2016年度診療報酬 改定の展望

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2015 年 10月号
医療の最新情報をピンポイントで伝える
2016 年度診療報酬
改定の展望
中央社会保険医療協議会(中医協)において、2016 年度
診療報酬改定に向けた議論が動き出しました。16 年度一
般会計予算の概算要求が出揃い、議会の本格的な始動に
そのポイントを
読み解く
併せて今後、改定の議論も具体化していきます。その前
に改定のポイントを抑えておくことで、先を見据えた病院
経営を図っていきましょう。
POINT
政
1 改定に向けた全体像
費の増加を 1.5 兆円ほどに抑制する
としています。つまり、高齢化に伴
う自然増分しか増額を認めないとい
府の 2016 年度予算編成におい
これは、6 月 30日に閣議決定され
うことです。16 年度改定、その次の
て、社会保障関係費の要求額
た「経済財政運営と改革の基本方針
18 年度改定までは診療報酬改定をプ
は 15 年度予算比 2.4%増の 28 兆 7126
2015」
( 骨太方針 2015)を踏まえたも
ラスとするような財源がなく、ゼロ
億円。高齢化などによる自然増分
ので、社会保障費の増加分は高齢化
改定、マイナス改定となることが予
6700 億円を含めたもので、そのうち
による増加分に相当する伸びの範囲
測できます。医療関係者にとっては
医療費は 2.8%増の 11 兆 4523 億円と
に収めるとの考えを示しました。
厳しい改定が続くことを覚悟せざる
なります。
18 年度までの 3 年間での社会保障
また、骨太方針 2015 のなかでは診
図 2016 年度診療報酬改定のスケジュール(案)
療報酬について、
「保険医療費が国
2015 年
民負担によって成り立つものである
社会保障審議会(医療保険部会、医療部会)
夏以降 2016 年度診療報酬改定の
基本方針の議論
11 月下旬∼
12 月初旬 2016 年度診療報酬改定の基本
方針の策定
中央社会保険医療協議会
1月以降
厚生労働大臣
1 月中旬
中医協に対し、
・予算編成過程を通じて内閣が決定した「改
定率」
・社会保障審議会で策定された「基本方針」
に基づき改定案の調査・審議を行うよう諮問
1月以降
厚生労働大臣
2月中旬
3 月上旬 診療報酬改定に係る告示・通知の
発出
2016 年 4 月 1 日施行
出典:厚生労働省「第 87 回社会保障審議会医療保険部会」資料
1
前回改定の効果・保険医療費への影
検証結果も含め、個別項目に
ついて集中的に議論
とともに、改定の水準や内容につい
10 ∼ 11 月 医療経済実態調査の結果報告
12 月上旬
ことを踏まえ、改定に当たっては、
入院医療、外来医療、在宅医
療等のあり方について議論
(∼ 12 月)
内 閣
12 月下旬 予算編成過程で、診療報酬の
改定率を決定
2016 年
を得ないでしょう。
薬価調査・材料価格調査の
結果報告
厚生労働大臣の諮問を受け、
具体的な診療報酬点数の設
定に係る調査・審議
(公聴会、パブリックコメント
の実施)
厚生労働大臣に対し、改定案
を答申
響の検証を行いその結果を踏まえる
て国民に分かりやすい形で説明す
る」と言及しており、14 年度の改定
結果を踏まえての議論が行われま
す。
改定のスケジュールについては、
社会保障審議会が 11 月下旬から 12
月初旬にかけて基本方針を策定。12
月下旬には内閣が診療報酬の改定率
を決定し、中医協がそれらを受けて、
具体的な診療報酬点数の設定を審議
していきます
(図)
。
®
POINT
入
2015 年
10月号
B 項目を統一する方向性も示されて
2 入院医療に関する議論
います。
総合入院体制加算では、実績要件
院医療については、中医協の
という要件が、現在課されています。
として、▽人工心肺を用いた手術 40
診療報酬調査専門組織「入院
しかし、この基準を満たす患者以外
件/年以上、▽悪性腫瘍手術 400 件
医療等の調査・評価分科会」
が 8 月下
でも、
「医師による指示の見直しや
/年以上、▽腹腔鏡下手術 100 件/
旬、これまでの検討結果を整理した
看護師による看護が頻回に必要な患
年以上、▽放射線治療 4000 件/年
中間とりまとめ案を了承しました。
者が存在している」と指摘。医学的
以上、▽化学療法 4000 件/年以上、
中間とりまとめ案は、
「2014 年度
な処置の必要性を評価する A 項目を
▽分娩件数 100 件/年以上――の 6
入院医療等における実態調査」の結
より反映した基準とすべきだとの意
項目があります。すべてを満たさな
果を踏まえたもので、▽急性期入院
見があったほか、看護職以外の職種
ければならない同加算 1 を届け出て
医療、▽短期滞在手術等基本料、▽
による項目の評価を含めることで患
いる病院は、15 年 5 月時点で 4 病院
総合入院体制加算、▽有床診療所入
者の状態がより的確に反映されると
と少ないことから、要件を緩和すべ
院基本料、▽地域包括ケア病棟入院
しています。
きかどうかの議論が進んでいます。
料、▽医療資源の少ない地域に配慮
また、日常生活機能を判定する B
一方、同加算 2 は、実績要件を
「満
した評価、▽慢性期入院医療――な
項目については、認知症やせん妄な
たすことが望ましい」とされていま
どの論点についての検討結果が盛り
どで看護提供頻度が高い患者への評
すが、実際に同加算 2 を算定してい
込まれています。
価も触れられています。現行の一般
る病院のなかには、6 つの実績要件
病棟用の B 項目から、
「起き上がり」
のうち満たしているのが 1 項目以下
急 性 期入院医 療では、
「重 症度、
医療・看護必要度」
(表 )を見直す方
「座位保持」の 2 項目を除き、
「診療・
というところが約 5%ありました。
療養上の指示が通じる」
「危険行動」
このため、同加算 2 にも一部の実績
一般病棟7対1入院基本料では、
「A
の 2 項目を加えた 7 項目とする案が
要件を義務化する方向が示されてい
項目 2 点以上かつ B 項目 3 点以上を
示されました。一般病棟用、特定集
ます。
満たす入院患者の割合が 15%以上」
中治療室用、ハイケアユニット用の
向性が示されました。
域包括ケア病棟は、現状では手術や
表 一般病棟 7 対 1 入院基本料「重症度、医療・介護必要度」評価項目
A モニタリング及び
処置等
0点
1点
2点
創傷処置(①創傷の処置(褥瘡の処置
なし あり
を除く)、②褥瘡の処置)
呼吸ケア
(喀痰吸引の場合を除く)
なし あり
点滴ライン同時 3 本以上の管理
なし あり
心電図モニターの管理
なし あり
シリンジポンプの管理
なし あり
輸血や血液製剤の管理
なし あり
専門的な治療・処置
なし
・抗悪性腫瘍剤の使用(注射剤のみ)
・抗悪性腫瘍剤の内服の管理
・麻薬の使用(注射剤のみ)
・麻薬の内服・貼付、坐剤の管理
B患者の
状況等
あり
麻酔などの処置が包括されています
0点
1点
2点
寝返り
できる
何かに
つかまれば
できる
できない
起き上がり
できる
できない
できる
支えが
あれば
できる
できない
移乗
できる
見守り・
一部介助が
必要
できない
口腔清潔
できる
できない
食事摂取
介助
なし
一部介助
全介助
衣服の
着脱
介助
なし
一部介助
全介助
座位保持
・放射線治療
・免疫抑制剤の管理
・昇圧剤の使用(注射剤のみ)
・抗不整脈剤の使用(注射剤のみ)
・抗血栓塞栓薬の持続点滴の使用
・ドレナージの管理
出典:厚生労働省「第 298 回中央社会保険医療協議会総会」資料より抜粋
前回の14 年度改定で新設された地
が、サブアキュート機能が求められ
ているなかで、手術等はほとんど行
われていない実態があります。そこ
で、
「手術や高度な処置などを出来
高算定にしてはどうか」との声も挙
がっていますが、
「引き続き手術料
も包括とすべき」という意見も併記
されているため、今後の議論で検討
が行われることとなります。
慢性期入院医療では、療養病棟入
院基本料 2 の要件において、医療区
分 2 または 3 の患者割合の新設や医
療区分の評価項目の見直しが求めら
れました。特に、医療区分 2 に該当
する「うつ状態」
「頻回の血糖検査」に
ついては、医師による指示の見直し
がほとんど必要ない患者が 45%程度
2
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10月号
いたことから、評価項目として適切
を行っていますが、急性期病棟から
区別していないことなどから、急性
かの検討をしていきます。
受け入れた患者の多くが在宅に復帰
期から患者を受け入れ、在宅に帰す
できているわけではなかったと指
意図で、何らかの指標をつくって在
強化加算は、療養病棟入院基本料 1
摘。病床回転率等の算出にあたり、
宅復帰率の算出についての見直しを
を算定する医療機関の 17%が届け出
自宅からの入院と他院からの転院を
求めています。
また、14 年度新設の在宅復帰機能
POINT
外
3 外来・在宅に関する議論
療行為を必要とする患者まで患者像
は幅広く、医学的管理の難しさや診
療時間に違いがみられる」とし、
「患
来医療に関する課題について、
ル処方せんの導入に反対しています
者の疾患・状態に応じた評価」を検討
厚労省は4月8日開催の中医協
が、導入によって医師の負担が軽減
する意向を示しました。
総会で、▽外来の機能分化・連携を
するといった見方もできます。
また、在宅時医学総合管理料等の
主治医機能の強化については、14
要件となっている月2回程度の訪問が
▽主治医機能の強化を含め外来診療
年度改定で創設された地域包括診療
多く行われていることから、訪問頻
の質の向上と効率化を図る――の3
料について見直しの議論が行われる
度についての評価のあり方も見直さ
点を方策として挙げました。
ことになります。その背景には、地
れそうです。
推進、▽重複投薬や残薬を減らす、
外来機能分化・連携については、
「大
域包括診療料を届け出しているのが
また、前回14年度改定で大幅に減
病院を紹介状なしに受診する患者に
全国で122施設と、決して多くはない
額された「同一建物に同一日の訪問」
対する別途負担の義務化」が16年度
という現状があります。
に関しても、見直しが行われるよう
から実施されることとなり、
「大病院」
の対象となる病院や負担金額などの
なお、初・再診料について、診療
側は引き上げを求めています。
です。▽同一日の同一建物での診療
人数ごとに、1人当たりの診療・移動
中医協では在宅医療において、質
時間に差がある、▽同一建物の患者
残薬対策については、重複処方を
と量を確保したうえで患者ニーズに
に対し、個別に患者を訪問する効率
チェックする仕組みなどが検討され
応えられるよう、患者の状態や医療
性の低い診療が実施されている、▽
るものと思われます。また、長期処
内容、住まいや提供体制を踏まえた
特定施設等以外の集合住宅と比べて、
方が残薬の要因になっているとして、
評価のあり方をどう考えるかを課題
特定施設等において、訪問診療に要
見直しを求める意見もあります。
として挙げ、検討を重ねています。
するコストが低いとはいえない――
詳細が今後、中医協で議論されます。
7月22日に開催された中医協診療
訪問診療料など在宅関連の診療報
などを課題として挙げています。医
報酬基本問題小委員会では、分割調
酬はこれまで、患者の居住場所や訪
療機関に隣接・併設する集合住宅へ
剤や一定の定められた期間内に反復
問回数を基準としたものとなってい
の訪問診療の評価についても検討す
使用できる「リフィル処方せん」の活
ました。重症度や患者の状態像など
る考えを示しています。
用について言及されました。日本医
は基本的に勘案されなかったのです
師会などは、体調や効果などを判断
が、厚労省は「健康相談等のみが行わ
大きな枠組みの転換が図られる可能
するのは医師の仕事だとし、リフィ
れている患者から人工呼吸器等の医
性もあるでしょう。
このように、在宅医療に関しては、
介護保険事業(支援)計画の同時更新
まとめ
などが重なる18 年度に大きな山場を
2016 年 度 診 療 報 酬 改 定 は、2025
推進、▽地域包括ケアシステムの構
迎えますが、その時点での対応では
年に向けての社会保障制度改革の流
築――の実現を前提としたもので
遅いといえます。18 年度改定を踏ま
れのなかでとらえておく必要があり
す。そのうえで、14 年度の改定結果
えて、16 年度に機能や診療料、人員
ます。
「社会保障・税一体改革」で示
と、18 年度の介護報酬との同時改定
配置などどのような医療提供体制を
された、▽病床機能の分化・強化、
を見据えた内容となります。
とるべきかを今から考えておきたい
▽在宅医療の推進、▽チーム医療の
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病院経営を考えると、医療計画と
ものです。
はテルモ株式会社の商標です。TERUNET、テルネットはテルモ株式会社の登録商標です。Ⓒテルモ株式会社 2015 年 10 月 15MI018
はテルモ株式会社の商標です。Terumo Medical Pranex、
テルモメディカルプラネックスはテルモ株式会社の登録商標です。
© テルモ株式会社 2015 年 1 月
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