Title 小児の歯数異常・萌出異常への対応 3.上顎正中過剰 歯 Author(s

Title
小児の歯数異常・萌出異常への対応 3.上顎正中過剰
歯
Author(s)
辻野, 啓一郎; 新谷, 誠康
Journal
歯科学報, 114(5): 425-427
URL
http://hdl.handle.net/10130/3481
Right
Posted at the Institutional Resources for Unique Collection and Academic Archives at Tokyo Dental College,
Available from http://ir.tdc.ac.jp/
―――― カラーアトラス ――――
小児の歯数異常・萌出異常への対応
3.上顎正中過剰歯
つじ の けい いち ろう
しん
たに
せい
こう
辻 野 啓 一 郎,新 谷 誠 康
東京歯科大学小児歯科学講座
カラーアトラスの解説
過剰歯は何らかの原因で過剰に形成された歯胚に
由来するもので,上顎正中部に現れる過剰歯は,過
剰歯のなかで最も多い。前歯部の不正咬合や埋伏の
原因となることがあり,状況に応じた適切な対応が
必要となる。
発生頻度
過剰歯については口腔外科,矯正歯科,小児歯科,
放射線科など各方面からの報告があるが,それぞれ
対象者が異なるため,発生頻度は報告により異な
る。加えて埋伏過剰歯はエックス線検査でなければ
発見できないこと,萌出した過剰歯は早期に抜歯を
受ける可能性があることから,発生頻度を明確にす
ることは難しい。本講座ではこの点を明確にするた
め,小児歯科受診患児のパノラマエックス線写真お
よび CT 写真の調査を行っている。対象者から過剰
歯の存在および過剰歯による原因が考えられる歯列
不正や萌出遅延などを主訴にしたものを除外する
と,2.
7%(1,
109名中30名)
に過剰歯を認めた。正確
な調査は困難であるが,発生頻度は約3%と考えて
よいと思われる。
性 差
過剰歯の発生頻度には性差があり,3−5:1で
男児に多い。遺伝因子の関与が指摘されているが不
明確である。
歯 数
1歯のものが約7割,2歯のものが約3割で,3
歯以上のものは稀である。
萌出方向
過去の報告では逆生が多いとされるが,対象が埋
伏過剰歯とするものが多く,萌出する可能性がある
順生の割合が低いのは当然である。臨床上問題とな
ることが多い埋伏過剰歯は逆生が多いといえる。さ
らに数は少ないが水平方向に埋伏している過剰歯
も,永久歯の萌出障害や歯列不正を引き起こすこと
が多い。
位 置
近遠心的には両側中切歯間にあることが多く,中
切歯歯軸上も含めると大部分が中切歯付近にある。
また,大部分が唇口蓋側的には口蓋側よりに,垂直
的には中切歯根尖より咬合平面側に存在する。近年
は,CT の普及により三次元的位置の把握は容易に
なった。
歯列への影響
切歯の埋伏,捻転,萌出方向異常,正中離開など
があげられる。先の本講座の調査では過剰歯の抜歯
を行った患児の約7割に,矯正治療が必要と診断さ
れている。しかも抜歯時年齢が低い場合でも,矯正
治療が必要と診断された患児の割合は低くはなかっ
た。過剰歯がある場合には,抜歯後に矯正治療が必
要な症例が多いといえる。
抜歯時期
口腔内に萌出している場合は抜歯も容易であり,
早期の抜歯が望ましい。歯冠形態が単錐型のことが
多いため,尖頭のみ確認できる場合は歯列への影響
がなければ,歯冠が把持しやすい程度に萌出を待っ
てもよい。順生の埋伏の場合,萌出してくる可能性
もあるため,歯列への影響がない位置にあれば同様
に萌出してくるかを確かめてもよい。
埋伏過剰歯の抜歯時期は永久歯胚への影響や小児
の年齢を考慮し,個々に判断するべきであるという
意見と,過剰歯発見後は永久歯列への影響を少なく
するため可及的に早期に抜歯するべきであるという
意見がある。近年では CT の普及により三次元的な
位置の把握が容易になり,永久歯胚を損傷する危険
が少なくなったため,後者の意見をみる機会も多く
なった。一方で,過剰歯発見の契機が記載されてい
る報告をみると「外傷や齲蝕のためのエックス線検
査による偶然の発見」が多くみられる。このような
場合,過剰歯は低年齢で発見される。しかし,埋伏
過剰歯の抜歯は比較的侵襲度が高く,低年齢児では
対応法が問題となる。多くの場合,低年齢で抜歯を
行う際には全身麻酔下の対応が必要となる。早期に
抜歯をするべきとする施設は,CT が撮影でき,全身
麻酔下での対応が容易であることがほとんどである。
過剰歯の発生頻度は約3%と比較的遭遇する機会
の多い疾患で,位置や方向,歯数も多彩である。過
剰歯の抜歯時期は,過剰歯と永久歯胚との位置関係,
永久歯歯根の形成状態,隣接永久歯,乳歯への影
響,患児の年齢,協力度などを考慮して決定するべ
きではないだろうか。埋伏過剰歯は早期に抜歯を
行った方が永久歯列への影響は少なくなるが,歯列
不正が残ることも多く矯正治療が必要となる可能性
も高い。無論,抜歯時期を遅らせることで影響が強
く出る場合は早期に抜歯を行うべきであるし,経過
観察を行う際には定期的なエックス線検査で過剰歯
の動きを把握し,悪影響が出ていないことを注視し
ていく必要がある。なお,本講座の調査では抜歯時
年齢は順生歯で5−7歳,逆生歯で7−8歳が最も
多いという結果であった。
特に逆生歯の場合は鼻腔方向に過剰歯が移動し,
抜歯が困難になる場合もある。過剰歯が鼻腔内に萌
出した例も報告されており経過観察を行う場合は注
意しなければならない。
文
献
1)宮島美樹,櫻井敦朗ほか:当科通院患者における上顎正
中過剰歯の発生率と永久歯列への影響度に関する検討.小
児歯誌.52⑵:347,2014.
2)辻野啓一郎,倉持真理子ほか:高崎総合医療センター歯
科口腔外科開設からの上顎正中過剰埋伏歯に関する臨床的
検討.群馬県歯科医会誌.18:33−38,2014.
小児の歯数異常・萌出異常への対応
3.上顎正中過剰歯
辻 野 啓 一 郎,新 谷 誠 康
東京歯科大学小児歯科学講座
歯冠は単錐型が多いが,形態は様々で大きなアンダーカット部がある場合や
歯根の湾曲がある場合があり,抜歯前に形態を把握していくことが重要である。
図1
過剰歯形態のバリエーション
1 の根尖部付近に過剰歯があり,中切歯は逆被
初診時!
蓋を示していた。
埋伏過剰歯の抜歯を行い,3か月後には被蓋が自然治
癒した。
図2
1 に近く,!
1の
初診時,過剰歯は!
歯根の完成度と歯列への影響が少な
いことから経過観察を行った。
9歳6か月,永久歯歯根は完成し
抜歯を行った。
図4
図3
過剰歯の抜歯時期の検討
過剰歯の歯列への影響
4歳時に外傷のため撮影さ
れたエックス線写真より過剰
歯2歯が発見された。この時
点では永久歯への影響がな
く,年齢的な対応の問題から
経過観察を行った。
6歳時に中切歯と過剰歯が
近接してきたため,CT 撮影
し中切歯の萌出に影響が出る
可能性があったため抜歯を
行った。
抜歯は外来で通常の対応で
行った。
図5
過剰歯の歯列への影響
過剰歯の抜歯時期の検討
歯列への過剰歯の影響はない。近遠心的には小臼歯部に存在し,垂直的には
鼻腔底近くに存在する。このような症例では抜歯による侵襲が大きく,抜歯を
行うメリットも少ない。
歯列から大きく離れていて,抜歯時の侵襲が大きいと考えられる場合は,将
来的な嚢胞化などの可能性を説明し,経過観察を行う。過剰歯の歯根が未完成
の場合は,大きく移動する場合もあるので注意が必要である。
図6
過剰歯の抜歯時期の検討