウ
ヨッホレベルのホテル・レストラン・物品販売店などの集約的立地などを前面に打ち出した地
域資源活用型の観光開発を行う。実効性のある計画・企画・運営策;処方箋が無ければ、さ
まざまな対策、啓蒙活動、教育活動を展開しても実効なき国民的レベルの啓蒙運動に終始し
てしまう。
研 究
の
考 察
・
反 省
研究発表
学会名
発表テーマ
年月日/場所
研究成果物
テーマ
誌名
巻・号
発行年月日
発行所・者
日本の霊峰、日本の象徴である富士山を地域振興資源として位置づけ、そこから儲けを得ることは
『自然の恵みである』と理解し、世界遺産としては『人類共通の宝もの、未来に受け渡していくもの』と
しての認識のもとに、富士山の環境保全と観光推進を共存させる地域発展を目に見える形で実践し
ていくことが、富士山に関する全ての活動と主体となる組織、周辺住民に求められている。
今後も、人々の豊かで快適な暮らしのために、富士山観光を軸とした地域活性化、地域振興は、
観光関連産業を主要地域産業として位置づけて開発していくことになる。つまり、これからも富士山を
山麓地域の地域振興資源として使い続けていくことは明白である。早急に、地理学からの環境保全
と地域振興(観光発展)のあり方を提示する。
富士山を世界文化遺産としての資質があり、それが保たれている地域振興資源であることを証明
することができる研究に発展させたい。
研究発表(関連研究発表)
佐野充:平成 26 年度日本大学文理学部公開講座、「富士山と日本人―日本人の自然観と富士山信仰
―」、 『日本の至宝富士山を読み解く』第 1 回、2014 年 5 月 10 日、日本大学文理学部.
佐野充:平成 26 年度日本大学文理学部公開講座、「富士山は世界文化遺産―慣行登山と地域振興
―」、 『日本の至宝富士山を読み解く』第 6 回、2014 年 6 月 28 日、日本大学文理学部.
佐野充・加藤幸真:アメリカ・ルイス&クラーク大学プログラム『富士山の自然と文化』レクチャーと交流会、
「なぜ、富士山は世界文化遺産なのか―観光登山と環境保全―」、 2014 年 7 月 9 日、日本大学文理
学部・富士学会・NPO 富士山クラブ(共催)、日本大学文理学部.
佐野充・加藤幸真:「富士山観光登山における災害遭遇の危険性認識」、富士学研究 12-22015 年 3 月
25 日、富士学会.