業界 FOCUS 地方ホテル 「再建」 or 「延命」 か… 旺盛なインバウンドに誘発され、 ホテルの新設ラッシュが続く福岡市 都心部は別格としても、地方のホテ ル・旅館業界もその恩恵にあずかっ ている。だが、ここにきて施設の老朽 化や過去の過剰債務などが重荷に なっているホテル・旅館の倒産も表 面化している。年明けから相次いで、 温泉地としてにぎわった佐賀・長崎の 両県にある老舗ホテルが倒産した。 インバウンド需要の裏側で一体、地 方ホテルでは何が起きているのか。 皇族利用の老舗ホテル 突然の倒産劇に衝撃も 屋」を開 業後、 年に法人に改 んな素振りもなか 地元経済人は「そ を合わせたという 下 隆靖社長と顔 集まりで同社の木 松 亭」 。その直前にホテル業界の 崎県平戸市を代表するホテル「旗 ことし 月 日、民事再生法の 適用を申請し、事実上倒産した長 を売り上げていたが、2015年 帝国データバンクによると、ピ ークの 年 月期には約 億円 ス債権回収に売却されていた。 り入れ金をサービサーのオリック 悪化。 年には金融機関からの借 の稼 働 率が低 迷し、資 金繰りが いたが、旅行ニーズの変化で客室 生や団体客などを中心に集客して 室にまで拡 張。主に修学 旅行 室数はその後の増改築などを経て 平戸口の高台にオープンした。客 組し国際観光ホテル「旗松亭」を 69 ったし、う わさが 29 月期は 億8200万円まで落 19 90 ある格式のあるホ 宿泊されたことも 陛下や昭和天皇が る。天皇、皇后両 では」と打ち明け うと予兆だったの ていたので、今 思 幹部が昨年辞職し を持っていた経 営 入れで大きな権限 た」と話すが、 「仕 なかったので 驚い が倒産した。負債は約 億円で、 白珪」を運営する観光ホテル元湯 業100年を超す老舗旅館「元湯 一方、隣の温泉地で知られる佐 賀 県嬉野市でもことし 月、創 と話している。 組まないと再建は難しいのでは」 りして抜本的な経営再建に取り 一人は「スポンサーを見つけるな らかにしているが、地元経済人の ら、自主再建を目指す方針を明 説明会で今後も営業を続けなが ち込んでいた。同ホテルは債権者 年に専用露天風呂付 きの温泉 旅 館「元湯白珪」を新 後期で、 2 6 はっけい テルとして知られ 1 自己破産の見込み。創業は明治 1949年で、 年 に 旅 館「 米 乃 57 る旗松亭の創業は 出ていたわけでも 1 10 92 5 89 Zaikai Kyushu / APR.2016 89 1 地方の大型ホテル・旅館が 迫られる〝運命の選択肢〟 平戸港を見渡せる高台にある旗松亭 によればピーク時の 年 月期に どを受け入れ、帝国データバンク 築した。団体客や修 学 旅行生な 上ホテルも 蘭 風 も 経 の時代変化の中で、海 あった。だが、その後 で休息した際、 帰途、同旅館 は約 億1600万円を計上した。 営 主 体の 交 代 や、経 多額の有利子負債に加え、宿泊客 ところが、ホテル新築などによる どして再建を進めてお 営スキームを変えるな の低迷や同業他社との競争激化で、 り、旗 松 亭 が 最 後の とりでとなっていた。 ところが過剰 投資や競争激 化などで 年 に民事再生法 を申請。 年には会社分割による の倒産数は前年比 ・ %増で、 東日本大震災の 年以降、 年 ぶりに増加に転じたが、倒産態様 戸海上ホテル、蘭風など現在も営 戸市内でいえば旗松亭を筆頭に平 平戸市も嬉野市も、昭和 年 代は観光が華やかなりし頃で、平 のための借入金負担に耐えきれな り上げがジリ貧になり、設備投資 調に数字を伸ばしている。 模な婚礼や宴会などに対応し順 所有していなかった同社は、大規 業した。佐世保市内ではホテルを ス」としてリニューアル後に再開 イド ホテル&リゾート フラッグ れ、 年 月に「九十九島ベイサ るメモリード(長崎市)に買収さ テルが冠婚葬 祭業などを展開す ートそばにある九十九島 観光ホ 開業した九十九島パールシーリゾ もある。嬉野市も同様で、経営不 構な収入源になっている」という話 社からの要請でバスを運行し、 「結 を所有しているホテルは観光バス会 なインバウンドへの対応から、バス 悪いわけではない。最近では旺盛 ところもあり、一様に経営状況が ンドを入れて順調に経営している 現在、平戸市や佐世保のホテル には台湾や韓国人などのインバウ 悪化していた。 不振で資金繰りがひっ迫し経営が 事実上の再生型という例の一つ が、昨年 月に特別清算した長 るせいだとする。 充などインバウンドの追い風があ るのは、LCCなど航空路線の拡 ている。西日本地域が減少してい 近畿、中国、四国、九州は減少し 中部では倒産件数が増加した一方、 る。地域別では北海道、 関東、 北陸、 型」が目立っていると分析してい して特別清算する「事実上の再生 会社を設立し、そこに事業を譲渡 別によれば、特別清算の構成比が 業を続けている大型ホテルが主体 また、佐世保市内の高台にある 老舗ホテルとして知られた「ホテ 同社は 経営上の問題と捉える向きがある。 崎県雲仙市にある湯元ホテルだ。 年に設立され、雲仙温 億4000万円をあげ 6 長崎県北で相次いだ ホテルの経営再建 %と上昇 傾 向にあり、新 となっている時代があった。このほ ル万松楼」は 実際、このほかの地域でも好調な 泉の中心部で温泉旅館「湯元ホテ ・ ど社業から完全引退したジャパネ 状態になっている。現在も再開の インバウンド効果で業績が堅調な ル」を経営し、 年 月期には売 23 ていた。だが集客不振から債務超 ようなホテルが売りに出ていたり、 上高 約 再建計画を検討しているケースが 02 12 くなったという構図だ。 ットたかたの髙田明前社長は平戸 見通しは立っていない。万松楼は ところの裏側で「地域を代表する かっぽう 振は施設の問題ではなく、個別の 市の出身だが、カメラ屋時代にこ 1893年(明治 年)に割烹旅 年に初代 8 67 14 3 3 年から営業休止 うした大型ホテルを回って写真を 館として創業、明治 29 26 14 50 90 Zaikai Kyushu / APR.2016 ある」 (地元関係者)という。 九州の倒産は減少傾向も 目立つ 「事実上の再生型」 国で 年の旅館・ホテル経営業者 と命名された。 帝国データバンクの「旅館・ホ テル経営動向調査」によれば、全 で」て萬松楼 万山の翠を賞 「眺望絶景 佐世保市内にある休止しているホテル万松楼 新会社でスタートしたが、集客の 4 年 月期には約 億1000万 円まで下がっていた。 平 戸 市のほか佐 世 保 市でも 近 年は老 舗 どちらにも共通するのが新築な どの設備投資を行ったが、その後、 ホテルの休止や買収が相次いでい 07 撮って、翌朝、現像して販売する る。主なものでは 年に、 年に 9 7 団体客や修学 旅行生の減少で売 8 11 93 2 首相の伊藤博文公が台湾視察の 67 15 7 7 ビジネスに精を出していた時代が 13 06 12 ている。 社は 月末で解散した。現在、ホ 湯元ホテル」に分割移譲し、旧会 営、不動産事業を新会社「雲仙 後も黒字化のめどが立たないこと がサービサーに譲渡された。その 旨に反し不当」との判決を下した。 営難で耐震診断・改修の負担が難 おかみの社長解任決議は計画の趣 を図ることを目的にしており、元 陣に所有経営を戻し、地域 再生 長崎地裁は「再生計画は旧経営 ところが、 年、雲仙富貴屋の 現社長側が、当時の社長だった元 初の取り組みとして注目された。 を進めていくというもので、全国 となるホテル・旅館の多くが、経 担分も残ったため、当初から対象 補助金が出るとはいえ、事業者負 表示できる。だが、国や自治体の として解任し、現社長が就任した。 済ませた施設は「適合マーク」を おかみを経営能力が不十分など しいとみられていた。 公表される一方、耐震改修などを ればならない。この結果は世間に 年末までに耐震診断を行わなけ 旅館・ホテルなどが対象となり、 考えにくく、安全・安心と言 う 「余力」を耐震診断に回すとは けだが、仮にインバウンド効果の これで対象となるホテル・旅館 側にとっては猶予期間ができたわ だったため、その懸念が的中した の性急な法案成立」(業界関係者) 界への聞き取りも不十分なままで 法律は短期間で成立したため、「業 数の人が利用する商業施設や病院、 することになった。もともとこの 過に陥り、 年には借入金の一部 こうしたケースが一般的なのだ が、奇妙な事態に直面しているケ 現在、雲仙湯けむりリゾートから から、昨年 月 日付でホテル経 ースもある。それが同じ雲仙市の はほとんどの会社が離脱している の老舗旅館の旧「富貴屋」の元お 出された。訴えていたのは雲仙市 地方裁判所で興味深いある判決が いるが、今後、波紋を広げそうな 時的な措置だったのでは」とみて 「銀行が債権を処理するための一 状態で、ある地元ホテル関係者は 方ホテル関係者はこの事情につい 度にとどまってしまった。ある地 るとその消化 率はなんと ㌫程 いたが、案の定、ふたを開けてみ 方もある。今はインバウンドの旺 が「延命」に拍車をかけるとの見 要になってくるのは必至で、これ で地方でも宿泊施設の確保が重 今後、東京オリンピックをにらん 状況といわざるを得ない。さらに、 観 点からみても、現状は微妙な テルは新会社の下で営業を継続し かみで、現経営陣である雲仙富貴 判決となった。 15 屋の現社長らに対し、社長解任決 といえる。 富貴屋のケース。昨年 月、長崎 国はこの補助金で 年度予算 で約120億円の予算を確保して 1 (鳥海 和史) そうだ。 いうのが実情だといえ 選択を迫られていると か「延命」か、難しい なく、むしろ「再建」 善されているわけでは られた経 営 問 題 が改 テル・旅館が突きつけ とも思えない。大型ホ かりが待ち受けている ものの、明るい未来ば 盛な需要で見えにくくなっている 改正耐震改修促進法。同法は、 年 度 末 までだっ 18 て「みんなで渡れば怖くない」と 冗 談めかして打 ち明けた。結 局 のところ、経 営 く、意 識 的に耐 耐震改修は 「棚上げ」 に 申請少なく 年延長へ 5 (帝国データバンクまとめ) 議の無効や損害賠償などを求めた。 富貴屋は 年に十八銀行の支 援で、経営難に陥っていた他の雲 仙スカイホテル、九州ホテル、雲 一方、経営上の問題といえば、 地方の大型ホテル・旅館を中心に 震診断の申請を 難の事業者が多 株会社「雲仙湯けむりリゾート」 「廃業危機」として問題が深刻化 し なかったよ う 社で構 成した持ち の傘 下に入り、雲仙 富 貴 屋に事 していたのが、 年に施行された 経営再建を図った。このスキーム 年以前の耐震基準で建てられた建 た耐震改修補助 8 9 仙福田屋の 業を引き継ぎ、他の会社とともに は「雲仙方式」と名付けられ、再 物に耐震診断を義務付けるという だ。 そ こで、 今 生支援会社が出資する持ち株会 の支援 措 置の期 年間延長 もので、 階建て以上で延べ床面 限を 12 13 2015(年) 2014 2013 2012 2011 81 13 社が各社から会社分割や営業譲 3 積5000平方㍍以上の不特定多 九州地域の倒産件数推移 (件) 20 18 16 14 12 10 8 6 4 2 0 3 11 渡を受け子会社化し、経営 再建 3 Zaikai Kyushu / APR.2016 91 12 10 5 05 4 13 6
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