数学—微分と最大化問題

ミクロ経済学(2015 年度)
第 1 回 2015 年 9 月 17 日
教授 清水大昌 [email protected]
• http://www-cc.gakushuin.ac.jp/˜20060015/lecture/micro2015.html
• 講義の際にレジュメを配ります。補足的なものなので、ノートは別に採ることをお勧めします。
このレジュメは、授業前後にはホームページにアップロードしますので、授業に出られなかっ
た際にはダウンロードしてください。なお、他にも情報をこのページでアップロードします。
• 今回:数学—微分と最大化問題、消費者理論の紹介
べき関数
xa のような関数をべき関数という。a が整数の時には a 次関数と言われる。
この講義ではべき数 a は実数である。
・xa xb = xa+b ・(xa )b = xab
√
・x−a = x1a ・x1/2 = x
微分について
dxa
• 微分の公式: dx = axa−1 . 傾きを示している。ミクロでは傾きが 0 になる点、つまり極大値
と極小値を求めることが多い。たとえば、利潤最大化、効用最大化、費用最小化問題など。
• 半径 r の円の面積は πr2 , その円周の長さは 2πr. 半径 r の球の体積は 43 πr3 , その表面積は 4πr2 .
df (x)
• 他の微分の公式: dx = f ′ (x) とおく。すると、
d(f (x) + g(x))
= f ′ (x) + g ′ (x),
dx
d(f (x)g(x))
= f ′ (x)g(x) + f (x)g ′ (x),
dx
df (g(x))
= f ′ (g(x))g ′ (x)
dx
d(bf (x))
= bf ′ (x),
dx
d(f (x)/g(x))
f ′ (x)g(x) − f (x)g ′ (x)
=
,
dx
(g(x))2
• 偏微分: 他の変数は変えずに、ある一つの変数を少し動かしたときの関数の変化。
∂f (x)
∂x と表記する。∂ はラウンドと呼ぶ。全微分は後ほど。)
コブ・ダグラス型関数
f (x, y) = xa y 1−a , (0 < a < 1) のような関数のこと。例は
・効用関数: U (x, y) = xa y 1−a .
・生産関数: F (K, L) = K a L1−a .
1
最大化・最適化
・ミクロ経済学では効用最大化や利潤最大化のように最大化問題を良く扱う。
(a) 制約のない場合の最大化
一変数関数 f (x) の最大化のための一階の必要条件は、
df (x)
=0
dx
であり、二変数関数 g(x, y) の最大化のための一階の必要条件は、
∂g(x, y)
=0
∂y
∂g(x, y)
= 0,
∂x
である。
(b) 等式制約のある場合の最大化
ミクロ経済学の最大化問題では大概制約条件が存在する。例えば、効用最大化では予算制約である。
max U (x, y)
x,y
s.t. px + qy = M
U (x, y) = xa y 1−a とおいて、この問題を解いてみよう。一つの解法は代入を行うことである。制約
式を変形して y = (M − px)/q を効用関数に代入する。するとこの効用最大化問題は
(
M − px
max U x,
x
q
)
となり、制約条件を消すことが出来る。これは (a) でやった、制約のない場合の一変数関数の最大化
なので、x について微分して0となる値が x の解となる。その x を y = (M − px)/q に代入すれば
y が求まる。
二つ目の解法は、ラグランジュ乗数法を使うことである。等式制約があるときに使い勝手が良い方
法である。λ をラグランジュ乗数とするとき、ラグランジアンと呼ばれる関数は
L(x, y, λ) = U (x, y) + λ(M − px − qy)
となる。この場合、最大化問題を解く条件は、以下の3つの条件が成立することとなる。
∂L
= 0,
∂x
∂L
= 0,
∂y
∂L
= 0.
∂λ
3つ目の式は制約条件と一致するはずである。これらを今回の問題に当てはめてみると
axa−1 y 1−a − λp = 0,
(1 − a)xa y −a − λq = 0,
となる。これを解くと
(
(x, y) =
aM (1 − a)M
,
p
q
2
)
M − px − qy = 0
が求まる。
式展開
式展開を書いておきます。参考にしてください。
(
L=
(
max xa1
x
1
M − p1 x1
p2
)1−a
⇒
(
)
)
(
)
dL
M − p1 x1 1−a
M − p1 x1 −a
p1
= axa−1
+ xa1 (1 − a)
−
= 0,
1
dx1
p2
p2
p2
(
(
)
) (
)
M − p1 x1 −a
M − p1 x1 1−a
p1
+ x1 (1 − a)
a
−
= 0, [両辺を xa−1
で割る。]
1
p2
p2
p2
)−a
)
(
)
(
(
p1
M − p1 x1
1 x1
で割る。]
+ x1 (1 − a) −
= 0, [両辺を M −p
a
p2
p2
p2
a(M − p1 x1 ) − p1 x1 (1 − a) = 0, [両辺に p2 を掛ける。]
aM + p1 x1 (−a − 1 + a) = 0,
aM − p1 x1 = 0,
aM
x∗1 =
.
p1
ここからは消費者問題の紹介。消費の理論を最大化問題として考えてみる。
消費者の効用最大化
消費者が財を消費することによってどれだけの満足度を感じるかを 効用関数で表すことが出来る。
例えば、りんごの消費量を x1 、みかんの消費量を x2 とすると、効用関数が U (x1 , x2 ) で表される。効
用が 10 の時の無差別曲線は U (x1 , x2 ) = 10 を満たす x1 と x2 の組み合わせとなる。
限界効用と限界代替率
ある財の消費量を微少だけ増やしたとき、どのくらい効用が増えるかを限界効用 (marginal utility)
という。財1に対する限界効用は ∂U (x1 , x2 )/∂x1 = M U1 で表される。
財が増えていくにつれ、その追加分から得られる効用は逓減していく。これを限界効用逓減の法
則という。財が増えると限界効用が減るわけだから、これを数式で表すと ∂M U1 /∂x1 < 0 となる。す
なわち、
1 ,x2 )
∂ ∂U (x
∂ 2 U (x1 , x2 )
∂M U1
∂x1
=
=
<0
∂x1
∂x1
∂x21
というふうに表すことができる。効用関数の二階微分が負であるということである。(グラフで言え
ば、傾きがよりフラットになっているということ。)
消費量が増えると限界効用は下がっていくが、効用は上がっていることに注意。
3
代替率
同一の無差別曲線上にある点 A から 点 B へ移動してみよう。この際、効用は変わらない。消費計
画は (x1 , x2 ) から (x1 + ∆x1 , x2 + ∆x2 ) に変更される。(∆x1 は正で、∆x2 は負。別紙の図を参照。)
このとき、この変化を A から C への移動と C から B への移動に分けてみよう。点 C での消費
計画は (x1 + ∆x1 , x2 ) であり、そこへの移動は効用を上げる。またそこからの移動は効用を下げる。
前者で上がった効用分だけ後者で下がっていることがわかる。つまり第一財を ∆x1 だけ増やせるな
ら、第二財は −∆x2 だけ減らしても構わないというふうに考えられる。言い換えると「第一財 ∆x1
単位と第二財 −∆x2 単位だけ交換しても良い」といえるし、比をとると「第一財を 1 単位と第二財
−∆x2 /∆x1 単位だけ交換しても良い」ということもできる。
この交換比率は、第一財 1 単位の主観的価値が第二財で測っていくらかを示すこととなる。これを
第一財の第二財で測った代替率と呼ぶ。
ただ、ここで ∆x1 などが大きすぎるとその距離によって結果が変わってきてしまう。よって、こ
の変化を微小にとることにする。すると、無差別曲線の傾きとなることがわかるだろう。 ∆x1 → 0
とすると、−∆x2 /∆x1 → −dx2 /dx1 となる。これを 限界代替率 と呼ぶ。
全微分と限界代替率
限界代替率 (Marginal Rate of Substitution) とは、無差別曲線の傾きのことである。これが2つの
財の限界効用の比で表されることを示そう。
全微分: 全ての変数を少しずつ動かしたときの関数の変化。d を微小な変化とおくと、
dU ≈
∂U
∂U
dx1 +
dx2
∂x1
∂x2
となる。この式を使って限界代替率を求めてみる。無差別曲線の上では効用は一定であるから、dU = 0
である。よって、上の式から
dx2
−
=
dx1
∂U
∂x1
∂U
∂x2
ここで上で示したように左辺は 財 x1 の 財 x2 で測った限界代替率 M RSx1 x2 であるので、
M RSx1 x2 =
∂U
∂x1
∂U
∂x2
となる。限界代替率は限界効用の比となる。
限界代替率逓減の法則は
∂M RSx1 x2
≤0
∂x1
で表される。財1の消費量が増えると、限界代替率が逓減する、つまり無差別曲線が原点に対して凸
となるということである。
4
例:U (x1 , x2 ) = x1 x2 の場合。偏微分を取ると、
∂U
= M U 1 = x2 ,
∂x1
から、M RSx1 x2 =
x2
x1
∂U
= M U2 = x1 .
∂x2
となる。x1 が増えると限界代替率は逓減する。(∂M RSx1 x2 /∂x1 = −x2 /x21 ≤ 0)
効用最大化とマーシャルの需要関数
消費者は予算制約に直面して効用最大化を行う。数学的には
max U (x1 , x2 )
x1 ,x2
s.t. p1 x1 + p2 x2 = M
となる。これを解いてみる。ここで max の下にある変数を 内生変数 と呼ぶ。これらは、最大化をす
る経済主体が自由に動かせる変数のことで、これらについて微分すればよい。(予算制約線を変形し
た式を代入することによって内生変数の数を減らすことが出来る。)これに対して p1 , p2 , M のよう
に、経済主体が動かすことは出来ず、問題に所与である変数を 外生変数 と呼ぶ。
まず、この消費者は予算制約線上まで消費することが分かる。わざわざ過少に消費しても効用は最
大にならないから。また、限界代替率と価格比が一致することも分かる。図で考えれば自明だが、経
済学的直観を以下述べる。
M RSx1 x2 =
∂U
∂x1
∂U
∂x2
=
M U1
p1
=
M U2
p2
より
M U1
M U2
=
p1
p2
(1)
となる。ここで p1 = 10, p2 = 20 として考えてみよう。もし等号ではなく、不等号>で (1) 式が成り
立っていると、10 円で追加的に財1を買う喜び(限界効用を 10 円分で割る)の方が、20 円で追加
的に財2を買う喜びよりも大きいこととなる。その場合、財1をより多く買い、財2をその分少なく
すれば、限界効用逓減の法則より、左辺が減り右辺が増え、不等号が緩和されてくる。(具体例を入
れて考えてください。)よって、 (1) 式が不等号である限り、消費者は財の消費量を調節し、最終的
にはこの式は等号で成立するようになる。よって、価格比と限界代替率は一致する。
(限界効用と価格の比がそれぞれに財について一定という条件は、財の数が2より多くても成り立
つことに注意。)
よって、(1) 予算制約が等号で満たされる、(2) 価格比=限界代替率、の2つが効用最大化の条件
であることが分かる。
ここからマーシャルの需要関数 x∗1 = x∗1 (p1 , p2 , M ) が求まる。(問題を解くときは、内生変数につい
て求める。結果は外生変数の変化によって変わるので、つまり外生変数の関数であるといえる。)
5
この関数は0次同次である。つまり、α > 0 について、x1 (p1 , p2 , M ) = x1 (αp1 , αp2 , αM ).
(もちろん x2 についても同じことが言える。)
n 次同次
全ての α > 0 に対して、f (αx, αy) = αn f (x, y) が成り立つとき、これを n 次同次という。コブ・
ダグラス型の関数は1次同次であり、需要関数は価格と予算に関して0次同次である。
財の分類
マーシャルの需要関数を使って数式で財の分類を表してみる。
• 上級財 (正常財):
∂x∗1
∂M
> 0. 所得が増加するとき、その財に対する需要が増加する。
• 下級財 (劣等財):
∂x∗1
∂M
< 0. 所得が増加するとき、その財に対する需要が減少する。
• ギッフェン財:
∂x∗1
∂p1
> 0. 価格が上昇するとき、その財に対する需要が増加する。
需要の所得弾力性は(需要量の変化率)/(所得の変化率)で表される。言い換えると
(
) (
∆M
∆x∗1
/
∗
x1
M
• 奢侈品: )
∗
M ∂x1
∗
x1 ∂M
• 必需品: 0 <
である。
≈
M ∂x∗1
x1 ∂M
となる。そして、上級財を以下の2つに分類できる。
> 1. 所得が 1% 増えると、その財に対する需要が 1% 以上増加する。
∗
M ∂x1
x∗1 ∂M
< 1. 所得が 1% 増えると、その財に対する需要は増加するが、1% 未満
需要の価格弾力性
最後に需要の価格弾力性を復習しておこう。価格の微少な変化率に対してどのくらいの率で需要量
が変わるかという指標である。つまり、
ε=−
需要量の変化率
∆x1 /x1
∂x1 p1
=−
≈−
価格の変化率
∆p1 /p1
∂p1 x1
と変形できる。数式よりも経済学的意味を覚えるようにしてください。
6