ESD世界会議からセカンドステージへ 公開ワークショップ 報告書 - ESD-J

共催
助成
特定非営利活動法人持続可能な開発のための教育の 10 年推進会議
立教大学 ESD 研究所
独立行政法人環境再生保全機構 地球環境基金
ESD 世界会議からセカンドステージへ
公開ワークショップ 要旨
開催日時:
開催場所:
出席者 :
2015年4月26日(日)10:30~17:00
立教大学太刀川記念館
一般参加者 67 名
ゲスト・主催者・スタッフ・ボランティアあわせて総勢 100 名
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午前の部
[世界会議の成果である各種宣言・提言(ステートメント)に込められた ESD の本質とこれ
からどうしていくのか?を共有]
司会:新海洋子氏
本日の目的は、ステートメント作成に関与された方の想いを聞くことで、参加者の皆さ
んにステートメントについて知ってもらい、これからどのように活用していくのか、また
広げていくのかを考えていくことである。また、政府から各省庁の方が 3 名参加してくれ
ているが、世界会議後政府はどのように取り組んでいこうとしているのか、これからの動
きを聞いた後、自分自身が変化の担い手として何をすべきかを今一度考えていく時間にし
ていきたい。
① ユネスコスクール宣言
手島 利夫 氏(江東区立八名川小学校)
この「宣言」は、持続可能な社会、持続可能な世界を実現するために、ユネスコスクー
ルが一丸となって、日本と世界の教育を革新していくためのものである。
ユネスコスクールの中だけで ESD を実施していても持続可能な世界の実現への展開はな
い。現在、900 校のユネスコスクールをどうするかだけでなく、日本の学校教育にこの「宣
言」をどう生かすか、どう位置付けるのかが重要である。ESD の理念を踏まえ、幼稚園から
大学まで約 55,540 校、約 135 万人の先生たちの指導観と実践を変えていくこと、それが私
たちユネスコスクールの、ESD 推進拠点として取り組むべきことである。
教育の革新は二つの点から考えられる。一つは、これまでバラバラになっていた学習内
容を ESD の視点でまとめあげて教科横断的な深みのある学習をつくること。
二つ目として、
その学習過程を通じて、問題解決能力やコミュニケーション能力、そして実践力を育てて
いくことである。
このようにしてユネスコスクール各校が、学校の姿、教員の姿、子どもの姿、保護者や
地域の姿を通じてその教育のあるべき姿を示し続けることこそが、ユネスコスクールの質
の充実につながると考える。
ESD は単に能力開発を目的にしたバラバラの教育ではない。ESD のビジョンを共有し、
そこに向かって子どもたちを育てていくこと、これを大前提にしなければならない。
司会:新海氏
ユネスコスクール宣言は、現場で活躍されている先生たちの生言葉でできており、現場
に即したものとなっている。ぜひ、想いを大切に活用して欲しい。
② ユース・ステートメント
辰野 まどか 氏
(GiFT [グローバル教育推進プロジェクト])
ユース・カンファレンスの参加者 48 カ国 50 名のユースリーダーたちが、世界会議にお
いて力強く彼らのプレゼンスを発揮したのは、自主イベントであった。彼らは、会議参加
者に彼らの物語を伝え、巻き込み、ユース・ステートメントの実現に共にコミットする場
を作り出した。その自主イベントにはユネスコ関係者や、教育大臣などが参加しており、
確実な実現の一歩を促すことができた。
ユースは、面倒をみてもらわなければならないただの参加者ではない。実現していきた
い世界に向けた思いがあり、それを実行していく場を必要としている。
ユースをただ育成するのではなく、ステークホルダーの一つとして位置づけること。ユ
ースには、これまで上の世代ができなかったことをポジティブにエネルギーをもって解決
していく可能性がある。この「ユース・ステートメント」には、様々な切り口で、ユース
の力をいかすヒントや行動プランが記されている。
司会:新海氏
学校教育で学びを深め、ユースとして実際に活動を行うつながりを生んでいかなければ
と思っている。ここでコメンテーターの住田氏からお二人のお話を聞いて、小学校の現場
で子どもたちを見たときにその子どもの卒業後の展開やユースのがんばりに対して教員が
できる応援など、何かコメントをいただければと思う。
コメンテーター:
住田 昌治 氏(横浜市立永田台小学校)
ユネスコスクール宣言について、この「宣言」にある「日本の教育を変えていく原動力と
して ESD をこれからも進めていく」という部分では、つまり ESD はそれだけの力を秘め
ているということであり、言い換えれば、「ESD の 10 年を提案してきた日本の誇りと自覚
をもって」ESD を進めていく必要があるということになるかと思う。その魅力とは、
「変容」
である。価値や行動、ライフスタイルの変容、それがどのように実現されているのかをき
ちんと捉えて魅力として伝えていくことによって日本の教育を変えていく。その原動力に
ESD が成り得る。教師の変容、子どもの変容が学校の変容となり、それがさらに地域の活
性化につながっていく、ここが押さえどころになっていくのではないか。まずはキーパー
ソンである校長先生が、自分こそそうした変容、変化の担い手であるという自覚を持つこ
とが大事である。真っ先にやるべきは、校長・管理職の意識改革であり、校長研修開催が
望まれる。
続いてユース・ステートメントについては、参加者が自分の考えや思いを基にアクショ
ンを起こしていくこと、それによっていろいろなことを変えていけるということ、これこ
そまさに ESD。なんとなく諦めムードがあるこの社会のなかで、ユースが、当事者として、
変革者として、アクションがアクションを生み出し、人と人とがつながっていく。ESD は
やはり社会を変えていく原動力になることを確認させていただいた。
司会:新海氏
続いては地域の話題に入りたい。岡山で公民館と CLC の会議があったが、これも採択ま
でにかなりの時間を要した。海外と日本、多様な価値観があり様々な議論があった。その
様子も踏まえて末本氏からお話し頂ければと思う。
③ 岡山コミットメント
末本 誠 氏(神戸大学名誉教授)
「岡山コミットメント」で伝えたいことの基本は、ESD の推進における「コミュニティに
根ざした学び」
、および NFE(Non-Formal Education)の役割とその重要性を国際的な議
論として確認し共有したこと。このコミットメントは参加型の議論から生まれたものであ
り、非常に高い当事者意識のもとにつくられた。
SD 問題の複雑性(多様な原因と多様な結果が対峙)には、多様な切り口やアプローチが
必要であり、また可能である。全一的な「解」は見つからないものの、経験に基づく部分
的な知からの取り組みはすでに地域で多様に展開している。多様なアプローチが交流し、
取り組みを拡大する媒介者が必要になっている。公民館—CLC は、地域社会を基盤にした
ネットワークの構築拠点としての経験を蓄積しており、ESD でも重要な役割を果たし得る。
社会教育学会や公民館関係者の中にこの提案を受けた活動が広がっているが、今後は、NFE
や IFE(Informal Education)領域での取り組みをさらに拡大し、社会教育、公民館と企
業や学校などとの連携を拡大すること、RCE などと協力した、幅広い地域ネットワークを
構築するために公民館が一定の貢献をすることなどが必要になる。
司会:新海氏
公民館も非常に地域において重要であり、様々な方が参加していてその中には ESD を知
らないという方もいるのでうまく活用していければと考えている。続いては ESD-J の村上
氏より政策的な視点からお話し頂きたい。
④ 地域と市民社会からの ESD 宣言
村上 千里 氏
(ESD-J)
「市民による ESD 宣言」は、10 年間で生み出されてきた ESD のビジョンを示し、これ
からも ESD に取り組んでいくことを宣言したもの。
「地域と市民社会からの ESD 提言」は、
今後ますます ESD が広がり深まっていくために、ESD につながるあらゆるステークホル
ダーに「こうしましょう」と呼びかけ、そのために必要な政策的支援を政府や行政機関に
提案するものである。活動の方向性は二つ。ひとつは、地域や学校で ESD に取り組んでき
た実践者や社会教育機関や中間支援組織で ESD 支援に携わってきた方たちが、それぞれの
立場でこの提言を生かしながら活動を展開すること。もうひとつは、必要とされている政
策的支援を、政府をはじめとする多様な機関とともに形にすること。
ESD-J は現在、
「ESD 推進の仕組みをつくる」ことに注力しているが、そのための政策
もマルチステークホルダーでつくっていくことを大事にし、地域の声を生かして、現場で
必要とされるものをどうやったら「政策支援」として提供していけるのかを一緒に考えて
いく場、ネットワークをつくっていきたい。
司会:新海氏
「ESD は地域の自治力を育む」
。
「自治力」という言葉がでてきて地域へのつながり
が見えてきた。続いて企業の主体性について更井氏よりお話し頂きたい。
⑤ 企業による ESD 宣言
更井 徳子 氏(損保ジャパン日本興亜環境財団)
そもそも企業において持続可能な発展を求められるのはなぜかを考えたとき、その根本
にある生産や消費に、企業は影響力を持っているというところが挙げられる。企業自身に
とっても、常々言われている社会的責任に加えて、ビジネスチャンスを生かして企業自身
も持続・発展していかなければならない。しかし、企業が共通の認識をもって ESD につい
て学んだり情報交換をしたりするような場はこれまでほとんど存在しなかった。そうした
なか、
「ESD 企業の集い」のなかから生まれたこの「宣言」は初めの一歩だと考えている。
今後は、今やっていることの継続と同時に、いろいろと連携をしていくなかで変えてい
かなければならないところも考えなければならない。社員教育、社内浸透の工夫としては、
体験に基づいた活動を進めること。ESD であるという認識は持たないまま、価値ある ESD
の取組みを実施している企業も多いが、それらを企業間で認識し、学校教育も含めた他の
ステークホルダーと連携しながら、方向性を検討していきたい。
司会:新海氏
公民館から企業、また地域自治への観点や自己形成と自己構築の話があったが、ここで
市民社会形成や NPO 支援を展開されているコメンテーターの川北さんよりお考えやコメ
ントを頂きたい。
コメンテーター:川北 秀人 氏
(IIHOE [人と組織と地球のための国際研究所])
三人のご登壇者の話をお聞きして、今までのやり方ではダメだという共通項、自分たち
が変わっていくことでより良い変化がもたらされるだろうという期待や責任感が見えた。
地域が元気になるには、人の交わり密度(人「交」密度)が大切。持続可能性とは、内
側の問題だけではなく、外との関係の問題でもある。「私」にいかに力があっても、外部と
の関わりが安定しない限り、持続可能性は実現できない。その問題は、環境についてだけ
ではなく、
くらしそのものをどう支えていくのかということにある。
1 対 1 の契約ではなく、
多様な主体が総力を挙げた協働で地域をどう守りぬくのか、協働を進化させて「総働」と
呼ぶべきときが来ている。この「総働」こそが、マルチステークホルダープロセスに当た
る。
改めて三人のお話から、そうしたつながりをどう広げるか、今後はまさにそれがとても
大事であるという思いの強さが感じられた。
司会:新海氏
川北さんから包括的アプローチについてお話しがあったが、これからの 10 年はそれぞれ
をどのようにつないでいくか、全体を見ながらどうあてはめていくかを考えていかなけれ
ばならない。自分たちがどの立場でどこを担っているのか、それをどう組み合わせていく
のかが午前中の整理である。最後、岩本氏からは GAP が何を意味するのか、我々がどう消
化して、この先包括的にアプローチを行っていくのかお話し頂きたい。
⑥ あいち・なごや宣言
岩本 渉 氏(千葉大学)
世界会議の最終文書である「宣言」は、パラ 14 で、マルチステークホルダーによるネッ
トワーク、高等教育・研究機能の強化を訴え、パラ 15 では、ユネスコ加盟国の政府に、教
育の目的と教育を支える価値のレビュー、ESD 達成度の評価、教育訓練や職能開発及び持
続可能な開発政策への ESD の統合を強化、教員や他の教育者の教育、訓練、職能開発が
ESD を取り入れることの確保等の取組みを求めることで、ESD のメインストリーム化を目
指していることが重要と考える。
ESD では、
「いろいろな主体がつながっていくのが大事」という声を時おり耳にするが、
ただ仲が良ければそれでいいというわけではない。地球的規模の課題を解決していくため
には一人では何もできない、一カ国だけではどうにもならないからつながっていく、そう
して課題を解決していく過程で議論をする、そのなかで初めて、つながってきたこと、つ
ながっていることの重要性を認識でき、
「これからも一緒に頑張っていきましょう」という
ことになるのではないか。
司会:新海氏
あいち・なごや宣言は世界との約束であり、課題解決につなげて社会が変わっていくと
ころまで実践しなくては、私たちは次の世代へ渡せないということをお話し頂いた。
コメンテーター:川北 秀人 氏
持続可能性について改めて考えるとき、何をどう増やすかではなく、何をどう守ってい
くのかを謙虚に捉える必要がある。くらし方がどう変わるかを冷静に見つめ、多様な人た
ちが関与して、次の担い手が育つしくみづくりが求められる。地域に必要なのは、変わる
ことより、進化し続けること。そこで大切なのは、未来はどうなるのかという正確な見通
し。自分たちがどう進化せねばならないかを、ポジティブに受け止めること。「変容」は、
ともすれば「今までやってきたことは間違いだった」と過去を否定するニュアンスを感じ
させかねない。そうではなく「進化」。SD の D は「開発」と同時に「発展」でもある。進
化の担い手になる人はたくさんいる。私たち自身も、教育的なアプローチではなく、進化
をお手伝いできるというアプローチへと進化することを大事にしたい。これを丁寧に地域
の方たちと共有していくことを、セカンドステージの最重要テーマにしていけたらと思う。
司会:新海氏
地域に帰ると ESD という言葉よりも自分の暮らしの中の課題が前面に出てくるが、その
課題に向き合っていくことが、持続可能性が実現されていくという視点を大切にしていき
たい。また、川北氏がお話ししてくださった「進化」という言葉を丁寧に考えることもあ
らゆる場でできると考えた。
コメンテーター:住田 昌治 氏
GAP にある「包括的アプローチ」であるホールスクールアプローチの学校現場での大切
さ。授業のなかで ESD に取り組むだけでなく、学校外での活動、地域との連携がこれから
ますます大事になってくる。また、教育の在り方そのものを対象とする ESD の魅力は、対
象がどんどん広がっていき、それによって人と人がつながり、行動と行動がつながってい
き好循環をもたらすところにある。
ボトムアップによる ESD ということでは、「評価」に関しても同じことが言える。変容
は、内なる手鏡によってのみ可能。それはつまり自己評価による希望のもてる評価である。
外からの評価ではこれまでの教育とまったく変わらない。自己変容につながる評価にはな
らない。変容をとらえる内発的な評価指標をつくって、内からの評価をしていかなければ
ならない。
ESD は教育ビジョンでありながら、そのビジョンが共有されていないのが一番の問題で
ある。その議論を抜いて、方法やツールを示したところで、今までの教育とは何ら変わら
ない。これまでそういう実践発表が多かったような気がする。ESD を広めるためには、表
層的に見栄え・できばえのいいものを評価するだけでなく、いろいろなところで推進され
ている優れた活動を「それって ESD だよね」と価値付けしてあげることも大切なのではな
いか。
最後に一つ、ユースについては、学校教育と社会との乖離が気になるところである。学
校で頑張って学ぼうとしていることと、社会の現場で求められることとが違っているので
はないか。人とどう関わるか。コミュニケーションをどう培うか。排他的にならずに受容
性をもって取り組めるか、ケアがきちんとできるか等々、果たしてそういったことがこれ
まで学校教育の中で大切にされてきたのかどうか、これから ESD を進めていくなかではぜ
ひ議論をしていきたいと思う。能力・態度育成のみならず、ケアリングを基盤においた ESD
(ホールクールアプローチ)の推進が期待されるところである。
司会:新海氏
ここまで、コミットメントの紹介と登壇者の方からの熱い想いを発表頂いたが、これか
らは 3 名の省庁の方からお話し頂きたい。
①文部科学省
山本 彩織 氏
(文部科学省 国際統括官付)
これまでユネスコスクールを ESD の推進拠点として進めてきた。昨年度の内閣府の世論
調査では、ESD を知っている人は数%。ESD の認知度がまったく足りない。ESD をユネ
スコスクール以外に広げ、ESD の実践力を深めていくことが大事と考えており、3 月から
特別分科会を設置して学校教育の場での ESD の浸透について議論している。いかに学校の
中で ESD の実践が大事かを実感してもらえるようにすることが重要。具体策はまだ議論に
挙がってきていないが、文科省としては伝えるツール、施策を出して、学校の方々、地域
の方々に活かしてもらいたい。
27 年度からの施策としては
1)ユネスコ信託基金を通じた世界の ESD を支える取り組みの支援
2)日本/ユネスコパートナーシップ事業を通じて ESD の教育効果や ESD のカリキュラ
ム開発に関する調査研究の実施
3)教育委員会及び大学等が中心となり、ユネスコスクールと共にコンソーシアムを形成
して ESD の普及を図る事業の拡充
などがある。
②環境省
木邑 優子 氏
(環境省 総合環境政策局 環境教育推進室)
ESD 推進の方針として、国際レベルでは GAP(ESD に関する・グローバル・アクショ
ン・プログラム)と SDGs(持続可能な開発のための目標)があり、この他に気候変動枠組
条約や生物多様性条約、持続可能な消費と生産 10 年計画枠組み等がある。
国レベルでは、環境教育等促進法と ESD 国内実施計画 2015-2019(現在策定中)があり、
環境省環境教育推進室としては、これらを基に、
1)人材育成
2)教材・プログラムの開発・整備
3)連携・支援体制の整備
を 3 本柱として、ESD 推進の具体策を検討している。
現在、ESD 活動支援センター(仮称)の設立に向けて取り組んでいるが、建物を建てる
ものではなく、センターの機能を持った組織を設立し、既存のものも新規のものも活かし
て活用しやすい仕組みづくりを創ることを考えている。キーワードは「グローカル」と「マ
ルチステークホルダー」
。各々の得意分野を活かし、マルチステークホルダーでの ESD の
推進こそまさに ESD 。参加型と協働を効率的に実施できるのが ESD 活動支援センターで
ある。
③外務省
佐藤 大樹 氏
(外務省 国際協力局 地球環境課)
MDGs とは、2015 年までに国際社会が達成すべき 8 つの目標であり、ESD に関する概
念はほぼすべての目標が関連している。現在、MDGs の後継になるポスト 2015 年開発アジ
ェンダ(SDGs)の策定に向けて議論がなされている。ポスト 2015 年開発アジェンダ交渉
と ESD の関連の経緯は以下の通り。
2014 年 7 月 :SDGs に関するオープンワーキンググループ(OWG)の報告書が確定。
目標 4.の中に ESD に関するターゲットが掲載。
2014 年 12 月:第 69 回国連総会において ESD に関する GAP が採択。
2015 年 3 月 :ポスト 2015 年開発アジェンダに関する政府間交渉が開始。
2015 年秋
:国連サミット「ポスト 2015 年開発アジェンダ」を採択予定。
ポスト 2015 年開発アジェンダは非常に大きな枠組みであるが、世界の様々な問題に対峙す
る ESD の視点・考え方は重要である。
我が国の国際的な ESD の推進に関連して途上国の援助がある。途上国援助に関する最近
の動きとして,政府開発援助大綱が 2015 年 2 月に開発協力大綱へ改訂された。これは途上
国支援を政府だけではなく民間と協働で実施することを視野に入れて改訂されたもの。こ
ちらもまた大きな枠組みであり、我が国として ESD を推進するための途上国支援をどのよ
うに進めるかは継続的な議論が必要である。
司会:新海氏
国からの報告としては ESD 推進に関するスキームもあるし、ある種予算も付けている。
そこに魂やソフト面をどうやって入れていくのか、我々がどう参加していくのかというこ
とについてこれから考えていく必要がある。
最後に国内実施計画について文科省の山本氏から報告頂きたい。
④国内実施計画について
山本 彩織 氏
「国連 ESD の 10 年」関係省庁連絡会議を開催し、関係省庁間で ESD の 10 年をどう進
めていくかについて年に一度の頻度で話し合ってきた。2005 年には国内実施計画を策定、
2014 年の世界会議では ESD ジャパンレポートの作成・配布を行った。
世界会議を経て今後さらに ESD に取り組もうという機運が高まっており、新たに関係省
庁連絡会議を立ち上げ、文科省と環境省が議長を務めていく予定である。この関係省庁連
絡会議において、GAP の内容を踏まえた新たな国内実施計画を作っていくことが決定され
ている。
司会:新海氏
昔作成した時にパブリックコメントや WS をして市民の意見を取り入れていったと思う
のだが、ぜひ今回もそのような方法で行って欲しい。私たちや地域、実践していく者、支
援していく者が、
今後の 10 年何をやっていくかを聞きあう時間にこれから入っていきたい。
午後の部
[セカンドステージに向けて「ESD でどんな変化が起きているか?」実践の紹介]
森良氏
午前は、ESD 関連の会議で出された各宣言についてそのエッセンスや各省庁のこれから
の取組について共有した。会場とのやり取りも含め、いくつかの論点が出た。まず一つは、
教育と持続可能な開発に対してである。「持続可能な開発のための教育」、教育の再方向付
けの重要性が明らかになった。それと同時に「持続可能な開発」という言葉についても深
める必要性について共有された。地域や経済、それぞれの領域での「持続可能」というの
はどういうことか、そのためには誰が何を担っていく必要があるのかについて深める必要
がある。それが午前中の主な話であった。
午後はそれを受けて、これから先 ESD を持続可能な社会の実現に向けてどのように進め
ていくのかを話し合いたい。そのような経緯から、午後は「ESD セカンドステージ 私は
こう走る」をテーマに、ここにいらっしゃる 3 名の登壇者の話を踏まえながら考えていき
たい。
① 東日本大震災をふまえて
阿部 正人 氏(小学校教諭)
学校教育のなかで ESD に関わってきた。震災後、
「持続可能な開発のための教育」とい
う言葉が腑に落ちるようになった。震災では、自然に逆らうことはできないと強く感じた。
しかし現在進められている震災復興には持続可能な視点が感じられない。特に防潮堤につ
いては、自然を基盤として未来を見つめるという姿勢が見えない。復興を進める方や土木
工学の方たちにはぜひ、持続可能な開発のための視点を持てるよう、高等教育や学びの機
会が必要だと強く感じる。
行政から示される復興計画に、市民が発言することは難しかった。仮設住宅で生活する
なかで、早期復旧復興を願えば当然のことだと思う。公民館も被災してしまったので、学
びあう場はなかった。もっと学び議論する必要性を感じて行動を起こし、そうしたなか、
学校では何を学ぶべきかを改めて考える機会となった。一人ひとりを尊重し、少数意見が
生かされ、誰もが話し合いのスキルを身につけ多角的に考え、より良い考えを創造し、自
分の身の回りに関心をもって、自分が社会の形成者だと自覚できること、子どもなりに地
域社会に参加する、そんな教育が大切だと感じるようになった。
森良氏
「持続可能な開発とは何か」ということが小さいエリアの中で具体的に出てきており、
そのことに子どもたちや住民が直面している。その際に、これまでの地域の話し合いの場
や学校教育の質、中身が問われており、まさに ESD の最先端の報告であった。そこで現れ
ている地域の持続可能性や自然をどのように基盤にしていくのか、どのような主体を育て
ていくのか、自然や経済、地域主体の形成を一つの根幹として柱にしていきたいと思った
次第である。
② 民間連携による事業化を目指して
杉浦 正吾 氏
(杉浦環境プロジェクト株式会社)
環境学習で学位を取り、民間企業で環境コミュニケーション分野の仕事を展開してきた
が、現在 ESD を「サス学」と呼んで、民間の塾+学童保育という形で企業や大学、自治体
などとともに展開している。これは 2011 年に柏で「サス塾」を授業料 18,000 円で開いた
ことから動き始めた。現場を作ると企業や大学、自治体から一緒に何かできないかという
話が持ち上がり、メディアもやってくるようになった。現在は、利益を生むというより、
利益を共有し人を育てながら ESD を展開できるような素地ができてきた。
自分たちで持続可能な社会をつくっていくためには経済を回していかなければならない、
学校教育にかぎらないところで活動をしていると、学生や企業や、立場や領域を超えてつ
ながりが広がり、仲間がどんどん増えていく。その変化を生み出したものとしては、
「学び
あいの形」の要素が大きかったのではないか。社会課題解決型事業体(ネクスファ)の現
場が中心になってのコミュニケーションがよりリアリティを生んだと考えている。
活動で生まれる経済効果についても丁寧に説明していくことで共感が生まれると実感して
いる。
森良氏
民間で持続可能な社会や経済を考える人たちのネットワークやつながりが大きくなって
おり、その中で学びが深まっているというのが伺えた。我々の課題は地域だけでなくグロ
ーバルな課題もあり、そのグローバルな課題を市民や子どもたちにいかに自分事として捉
えてもらうのかについて、実践者である上條氏からお話頂きたい。
③ SDGs、ポスト 2015 開発目標をふまえて
上條 直美 氏(開発教育協会)
地域の課題と世界の課題は裏表だと考えている。ちょうど昨日ネパールで地震があり、
これから学生たちと募金活動を始めるなか、どのように動いたらいいか、募金をすること
で何がどうなるのか、まさに ESD の実践の学びの場となるだろう。
社会と学校が離れているという午前中の話があったが、それをもう一度つなぎ直すのが
開発教育。face to face の人とのつながりを大切にしながら、グローバルな課題に目を向け
る。開発教育が ESD と出会ったことによって起きた大きな変化の一つは、地域との関わり
方だった。開発教育を地域にどう広めるかではなく、地域の課題を開発教育でどう捉える
かに向き合うようになった。そこでは少数(社会的マイノリティ)の存在の顕在化という
視点を大事に進めてきている。
また、昔のように善と悪などの二項対立では割り切れない、議論の分かれる課題が大変
に多くなっているなか、それをどう議論していくかが ESD の場づくりのなかでは非常に大
切だと思う。開発教育でも、参加型教育の場をつくるということが主要なテーマになって
いる。
さらに、担い手の人たちが自分たちの考える教育を進めやすい場づくりを目指し、さら
に国際協力分野の団体と協働して SDGs に教育や ESD の要素を入れていくなど、力を入れ
て政策提言を進めてきた。
GAP の冒頭、
「持続可能な開発のためにはわれわれの思考と行動の変革が必要である」と
いう、まさにそのことが変化を生み出すのではないかと考えている。
森良氏
これまでの 3 名の方のお話を受けて、これから参加者の皆さんに自分は ESD をどのよう
に実践していこうと思っているのかを話し合っていきたいと思います。
[グループディスカッション「私のセカンドステージ」 を個人で描く、グループで深める]
(まとめに代えて)
森 良(ESD-J 理事/エコ・コミュニケーションセンター)
午後の話し合いを、とてもいい雰囲気のなかで皆さんとつながりあいながら終えて、10
年前との違いを感じている。分野や団体、そういう境界が非常に低くなって、「わたしはあ
なたとのつながりを大事にします」という思いが前面に出てきている気がする。私たちが
学び合いを起こしていくなかで、そういうつながりがたくさん生まれていくことが、社会
を変えていく大きな力になっていくのではないか。
「力」には、
「フォース」と「パワー」の二つがある。フォース=外的強制力をもって人は
変えられない、社会を変えることはできない。パワー=その人の内側から湧いてくる力が
横につながることによって社会は変わっていく。そういう実感が ESD の 10 年を続けなが
らじわじわと育まれていっている、皆さんの発表を聞きながらそれを強く感じた。
大学と自治体が出会ってお互いにプラスとなることをやっていこうという声があったり、
企業との関係についてもいろいろと問題提起があったが、様々な関係者が集まって話し合
うことによって、仕事を生み出したり商品を開発したりサービスをつくったりということ
が実際に起きてきている。違う立場の人たちがゆるやかにつながりみんなが課題を出し合
って解決していく、そういう社会の学び合い、助け合い、実践、仕事づくりなどが生まれ
ていること示しているのではないか。
学校の垣根も下がって、地域がもっと学校に入り、学校側ももっと地域のことに関わっ
ていく。こうしたなか、いろいろな人たちを巻き込んでいくことが私たちに課せられた大
きな課題となってきているのだろう。
学校教育を始めとして、経験はたくさんもっているのに、それをきちんと言葉として説
明できていない。先生たちが自信をもって言えない。だからそのせっかくのたくさんの経
験を、私たちがきちんと理論化して、自分たちの言葉にできるようになっていけば、これ
から目指すべき教育の変革や仕事づくりなどもうまく回っていくのではないだろうか。
終了