2015 PROJECT REPORT 国際的高度アートディレクターの育成 京の伝統工芸を世界に発信する 中野仁人|Yoshito Nakano 京都工芸繊維大学大学院教授 [プロジェクトレポート] The transmission of Kyoto’s traditional art and craft 07 日本の特質を生かした作品を発信する むけて発信すると同時に、海外のものづくりの状 ─ 況についても理解し、海外の学生とともに新たな 現代社会のものづくりを国際的に展開するため ステージを創出していく。 には、それぞれの国が自国の価値を認めつつ、 ─ その特質を活かしたものづくりをめざす必要が グローバル社会でこそ生きるその国らしさ ある。今回、製品の立案からデザイン、制作、そ ─ して展示という一連のデザインプロセスを通じて、 現在、グローバルな視野に立ったアートディレク 学生たちに国際競争力・協働力を体得させること ターの存在が求められている。デザイン学専攻に を目的とする。とくに、世界で評価されている 「日 おいては、これまでも海外を視野に入れたグロー 本文化」 「ものづくり」 「伝統工芸」に触れ、日本の バルなものづくりにおけるデザインを目指し、研究 ものづくりの精神を学び、それと同時に自国の歴 および教育を行ってきた。 しかし、 現在、 単にグロー 史・文化への理解を深め、さらに現代のデザイン バルでユニヴァーサルなものづくりだけではなく、 について考察していくことを目指す。また、海外に そこに自国の伝統や文化を取り入れたものづくり PROJECT REPORT 2015 1 シラパコーン大学 プロダクトデザイン学科の 学生との交流 [京都工芸繊維大学] 有吉 央 畔柳尭史 城地弘典 辻由衣子 深地宏昌 福士温子 Andrea Terrado 呉 宗翰 KYOTO Design Lab. 01 <2 図録 07 2015 >3 開会式の様子 PROJECT REPORT こそが、人間社会には重要であり、それぞれの国 の提案を計った。 ご協力頂いた工房は以下の通り。 の特徴を活かす生活形態の提案が将来の世界観 ● を構築するものであると認識されて来ている。そ ● こで、京都の伝統と文化を学んだ上で、これから ● のものづくりの姿を提案するというプログラムを ● 計画した。 Wood inlay ● 森本錺金具製作所 ● 金彩荒木 ● 浅田製瓦工場 ● かみ添 タイにおいても、伝統工芸工房に学生が向かい、 ● 高野竹工 職人の協力を得ながら制作にあたった。 さらに、本学の学生だけではなく、海外の学生と 博士前期課程 2 回生が中心になって、デザインの ─ 同じテーマ、同じ経過でものづくりを進め、お互い コンセプトを練った。伝統工芸に若年層が抱きが タイと日本という距離はありながらも、ネット等で情 に刺激を与え合うことで、国際舞台で活躍出来る ちな堅いイメージを払拭する日用品に伝統工芸技 報交換をしながら制作を進め、2015 年1月 21日か アートディレクターの育成をめざす。 法を利用することとし、デザインを進めた。スケッ ら 24 日までの期間、バンコク、シラパコーン大学 今回は、伝統工芸の価値を見出し、新しいデザイ チをもとにそれぞれの工房を訪問し、職人の方々 にあるアートギャラリーで、両国の作品を並べる展 ンの展開の可能性を模索し始めているタイのシラ に指導を受けながら、学生自らが制作にあたった。 覧会を開催した。 パコーン大学のプロダクトデザイン学科と連携し、 このコンセプトをシラパコーン大学側にも伝え、タ また同時に両校の学生によるプレゼンテーショ 共同でプロジェクトをおこなうこととした。 イでの伝統工芸の活用の検討を進めてもらった。 ン、シンポジウムをおこなった。その際、Phichit ─ タイで取りあげられた伝統工芸技法は以下の通り。 Kuandachakupt 上院議員が、タイの文化事情に 職人と学生のコラボレーション ● ─ ● まず、京都における伝統工芸のうち、錺金具、金 ● 彩、京瓦、唐紙、竹工芸を取りあげ、その伝統技法 ● の検証と可能性について検討し、新たなデザイン ● Pearl inlay Glass inlay Batik painting Metal casting ついて説明し、続いて Akekapong Treetrong デ Rattan weave ザイン学部長、Indrira Narkwatchara プロダクト Glass blowing デザイン学科長、中野仁人がそれぞれの国および Yarn li pao weaving 大学での伝統工芸に関するデザインの取り組み Walter hyacinth weaving について紹介し、意見交換をおこなった。 4, 5 シラパコーン大学での展示 3 ポスターに描かれた「美女」から 購買層を議論する参加者。 前景、中景、後景の要素を 抽出して分析を進める KYOTO Design Lab. PROJECT REPORT 2015 02 07 2015 PROJECT REPORT また、学生たちのプレゼンテーションの後、展覧会 な違いがある。しかしながら、伝統工芸において 場では作品を目の前にして、来場者と学生たちが は非常に似通った技法や素材、表現が存在してい 活発な議論を交わした。 る。そしてさらに、現在、伝統工芸が抱える問題も ─ また、両国において多くの共通点があることがわ 展望─伝統工芸の可能性と工芸技法の活用 かった。今後、さらに現代の生活における伝統工 ─ 芸の可能性を再検討し、また互いの国の工芸技法 学生によるプレゼンテーション 日本とタイでは、社会の体制や経済状況に明らか の活用を目指したプロジェクトを展開していく。 KYOTO Design Lab. PROJECT REPORT 2015 6 03
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