JEITA ディスプレイデバイス事業委員会 人間工学専門委員会 主催 2015/3/6 フラットパネルディスプレイの人間工学シンポジウム2015 小学校の授業における3D教材の活用 東京福祉大学 教育学部 准教授 柴田 隆史 1 講演内容 学校教育における3D教材の活用 3D教材制作の取り組み 小学校での3D授業の実践とその効果 ・群馬県伊勢崎市での実践 ・東京都北区での実践 東京福祉大学・柴田隆史 2 学校教育における3D教材の活用 ■ 3Dの機能性を教育へ活かすことが目的 ⇒ そのために、教育現場で3Dをどのように活用すれば 学習面に効果的なのかを検討し、学校教育において 3D映像を活用するための知見を得る。 東京福祉大学・柴田隆史 3 3Dを使うことの良さの例 平面で描かれた物体を頭の中で回転させて空間的位置関係を把握する 「メンタルローテーション課題」を3Dで行うことで、課題の得点が上 がることを報告(Aitsiselmi & Holliman, 2009) ⇒ 3Dにより、従来の2D教材よりも分かりやすくなることが示唆される。 東京福祉大学・柴田隆史 4 小学校における授業での3D活用のために 3D教材の制作 ⇒ ・教育の何に活用するのか? ・何を対象とするのか? ・どんな意図で教育に活用させるのか? ・教育効果や学習効果が期待できるのは何か? 授業で3Dを使うための検討 ⇒ ・学校現場の教員との議論・準備 ・学習指導要領における位置づけ ・授業において何に3Dを利用するのか? ・どういう方法で3Dを見るのか? 東京福祉大学・柴田隆史 5 3D教材制作の取り組み 3D教材の制作コンセプト ① 3D映像にすることで教材の価値が高まるもの ② 地域(群馬)に関係した、価値や重要性が高いもの ③ 教育的価値が高いもの 3D表現を活かした古墳や出土品などの映像 ・ 起伏に富んだ墳丘や堀 ・ 広い空間に配置された埴輪 ・ 奥行きのある空間に入り込む石室 ・ 細かな凹凸や模様がある出土品 東京福祉大学・柴田隆史 6 3D教材制作の取り組み:古墳を対象とした3D教材 3D教材 『群馬の古墳 大室古墳群』 ① 約10分間の3D映像により、古墳や埴輪、土器などを説明 ② 古墳時代の社会科学習と地域学習に利用 ③ 学術的知見に基づく安全で快適な3D教材 *日本視聴覚教育協会「平成25年度全国自作視聴覚教材コンクール」小学校部門入選 *大室はにわ館(群馬県前橋市)にて2014年11月より常設展示 東京福祉大学・柴田隆史 7 小学校での3D授業実践① 群馬県伊勢崎市立赤堀南小学校での実践 小学校6年生社会科における古墳時代の学習 ⇒ 3Dの教育効果を調べることはもちろん重要課題であるが、 実際の授業の中での教材として3Dを使うことを重要視した。 古墳時代の学習は、年間学習計画の8時間目前後であり、 通常、4月の下旬に行われる。 東京福祉大学・柴田隆史 8 小学校での3D授業実践① 小学校教員との打ち合わせによる「授業計画」の検討 ⇒ 該当単元では何を学ぶのか? 資料や教材はどこでどのように使うのか? 単元「1-1 縄文のむらから古墳のくにへ」 ⇒ くにをつくりあげた王や豪族たちの力の大きさ を学習する。 東京福祉大学・柴田隆史 9 小学校での3D授業実践① 授業においては、「石室」と「埴輪」の3D映像を利用 ⇒ それぞれ約1分間のムービーで、文字による説明はない。 東京福祉大学・柴田隆史 10 小学校での3D授業実践① 3D教材としての学習ポイント ⇒・石室の空間的な大きさや積み重なった石の様子 ・複数の埴輪の位置関係や、個々の埴輪の形状や細かな凹凸 ・墳丘(石室がある丘の部分)と埴輪との位置関係 観察により児童の発見や気づき、想像を促すことがねらい 東京福祉大学・柴田隆史 11 小学校での3D授業実践①:学習の評価 授業では、クラスによって2Dと3Dの利用方法を分けた 1.石室の映像 2.埴輪の映像 A組(28名) 3D 3D B組(29名) 2D 3D C組(29名) 3D 2D 東京福祉大学・柴田隆史 12 小学校での3D授業実践①:学習の評価 学習理解に役立つのか? ⇒ 児童は、気づいたことや分かったことをワークシー トに自由記述した。 映像を使った学習の最後に、評定尺度を用いたアン ケートに回答した。 東京福祉大学・柴田隆史 13 小学校での3D授業実践①:学習の様子 3Dメガネをかけて教材を見る児童 3D教材を見て気づいたことや分かったことをワークシートに記述する児童 東京福祉大学・柴田隆史 14 小学校での3D授業実践①:結果(評定尺度) 石室 質問1: 楽しく学習することができましたか? 質問2: 石室内部の、積み重なった石の様子や空間の広がりがわかりましたか? 質問3:なぜ、丈夫で広い石室がつくられたかわかりましたか? 5 4 評 定 3 点 2 1 質問1 質問2 質問3 質問1 質問2 質問3 質問1 質問2 質問3 A組 石室(3D) B組 石室(2D) 東京福祉大学・柴田隆史 C組 石室(3D) 15 小学校での3D授業実践①:結果(自由記述) 埴輪に関する自由記述 C組 (2D) 37 97 25 23 物の種類 B組 (3D) 41 66 29 14 形状 意味 その他 A組 (3D) 47 70 0% 20% 40% 60% 東京福祉大学・柴田隆史 33 80% 21 100% 16 小学校での3D授業実践①:アンケート結果 質問:3D映像を使った授業をまた受けてみたいと思いますか? あまりそう思わない 全くそう思わない 4.7% 0.0% どちらともいえない 5.9% 少しそう思う 10.6% とてもそう思う 78.8% 東京福祉大学・柴田隆史 17 小学校での3D授業実践② 東京都北区立豊川小学校での実践 小学校6年生のクラス(26名)を対象とし、古墳時代の埴輪 の映像を観察して、その特徴を学習する内容の授業を実施 授業での映像観察方法 2D映像の観察:紙、タブレット端末 3D映像の観察:3Dモバイル、3Dノートパソコン、3Dテレビ 東京福祉大学・柴田隆史 18 小学校での3D授業実践②:評価方法 観察においては、ワークシー トを用意し、気づいたことや 分かったことを自由に記述し た。 2D映像の観察では黒い鉛筆、 3D映像の観察では赤い鉛筆 を用いた。 東京福祉大学・柴田隆史 19 小学校での3D授業実践②:評価方法 児童は、どの部分に対する気 づきなのかを示した上で、コ メントを書き込んだ。 2Dと3Dの観察の時間を分け ているので、児童は観察中に 鉛筆を持ち替える必要はない。 東京福祉大学・柴田隆史 20 小学校での3D授業実践②:評価方法 授業の流れ(手続き) 1.導入として、縄文・弥生・古墳時代の土器などの特徴や変化につい て説明とディスカッション 2.2D映像の観察 ・13名はワークシートのみ、残りの13名はタブレット端末を併用 3.3D映像の観察 ・3グループに分かれて、それぞれの3Dディスプレイで観察 4.3種類のワークシートがあり、上記2と3の繰り返し ・児童は、授業を通して3種類全ての3Dディスプレイを使用 5.気づいたことなどの発表やディスカッション + 3D映像の分かりやすさなどに関するアンケートの実施 東京福祉大学・柴田隆史 21 実践②結果:紙群とタブレット群との3D効果の比較 質問1: 「写真(2D映像)」と「3D映像」のどちらの方が、はにわの形 や表面の様子がわかりましたか? 3D映像の方がいい ① 3Dの効果 2 ② タブレットの効果 1 同じ 0 ‐1 写真(2D)の方がいい ‐2 紙群 東京福祉大学・柴田隆史 タブレット群 22 実践②結果:紙群とタブレット群との関心の比較 質問2:小学校や自分の家の近くに古墳やはにわがあったら、見てみたい ですか? すごく見て みたい 5 4 紙群 3 タブレット群 2 全く none 見たくない 1 pre post 東京福祉大学・柴田隆史 23 実践②結果:ワークシート記入による着眼個数 ■ 着眼してコメントを記入した個数を、3種類の3Dディスプレイで比較 ⇒ 3Dテレビの着眼個数が一番多かった。 90 80 70 着 眼 の 個 数 60 50 40 30 20 10 0 3Dモバイル 3DノートPC 東京福祉大学・柴田隆史 3Dテレビ 24 実践②結果:ワークシート記入による着眼場所 3D映像による着眼 2D映像による着眼 東京福祉大学・柴田隆史 3D映像による着眼 25 実践②結果:ワークシート記入による着眼 2D映像の時には、馬や人の形をした埴輪など、オブジェク トやその特徴に着眼する。 3D映像では、地形の凹凸の変化や埴輪が置かれている場所 などにも着眼する。 ⇒ 3Dでは、地面に段差があることに 気づき、埴輪が周りよりも盛り上 がった場所(墳丘)に並んでいる ことに気づいた。 東京福祉大学・柴田隆史 26 実践②結果:授業終了時に回答した自由記述 3D映像で見ることで細かいところが分かり、2D映像で見たときの勘違 いに気づいた。 2Dで見るより3Dで見た方がこまかく(はにわの色のちがいが)見えた。 意外にぜんぜん気持ち悪くなかった。 写真を3Dにするとわからなかったところがわかったのですごいと思っ た。だんさなどがわかった。 写真では「へぇー」と思ったけど、立体だと(「おー」と思った。) もっと分かりやすかったです。 東京福祉大学・柴田隆史 27 まとめ① 3D教材では、空間的な広がりや石室に使われている岩の凹凸や積み方、 埴輪の形状などが分かりやすくなり、児童に細かな観察と深い考察を促 す(実践①より)。 学習に3D教材を用いることで、写真などの2D映像からは分かりづらい 箇所での気づきや発見を促す(実践②より)。 3D映像を用いることで、児童の興味関心を高めるだけでなく、知的好 奇心や学習効果を高める可能性が示唆される。 東京福祉大学・柴田隆史 28 まとめ② 3D映像の両眼視差による奥行き手がかりを活用することで、新たな教 育効果をもたらす可能性が考えられる。 3D教材は学習内容の深い理解を支援する可能性は十分にあると考えら れるが、教員による説明やワークシートの工夫など、授業においてどの ように活用するのかが重要となる。 映像の細かい部分の観察にはタブレット端末や高解像度ディスプレイな どの利用も有益であるが、3D教材はそれに加えて奥行きや立体感をよ り分かりやすく表現できるという優位性があると考えられる。 東京福祉大学・柴田隆史 29 謝辞 ご協力いただいた方々に感謝の意を表します。 古墳に関する資料提供と3D撮影において、前橋市教育委員会文 化財保護課にご協力いただきました。特に、前原豊氏には多大 なご協力をいただきました。 3D教材を使った授業実践において、群馬県伊勢崎市の教育委員 会および赤堀南小学校にご協力いただきました。また、東京都 北区立豊川小学校での3D授業実践は、佐藤和紀氏(主任教諭) との共同研究で実施しました。 本研究は、JSPS 科研費 挑戦的萌芽研究(25560118)の助成によ り行われた。 東京福祉大学・柴田隆史 30
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