ちょっと知りたい商標管理4(PDF)

■商標権のライセンスについて
浅野国際特許 事務所
浅野 卓
1. 商 標権
商標権は独占 排他権で すから、第 三者 が、① 正 当な 権原・理由 なく 、② 登録商 標と 同
一・類似 の商 標(指定商品・指定役務が同一・類似で、標 章が同一・類 似の もの)を、
③ 使用 すれば、商標権侵害 となりま す(商標法 25 条、37 条 1 号 )。
もっとも、第三者は 一切使用 できない わけではなく 、
“正当 な権原 ”や“ 正当 な理由”
があれば使用 できます 。
すなわち、第 三者が使 用するに は、原 則として、① 商 標 権の 譲受 け や、②商標 権者 の
許 諾( ライ セン ス) が必要となりま す。これが“ 正当な権 原”です 。
なお、第三 者が使用 するのに 、商標権 の譲受けや 、商標権 者の許諾(ライセ ンス)が
不要な場合( =商標権 の効力の制 限 、商標法 26 条 )もあり ます。これ が“正 当な理由”
です。
2. 商 標権 のラ イセ ンス
商標権のライ センスに は、① 専 用 使用 権(商標法 30 条 )と 、② 通 常 使用権(商標法
31 条)があ ります。
専用使用権は、独占排他 権です。そ の ため、専用使用 権の設定 範囲につ いて は、商標
権者も使用で きません 。また 、専用 使 用権の設定範 囲につい ては、別の人に 重複して 専
用使用権を設 定できま せん。商標権 者 の行為を制約 してしま いますか ら、次 の通常使用
権の許諾の方 が多いで す。
一方、通常 使用権は 、独占排 他権で はありませ ん(使用 容認請求 権)。そ のため、通
常使用権の許 諾範囲に ついて 、商標権 者も使用でき ます。また 、通常使用 権 の設定範囲
について、い くらでも 重複して 通常 使用権を許諾 できます 。
なお、ラ イセンス する人(商標権 者)のことを ラ イ セ ンサ ー 、ライセンスを 受ける人
のことをラ イ セ ンシ ー と呼びます。
3. ラ イセ ンス する 場合 の留意 点
商標は、ブ ランド連 想を蓄積す る“器 ”です(「 ⑩ドメイ ンネ ーム と商標登録 」参照)。
したがって、商品・サ ービスを はじめ とするライセ ンシーの あらゆる 活動 から生じるブ
ランド連想が 、ラ イセンス 対象の商標 に蓄積してい きます 。マイ ナスの連想 だけでなく、
プラスの連想 であって も、商標権者 の ブランド・アイデ ンティテ ィと異な る 場合もあり
ます。商標権者自 身のブラ ンドイメ ー ジにも影響し ますから、ラ イセンシ ー に対して 品
質の保持を強 く求める べきです 。
4. ラ イセ ンス 契約 にお ける代 理人 の必要 性
ライセンス契 約では最 低限、① 当事者 、②対象の 商標、③ 許諾範囲(製品・行為・地
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域・期間)、 ④対価 について 定めます 。⑤帳簿の 検査や⑥ 解約、⑦ 協議に ついて定め る
ことも多いで す。
しかし、これだ けで十分 とは言え ませ ん。例えば、ライ センサー に関して は 、⑧商標
権の維持、⑨無効 理由や権 利侵害が な い旨の保証の 有無など について 定め たり、ライセ
ンシーに関 しては、 ⑩サブラ イセン スの許否、 ⑪登録の 可否(通 常使用 権の場合)、 ⑫
品質の保持 、⑬最善 義務、⑭ 競合禁止(下記参照 )など について定 めたり 、両者共通の
事項として 、⑮第三 者による 侵害へ の対応や、 ⑯秘密保 持につい て定め ておかない と、
予期せぬトラ ブルが生 じたとき 大い に揉めます。
また、独占禁止法 や製造物 責任法( PL 法)への配慮 も必要で す。例えば、 ライセン
シーがライセ ンス対象 の商標権 の有 効性について 争わない 義務( 不争義務 )は、独禁法
違反になる場合もあります。ライセンシーに販売価格の制限等の義務を課すと独禁法
違反の可能性 が生じま す。さ らに、通 常使用権が許 諾された 場合、特にライ センシーに
ライセンスの対象の商標の使用義務について、競合品の製造、販売の禁止を含む義務
(専念義務)を課 すと独禁 法上問題 と なる可能性が あります(知 的財産の 利 用に関する
独占禁止法上 の指針参 照)。ま た、PL 責任を負う製 造 業者等 について 、ライ センサーが
該当する場合 もありま す( PL 法 2 条 3 項参照)。
このように、ライ センス契 約は多岐 に わたる検討が 必要です から 、弁理士 等 の代理人
に依頼するこ とが望ま しいと言 えま す。
(2015 年 11 月 2 日、経営 資料セン ターに原稿提 出)
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■商標権侵害の警告書について
浅野国際特許 事務所
浅野 卓
1. 商 標権 の効 力
商標権は独占 排他権で すから、第 三者 が、① 正 当な 権原・理由 なく 、② 登録商 標と 同
一・類似 の商 標(指定商品・指定役務が同一・類似で、標 章が同一・類 似の もの)を、
③ 使用 すれば、商 標 権侵 害 となります(商標法 25 条、37 条 1 号 )。
下表は、商標権の効 力をまと めたもの です。な お、第 三者が使 用できる場 合 について
は、「商標権 のライセン ス」をご 覧く ださい。
マーク\商品 ・役務
同一
類似
非類似
専用権(25 条)
禁止権(37 条)
及ばないが、 防護標章 登録
同一
独占・排他
排他のみ
(67 条)の 場合は排 他のみ
禁止権(37 条)
禁止権(37 条)
類似
及ばない
排他のみ
排他のみ
非類似
及ばない
及ばない
及ばない
商標権の独占 排他的効 力は、同一の商 標にのみ及び ます( 専用権)。類似の 商 標には、
排他的効力 のみ及び ます(禁 止権)。 つまり、商 標権者は 、類似範 囲(禁 止権の範囲 )
には、積 極的に使用 する権利 を有せず 、他人の 禁止権に抵 触しない 限りで 、事実上使用
できるのみな のです。 この点、 意匠 権者は、類似 範囲にも 使用する 権利 を有します。
また、商標が類 似するか どうかは、マ ーク面と商品・役務面か ら判断し ます 。そのた
め、マー クが同一ま たは類似 でも、そ のマークが使 用される 商品・役務が非 類似であれ
ば、「登録商 標と同 一・類似 の商標」 ではなく、 商標権侵 害にはな りませ ん(防護標 章
の場合を除く )。
2. 商 標権 侵害 の救 済
商標権が侵害 された場 合、商標権 者は 侵害者に対し、①差止請 求(商標法 36 条)や
②損害賠償請 求(民法 709 条 )をす ることができ ます。③ 損害賠償 請求 権が時効消滅
した場合でも 、不当利得 返還請求 権( 民法 703 条・704 条 )をする ことがで きる場合も
ありますし 、⑤損害 賠償に代 え、ま た は損害賠償と 共に信用 回復措置 請求( 特許法 106
条準用)する こともで きます。
また、侵害罪 として刑 事罰(商 標法 78 条)が科さ れる場合 もありま す。
3. 商 標権 侵害 の場 合の 対応
( 1) 商 標権 者側 の対 応
もっとも、侵 害があっ たからと 言って 、いきなり前 述( 2.参 照)の救 済を求 めること
は稀です。
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侵害を発見し た場合、通常、侵 害者側 に対し 警 告 書 を送付します。警告書に は、通常、
①侵害物件・侵害行 為、②商 標権を保 有・商標権 を侵害す る旨、③ 侵害を停 止・回答を
求める旨 、④法的措 置を講じ る旨を記 載します 。④法的措 置と合わ せて、ラ イセンスの
意思がある旨 を記載す る場合も あり ます。
( 2) 侵 害し たと され る側 の対応
警告書を受け 取った場 合、ま ず①商標 原簿を確認し 、警告 者が商標 権者・専 用使用権
者であるか、商標 権が存在 するかを 確 認します。更新の 失念など により商 標 権が消滅し
ている場合が あるから です。そ の後、②自己の使用 が商標権 侵害とな るか( 1.参 照)を
検討します。
侵害に当たる 場合には、③ 当該商標 権 に無効理由が ないかを 検討しま す。無 効理由が
あるときは 、商標権 を行使で きません し(特許 法 104 条 の 3 準用 )、無 効審 判を請求し
当該商標登録 を無効に すること がで きます(商標法 46 条 )。④商 標掲載 公報発行日か
ら 2 月以内 であれば、異議申立 てをし 当該商標登録 を取り消 すことも でき ます(商標法
43 条の 2)。また 、⑤継続し て 3 年以 上の日本国内 における 不使用( 商標 法 50 条) な
どを理由に、 取消審判 を請求す るこ ともできます 。
そして、上記検 討を踏ま えて、商標 権 者側に回答し ます。合わ せて、ライ セ ンスの申
込みをする場 合もあり ます。
( 3) 両 者の 交渉
両者の前記対 応を踏ま え、商標権のラ イセンス(商標法 30 条・31 条 )や 商 標権の譲
渡(商標 法 24 条の 2)の交渉 、当該 商標の使用中 止や商標 変更とい った 対応がなされ
ます。そして 、交渉が 決裂した 場合に 初めて、前述( 2.参照 )の救済 を求め ることとな
ります。
(2015 年 12 月 3 日、経 営資料セ ンターに原稿 提出)
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■部材・技術の名称と商標権について
浅野国際特許 事務所
浅野 卓
1. 部 材ブ ラン ド・ 技術 ブラン ドと は
部 材ブ ラン ド とは、完成品に使用され ている部品・材 料・素材な どの部材 の ブランド
であり、
「 intel( CPU)」や「Windows(OS)」、
「ゴ アテック ス(防 水透湿性 素材)」、
「ヒ
ートテック(吸湿発 熱素材)」、
「トレ ハ(トレハ ロース)」、
「パル スイート(アスパル テ
ーム)」、「 IGZO( アモルフ ァス半導 体)」等が挙 げられます 。
一方、技 術 ブラ ンド とは、商品・サー ビスに使用さ れている 技術のブ ラン ドで あり、
「ハイドロ テクト( 光触媒に よる環 境浄化技術)」や「 プラズマ クラスタ ー(プラズ マ
放電による空 中除菌技 術)」、「 ナ ノイ ー(帯電微粒 子水技術)」等が挙 げら れます。
2. 部 材・ 技術 の名 称と 商標権
部材や技術に ついては 、特許権 によ る保護が一般 的です。
他方、完成品にお いて重要 な役割を 果 たす部材や技 術は 、それ自 体をブラ ン ド化する
ことができま す。部材ブラ ンドや技 術 ブランドには、後 述のメリ ットが考 え られ ますの
で、フリーラ イドを防 ぐために 、 商 標権による保 護も検討 すべきで す。
なお、当該部 材や技術 の取引界 におけ る一般的名称( 普 通 名 称 )や慣用されるに至っ
た名称(慣 用 商 標 )や、当該部材や技術の特性を説 明する名 称(記 述 的商 標)は、識別
力がないとし て、原則とし て商標登 録 できません。多く の 部材ブ ランドや 技 術ブランド
の名称が造語 商標なの は、そ の ため です。
3. 部 材ブ ラン ド・ 技術 ブラン ドの メリッ ト
① 完 成品 に対 する 価値 の補完
当該部材や 技術を使 用してい る無 名メーカーの 完成品に 対する信 頼感・安心感が
向上しますし 、既にグッ ドウィル を獲 得している完 成品につ いても価 値が 補完・強
化されます。 その結果 、競争優 位 も 期待されます 。
② 多 品展 開や 他商 品相 乗が容 易
..
当該部材や技術を 使用すれば、新たな市場への商品展開がより容易になります
..
(多 品 展開 )。そ し て、 多 数の 分 野に 展開 さ れた 商 品群 に より 、 より 充 実 した ブラ
ンド連想が得 られます し、これ らの商 品 同士による 相乗効果(他商品 相乗)により、
商品群全体の 価値の向 上 も期待 され ます。
また、自社が 手掛けない 分野につ いて 他社に商品展 開させ、当 該部材や 技術 を普
及させつつ、それによる ブランド 連想 を 得ることも できます し、当該部 材や 技術を
使用した商品 同士によ る相乗効 果( 他商品相乗) を狙うこ ともでき ます 。
③ 中 小企 業に おけ る効 果
中小企業で は、完 成品まで 製造して いないことが 多いです 。一方 、完成 品 になる
と、そこに使用 された部 材や技術 は、消費者の見え ないとこ ろに隠れ てし まいます。
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部材ブランド や技術ブ ランドと して 前面に出すこ と によっ て、自 社 開発 の部 材や 技
術 を消 費者 に認 知 させることができ ます。
また、消 費者に当該 部材や技 術を認知 させ 信頼を得 ることに よって 、他 の 完成 品
メ ーカ ーに 対し て 当 該部材 や技 術の採 用 を促すこともできます 。
4. 部 材ブ ラン ド・ 技術 ブラン ドの 管理
① 部 材や 技術 の使 用の 表示
消費者に当該 部材や技 術を認知 させ るために、完成 品におい て 消費者 が容 易に視
認できる箇所 に、当該 技術や部 材が 使われている ことを表 示すべき です 。
② 普 通名 称化 の防 止
部材や技術の 名称は 、普通名 称化・慣 用商標化しや すいと考 えられま す。普 通名
称化・慣用商 標化する と 、商標 権の 効力は及ばな くなりま す(商標 法 26 条)。
そこで、当該 名称をカ ギ括弧で くく ったり、Ⓡ や TM を付し たり、「 ○○ 社の登
録商標です」 と記載す るなど、 普通 名称化・慣用 商標化を 防止すべ きで す。
(2015 年 12 月 5 日、経 営資料セ ンターに原稿 提出)
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